イヴァンカ・トランプ氏 |
そもそも「イヴァンカ基金」ではない
トランプ大統領の長女で大統領補佐官を務めるイヴァンカ・トランプ氏が来日し、連日動向がメディアで取り上げられた。そのなかで物議を醸したのが、氏が主導した「イヴァンカ基金」に日本政府が5000万ドル(約57億円)を出資するとしたニュースだ。国のトップクラスの名前を冠したファンドは珍しいようにも思えるが、そもそもこの基金の目的は何なのか。政府はどのような意味合いで57億円もの巨額を拠出することになったのか。
これについて、各メディアは「安倍首相 イヴァンカ氏基金に57億円」との見出しで報道した。これに否定的な反応を示した人々も少なくない。たとえば社民党の福島瑞穂参議院議員は、ツイッターで「安倍総理がトランプ大統領にプレゼントをしたように見えかねない。なぜこのタイミングなのか?しかも個人的なプレゼントではない。みんなの血税だ」と投稿。
たしかに報道の字面を見ると、安倍首相がトランプ氏一家のご機嫌取りに血税を使ったように取られてもおかしくない。
だが、実際のところ単なる「プレゼント」とは大きく違ったものだ。まず、メディアでは「イヴァンカ基金」と通称で呼んでいるが、正式名称は「女性起業家資金イニシアティブ」といい、イヴァンカ氏個人のファンドではない。途上国の女性起業家が直面する制約を解消することを目指し、ワシントンにある世界銀行に設置されている。
ちなみにこの拠出は'17年7月にすでに発表されていて、日本以外にもすでに12ヵ国が拠出を表明している。つまり、わざわざ今回の訪日に合わせて準備した資金ではないということだ。
ダブルで「おいしい」投資先
そして今回の出資について「血税をつぎこんでいる」というのも、再考の余地がある指摘だ。なぜならこの57億円は、税金主体の一般会計からも拠出できるが、普通であれば政府が保有する「外貨準備」から拠出するのが通例だ。外貨準備とは、相場の急変動への対応や対外債務の返済に用いられる準備資産であり、そのほとんどが政府の外国為替資金特別会計という名目で保有されている。
外国為替資金特別会計は短期債券を発行し、その資金で外債を購入して運用している。こうして生まれた外貨準備の残高は1・2兆ドル(約137兆円)ほどで、税金そのものを拠出したわけではないといえる。
また、外貨準備は債券が原資であるから、一定の収益がある。現時点でその利回りは1・7%程度といわれるので、単純計算で年間204億ドル(約2・3兆円)の収益がある。
つまり、外貨準備の中から57億円を拠出するというのは、年間収益のわずか0・3%程度を出すだけにすぎない。しかもこの資金はあくまで「拠出」で、タダで寄付しているわけではない。「イヴァンカ基金」が成功すれば日本の国際的評価も上がるはずだ。
いわば、国が財テクで儲けたそのわずか一部を別の分野で再投資しているだけにすぎない。メディアの報道があまりに不十分なことには驚くが、それを鵜呑みにして過剰反応する国会議員にも呆れてしまう。
しっかりと国のおカネの仕組みについて学んでいれば、このようなことも発言しないのだろうが。
【私の論評】テレビに国際・経済報道を期待でないわけ?
昨年の大統領戦記では、ほぼすべての日本のマスコミがトランプ大統領の登場を予測することができませんでした。これには、それなりの背景があります。それは、今でも変わっていません。だからこそ、今回のいわゆる「イヴァンカ基金」についてもまともな報道ができないのです。そもそも、正しい報道をして欲しいと願うこと自体が間違いなのです。
民放では日々国際ニュースが流されているがその信憑性は? |
今回は、主にテレビ報道について述べます。
そもそも、日本の特に大手メディアのワシントン支局に何人くらいテレビ局員いるのでしょうか。
これは、テレビ局によって多少の違いはありますが、基本的には2人です。支局長と平の人と、あとは現地採用の人です。あわせ、4人から5人というところです。NHKは、これよりは少しは多いくらいのものです。
この状況で、東京から送り込まれてニュースを日本全国に届けるわけですが、これでは、取材力がないわけです。では、どのようにして、選挙情勢分析してるいるのかといえば、それぞれ系列局と報道協定結んで報道をしているのです。
たとえば、米国ABCと日本のNHK、日本テレビとNBC、CBSとTBSが、報道協定を結んでいます。日本のテレビ局が、報道協定を結んだ先の米国のテレビ局が出した情報をそのまま日本で報道してしまいます。
米国のテレビ局は基本的にリベラルに占められていて偏っています。テレ朝などは、完全に米CNNの情報絶対に正しいという前提で、報道しています。
さらに、日本のテレビ局の、多くが駐在するワシントンにいるとさらに、それが全然わからなくなってしまいます。昨年の大統領選挙戦で、得票数見れば、ワシントンでは93%もクリントンに入れています。
ワシントンにいるとクリントンが勝って当然だという感覚になるのです。昨年の大統領戦では、トランプが勝利宣言をすることになったわけですが、これに対する日本のテレビ局の準備がほとんど出来ていませんでした。
クリントンが勝つから、クリントン側から勝利宣言を夕方中継するということで、キャスターはスタンバイ始めるわけですが、パスを取らないとそこには入れません。そうして、そのパスをクリントン側からしか取っていないと、急にトランプ勝ちそうだぞとなってももうトランプ側の勝利宣言の場には、行くことができないのです。
このような準備が全く不足していて、日本のテレビ局のほとんどが、トランプの勝利宣言をほとんど報道できなかったのです。これは、当時池上氏の選挙特番でもそうでした。
池上氏の選挙特番では、安藤ゆうこキャスターは現地に行ってから、日本で言われているように、ヒラー優勢ではなく、トランプ優勢であることを初めて気付き、突然レポートの内容が変えました。
一方で池上彰氏は直前に1回アメリカに行っにもかかわらず、ヒラリーが絶対に優勢という前提で、全部原稿準備していたので、特番の中では、ヒラリーに関することしか言えないような状況になっていました。
池上彰氏の米大統領選挙特番 |
日本のメディア、テレビ局は、このような手薄な状況で、アメリカの内情分析をしているのが実体なのです。
これは、本当に手薄で、その場で必要がなければ翻訳の人が常時いるわけではないですから、今日はニュースは無いというときには支局員は支局に詰めることもなく帰宅していまうのです。
そのため、アメリカで何か大きな事件が急に起こった場合には、支局長が支局員に電話して報道局来てもらわないと支局は機能しません。だから、急に大きな事件が発生すると、報道にタイムラグがおきてしまったりします。国内のように、泊まり番というのはいないのです。
ただし、NHKは泊まり番も存在しますが、その中には、中国人のスパイ等がなにくわぬ顔で潜り込んでいて、それが大きな事件が起こったときに偶然泊まり番をしていて、直後の報道がかなり偏っていたりすることもあるのです。
そもそも、日本のテレビ局は、情報分析能力自体が、かなり手薄なのです。あまりにも手薄なので、ある民法は、アメリカ大統領選挙はどうなるのかという番組では、自分の局の米国駐在員の話を報道するのではなく、日本人の商社関連の識者を呼んでき報道するというようなことをしていました。
本来商社の人に話を聴いても、正しい情報が得られるとは限らないのですが、それでもなぜそのようなことになかといえば、そのような商社員に毎月勉強会という形でアメリカ事情を語ってもらう勉強会をやっているからなのです。
結構そういう有名商社の誰々という権威に結構頼ってしまったりするのです。これは、何も国際報道に限った話ではありません。例えば捜査系の報道、特捜部系の報道では、元特捜OBのコメンテーターの人が番組に登場することが多いです。
そういう人が勉強会をやっていて、後輩捜査員に対して「おぅどういうネタがあるんだ?」などと聴いて集めて報道ネタにするということが良くあります。昔若狭さんがそれやっていました。
そもそも、偏るというよりは、まともなリサーチャーもアナリストもいないということです。日本では、良くテレビなどはリベラル左翼側に偏向していると批判されることも多いですが、本当はそれ以前にこのような根本的な欠陥があるのです。
ある民放局では、どうせニュースなんかスポンサーまともに付かないし、儲からない部署ということで、赤字部門扱いされてしまい、その局の有名会長が報道局部門のリストラを実行してしまいました。それに他局も右ならえをしてしまい、全民放が過去にかなりリストラをやってしまいました。そのため、現在ではどの民放もそもそも報道局は、予算もあまりつかないですし、報道局などに在籍しても出世のためには良いことではないのです。
再び昨年の、米国の大統領選挙にもどすと、トランプを一生懸命支えたネットニュースのブライドバードニュースがあります。ここの報道など当時の日本のテレビは全く触れませんでした。しかし、あのニュースを視聴していれば、トランプ陣営がどう動いてるのだとか、どういうことをやろうとしているのか、すぐにわかりました。
このサイトは、米国内でも有名でしたし、日本国内でも米国事情通の間では有名でしたが、日本の民放関係者は、このサイトの存在も知らなかったのです。
例えば毎月勉強会をしなくても、こういうことが起きたから、こういう本を出した先生を一回呼んで勉強会やりましょうということで勉強会をすれば良いのでしょうが、そのような形式では行われていません。レギュラー番組のキャスター等を呼んで勉強会をするというようなことが行われています。
日本の日米関係は重要であるとするマスコミの大統領の報道でさえこのような状況の中で行われていたということです。
米国大統領選の報道ですら、この体たらくですから、普段のニュースはもっと酷いのです。それこそ、日本の民放の報道は、ADさんが貧乏物語に支えられるといっても良いくらいです。
たとえば、昨年の大統領戦記でレディー・ガガの掲げた「love trumps hate」を誤訳してしまった人は、年収200万くらいで、極端んことをいうと段ボールで寝てて、ロケ弁をタレントさんが置いてったものを2つ3つ持って帰って家で食べる飢えをしのいでいるような人かもしれません。
テレビ局の正社員は20歳代でも、平均で900万1000万程の給料を守らているのが普通です。ところがその下で実務の仕事をしている人たちは、年収200万くらいで、ブラック的な環境に甘んじているわけです。これでは、取材もまともにできないです。
そもそも、現在ではコスト削減でもうカメラ出すこともできない程なのです。昔は1日で3か所取材などのことがあって、ADの人たちも、仕事させすぎだろ殺す気かって怒ってたほどなのです。今は1日1回出動するかしないかです。
だから経済産業省とか省庁の取材系は、昔はカメラマンもいて、カメラマンが映像をとって取材は取材に集中できました。しかし、今は記者が自分で回すのです。メモをとれないのでボイスレコーダーで録音しながら、自分でカメラで撮影するのです。
このような酷い状況の中で、こういうテレビ番組を見て政治家などがアメリカ情勢をもし判断しているとすると、これブラックジョークの世界です。政治家や、政府関係者はそもそも(民放ニュースを)信用すべきではないです。
外務省も金が無くて情報収集分析が全然出来ない状況で、人と会うためのお金ももらえないから困っているようなところがありますが、テレビ局もお金が無いから情報収集できない状況です。特に、現場の記者は全部自腹といっても良い状況です。
2000年より前は、逆に使い過ぎてたくらいでした。たとえば、ロシア、モスクワで一番羽振りがいいのはテレビ局の記者なんじゃないかってくらい遊んでいた時代がありました。
それが、ある日突然あるテレビ局の某経営者がいきなりリストラクチャリングを始め報道局の人を減らし、取材コストを下げるってことが始まったのです。この方は、もう亡くなられた経営者で渡辺恒雄さんの友人ですが、その人がそれで結構コストを下げて経営がうまくいったので、どの局もみなリストラに走り現在のような状況になってしまいました。
上で述べたように、大統領選挙ですら、民放は、正しく報道できなかったわけですから、「イヴァンカ基金」に関して報道できないのは当然といえば、当然です。
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