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中国のお年寄り |
知恵を借りるべきは日本
2月11日、中国共産党中央宣伝部の機関紙『光明日報』の16面に、でかでかと「特異な」オピニオン記事が掲載された。タイトルは、「中国と日本の医療・年金・介護の協力によって高齢化への対応の助力とする」。筆者は、「中国経済の司令塔」である国家発展改革委員会傘下のシンクタンク、中国国際経済交流センターの姜春力情報部長である。長文の記事だが、要約するとこんな内容だ。
<2018年末時点で、中国の65歳以上の高齢者人口は1.67億人、総人口の11.9%に達した。このペースで進めば、25年には高齢社会(総人口の14%以上)に、35年には超高齢社会(同21%以上)に突入する。日本に遅れること約30年だが、人数も速度も日本とは比較にならず、「未富先老」(富裕になる前に老いる)、「未備先老」(準備が整う前に老いる)が特徴だ。
そのようなわが国にとって、知恵を借りるべきは日本の成功体験であり、その政策の試行錯誤から教訓を吸収すべきである。医療・年金・介護の分野において、人材育成から関連器具の生産まで、中国が日本と提携できる空間は大きい>
私がこの記事を「特異」と形容したのは、ここ10年ほど、『光明日報』や中国共産党中央委員会の機関紙『人民日報』など、いわゆる中国官製メディアにおいて、「日本に学べ」という記事など、ほとんど目にしたことがなかったからだ。
介護保険すらない中国
中国の官僚たちと話していて、日本を「すでに終わった国」とみなす「冷ややかな視線」を何度感じたことか。極言すれば、10年に国内総生産(GDP)で日本を抜き去って以降、中国の目線の先にあるのは米国だけであり、中日関係は「中米関係の一部」のような扱いだった。
そんな中で、突然の「日本に学べ」論調の出現である。中国でいったい、何が起こっているのか? それを知るにはこのオピニオン記事を書いた本人に当たるのが一番、というわけで、姜部長に見解を聞いた。
「少子高齢化は、21世紀の中国で最大の問題になると見ています。50年には5億人もの中国人が高齢者になっているのです。それなのに、中国にはいまだ、介護保険すらありません。
そこで世界の先進国を調査したら、わが国が一番学ぶべきは、隣国の日本であるという結論に達しました。日本は同じアジアの国で健康問題も似通っており、少子高齢化の進行及び対策が、中国の約30年先を行っている。高齢者向けの器具なども充実しています。昨年、日本へ視察に行きましたが、『日本に学べ』という確信を持ちました。
幸い『光明日報』の記事は中国国内で反響を呼び、多くの賛意を得ました。中国の少子高齢化問題は、いまや待ったなしのところに来ています。これから日本の経験や制度を参考にしながら、来たる少子高齢化時代に対処していこうと考えています」
中国の少子高齢化問題は、「待ったなし」のところへ来ている。高齢化については、姜部長が述べた通りだが、少子化もまた深刻なのである。
いびつな人口構成生んだ「一人っ子」政策
昨年12月18日、習近平(シージンピン)国家主席が主催して、「改革開放政策40周年記念式典」が、北京の人民大会堂で華々しく開かれた。同時期には、「改革開放政策の総設計師」と仰がれる鄧小平元副首相を称たたえるキャンペーンが、これでもかというほど大々的に展開された。
そんな偉大な鄧小平だが、「失政」もいくつか犯している。その代表例が、いまや悪名高くなった「一人っ子政策」である。鄧小平は1949年の中華人民共和国の建国時から、ほとんど唯一、一貫して「中国が豊かになるには人口を減らさねばならない」と主張し続けた政治家だった。そして78年に実権を握るや、その持論を実行に移したのである。「一人っ子政策」を実施、奨励、監視する官僚を15万人も配置した。
だが結果として、見るも無残な頭でっかちの中国人口ピラミッドができ上ってしまった。2010年の全国人口調査では、一人っ子が日本の総人口よりも多い1.4億人に達し、習近平氏が共産党トップに立った12年には、16歳から59歳までの生産年齢人口も下降線となった。こうした現実を見て真っ青になった習近平政権は、13年の「三中全会」(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)で、初めて「一人っ子政策」の一部廃止を決定。16年からは、全面的に「二人っ子政策」に変えたのだった。
「子供は一人」すでに定着
それでも、中国政府の悩みは尽きない。1月21日、一年に一度の記者会見に臨んだ寧吉テツ(吉が2つ)国家統計局長は、「昨年のGDPの伸びは6.6%だった」などと誇り高く言い放った後、口ごもるようにつぶやいた。「昨年の出生者数は1523万人だった」
出生者数は何と、数千万人が餓死した「悪夢の三年飢饉(ききん)」の1961年以来、57年ぶりの最低記録である。しかも前年の2017年と比べても、200万人も少ない。日本の2年分の出生者数よりも多い数の子供が、この一年で「生まれなくなった」のだ。
戦争も飢餓もなく、制約もなくなったのに、いったいなぜ? 中国人口発展研究センターの黄匡時博士は、次のように分析している。
「出生者数激減の主な原因は二つあって、それは出産適齢期の女性の減少と彼女たちの晩婚化です。25歳から35歳までの女性は、17年から18年の間に552万人も減りました。かつ彼女たちの結婚者数も、18年1~9月で見ると、前年同期比で3.1%減っています。このままでは5年後の出生者数は、1300万人前後まで下落するでしょう」
せっかく「二人っ子政策」に転じたのに、私の中国人の友人知人の中で、2人目の子供を出産した夫婦は、ただ一組しかいない。いまの30代までの中国人は、基本的に一人っ子なので、「小皇帝」「小公主(小さなプリンセス)」として贅沢(ぜいたく)に育っていて、「子供は一人」という概念が定着している。
もしくは「子供なんていらない」という夫婦もゴマンといる。中国では子供を幼稚園に入れるだけで莫大ばくだいな費用がかかり、そこから小学校、中学校……と育てていくのは大変なのだ。そのうち「空中分解」(離婚)してしまう若者夫婦も増えるばかりで、すでに北京や上海などの離婚率は4割を超えている。
5億人の老人と、減り続ける子供たち。いま中国では、こんな突飛な噂(うわさ)がささやかれている。
「政府は『二人っ子政策』に失敗したら『三人っ子政策』を始めるのでは?」
◎プロフィル
近藤 大介( こんどう・だいすけ )
1965年生まれ。東京大学卒業、国際情報学修士。講談社入社後、中国、朝鮮半島を中心とする東アジア取材をライフワークとする。講談社(北京)文化有限公司副社長を経て『週刊現代』編集次長、特別編集委員、「現代ビジネス」コラムニスト。明治大学国際日本学部兼任講師(東アジア国際関係論)。『未来の中国年表 超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)など著書多数。
【私の論評】今後急速に弱体化する中国(゚д゚)!
中国の高齢化については、今突然始まったことではなく、以前から多くのメディアが報道していましたし、このブログでも何度か掲載したことがあります。
ある統計によると、中国の人口は2030年にピーク(14億5000万人)に達した後、毎年500万人のペースで減少を続け、今世紀末には10億人を切ると予測されている。国連の調査では、6億人にまで減少するとの見方も出ている。男女比の不均衡と、ドイツや日本、韓国よりも高齢化のペースが早いことで、中国には「史上類を見ない状況」が訪れるのだという。中国の高齢化問題は相当深刻です。このまま、なにもせずになし崩し的に、高齢化や人口が減少していけば、 中国の未来は暗澹たるものになるでしょう。
こうした人口の変化で問題になるのが墓地だ。中国の国土面積は世界第3位だが、人口減少が始まると、毎年パリ市の面積の3分の1にあたる30平方キロメートルあまりの墓地が必要となり、墓地不足が課題になる。中国の80歳以上の人口は2014年時点ですでに2400万人に達しており、中国政府は昨年、一人っ子政策の完全廃止を決めたが、記事はこれだけでは高齢化の解決にはほど遠いと指摘している。
高齢化にともない他の様々問題も起こるようになります。2024年になると、年間600万組が離婚する時代になります。つまり1200万人で、これは東京都の人口に近い数です。ちなみに日本の離婚件数は21万7000組(2016年)なので、中国では日本の27.6倍(中国の現状の人口は日本の約10倍)も離婚していくことになります。
北京や上海などの大都市では、離婚率はすでに4割に達しています。離婚率が5割を超えるのもまもなくです。
逆に結婚件数は5年で3割減っているので、中国は近未来に、年間の離婚件数が結婚件数を上回る最初の国になるのではという懸念も出ているほどなのです。
なぜこれほど離婚が多いのかと言えば、その大きな理由として、やはり「一人っ子政策」の弊害が挙げられると思います。
中国の小皇帝 |
彼らは幼い頃から、「6人の親」に育てられると言います。両親と、両親のそれぞれの両親です。
祖父母が4人、親が2人、子供が1人であることから、「421家庭」という言葉もあります。そのため、上の記事にもあるように男児なら「小皇帝」、女児なら「小公主」と呼ばれ、贅沢かつワガママに育つのです。
そんな彼らが結婚しても、我慢することが苦手で、かつ便利な両親の実家が近くにあるため、容易に人生をやり直してしまうのです。
さらに、中国特有の離婚も急増中です。それは「マンション離婚」と呼ばれるものです。
マンション投資が過熱すると、価格が急騰して庶民が買えなくなるため、政府は2011年以降、「ひと家庭に1軒のみ」といったマンション購入制限令を出してきました。
それならば「離婚してふた家庭になれば2軒買える」というわけで、「マンション離婚」が急増したのです。そのため、例えば北京市役所は「1日の離婚届受け付けを1000件までとする」という対策を取っているほどです。
2025年になると、中国は深刻な労働力不足に見舞われます。15歳から64歳までの生産年齢人口に関して言えば、すでに2015年頃から減少しています。
労働力の絶対数が減り続ける上に、一人っ子世代は単純労働を嫌うので、大卒者の給料よりも単純労働者の給料のほうが高いという現象が起こってしまうのです。
中国政府は、労働力不足の問題を、AI(人工知能)技術を発展させることでカバーしようとしています。世界最先端のAI大国になれば、十分カバーできるという論理です。
しかし、労働力不足はある程度、AI技術の発展によって補えたとしても、来る高齢社会への対処は、困難を極めるはずです。
国連の『世界人口予測2015年版』によれば、2050年の中国の60歳以上人口は、4億9802万人、80歳以上の人口は1億2143万人に上ります。「私は還暦を超えました」という人が約5億人、「傘寿を超えました」という人が、現在の日本人の総人口とほぼ同数。まさに人類未体験の恐るべき高齢社会が、中国に到来するのです。
しかし現時点において、中国には上の記事にもあるように、介護保険もないどころか国民健康保険すら、十分に整備されているとは言えません。
この未曾有の高齢社会の到来こそが、未来の中国にとって、最大の問題となることは間違いありません。日本に遅れること約30年で、日本の10倍以上の規模で、少子高齢化の大波が襲ってくるのです。
インドの世界で最も混雑している列車 |
そうした「老いてゆく中国」を横目に見ながら、虎視眈々とアジアの覇権を狙ってくるのが、インドです。インドは早くも6年後の2024年に、中国を抜いて世界一の人口大国になります。
しかも、2050年には中国より約3億人(2億9452万人)も人口が多くなるのです。15歳から59歳までの「労働人口」は、中国より3億3804万人も多い計算になります。
2050年のインドは、中国と違って相変わらず若々しいままです。
つまり中国にしてみれば、21世紀に入ってようやく、長年目標にしてきた日本を抜き去ったと思いきや、すぐにインドという巨大な強敵を目の当たりにするのです。
中国は2049年に、建国100周年を迎えます。その時、「5億人の老人」が、しわくちゃの笑顔を見せることは、できるのでしょうか。今のままでは、全く無理です。
現在米国は、中国に経済冷戦を挑んでいますが、長期的にみれば中国は間違いなく弱体化します。冷戦はそれを加速することになります。日本としても、短期的には中国は脅威ですが、長期的にはそうではなくなることを認識しておくべきです。
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