【要旨】
本稿では、わが国における人口動態―少子高齢化の急激な進展―及びこれが中長期的な成長力を中心に経済・物価に及ぼす影響について、多面的に事実整理と分析を行った。その概要は次のとおりである。
- わが国の人口動態をみると、少子高齢化が、予測を上回り続けるかたちで急激に進展した。しかも、バブル崩壊や不良債権問題に直面する中で、少子高齢化の進展に対する社会的な関心が十分に高まるまでには、長い時間を要した。最近は、出生率が予測に比べ幾分上振れて上昇しているものの、これまでのところ、こうした上昇は一時的であるとの見方が多く、先行きも少子高齢化が急速に進んでいくという基本的な見方に変わりはない。
- このような人口動態は、労働供給の減少と産業構造の変化に伴う生産性への下押し圧力の両面から、わが国の中長期的な成長力に対して重石となってきている。先行きも、性別・年齢別の労働力率に変化がなければ、就業者の減少が加速することが見込まれる。また、イノベーションが進まない限り、サービス業など労働生産性が相対的に低い産業のウエイトが一段と拡大することにより、マクロの生産性に対する下押し圧力が強まる可能性がある。この点、産業別に生産性の水準を国際比較すると、統計上の問題から評価には一定の留保が必要ではあるものの、とくに少子高齢化の進展に伴い需要の増加が見込まれる対個人サービス分野において、わが国の低さが目立つ。
- わが国では、人口成長率の低下とともに物価上昇率も低下してきた。この点については、少子高齢化が予測を上回り続けるかたちで急激に進展する下で、中長期的な成長期待が次第に下振れるに連れて、将来起こる供給力の弱まりを先取りする形で需要が伸び悩んだことが、物価下押しの一因となってきた可能性がある。また、少子高齢化の進展に伴って消費者の嗜好が変化していく中で、供給側がこうした変化に十分対応できず、需要の創出が停滞すると同時に、既存の財やサービスにおいて供給超過の状態が生じやすくなったことが、物価の下押しにつながってきた可能性もある。
- 都道府県別にみると、生産年齢人口の減少が厳しいことが見込まれている地域ほど、成長期待の低下などを通じて労働需給が緩和している。この点に関して、地域別の特徴をやや詳しくみると、他地域との経済取引の度合いが低い地域ほど、人口動態の影響を大きく受け、厳しい経済情勢に直面する傾向がうかがわれる。
- 少子高齢化は、企業の投資行動や家計の金融資産選択行動にも影響を及ぼす。企業は、国内投資より収益率の高い対外資産を増加させていく可能性が高い。家計については、高齢者は危険資産より安全資産を選好し、また生命保険に対するニーズが低いため、今後もこうした高齢者の金融資産選択の特徴に変化が生じなければ、人口動態は預金取扱金融機関に対する緩やかな資産集中を促す要因となる可能性がある。
以上のような人口動態が及ぼす影響についての整理をベースに、最近の変化も踏まえつつ、今後の成長力強化のために重要と思われる論点を挙げると次のとおりである。
- 労働供給に関しては、近年、女性や高齢者の労働力率が着実に高まってきており、この動きを促進していく必要がある。女性については、子供を持つ場合でも労働参加が増えており、国別データや都道府県別データからみる限り、日本においても、子育て支援の強化などによって、出生率と育児期の女性の労働力率の双方をさらに高めることは可能と考えられる。やや長い目でみると、人口が増えていく高齢者による労働参加が鍵となる。高齢者の活用の仕方を巡っては、若年雇用との関係を含めて議論すべき点も多いが、少なくとも健康な高齢者は増えてきている。
- 少子高齢化のもとでも、生産性を高めていくことは可能である。その実現に向けた方向性としては、主に次の3点が重要である。
- 第1に、少子高齢化に伴って生じる、医療・介護の需要増加を含めた消費構造全体の変化について、企業の取り組み強化や制度改革などにより、高付加価値化を進めつつ需要を掘り起こしていくことである。その際、医療・介護分野については、その基盤となる財政の持続可能性を損なわない工夫が必要となるほか、制度改革などを通じ医薬品・医療機械など関連産業を含めた生産性の向上を促すことが重要である。
- 第2に、中小を含め企業が国内の他地域や海外との「つながり」を持つことである。先端の技術やアイデア、情報に触れ、経営革新につなげていくことは、グローバルな需要を取り込む上で鍵となる。実際、グローバル化への取り組みが進んでいる企業は、取り組みが遅れている企業と比べて労働生産性が高く、その格差は拡大傾向にある。わが国の対内・対外直接投資残高は、他の主要国対比低く、引き上げの余地が残っている。
- 第3に、生産要素を効率的に活用していくことである。就業者数が減少する一方で、相対的に豊富になる資本を効率的に活用することは、労働生産性の向上につながる。また、労働についても、女性など潜在的な労働力を活用することによって企業業績や生産性の向上にもつなげていくことが可能である。
- なお、このところの日本企業による高齢者ビジネスへの積極的な取り組みやグローバル展開の強化は、生産性向上に向けた兆しと捉えることが可能であり、今後そうした動きが広がっていくことが重要である。
- 金融仲介機能に関しては、今後、高齢者による金融資産選択の特徴に変化がない場合に、人口動態要因が生命保険のウエイトを低下させ、預金取扱金融機関のウエイトを高める可能性があることが、金融資本市場や貸出市場に及ぼす影響について注意してみていく必要がある。企業の対外投資資金を含め、成長力強化に必要なリスクマネーといった観点からは、金融構造に大きな変化が生じない限り、その供給主体としての預金取扱金融機関に求められる役割がさらに重要になり得る点に注意が必要である。
【私の論評】出た出た、日銀得意の嘘レポート!!
昨日も、雇用関連の話をブログに掲載して、日銀がまともに働いていないことを掲載したばかりなのですが、本日
Gunosyをみていたら、8月31日に日銀の上のレポートが発表されたことを知りましたので、本日も日銀話題を掲載することとしました。はてさて、本当に困ったものです。
このブログでは、以前、いわゆる人口減少デフレ説に関する反論記事を掲載したことがありますが、これは、無論日銀外の人が出しているトンデモレポートに関するものでしたが、今度は、日銀からこんなレポートが出てしまいました。日銀さん、こんなの出していいんですか?日本国内では、あまり問題にはならないのかもしれませんが、海外からは、ただのバカと評価が下がるだけですよ!!
このブログ記事では、デフレは、純然たる貨幣現象であり、人口の増減とは全く関係ないという結論でした。
詳細は、上のURLをご覧いただくものとして、この記事の結論部分のみ掲載させていただきます。
・・・・・デフレ人口減説というトンデモ説です。これは、経済学を無視したとんでもない理論ですが、そのようなトンでも理論であるばかりではなく、世界中を探しまわっても、これを裏づけるようなデータは存在しません。おそらく、これから、正統派マクロ経済学とは、無縁のトンデモない衒学者どもが、日本のデフレは、人口減が原因であるから、いたしかたないという説を吹聴しまくると思います。そうして、新聞もその尻馬にのって、馬鹿な説を流布しまくることになると思います。そんなことになる前に、この馬鹿な説を論破しておきます。
インフレ・デフレというのは純粋な貨幣現象です。人口減、人口増など全く関係ありません。マネタリストのミルトン・フリードマンも「インフレデフレはすべて貨幣現象である」と語っています。というより、これは、どの経済学者も認める当たり前の事実です。これを認めない人は、経済学者とも、呼べない輩です。これは、経済学では当たり前の真ん中の、普通の経済学のテキストにも掲載されているようなことです。これが、崩れたら、経済学など最初から成り立ちません。
少し難しくなりますが、経済学の話をします。
一般に、貨幣を増やすインセンティブを起こせば需要が大きくなります。貨幣を減らすインセンティブを起こせば需要は小さくなります。当たり前のことですね。
貨幣供給力は、capital(K) labor (L) 、A を技術によって変わる変数として、F(K.L)は、関数とすれば、供給力はY=AF(K.L)として表記できます。
その時点での供給力に対して貨幣量が大きくなり需要が大きくなればインフレになり、貨幣量が少なければ需要が小さくなってデフレになるだけです。本当にそれだけの話です。
私の中では、デフレ・インフレが人口増・人口減とは全く関係ないことが、上記のことで完璧に理解できるので、いろいろな統計資料や、珍妙な論説などを読んだとしても、その信念は全くゆるぎません。これは、かつて、ケインズ氏が、長い期間をかけて対策をうつべきなどという経済学者を揶揄して、「私たちは長い間には死んでしまう」と言っていた言葉と同じくらい、このことに関しては、信念が全くゆるぎません。
だから、要旨を読んだだけで、読む価値なしと判断して、実物は読んではいません。なぜなら、時間が全く無駄になるからです。それにしても、経済専門家の方は、そうではあっても、やはり、さらっとは目を通しているようです。経済評論家の上念氏は、実際に目を通したようで、以下のようなツイートをしています。
論文の全部に目を通すのは時間の無駄ですから、上念氏が指摘している箇所だけは、読んでみました。
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図表15(下)に関しては、 日本(ともう一つ上方の国)がかなり外れ値になっています。その残りの国における生産年齢人口変化率とインフレ率の関係と比べて、日本がかなり下に乖離しています。つまり生産年齢人口変化率で説明できないほどインフレ率が低い状況すなわち、デフレ率が高い状況になっています。
このデータが正しいものとしたとしても、これは、日本では、生産年齢人口変化率では説明のつかない大きなデフレ要因があることを示しているということです。おそらく、恣意的にデータを選んだのでしょうが、それにしても、日本が、こんなに外れているのでは、どうしようもありません。選ぶんだったら、もっと恣意的に綺麗に並ぶデータにすれば、説得力があったと思います。であれば、マスコミや、政治家などコロリと騙せたかもしれません。こんなんじゃ、とても、誰も、まともな資料と思わないでしょう。
そうして、このグラフの相関係数は、0.61です。私は、理工系の生物系出身なのですが、相関係数が、6.1のデータを持ってきて、それで断定的な意見を論文に書いたら、論文審査には、絶対通らないです。経済では、そんなことがまかり通るのでしょうか?そんなことはないでしょう。
ちなみに、上念さんは、本日以下のようなツイートもされています。
一体、このリンクどこに飛ぶのかと思ってみてみたら、衆議院議員の中川秀直さんのブログの「現代の末法思想=デフレ人口減少原因論←「人口増減と「物価」は実は関係がない」(高橋洋一氏)」というページに飛びました。中川議員は、随分前から、「日銀法改正」を主張しておられる方です。
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-11178934785.html
これは、高橋洋一さんの論考だけでなく、様々な資料が掲載されていて、かなり良くまとまっています。私も、今回、この中川議員のブログに掲載されているように、デフレと、人口減とには、全く関係ないことをたくさん掲載しようとも考えましたが、私自身は、もともとすっかり納得しているので、とてもそのような内容を掲載する気力はなく、考えただけで、ゲンナリしてしまいましたので、詳細は、この資料を参照していただきたいと思います。
全く、おかしげな、日銀論文は、要旨だけ読んでいるだけでも、疲れてきます。結局、日銀はデフレの責任を負いたくないため、日本国内の現在のデフレ状況にあることの責任の所在の大部分が自分たちにあることを隠蔽するために、このようなレポートを書いてサイトに掲載しているということです。典型的な、責任転嫁です。今までのように、言葉や、資料等などだけではなく、はっきりとした論文という形式で、これを打ち出したということです。
皆さんは、このようなものに騙されないように、気をつけましょう。このブログでも、たびたび論考を紹介する高橋洋一氏が語っていたところによると、日銀は、ホイホイと政治家を騙すそうです。実際、政治家の中には、日銀も出席する会合に出席した後で、高橋洋一氏のところに日銀の説明を確認にくる人たちがいるそうです。そうすると、毎回日銀の説明の中に、いくつか、どう考えても誤りだと断定せざるを得ない内容があるので、政治家の方々にそれを明確な根拠とともに、指摘しているそうです。政治家の方々も、騙されないで済むので、喜んでいるそうです。高橋氏によれば、やはり、枝葉まで入ってしまうと、経済や、金融に関することは難解だからとしています。それにしても、国会議員をホイホイ騙してしまうとは、本当に罪深いと思います。
しかも、このような日銀の発表など、今のマスコミのほとんどが、勉強不足のためかそのままスルーして、日銀の発表をそのまま報道しているそうです。そのため、日銀の主張、それも明らかに誤った主張がまかりとおってしまっています。
私も、このような高橋氏が言われているように、そんなに酷いものなのだろうかと、話半信半疑なところもあったのですが、過去いくつかの日銀の発表にかなり疑問を感じたこと、さらに、最近ではこのブログに掲載したように、中央銀行の独立性に関することで、ガイトナー氏が日本で公演した内容につき、英語版の資料では、正しく説明しているのに、日本語版の資料では、中央銀行の独立性とは、中央銀行が国の金融政策を決定するかのように記載されていたのを確認したこと、さらに、8月31日の上の論文発表に関して確認するにおよび、日銀は、恒常的に自分に都合の良い嘘をつくのだと確信するに至りました。
そういった意味では、上の論文は、結構時事ネタとしては、価値あるものだと思うのですが、やはり、マスコミは勉強不足なためか、あるいは、そうだったら良いのですが、上の論文は、明らかに間違いであり、報道する価値がないと判断してか、上記のことを報道するところはほとんどありませんでした。上の嘘を見破るようなものでなくても、「人口減でデフレだ、だから、デフレ脱却は難しい」などと、報道するところすらありませんでした。日経新聞などが、飛びつかなかったのは不思議です。
まあ、マスコミが報道しなければ、この日銀の「デフレ責任回避」の論考も、ほとんどの国民が知らないわけで、それは、それで良かったのかもしれません。それにしても、もっともっと多くの人達それも、国の中枢に近い人たちが、日銀の嘘を見透かすようにならなければ、いつまでたっても、日銀の異常な爆走はとまらないと思うのは、私だけでしょうか?
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