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2020年6月23日火曜日

香港の国家安全法は「内政問題」という誤った主張— 【私の論評】2047年問題があっても西側民主主義諸国は団結により、当面の香港の自由を守る価値は十分ある!(◎_◎;)

香港の国家安全法は「内政問題」という誤った主張


岡崎研究所

 6月6日号の英Economist誌は、「香港は中国と世界をつなぐ通路であり続けられるのか。金融センターとしてのその将来はこれに掛かっている」との社説を掲載している。


 今のところ、新たな国家安全法を香港に適用するという5月28日の中国共産党の決定以降も、香港の金融市場は比較的落ち着いているが、今後どうなるかを占う基準として、エコノミスト誌の社説は、次の3つを挙げた。

 1つ目の基準は、中国が新しい国家安全法をどのように実施するか、である。たとえば、独立した裁判官によって適用されるのか、中国共産党に同情的な裁判官によって適用されるかである。2つ目は、アメリカが香港のドル支払いシステムを制裁対象とするかどうかである。もし制裁対象となれば、香港の金融市場にとって即時の混乱を引き起こす可能性がある。そして最後は、中国共産党が香港での抗議行動の抑圧や政府批判者への威嚇だけではなく、裁判所、中央銀行、規制当局、会計処理の適正さなど、香港の独立した機関を損なわないかどうかである。香港がこれらのテストに合格しない場合、グローバルな金融センターとしての地位は失うことになるだろう。

 香港情勢が今後どうなるか、まだ不明確な点が多くあるが、はっきりしている点もある。中国の王毅外相は、香港問題は中国の内政問題であり、他国は内政には干渉しないようにとの発言をしている。が、これは間違った主張である。香港の1997年の中国返還を定めた1984 年の「英中共同声明」は、名前が共同声明なので誤解している人もいるが、れっきとした条約で、批准条項もあり、英中間で批准書も交換されている。


 今回、国家安全法を中国の全国人民代表大会(全人代)で作ると言うのは、香港は立法権を持つという条項に違反している。中国が条約という国際法に違反していることは、はっきりしている。そのことに文句をいうのは内政干渉には当たらず、条約は守られるべしとの国際法の大原則に基づく正統な主張である。

 「英中共同声明」については、その違反を公式に咎めうるのは当事国である英国であるが、香港の法的地位は、他国の権益にも関係がある。日米両国も、そういう利害関係国として一定の発言をすることが許されるだろう。

 最近の中国は、新型コロナウイルスを米軍が武漢に持ち込んだとか、中国が武漢で新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込んだことに世界は感謝すべきとか、安倍総理が新型コロナウイルスの発生を中国の責任にしようとしたと非難するなど、ゲッベルス並みの嘘も百回繰り返せば真実になるということに基づく宣伝を行っている。米軍がウイルスを持ち込んだとの陰謀論を最初に打ち出した趙立堅は報道官に取り立てられている。今度の王毅外相の「内政干渉論」も同工異曲である。

 こういう中国の国際法違反や不当な宣伝工作については、厳しく追及していくべきであろう。

 香港の経済の将来については、米国がどのような制裁を課すかにより変わってくる。上記のエコノミスト誌の社説があげている3つのポイントは重要であるが、政治的には反発するが、経済的にはおおむね従来通りという姿勢は良くないと考えている。中国がその国際法違反に何の代償も払わないということにしてはならない。香港人の経済的利益を損ねるのは忍び難いところがあるが、国際法違反に対しては、きちんとした不利益を中国に与えるべきであろう。そうでないと、中国の国際法違反行為は南シナ海でのものを含め、ブレーキがかからず、将来に禍根を残すことになろう。

 レーニンは「資本家は利潤のためには自らを縛り首にする縄でさえ売る」と言ったことがあるが、香港についての政経分離の対応は中国の狙い通りになることであるほか、中国の軽侮を招くと思われる。

 香港問題については、西側民主主義諸国の団結を重視すべきである。それが日本の安全にもつながる。

【私の論評】2047年問題があって西側民主主義諸国は団結により、当面の香港の自由を守る価値は十分ある!(◎_◎;)

冒頭の記事にもあるように、香港の1997年の中国返還を定めた1984 年の「英中共同声明」は、名前が共同声明なので誤解している人もいるが、れっきとした条約で、批准条項もあり、英中間で批准書も交換されています。

しかし、これとは別の問題もあります。「2047年問題」です。今から27年後、2047年は、英国と中国との取り決めによって「一国二制度」が終了する期限です。27年後は遠い先のように感じられますが、多くの人、特に香港若者にとっては「近い将来」でもあります。20歳の若者は、27年後には47歳であり、その頃は十分に生きており社会の中核を占めるような存在になっている可能性がかなり大きいです。

最近香港の若者の中に「独立」を目指す動きが出てきていましたが、私にはこれは、当然の動きのように見えます。むろんそれを中国本土の政府は許さないでしょう。

そもそも一国二制度とは何かについて振り返っておきます。それを可能にしているのは「特別行政区」の制度です。中華人民共和国憲法(1982年以降)第31条は「国家は、必要のある場合は、特別行政区を設置することができる。特別行政区において実施する制度は、具体的状況に照らして、全国人民代表大会が法律でこれを定める」と規定しました。


香港とマカオについて全国人民代表大会が「特別行政区基本法」を制定し、2つの特別行政区を設置したのです。

この「二制度」故に香港の人々はこれまで基本的にはイギリス統治の時とほぼ同じ生活スタイルを保ち、法的権利を享受してきました。そのため日本人が香港に行っても、「自分の国とは違う」とはあまり感じませんでした。親しみが持てました。大陸中国の本土に旅行に行けば、橋(戦略的施設との判断)の写真も許されないのとは全く違います。現在までの中国本土と香港は、実質的に「違う国」のようです。

しかし中国本土政府は、いずれ完全に返還される香港への統治スタイルを徐々に強化・硬化してきました。「いずれ帰ってくる」のだから、その準備を中国としても急がねばならないと考えたのかもしれません。

2014年6月10日に公表された中国国務院(政府)新聞弁公室の白書では、香港特別行政区における一国二制度について「香港固有のものではなく、全て中央政府から与えられたものである」と定義しました。これは、中央政府がいつでも剥奪できると言っているようなものでした。

これに並び、同年8月31日に第12期全国人民代表大会常務委員会が2017年からの香港の普通選挙制度について、事実上の香港親中派優遇、民主派締め出し策を設けることを発表しました。この頃から、香港では中国中央政府の支配力強化に対する強い懸念が表面化していました。

同じような地位にあったマカオが、香港に先行して中国化が進むのを見て、香港の人々の間に警戒感が強まったこともありました。マカオでは返還前の一二・三事件(1966年12月3日にポルトガル領マカオで発生したマカオ史上最大の暴動)から事実上本土との一体化が進みました。今ではマカオは返還後の急成長の原動力となった、中国本土からの観光客に強く依存している状態です。


中国が香港市民に中国本土の人民とは異なる権利(発言の自由、経済的豊かさ、選挙への参加など)を認めてきた一国二制度が、始まったのは1997年です。英国の植民地だった香港が中国に返還されるにあたり「50年間は資本主義を採用し、社会主義の中国と異なる制度を維持する」ことが約束され、外交と国防を除き「高度な自治」が認められたのです。香港の憲法にあたる基本法には、中国本土では制約されている言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由などが明記されています。

問題は2047年以降の香港がどうなるのかです。基本的には「一国一制度」になります。ということは、「言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由」などが香港の人たちから剥奪されることになります。

それを香港の人々、特に若者は恐れています。香港は政治環境としては日本など西側の先進国に近いです。皆それを享受し、当然だと思ってきました。だからこそ、27年後に「そうではなくなる」ということは、香港の人々にとっては深刻な問題なのです。

中国のサイドから見れば、27年後の「もうすぐに、いずれ本土と一緒になるのだから、何を今更」という空気感があります。しかし各種の自由を謳歌してきた香港市民には、その傲慢さが許せないようです。香港市民には、「中国の発展の原動力は我々だった」という誇りもあります。

香港市民にとって「27年後に自分がどこに身を置くべきか」は実に切実で深刻な問題なのです。香港ではすでに、「富裕層は米国や欧州など海外に出るのではないか」「多くの人たちは台湾に行くのではないか」との見方がかなり人々の口の端に上っています。国家安全法の導入は、香港市民の先行き不安を一段と強めたと言えます。中国は香港との境界線近くに軍隊まで派遣しました。香港市民の警戒心が強まるのは当然です。

そうした中で当然出てくるのが独立という発想です。昨年9月26日の日経電子版には『「最終目標は独立だ」 香港、一国二制度に不信』という記事がありました。「中国70年目の試練」という、とても良い特集の一つで、ここには「一国二制度は失敗だった。最終的な目標は中国からの独立だ」と主張する若者の声が載っていました。この声は実は多くの香港人を代表するものではないかと思います。

無論中国は将来の台湾を視座に置きながら、それを一番恐れています。これは「一つの中国」というスローガンの崩壊をも意味するからです。そもそも一国二制度は台湾を想定して作られた制度だと言われでいます。

日本の植民地だった台湾をいかにして中華人民共和国に組み入れるかを討議する中で出てきた発想です。しかしそれが実際に適用されたのは香港とマカオでした。台湾でも「独立派」が強い勢力を持っています。

香港が抱える現時点の経済問題も深刻です。香港市民の大部分は、マンションは高根の花ですし、家賃も非常に高いです。今でも普通の若者が部屋を借りるのに相当苦労するといいいます。加えて物価の高さが大きな問題です。それに加えて貧富の格差の大きさもあります。

香港の家賃・生活費が高い一因は明らかに中国本土から資金と人が香港に流れ込んできているからです。香港の一般市民は、それもあって中国本土の富裕層や、中国政府に対する怒りを増しています。中国本土の人民は、「自分たちより先に豊かになったと言って、我々を馬鹿にしている」と香港の人たちに反感を持つという悪循環になっているようです。本土では「香港嫌い」が増えているとも伝えられています。感情的な対立が激化しているのです。

香港では平均住居価格を平均家庭年収で割った数値が世界一で、東京の3倍以上

香港問題については、西側民主主義諸国の団結により、当面香港の「言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由」が守られる可能性は残ってはいます。

しかし、2047年は、英国と中国との取り決めによって「一国二制度」が終了する期限です。その時には、現在の中国の体制が続いていれば、香港でも「言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由」は失われるのです。

ただ、希望もあります。それは、中国共産党一党独裁政権は、過去のものになっているかもしれないからです。

ご存知のように、従来の米中の対立は、コロナ禍を契機に〈米国+他の先進国等〉と〈中国+イラン等の経済弱小国〉の戦いの様相を見せるようになってきました。

特に、香港問題の当事者である、英国は従来は、立場を鮮明にしていませんでしたが、香港問題を機に、中国と対決する姿勢を固めました。特に、米英加豪は対中国で一致しています。

日本やEUもはっきりしないところがありましたが、これも中国と対決する側に傾いていますし、いずれはっきりと対中国へと踏み切るでしょう。特に、私としては、安倍総理に、日独仏伊をまとめて、米英加豪との橋渡しをしていただきたいと思っています。

そうなれば、世界の国々は対中国でまとまるでしょう。親中国的な国はわずかで、しかも中国の資金をあてにするような経済的弱小国がほとんどです。これでは、中国にはかなり部が悪いです。

そうして、こうした先進国の対中国への結束は、コロナ禍が推進したと思います。今後の世界でも中国の体制が変わらなければ、いつ何時コロナ禍のような禍が再び発生するかもしれない疑念は拭いされないからです。

米国等の国々は、中国が体制を変えることを望むでしょう。ただし、中国が体制を変えれば、中国共産党は統治の正当性を失い、崩壊する可能性が大きいです。

それを嫌い中共が体制を変えることを拒むかもしれません。そうなれば、米国等の国々は、徹底的に中国の経済を弱体化されることになるでしょう。

そうなると、27年後には、確実に中国の体制が変わっているか、香港やウイグル、チベットや台湾に対して、強い影響力を及ぼすには経済が衰退しできなくなっている可能性が大です。

であれば、現在西側民主主義諸国は団結により、当面の香港の「言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由」が守る価値は十分にあります。

中国が永遠に香港を支配し続けることはできないのです。それを中国に知らしめるためにも、先進国は団結して香港の自由を守り抜くべきです。

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