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2020年4月12日日曜日

「マスク戦争」の戦犯は誰なのか 中国、日本から“奪った”マスクを政治利用!? 有事に備え「中国依存」の脱却が急務だ―【私の論評】安倍政権は、中国から生産拠点を国内や第三国に移転する企業への支援を表明(゚д゚)!

「マスク戦争」の戦犯は誰なのか 中国、日本から“奪った”マスクを政治利用!? 有事に備え「中国依存」の脱却が急務だ

マスク姿の習近平

 新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)はさらに加速しており、米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、死者が10日、世界全体で10万人を超えた。2日に5万人を上回って約1週間で倍増したかたちだ。日本でも同日、新たに過去最多となる634人の感染者が確認された。累計は6159人。無症状でも他人に感染させるリスクが指摘されるなか、日本だけでなく世界各国で「マスク不足」が深刻化しており、強奪・盗難事件まで発生している。前代未聞の「マスク戦争」を引き起こした戦犯は一体誰なのか。国際投資アナリストの大原浩氏が緊急寄稿で解き明かす。


日本政府が、「1世帯あたり2枚」の布マスクを郵送すると発表したことに対して、「アベガ-」などを中心に激しい反発が起こった。「アベノマスク」などという言葉も登場したようだ。

 これについては、中身のないウソを国民に広げるためにプロパガンダが洗練されているファシズム国家や共産主義国家と違って、日本人の伝統的考えである「良い仕事をすればみんな分かってくれる」という政府・官僚の広報対策の不備が責められるのは、ある意味仕方がない。しかし、この「布マスク2枚」は国家の全体戦略のあくまで一部だということを考えるべきであろう。

 現在有事にある日本国民は、ジョン・F・ケネディ大統領の「国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたが国のために何ができるかを問うてほしい」という名言を思い出すべきだ。

 特に悲しいのは、日本人同士がいがみ合うことである。

マスク不足の原因として、転売屋やドラッグストアに行列する高齢者などがやり玉にあげられる。それが事実である部分もあるが、根本的原因は「中国」または「中国依存」にある。


 新型コロナウイルスの感染が拡大する前、日本のマスクの年間生産・輸入量は約55億枚だったが、そのうち約44億枚が輸入品(=ほとんど中国製)で、国内の生産量は約11億枚しかなかった。つまり国産比率が20%程度なので、(輸入が止まって)国産だけで過去の需要を満たそうと思えば、これまでの5倍を生産しなければならない。政府の要請で国内各社が増産しても、5倍というのは厳しいハードルだ。

 しかも、現在はほとんどの国民がマスクを使用しているので、全国民の8割程度の1億人が毎日マスクを使用すれば、年間では365億枚と過去の需要の約7倍にも膨らみ、到底調達できない。

 だから、新型コロナウイルスの感染拡大が長期化するなか、日本政府が(病院などに医療用マスクを回すために)再使用が可能な布マスクを国民に送付して、有効利用を要請するのは理にかなっているのだ。

 気になるのは、過去44億枚あった輸入品の行方である。AFP通信(7日)などは「中国は医療用物資の輸出を制限しているのか」などと報じている。

 検証可能な数字はないのだが、現在の中国からの輸入は週に1000万枚程度ともいわれるから、単純計算で年間5億枚程度で、過去の輸入量から比べれば雀(すずめ)の涙だ。

 しかも、そのようにして事実上日本企業=日本国民から奪ったマスクを、中国側がマスク不足に苦しんでいる各国にもったいぶって売りつけるという政治利用を行っているとすれば許しがたいことである。

 例えば、フランスには、マスク10億枚の供給と引き換えに、第5世代(5G)移動通信システムについて、中国の華為技術(ファーウェイ)の導入を求めたと伝えられた(=中国側は否定)。

 日本国民が怒りをぶつけるべき相手は、初期に日本からのマスクの寄贈を受けたにも関わらず(=そもそも、寄贈には問題があったが)、恩をあだで返す(人の足元を見る)中国共産党だとしか思えない。

 輸入依存で危険なのはマスクだけではない。

 在宅医療現場で使用されている人工呼吸器の約98%が輸入製品である。その他の医療製品も輸入比率がかなり高い。世界中で医療製品の取り合いが起こっており、この状況は非常に危険だ。

 食糧調達にも暗雲が立ち込めている。日本農業新聞によれば、4月3日時点でロシア、カンボジア、カザフスタンなど11の食糧輸出国が、自国への供給を優先する輸出規制を行っている。

 世界の穀物供給センターである米国でも状況は厳しい。新型コロナウイルス感染症の広がりによる国境封鎖・都市封鎖などによって外国人を始めとする労働者の確保が難しくなっているほか、配送トラック・配送センターの業務にも大きな支障が出ている。

 新型コロナウイルス感染は早く終息してほしい。もしそれが実現されなければ、われわれはまさに「戦時」の中で暮らさなければならないのだ。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】安倍政権は、中国から生産拠点を国内や第三国に移転する企業への支援を表明(゚д゚)!

中国への過度の依存について、政府も手を拱いているわけではありません。これに対応スべく安倍総理は行動を開始しています。

日本政府は、新型コロナウイルスの感染拡大で製造業のサプライチェーンの分断を受け、中国などから生産拠点を国内や第三国に移転するための支援を表明しました。米上院議員らはこの報道を受けて、米国もこの動きに追従すべきだと発言しました。脱中国依存の流れの始まりとしています。

この移転支援策は、4月7日に発表された緊急経済対策の一つとして盛り込まれました。総額は2435億円で、国内回帰分が2200億円、残り235億円が第三国への移転分として用意されます。

安倍首相は3月5日、官邸で開かれた未来投資会議でこの支援策について、次のように述べています。「中国などから日本への製品供給の減少による我が国のサプライチェーンへの影響が懸念される中で、一国への依存度が高い製品で付加価値の高いものは、我が国への生産拠点の回帰を図る。そうでないものも、一国に依存せず、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国などへの生産拠点の多元化を図る」


マスクがなくなったということで、マスクに関しては中国に依存していることが、多くの人に知られるようにはなりました。しかし、日本がどの程度中国に依存しているのかも明らかにしておく必要があります。

中国の主要な輸出先(2017年)は、1位米国、2位香港、3位日本、4位韓国の順。トップ4の顔触れは、20年前の1997年と全く同じです。ただ、日本は低下しており、輸出先としてのシェア(同)は6%と10年間で3分の1に低下しました。

急浮上したのが5位ベトナムです。同国への輸出額は過去20年間で約70倍、同10年間で6倍に急増、中国の対世界輸出額が各々13倍、2倍だったのに比べ大きな伸びを記録しました。この結果、ベトナムは中国の輸出先として10年前(2007年)の22位から急上昇しました。

世界貿易に占める中国の中国のシェア
上のグラフからすると、中国の対日輸出・輸入のしエアは年々減っていたことがわかります。この流れを加速することは、十分できそうです。米国もドイツも低下傾向です。

さらに、GDPに占める貿易の割合は、日本は29.3%、米国は20.56%です。韓国は、70.31%です。日本や、米国は元々貿易依存度が低いので、中国依存をやめることは比較的簡単です。とはいいながら、コロナ禍においては、マスクなどが品薄になるわけですから、早急にすすめるべきでしょう。

米国においては、ジョシュ・ホーリー(Josh Hawley)米上院議員は4月9日、日本政府が中国市場から撤退する企業を支援するとの報道をリツイートして、「米国も同じことをすべきだ」(1万8千いいね)と主張しました。トム・コットン(Tom Cotton)上院議員もまた、同記事を共有して「今後、世界でもっと中国に反旗を翻す動きが出てくるだろう」(3万5千いいね)とコメントしました。

中共ウイルス(武漢肺炎)の大流行は経済に大きな打撃を与え、多国籍企業は全体主義体制下にある中国市場からの撤退の動きが強まっています。調査会社によると、米国人の7割以上が米国のビジネスの中国市場撤退を予想しています。米国の上院議員は、米国も日本を見習って、米国のビジネスマンの復帰を支援するための資金を配分すべきだと考えています。

グローバル製造業コンサルティング会社・カーニー(Kearney)が4月7日に発表した第7回目の年次「回帰指数」(Reshoring Index)によると、2019年の米国国内製造業のシェアは、中国を含むアジア14カ国の生産品のシェアを大幅に上回りました。中国からの輸入が減り、自国生産品の流通が増加したことを示しています。

回帰指数は、アジア14カ国からの輸入品と、米国製品の変化を調査しています。 中国、台湾、香港、マレーシア、インド、ベトナム、タイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、カンボジアの14カ国を含めます。

報告書を作成したパトリック・バン・デン・ボッシェ氏は、回帰指数の高まりについて次のように分析しました。米国の生産者は30年前、国内のコスト高を理由に生産と製造、調達を中国に移したましたが、米中貿易戦によって高関税のリスクにさらされています。また、中共ウイルス(COVID-19)の流行が非常事態宣言を招く危機的な状況にあるなか、米国企業は予測不能な経済ショックに対応できるかどうかを考慮しています。

カーニーの年次報告書は、中国発のウイルス肺炎の蔓延により、海外企業の中国生産活動や貿易の縮小、撤退が加速しており、パンデミック前の状態に戻る可能性は低いと指摘しています。また、パンデミックの影響で大きな打撃を受けた企業は、リスクを分散し、中国市場への依存から脱出するために「購買戦略とサプライチェーンを真剣に考え直すことになる」と書いています。

中国は世界の自動車部品、玩具、電子製品だけでなく、ペニシリン、抗生物質、鎮痛剤、手術用マスク、医療機器など多くの医薬品や医療品も生産しています。

ドナルド・トランプ大統領の貿易顧問ピーター・ナバロ(Peter Navarro)氏は2月、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューで、今回のウイルス蔓延の発生は米国が中国やその他の国からの医薬品や医療品の輸入への依存度を減らすための「警鐘」(wake-up call)であると語りました。

企業活動においても、物品の購入先が一箇所の会社に集中していれば、その会社が業績不審になったり、倒産した場合はもろに影響を被ることになります。分散するか、企業にとって必要不可欠なものは、内製化も検討すべきです。

国と国との関係も同じことです。中国一国に依存しすぎると、これからも何が起こるかわかりません。早急に改めるべきです。ただ、そうはいっても、中国に進出している企業がそれを実行するつもりがなければ、それは実現できません。

中国政府としては産業の高度化を進めるためにも日本企業にもっと来てもらいたいという意向は非常に強いでしょうから、日本政府の補助金に対して、「中国政府もAI(人工知能)や5Gなどハイテク分野において日本企業に補助金を出し、中国にとどまるようインセンティブを付けることも想定されます。

そうなると、対中国冷戦を挑んでいる米国は、そのような日本企業に対して直接制裁を加えるようになるかもしれません。いずれの企業にとっても、対中国依存は危険であると自覚すべきです。

そんなことはないだろうと、高をくくっている企業もあるかもしれませんが、予めコロナ禍も予想できなかったように、コロナ禍後の世界も何が起こるかは全く予想できません。とはいいながら、世界秩序は大きく変わるのは間違いないです。リスクはなるべく減らしておくべきです。

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2018年3月1日木曜日

米、北に新たな一手“海上封鎖” 沿岸警備隊のアジア派遣検討 「有事」見据えた措置か―【私の論評】沿岸警備隊派遣の次には、機雷戦?その時には海自が活躍することになる(゚д゚)!


北朝鮮船籍のタンカー(左)と船籍不明の小型船が行う「瀬取り」に米沿岸警備隊の艦艇が目を光らせる

 ドナルド・トランプ米政権が、北朝鮮に“新たな一手”を打ち出す構えを見せている。国連安全保障理事会の制裁に反して、洋上で船から船へ石油などを移し替えて北朝鮮に密輸する「瀬取り」などを阻止するため、米沿岸警備隊のアジア派遣を検討しているのだ。海上臨検のスペシャリストである沿岸警備隊は米国では軍隊と位置付けられ、戦時には海軍の特別部局となることも任務に含まれている。これは、近い将来起こり得る「朝鮮半島有事」を見据えた措置ともいえそうだ。 

米国沿岸警備隊の艦船と航空機

 《米沿岸警備隊のアジア派遣も、北朝鮮の密輸監視を強化へ》

 ロイター通信(日本語版)は2月23日、このような見出しの記事を報じた。米国の強い決意を感じさせた。

 記事によると、トランプ政権とアジアの主要同盟国は、対北朝鮮制裁に違反した疑いのある船舶への臨検強化を準備しており、米沿岸警備隊をアジア太平洋地域に派遣する可能性もあるという。米高官が明らかにした。

 これと符合するように、日本政府が「瀬取り」を監視するため、米国や韓国、オーストラリア、シンガポールなどの関係国に実務者会合を呼びかけていることが、28日までに分かった。

 国際社会の警告を無視した「核・ミサイル開発」を強行する北朝鮮に対し、国連安保理や世界各国は制裁強化を続けている。トランプ政権が23日に発表した「過去最大規模」の独自制裁でも、「瀬取り」などに関与した海運・貿易会社や船舶、個人を対象に米企業との取引などを禁じた。

 北朝鮮の密輸は極めて狡猾だ。

外務、防衛両省は2月27日、北朝鮮船籍のタンカーが24日深夜、中国・上海の東約250キロの東シナ海(公海上)で、モルディブ船籍のタンカーに横付けしていたのを確認し、「瀬取り」の疑いで国連に通報したと発表した。北朝鮮船籍のタンカーは船名を消していた。両省が「瀬取り」の疑い例を公表したのは、1月以降で4例目となる。

 対北朝鮮制裁が効果を発揮するには、「瀬取り」を監視・阻止する「実力部隊」の態勢強化が不可欠となる。そのために派遣が検討されているのが、米国が誇る沿岸警備隊だ。

 英語で「United States Coast Guard」と表記される米沿岸警備隊は、1915年に創設された。陸海空軍、海兵隊とともに軍隊と位置付けられているが、海上での法執行権限を持っている。

 約4万1000人の隊員のほか、予備役約7000人、文官約8600人、ボランティア約3万1000人の人員で海洋の安全維持を図っているが、その任務は多岐にわたっている。

 公海や、米国が管轄する水域での法執行をはじめ、上空からの海上監視、国際合意に基づいた砕氷活動、戦時には海軍の特別部局として機能するよう準備態勢を維持することまで含まれている。

 前出のロイターの記事は《新たな戦略では北朝鮮への海上封鎖に当たらない程度まで、こうした活動の範囲を広げる方針。北朝鮮は海上封鎖は戦争行為に当たると警告している》と指摘していた。

確かに、北朝鮮の朝鮮中央通信は昨年12月、外務省報道官の話として、「(海上封鎖は)主権国家の自主権と尊厳に対する乱暴な侵害行為であり、絶対に容認されない侵略戦争行為である」「(海上封鎖を強行しようとした場合には)われわれに反対する戦争行為と見なすであろうし、無慈悲な自衛的対応措置で応えるであろう」などと威嚇した。

 盗っ人猛々しいとは、まさにこのことだ。

 国際的ルールを破って世界を恫喝(どうかつ)し、乱暴な侵害行為を繰り返しているのは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長率いる北朝鮮である。

 米沿岸警備隊の派遣検討の意味・狙いは何か。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「米海軍は米韓合同軍事演習で忙しく、『瀬取り』のチェックをする余力がないのだろう。純然たる軍隊である海軍を出すよりは、沿岸警備隊を出すことで『戦争になったら米国のせいだ』というような批判を避けたいという意味合いもあるのではないか。一連の圧力を高める姿勢のなかで、1つのステップを踏んでいるということだろう。(『従北』の韓国政府が演出する)南北の融和的ムードとは裏腹に、日米間で合意した『北朝鮮に最大限の圧力を加える』という政策に基本的変化がないことを示していると受け止めた方がいい」と語っている。

【私の論評】沿岸警備隊派遣の次には、機雷戦?その時には海自が活躍することになる(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事には、米沿岸警備隊の派遣検討の意味合いについて「一連の圧力を高める姿勢のなかで、1つのステップを踏んでいるということだろう」と記されています。

確かに、これからいきなり本格的な戦争に踏み切るというよりは、着実に制裁の厳しさをましていき、最後の最後で軍事的手段をとるのでしょう。

では、沿岸警備隊を派遣した後で、米国は何をするのでしょう。まず考えられのは、米軍による核関連施設の爆撃ということが考えられます。その後に様子をみて、地上軍の派遣ということになると思います。

しかし、私としてはこれらの前にもうワンステップあるのではないかと考えています。それは、機雷封鎖です。

そうです、北朝鮮の付近の海域に機雷を敷設して、外国の艦艇が北朝鮮に寄港することはもとより、北朝鮮の艦船が北朝鮮から外洋に出ることを阻止するのです。

こうすれば、北朝鮮は完璧に背取りができなくなりますし、北朝鮮や外国が、制裁違反をして、北朝鮮に物資を運ぼうにも海路ではできなくなります。陸路に関しても、北朝鮮中国国境で中国がとりしまりを厳しくすれば、北への制裁は完璧になります。

そうなると、北朝鮮には石油も供給されなくなります。これなら、北朝鮮も制裁に折れるか、最後の賭けに出て、何らかの軍事行動を起こすことになります。そうなると、米国としても軍事行動にかなり出やすくなります。

先日の述べたように、北が核開発をやめるつもりがないのですから、最終的にはこうなるしかありません。

もし、北朝鮮海域に米軍が機雷を敷設したとなれば、これは中国にとってもかなりの脅威になるはずです。まず考えられることは、中国が南シナ海の環礁を埋め立てて設置した軍事基地の周辺に米軍によって機雷が敷設されることも十分考えられます。

そうなると、南シナ海の中国の軍事基地は、補給が困難となり軍事基地として有名無実化します。

そうして、機雷敷設ということになれば、その後は日本の海自が活躍することになりそうです。なぜなら、敷設された機雷はその目的が終了した後には取り除かれなければならないからです。

それに、米軍が北朝鮮の付近に機雷を敷設すれば、それに対抗して北朝鮮も機雷を敷設することが十分に考えられる仮です。

そうして、現状では日本の海上自衛隊の掃海(機雷を取り除く行動)能力が世界一といって良い水準にあるからです。

日本には、大東亜戦争中から、朝鮮戦争、そうして今日に至るまで、大規模な掃海活動の実績があります。

日本の機雷掃海を語るには、まずは世界大戦まで遡らなければいけません。 というのも、日本は先進国の中で、現代まで最も機雷に苦しめられ続けてきた国家だからです。

日本は四海を海に囲まれていて、国土は起伏の多い地形です。必然的に海運が盛んになり、物資の海上輸送量は、大戦時は重量ベースで優に5割を越え、飛行機や自動車が発展した今でも3割以上の割合を占めています。そこで、世界大戦末期に米国は「飢餓作戦」と呼ばれる輸送路断絶作戦を実施。B29爆撃機を使って、爆弾の代わりに機雷を大量に海に沈めていきました。

航空機から投下されるMK25機雷

実に12,000個を越える機雷の効果は絶大でした。本土内の輸送路は鉄道で代替されましたが、大陸からの輸送が途絶え、世界3位の海運国となり海運に依存し始めていた日本国民は飢えに苦しむ事になりました。

この機雷は沈底機雷と呼ばれる底に沈んだまま浮いてこないタイプの機雷で、船舶が通る際に変化する音や磁気、水圧を検知して爆発するものでした。海の底に船の瓦礫や岩などと一緒に沈んでいるため、当時の技術では見つけることは困難で、囮を使って爆発させる方法で掃海する他ありませんでした。

ところがその機雷は、一度の船舶検知では爆発せず何度か船が通りすぎてから爆発するような設定の機雷も存在し、囮や掃海部隊の船が通りすぎ、安全だと言われてやってきた普通の船舶が機雷によって破壊されてしまうようなこともありました。

当時としては技術の粋を集めた先進的な機雷であり、これが終戦後も大量に日本の海に残されました。これを除去するために、米軍によって日本海軍が解体された際にも掃海部隊の人員は残され、以降多くの殉職者を出しながらも掃海部隊は掃海作業に従事しました。そうして、この掃海部隊は朝鮮戦争にも参加しています。

そして、戦争から70年が経った今でも当時の機雷が発見されて解体されています。既に爆発しなくなっているので安全に船は通れますが、海底から何十メートルも上を通る海面の船を破壊できるほど大量の火薬が、機雷に詰まっていることには変わりありません。海底の土砂を汲み上げる際に、機雷に触れてしまって爆発してしまう事故も実際に起こっています。

とは言え、これらの機雷は旧式のものです。しかも、既に動作しなくなっている機雷です。この機雷除去の知識がノウハウとして蓄えられても、現代の高性能な機雷には通用しそうにありません。

しかし、重要なのはそこではないのです。

「機雷がどれほど恐ろしい兵器か誰よりも知っている」というのが、四海を海に囲まれ、多数の海峡を持ち、先進国でもある日本の自衛隊に蓄えられた最大のノウハウであると言えます。

機雷を使われた際の日本の海運被害は他国に比べて極めて甚大で、その機雷を除去する労力は計り知れませんでした。そのために、日本の海自は世界最大規模の掃海部隊を有するに至つたのです。

「日本が高い掃海能力を持っている」というのは、船の質と数という客観的な点からも明らかです。
平成29年度機雷戦訓練(陸奥湾)

<国別掃海艦艇の種類と総数(2014年時点)>
・自衛隊-7種26隻
・米海軍-1種11隻
・仏海軍-3種18隻
・英海軍-2種15隻
・独海軍-3種16隻
驚くべきことに、艦艇の数と種類だけ見ても主要国最大規模を誇っています。世界最大の米海軍が11隻しかいないというのが不思議でなりませんが、実は米海軍はオバマ政権による軍事費縮小のあおりで駆逐艦や哨戒艇、艦載ヘリで機雷探索を行う方針に移っており、「機雷戦艦艇」の数はどんどん減っていく傾向にあります。

確かに、技術の進歩で従来は探知できなかった機雷を遠くから探知出来るようになり、機雷に探知されにくい専用の艦艇を作らなくても機雷を除去出来るようにはなってきています。しかし、機雷対策を施していない通常艦はステルス型の機雷掃討などには不向きで、米海軍は湾岸戦争の際に少なからず被害を被っています。

さらに言えば、米国は機雷が仕掛けられたら致命傷となるような海域が少なく、機雷対策が軽視されていると言うのも機雷戦艦艇が少ない理由の一つでしょう。

一方、フランス・ドイツ・イギリスは、ドーバー海峡の制海権を巡って世界大戦時に苛烈な機雷戦を繰り広げているため、機雷の恐ろしさは身に沁みていることでしょう。現代でも、敵対国家によってドーバー海峡に機雷が仕掛けられればとんでもない事態に追い込まれるため、機雷掃海艇の整備は非常に重要な意味を持っています。

そんな他国と比べて見ても、日本の7種類26艦艇と言うのは多すぎるようにも思われます。

しかし、日本は同じ島国であるイギリスより海岸線が広く、そして海峡の数も数倍以上あります。さらに、上述した飢餓作戦時に大きな被害が出た内海への機雷敷設は日本の海を航行する船舶にとって大きな脅威となるため、機雷戦艦艇が他国より多く必要なのです。それに、日本が経済大国であるということが、それを可能にしています。

さらに、離島も多い日本の領海をカバーするために、より大型の艦艇が必要となり、先進国では唯一掃海専用の掃海母艦を保有しています。この掃海母艦は掃海用の艦載ヘリのための母艦であり、米国などの場合は強襲揚陸艦などで代用されます。

うらが型掃海母艦1番艦の「うらが」(手前)

日本もおおすみ型揚陸艦を保有していますが、掃海母艦として運用するにはそもそも大きすぎる上、米海軍が揚陸艦を掃海母艦とするのは、「掃海作業が揚陸作業に必要」だからであり、掃海が主任務ではないからです。

現在日本は、掃海母艦(大型)2隻、掃海艦(中型)3隻、掃海艇(小型)19隻、掃海管制艇(ダイバー支援)2隻を保有しています。これほどの陣容を整えているのは、まず日本だけです。

以上で述べたように、日本が世界最大規模の機雷掃海部隊を持っています。しかし、それは日本と言う国が機雷に弱い国(海岸線が長く、海峡が多い上、離島が多い)だからというだけで、世界の海を守るためではありません。

しかし、原子力空母に原子力潜水艦、大量の航空機を保有するような、米国の海軍が最低限の掃海部隊しか保有していない以上、万が一、タンカーの航路に機雷が敷設されたら米国以外の掃海部隊も対応しなければなりません。

結局、上陸作戦に支障をきたすほど大量の機雷が設置された湾岸戦争後、ペルシャ湾掃海などに日本が駆り出されることになりました。

実をいうと、ペルシャ湾に派遣された当初は日本の掃海部隊は、まだ現在ほどの陣容は整っていませんでした。そのため、「練度なら負けない」と意気込んでいた海自は、ペルシャ湾で遭遇したステルス機雷などの新型機雷を見て、装備がまだ不十分だと感じ、掃海母艦や新型掃海艇などが作られることになったのです。

イラク戦争時に米に回収されたイラク軍の
MANTA機雷(音響型)ソナーで探知しにくい
そして、日本の海自は本当の意味で世界最高クラスの掃海部隊を有するようになりました。

仮に中東の海峡に機雷が仕掛けられタンカーの航行に危険が生じた場合、実のところ米海軍や現地の海軍に任せるより、日本の自衛隊がやるほうが「確実」なのです。日本と同クラスの掃海艦艇を備えるのは英海軍(それでも海自より旧式)くらいで、今まではこう言った活動は英国が中心にやってきました。

英国に任せても良いでしょう。絶対に日本がやらなければいけない仕事ではありません。しかし、タンカーの乗員や石油の輸送路を確保する上で、日本の力が確実に役に立つのです。危険な作業ではありますが、最新の機器に艦艇を備える海自であれば、他国の海軍がやるよりは安全に作業出来るでしょう。

もちろん、掃海部隊の海外派遣は、「安全な石油の輸送には危険に見合うだけの利益が日本にある」と考えられますし、日本人の乗った船舶が機雷の危険にさらされる可能性もあります。

また、日本の海外貢献アピールや集団的自衛権の実践などの政治的問題も絡んでくるでしょう。しかし、それでも、ペルシャ湾の「機雷掃海」が行われた理由は、「機雷掃海によって敵を殺すことはない」ことと「日本の掃海部隊の能力が高いから」というところにあるのです。

そうして、北に対する日米間で合意した『北朝鮮に最大限の圧力を加える』という政策を支持する同盟国の日本の掃海能力が高いことが、北制裁を徹底強化したい米軍の機雷敷設を後押しすることになるかもしれません。

機雷封鎖による北への圧力は相当なものになるはずです。物資の遮断はもとより、心理的圧迫も極度に高まります。漁船も遠洋には出ることができなくなります。当然大和堆での、漁業もできなくなり、日本に漂着する漁船もなくなります。

これは、一つの事例に過ぎず、北による日米の圧力はときが経てば経つほど大きくなっていきます。北朝鮮は覚悟を決めなければなりません。日米は、北を核保有国として認めることはしません。

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