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2020年6月15日月曜日

コロナで中国との蜜月、EU分断を招くイタリア— 【私の論評】イタリアが中国の傘下に入ることはないが、EU離脱可能性は捨てきれない!(◎_◎;)

岡崎研究所

 イタリアはEUの大国中、唯一中国の「一帯一路」の正式の署名国となり、中国からの投資を積極的に受け入れるなど、中国との関係を急速に深めている。問題はそれがイタリアのEU離れをもたらしていることである。


 これまでイタリアは、EU、特にドイツやオランダの北の諸国に批判的に見られてきた。2019年のイタリアの通貨危機に際し、ドイツやオランダはイタリアを財政支援することはイタリアの放漫財政のつけを勤勉な国が払うことになるとして反対した。そのことが、イタリアが中国との関係を緊密化する一方で、イタリアのEU離れの傾向を強めている1つの要因になっている。

 武漢発の新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大は、イタリアでEUで最初の爆発的増加をもたらした。それが中国離れをもたらすかと言えば、結果は逆であった。中国からもたらされた感染拡大でイタリアが困り、マスクや医療機器の不足への支援をEU諸国に求めると、支援の手を差し伸べたのは、フランスでもドイツでもなく、中国であった。感染拡大の時間のずれが、中国にそれを可能にさせた。

 5月24日付の英フィナンシャル・タイムス紙では、ウォルフガング・ミュンチャウ同紙副編集長が、イタリアの中国との関係緊密化で、EUの団結が次第に失われていると述べている。その中で紹介された世論調査の結果が興味深いので、以下に紹介する。

 イタリアの世論調査では、中国が最も友好的な国として挙げられ、ドイツが最も友好的でない国とのことであった。また、別の世論調査では、イタリア国民の中で、EU残留を望む者が44%、離脱を望む者が42%とのことである。EU残留を望む者のほうが若干多いが、2年前の同じ調査では、EU残留を望む者が65%、EU離脱を望む者が26%であったということなので、ほんの2年余りでイタリア世論は急速に離脱の方向に傾いていることになる。上記論説では、これらの数字は極めて警戒すべきものであると言っているが、EUの団結という見地からは当然の感想だろう。

 イタリアは、今回の新型コロナウィルスのパンデミックで甚大は被害を被った。6月6日現在のジョンズ・ホプキンス大学の統計によると、感染者数は、世界第7位で、23万4531人、死亡者数では世界第4位の3万3742人である。EU内では、感染者数ではスペインに次いで2位、死者数では1位である。もちろん、経済の損失も極めて大きかった。

 EUは域内のパンデミック被害対策の1つとして、EU共通の「コロナ債」の発行を検討したが、ドイツとオランダが拒否し、イタリアのコンテ首相は「この未曽有の困難に立ち向かえないなら、欧州という建物全体が存在理由を失う」と、強い不満を述べたと報じられた。

 その後、メルケル独首相とマクロン仏大統領が5000億ユーロの欧州コロナ復興基金を設立することで合意した。これはドイツが従来の立場をやわらげ、大きく譲歩したことを意味する。EUはこれでイタリアのEU懐疑に歯止めがかかることを期待しているようだが、上記フィナンシャル・タイムズ紙の論説は、イタリア支援としては不十分であると述べている。ドイツの思い切った方針転換も、イタリアから見れば‘too little, too late’ということか。

 イタリアの中国傾斜、EUに対する懐疑的な見方は今後とも続くと見てよい。イタリアが正式に EUから離脱することは考えられないが、EUの団結にひびが入るのは避けられないものと見られる。

【私の論評】イタリアが中国の傘下に入ることはないが、EU離脱可能性は捨てきれない!(◎_◎;)

上の記事を読んでいると、イタリアは経済的に追い詰められ、EU諸国の助けの手もなく、中国に飲み込まれそうな状況とも見えますが、現実的はそうとばかりとは言えないようです。あれだけの被害を被り、それが中国コロナの初期対応が間違っていたことが原因なのですから、当然と言えば当然でしょう。




「中国政府の新型コロナウイルスの隠蔽工作は全人類に対する犯罪だ」  

現在欧州ではイタリアの有力政治家によるこんな激しい糾弾の言葉が、欧米メディアで繰り返し報じられるようになっています。

中国の習近平政権が当初、新型コロナウイルスの感染拡大を隠し、感染の状況などについて虚偽の情報を流していたことに対しては米国でも多方面から非難が浴びせられています。

しかし「全人類への犯罪」という激しい表現はなかなか見当たらないです。なぜこれほど厳しく中国を糾弾しているのでしょうか。

この言葉を発したのは、イタリアの前副首相で右派有力政党「同盟」の党首(書記長)、マッテオ・サルビーニ氏です。サルビーニ氏はイタリア議会などで次のように発言しました。

「もし中国政府がコロナウイルスの感染について早くから知っていて、あえてそのことを公に知らせなかったとすれば、全人類に対する罪を犯したことになる」

「もし」という条件をつけてはいますが、中国政府がコロナウイルスの武漢での拡散を隠したことは周知の事実です。つまりサルビーニ氏は「全人類に対する罪を犯した」として明確に中国を攻撃しているのです。

4月から5月にかけ、サルビーニ氏は数回、同じ趣旨の中国非難を繰り返しました。議会で次のように述べたことも報道されています。

「中国は新型コロナウイルスのパンデミックを隠蔽することによって全人類への罪を犯した」

 サルビーニ氏は47歳のイタリア議会上院議員で、現在イタリア政界で最も注目を集める政治家の1人です。欧州議会議員を3期務めたあと、右派政党「同盟」を率いて2018年の総選挙で第三党となり、連立政権の副首相兼内相に就任しました。2019年9月には内閣を離れましたが、その後も活発な政治活動を展開してきました。

ジュセッペ・コンテ首相が率いる連立政権は中国への接近策をとってきましたが、サルビーニ氏は中国への接近を一貫して批判してきました。イタリアが中国の「一帯一路」構想に参加して、中国から技術者や学生、移民などを多数受け入れてきたことに対しても、サルビーニ氏の「同盟」は批判的でした。

新型コロナウイルスがイタリアで爆発的に感染拡大する直前の1月下旬、中国に帰って「春節」を過ごしたイタリア在住の中国人がイタリアに戻ってきました。「同盟」は、イタリアでの感染拡大を防ぐ水際対策として彼らの検査を行い、隔離することを提案しました。だがイタリア政府はその種の規制を一切行いませんでした。

その後、イタリアで悲劇的な感染爆発が起こり、全国民の封鎖状態が長く続きました。6月頭時点で、感染者は累計23万3000人を超えて世界第9位、死者は3万3000人を超え、世界第3位を記録しています。

だからこそ、元々、中国への接近に批判的だったサルビーニ氏が激しい言葉で中国政府を糾弾するのはもっともだと言えます。しかしそれでも中国政府に浴びせる「全人類への犯罪」という表現は過激です。


マッテオ・サルビーニ氏

米国や欧州の主要メディアは サルビーニ氏の発言を「中国への激しい怒り」の実例として報道するようにな離ました。米国の有力新聞ワシントン・ポストは、4月中旬の「中国に対して怒っているのはトランプ大統領だけではない」という見出しの記事で、サルビーニ発言を詳しく紹介していました。ヨーロッパでも、イタリアのメディアに加えてイギリスやフランスの新聞、テレビなどがその発言を伝えています。

ヨーロッパ諸国のなかでこれまで中国に対して最も友好的な政策をとってきたイタリアでこうした激しい中国糾弾の言葉が発せられ、広く報じられるという現実は、今後の国際社会で中国が置かれる厳しい状況を予測させるともいえそうです。

コンテ首相は、ユーロ圏の救済基金、欧州安定化メカニズム(ESM)に連動する最大360億ユーロ(約4兆3400億円)の信用枠提供を7月末までに申請する可能性があります。同国紙レプブリカが、情報源を明らかにせずに報じました。

同紙によれば、連立パートナーである反エスタブリッシュメント(既存勢力)政党「五つ星運動」は欧州連合(EU)の復興基金利用に反対していましたが、同党のディマイオ外相からコンテ首相は予備的な承認を得ました。イタリアは、スペインとポルトガルを含む他のEU加盟国と共にESM融資の申請を目指しているといいます。

グアルティエーリ経済財務相は13日遅くにイタリアの公共放送RAI3テレビとのインタビューで、ESM信用枠に関する決定前にまず、復興基金を巡る協議がまとまることをイタリア政府は望むと語りました。

EUの行政執行機関である欧州委員会は先月、実質的な復興基金となる総額7500億ユーロの経済再建策を提案。欧州委のフォンデアライエン委員長は、コンテ首相がローマで主催した非公開のフォーラムに寄せたビデオメッセージで、「次世代EUプラン」は「イタリアの絶好のチャンス」だと述べ、構造改革加速のために復興プランの活用を強く求めました。

欧州委のジェンティローニ委員(経済担当)も、反景気循環的なリセッション(景気後退)回避が支出プランの目的だとしながらも、 2兆4300億ユーロのイタリア債務を「確かな減少軌道」に最終的に乗せるはずだと主張しました。

イタリアでは昨年、ユーロに次ぐ事実上の「第2の通貨」を発行する構想が浮上していました。財政難にあえぐ伊政府が少額債券を発行し、民間企業への未払い金や市民への税還付などにあてる案です。

市中で流通すれば事実上の通貨とみなされ、欧州連合(EU)のルールに反する可能性が高いです。イタリアが財政ルールを逸脱しているとして制裁を検討中のEUはユーロの信頼を傷つけかねない事態に懸念を強めていました。

この構想はコンテ政権を支える極右「同盟」の発案で「ミニBOT」と呼ばれます。伊政府が発行する短期財務証券「BOT」のミニチュア版のイメージです。構想段階のため詳細は不明でしたが、欧州紙によると、満期はなく利子はないとしていました。1~500ユーロの少額債券を発行し、企業や市民に流通した後は納税や決済にも使えるとされ、通貨に近いです。

この案が浮上した背景には伊財政の悪化がありました。政府と取引のある伊企業には政府からの支払いが滞っているとの不満がたまっていました。同盟を率いるサルビーニ副首相は昨年6月18日「民間企業に支払う手段がほかにあれば検討するが、なければこの計画を推進する」と語りました。

しかし紙幣の形で発行すれば通貨とみなされるため、ユーロ採用国に他の通貨の発行を禁じるEU規定に違反します。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁はミニBOTが事実上の通貨であることから違法との認識を示していました。

ECBが発行するユーロと伊政府が発行するミニBOTの2種類の通貨が市中に出回るとどうなるでしょうか。企業や市民は信用力の高い通貨を持とうと銀行からユーロを引き出します。信用力の低いミニBOTは受け取りを拒否されるか、割引された価格で流通することになるでしょう。ユーロ不足が国全体に広がり、政府もユーロ建ての債券を償還できずに債務不履行に陥ることになります。この結果「将来のユーロ離脱につながる」(欧州系金融関係者)と懸念されていました。




伊政府内からは「新たな債務になる」(トリア経済・財務相)、「政府で議論していない」(コンテ首相)と異論が出ています。ミニBOTの発行には法整備などが必要で、すぐに実現するとの見方は多くないです。ただコンテ政権を支える与党の同盟に加え、左派「五つ星運動」はEU懐疑派であることから、将来的に実現しかねないと危惧する見方も増えつつあります。

EUルールを尊重しない伊政権の姿勢にEU側は疑念を募らせました。ただでさえイタリアの財政状況は深刻です。公的債務は国内総生産(GDP)比で132%で基準の60%を大きく上回ります。EUの欧州委員会は昨年6月5日、EU財政ルールに基づく制裁手続き入りが「正当化される」との報告書を公表。EU各国は7月に制裁手続きに入るかどうか判断することになっていました。

EU側はユーロ圏3位の大国との対立激化は望んでいません。EUで財政を担うモスコビシ欧州委員は「対話を続けたい」と述べ、伊政権の歩み寄りがあれば、制裁手続き入りは回避できるとの考えを示しました。ところが、政権内で力を持つサルビーニ氏の態度が軟化する兆しはみえませんでした。

結局ミニBOT関する議論は、昨年の夏以降は下火になっています。EUはこれに、断固として反対しています。もちろんトリア財務大臣、首相、共に政権を担う5つ星運動、そしてPDー民主党など野党からも反対の声が上がっています。

この政策を、強引に推し進めようとした姿勢から、谷原『同盟』は、ブレグジットの行方が定まらないまま、デリケートな空気が流れるEUを揺さぶりたいのか、あるいは本当に離脱を計画しているのかもしれません。

ただ、イタリアの中国傾斜は、一定の歯止めがかかり、中国に対する懐疑的な見方が拡大し、EUに対する懐疑的な見方は今後とも続くと見て良いでしょう。イタリアが正式に EUから離脱し、中国の傘下に入ることはなかなか考えられないですが、EUの団結にひびが入るのは避けられないものと見られる。

EUが中国に対抗して、イタリアなどをまともに救う手立てを講じれば、イタリアはEUにとどまり続けるでしょうが、そうでなければ、イタリアがEUを離脱する可能性は捨て切れないでしょう。

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