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2017年10月23日月曜日

大勝をおさめた安倍政権が「まずやるべき」経済政策はコレだ―【私の論評】戦後最低議席数の野党第一党立憲民主党誕生(゚д゚)!

大勝をおさめた安倍政権が「まずやるべき」経済政策はコレだ
選挙後の課題は積みだから 

高橋洋一

    リベラルは弱体化したのか

 22日投開票の衆院選。台風の直撃を受けて投票率は散々であったが、結果は予想通り、与党の勝利であった。前回筆者が示した予想と比べると、希望の党がさらに失速して、その代わりに立憲民主党が躍進したが、与党勝利には変わりがなかった。

(投開票前に新聞各社が大量の人員と多額の予算をつぎ込んで選挙予測をしているが、筆者は公開資料を加工するだけでほとんど人員もコストをかけていないにもかかわらず、新聞各紙の予測精度と遜色がなかった。)

 さて、選挙を振り返ろう。希望の党の失速の原因は、先週の本コラムで書いたように、9月末に小池代表の口からでた「排除」発言である。

 希望の党としては、風を起こすことができない残念な結果であったが、憲法の改正に曖昧な態度であった民進党が分裂して、改憲に前向きと後ろ向きな党にしっかり分かれたのは、国民にとって今後の議論を分かりやすくするだろう。もちろん、改憲は今後の国会で行われる議論次第であるし、最終的に改正するかどうかは国民投票によるのだが。

 今回の選挙では、「リベラル」という言葉がマスコミを中心によく使われたのも象徴的だ。小池氏も結党時の会見で「リベラルを排除する」と言っていた。

 『広辞苑』によると、「リベラル」とは、「個人の自由、個性を重んずるさま。自由主義的」とのことであるが、この定義なら、日本のほとんどの政党はまず否定しないだろう。

 ただ、政治で使うときには、右の「保守主義」と左の「社会・共産主義」の中間、中道を指す言葉である。英国では自由党がこれにあたり、市場経済重視、身分差別反対、非宗教的などを基調としている。アメリカなら民主党が代表例で、社会福祉、人権、宗教平等などの推進・充実を特徴としている。

 左派系政党の掲げる重要な政策として、雇用重視がある。これまで何度も述べてきたが、雇用を改善するための標準的な政策は、金融政策である。が、これを主張する左派政党はすくない。一方、リベラルは左と右の中道なので、「金融政策で雇用を作る」という政策も主張する。

 アメリカでは右系の共和党から、FRBの廃止、または金本位制の復活など、現在の金融政策を否定するドラスティックな政策が出てくることもある。もちろん、今の時代では金本位制が採用されることはないが、大統領予備選では共和党候補の誰かから必ず提案される定番のアイデアだ。

  オズの魔法使いと金融政策と

 ちょっと脱線するが、現実の大統領選挙で、金融政策を巡って、金融緊縮気味になる「金本位制」で行うか、金融緩和気味になる「金銀複本位制」で行うかが争われた歴史もある。

 時は1896年、当時の米国はデフレの真っ最中で、東部の産業資本からの借金で未開の地を開拓していた西部の農民は、デフレによる債務の実質的増加に苦しんでいた。そのため大統領選の大きな争点としてデフレ対策が浮上し、民主党候補のブライアンは金本位制から金銀複本位制への移行による通貨の増大を主張していた。

 「人々を金の十字架にはりつけてはならない」というブライアンの演説は、アメリカ政治史上でも有名である。一方、共和党候補マッキンリーは、あくまでも金本位制にとどまることを主張した。保守の共和党より、リベラルの民主党の方が金融緩和政策を好んだのだ。

 実は、この政治論争がベースになって、かの有名な『オズの魔法使い』が書かれたことをご存じだろうか。オズ=OZは金オンスの略号、主人公ドロシーは伝統的なアメリカ人の価値観を表しており、脳のない案山子は農民、心のないブリキ人形は産業資本、そして勇気のないライオンはブライアン候補のメタファーだとされる。黄色い煉瓦道は金本位制だ。共和党候補のマッキンリーは西の悪い魔女として登場している。

 帰り道を探すドロシーは、黄色い煉瓦道を単純に辿るのではダメだと知る。そして、魔法使いオズが役に立たず、その代わり自分の「銀の靴」に魔力があることに気づく。要するに作者のボームは、共和党が主張する金本位制よりも、民主党の金銀本位制を支持していたという解釈だ。

 ちなみに、実際の大統領選では共和党候補が勝利。金本位制は維持されたものの、1898年にアラスカで金鉱が発見され、さらに南アフリカからも金が流入した結果、デフレは解消された。

  自民党は一番リベラル…?

 「リベラル」に話を戻すと、日本のマスコミでは、「左派・リベラル」と一緒に書くことがしばしばだ。はっきりいえば世界を見渡してみると、左の社会・共産主義は、お隣の中国・北朝鮮以外は、ソ連崩壊以降はあまり見られない絶滅種である。

 ここで、左は「絶滅危惧種化」を避けるために、「リベラル」にならざるを得なかったのだ。もっとも、日本のマスコミの中にも、もともと左系志向で、表向きは転向を余儀なくされたが、実質的には左を捨てきれずに偽装している者も少なくない。そのような気持ちが、「左派・リベラル」という標記に現れているのだろう。世界ではほぼ、左派は消え去っているにもかかわらずだ。

 そこで、本稿では、「リベラルか保守か」という対立軸と、「既得権か非既得権か」というもう一つの対立軸によって、自民、立憲民主、希望の政治的スタンスを見てみよう。


 この図を見て、「自民はリベラルではないだろう」という人もいるかもしれない。そうした人は、日本的な「リベラル」の特殊性が頭の中に張り付いているのだろう。

 日本的「リベラル」とは、つまるところリベラル=護憲、というイメージのことだ。本来であれば、憲法改正は左か右かに無関係である。

 たとえば中国は、共産党の下に憲法もあるが、5年ごとに開催される中国共産党全国代表大会に対応して、ほぼ5~6年ごとに改正されている。つまり、左派=護憲は中国でも成立していない。日本に特有のものだ。

 憲法改正自体、ほとんどの国で改正されており、筆者の知る限り、戦後一回も改正されていない日本だけが特殊であるのだ。これは、日本国憲法が世界で一番改正しにくいように作られているからだ(2015年5月4日「憲法改正へ、自民党が国民の支持を得るためのベスト戦略とは何か?」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43221)。

では、自民党がリベラルかどうか。

  立憲民主党、これから大変だよ

 「リベラル」という言葉を、護憲ではなく、欧米のリベラル系政党が標準的に掲げる、「金融政策による雇用重視」「社会福祉」「市場経済重視」「身分差別反対」「非宗教的」等の政策基準でみてみると、いまの安倍政権は(欧米基準でみれば)かなり「リベラル」な政策を採っている。ひょっとして、今日本で一番「リベラル」なのは、安倍首相かもしれない。

 立憲民主の枝野代表は、かつて筆者とテレ朝の「朝生」で議論したことがあるが、金利引き上げによって経済成長を目指すんだという「トンでも政策」を主張して、頑として譲らなかったのを覚えている。

 金利引き上げは、雇用を最も作れない政策であることは明らかで、それを主張することは、(雇用重視」という点では)とても欧米基準では「リベラル」といえない。

 立憲民主は、希望の党の失速もあって躍進したが、やはり雇用=金融政策であることを理解しないと、雇用の実績を作れないので、安倍政権にはかなわないだろう。なにより、リベラルを名乗れないだろう。

 金融政策は雇用を作るとともに、株価を押し上げる。雇用と株価の二つをとっても安倍政権の実績はいいので、立憲民主がこれを凌駕するには、よほどの努力が必要だろう。



さて衆院選の結果を受けて、安倍政権は外交、内政、経済でどのような課題に直面するだろうか。

  北朝鮮との対話の可能性も…?

   今回の総選挙は、北朝鮮対応をどうするか、といういわば「有事解散」であった。これは安全保障を問う解散だったと言い換えてもいい。先日ある情報番組に出演して、外国人コメンテーターから、日本では「戦争」について語ることがタブー化されている、という発言を聞いた。まさにそのとおりだ。

   筆者は昔からそのことを痛感していたので、米プリンストン大に留学する機会をもらった時、平和論・国際関係論を勉強した。これは、過去に本コラムでも紹介したが、戦争の発生条件を冷静に、数量的に分析して、どのようにしたら戦争になる確率を減少させるかを研究するものだ。

    日本の左派論者は、「集団的自衛権をもつと、日本は戦争をする国になる」という主張をするが、実は過去の戦争データを分析すれば、集団的自衛権を認めることは、戦争になる確率を減少させる方策であるのだ。
    こうした視点に立てば、同盟関係で圧力をかけるのは、戦争確率を減少させる効果的な手段だ(圧力は対話を引き出すためのものであることを忘れてはいけない)。

    小泉政権の時に、小泉首相が北朝鮮訪問し、拉致問題を北朝鮮が認めて謝罪した。これがうまく行えたのは、ブッシュ政権が北朝鮮に圧力をかけていたなかで、北朝鮮がその圧力を軽減するために、日本の拉致問題を持ち出したからだ。

   今の北朝鮮問題にあてはめれば、11月に日米首脳会談、米中首脳会談がある。また、APECでの各国首脳会談には、ロシアも出てくるだろう。それらの国際会議では、北朝鮮問題が話し合われる。これらは、北朝鮮版「ヤルタ会談」ともいうべきものだが、そうした国際的な圧力が高まる裏で、日本と北朝鮮との和解交渉が行われる可能性がないわけではない。

    ところで最近、北朝鮮がおとなしい。先日まで中国で共産党全国代表大会があったため、北朝鮮も自重していたのだろうが。ここに来て、ようやく北朝鮮が自国のおかれた立場を理解してきたのかもしれない。

    これまでの中国に対する度重なる非礼を許してもらい、挑発行動をとらずに、制裁に耐える道を選んだのかしれない。そうであれば、年内ともいわれていた国連軍あるいは多国籍軍による対北朝鮮の軍事オプションも遠のく可能性はある。

    いずれにしても、トランプ米大統領、習中国国家主席、プーチン露大統領など互角に渡り合えるために、どのような準備を日本のリーダーがすべきか。まさに日本の国家としての命運がかかっている。

  こうした外交・安全保障に気を払いながら、内政を同時並行的にやることが求められる。


     経済としては、デフレを完全に脱却する必要がある。そして、早く完全雇用の状態を作らなければならない。本コラムで書いたように、インフレ目標2%、失業率2%台半ばを達成するためには、有効需要であと25兆円ほど必要である。そのために、来年の通常国会の冒頭での大型補正が必要である。

    そのときには、ひょっとして朝鮮半島が有事になっている可能性もある。そうなれば経済に大きなショックを与えることが予想されるので、そうした事態を見越して、年初の大型補正の準備は直ちに取りかかるべきだろう。

    ところで、安倍首相が「リーマンショック級のことが起これば、消費増税はしない」と発言し、各方面で話題になっているが、安全保障の環境や経済状況を考えないで経済政策があるはずなく、常識的な意見であるということを、最後に付け加えておきたい。

【私の論評】戦後最低議席数の野党第一党立憲民主党誕生(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事て、高橋洋一氏は、日本の“リベラル”は、世界標準の“リベラリズム”とは別モノであるとしています。

4年ほど前、特定秘密保護法が話題だった頃に「香山リカ」が「私たちリベラル派は嫌われている」と発言して話題になったことがありました。

香山リカは、リベラル派の人物が反対を唱えるだけで「あいつらが反対してるならいい法律なんだろう」と判断されるレベルでリベラルが嫌われている、という告発をしていたのです。その後「香山リカ」を名乗る人物はどうやらそのことを「リベラルじゃダメですか?」本にしていました。

香山リカ
これだけ嫌われてるリベラルとは一体何なのでしょうか。

自由と平等を掲げるのは近代国家としては普通のことであり、我が国も自由主義国家の一つです。厳密には議論があるでしょうが、日本の憲法は自由と平等、そして自由主義の根幹でもある個人の国家や宗教からの自由、つまりは基本的人権を掲げている点で自由主義国家です。

社会自由主義とも言われるいわゆる中道左派は、近代国家の目指すところとしては実にありきたりなものです。

もちろんこの中道左派には反対する人たちも多いのですが、自由主義国家が現代においてある程度利害調整をしてまともな経済政策をとっていくと、結局は中道左派路線になってしまうものではないでしょうか。どう考えてもリベラルではない日本の自民党も、結局のところブログ冒頭の高橋洋一氏の記事でも指摘されているように、中道左派的経済政策を実行しています。

では日本における「リベラル」とは一体何なのでしょうか。

おそらく現代日本において「リベラル派」とされてる人たちのことは本当は、「新左翼」「ニューレフト」と呼ぶべきなのです。従来の意味での新左翼は学生運動や成田闘争といったものに代表されるように、暴力的革命運動をする人々でした。

「言葉の暴力」という概念を持ち込むと、現代日本において「リベラル派」と呼ばれる人たちを新左翼と呼ぶのに値することに気づきます。

彼らのネットの活動を見ていると「あべしね」というワードがちらほら出てきます。今の総理大臣安倍晋三氏に対して「死ね」という言葉を投げつけているのです。それに衆院選では、「安倍政治を許さない」「お前が国難」というプカードを掲げていました。これは、言葉の暴言です。


この他、デモ活動における暴力的な言語表現などなどを見るに、「火炎瓶やゲバ棒を言葉の暴力に持ち替えた新左翼」と呼んで差し支えないのではないでしょうか。

この新左翼らは、従来は単なる暴力を、現在では言葉の暴力で何ら生産的な活動をしていないようにみえます。

しかし、左翼の源流をたどれば、それが事実がどうかは別にして、本来の「左翼」は搾取され虐げられた民衆のためにある勢力であることを標榜していました。

緊縮政策に苦しめられてきた民衆が望んでいるのは、政府が民衆のために潤沢におカネを使い、まともに雇用をつくりだすことです。その資金は、おカネのあるところから取ればいいし、それでも足りなければ無からつくれば良いのです。それが今、左翼の世界標準として熱狂的に支持されている政策です。

そう考えれば、立憲民主党などの、野党側が掲げるべき政策は明らかです。日銀がお金をどんどん出して、それを政府が民衆のために使うことです。

それをまさに、安倍政権が実行しています。いわゆる「アベノミクス」の「第一の矢」と「第二の矢」です。しかし、これらは「そんなことしたらハイパーインフレになる」「財政破綻する」「庶民の生活はよくならない」などと言われた、日本の左派・リベラル派の間では印象が悪い政策です。

しかし、世界の大物左派・リベラル派論客らが、「アベノミクス」を高く評価する発言をしていました。アメリカのリベラル派ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏やジョセフ・スティグリッツ氏、インド出身のノーベル賞経済学者アマルティア・セン氏、フランスの人口学者エマニュエル・トッド氏。『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)がベストセラーになったトマ・ピケティ氏も、「安倍政権と日銀が物価上昇を起こそうという姿勢は正しい」と言っています。

ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏(左)とジョセフ・スティグリッツ氏(右)
ただし、これらの論客の誰も、「第三の矢」の規制緩和路線や、消費税増税を評価しているわけではありません。「第二の矢」の財政政策も評価していません。これらの論客が支持しているのは、金融緩和政策と、金融政策と政府支出の組み合わせという枠組みについて評価しています。

アベノミクスは、それなりの評価を受けていますが、まだまだ改善の余地があります。そこに、リベラル派が付け入る隙は十分にあります。

しかし、そもそも金融政策などを評価しない、現状の日本の「リベラル」はリベラルなどとはとても呼べる代物ではないのです。

経済に関する考え方を変え、安全保障や憲法についても、ただ反対するだけではなく、代案を出すべきです。そうでなければ、日本のリベラル≒新左翼は、これからどんどん衰退するばかりです。

今回の衆院選で、立憲民主党は躍進して野党第一党とマスコミは報道していますが、これは戦後最低議席数の野党第一党誕生という事実が見逃されているようです。

当選確実を示す印がない候補者ボードの前で頭を下げる野田佳彦首相=2012年12月
16日午後11時20分 この衆院選挙では民主党獲得議席は57、自公は325議席だった
議席数54は、2012年の民主党大惨敗時総選挙の議席数57を下回りました。今後、希望の党や、無所属で立候補して当選した人たちの立憲民主党への合流も考えられますが、それにしても、この規模では大きな勢力にはなり得ません。

以下に過去の衆院選での議席数と今回の結果を掲載します。







今回の衆院選の結果
これは、本当に象徴的な出来事でした。「かけもり問題」のフェイクニュースの嵐の中という、あれだけの逆風の中で、自公が圧勝です。日本のいわゆるリベラルそのものも、衰退一途をたどっているのでしょう。この傾向はますます、加速されることでしょう。民進党崩壊の次は、立憲民主党崩壊です。

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