- 新米の収穫が始まったが、スーパーではコメの品薄状態が続いている。
- 政府は在庫が十分にあると主張しているが、消費者はコメ不足を実感している。
- コメ不足の要因には、減反生産調整、昨年の猛暑による品質低下、インバウンド需要の増加があるようだ
- 卸業者は在庫不足への不安や値崩れの懸念から流通が滞っている。
- 新米が流通しても、肥料や人件費の高騰によりコメの価格は上昇する見込み。
夕日に照らされて黄金色に輝く北海道上川郡東川町の水田 |
コメ不足の背景にはいくつかの要因があります。まず、過去2年間にわたり生産調整が行われており、これにより毎年約10万トンの減産が続いています。さらに、昨年の猛暑が影響し、米粒の品質が低下したため、流通から排除されるケースも多く見られました。加えて、インバウンド需要の増加が重なり、全体的な供給が不足する事態となっています。
こうした状況の中で、卸業者は在庫がなくなることへの不安感や、価格が急落することへの懸念を抱えているため、流通が滞る原因となっています。新米が市場に出回り始めても、肥料や人件費の高騰が影響し、コメの価格は元の水準には戻らず、むしろ上昇することが予想されています。
政府の農林水産省は、通常の価格での取引を求めていますが、政府の認識と実際の市場状況とのギャップは、今後も続く可能性が高いと言えるでしょう。このように、コメの流通に関する問題は複雑で、消費者にとっては厳しい状況が続いているのが現実です。
- 日本の米の供給不足と価格高騰は、政府の長年にわたる減反政策が根本原因であり、供給の柔軟性を欠く状況を生んでいる。
- 減反政策により、米の生産量はピーク時の半分以下に抑えられ、需要の変動に対して脆弱な供給体制が形成されている。
- インバウンド需要の増加や昨年の猛暑による品質低下は、供給不足の主要な要因ではなく、2023年産米の作況指数は平年並みであった。
- 減反政策は日本の農業の国際競争力を低下させ、農家の収入減少や営農意欲の低下を招いている。
- 国際市場を見据えた戦略的な農業政策の実施が求められており、輸出促進や生産性向上、食料安全保障の強化が重要である。
減反政策は1970年から実施され、2018年に形式上は廃止されましたが、実質的には生産調整の仕組みが残されています。この政策は、米の生産を意図的に抑制することで市場価格を維持することを目的としていましたが、結果として供給の柔軟性を著しく欠く状況を生み出しました。
米の作付け面積の推移 |
元農水官僚の山下一仁氏によると、日本のコメ生産量はピーク時の1445万トンの半分以下に抑えられています。これは、水田の約4割を減反し、6割しか使用していないことを意味します。このような極端な生産抑制により、需要のわずかな変動でも即座に品薄状態となり、価格高騰につながる脆弱な供給体制が形成されています。
政府は、インバウンド需要の増加や昨年の猛暑による品質低下を供給不足の原因として挙げていますが、これらは主要な要因ではありません。
一方減反政策は日本の農業の国際競争力を低下させる要因ともなっています。世界的に見れば、日本のコメは高品質で競争力を持つ可能性がありますが、現行の政策は国内市場での高価格維持に注力するあまり、輸出拡大の機会を逃しています。
この政策の継続は、農家の経営にも悪影響を及ぼしています。補助金に依存する体質を生み出し、市場原理に基づいた生産調整や効率化を阻害しています。また、農家の収入を直接的に減少させ、長期的には営農意欲の減退にもつながっています。さらに、地域の自然環境にも影響を与える可能性が指摘されています。
政府の農業政策のまずさは、米の単位面積当たりの収穫量(単収)の停滞にも表れています。山下氏によると、日本の単収は、かつて日本の半分だった中国にも追い抜かれ、カリフォルニアの1.6倍にまで差をつけられています。これは、減反政策によって品種改良や生産性向上への取り組みが抑制されてきた結果です。
加えて、減反政策は日本の農業構造に深刻な影響を与えています。補助金依存の体質は、農業の自立性を損ない、市場原理に基づいた効率的な生産を妨げています。これにより、日本の農業は国際競争力を失い、輸出機会を逃しています。
また、環境面でも問題を引き起こしています。水田の減少は、日本の伝統的な景観を変え、生態系にも影響を与えています。さらに、食用以外の飼料用米の生産減少は、畜産業にも波及効果をもたらす可能性があります。
結論として、現在の米の供給不足と価格高騰は、政府の長年にわたる減反政策がもたらした構造的な問題の結果です。インバウンド需要の増加や気候変動の影響は二次的な要因に過ぎず、根本的な解決には減反政策の抜本的な見直しと、生産性向上、国際競争力強化に向けた新たな農業政策の策定が不可欠です。
訪日外国人は米を食べるがそれは日本全体からいえば微々たる量に過ぎない |
この問題の解決には、市場原理に基づいた生産調整の導入、農業技術の革新、そして国際市場を見据えた戦略的な農業政策の立案が必要です。「国際市場を見据えた戦略的な農業政策」とは、日本の米の高品質を活かし、世界市場での競争力を強化することを目指すものです。
具体的には、以下の点が重要です:
- 輸出促進:日本米を「コメのロールスロイス」として高級品市場に位置づけ、積極的に海外展開を図ります。
- 生産性向上:減反政策を廃止し、生産量を増やすとともに、品種改良や先進的な農業技術の導入により単収を向上させます。
- 食料安全保障の強化:山下氏の試算によれば、減反を止めて単収の高い米に変えれば、年間1700万トンの生産が可能となり、1000万トンを輸出に回せる可能性があります。
- 多様な需要への対応:食用米だけでなく、飼料用米や加工用米など、多様な需要に対応できる生産体制を整えます。
- ブランド戦略の強化:日本米の品質や安全性、文化的価値を積極的にアピールし、国際市場でのブランド価値を高めます。
減反政策の廃止後、農業のビジネス化がより加速する可能性が指摘されています。これは、上記の戦略的な農業政策の実施と合わせて、日本の農業の競争力強化と持続可能な発展につながる可能性があります。
以上のように、日本の米農業の問題は複雑で多岐にわたりますが、減反政策の見直しと国際市場を見据えた戦略的な農業政策の実施により、現在の供給不足と価格高騰の問題を解決し、さらには日本の農業を新たな成長産業へと転換させる大きな可能性があります。