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2019年11月15日金曜日

ウイグル人学者へのサハロフ賞授与の意義―【私の論評】大陸中国は、民主化に成功したもう一つの中国台湾を参考にすべき(゚д゚)!


岡崎研究所

 10月24日、欧州議会は、今年の「サハロフ賞」の受賞者として、中国で無期懲役の判決を受け服役中のウイグル人経済学者で人権活動家のイリハム・トフティ氏を指名した。正式には、12月18日に、仏ストラスブールの欧州議会で受賞式が開催される。

ウイグル人経済学者で人権活動家のイリハム・トフティ氏

 「サハロフ賞」とは、旧ソ連(現ロシア)の反体制派の物理学者、サハロフ博士にちなみ、欧州議会が1988年に創設した賞である。自由や人権、民主主義の擁護のために尽くした人に贈られ、これまで、南アフリカのマンデラ元大統領やミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相らが受賞した。
 受賞者の発表に際し、サッソリ欧州議会議長は、声明を発出し、「中国におけるウイグル人の権利を擁護するために人生を捧げた」と、トフティ氏の活動を評価した。トフティ氏は、インターネット等を通じ、新疆ウイグル地区の現状を伝えたり、中国で大多数を占め共産党を支配する漢族と、少数民族ウイグルとの和解や融和を説いたりしていた。
 欧州議会は、サハロフ賞の受賞者の発表と同時に、中国政府に、トフティ氏を釈放するよう強く要請した。これに対して、中国共産党政府は、欧州議会が中国の内政事項に介入し、「国家分裂罪」の判決を受けた「犯罪者」に賞を与えたことを非難した。 
 今回のヨーロッパ議会のトフティ氏へのサハロフ賞授与は、歓迎されることである。中国のトフティ氏の処遇がこれで変わるとは思えないが、こういうことについては、間断なく、問題提起を続けていくことが望ましい。 
 中国は、ウイグルなどの人権問題は中国の国内問題であり、内政干渉は許さないという立場をとるが、戦後の国際政治においては、人権問題は国際的関心事項として確立している。南アフリカのアパルトヘイト政策は、国内問題であるとの主張は認められてこなかった。国連憲章は、国内事項に干渉してはならないとしているが、他方で、国連は人権理事会を作っている。これは、人権が国際関心事項として確立していることを示している。
 香港人の人権も、ウイグル人の人権も、チベット人の人権も、国内問題として片付けることはできないことを、中国は認めるべきである。中国は人権規約については、A規約は批准しているが、B規約は批准していないと承知する。だが、そのことと人権問題が国内事項とは言えないというのとは別の話である。 
 先般、習近平は、ネパールを訪問中に、分離主義者はその骨まで打ち砕くと恐ろしい脅しを発したが、トフティも分離主義者とされている。こういうことは問題にしていくべきであろうし、そうすることが中国をルールに基づく国際社会の一員にすることに資すると思われる。
【私の論評】大陸中国こそ、民主化に成功したもう一つの中国台湾を参考にすべき(゚д゚)!
サハロフ氏や、トフティ氏については、日本で知らない人もいると思いますので、本日はそれについて掲載しようと思います。

最初にサハロフ氏とは、冷戦下のソ連の社会主義下での共産党一党支配や人権抑圧を批判し、抵抗した知識人たちの一人です。

フルシチョフによるスターリン批判が始まり、「雪どけ」といわれる一定の言論の自由も認められる中で、知識人の政治的な発言も見られるようになったのですが、1964年にフルシチョフが失脚しブレジネフ政権になると再び政府を批判したり、社会主義の現実を問題視する言論は厳しく取り締まられることとなりました。

そのような言論の封殺に抵抗して、なお反体制知識人(異論派ともいう)は危険を冒して発言したり、地下出版(サミズダートという)で政府と体制に対する批判をつづけました。その代表的な人物が、原子物理学者のサハロフ博士、作家のソルジェニーツィンです。

アンドレイ・サハロフ氏

70年代のデタント時代には西側の文化も一部解禁されたため、人権問題や環境問題、国際平和に関する発言が出始めたのですが、80年代前半はソ連のブレジネフ政権と米国のレーガン政権との対決色が強まり、再び冷戦の緊張が戻って新冷戦という状況になりました。

一方で体制批判は厳しく取り締まられて国内監禁や国外追放などの弾圧が行われました。また反体制知識人の中には国外に亡命する人々も多くなりました。1980年代後半のゴルバチョフ政権のもとでグラスノスチペレストロイカが始まったことで自由な反体制発言が可能となり、多くの知識人が名誉を回復しました。

思想の自由のためのサハロフ賞(しそうのじゆうのためのサハロフしょう)とは、人権思想の自由を守るために献身的な活動をしてきた個人や団体をたたえる賞です。1988年12月に欧州議会が創設しました。

賞の名称はこのアンドレイ・サハロフに由来します。欧州議会の外交委員会と開発委員会が授賞候補者を選定し、毎年10月に受賞者を発表しています。2010年の時点では、副賞として50,000ユーロが贈呈されています。

初の受賞者となったのは南アフリカ共和国ネルソン・マンデラとロシア人のアナトリー・マルチェンコ英語版)でした。2011年には「アラブの春の活動家達」名義で、4カ国5名の活動家が受賞しました。サハロフ賞は個人のほかに団体にも授賞しており、1992年にはアルゼンチン5月広場の母たち英語版)に、最近では2009年にロシアの市民運動団体メモリアル英語版)が受賞しました。

サハロフ賞の授賞式は毎年12月10日に行われていますが、この日は国際連合総会で1948年に世界人権宣言が採択された日であり、世界人権デーに制定されています。

2013年、フランス・ストラスブールでのサハロフ賞授賞式。受賞者はマララ・ユスフザイ

では、今年の受賞者、トフティ氏とはどのような人なのか、以下に掲載します。

2014年に投獄される以前、トフティ氏は
中央民族大学(北京)の准教授教であり、ウイグル族と漢族との関係を扱った研究で知られる一方、新疆ウイグル自治区における中国政府の民族政策に対して厳しい批判を展開していました。

資源の豊富な同自治区にはチュルク系言語を話すウイグル族が長年にわたり居住していたのですが、過去数十年間で漢族が流入すると両者の関係は緊迫化。中国の治安部隊によるウイグル族への厳しい処遇やイスラム教の宗教行事の規制などが問題として浮上するようになりました。


                        新疆ウイグル自治区ホータンにあるショッピングモールの外で
                        警備に当たる武装警察部隊の隊員(2015年4月16日)
トフティ氏は、20年以上もの間、ウイグル族と漢族との対話と理解を促進してきました。分離主義や暴力を拒絶し、ウイグル文化の尊重を基礎とした和解を模索し続けてきました。「ウイグル・オンライン」が暴動を扇動したという疑いをかけられ、公安当局に現在も拘束されています。

トフティ氏のような穏健な声を排除することで、中国政府は自らが防ぎたいとする本物の過激主義の台頭に向けた基礎固めを行っているのが実情です。

サハロフ賞の授賞式の12月10日には、トフティ氏は授賞式に参加できないでしょう。誰か代理の人が受賞することになると考えられますが、それにしても、その異様な風景が世界に配信されることになります。劉暁波氏が、ノーベル賞受賞会場にいなかったのと同じです。

さて中国では、ウィグル人への弾圧も随分前から、問題となっていましたが、最近では香港への弾圧も過激になってきました。

しかし、万が一、共産主義中国が武力でデモ隊を鎮圧した場合には、天安門事件をはるかに上回る厄災が共産主義中国に降りかかることが予想されます。

歴史的経緯から、香港には英国のパスポートを持った人間が多数いますし、カナダ人、米国人も相当数滞在しています。彼らは白人であるとは限らない。ですむしろアジア系・東洋系の顔立ちの者が多いのではないかと推測されます。

総人口700万人のうち170万人、あるいは200万人といえば、香港の3~4人に1人は、デモに参加しているということですが、その中に二重国籍者も含めてアジア系英国人、カナダ人、米国人がどの程度含まれているのかは、見た目ではまったくわからないです。私はかなりの数が参加していると思います。

武力鎮圧の結果、それらの「外国人」に死者でも出ようものなら、それらの国々に宣戦布告をしたのも同然の困難状況に陥ることになるでしょう。

逆に、香港人たちの要求を飲めば、共産党の長老たちから習近平氏が「弱腰」と非難されるだけではなく、年間に少なくとも10万件は起こっているとされる共産主義中国各地の暴動を強権的に弾圧する大義名分も失われます。

中国がいくら豊かになっても民主化できないのは、共産主義が共産党のために存在し、民主化によってその利権を失うことを恐れているからですが、ロシアはウラジーミル・プーチン氏の独裁が続く中でも、一応普通選挙は行われています。

重要なのは、歴史的に「御恩と奉公=封建制度」という「契約に基づく社会を経験」しているかどうかということです。中国はそれを経験していません。1人が牛耳る絶対王制が基盤である社会に、いきなり民主主義を導入しても根付かないということです。

もうすぐ米国を追い抜くと驕り高ぶり、反対派を、汚職などを口実に次々と蹴落とし、アドルフ・ヒトラーを超える大虐殺者である毛沢東(大躍進と文化大革命での人為的飢饉も含む死者は、西側推計で約8000万人)政治の復活を目指してきた習近平氏は、党内に敵が多いです。

トランプ氏の仕掛けた「貿易戦争」で経済面でも大打撃を受け、天井の無いアウシュビッツと呼ばれるウイグル問題もクローズアップされる中で、習近平氏の中国は今まさに正念場を迎えています。


ただし、民主化に成功している中国が他にもう一つあります。それは、台湾です。大陸中国こそ、台湾を参考にすべきなのです。ただし、今のままの大陸中国では無理でしょう。分裂して現在の一つの省が、一つの国になるようなことでもなければ、困難かもしれません。

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