北朝鮮の非人道的な虐待に全米が怒り心頭
16日、北朝鮮・平壌の最高裁で判決後に法廷から出るオットー・ワームビア氏 |
深刻な損傷があったワームビア氏の脳
米国のバージニア大学の学生、オットー・ワームビア氏(22)は北朝鮮の刑務所から解放され、6月12日に出身地の米国オハイオ州の病院に入院した。だが同19日、その若い命が失われた。
ワームビア氏は2016年1月、北朝鮮を観光目的で訪れ、出国直前に平壌の滞在先ホテルに貼られた政治ポスターを盗んだとして逮捕され、15年の「労働強化」という懲役刑に処せられた。オバマ政権は、北朝鮮の強制収容所に拘束された同氏の解放を水面下で求め、トランプ政権も要求を続けた。
この6月に入って、北朝鮮政府はトランプ政権の要求に応じた形で、ワームビア氏を解放する方針を米側に伝えた。そして実際に解放したのだが、同氏はその時点ですでに昏睡状態にあった。北朝鮮側が撮影した映像には、長身の同氏が北朝鮮の係官に両脇を支えられ、やっとのことで歩を進める痛々しい姿が収められていた。
北朝鮮政府はワームビア氏が昏睡状態にある理由を「ボツリヌス菌の感染」と発表した。ボツリヌス菌とは汚染した土壌や食品から生まれる珍しい毒性のバクテリアで、人間の体内に入ると、けいれんや麻痺の重症を起こすという。
ところが米国の医療機関がワームビア氏の身体を検査したところ、ボツリヌス菌はまったく発見されなかった。その代わり、同氏の脳には数カ所に深刻な損傷があったという。米国側では、脳損傷の原因は、外部からの打撃、あるいは特殊な薬品の注入だとみている。入院から1週間後の6月19日午後、ワームビア氏は昏睡状態のまま病院で死亡した。
米国の対北朝鮮政策は一段と強固に
ワームビア氏が死亡すると、米国では、北朝鮮は自分たちの虐待によってワームビア氏の生命に危険が及んだため、あわてて同氏を解放し、昏睡の原因について虚偽の主張をしたのだとする認識が広まった。同氏の両親が記者会見をして、北朝鮮当局による虐待があったと非難したことも国民の怒りをエスカレートさせた。
トランプ大統領は「北朝鮮当局の残虐な行為を非難する」という声明を出した。議会でも超党派で「北朝鮮の非人道的行為を許してはならない」(共和党のジョン・マケイン上院議員)という糾弾が表明された。
米国メディアも、ワームビア氏の衰弱しきった画像を繰り返し流し、北朝鮮の責任を追及する論調を打ち出した。
これまで米国は 基本的に北朝鮮の核兵器開発、ミサイル開発などを非難の対象としていた。しかし、今回ワームビア氏が死亡したことで、北朝鮮の人権弾圧にも批判の矛先が向けられることは避けられない。トランプ政権の対北朝鮮政策は一段と強固になるだろう。
WSJが日本人拉致事件を詳しく解説
米国の国政の場では、北朝鮮に拉致された疑いが濃厚な元米国人学生、デービッド・スネドン氏への関心も改めて高まりつつある。スネドン氏は2004年夏に中国の雲南省で北朝鮮工作員に拉致された可能性が高く、現在は平壌で英語を教えているという情報もある。
米国議会下院は昨年9月、米政府にスネドン氏の本格的捜索を始めることを求めた決議を採択したが、今回のワームビア氏の悲劇によって、スネドン氏捜索の動きは加速するとみられる。
同時にワームビア氏の死は、米国で「北朝鮮による日本人拉致事件」への関心も高める結果となった。ワームビア氏を不当に拘留し、虐待し、しかも平然と嘘をつくという北朝鮮のやり口が、日本人拉致事件と同様だからである。
米国大手紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(6月16日付)は「ワームビア氏は帰国したが、他の人たちはまだ帰ってこない」という見出しの記事で日本人拉致を詳しく解説した。
この記事は、北朝鮮に拉致されたことが確認されている横田めぐみさんの事例を取り上げ、北朝鮮当局が2004年にめぐみさんの「遺骨」の偽物を送ってきた経緯を報じていた。その際、北朝鮮が日本に報告した虚偽の内容は、今回、ワームビア氏の症状について述べた嘘と同様だという。記事では、めぐみさんの母の横田早紀江さんが「ワームビア氏の悲劇に心から同情します」という趣旨の感想を述べたことも報じられた。
ウォール・ストリート・ジャーナルの同記事は、今後、米国当局が日本との協力を深めて、外国人拉致を含む北朝鮮の人権弾圧への糾弾を強めることを訴えていた。
他の米国メディアでも、今回の事件を報じながら日本人拉致事件に言及する報道や評論が少なくなかった。米国人青年のこの悲劇は、北朝鮮に今なお拘束されている米国人や日本人の解放を早める契機となるはずである。
【私の論評】我が国は拉致被害者奪還作戦を展開できる国になるべき(゚д゚)!
本日は、特に分析するようなことはしませんが、この事件に関する事柄を以下にまとめておきます。
北朝鮮外務省の報道官はワームビア氏が死亡した日、「ワームビア氏の送還のために北朝鮮を訪問した(米国)医師が、我々が心臓がほぼ止まったワームビア氏を救って治療したことを認めた」とし「ワームビア氏が死亡したのは労働教化中の拷問と殴打を受けたためという事実無根の世論が広まっていることについて、彼らは話す言葉があるはず」と述べています。
続いて「ワームビア氏が生命指標が正常な状態で米国に戻った後1週間も経たずに急死したのは我々にも謎だ」とし「今回の事件による最大の被害者は我々(北朝鮮)だ」と主張しました。さらに「彼が米国に戻るまで誠意を尽くして治療した」と強調しました。
一方、この日の共同通信によると、チェ・ソンリョン拉致被害者家族会代表が「平壌(ピョンヤン)の消息筋から得た情報」とし「ワームビア氏が出国しようとした日、ホテルの部屋で荷物を整理しながら靴を労働新聞に包んだが、ここに金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長の写真が載っていた」と主張しました。チェ代表は「金正恩委員長の写真に土がついたためワームビア氏が拘束されたと聞いた」と話しました。
6月13日にシンシナティ大医療センターに運ばれたワームビアさん。医師らは15日、意識不明の状態で、脳に重い損傷があると発表しました。
北朝鮮が送ってきた脳の画像は昨年4月のもので、損傷はその数週間前に起きた可能性が高いといいます。
北朝鮮側は、ワームビアさんがボツリヌス菌に感染し睡眠薬を服用して、昏睡状態に陥ったと説明。ところが、診断した同医療センターの医師らはボツリヌス菌は検出されなかったと述べました。
父フレッドさんは15日に記者会見で憤りました。「ボツリヌス菌や睡眠薬で昏睡状態になったという説明は信じない。たとえ信じたとしても、どんな文明国家にも、これほど長く息子の容体を隠し、最新の医療を受けさせなかったことに正当な理由はない」
父フレッド・ワームビアさん=6月15日、オハイオ州 |
「6月13日夜、オットーがシンシナティに戻ったとき、話すことも、見ることも、言葉に反応することもできませんでした。非常に心地が悪いようでした。苦悶しているかのような。息子の声を聞くことはもうありませんが、1日で息子の顔つきは変わったのです。安らかになりました。故郷に戻り、それを感じたのだと思います」
「息子とその家族を思い、祈ってくださった世界中の皆様に感謝いたします。私たちも、ふるさとに心穏やかにおります」
北朝鮮の法定で礼をするワームビア氏 |
米国の数多くの旅行会社が、北朝鮮旅行の取り扱いを止めたと発表しました。また先月、米国の共和党および民主党議員らは、米国人による観光を目的とした北朝鮮渡航を禁止する法案を提出しました。なぜなら北朝鮮との緊迫した関係により、政治的理由で米国人が拘束される危険性があるからです。
トランプ大統領は就任以来、北朝鮮に対する圧力を強化する意向を何度も表しています。トランプ大統領は、北朝鮮のほぼ全ての貿易額を占める中国に対し、北朝鮮経済へのサポートを拒否するよう呼びかけ、説得しました。なぜならオバマ前政権の「戦略的忍耐」政策は、効果がなかったと考えられているからです。
米国が、北朝鮮観光を手配する個人及び団体に対して再び制裁を発動する可能性も十分あります。なお、法的観点から見てそれは非常に困難であるものの、北朝鮮観光を手配する個人及び団体の多くは中国、英国、米国に拠点を置いています。
一連の専門家らは、対北朝鮮制裁は機能しておらず、北朝鮮がさらに軍備増強と攻撃的な方向へ向かうよう挑発し、状況を悪化させているだけだとの見解を示しています。
トランプ大統領は就任以来、北朝鮮に対する圧力を強化する意向を何度も表しています。トランプ大統領は、北朝鮮のほぼ全ての貿易額を占める中国に対し、北朝鮮経済へのサポートを拒否するよう呼びかけ、説得しました。なぜならオバマ前政権の「戦略的忍耐」政策は、効果がなかったと考えられているからです。
米国が、北朝鮮観光を手配する個人及び団体に対して再び制裁を発動する可能性も十分あります。なお、法的観点から見てそれは非常に困難であるものの、北朝鮮観光を手配する個人及び団体の多くは中国、英国、米国に拠点を置いています。
一連の専門家らは、対北朝鮮制裁は機能しておらず、北朝鮮がさらに軍備増強と攻撃的な方向へ向かうよう挑発し、状況を悪化させているだけだとの見解を示しています。
在りし日のワームビア氏 |
救う会」の西岡力会長は、米国では核・ミサイル問題に関心が集中していると指摘。中国で北朝鮮工作員に拉致された疑いがあるデービッド・スネドンさん=失踪当時(24)=の事案もあるが、拉致問題全体への認識は皆無で「米国で関心が高まるきっかけになれば」と語りました。
北朝鮮は最近、人権問題をめぐる国際刑事裁判所への提起など国際的批判に神経をとがらせ、治安当局にも逮捕者の適正な処遇などを周知しているといい、ワームビア氏については「重症化したため、『拷問死』などの批判をかわすため焦って帰した」と分析しています。
また、米国が今回の問題で早期に軍事行動などの強硬手段に出る可能性は低いとした上で、「米国は自国民を救い出したが厳しい結果になった。日本人の被害者にも猶予はない」と救出への取り組み加速を訴えました。
家族会代表で田口八重子さん(61)=拉致当時(22)=の兄、飯塚繁雄さん(79)は「拉致問題で米国が日本とともに具体的行動をすぐ取るとは思えないが、捕らわれた国民がいるという部分で同じだ。進展の可能性があるかもしれない」と話しました。
私として、日本の拉致被害者問題のほうが、今回のワームビア氏の事件よりもより一層深刻だと思っています。
なぜなら、ワームビア氏は自らツアーで北朝鮮に出かけ上で、このような悲惨な目にあっています。しかし、日本の拉致被害者はそうではありません。日本で、普通に暮らしていたにもかかわらず、拉致され北朝鮮に強制的に連行されているのです。
ワームビア氏の場合は、今回のようにはっきりと目にわかる形で北朝鮮から戻ってきて死亡しました。日本の拉致被害者も、北朝鮮でどのような目にあっているかなど全くわかりません。
例え、金正恩が木っ端微塵になり、北の核とミサイルが処理されても、拉致被害者を奪還できなけば、我が国は朝鮮有事で大敗を喫したに等しいです。米国と協力するしないは別にして、少なくとも、我が国は拉致被害者奪還作戦を独力で展開できる国にならなければ、まともな独立国とはいえません。