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2020年5月6日水曜日

「金正恩氏重病」に振り回され……たまにある北朝鮮の「とびきり情報」には虚偽も―【私の論評】北朝鮮に限らず、世界中て観測気球が上げられるている事実に目覚めよ(゚д゚)!

「金正恩氏重病」に振り回され……たまにある北朝鮮の「とびきり情報」には虚偽も

中朝国境の様子。手前は中国吉林省集安、対岸は北朝鮮慈江道満浦(筆者撮影)

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の「重病説」に同調していた北朝鮮出身の韓国政治家2人が4日、謝罪の気持ちを表明し、今後の言行には慎重を期すとの考えを示した。一方で「重病説」を報じた米CNNテレビは自社報道に対する検証結果などは伝えず、釈明するにとどめた。北朝鮮をめぐっては裏付けの取れない“機密情報”が少なくなく、外部メディアはそれに振り回される。ただ、北朝鮮で厳しい情報統制が続く限り、その状況が変わるのは難しい。

◇脱北の韓国政治家とCNNのけじめ

 韓国の北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNK」が先月20日に「金委員長が手術を受けた」と報じ、CNNも「重体」と続けた。これに北朝鮮出身の韓国野党政治家である池成浩氏(未来韓国党)と太永浩氏(未来統合党)が反応し、それぞれ「99%死亡を確信」「自ら立ち上がれない状態」などと発言していた。

 北朝鮮国営メディアが今月2日、金委員長の健在ぶりを伝えたことから、韓国国内で2人に対する批判がわき上がり、2人は4日、謝罪表明に追い込まれた。

 太永浩氏は「この2日間、多くの叱責を受け、自分のひとことが及ぼす影響について、切実に実感しています。理由に関わらず、国民のみなさまにおわび申し上げます」と述べた。そのうえで「今度のことを契機に、より慎重で、謙虚な議員活動を展開してまいることを約束いたします」と誓った。

 池成浩氏は「国民のみなさまに深くおわび申し上げます」と謝罪。「過去数日間じっくり私自身を振り返ってみた」と明かしたうえ、先の韓国総選挙での当選と重ね合わせて「(国会議員という)ポストの重さを深く感じました。これから公人として慎重に行動します」と反省の弁を述べた。

 一方、CNNは、北朝鮮メディアが金委員長の動静を伝えた2日の時点では「写真の真偽と撮影日は確認されていない」と慎重な態度を見せてきた。だが、写真が捏造ではないことを確認すると、「北朝鮮には言論の自由がなく、国の最高指導者に関する情報はしばしば『光が目に届かない黒い穴』になる」と表現するだけだった。

◇北朝鮮「韓国で虚偽ニュース横行」

 北朝鮮側は、韓国政治家2人の発言を念頭に、対外宣伝媒体である「メアリ」が5日、「南朝鮮(韓国)で日増しに勢いを増す『虚偽ニュース』が、人々を混沌とした状態に陥らせている」と伝えた。

 メアリはこの「虚偽ニュース」を「一定の政治的・経済的目的により、特定の対象・集団に対する虚偽事実を意図的に捏造して流す世論操作行為」と定義している。

 ただし、メアリはこの報道の中で、金委員長の「重病説」には一切触れていない。「金委員長に健康問題に関連してデマが流された」と伝えるだけでも、住民らに動揺が生じる恐れがあるためだ。

◇“国境情報”

 北朝鮮情勢を取材していると、時々“国境情報”といわれるものに出くわすことがある。これは中国に潜伏する脱北者支援組織のメンバーらが、北朝鮮側にいる協力者と連絡を取り合うなかでやり取りされるものだ。

 北朝鮮の咸鏡北道や慈江道など、中国との国境付近では中国の携帯電話の電波が入るため、双方が中国のスマホを持っていれば、国境を隔てて文字情報や動画・写真などのやり取りが可能だ。

 またこのルートは「双方向」になっているため、北朝鮮側の協力者は国外の情報に触れることができる。ここから公式メディアが伝えない「重病説」などが逆流している可能性もある。

 北朝鮮の治安当局は時に、情報漏洩ルートをあぶり出すため、疑わしい複数の人物に、個別にそれっぽい話を握らせて、情報の流れを点検するとされる。たとえば、ある人物には「金委員長は3日前に死んだ」、別の人物には「金委員長の叔父が権力を握った」、残るひとりには「金与正氏が監禁された」といった、メディアが欲しがるような「故意の誤報」をあえて流し、どの人物に流した情報がどのようなルートを経て外部で報じられるようになるのかを確認するというものだ。こうした情報は絶妙なタイミングで流され、筆者もだまされて情報源を遮断された経験をもつ。


【私の論評】北朝鮮に限らず、世界中で観測気球が上げられるている事実に目覚めよ(゚д゚)!

北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長の健康状態について韓国の情報機関は6日、異常はなく、手術も受けていないと判断していることを明らかにしました。

北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長をめぐっては、先月、アメリカのCNNテレビが、「手術のあと重篤な状態になっているという情報がある」と伝え、健康状態に関心が集まっていました。

北朝鮮の国営メディアは今月2日になって、キム委員長が肥料工場のしゅんこう式に出席したと報じ、20日ぶりに公の場に姿を現したことが確認されました。

これについて韓国の情報機関、国家情報院は6日、国会の情報委員会に対し非公開で報告を行いました。出席した議員によりますと、この中で国家情報院は、キム委員長の健康状態に異常はなく、手術も受けていないと判断していることを明らかにしました。

その理由としては、手術を受けた場合、4週間から5週間程度は療養しなければならないと、専門家が指摘していることを挙げ、動静が伝えられていなかった間も、正常に国政運営を行っていたとする見方を示しています。

また、国家情報院は、ことしに入って公開されたキム委員長の活動が17回と、例年の同じ時期に比べておよそ3分の1にとどまっているとしたうえで、その背景には新型コロナウイルスの影響もあると指摘しました。

以上から、今のところ金正男氏は健康かどうかはわかりませんが、少なくとも生存しているのは明らかなようです。

では、死亡の噂が駆け巡ったのはどうしてなのでしょうか。北朝鮮をめぐるうわさは、今回だけではなく常に起きてきたし、30年前からの歴史的記録も残っています。北朝鮮国内にはいくつか、うわさの出どころとみられる場所もあります。

過去には、北朝鮮国内の外国貿易部門として知られる場所が、同国指導部に関する一部のうわさの出どころだと考えられてきました。資金やぜいたく品を調達して指導部へと送る朝鮮労働党39号室には、北朝鮮と海外を行き来する海外工作員が配置されています。

指導部とこの部門との間ではある程度のやりとりが交わされることから、大規模な工作員ネットワークの一部から発生したうわさもあると、長らく考えられてきました。こうした工作員ネットワークが存在するのは、私たちがみな知っていることです。

かつてそこで働いていた脱北者が証言しています。うわさの一部はやがて、日本や韓国のメディアへと流れていきます。

しかし、だからといって情報の性質はさほど変わりません。ゴシップに過ぎないわけです。

朝鮮労働党中央委員会の施設で働いていれば、井戸端会議もあるでしょう。金一族の生活には強い関心が向けられていると、かつて働いていた人たちが証言しています。ある話の3分の1がもととなった井戸端会議程度の話は、人々が思うより簡単に、北朝鮮国外へと伝わっていきます。

うわさやゴシップは北朝鮮のような全体主義体制の中でかなりはびこっています。1つの例が、2017年に殺害された金氏の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏の母方の伯母、成恵琅(ソン・ヘラン)氏の回顧録「藤の家」に記されています。

この中で成氏は、金一族に仕えるスタッフの1人から、金正恩氏の一家が有利な立場にあると聞かされた時のことを明かしています。特筆すべき点は、成氏が自分の情報源は「信頼できる」とわざわざ書いていることです。

繰り返しになりますが、情報のブラックホールの中では手に入るものを手に入れる、それが北朝鮮の仕組みです。戦場の霧(不透明な状況)の中ではそれほど多くの選択肢はありません。つまり、北朝鮮に関するゴシップに正当性を与えるのは不相応と言えます。

世界中の諜報機関もまた、オープンソースの情報を確認し、自分たちの手法で仮説を検証しようとするでしょう。

韓国には北朝鮮を監視する独自の方法があります。時には衛星を使うこともあります。そして韓国統一省は先週、北朝鮮の状況を頻繁に監視しているが特異な動向はみられないと明かしました。

米国が複数の偵察機を飛行させたことは、世界のメディアが報じたため公然の秘密となっています。偵察機で北朝鮮の状況を確認していたというわけです。

では、北朝鮮をめぐる話がうわさによるものなら、なぜ北朝鮮側はこうしたうわさを取り締まらないのでしょうか。この逆は違いますが、北朝鮮から韓国側へ連絡を入れるのは非常に簡単なのですから。

2008年ごろは、金氏に関する会話は密室で行われていたでしょうが、今日では携帯電話技術がその状況を一変させています。北朝鮮の指導者のうわさ話をする市民は、確実に追跡されるでしょう。

しかし、新たにそういう機会が生じるまでは取り締まりを受けることはないかもしれないです。金氏はこうした情報のまん延を制御できそうにはないです。ただし、金氏と近しいあるいは結びつきのある人物に関連したうわさをすれば、どうなるかは想像がつきます。

ごく一般的な北朝鮮国民は何も知らないということを留意しておくのは重要です。2016年に脱北した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英公使は、2017年の米議会公聴会で、ほとんどの北朝鮮国民は自分たちの指導者がスイスで教育を受けていたことすら知らないだろうと証言しています。

脱北した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英公使
太氏は、北朝鮮の一般市民が情報にアクセスできるよう、衛星の使用とマイクロチップの密輸を提唱していました。

実際には、金氏の健康状態に関する正確な情報にアクセスできる人はほんの一握りしかいないでしょう。だからといって、うわさが漏れないわけではないし、うわさが正しくない可能性もあります。

これまでも常にそうだった。1986年に金日成(キム・イルソン)主席が心臓発作を起こしたといううわさが流れました。当時、そう報じられていたにも関わらず、これはでたらめでした。

1990年から1992年には、金日成主席と金正日総書記が鉄道駅のプラットホームで軍によって銃殺されたとのうわさが流れましたが、全くそうではありませんでした。

咸鏡北道で朝鮮人民軍第6軍団によるクーデターが起きたとする証言が3つ存在します。第6軍団はその後解体されたままです。何かがあったということ以外、詳細はわかりません。金正日氏は2003年にすでに死亡していて、影武者が国を指揮していたといったうわさもあります。

世界のどこでもそうであるように、今でもゴシップは生まれ、うわさは広まっています。そしてほかのどんな場所とも異なっているのは、北朝鮮が望む通りにうわさを認めたり否定したりするという、その気まぐれさを、私たちはどうすることもできずにいることです。

ただ、私たちはこうしたことが、北朝鮮にだけ限ったことではないことを認識すべきです。たとえば、我が国においても、政府や、官僚、政治家などが、観測気球をあげることがしばしばあります。

たとえば、産経新聞には以下のような記事が掲載されました。
政府、緊急事態宣言に伴い首都圏での鉄道減便要請を検討 新幹線も対象
2020.4.6 13:23
 政府が7日にも発令する緊急事態宣言に伴い、首都圏などの対象区域で鉄道各社に対する減便の要請を検討していることが6日、分かった。対象は新幹線にも及ぶ見通し。不要不急の外出を抑制する狙いがあり、宣言が出れば来週以降、減便が始まる可能性がある。 政府がJR東日本などと検討しているのは、7日にも緊急事態宣言が出た場合、来週から当面の間、平日にも土日・祝日のダイヤを運用し、終電も繰り上げる。その後、通常の最大5割程度に列車の運行本数を間引きした臨時ダイヤに移行。新幹線は5割以上の減便も検討する。
鉄道減便は未だに実行されていません。これは、おそらく政府もしくは、国土交通省の官僚などによる、観測桔梗であると考えられます。ようする、何かの施策を実行するにしても、それが国民などに受け入れられやすいものなのかを確認するためのものです。

この記事に関しては、かなり批判的な意見が多く、ツイッターでは以下のような意見がみられました。
・おいおい、マジでこんなこと考えてるの? ニューヨークはそうやって感染拡大したんじゃなかったっけ?「通勤制限」「一部企業活動停止」せずに5割減便したら、朝から晩まで満員。感染爆発を引き起こすぞ
・現実を知らない政治家たちの愚かさに呆れる。朝夕の電車内は間違いなく3蜜
この他にも、困窮世帯に限った30万円の支給とか、減税に関するものなど、日本でも様々な観測気球がながれています。

新聞の記事や、テレビの報道など、ただ単純にながめていただけでは、それが観測気球であるかどうかすらわからないでしょう。

財務省なども、増税の前などには、観測気球を良くあげます。世論を読んで、その時時で増税できそうかどうかを確かめるのでしょう。日経新聞などには、良く財務官僚のものとおぼしき観測気球記事がみられます。

観測気球をあげるのは簡単です、さも重要な情報であるかのように、記者やその周辺にほのめかしたり、政府の発表や省庁による発表に尾ヒレ葉ヒレをつけることでできます。

北朝鮮の金正恩氏死亡説に関しては、最初からこのような観測気球なのかどうかは、わかりませんが、途中からは観測気球に変わった可能性が濃厚です。

金正恩もしくは、北の高官は、もっともらしい金正恩死亡説をすぐに取り消さなかったのは、これが一種の観測気球になると考えたからでしょう。

金正恩氏が、死亡した場合、たとえば中国はどのような出方をするのか、韓国はどうするのか、あるいは日米は、そうしてロシアはどうでるのか。あるいは、金正恩氏死亡の情報がどこから漏れて、どこに伝わったのか。

それに付随して、北朝鮮内部に金正恩氏の反対勢力は存在するのか、存在したとして、それは誰なのか、あるいはそれに協力する敵対勢力は外国勢力は存在するのか、等々です。

実際北朝鮮は、日米の確かな意思を明らかにすることができたかもしれません。これにつついては、先日このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
金正恩氏、新型コロナ感染!? 中国医療団が北朝鮮へ「ECMO」「アビガン」持ち込み情報 感染者は「国内にいない」としているが―【私の論評】米空軍と空自の日本海や沖縄周辺空域で共同訓練は、北朝鮮より中国と韓国を牽制するものと見るべき(゚д゚)!
金正恩氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、日米の北有事の際の意思に関わる部分を以下に引用します。

言うまでもなく、文在寅大統領および与党「共に民主党」は、反日、反米、従北、親中を鮮明にする左翼革新政権です。 
今般の選挙結果を受けて、さらにその路線への傾斜を強めるのではないかと懸念され、日韓関係の改善は期待できないばかりか、「米韓相互防衛条約」を締結している同盟国・米国との関係にも亀裂拡大の恐れが指摘されています。

韓国総選挙で当選した与党「共に民主党」の李洛淵前首相(左)=ソウルで15日
このようなことを前提に考えると、米空軍と空自が22日、日本海や沖縄周辺空域で共同訓練を実施したことの意味がまた別の方向からみえてきます。 
まずは、この種の訓練には、従来なら韓国空軍も参加していましたが、今回は参加していません。これは、最早米国は、韓国を信用しておらず、朝鮮半島に危機があった場合は、日米が共同で事に臨むことはあっても、親中・従北の韓国は外すという明確な意思表示であることがうかがえます。 
そうして、この演習は、北朝鮮に向けての演習でもあるのでしょうが、それはサブの扱いくらいにすぎず、どこに向けての演習かといえば、それは中国でしょう。 
もし、中国が軍事的な意図を持って、北を脅かそうとした場合、米国としては何らかの軍事行動をし、中国の意図を挫く意思があることをみせつけ、牽制したとみるのが妥当です。それも、韓国抜きでそれを実行するという意思をみせつけたのでしょう。
金正恩氏もしくは、北朝鮮としては、日米の意思表示を確認することができたといえます。

このように観測気球は、日本でも、北朝鮮でも、そうして世界中の国々で様々な手段を用いて実施されているとみるべきです。

日本国内でも、新聞を読んだり、テレビの報道をみるときには、報道内容の中には、こうした観測気球が紛れ込んでいることを認識すべきです。

そうでないと、私たちは単に他人に操られる存在になるだけです。主体的にものを考えていくときには、観測気球の有無、観測気球をあげる人は誰なのか、その目的は何なのかをつねに主体的に考えていくべきなのです。

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2018年1月17日水曜日

中国の米国債購入停止報道は外交カードにらむ観測気球か 日本は「利益」得るチャンスに―【私の論評】中国は米国の金融制裁を恐れている(゚д゚)!

中国の米国債購入停止報道は外交カードにらむ観測気球か 日本は「利益」得るチャンスに


 ブルームバーグが、中国の外貨準備の当局者の話として、米国債の購入を減らすか停止することを勧告したと報じた。これを受けて米国債が売られ、円高が進む場面もあった。

 筆者は旧大蔵官僚時代に国債の入札・買いオペなどの実務を経験したことがある。1日の大半を通称「ディーリングルーム」と呼ばれ、役所内で人の出入りを制限した隔離部屋で過ごしていた。

 その部屋では、さまざまな情報を見たり聞いたりするようになっていたが、多くの時間を、市場で自分のポジションに有利に働くような発言、いわゆる「ポジショントーク」の類いに費やさざるを得なかった。

 金融資本市場では、さまざまな発言が流布している。そのほとんどは、ポジショントークである。それらの発言がマスコミなどを通じて市場に流されている。

 金融商品取引法では「何人も(中略)相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布」してはいけないとされている(第158条)。ここでいう「風説」とは、虚偽の情報である。事実に基づく市場予測は風説に当たらないので、ポジショントークでも事実に基づいていれば問題ない。しかし、事実に基づくかどうかの検証はかなり難しい。

 冒頭の「中国の外貨準備の当局者の話」というのを検証するのはかなり困難である。当局者がマスコミの取材に応じることは少なくない。その際、意図的にリークすることもある。これも広い意味で、ポジショントークである。今回の場合、中国当局者がポジショントークしたとみるのが自然だ。その目的は、影響力を測るため、つまり観測気球であろう。

 米国債を大量に保有している者が、その影響力に関心があるのは当然だ。日本政府も米国債を外国為替資金特別会計で保有している。保有有価証券の総額は120兆円程度あり、その内訳は公表されていないものの、多くが米国債といわれている。

 これは、文字通り米国への「貸し」なので、米国に対して優位に立てるのではないかと思うのが一般的な印象であろう。実際、そのことを対米交渉の際に口に出した政治家もいたようだ。しかし、それは外交としては最悪であった。

 したたかな中国外交では、表だって言わずに、裏からポジショントークとして流して影響力を見たのだろう。

 ただ、実際の影響力はしれている。いくら大量に米国債を保有しているからといって、世界での取引を考えると影響力は限定的だ。しかも、効果は持続しない。やるぞやるぞといううちが花である。そうした限界はあっても、中国の対米外交としてはカードになりうる。

 日本にとっては、中国に一定の影響力が出たとしても問題はない。むしろ日本の出番だといえる。外為特会で米国債購入と為券(政府短期証券)の日銀購入によって対応できる。これは金融緩和の口実となって日本の利益となりうるのだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】中国は米国の金融制裁を恐れている(゚д゚)!

米国債については、昨年の大晦日にとりあげました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【お金は知っている】国連の対北制裁強化で追い込まれる習主席 「抜け穴」封じなければ米から制裁の恐れ―【私の論評】中国が米国の要求を飲むのは時間の問題(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして以下に米国債に関係するところだけ、掲載します。
超大国といわれるアメリカの一番の強さは、軍事力でもなく、イノベーション力でもありません。それは、米国による世界の金融支配にあります。現在の世界の金融体制は、ブレトン・ウッズ体制に端を発しています。これは、第二次世界大戦末期の1944年にアメリカのブレトン・ウッズで連合国通貨金融会議が開かれ、国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)の設立が決定されたものです。 

当時、世界の金の80%近くがアメリカに集中しており、アメリカは膨大な金保有国でした。その金と交換できるドルを基軸通貨とし、他国の通貨価値をドルと連動させるという仕組みで、金・ドル本位制ともいわれます。

米国の金融街 ウォール・ストリート

米国に金融制裁を実施されたら、最近は輸入も多くなっている中国の食料事情は逼迫するでしょうし、食料以外にも様々な物資の供給に支障をきたすことになります。
 
だからこそ、中国はドル支配体制からの脱却を目指し、人民元の国際化を進めていました。IMFの特別引出権(SDR)の構成通貨入りも、そういった流れの中で推し進められたものです。人民元はSDR入りしましたが、ドル決済を禁じられてしまえば中国経済は破綻に追い込まれることになります。 
米国に本格的に金融制裁をされると、中国は資源を購入することもできず、戦闘機や軍艦を出動させることもできなくなります。これでは、最初から勝ち目はありません。 
それに、中国の米国債保有は6月に5カ月連続で増加し、外国勢で首位の座を取り戻したようです。米財務省が15日発表した6月の対米証券投資動向によると、中国の米国債保有額は1兆1500億ドル(約127兆円)で、前月比で443億ドル増加。日本は1兆900億ドルで、5月に比べて205億ドル減少しました。日本は昨年10月に外国勢の米国債保有で中国を抜いて首位となっていました。
これは米国の脅威になるなどドヤ顔で吹聴する人もいますが、これも中国の大きな弱みとなります。米国がこれを凍結すれば、一気に中国は127兆円を失うことになります。 
そもそも、元に信用があれば、中国は米ドルを大量に保有したり、米国債を保有する必要などもありません。逆のほうからみれば、中国元は中国が米ドルや米国債を大量に保有しているからこそ、一定の信用が保たれているのです。 
その原則が崩れれば、元の信用は一気に崩れ、中国の金融は崩壊します。
そもそも、米国債(ドル建て)はどんなに売られても米国中央銀行がドル札増し刷りして米国債を買えば良いだけのことで、米国は全く困りません。

日本や中国が保有していた米国債が米国中央銀行の金庫に溜まり、代わりにドル札が日銀や中国銀の金庫に置き変わるだけで市場には何ら影響はしません。

ただ、それ大変だと思う馬鹿な輩がいるので米国債に多少の値下がりはあり得るでしょうが直ちに元に戻るだけです、それでドル札には金利がつかないですから米国は大喜びするたげです。

そもそも日本や中国が米国債を大量に購入したのは輸出で得たドル札を持っていても金利がつかないから利殖のために米国債を買っただけの話です。それに輸出で得たドル札は既に元や円に交換しているので利殖の投資だけにしか使えません。国の財政赤字の補填などには使えないのす。

いずれの国の中央銀行でも市場に出回っている国債価格安定化のために自国債の売買は日常業務です。
一旦市場に出た国債に限ってですが(これが重要)買うためには自国通貨の増し刷りは日常業務の一つです。

ただし、ギリシャ国債が売られたらギリシャは破綻します。なぜなら、ギリシャではユーロを増し刷りできません。これは、夕張が破綻したのと同じ理屈です。夕張は勝手に円を擦り増しできません。

だからユーロ圏では日本のように安易に国債発行はできません。統一通貨の問題点です。特に為替レートにも関係ないので各国間の格差は拡大します。だからユーロ圏では特に「輸出額=輸入額」ということが必要になります。

米国、日本、中国のような国では、自国で自国通貨を擦り増しできるので、そのようなことはありません。本来、貿易黒字がどうの赤字がどうのと騒ぐ必要性など全くないです。

ところで、米国には「国際非常時経済権限法」(IEEPA)という法律があります。米国の安全保障や経済に重大な脅威が発生した場合、外国が保有する米国の資産については、その権利の破棄や無効化などができるという法律です。つまり、非常時には日中が持つ米国債も凍結されてしまう可能性もあるのです。

日本やASEAN諸国と領土紛争を抱える中国は、そのために最後の一線を越えることができないのです。もし中国が他国をあからさまに侵略すれば、IEEPAが発動され、中国が持つ1兆2732億ドル(約130兆円)もの米国債は紙くずになりかねないのです。

米国は、沖縄・尖閣諸島について「日米安全保障条約の適用対象」とされていますが、これは尖閣有事がIEEPAの対象となることを示唆したものです。そういうことから、中国は沖縄・尖閣諸島をなかなか奪取することはできません。


ブログ冒頭の、中国の外貨準備の当局者の話として、米国債の購入を減らすか停止することを勧告したとありますが、これは無論高橋洋一氏が主張するようにポジショントークに過ぎないです。

もしも中国が米国債の購入を停止したとしても、利殖のための米国債がなくなるだけの話であり、損をするのは中国です。さらに、中国元そのももの信用は著しく低いので、中国はこれからも大量のドルや米国債を保有しなければ、中国の金融が大混乱に陥るのは必至です。

このポジショントークやはり、米国の市場関係者などの様子をうかがっているのでしょう。その背後には、やはり中国は米国の金融制裁を恐れているという面があるでしょう。もし、今回の中国の北朝鮮への制裁がうまくいかなければ、米国は中国に金融制裁を課すということは多いにあり得ます。もし、市場関係者が大騒ぎして、様々な対策などに打って出れば、そこに付け入るすきを見出すことができると考えているのでしょう。

1997年6月23日、コロンビア大学での講演において聴衆から「日本が米国債を蓄積し続けることが長期的な利益」に関して質問が出た際、当時の橋本総理は「大量の米国債を売却しようとする誘惑にかられたことは、幾度かあります。」と返しました。


橋本龍太郎氏
そして、アメリカ経済が与える世界経済への影響などを理由に挙げた上で「米国債を売却し、外貨準備を金に替えようとしたい誘惑に、屈服することはない」と続けました。しかし、大量の米国債を保有する日本の首相が「米国債を売却」への言及をしたことが大きく注目され、ニューヨーク証券取引所の株価が一時下落しました。

しかし、今回はそうはならないでしょう。米国の市場はこのような中国の動きに惑わされることはないでしょう。何か影響があっても、一時的なことに過ぎないでしょう。

このように金融面からみても、中国が迂闊に戦争などできないことははっきりしています。日本のメデイアはこのあたりを報道すべきです。無論、中国が未来永劫戦争をしないと言っているわけではありません。ただ、当面は戦争しても全く良いことはないということです。

しかし、これは国際情勢が変われば、どうなるかはわかりません。実際、日米戦争では互いに相手国の資産を凍結しました。

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