□コロナで激化する米中対立の現在地
トランプは意外に慎重だが…
新型コロナウイルスの発生源について、米国のドナルド・トランプ大統領やマイク・ポンペオ国務長官が5月3日、相次いで「武漢ウイルス研究所からの流出説」を唱えた。だが、肝心の証拠は示されていない。真実は明らかになるのか。
日本では、大統領や国務長官が「研究所からの流出」を断定的に語ったかのように報じられた。だが、2人の発言内容を詳しく検証してみると、必ずしもそうと言い切れない部分もある。そこで、発言をあらためて紹介しよう。まず、トランプ氏からだ。
質問者:あなたは「ウイルスが武漢ウイルス研究所から来た」と信じるに足る証拠を見たのでしょうか。
大統領:そこで何が起きたのか、を正確に示す報告書が出てくるだろう。それは、非常に決定的なものになる、と思う。
質問者:何か邪悪なことがあったのか、それとも単なる間違いだったのか。それを示唆する材料はありますか?
大統領:私は個人的に「彼らはとんでもない間違いを犯した」と思う。彼らはそれを認めたくないのだ。我々はそこ(注・武漢ウイルス研究所)に行きたかったし、世界保健機関(WHO)も行きたかった。彼ら(注・WHO)は認められたが、ずっと後になってからだ。すぐではなかった。私の意見では、彼らは間違いを犯した。彼らは火事のように消しにかかった。だが、消せなかった。……言い換えれば、彼らは問題が生じたことを知っている。彼らは問題に当惑した、と思う。ものすごく当惑したのだ。これを見る限り、トランプ氏は「研究所からの流出を裏付ける証拠がある」とは言っていない。ただ「そこで何が起きたのか、を示す報告書が出てくる」、それは「決定的なものだ」と言ったにすぎない。流出が意図的だったのか、事故だったのかについても、慎重に断定を避けている。
大統領は「彼らはとんでもない間違いを犯した」と言ったが、わざわざ「個人的に(personally)そう思っている」とか「私の意見では(my opinion)」というように、留保条件を付けている。
つまり、研究所から流出したかどうかについて、自分の考えを述べたのであって、調査の結果を基に語ったのではない。大統領は「証拠を見た」とか「流出を裏付ける決定的な報告書が出てくる」とは言っていないのである。これが1点。
ポンペオ国務長官は踏み込んだ
次に、ポンペオ氏はどうだったか。彼は同じ3日の米「ABC」テレビのニュース番組に出演し、次のように語っていた。以下は、番組ホームページにある発言全文からの抜粋である(一部略、https://abcnews.go.com/ThisWeek/video/secretary-state-mike-pompeo-70478299)。
キャスター:情報機関の人たちは「中国政府は1月初めの時点で医療用品を買い占める一方、新型コロナウイルスの深刻さを国際社会に隠していた」と言っている。「自分たちがマスクをかき集めるために、意図的に隠蔽していた」のだと思うが、報復する考えはありますか?
国務長官:あなたは事実を正しく認識している。中国共産党は、まさに世界が適切なタイミングで問題を認識できないように、そうしていたのです。彼らはジャーナリストを追い出し(注・ニューヨーク・タイムズなど米国3紙の特派員を国外退去させた)、中国国内で医療プロフェッショナルたちを沈黙させた。報道も黙らせた。これは全体主義国がやる手口だ。古典的な共産主義国の情報統制です。それが途方もないリスクを招いた。米国では数万人もの人々が被害を受けた。トランプ大統領は「彼らに説明責任を果たさせる」という点を明確にしています。
〈新型コロナウイルスの起源については、国家情報長官室(DNI)が今週、プレスリリースを出して「ウイルスは中国で発生した。人工でも、遺伝子操作でもない点では科学的な同意がある。動物から感染が広がったのか、それとも実験室での事故の結果なのかについては、引き続き調査を続ける」と言っている(https://www.dni.gov/index.php/newsroom/press-releases/item/2112-intelligence-community-statement-on-origins-of-covid-19)〉
キャスター:あなたは「ウイルスが武漢の実験室から発生した」と確信させるような何か、を見たのですか。
国務長官:感染はそこから始まった、という多くの証拠がある。我々は最初から「ウイルスは武漢に起源がある」と言ってきた。世界中が知っているように、中国は世界に感染を広げ、基準に満たないお粗末な実験室を運営してきた歴史がある。中国の実験室における失敗の結果として、世界がウイルスにさらされたのは、今回が初めてではない。私はあなたに「これ(ウイルス)が武漢の実験室から来たことを示す膨大な証拠がある」と言うことができる。最高の専門家は「これは人工物だ」と考えているようだ。私には現時点で、それを信じない理由はない。
キャスター:では、彼らは意図的にウイルスをばらまいたのか、それとも実験室の事故だったのか。
国務長官:それについて、言うべきことは何もない。言えるのは、そうしたすべての疑問に答えるために、我々は調査チームを派遣しようとしてきた、ということです。WHOも派遣しようとした。だが、武漢の研究所にも、他の中国の研究所にも派遣は認められなかった。これは現在進行中の問題だ。我々は行く必要があるし、ウイルスのサンプルが必要です。中国共産党は西側世界にアクセスしているが、私はあなたの質問に答えられない。中国共産党が世界の専門家たちに協力するのを拒んでいるからです。これを読むと、ポンペオ氏は大統領よりも、さらに一歩踏み込んで「研究所からの流出を示す膨大な証拠がある」と断言したことが分かる。だが、証拠そのものは示していない。
これに対して、中国外務省の報道局長は5月6日の会見で「証拠があるというなら、示してほしい。それを出せないなら、そもそも証拠がないからだ」と反論した。WHOも会見で「さらなる国際調査団の派遣について、中国側と協議している」と語った(https://digital.asahi.com/articles/ASN5735XDN57UHBI00G.html)。
続々と報じられる「隠蔽」
この問題を報じる米メディアの受け止め方もさまざまだ。
たとえば「ニューヨーク・タイムズ」は4月30日付で「トランプ政権の高官たちが情報機関に『武漢ウイルス研究所からウイルスが流出した』という見方を裏付ける証拠を発見するように、圧力をかけている」と報じた(https://www.nytimes.com/2020/04/30/us/politics/trump-administration-intelligence-coronavirus-china.html)。
大統領らの発言が報じられると、5月3日付の記事は2003年のイラク戦争にも言及して、トランプ政権の前のめり姿勢を批判した(https://www.nytimes.com/2020/05/03/us/politics/coronavirus-pompeo-wuhan-china-lab.html?searchResultPosition=2)。
当時「米国の情報機関は『サダム・フセインが大量破壊兵器を作っている』という見方を公表するよう、ブッシュ(ジュニア)政権に迫られた。だが、それは結局、間違いだった」「異議を唱えた情報機関は無視されたか、はねつけられた」。新型コロナウイルスをめぐる圧力も、それと同じではないか、というのだ。
ニューヨーク・タイムズはトランプ政権に批判的なので、そこは割り引いて読む必要がある。だからといって、中国に甘いわけでもない。同じ記事は、中国当局が上海の研究所を突然、閉鎖した件に言及している。
この1件は、中国政府が情報を隠蔽し、感染を世界に広げた責任問題に関わっているので、詳しく紹介しよう。研究所の閉鎖を最初に報じたのは、香港の有力紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」である。同紙は2月28日付で次のように報じていた(https://www.scmp.com/news/china/society/article/3052966/chinese-laboratory-first-shared-coronavirus-genome-world-ordered)。
上海公衆衛生医療センターの研究チームは1月5日、当時は未知のウイルスだった新型コロナウイルスの遺伝子配列情報を突き止めるのに成功した。チームは同日、中国国家衛生健康委員会に分析結果を報告するとともに、公共の場所では適切な感染予防と管理をするよう提言した。この時点で、重篤な患者が出ていたからだ。
にもかかわらず、当局がなんの警告も出さなかったので、チームは1月11日、自分たちの発見を、遺伝子情報を扱う公開のプラットフォーム(複数)で公表した。感染は拡大していたが、当局は「ヒトからヒトへの感染を示す証拠はなく、1月3日以来、新たな感染者もいない」と発表していた。
すると、翌12日に突然、上海衛生健康委員会が研究所の閉鎖を命じたのである。理由は「改善するため」の一言だった。何を改善するのかは、不明のままだ。
研究所の関係者は匿名で「我々は研究所の再開を求める報告書を4回、提出したが、なんの返事もなかった。科学者たちが新型コロナウイルスに対応する方法を見つけるために、一刻を争って努力しているのに、研究所を閉鎖するのは大変な影響がある」と同紙に語っている。
この「1月初めから半ば」という時期は、重要な局面だった。武漢市は1月6日から10日まで、湖北省は11日から17日まで、それぞれ人民代表大会(議会)と政治協商会議(諮問会議)という最重要のイベントを控えていた。
2つのイベントを成功させるために、現地の責任者は感染拡大を放置しただけでなく、武漢当局は「新規症例が大幅に減少した」と嘘の情報まで流していた。上海の研究所をめぐる動きも、これと「軌を一にしていた」とみていい。この間、隠蔽工作は全国規模で展開されていたのである。
上海の研究チームは発見を論文にまとめ、世界的に権威ある科学誌「ネイチャー」に投稿し、2月3日付で掲載された。論文が世界の医師や科学者に参照され、ワクチン開発などに生かされたのは、言うまでもない。中国当局は、そんな研究を圧殺していた。
もしも「武漢ウイルス研究所からの流出」が、トランプ氏やポンペオ氏が言うような「決定的証拠」で裏付けられなかったとしても、中国政府による事実の隠蔽と、医師や市民など告発者を弾圧した事実は消せない。
トランプ政権は方針を固めた
中国の許しがたい行動は、ほかにもある。たとえば、「ABC」のキャスターが指摘した医療用品の買い占め問題である。
米「AP通信」は5月4日、米国土安全保障省が「中国は1月段階で、マスクや防護服など医療用品を世界的に買い占めるために、世界保健機関(WHO)に対して、新型コロナウイルスが感染拡大している事実を報告しなかった」という内容の報告書をまとめた、と報じた(https://apnews.com/bf685dcf52125be54e030834ab7062a8)。
この「買い占め作戦」は、カナダの有力メディア「グローバル・ニュース」も長文の調査報道記事にして報じている(https://globalnews.ca/news/6858818/coronavirus-china-united-front-canada-protective-equipment-shortage/)。カナダでは、在カナダ中国人を動員して、買い占めが組織的に繰り広げられていた。
ホワイトハウスは米紙「ワシントン・イグザミナー」の記事を引用して、中国による買い占め作戦を公式に発表している(https://www.whitehouse.gov/westwingreads/)。この1件をみても、トランプ政権が本気で中国と対決する方針を固めたのは、間違いない。
【私の論評】米国は、ソ連崩壊後のロシアのように中国を弱体化させる(゚д゚)!
5月3日に続き、7日にはトランプ大統領は以下のような発言をしています。
トランプ米大統領は7日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は中国から始まったと強調した上で「発生源で簡単に止められたはずだった。無能あるいは愚かな者がいたんだろう」と述べ、改めて中国を批判しました。ホワイトハウスで記者団に語りました。
トランプ氏はこれまで、ウイルスが中国湖北省武漢の研究所から流出した説に自信があるとの立場を示してましたが、この日も詳細には触れませんでした。近くまとまるとしていた米情報機関による調査報告書についても時期の明言は避け「公表するかどうか分からない」と述べました。
ただ、中国について「やるべきことを怠った」と指摘し、引き続き感染拡大の責任を追及する姿勢をにじませました。
私自身は、このブログで「ウイルスが中国湖北省武漢の研究所から流出した説」を立証するのは困難であり、特に中国の協力なしには不可能という立場をとってきました。それは今もかわらないです。
そもそも、これにあまり固執しすぎると、サダム・フセインが大量破壊兵器を作っているとの情報に踊らされた、ブッシュ政権のようなことになりかねません。
処刑するところを報道した。
|
そうして、このような立証が不確かなことを追求するよりも、情報統制や役人の保身などに起因する初動の遅れこそが、中国ウイルスのパミデミックを招いたことを忘れるべきではないし、米国はこれに関する情報をさらに収集すべきであると主張しました。
実際米国は、その方向に舵を切ったようです。米国の情報能力を駆使して、これに関するを収集し、中国に対して、有無を言わせないほどの情報をつきつけるべきです。
香港の有力紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」による、上海衛生健康委員会が研究所の閉鎖については、米国側も詳細を調査すべきでしょう。
とにかく、米国側としては、情報統制や役人の保身などに起因する初動の遅れを徹底的に調査し、それが組織的ものなのか、あるいは体系的に行われたのか、中国共産党はどのように関わっていたのか、習近平はどこまで関わっていたのか、あるいは関わりのないところで行われたのかを明らかにすべきでしょう。
仮に習近平の関わりのないところで行われていたとしても、これは中国の体制に大問題があることになります。だとすれば、これからも習近平の預かり知らないところで、これからも世界にも大きな影響を及ぼすことが起こり続けることになります。これに対する結論は、中共一党独裁には根本的な問題があるということで、中共解体です。
習近平が関わっているとすれば、すくなくとも、習近平を失脚させるべきです。米国は、これを中共にやらせるべきです。やらないというのなら、これまた、中共解体しかないです。
いずれにしても、中国がまともになるためには、どのみち中共は解体するしかないようです。
さて、これを中国共産党はどのように捉えているのでしょうか。米国としては、中国が中共の一党独裁などの体制変換を自ら行わない場合は、中国が姿を消しても、米国や他の国々が悪影響を受けないように準備をしつつ、中国に対する制裁をどんどん強めていくことになるでしょう。
この場合どのくらいまで、制裁を続けるかについては、すでにモデルがあります。それは、ソ連の崩潰です。ソ連の崩潰により、ソ連後継は、ロシアとなりましたが、そのロシアは未だに世界第2の軍隊をもってはいますが、経済は他の国でいえば、韓国なみです。日本の都市でいえば、東京都なみです。ただし、面積は今でも中国より広いです。
ソ連(USSR)は崩潰した |
米国は、このくらいまで、中国を経済的に衰退させることになるでしょう。東京都がいくら世界第2の軍隊を持ったとしても、世界の警察官になることはおろか、EUとも単独ではまともに渡り合うことすら不可能です。
ロシアはそれでも、今でも中等にロシア太平洋艦隊を派遣したりしていますが、これは最早象徴的な意味しかありません。米海軍と本格的に対峙すれば、5分ともたないでしょう。中国の南シナ海の基地も、象徴的な意味しかなく、これも米軍が本気で攻撃すれば、5分で吹き飛ばすことができます。
さらに、中国とロシアが同じくらいの経済になれば、長い国境を説していますから、互いに他を牽制し、険悪な関係となるのは目に見えています。そうなると、中露は放置しておいても、互いに牽制しあって、今後世界の脅威になることはなくなるでしょう。
それを米国は最終的に目指しているものと思います。無論、冷戦が長く続いたように、米中冷戦も結構長い間にわたって続き、中国はソ連のように弱体化していき、いずれ崩潰することになるでしょう。
全体国家や、独裁国家は、このように弱体化することが、世界の安定に寄与します。中露がそのような目にあえば、独裁国家を大きくしようとたり、比較的大きな国を全体主義化しようという試みも、割りに合わないものとして、誰もそれに取り組むことはないでしょう。
そうして、何よりも良いのは、全体主義国家、独裁国家の情報隠蔽等により、世界が大きな危機に至ることを未然に防ぐことができることです。
【関連記事】