安達 誠司
8月14日に発表された2017年4-6月期のGDP速報値では、実質GDPの季節調整済前期比(年率換算)が+4.0%と、大きく上振れた。7月10日のESPフォーキャスト調査でのコンセンサスが同1.9%だったので、エコノミストの予想をはるかに上回る結果であった。
この「4%成長」の内訳を「寄与度」が高い順にみると、1)民間消費が+2%(伸び率は+3.7%)、2)民間設備投資が+1.5%(伸び率は+9.9%)、3)政府部門(公的資本形成(公共投資)と政府消費の合計)が+1.3%(両方の合計値の伸び率は+5%、公的資本形成だけでは+21.9%)、4)住宅投資と民間在庫変動がともに+0.2%(住宅投資の伸び率は+6.0%)であった。
最近の日本経済は輸出主導で回復しているという印象が強かったが、純輸出の寄与度は-1.1%で、輸出の寄与度が-0.3%(伸び率は-1.9%)、輸入の寄与度が-0.8%(伸び率は+5.6%)であった。
数字上は、輸入の増加は成長率の足を引っ張る方向に作用したことになる(GDP統計上はマイナス項目となる)が、これは、内需が堅調に推移していることの裏返しであるので、むしろ良いことかもしれない。
また、輸出は、2017年1-3月期までは3四半期連続で極めて高い成長を実現していたので、一時的な反動減は仕方ないと思われる(2016年7-9月期、同10-12月期、2017年1-3月期の前期比年率換算の伸び率はそれぞれ、8.8%、13.2%、8.0%)。
このように、今回(4-6月期)は、純輸出を除けば、ほぼ全ての項目で成長が加速するという「出来すぎ」に近い結果であった。
この「前期比年率換算」の数字は、「ヘッドライン」といわれ、メディア等がこぞってニュースとして流すものだが、あくまでも「瞬間風速」という意味合いが強い。そこで、以下、GDPの数字をもう少し長い視点からみてみよう。
デフレ脱却への「再チャレンジ」
ところで、今回のGDP統計で、非常に「ポジティブ」であったのは、民間設備投資の増加であったと考える。
設備投資動向の見方は色々あるが、設備投資サイクルを見る場合に用いる「投資率(GDP全体に占める民間設備投資のシェア)」をみると(図表1)、実質ベースでは16.0%、名目ベースでは15.9%で、1994年以降のピークにほぼ近い数字となった。
この投資率は、2016年半ば以降、急上昇しているが、設備投資自体の伸び率も勘案すると、今年に入ってから加速していると思われる。2017年4-6月期の内訳はまだ不明だが、1-3月期では、製造業よりもむしろ、サービス業を中心とした非製造業の設備投資拡大が顕著であった。
世間的には、企業による賃上げがデフレ脱却の鍵だと考えるむきがある。実際の安倍政権も企業や業界団体に賃上げを強く求めている。その効果もあり、賃金も上昇傾向にあるのは事実だが、資本主義社会の中で、民間企業が、自社の収益環境を無視してまで賃上げを行うとは考えにくい。そして、現局面で、政府が賃上げを民間企業に強制するのは、逆に企業を雇用を削減する方向に誘導しかねないので、経済政策としても自殺行為に近い。
また、かつては、景気回復局面において、雇用と設備投資は同時並行的に改善してきたが、最近は、雇用環境だけが一方的に加速度的に改善していた。企業にとっては、雇用も設備投資も同じ投資であると思われるが、ここまでの日本経済の現状(極めて緩やかな回復)を考えると、賃上げでさらなる人員確保に走るよりも、そろそろ、出遅れていた設備投資に目を向ける局面に入ってきたのではないかと考える。
図表1をみると、この4-6月期の投資率はちょうど2000年、及び2006年頃の水準に近いことがわかる。この過去のピークの局面では、いずれも、まだデフレ脱却が道半ば(当時は、「かなりいいところ」までは来ていたと思われるが)金融政策が引き締め方向に転換し、せっかく始まっていたデフレ脱却への歩みを頓挫させた。
その意味では、現局面は、過去、何度か失敗したデフレ脱却に向けて、ようやく「再チャレンジ」の入り口に立ったという認識を持つべきではなかろうか。
消費税率引き上げの前に
次に、問題の個人消費の状況である。1994年以降の個人消費(ここでは家計最終消費支出)は、4つの局面に分類できる(図表2)。
すなわち、①1997年4月の消費税率引き上げ前まで、②1997年4月の消費税率引き上げからリーマンショック直前(2008年4-6月期)まで、③リーマンショック直後から2014年4月の消費税率引き上げ前まで、④2014年4月の消費税率引き上げ以降、の4つの局面である。
世間的には、企業による賃上げがデフレ脱却の鍵だと考えるむきがある。実際の安倍政権も企業や業界団体に賃上げを強く求めている。その効果もあり、賃金も上昇傾向にあるのは事実だが、資本主義社会の中で、民間企業が、自社の収益環境を無視してまで賃上げを行うとは考えにくい。そして、現局面で、政府が賃上げを民間企業に強制するのは、逆に企業を雇用を削減する方向に誘導しかねないので、経済政策としても自殺行為に近い。
また、かつては、景気回復局面において、雇用と設備投資は同時並行的に改善してきたが、最近は、雇用環境だけが一方的に加速度的に改善していた。企業にとっては、雇用も設備投資も同じ投資であると思われるが、ここまでの日本経済の現状(極めて緩やかな回復)を考えると、賃上げでさらなる人員確保に走るよりも、そろそろ、出遅れていた設備投資に目を向ける局面に入ってきたのではないかと考える。
図表1をみると、この4-6月期の投資率はちょうど2000年、及び2006年頃の水準に近いことがわかる。この過去のピークの局面では、いずれも、まだデフレ脱却が道半ば(当時は、「かなりいいところ」までは来ていたと思われるが)金融政策が引き締め方向に転換し、せっかく始まっていたデフレ脱却への歩みを頓挫させた。
その意味では、現局面は、過去、何度か失敗したデフレ脱却に向けて、ようやく「再チャレンジ」の入り口に立ったという認識を持つべきではなかろうか。
消費税率引き上げの前に
次に、問題の個人消費の状況である。1994年以降の個人消費(ここでは家計最終消費支出)は、4つの局面に分類できる(図表2)。
すなわち、①1997年4月の消費税率引き上げ前まで、②1997年4月の消費税率引き上げからリーマンショック直前(2008年4-6月期)まで、③リーマンショック直後から2014年4月の消費税率引き上げ前まで、④2014年4月の消費税率引き上げ以降、の4つの局面である。
ここで注目すべきは、③のリーマンショックの影響を除く3つの局面をみると、消費税率の引き上げをきっかけに個人消費のトレンドが鈍化している点である。
ここでの個人消費のトレンドは、その期間における消費の平均的な伸び率を示しているので、1994年以降のデフレ環境の下では、消費税率引き上げは、個人消費を一時的ではなく、中長期的に減速させてきたことがわかる。
今回の個人消費の拡大は2014年4月以降の消費のトレンドから若干上振れてはいるものの、トレンド自体を上方シフトさせるか否かはまだ定かではない。また、消費の内訳をみると、「非耐久消費財」だけがこの4-6月期に急に上振れたことが消費拡大につながっており、一時的である可能性がある。
経済政策面では、2019年10月の消費税率引き上げの是非が重要な論点になっているが、今回の消費拡大をもって、消費税率引き上げの条件が整いつつあると判断するのはあまりにも拙速過ぎるのではなかろうか。
デフレ脱却の道半ばでの消費税率引き上げは、さらに消費のトレンドを下方屈折させるリスクがある。もし、どうしても次の消費税率引き上げを実行したいのであれば、この2年でデフレから完全脱却させるような強力なリフレ政策をとるべきであろう。
賃金は着実に上昇している
さらにもう一つの重要な論点は、賃金動向である。
GDP統計では、「雇用者報酬」という統計が発表されている。他の賃金データ、例えば、厚生労働省が毎月発表している「毎月勤労統計」や総務省が発表している「家計調査」の所得データは、労働者1人当り、及び1世帯当りの数字だが、「雇用者報酬」は、国内全体で支払われた賃金の合計を示すものといえる。
この「雇用者報酬」の推移を示したのが図表3である。
「雇用者報酬」でみると、日本全体の賃金はメディアが作り上げたイメージに反して、意外と上昇している。「アベノミクスでは賃金の上昇が不十分」という話が日々のニュース等ではまことしやかに流れているが、「雇用者報酬」は、名目ベースでも、2006年の水準を超えているし、実質ベースでも着実に伸びている。
さらにいえば、雇用拡大のペースが加速している点、1人当りの賃金の上昇率が緩やかである点、を鑑みれば、「雇用者報酬」の拡大は、ある一定階層の賃金だけが伸びている訳ではなく、雇用確保(もしくはパートタイマーの正社員化の動きなど)を通じて幅広い階層で所得が伸びていることを意味するのではなかろうか。
以上より、現状の日本経済は、デフレ克服へ「再チャレンジ」する素地が整ってきた段階であると考える。
この先、安倍政権がやるべきことは、ここまでのデフレ解消プロセス(特に雇用回復による一般国民の生活レベルの改善)を内心苦々しく思っているデフレ局面で既得権益を享受してきた階層に妥協することではなく、デフレの完全克服に向けて、財政金融両面でリフレーション政策を再加速することではないかと考えるが、支持率低下に苦慮している政権はどう出るのだろうか。
さらにいえば、雇用拡大のペースが加速している点、1人当りの賃金の上昇率が緩やかである点、を鑑みれば、「雇用者報酬」の拡大は、ある一定階層の賃金だけが伸びている訳ではなく、雇用確保(もしくはパートタイマーの正社員化の動きなど)を通じて幅広い階層で所得が伸びていることを意味するのではなかろうか。
以上より、現状の日本経済は、デフレ克服へ「再チャレンジ」する素地が整ってきた段階であると考える。
この先、安倍政権がやるべきことは、ここまでのデフレ解消プロセス(特に雇用回復による一般国民の生活レベルの改善)を内心苦々しく思っているデフレ局面で既得権益を享受してきた階層に妥協することではなく、デフレの完全克服に向けて、財政金融両面でリフレーション政策を再加速することではないかと考えるが、支持率低下に苦慮している政権はどう出るのだろうか。
【私の論評】恥知らずの債券村住人の利己主義は排除せよ(゚д゚)!
ブログ冒頭の記事の最後のほうで、「デフレ局面で既得権益を享受してきた階層」のうちその最たるものは何かといえば、それは俗に言う「債券村」の人々です。債券村とは、証券会社などの金融機関で債券を扱う人々の集まりです。そうして、これらの人たちは金融機関の中でも少数派なので「債券村」と言われているのです。
債券を購入すると、定期的に利率分の利子を受け取ることができます。そして、満期日を迎えると、額面金額である償還金を受け取ることができます。
このように債券は、満期日に額面金額が返金されることが約束されていますので、安全性の高い金融商品です。よって利子収入を目的に資産運用をすることができます。
また2年~10年といったようにあらかじめ決めれた満期日までまつことなく、マーケットで売買することも可能です。マーケットにおける債券の価格は、日々変動しています。途中売却することにより、利子収入以外に、購入価格と償還金との差額金を得ることができることもあります。
債券には、さまざまな種類があります。国が発行する国債、地方自治体が発行する地方債、企業が発行する社債、社債を株式に転換できる権利がついているCB、外国の自治体もしくは、外国の通貨、海外の市場のいずれかで発行する外国債券などがあります。債券は、証券会社を通じて購入することができます。
金融機関では、かなり長引いたデフレで本業の貸出が思うように伸びない中、債券部門が金利低下を背景に収益を支えてきました。債券関係者はデフレ下では自分たちの存在価値があったのですが、デフレを脱却すれば本業の貸出部門が盛り返してくることになります。
債券関係者は、その焦りが出て、乱高下や先行き不安を唱えるますが、それはまさしく経済が良い方向に向かっている証しでもあるのです。
デフレでは債券部門が優勢であったのですが、脱デフレでは主役交代になり、金融機関全体としてみれば収益は上がります。しかも、経済全体でみればいい方向なので、国民全体にとっては良いことです。
現状の債券村の人の意見は本当にずれています。ブログ冒頭の記事のように日本はデフレ脱却まで「もうひと押し」のところまで来ているのは事実です、しかしインフレ目標2%もまだなのに、出口戦略がどうのこうのというようなことを口にします。これでは、デフレから脱却しきっていないうちに、金融引締めをせよといっているようなものです。
全く呆れてしまいます。債券村は、デフレで深刻だった時代に稼ぎ頭だった夢が捨てられないのです。債券村ははっきりいえば、ブラック部門なのです。彼らは、デフレでしか生息できない哀れな人達なのです。
債券村の住人が扱う債券 |
しかし、これは典型的な「債券村」の内部の事情に関する話です。つまり、金融機関の債券部門の声をマスコミは拾っているだけなのです。
「債券村」の意見は、日本経済を代表するものではありません。「失われた20年」といわれるデフレ期間に、日本は世界でほぼ唯一、名目経済が伸びず、失業率が高止まりしてきました
この間、日本経済は最悪の状態でしたが、金融機関の債券部門は、金利が傾向的に低下する局面で労せずして債券売却益を享受してきました。このため、金融機関内で稼ぎ頭となって発言力を増し、社内ポジションは向上しました。「債券村」にとってはデフレ期こそ「黄金期」だったのです。
ところが、名目金利はほぼゼロになってしまいました。日銀は国債を購入することで量的緩和を行い、名目金利はゼロのままであるのですが、インフレ予測を高めることで実質金利をマイナスにしています。
デフレが継続していれば、名目金利はゼロのままで、いわゆる「流動性の罠」状態となります。日銀の量的緩和は、実質金利をマイナスにすることに意味があるのですが、「債券村」の住民は名目金利にしか注目せず、ゼロ金利になっているのは日銀のせいだと思っているようです。
「債券村」の意見は、日本経済を代表するものではありません。「失われた20年」といわれるデフレ期間に、日本は世界でほぼ唯一、名目経済が伸びず、失業率が高止まりしてきました
この間、日本経済は最悪の状態でしたが、金融機関の債券部門は、金利が傾向的に低下する局面で労せずして債券売却益を享受してきました。このため、金融機関内で稼ぎ頭となって発言力を増し、社内ポジションは向上しました。「債券村」にとってはデフレ期こそ「黄金期」だったのです。
ところが、名目金利はほぼゼロになってしまいました。日銀は国債を購入することで量的緩和を行い、名目金利はゼロのままであるのですが、インフレ予測を高めることで実質金利をマイナスにしています。
デフレが継続していれば、名目金利はゼロのままで、いわゆる「流動性の罠」状態となります。日銀の量的緩和は、実質金利をマイナスにすることに意味があるのですが、「債券村」の住民は名目金利にしか注目せず、ゼロ金利になっているのは日銀のせいだと思っているようです。
確かに、日銀の国債購入で名目金利が抑えられたのですが、日銀が国債購入をしなくても流動性の罠状態では名目金利はゼロのままです。ところが、市場に流通する債券の「玉」が少なく、商売あがったりの「債券村」は日銀に八つ当たりするのです。
デフレからの本格的な脱却は生半可な努力ではできません。その意味で、名目ゼロ金利は当分の間、継続するでしょう。世間が失業率の低下により、新卒者を中心として雇用環境が改善されているにもかかわらず、その間、「債券村」の住民は文句を言い続けるのでしょう。
デフレの失われた20年間、世間とは逆に利益を得てきたのですから、ここ数年彼らは日本経済のために我慢すべきではないでしょうか。ましてや、債券村の住人の理不尽な主張に屈して、デフレ脱却を断念するようなことがあってはならないです。
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債券村の人は債券市場が崩壊した等と言いますが、それは彼らが投資で利益を得られなくなったというだけであり、国民生活には良い影響が出ていることを指摘させてもらいたいです。
債券村の住人はデフレを維持することで債権市場から利益を得続けることができるわけですが、経済政策は国民生活のためにあるものであり、一部の業界の利権を維持するためにあるのではありません。これを覆い隠すためにトンデモ論として有名な「デフレ人口減説」まで持ち出してくるとはまったく恥を知るべきでしょう。利己的であるにも程があります。
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