バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は8月31日、米ワイオミング州のジャクソンホールで講演を行った。そのポイントは、雇用に力点を置いた金融政策だ。
7月4日の本コラム「失業率は改善の余地あるが厚労省所管では実行が困難 日銀こそ責任を持つべきだ」で書いたように、日銀は雇用問題に責任を持たず、マクロ需要不足に対して何も策を講じない。
一方、米国では雇用の最大化はFRBの責務で、需要不足部分に対する失業率を下げることは中央銀行の責任だ。このため、雇用についてバーナンキFRB議長が広い意味での政府を代表して責任を持っている。
この点を日銀と比較すると、FRBの雇用重視がわかる。日銀はそもそも雇用問題に責任を持っていないので、雇用対策として金融緩和をしない。しかも、今の金融緩和でも、コストばかりを強調している。このため、日米で金融緩和を比較すると、圧倒的に米国FRBのほうが金融緩和しているわけだ。
雇用状況について、「失業率は依然、大半のFOMC(連邦公開市場委員会)メンバーが長期的に正常とみなす数値を2%ポイント強超える水準にある」として、8%台に高止まりしていることを満足のいく状態からは程遠いとしている。
このため、9月7日に発表される8月の米雇用統計などが注目されている。場合によっては、FRBによる量的緩和第3弾(QE3)が実施されるかもしれないと市場には期待感がある。
また、金融緩和政策の効果について、FRBは「金融緩和政策は伝統的・非伝統的措置とともに、物価安定の維持に寄与すると同時に、経済回復を支援する重要な効果をもたらした」と堂々と述べている。この点、少ない金融緩和をしたあげく、その効果について自ら否定する日銀とは好対照だ。
そして、物価については、「過剰な政策緩和がインフレを招く恐れがあるとの警告を何度か受けながらも、インフレ率は(商品相場の振れを主因とする一時的に変則的な動きを除いて)、FOMCが目標とする2%近辺で推移し、インフレ期待も安定してきた」と満足できるとしている。
これも、いまだにインフレ率がマイナスのままで、デフレから脱却できないにもかかわらずインフレリスクを強調して金融緩和しない日銀とは大違いである。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
この記事の詳細はこちから!!
【私の論評】日本が金融政策の重要性を理解すれば、世界は救われる!?
このブログでは、従来から、雇用における金融政策の重要性を強調してきました。日本では、上の記事にも指摘があるように、世界では、一国の中央銀行には、雇用に関する責任があるというのが、常識なのに日本銀行は、雇用調整に関する責任があるということがあまりに認識されていません。
バーナンキ議長 |
かくういう私も、10年くらい前までは、日銀が雇用調整の元締めであるという認識はあまりありませんでした。日銀が金融緩和をすれば、雇用状況が良くなるくらいの認識はありましたが、中央銀行が雇用枠調整の元締めであるという世界の常識を認識するまでにはいたっていませんでした。
ポール・クルーグマン氏 |
ちなみに、雇用調整における日銀の大きな役割については、以前このブログにも掲載しましたので、ここでは私の考えを詳細に述べるようなことはしません。当該ブログをご覧になってください。
若者雇用戦略のウソ―【私の論評】雇用と中央銀行の金融政策の間には密接な関係があることを知らない日本人?!
中央銀行に相当するアメリカのFRBの議長、ベン・バーナンキはヒーローなのかもしれません。バーナンキは1929年のアメリカ発の世界大恐慌、1990年代の日本のバブル崩壊を研究していました。そうして、そのせいもあってか、2007年にアメリカで発生した金融危機を防ぐことはできませんでしたが、比較的に早いペースでアメリカは不況の底から脱出することができました。
バーナンキはバブル崩壊後の2003年に日本の政策当局に対して日本経済再生のために提言を行っていました。それは金融緩和政策と財政出動のパッケージでした。
「日本の政府と中央銀行は協力し、日銀が新発国債を引き受け、政府は財政出動するべきだ」
この時、バーナンキは「日銀はケチャップでも大量に買うべきだ。そうすればインフレ率が上昇し、デフレから抜け出せる」とも言っていました。この発言は、日本の金融政策を揶揄しているようにも受け取れますが、この発言はまさに、正鵠を射ていました。煎じ詰めれば、デフレから脱却するためにはインフレ傾向にすればいいだけの話です。そうすれば日本の潜在産出量に見合う需要が増加し、日本は再生したはずです。実際、2000年台のはじめの頃は、政府はあいかわらず、緊縮財政を続けていましたが、日銀はいっとき金融緩和を行いました。
このとき、世の中を騒がせたのは、あのライブドア事件の堀江であり、村上ファンドなどです。現在のような、デフレスパイラルにどっぷりと浸っているの世の中では、あのような事件がおこるような余地さえ全くありません。この金融緩和を2008年くらいまで、継続していれば、日本は、デフレから脱出できていたかもしれません。
しかし、日本は結局バーナンキの提言を受け入れませんでした。日銀は、すぐに金融緩和をやめてしまい、そこから先は、何かといえば、金融引締めに走り、デフレ・円高の守護神になってしまいました。そうして、政府も、自民党末期政権の麻生政権は、積極財政を行いましたが、それ以外は、現民主党政権も含め、緊縮財政ばかりです。そうして、次のような声が日本国内で大勢を占めるようになりました。
村上世彰 |
「日銀が国債を直接引き受ければ、ハイパー・インフレになる!」
このような愚かなマスコミや増税しか頭にない財務省、無責任な日銀にはバーナンキの提言は到底受け入れることができるようなものではなかったのです。そんな事をすれば、日本がデフレから早期脱却し、真実が公になり、マスコミは信用を失い財務省は増税する根拠を失い、日銀は責任を追及されることになったことでしょう。
ところで、バーナンキはアメリカでバブル崩壊した時に、日本に対して提言したことと同じ事を実行しました。とは言っても無論ケチャップはさすがに買ってはいません。
金融危機直後、バーナンキはすぐに政策金利をゼロ付近まで低下させゼロ金利政策を導入し、さらにアメリカ政府もFRBの行動に同調し、財政出動を行いました。これが功を奏し、アメリカ経済は不況の底から脱出できました。リーマン・ショックのときには、米国はもとより、主だった先進国が、大規模な増刷を行いマネタリーベース(貨幣の流通量)を増加させました。その時、日本だけは、増刷しませんでした。そのため、発信源だったアメリカはもとより、他国もこのショックから立ち直るのが早かったのに、日本だけが回復に手間取り一人負けの状況に陥りました。
しかし、バーナンキはアメリカを救いましたが、大きな過ちを犯した可能性もあります。それは彼の指導のもとFRBが信用緩和(実質的な量的緩和)でアメリカの金融機関が大量保有するCDOやMBSなどの不良債権を買い取ったことです。不良債権とは劣化した資産のことです。通常、中央銀行は量的緩和を実施する場合は長期国債などの価格が変動しにくい超優良資産を買い取ります。しかし、バーナンキは金融危機の根本的問題である不良債権を金融機関から買い取ることで金融機関のバランスシートを正常化しました。
金融機関が不良債権に苦しめられるのはその価格の下落によりバランスシートが劣化するためです。だからそれをFRB買い取れば、FRBのバランスシートが劣化する可能性をもつことを意味します。これは中央銀行による銀行の救済になります。しかし、普通は銀行救済の役割は政府が負うべき筋合いのものです。
なぜなら政府は税金を投入することで銀行を救済できるからです。その税金は銀行の倒産を防ぎ、銀行員の生活を守ることにつながるでしょう。もちろん政府が買い取った不良債権がさらに劣化すれば、国民は不満を持つでしょうがこれは、さほど問題ではありません。しかし、中央銀行が銀行を救済する際には税金は投入されません。
中央銀行には徴税権がないですから当然といえば、当然です。ではどのように中央銀行は不良債券を買い取るのかというと、金を無から作り出すのです。中央銀行は通貨を印刷できる唯一の存在です。危機の際に通貨を刷っても問題はありません。しかし、危機が過ぎれば問題になる可能性があります。
中央銀行が量的緩和を行う時に安全な長期国債を買うのは将来インフレが発生した際にインフレを抑止するために国債を銀行に買い取らせ資金を吸収するためです。しかし、安全な長期国債とは違い不良債権なら価格が下落し、最悪無価値になる可能性がります。
そうなれば将来インフレが発生した際に中央銀行は不良債権を買い取った分の資金を吸収できなくなり、インフレを抑えることが難しくなります。その時はインフレを抑えるためには政府が増税する以外に手段はなくなります。増税は金融引き締めとは違い、直接国民に負担となる。バーナンキはそのような状況が起こる可能性を生み出したということです。
しかし、仮にそれが過ちだとしても当時の状況を考えれば、仕方のなかったことかもしれません。危機が起きた時、早く動かなければ更に悪化するだけです。日本政府と日銀がやれなかったことをFRBとアメリカ政府はやってのけたのです。
しかし、アメリカ経済の現状は良くありません。ただし、今のところ、アメリカ政府は何とか1929年の大恐慌のような事態を避けることはできました。現在、オバマ政権は野党の反発を受けて財政赤字の削減に取り掛かっています。つまり緊縮財政を目指しているということです。
世界恐慌を世界で一番先にリフレ政策でのりきった高橋是清 |
1997年、日本の橋本政権は大量の財政赤字が存在していた為にマスコミから批判を浴び、消費税増税(3%→5%)などの緊縮財政に走り、回復途上にあった日本経済は不況に再突入し、その結果、増税前の税収を超えたことは一度もなく、現在もデフレ不況から抜け出せていません。
歴史は繰り返すと言いますが、その時はアメリカ経済はその衝撃に耐えられるのでしょうか?日本経済はその衝撃に耐えられるのでしょうか?世界はその衝撃に耐えられるのでしょうか?
その答えは実は、日本自身が握っています。今では、日本人自身だけが、日本の経済力の素晴らしい実力を理解していないようです。多くの人が、日本はこれから、沈没していくだけだと信じて疑っていないようです。2007年に崩壊した世界経済を再生できるのはアメリカでもなければ、中国でもありません。それは日本です。少なくとも、多くの日本人が、金融政策の重要性を理解し、実行ある金融政策を打ち出すことができるようになれば、間違いなくそうなります。兵国や、特に中国など、日本のデフレ・円高政策によって、長期にわたりメリットを享受してきた国々も、そろそろ限界に近づき米国オバマ大統領は、かつて日本が歩んだような不況時における緊縮財政をしようとしています。
中国に至っては、このメリットが当たり前になり、依存体質がますます深化して、身動きが取れない状況に陥りつつあります。最近になって、おから工事による、新しい道路の大陥没、新しい橋の崩落が始まったり、裸官(家族を海外に住まわせ、不正蓄財した資産を海外に移した官僚)がますます増え、さらに、裸官の海外逃亡もかなり増えています。とても今のままではすまない状況にあります。米国、中国も、目の前の利益を追求するだけではなく、世界同時不況となり、その中で日本も同じようにデフレスパイラルに陥ったままであれば、それこそ、大昔の金融恐慌と同じようなことになってしまうことを認識すべきです。
世界恐慌(日本では昭和恐慌)のときには、日本はリフレ策によって、世界で一番速く立ち直りました、しかし、当時の日本は軍事大国ではありましたが、経済大国ではなく、経済的にはとるにたらない存在であり、日本一国が早急に立ち直ったからといって、貧しい国であることには変わりなく、世界的にみれば、これが世界経済に及ぼしたのは、微々たるものでした。しかし、今日では違います。日本が、デフレを終わらせたら、それだけで、また、世界第二の経済大国となることでしょう。さらに、まともな金融政策を継続でき、さらに財政政策もまともになれば、さらに経済を拡大でる余地が十分にあります。事実、日本が、デフレ政策をやっている間にそうではなかった、多くの国々が、GDPを大幅に伸ばしましたし、賃金も2倍(インフレのため、それを考慮しても、1.5倍)になっています。日本だけが、ほぼ20年近く何も変わりませんでした。
とにかく、日本においては、財政政策も無論重要ですが、それとともに、金融政策も重要です。というより、今の日本人は、金融政策をないがしろにしすぎています。日銀がそうであるだけではなく、多くの人達が、金融政策が重要であることの認識がないようです。認識がないので、日銀を責めることもしません。もし、自民党が、金融政策の重要性を認識していたら、今でも、政権を担っていたかもしれません。また、民主党もその重要性を認識していたら、もっとまともな、政策運営ができたかもしれません。財政政策のみではその効果も実効性のなくなるどころか、デフレ・円高堅持による金融政策に打ち消されてしまうだけです。
日本が金融政策の重要性を理解すれば、世界は救われると思うのは私だけでしょうか?!そうして、その可能性は十分あります。過去において、日銀が、金融緩和をしていた時期には、世界の経済が同時に下降しているときか、まさにさの傾向の最中にあるときでした。歴史は繰り返されます。その時が間近に迫っています!!目覚めよ、日本人!!
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