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2020年5月20日水曜日

コロナの裏で進められる中国の香港支配―【私の論評】米国や台湾のように日本と香港の関係を強化すべき(゚д゚)!


 国際社会は目下、新型コロナウイルス(COVID-19)への対応で精一杯であるが、この機会に乗じたような形で、中国政府は香港への締め付け強化に乗り出した。香港警察は、4月18日、民主派主要メンバー15人を一斉摘発した。この中には、現職の立法会議員である梁耀忠氏や「民主の父」と呼ばれる李柱銘(マーティン・リー)元議員、民主化運動支持のメディア、蘋果日報(アップル・デーリー)の創設者である黎智英(ジミー・ライ)氏も含まれる。


 また、香港政府は、4月19日、「香港基本法」(ミニ憲法と呼ばれるもの)の解釈を変更し、中国による香港への事実上の介入を合法化した。

 4月18日付の台湾の英字紙タイペイ・タイムズ紙は、社説で、中国政府がCOVID-19 に関するプロパガンダを世界に拡散させている陰で、香港の司法の独立を破壊する企てを進めていることを警告している。このような香港での動きの背後にある中国の介入意図に対して、警戒を怠るべきではないと呼び掛けている。もっともな内容である。

 香港では、昨年6月に、民主派諸勢力による反政府デモが本格化して以降、今回の摘発は最大の規模に当たる。民主派諸勢力は新型コロナウイルスへの対策もあり、デモの際には、5人以上が1か所に集まることがないように、香港政府や中国共産党に対するデモを自粛してきた。その間隙に乗じるような形で、今回の民主派主要メンバー15人の摘発行為が行われた。

 さらに、中国及び香港政府側は、この摘発行為の直後に唐突な形で、「香港基本法」の解釈を変更した。「香港基本法」第22条には、「中国政府所属の各部門は香港特別行政区が管理する事務に干渉できない」と規定されている。ところが4月17日、突如として、中央政府駐香港連絡弁公室等は、従来の解釈を変更し、「自分たちは中国政府所属の各部門ではない」と主張しはじめた。

 そして、4月19日には、香港政府もこの主張を追認し、事実上、中国政府が合法的に香港の問題に介入することができる道が開かれた。そして、香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、香港の民主化運動を「国家安全保障への脅威」と位置付けた。

香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官

 中国共産党は、昨年11月の香港区議会議員選挙における民主派勢力の圧倒的勝利に危機意識を募らせていたが、本年9月に予定されている立法院(議会)選挙を控え、香港基本法の解釈を変えてでも、民主化運動を阻止することを決めたのであろう。

 このようにして、事実上、香港における「一国二制度」の法的運用は挫折し、中国共産党の言う「法の支配」は空念仏に終わることとなった。

 昨年までの香港の大規模デモなどの動きを考えれば、香港での民主化運動がこれで直ちに終止符を打つとは考え難い。香港民主派諸勢力は、本年7月には大規模デモを行うことを準備しているとも伝えられるが、中国・香港をめぐる緊張関係は今後一層強まるものと見るべきだろう。

 4月18日の香港の民主派逮捕等に関しては、ポンペオ国務長官が声明を出し、中国共産党政府は、香港返還後も高度な自治を保障し、法の支配と透明性を確保するとの中英共同宣言のコミットメントに反する行為であると非難した。マッコネル上院院内総務も、中国共産党が新型コロナウィルスを利用して平和裡に抗議する民主派を逮捕することは許されない、我々は香港と共にある(We stand with Hong Kong)とツイートした。

 香港問題は、今後も、香港内の対立を生むばかりでなく、米中対立の1つの火種にもなるだろう。

【私の論評】米国や台湾のように日本と香港の関係を強化すべき(゚д゚)!

台湾のコロナ対策については、このブログでも何度か掲載しました。昨年夏に中国政府が発表した台湾への個人旅行禁止令。台湾の香港デモ支持や蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の訪米などに対する仕返しと考えられ、台湾経済に大きな打撃を与えていたが、結局はそれで台湾人の命が救われました。「人間万事塞翁馬」という言葉そのものでした。

ただし、台湾政府の反応も素早いものでした。今年1月23日に武漢が封鎖されると、台湾は2月6日に中国人の入境を全面禁止しました。台湾は中国の隠蔽体質をよく知っていて、公表されたデータを決して信じないので、迷わず決断しました。ちなみにもう1つ、どこよりも早く中国人の入国を禁止した国がある。中国の最も親しい兄弟と称する北朝鮮です。

香港の対応も素早いものでした。中国国内で武漢における感染発生がまだ隠され、警鐘を鳴らした医者が警察に処分されていた1月1日前後、一国二制度のおかげで報道の自由がある香港メディアは問題を大きく報道し、市民に注意を呼び掛けました。中国官僚のごまかしをよく知っている香港人が、2003 年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓をしっかりと心に刻み、徹底的な対策をしたことも効果的でした。

そうして、その背後には日本人の活躍もあります。それは、香港大学公共衛生学院の福田敬二院長です。福田氏は、東京生まれです。幼少期の頃に医師だった父の仕事の関係でアメリカで育ちました。

香港大学公共衛生学院の福田敬二院長
バーモント大学で医師の資格を取得し、カリフォルニア大学バークレー校で公衆衛生の修士号を取得。その後、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)で疫学の専門家としてインフルエンザ局疫学部長を務めたほか、世界保健機関(WHO)の事務局長補などの要職を歴任し、2016年12月から現職です。

1997年に鳥インフルエンザA(N5N1)が広がった際、CDCのメンバーとして来港したほか、重症急性呼吸器症候群(SARS)の時にも香港を訪れてアドバイスしています。エボラ出血熱などでも手腕を発揮するなど疫学の世界的権威の1人です。

香港では、福田敬二氏の指導により、欧米のようにロックダウンをせず、外出も認めています。一方、レストランは総座席数の50%しか利用させないなどの制限付きの営業活動を認め、経済にも配慮しつつ感染爆発を防ぎました。市民一人ひとりにソーシャルディスタンスを呼び掛けるだけではなく、意図的に作り出したのです。

その香港では、大学入試で出された歴史の問題をめぐり、中国側が「日本の侵略を美化するものだ」と取り消しを要求、民主派や教師が中国の介入に反発を強めています。

批判されているのは、14日に行われた統一試験の歴史の設問。(1)1905年に清国側の要望で日本の法政大に1年の速成課程が設置されることが記された文書(2)12年に中華民国臨時政府が日本側に支援を求めた書簡-を資料として挙げた上で、「1900~45年の間に日本は弊害よりも多くの利益を中国にもたらした」とする説について、どう考えるかを問うものでした。

大学入試問題に日中の歴史が出題されたことを伝える香港の新聞

試験後、中国系香港紙や中国外務省の香港出先機関が「日本の弊害を示す資料が提示されていない」「中国国民の感情を著しく害する設問だ」などと非難。香港政府の楊潤雄教育局長は「(日本の侵略が)有害無益だったことは議論の余地がない」として、入試を担当する独立機関に対し、設問を無効とするよう求める異例の事態に発展しました。

中国国営の新華社通信も15日、「設問を取り消さなければ、中国人の憤怒は収まらない」と強く反発し、「香港の教育は学生に毒をばらまいている。根治させよ」と香港政府に要求する論評を配信した。

これに対し、教育界選出の香港立法会(議会)議員(民主派)である葉建源氏は、「設問は学生に同意を求めているのではなく、分析能力を問うものだ」として、香港・中国当局の過剰な反応を批判しています。

香港は41年から45年まで日本の支配を受けた歴史があり、香港政府や中国の見解を支持する声もあります。一方で当局の激しい批判をめぐり、「青少年の自由な思考を抑圧するものだ。文化大革命を想起させる」(高校教師)との懸念も出ています。

民主派寄りの香港紙、蘋果日報は、毛沢東が生前、日本軍が中国の大半を占領しなければ中国共産党は強大になれなかったとして、「日本軍閥に感謝しなければならない」と述べていたことを紹介、設問を問題視する当局を揶揄(やゆ)しています。

さて、香港は日本人にとって人気の渡航先の1つで、2018年に香港を訪問した日本人の数は128万7800人に上りました。距離も近く、美食も豊富で、アジアと欧米の文化の交差点ともいえる香港は独特の魅力であふれています。

日本が好きな香港人も少なくなく、英語が通じる利点もあります。中国メディアの百度家は15日、香港は日本人旅行者を歓迎するのに、中国人はさほど歓迎されていないと不満を示す記事を掲載しました。

どんなところに、日本人と中国からの旅行者に対する対応の違いを感じるのでしょうか。記事は、「滞在できる期間が全然違う」と伝えています。中国からの旅行者は、「わずか7日」しか滞在できないのに、日本人は90日も滞在できることを強調しました。

記事は、この理由について「中国から人が流入しすぎた」ことにあると分析。香港は世界でもまれにみる超過密地域で、極めて小さなエリアに700万人以上がひしめき合って暮らしています。そのため、住宅と交通に深刻なひずみが出ているが、記事はそうなってしまったのはひとえに香港の進んだ経済・生活・教育に引き寄せられて移住してきた中国からの流入者のためだとしています。

記事では指摘していないですが、中国から越境して香港で出産しようとする女性もいるため、妊婦の入境にも厳しいです。香港政府はこれ以上の流入を抑えようとしているようです。

それに引き換え、日本からの旅行客は移住が目的ではなく短期旅行者です。そのため、香港にとっては「経済を回してくれる」貴重な存在で、むしろ「長期滞在して欲しい」くらいだ、と差別的に感じる香港政府の対応には理由があると伝えています。

香港は訪日旅行者の多い地域でもあります。2018年には人口が700万の香港から220万人もの香港人が日本を訪問しており、その多くがリピート客だったと言われています。今は日本も香港も、双方が旅行客を受け入れられない状態が続いていますが、早く以前のように旅行者が行き来できるようになってほしいものです。


日本人が、香港のコロナ禍の封じ込めに寄与したこと、コロナ以前には、互いの交流が盛んだったことを考えると、日本と香港は良好な関係にあると言って良いでしょう。

ただ、残念なのは、米国のように香港を支援する動きが日本ではあまりないことです。米国では法的措置をとってまで、香港を支持する姿勢を明確にしています。

世界が香港情勢を注視するなかにあって、香港人の苦悩にとりわけ心を寄せ、支援を行ってきたのが、台湾の人びとです。蔡英文総統は国際社会に対して香港の自由と法治のための行動を呼びかけました。

桃園市のような地方レベルでも香港からの移民支援に関する議論が始まっています。大学でも、香港からの学生の短期受け入れが積極的に行われています。

市民レベルでの支援も活発です。昨年6月以来、台湾各地では、香港に連帯する集会やデモが頻繁に行われていました。大学の構内には、学生たちが香港への連帯の言葉を綴った紙をびっしり貼り付けた「レノンウォール」が出現し、教会は、カンパを集めて防毒マスクやヘルメットをデモ隊に送り届ける地下チャネルの窓口となりました。

最近では、逮捕のリスクにさらされる香港の若者たちを台湾へ逃亡させる地下ネットワークが立ち上がり、牧師、漁民、富裕な資金援助者といった支援者たちが協力して、200人以上の香港の若者を台湾に逃したことが報じられています。

昨年の、香港の抗議活動の特徴は、破壊行動も辞さない過激派と、平和な集会やデモを行う穏健派のあいだの連帯が一貫して保たれていることにありました。両者の団結が、デモ発生前の香港社会の状況と抗議活動の展開のなかから創り出された「連帯の倫理(ethic of solidarity)」――仲間割れを避け、団結を維持しようとする精神――に支えられているこようです。

台湾の香港に対する精神的支援も、この「連帯の倫理」に貫かれています。台湾の学生や知識人たちの多くは、香港の穏健派がそうであるように、過激派の破壊活動を非難するのではなく、彼らをそのような行動に追い詰める香港の政府・警察の対応、そして中国政府の姿勢を強く問題視しています。

台湾の人びとは、2019年の香港人の苦難に、自らの歴史を重ねて深い同情を寄せています。台湾は、1947年の「二二八事件」とそれに続く白色テロの時代に、多くの有為の若者を失いました。これによって国民党政権と台湾の本省人社会の間に生まれた不信感と社会の亀裂は、何十年にもわたって続き、今なお完全に癒えてはいません。

香港の一部の若者たちの破壊行動に対して、年配者を含む台湾の人びとが「連帯の倫理」を発揮するのは、若者たちが払いつつある犠牲の大きさと社会の傷の深さを、台湾の人びとが我がこととして深く理解しているからであるように思われます。

日本でも、市民ベースで、「連帯の倫理」で台湾・香港の人々との絆を深めるとともに、日本政府としても、香港支援の具体的な動きをしてほしいものです。

コロナ禍に乗じて世界への覇権を強め、あわよくば、世界秩序を中国にとって都合の良いものに作り変えようとする、中国の野心はあからさまになりました。

これに対して、米国をはじめとして、世界中の国々が中国に対抗しようとしている現状で日本だけがこの動きに乗り遅れているようです。

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