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2024年8月31日土曜日

【続くコメ品薄】国「在庫は十分」とするも『店頭はスカスカ』…流通に何が起きてる?複数の要因で足りない状態&"不安感"も背景か 北海道―【私の論評】日本の米供給不足と価格高騰の真因:政府の減反政策がもたらす影響とは

【続くコメ品薄】国「在庫は十分」とするも『店頭はスカスカ』…流通に何が起きてる?複数の要因で足りない状態&"不安感"も背景か 北海道

まとめ
  • 新米の収穫が始まったが、スーパーではコメの品薄状態が続いている。
  • 政府は在庫が十分にあると主張しているが、消費者はコメ不足を実感している。
  • コメ不足の要因には、減反生産調整、昨年の猛暑による品質低下、インバウンド需要の増加があるようだ
  • 卸業者は在庫不足への不安や値崩れの懸念から流通が滞っている。
  • 新米が流通しても、肥料や人件費の高騰によりコメの価格は上昇する見込み。

夕日に照らされて黄金色に輝く北海道上川郡東川町の水田

 新米の収穫時期を迎えましたが、現在もスーパーの店頭ではコメの品薄状態が続いています。この状況に対して、政府は在庫が十分にあると主張しており、消費者が感じている実感との間に大きなギャップが生じています。

 コメ不足の背景にはいくつかの要因があります。まず、過去2年間にわたり生産調整が行われており、これにより毎年約10万トンの減産が続いています。さらに、昨年の猛暑が影響し、米粒の品質が低下したため、流通から排除されるケースも多く見られました。加えて、インバウンド需要の増加が重なり、全体的な供給が不足する事態となっています。

 こうした状況の中で、卸業者は在庫がなくなることへの不安感や、価格が急落することへの懸念を抱えているため、流通が滞る原因となっています。新米が市場に出回り始めても、肥料や人件費の高騰が影響し、コメの価格は元の水準には戻らず、むしろ上昇することが予想されています。

 政府の農林水産省は、通常の価格での取引を求めていますが、政府の認識と実際の市場状況とのギャップは、今後も続く可能性が高いと言えるでしょう。このように、コメの流通に関する問題は複雑で、消費者にとっては厳しい状況が続いているのが現実です。

北海道ニュースUHB

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本の米供給不足と価格高騰の真因:政府の減反政策がもたらす影響とは

以下に、校正した文章の要点を5つ以内の箇条書きでまとめました。

まとめ
  • 日本の米の供給不足と価格高騰は、政府の長年にわたる減反政策が根本原因であり、供給の柔軟性を欠く状況を生んでいる。
  • 減反政策により、米の生産量はピーク時の半分以下に抑えられ、需要の変動に対して脆弱な供給体制が形成されている。
  • インバウンド需要の増加や昨年の猛暑による品質低下は、供給不足の主要な要因ではなく、2023年産米の作況指数は平年並みであった。
  • 減反政策は日本の農業の国際競争力を低下させ、農家の収入減少や営農意欲の低下を招いている。
  • 国際市場を見据えた戦略的な農業政策の実施が求められており、輸出促進や生産性向上、食料安全保障の強化が重要である。
現在の日本における米の供給不足と価格高騰の根本原因は、政府の長年にわたる農業政策、特に減反政策にあります。

減反政策は1970年から実施され、2018年に形式上は廃止されましたが、実質的には生産調整の仕組みが残されています。この政策は、米の生産を意図的に抑制することで市場価格を維持することを目的としていましたが、結果として供給の柔軟性を著しく欠く状況を生み出しました。

米の作付け面積の推移

元農水官僚の山下一仁氏によると、日本のコメ生産量はピーク時の1445万トンの半分以下に抑えられています。これは、水田の約4割を減反し、6割しか使用していないことを意味します。このような極端な生産抑制により、需要のわずかな変動でも即座に品薄状態となり、価格高騰につながる脆弱な供給体制が形成されています。

政府は、インバウンド需要の増加や昨年の猛暑による品質低下を供給不足の原因として挙げていますが、これらは主要な要因ではありません。

山下氏によれば、インバウンド消費の増加は全体の消費量のわずか0.5%程度に過ぎず、また2023年産米の作況指数は101で平年並みでした。ただし、2023年産米の品質低下については、特に新潟県のコシヒカリの1等米比率が4.9%、うるち全体で15.7%と過去最低を記録したことが確認されており、この点は供給不足に一定の影響を与えた可能性があります。

一方減反政策は日本の農業の国際競争力を低下させる要因ともなっています。世界的に見れば、日本のコメは高品質で競争力を持つ可能性がありますが、現行の政策は国内市場での高価格維持に注力するあまり、輸出拡大の機会を逃しています。

この政策の継続は、農家の経営にも悪影響を及ぼしています。補助金に依存する体質を生み出し、市場原理に基づいた生産調整や効率化を阻害しています。また、農家の収入を直接的に減少させ、長期的には営農意欲の減退にもつながっています。さらに、地域の自然環境にも影響を与える可能性が指摘されています。


政府の農業政策のまずさは、米の単位面積当たりの収穫量(単収)の停滞にも表れています。山下氏によると、日本の単収は、かつて日本の半分だった中国にも追い抜かれ、カリフォルニアの1.6倍にまで差をつけられています。これは、減反政策によって品種改良や生産性向上への取り組みが抑制されてきた結果です。

加えて、減反政策は日本の農業構造に深刻な影響を与えています。補助金依存の体質は、農業の自立性を損ない、市場原理に基づいた効率的な生産を妨げています。これにより、日本の農業は国際競争力を失い、輸出機会を逃しています。

また、環境面でも問題を引き起こしています。水田の減少は、日本の伝統的な景観を変え、生態系にも影響を与えています。さらに、食用以外の飼料用米の生産減少は、畜産業にも波及効果をもたらす可能性があります。

結論として、現在の米の供給不足と価格高騰は、政府の長年にわたる減反政策がもたらした構造的な問題の結果です。インバウンド需要の増加や気候変動の影響は二次的な要因に過ぎず、根本的な解決には減反政策の抜本的な見直しと、生産性向上、国際競争力強化に向けた新たな農業政策の策定が不可欠です。

訪日外国人は米を食べるがそれは日本全体からいえば微々たる量に過ぎない

この問題の解決には、市場原理に基づいた生産調整の導入、農業技術の革新、そして国際市場を見据えた戦略的な農業政策の立案が必要です。「国際市場を見据えた戦略的な農業政策」とは、日本の米の高品質を活かし、世界市場での競争力を強化することを目指すものです。

具体的には、以下の点が重要です:
  1. 輸出促進:日本米を「コメのロールスロイス」として高級品市場に位置づけ、積極的に海外展開を図ります。
  2. 生産性向上:減反政策を廃止し、生産量を増やすとともに、品種改良や先進的な農業技術の導入により単収を向上させます。
  3. 食料安全保障の強化:山下氏の試算によれば、減反を止めて単収の高い米に変えれば、年間1700万トンの生産が可能となり、1000万トンを輸出に回せる可能性があります。
  4. 多様な需要への対応:食用米だけでなく、飼料用米や加工用米など、多様な需要に対応できる生産体制を整えます。
  5. ブランド戦略の強化:日本米の品質や安全性、文化的価値を積極的にアピールし、国際市場でのブランド価値を高めます。
このような戦略的な農業政策を実施することで、日本の米農業は国際競争力を獲得し、国内の供給不足問題を解決するとともに、新たな成長産業として発展する可能性があります。同時に、これは日本の食料安全保障を強化し、農業の持続可能性を高めることにもつながります。

減反政策の廃止後、農業のビジネス化がより加速する可能性が指摘されています。これは、上記の戦略的な農業政策の実施と合わせて、日本の農業の競争力強化と持続可能な発展につながる可能性があります。

以上のように、日本の米農業の問題は複雑で多岐にわたりますが、減反政策の見直しと国際市場を見据えた戦略的な農業政策の実施により、現在の供給不足と価格高騰の問題を解決し、さらには日本の農業を新たな成長産業へと転換させる大きな可能性があります。

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2024年7月16日火曜日

「改造車内で若い兵士の腎臓と眼球摘出」 元中国医師が「臓器狩り」証言、台湾で会見―【私の論評】中国の臓器移植問題:非人道的行為の実態と国際的懸念の高まり

「改造車内で若い兵士の腎臓と眼球摘出」 元中国医師が「臓器狩り」証言、台湾で会見

まとめ
  • 台湾の立法委員と民間団体が、中国での違法な臓器移植の横行を指摘し、各国に規制法の制定を呼びかけた。
  • 元中国軍医の鄭治氏が、1994年に目撃した18歳未満の兵士からの臓器摘出の実態を証言した。
  • 中国当局による「臓器狩り」の対象には、法輪功信者やウイグル人、チベット人が含まれているとの指摘がある。
  • カナダの報告書によると、中国当局は年間6万〜10万件の臓器移植を実施していると推計されている。
  • 台湾の政治家らは、中国の臓器収奪を規制するための法整備を進める意向を示している。
中国軍の病院に勤務していた際の生体臓器摘出について証言する鄭治氏(中央)=15日

 台湾の政治家と民間団体が中国における非合法な臓器摘出と移植の横行を指摘し、各国に規制法の制定を呼びかける記者会見を開きました。この会見で、元中国軍医の鄭治氏が1994年に目撃した衝撃的な臓器摘出の実態を証言しました。鄭氏は、18歳未満の兵士から臓器を摘出し軍高官に移植する「秘密軍事任務」に参加させられ、改造車両内で麻酔なしに若い兵士から腎臓と眼球を摘出する手術を目撃したと語りました。

 中国当局による「臓器狩り」の対象には、法輪功信者やウイグル人、チベット人が含まれているとの指摘があり、カナダの報告書によると中国当局は年間6万〜10万件の臓器移植を実施していると推計されています。国連人権理事会が中国に独立機関による調査を求めましたが、中国側は否定し拒否しました。

 これらの深刻な問題に対し、台湾の政治家らは中国の臓器収奪を規制するための法整備を進める意向を示しています。この記事は、中国における非合法な臓器摘出の実態と、それに対する国際社会の懸念や対応を明らかにしています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中国の臓器移植問題:非人道的行為の実態と国際的懸念の高まり

まとめ
  • 麻酔なしの臓器摘出は非人道的で、医療倫理に反する重大な人権侵害行為である。
  • 中国では「脳死誘発器」の存在が報告され、臓器移植のためのドナーを人為的に作り出している可能性がある。
  • 中国の臓器移植急増の背景には、強制的な臓器摘出や死刑囚からの臓器摘出、大規模な営利事業化などの要因がある。
  • 中国の臓器移植システムには不透明性があり、国際社会からの批判と疑惑が高まっている。
  • この問題は医療倫理と人権の観点から国際的な懸念事項となっており、継続的な調査と監視が必要である。
腎臓の移植手術を行う医師ら。移植を待つ患者は毎年約30万人に上る=2019年2月、中国湖南省衡陽市

麻酔なしに腎臓や眼球を摘出することは、医学的に正当化できない非人道的で残虐な行為です。通常の医療行為では、患者の苦痛軽減と手術の安全性向上のために必ず麻酔が使用されます。

しかし、この事例では麻酔を使用しないことに特別な意図があったと考えられます。残虐性を強調し、極限状況下での軍事的訓練の一環として行われた可能性や、非倫理的な人体実験であった可能性、さらには被害者や周囲の人々に恐怖を植え付け支配を強化する手段であった可能性などが考えられます。

これらの行為は医療倫理に反し、基本的人権を著しく侵害する重大な犯罪行為です。このような非人道的な行為は、たとえ戦時中の極端な状況下であっても決して正当化されるものではありません。

こうした証言は、戦争犯罪や人道に対する罪の実態を明らかにし、将来同様の事態が起こらないようにするための重要な記録となります。同時に、医療倫理や人権の重要性を再認識させ、平和の尊さを訴える強力なメッセージとなるのです。

ただ、この臓器を取られた若い兵士は、すでに脳死状態にあった可能性もあります。2022年4月、アメリカの非営利団体「世界臓器狩り調査委員会(WOIPFG)」が、中国の病院で使用されている「脳死誘発器」の存在を報告しました。この機器は、生きている人間を人為的に脳死状態にし、臓器摘出を可能にするものだとされています。

この報告によると、中国の複数の病院で、この機器が使用されているとのことです。機器の使用目的は、臓器移植のためのドナーを「作り出す」ことにあると考えられています。この情報は、中国の臓器移植システムにおける倫理的問題をさらに深刻化させるものです。強制的な臓器摘出や、同意のない臓器提供の疑惑に加え、このような機器の存在は、人権侵害の可能性をさらに高めています。

しかし、中国政府はこれらの疑惑を否定し続けており、独立した調査も拒否しています。国際社会からは、中国の臓器移植システムの透明性向上と、これらの深刻な疑惑に対する適切な対応が強く求められています。この問題は、医療倫理と人権の観点から極めて重大であり、継続的な調査と国際的な監視が必要です。

人を人為的に脳死状態にするという機器の模型

中国の臓器移植が急増した背景には、複数の深刻な要因が絡み合っています。まず、中国政府が危険視する集団、特に法輪功学習者やウイグル人、チベット人などからの強制的な臓器摘出が行われているとの指摘があります。また、中国は世界最大の死刑執行国であり、死刑囚からの臓器摘出が長年行われてきました。2015年に停止を宣言しましたが、実際の遵守状況は不明瞭です。

さらに、中国では臓器移植が「1兆円ビジネス」と呼ばれるほどの大規模な営利事業となっており、海外からの富裕な患者を引き付けています。特に注目すべきは、中国での心臓移植の待機期間が平均1〜2ヶ月と極端に短いことです。これは通常の臓器提供システムでは説明がつかず、不自然な臓器供給源の存在を示唆しています。


また、中国は米国以上の移植大国でありながら、国際学術誌に移植関係の論文が掲載されないのは、ドナー情報を明らかにできないためと考えられています。2013年には中国共産党が国家臓器流通システムを構築し、臓器移植の管理を強化しました。

これらの要因が複雑に絡み合い、中国の臓器移植数が急増する一方で、国際社会からの批判と疑惑も高まっています。中国政府は強制的な臓器摘出の疑惑を否定していますが、独立した調査を拒否しており、実態の解明が強く求められています。この問題は、医療倫理と人権の観点から国際的な懸念事項となっており、透明性の確保と適切な対応が急務となっています。

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2024年7月5日金曜日

【中露からの供給依存対策】アメリカが考えるサプライチェーン適切化の野望と決定的な限界点―【私の論評】米国商務省の革新的サプライチェーン分析ツール:グローバル経済の未来を左右する戦略的イノベーション

【中露からの供給依存対策】アメリカが考えるサプライチェーン適切化の野望と決定的な限界点

まとめ
  • 米国商務省が新たなサプライチェーン分析ツールを開発し、同盟国との協力のもと、重要産業分野における供給網のリスクと機会を特定しようとしている。
  • このツールは、従来の自由貿易の考え方に挑戦し、経済的威嚇などの新たなリスクに対応するためのフレンド・ショアリング(同盟国との協力)を促進することを目指している。
  • 米国内では超党派の支持を得ており、関連法案も可決されているが、データの更新速度や企業の機密情報取得など、ツールの実効性に関する課題も存在する。
  • この取り組みは、経済的合理性と国家安全保障のバランス、調達コストの上昇による国民生活への影響など、新たな経済的・政治的課題を提起している。
  • 同盟国以外の国々のデータ不足により、経済的威嚇を仕掛ける側の国々に対する効果的な対抗措置を講じることが難しいという限界も指摘されている。
民間企業におけるサプライチェーン分析ツールの事例

 米国商務省が最近立ち上げたサプライチェーン分析ツールは、グローバルな供給網の実態把握と強靭化を目指す画期的な取り組みです。この新しいツールは、商務省が民間セクターと協力して設立した供給網センターの一環として開発されました。その主な目的は、米国と同盟国の貿易や関税データを詳細に解析し、サプライチェーンにおけるリスクと機会を明確に特定することです。

 このツールは、半導体、希少金属、電子機器などの重要分野に焦点を当て、これらの供給網の健全性を確認することを目指しています。さらに、中国やロシアなどの特定国への依存度を評価し、緊急時における代替供給源の可能性を探ることができます。商務長官補は、この取り組みが同盟国との具体的な議論を可能にし、これまでの一般論に終始していた状況を改善すると述べています。

 しかし、このツールにも限界があります。一部のデータ更新が遅いため、リアルタイム分析には制約があり、また企業が部品構成表などの機密情報を提供する義務がないため、完全な全体像を描くのは困難です。

 一方で、この取り組みは従来の自由貿易の考え方に一石を投じるものでもあります。従来の経済学では、「世界中の多くの人間が、常に1円でも得をしようと、最良の供給元から最短のルートを通って、最安値の運輸方法を用いて、世界中で各種物品を移動させている」という考え方が主流でした。これは「最安値」という共通ルールに基づく「神の手」に導かれた人間社会の営みであり、世界全体の富を最大化する最も適当な方法(=自由貿易)だと考えられてきました。

 しかし、経済的威嚇を影響力行使の手段とする国々の出現により、この自由貿易の基礎となる「価格」に影響を与える新たなコスト(=リスク)を考慮する必要が生じています。このため、サプライチェーンの強靭化が重要となっており、米国の新しい分析ツールはこの課題に対応しようとするものです。

 この取り組みは、フレンド・ショアリング(同盟国との協力)を促進し、より強靭なグローバルサプライチェーンの形成に寄与する可能性があります。例えば、電気自動車やクリーン技術分野で、オーストラリアの希少金属、日本の生産能力、米国の消費市場を組み合わせることで、国際競争力のある製品を生み出す可能性があります。

 米国では、この取り組みが超党派の支持を得ており、サプライチェーンのリスク確認を法制化する「強靭な供給網推進法」が下院で全会一致で可決されています。

 しかし、この新しいアプローチにも課題があります。経済的合理性への配慮が少なく、各種物品の調達コストが上昇し、各国の国民生活に後ろ向きの影響を与える可能性があります。また、同盟国や同志国以外の国々のデータが不足しているため、経済的威嚇を仕掛ける側の国々に対する対抗措置を講じることが難しいという問題もあります。

 総じて、この新しいサプライチェーン分析ツールは、変化するグローバル経済環境に対応しようとする米国の重要な一歩と言えますが、従来の自由貿易の考え方との調和や、新たな経済的・政治的課題への対応など、今後も多くの課題に直面することが予想されます。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】米国商務省の革新的サプライチェーン分析ツール:グローバル経済の未来を左右する戦略的イノベーション

まとめ
  • 米国商務省が開発した「供給網明確化の『道具』」は、サプライチェーンの実態把握、リスク・機会の特定、重要分野の健全性評価を目的としている。
  • このツールは、米国と同盟国の貿易・関税データを解析し、代替供給源の可能性や特定国への依存度を分析できる。
  • フレンド・ショアリングの促進や強靭なグローバルサプライチェーンの形成に寄与することが期待されているが、データ更新の遅れや企業の機密情報の欠如などの課題もある。
  • 米国の優位性(基軸通貨、金融システム、技術力、同盟国ネットワーク)により、他国が容易に真似できない規模と精度のツールが構築された。
  • 日本にとっては、重要物資のリスク早期特定、同盟国との連携強化、経済安全保障向上などのメリットが期待されるが、日米協力と慎重な運用が必要。
サプライチェーンは、モノの流れ、情報の流れ、お金の流れで成り立っている

米国商務省が開発した新たなサプライチェーン分析ツール「供給網明確化の『道具』」(英語では "supply chain mapping tool" と推測)は、主に供給網の実態把握とリスク・機会の特定を目的としています。このツールは商務省と民間セクターの協働により開発され、グローバルサプライチェーンの複雑性に対応する画期的な取り組みとして注目されています。

サプライチェーンのマッピングとは、サプライチェーン内のサプライヤー、作業所、オペレーション、労働者に関する情報を収集して、詳細なグローバルマップを作成することを意味します。 この情報を単一のデータプラットフォームに保持することで、作業条件、管理慣行、サプライチェーンリスクに関する統合分析が可能になります。

このツールの主な機能は、米国と同盟国の貿易・関税データを詳細に解析し、半導体、希少金属、電子機器などの重要分野における供給網の健全性を評価することです。また、戦争や自然災害などの緊急事態における代替供給源の可能性や、中国やロシアなどの特定国への依存度も分析可能です。これにより、潜在的なリスクやボトルネックを迅速に特定し、対策を講じることができます。

さらに、このツールは欧州同盟国やインド太平洋経済枠組み(IPEF)参加国との具体的な供給網の議論を可能にし、世界的なボトルネックを特定するための詳細な分析を提供します。これは、国際的な経済協力や戦略的パートナーシップの強化に大きく貢献すると期待されています。

特に、中国に対するデカップリングやリスキリングに関して、自国や同盟国がなるべく悪影響を受けないようにどのような方式にするか、また順番や期間などに関してどのような優先順位をつけるかに関して有益な情報を提供できるようになる可能性があります。さらには、デカップリングやデリスキリングをしなければ、どのようなリスクがあるかも、ある程度定量的に明らかにできるようになる可能性があります。

デカップリングやデリスクリングに関して危険という論もあるが、定量的な裏付けがあるわけではない

ただし、一部データの更新の遅れや企業の機密情報(部品構成表など)の欠如により、リアルタイム分析や完全な全体像の把握には限界があります。これらの課題は、今後のツールの改善や政策の調整によって解決されていく必要があるでしょう。

このツールは、フレンド・ショアリング(同盟国との経済協力)を促進し、より強靭なグローバルサプライチェーンの形成に寄与することが期待されています。例えば、電気自動車やクリーン技術分野で、オーストラリアの希少金属、日本の生産能力、米国の消費市場を組み合わせることで、国際競争力のある製品を生み出す可能性があります。米国内では超党派の支持を得ており、サプライチェーンのリスク確認を法制化する動きも進んでいます。

米国がこのようなツールを構築できた背景には、いくつかの重要な強みがあります。まず、米ドルが国際取引の基軸通貨であることから、世界中の金融取引の大部分を把握できる独自の立場にあります。また、米国の金融機関や決済システムが国際取引で重要な役割を果たしているため、多くの取引情報へのアクセスが可能です。さらに、データ分析や人工知能の分野における技術的優位性により、複雑なサプライチェーンデータを効果的に処理・分析する能力を有しています。加えて、多くの同盟国や友好国との緊密なネットワークを持ち、情報共有や協力が可能です。

このシステムの開発には膨大な費用がかかると推測されますが、具体的な金額は公開されていません。データ収集・分析システム、高度なAI技術、セキュリティシステムなど、多岐にわたる技術が必要で、数十億ドル単位の投資が必要になる可能性があります。ただし、このような戦略的に重要なシステムの開発費用は、多くの場合、機密情報として扱われる可能性が高いです。

今後、このツールは様々な分野で活用され、重要な成果をもたらす可能性があります。直近では、サプライチェーンのリスク管理、同盟国との経済協力強化、緊急時の代替供給源の確保などに活用される見込みです。長期的には、グローバル経済の安定性向上や、より効率的な国際分業体制の構築に貢献する可能性があります。

ただし、いくつかの課題も残されています。データの更新速度の問題、企業の機密情報共有の難しさ、経済的合理性と国家安全保障のバランスなどが挙げられます。これらの課題を解決するためには、継続的な技術革新と国際協力が不可欠です。

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日本にとっては、このツールの運用から多くのメリットが期待できます。重要物資のサプライチェーンリスクの早期特定、同盟国との経済連携強化、経済安全保障の向上、企業の戦略的投資や事業展開の支援などが可能になるでしょう。また、災害時の迅速な対応やグローバルサプライチェーンの最適化による国際競争力の強化も期待できます。

ただし、これらのメリットを最大限に活用するためには、日米間の緊密な協力と情報共有が不可欠です。また、データの取り扱いや解釈に関する専門知識を持つ人材の育成も重要な課題となります。さらに、このシステムの運用が経済的合理性を損なわないよう、慎重なバランス取りも必要になると考えられます。

総じて、米国のサプライチェーン分析ツールは、グローバル経済の複雑性と不確実性が増す中で、重要な役割を果たすことが期待されています。その効果的な活用と継続的な改善により、より強靭で持続可能な国際経済システムの構築に貢献する可能性があります。

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2024年5月29日水曜日

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは―【私の論評】同盟軍への指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは

まとめ
  • アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、中国が「茹でガエル戦術」で徐々に圧力を強めており、南シナ海や台湾海峡での軍事行動が一層攻撃的で危険になっていると指摘した。
  • 中国の沿岸警備隊によるフィリピンの排他的経済水域内でのサンゴ礁周辺での威嚇行為に強く懸念を示した。
  • 北朝鮮とロシアの脅威、中露の協力関係深化にも警戒を要すると述べた。
  • 同盟国との連携が重要であり、新たな軍事能力の強化と相互運用態勢の早期確立が課題だと指摘した。
  • 日本としては、同盟国との連携強化に伴う指揮命令系統の問題など、主権にかかわる課題が将来的に生じる可能性があるため、自らの防衛能力強化を急ぐ必要がある。

アキリーノ米インド太平洋軍司令官

 アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、退任を前に、中国の南シナ海や台湾海峡における軍事的圧力の強化を「茹でガエル戦術」と表現し、強く非難した。中国は徐々に温度を上げることで相手に危険性を過小評価させ、いつの間にか危機的状況に陥らせるこの戦術を追求しており、行動は次第に攻撃的かつ大胆になり、地域の不安定化を助長していると指摘した。

 特に、フィリピンの排他的経済水域内のサンゴ礁周辺での中国沿岸警備隊の威嚇行為は一線を越えた新たな段階に入ったとの懸念を示した。放水砲を用いてフィリピン軍への補給を妨害するなど、これまで以上に攻撃的な姿勢を見せているからだ。

 アキリーノ司令官はさらに、北朝鮮の度重なるミサイル発射や、北朝鮮・ロシアの協力関係、中国・ロシアの関係深化にも危惧の視線を向けた。これらの動きは地域の緊張をさらに高める要因になりかねないと警鐘を鳴らした。

 そして、中国を始めとするこれらの脅威に対抗するには、同盟国との連携が不可欠であり、各国の新たな軍事能力の強化とそれらの早急な相互運用態勢の確立が喫緊の課題だと力説した。アキリーノ司令官自身、台湾有事の際にも指揮を執っており、中国の一方的な行動に強い危機感を抱いていたことがうかがえる。

 こうした現状認識を踏まえ、日本としても自らの防衛能力の強化を急ぐ必要があるだけでなく、同盟国との連携強化に伴い、将来的には指揮命令系統の一体化など、主権にもかかわる重大な課題が生じる可能性も想定されるため、十分な検討が求められよう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】同盟軍の指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

まとめ
  • 軍隊の指揮権を他の同盟国などに移譲すると、現場の実情が正確に伝わらず、同盟国全体の利益が優先されることで、自国の利益が損なわれる可能性がある。
  • 自衛隊が米軍の指揮下に入ることで、日本の防衛任務や戦略的利益が適切に反映されないリスクが高まる。
  • 第二次世界大戦中の英国の例では、第二次世界大戦中の指揮権移譲により戦略的利益が損なわれ、戦後の国力低下にもつながった。
  • ソ連は指揮権を維持し続けた結果、戦中には最大の損害を被りながらも、戦後に領土拡大と国際的な主導権を獲得し、最も利益を得た国となった。
  • 自国の防衛力を自助努力で高めつつ、同盟国と対等な関係を保ち連携することが重要であり、軽々な指揮権移譲は避けるべきである。
上の記事の元記事の最後のほうでは、「古来、同盟軍の戦いでは指揮権を移譲した側の損害が大きくなるとの定評に鑑み、その観点からもわが国は自らの能力強化を早急に進めるべきだという声は傾聴に値する」としています。

これは、指揮権を移譲すれば、意思決定の場が離れた司令部に移ったとすれば、現場の実情を正確に伝えきれず、状況に適さない判断がなされる可能性があります。また、自国の利益よりも同盟国全体の利益が優先されがちになります。このような懸念から、自国の指揮権を最大限維持し、独自の能力を強化すべきだという主張がなされているものと思われます。

台湾有事の場合を想定して、より具体的に説明します。

頼清徳台湾新総統

仮に中国が台湾に武力侵攻した場合、日米同盟に基づき、自衛隊は米軍と共に対処にあたることになるでしょう。しかし、この際に自衛隊の指揮権を完全に米軍に移譲してしまうと、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
  1. 現場の実情が適切に伝わらない 台湾有事における自衛隊の活動は、日本の領土、領海、領空の防衛という自国の防衛任務と深く関わっています。しかし、指揮権を米軍に移譲してしまえば、そうした日本の主権的利益が必ずしも十分に反映されない可能性があります。
  2. 自国の戦略的利益が損なわれる 米軍の司令部は、同盟国全体の戦略的利益を最優先します。一方で日本は、例えば中国との関係修復などの将来的な国益を考慮する必要があります。指揮権を移譲すれば、そうした自国の長期的な利益が無視される恐れがあります。
  3. 現場の機動性が失われる 有事における自衛隊の機動的な活動には、政府の迅速な判断と指示が不可欠です。しかし指揮権を移譲してしまえば、意思決定のプロセスが遅延し、機動性が失われてしまう可能性があります。
こういった理由から、自国の防衛能力を強化し、最大限の主体性を維持することが重要であり、安易に指揮権を移譲すべきではないという主張が出てくるのです。台湾有事のように、自国の主権的利益が深く関わる事態では、この点は特に重要になってくるでしょう。

指揮権の移譲によって、不利益を被った国の例としては、英国があげられます。

第二次世界大戦中の英国首相 チャーチル

第二次世界大戦の欧州戦線において、英国と米国の間でこのような事態が生じました。
1942年にドイツ領内への本格的な侵攻を開始した時点で、英国よりも兵力と装備で優位にあった米軍が事実上の主導権を握りました。それにより英軍は以下の不利益を被りました。
 
作戦計画の立案段階から英国側の意見が尊重されない事態が生じました。米軍中心の作戦計画になり、英国軍の犠牲が無視される側面がありました。

航空機や戦車、兵員の割り当てで不利な扱いを受け、英国軍の戦力が十分に生かされませんでした。ノルマンディー上陸作戦では、英国軍の提案する上陸地点が米軍の希望で変更され、不利な展開を強いられました。

このように、同盟国内での指揮権の主導権を持った米軍が、自国の都合を優先する形で作戦を指揮したため、英国軍は戦略的利益を損ねる事態に陥りました。

戦後も同様です。インドをはじめ、連合国内で英国の植民地独立運動が活発化し、戦後に英帝国は瓦解に追い込まれました。他の連合国に比べ、植民地喪失の打撃が最も大きかったと言えます。

戦時下の莫大な費用と戦後の経済的疲弊により、英国は深刻な国力低下に見舞われました。この間、他の米ソなど連合国の国力は向上しており、格差が開きました。

このように、戦時中の連合国内での影響力喪失と、戦後の国力低下が相まって、英国は第二次世界大戦の連合国内で最大の損失を被った国と評価されているのです。

では、米国が第二次世界大戦でもっとも利益を得たかというと、そうとは言い切れないところがあります。

米国は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツと戦うソビエト連邦(以下ソ連と略す)に支援を行いました。

支援内容は以下の通りです。
  • 武器・軍需品の供与 米国はレンドリース法に基づき、ソ連に戦車、航空機、艦船、食料品、石油製品等の軍需品を大量に供与しました。金額にして現在の換算で1,800億ドル相当とされています。
  • 資金支援 ソ連への借款や信用供与を行い、戦費の一部を肩代わりしました。合計で109億ドル相当の資金援助がありました。
  • 戦略物資の提供 非鉄金属、燃料、機械類、車両など、ソ連が不足していた戦略物資を米国から供給を受けました。
  • 輸送路の開設 同盟国からソ連へのルートとして、北極海航路・ペルシャ湾ルート・極東ルートなどを開設し、物資の輸送を支援しました。
この大規模な軍事・経済援助によって、ソ連の対ドイツ戦線が物資的に支えられ、持久戦を可能にしたと評価されています。

しかし、結局のところ、もっとも被害の大きかった国でもある、当時のソ連が最大の利益を得たと言えます。その主な理由は、当時のイギリスとは異なり、ソ連は軍の指揮権を一片たりとも、米国に譲らなかったことにつきるでしょう。

これは、ソ連と米国は地理的、歴史的、文化的にも隔絶していたため、米国として指揮のとりようもなかったということに起因してはいるのですが、これが戦後に英国との大きな差を生み出すことになるのです。

第二次世界大戦中のソ連の指導者 スターリン

ソ連が東方戦線の作戦指揮権を完全に自国が掌握し続け、他国に決して権限を譲らなかったことが、戦後の勢力圏拡大と冷戦構造における主導権の獲得につながったといえます。

指揮権の一元的な維持が、戦後のソ連の"利益"獲得に大きく寄与したと言えるでしょう。

ソ連は戦後、日本の現在「北方領土」といわれる地域を領土とし、東欧諸国をソ連の影響下に置き、バルト3国などを事実上の一部領土化しました。領土を大幅に拡大することができました。

ソ連は、ナチス・ドイツ撃滅の最大の功労者となり、戦後は米国とともに超大国の座に着くことができました。東西冷戦構造の一方の中心的存在になりました。戦後設立された、国際連合では、中国とともに常任理事国となっています。

東欧を中心に社会主義圏が大きく広がり、ソ連の影響力が最大化しました。イデオロギー的にも大きな勝利を収めたと言えます。
 
ソ連は、連合国側で主導的な役割を果たし、戦後の東西ドイツ分割や東欧での影響力拡大などを主導できました。

このように、領土的・イデオロギー的な大幅な拡大と、戦後の国際秩序形成における主導権の獲得という意味で、ソ連が第二次世界大戦から最も利益を得た国であると評価できます。

このように、軽々な指揮権移譲は避け、自国の防衛力は自助努力で高めつつ、同盟国とは対等な関係を保ち、緊密に連携する。この二つの側面を両立させることが、軍事力の最大発揮につながるとともに、戦後に不利益を被らないための対策ともなるのです。

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2024年5月9日木曜日

中国の「麻薬犯罪」を暴露した米下院報告書がヤバすぎる…!ついに明らかとなる「21世紀版アヘン戦争」の非道な中身―【私の論評】非対称戦の可能性、日本も対岸の火事ではない

中国の「麻薬犯罪」を暴露した米下院報告書がヤバすぎる…!ついに明らかとなる「21世紀版アヘン戦争」の非道な中身

まとめ

  • ブリンケン米国務長官の中国訪問後、米中関係が悪化する新たな火種となるリスクが浮上した。
  • 米下院委員会が、中国政府がフェンタニル原料の製造に関与し米国のオピオイド危機を助長していると指摘する報告書を公表した。
  • フェンタニルは極めて危険な合成オピオイド系麻薬で、中国が原料供給源との疑惑が以前から持たれていた。
  • フェンタニル問題が2024年米大統領選の主要争点となり、共和党がバイデン政権の対中政策を追及する可能性がある。
  • 中国が意図的にフェンタニル問題で米国社会を不安定化させ、新たな「アヘン戦争」を仕掛けているのではないかとの憶測があり、米中関係が一気に悪化するリスクが高まった。
ブリンケン国務長官

 ブリンケン米国務長官が4月に中国を訪問したが、この訪問がむしろ米中関係に深刻な影を落とす新たな火種となる可能性が浮上した。訪問中、ブリンケン氏は対ロシア制裁を潜脱するロシアへの中国の輸出阻止と、米国の景気減速を招く"デフレ輸出"の自粛を中国側に強く求めた。一方の中国側は、習近平国家主席がブリンケン氏との会談で「米中はライバルではなくパートナーであるべき」と述べるなど、表面上は融和的な姿勢を示そうとした。

 しかし、ブリンケン氏が中国共産党公安部長の王小洪氏と会談し、麻薬取締における両国の法執行協力について言及したことで、思わぬ火種が散らばることになった。それは、米国が最近、フェンタニル問題で中国政府の関与を追及し始めたためだ。

 米連邦下院の中国共産党に関する特別委員会は4月16日、中国政府がフェンタニルの原料となる化学物資の製造に資金的援助を行い、米国のフェンタニル危機を助長していると指摘する報告書を公表した。フェンタニルはモルヒネの100倍、ヘロインの50倍の強力な合成オピオイド系麻薬で、米国では2021年に7万人以上がこれによる過剰摂取で死亡している。

 中国政府の関与が明確に指摘されたのは初めてで、この問題が今年11月の米大統領選の主要争点となる可能性が出てきた。共和党は、これをバイデン政権の対中政策の失敗と見なし、さらに追及するだろう。一部からは、中国が意図的にフェンタニル問題で米社会を混乱に陥れ、新たな「アヘン戦争」を仕掛けているとの憶測も出ている。

 マリフアナ合法化で中国系マフィアが市場を牽制しているとの指摘もあり、FBIは中国政府がマフィアの不正資金を一帯一路事業に流用している可能性に注視している。こうした中で、フェンタニル問題が契機となり、両国関係が一気に悪化に向かう危険性が生じてきた。

【私の論評】非対称戦の可能性、日本も対岸の火事ではない

まとめ

  • オピオイド危機は、1990年代後半から始まり、医療機関の過剰な処方が原因。
  • 米政府の対策として適切な処方ガイドラインを提供し、治療プログラムを強化。
  • 中国がフェンタニルの輸出企業への支援が指摘されるも、対策不足。
  • 日本は、厳格な法規制と取り締まりにより対策がなされている。
  • 一方日本は、エネルギーや高齢化、サイバーセキュリティ、地政学的緊張等の脆弱性がありこれらへの警戒と対策の必要性。
オピオイド危機は、1990年代後半から2000年代初頭にかけて始まりました。この危機は、医療機関がオピオイド系薬剤の処方を増やし始めたことがきっかけとなっています。医師たちは、オピオイド系薬剤が痛みの制御に効果的で依存性が低いと信じていたため、これらの薬剤を積極的に処方するようになりました。しかし、実際にはオピオイド系薬剤は非常に依存性が高く、処方された人々が薬物依存症に陥るケースが増加しました。

この危機のピークは2017年で、この年だけで64,000人以上のアメリカ人がオピオイドの過剰摂取によって命を落としました。2021年時点では、1日130人以上がオピオイドの過剰摂取によって命を落としています。

この危機に対処するために、米政府はさまざまな対策を行っています。例えば、医療従事者に対する適切な処方ガイドラインの提供や、オピオイド過剰摂取による死亡の防止のための薬の処方などです。また、薬物依存症の治療プログラムや薬物乱用防止教育プログラムを拡充するなど、広範な取り組みが行われています。しかし、オピオイド危機は未だに大きな社会問題であり、解決に向けて多くの努力が続けられています。

上の記事にもある報告書によると、中国政府はフェンタニルやその原料を輸出する企業に税金還付や補助金を与えているとされています。例えば、同委員会が入手した資料によると、2018年までに、税の還付制度により、少なくとも17種類の違法な麻薬の輸出を奨励しています。このほか、フェンタニルなど違法な合成麻薬を扱う企業に地方政府が補助金を出したり、表彰したりする例も挙げられています。

また報告書によると、中国政府機関が違法な合成麻薬の販売を行う企業の株式を所有し、事実上、国有企業となっているケースが複数ある。これらのうち世界最大規模のフェンタニル原料の輸出企業は、違法な麻薬販売を公然と行いながらも、「共産党幹部から繰り返し称賛された」といいます。

さらに、中国が「人類史上最も進んだ全体主義的監視国家」であり、違法な薬物製造や輸出を取り締まることができるにもかかわらず、それを怠ってきたと指摘。米国の法執行機関が捜査のため中国に正式な協力要請を行った際には、中国当局が中国企業側にそれを通知し、犯罪行為が露見しないようやり方を変えさせたとしました。

報告書によれば、中国政府はフェンタニルの輸出促進を米国に対する「非対称戦」(軍事力や戦略・戦術が大幅に異なる戦争)の一部と見なしているとされています。中国軍の戦略家たちが著書の中で、「麻薬戦争は他国に災難をもたらし、莫大(ばくだい)な利益をもたらす」として、有効な非対称戦の手段の一つに挙げているといいます。

その上で報告書は、フェンタニルの世界的なサプライチェーン(供給網)を標的にしたタスクフォースの創設や麻薬密売に関与する者に対する制裁強化を議会に提言しました。

バイデン大統領と習近平国家主席による昨年11月の米中首脳会談では、原料を製造する中国企業を取り締まることで合意されました。しかし、報告書によれば、中国政府によるフェンタニル輸出業者への支援は現在も続けられており、有効な対策は取られていないとみられる。

16日開かれた議会公聴会で証言したウィリアム・バー前司法長官は、「中国共産党は単なる傍観者ではない」と指摘。「彼らは米国内で流通するフェンタニルとその原料の生産と輸出を積極的に支援し、奨励し、促進している」と非難した。

また、同委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党:当時)は「中国共産党の行動から、彼らがより多くのフェンタニルを米国に流入させたいと考えていることが分かる」と強調。その上で「彼らはフェンタニルの蔓延による混乱と荒廃を望んでいる。米国人の死者が増えてほしいと思っているのだ」と訴えました。

マイク・ギャラガー氏

中国における非対称戦に関する代表的な著書としては、以下のようなものがあります。
  • 孫子:『孫子兵法』(紀元前5世紀)
  • 毛沢東:『遊撃戦』(1937年)
  • 林彪:『遊撃戦戦争論』(1964年)
  • 劉華清:『現代戦争論』(1999年)
  • 喬良(ジョウ・チェン):『超限戦』(1999年)

『超限戦』の日本語訳版は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件を予言していたと注目を集めました。

『超限戦』 の独創性は、従来の非対称戦の概念を拡張し、情報戦や経済戦などの新しい形態の戦争も含めた包括的な理論を構築したことにあります。しかし、中国における非対称戦に関する研究成果を無視して『超限戦』を評価することはできません。

『超限戦』から麻薬について記述に以下に掲載します。
  • 第2章「超限戦の理論」では、麻薬が「非対称性の高い兵器」として挙げられています。これは、麻薬は少量で大きな被害を与えることができ、国家間の戦争だけでなく、テロや犯罪にも利用される可能性が高いことを意味します。
  • 第4章「超限戦の戦略」では、麻薬の密輸や密売が超限戦の戦術として紹介されています。これは、麻薬の流通を操作することで、敵国の経済や社会に混乱を引き起こすことを目的としたものです。
  • 第5章「超限戦の事例」では、実際に麻薬が超限戦の手段として利用された事例がいくつか紹介されています。例えば、ベトナム戦争において、アメリカ軍は麻薬の密売を通じて北ベトナムの経済を弱体化させようとしたことが挙げられています。
これらの記述から、『超限戦』の著者であるジョウ・チェン氏は、麻薬が超限戦において重要な役割を果たす可能性を認識していたことがわかります。

ただし、『超限戦』はあくまで理論的な書籍であり、実際の麻薬密売や密輸に関する具体的な情報は含まれていません。しかし、中国共産党はこれを参考にしている可能性は否定できません。

米国ではフェンタニル等の中毒患者が蔓延、ゾンビと呼ばれでいる

トランプ政権はオピオイド危機への対策として、2017年に非常事態を宣言し予算を確保したほか、メキシコ国境での麻薬密輸取り締まり強化、中国への原料規制要求、製薬企業への法的措置、治療・予防への予算計上などを行いました。しかし、規制の権限が連邦と州で分散していたことや製薬業界のロビー活動の影響もあり、根本的な供給ルート遮断までは至らず、包括的な対策は不十分との評価が多く、課題がバイデン政権に引き継がれました。

一方バイデン政権のこれに対する危機対策については、大きな新規施策が見られず、中国への圧力も手薄であるとの指摘があります。一部ではオピオイド処方規制への批判もあり、十分な実績を残せていないと評価されています。バイデン政権は発足から既に一定期間が経過しているにもかかわらず、強力な対策が打ち出されていないことから、この問題への取り組みは不十分との見方が多数を占めています。今後、抜本的な供給ルート遮断など、より積極的な施策が求められているのが実情です。

日本は、厳格な法規制と徹底した対策により、フェンタニル乱用の深刻化を防いでいます。

麻薬取締法でフェンタニルを麻薬指定し、密輸や所持を厳しく取り締まることで、国内への流入を抑制しています。医療現場においても、フェンタニルの管理を徹底し、不正な流出を防ぐ体制を整備しています。

さらに、麻薬取締部や警視庁など関係機関が連携し、密輸組織への情報収集と捜査を強化することで、供給ルートの断絶を目指しています。加えて、厳しい勾留措置で再犯を防ぎ、抑止力としています。

これらの対策が一体となって、日本のフェンタニル乱用問題の抑制に効果的に貢献していると考えられます。日本の取り組みは、世界各国にとって参考となるモデルと言えるでしょう。

麻取の装備品

日本は薬物規制において高い実績を誇っていますが、エネルギー、高齢化社会、サイバーセキュリティ、地政学的緊張といった脆弱性も抱えています。これらの脆弱性は悪用される可能性があり、一部ですでに悪用されているといえます。

米国におけるオピオイド危機と同様に、日本も対象は異なるものの、弱点を突かれる可能性がありますし、薬物危機が広がらないとも言い切れない状況になっており、対岸の火事ではなく、他山の石として教訓を学び、更なる対策を講じる必要があります。

具体的には、憲法改正、軍事力強化、エネルギー・ドミナンスの確立、まともな金融財政政策の実施、サイバー攻撃への対策強化、情報操作への警戒、国際的な協力体制の構築などが重要です。

日本は強みを生かしながら、これらの課題に取り組むことで、より安全で安心できる社会を実現していくべきです。

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2024年5月8日水曜日

【中国の偽善が許されるのはなぜ?】GDP世界第2位の大国がWTOで“途上国扱い”され続ける理由―【私の論評】中国はTPP参加に手をあげたことにより墓穴を掘りつつある

【中国の偽善が許されるのはなぜ?】GDP世界第2位の大国がWTOで“途上国扱い”され続ける理由

岡崎研究所

まとめ

  • 中国が自国の保護主義政策を講じながら、米国の産業支援策を非難しているのは偽善である。
  • 現行のWTO制度は、多くの国が「途上国」と自称できるため、中国の保護主義政策を見過ごされがちになっている。
  • WTO加盟国の約3分の2が「途上国」を自称しており、経済規模が大きい国々も含まれる。
  • この状況を改善するには、現行制度を抜本的に見直し、新たな多国間の制度を構築する必要がある。
  • 新制度は、各国が自国の利益を追求できると同時に、公平なルールの下で紛争を処理できるようにすべきである。


 中国は一方で自国の経済を保護するための産業政策を講じながら、他方で米国のインフレ抑制法などの経済支援策をWTO規則違反だと非難している姿勢を取っており、その態度は偽善的だとフィナンシャルタイムズ紙のコラムニストが指摘している。

 中国は、クリーンエネルギーや人工知能など戦略的な産業分野で長年にわたり補助金や保護主義的な囲い込み政策を実施してきたが、これらの保護主義政策は隠されてきた。一方で、中国は米国や欧州が気候変動対策や雇用確保のために自国産業を支援する関税・補助金措置を「保護主義」だと問題視している。

 しかし、このような中国の態度が許されているのは、現行のWTO制度が抱える問題があるからだ。WTO加盟国の約3分の2が「途上国」と自称できるルールがあり、中国をはじめとする多くの経済大国も「途上国」扱いを受けている。そのため、中国の保護主義的な産業政策は見過ごされがちになっている。

 このような事態に対し、コラムニストは現行WTO制度を抜本的に見直し、新たな多国間の制度を構築すべきだと提言している。新制度では、各国が自国の経済的・政治的安定を追求しつつ、明確なルールの下で紛争を処理できるようにすべきだ。自由貿易重視の従来のアプローチでは限界があり、転換が必要だ。

 新制度の規律は、国によって異なる政治経済体制を許容し、世界貿易に参加しつつ自国の利益も守れるようなバランスの取れたものでなくてはならない。これは中国の発展の過程から得られる教訓であり、その原則は普遍性があるべきだ。

 現行の制度はすでに機能不全に陥っており、単に安価な労働力を求める従来の経済モデルにも限界が来ていると指摘する。国民の不信感も高まっており、新たなアプローチが必要不可欠だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】中国はTPP参加に手をあげたことにより墓穴を掘りつつある

まとめ
  • 現行のWTOルールでは中国を含めた加盟国の3分の2が「途上国」と称し、実態と合わないため機能不全に陥っている
  • 中国などは「途上国」地位を利用し、保護主義策を取りながら他国政策を非難する不公平な状況が生じている
  • TPPの厳格なルールをWTOに取り入れることで制度改革を行い、中国の保護主義政策を認めなくすべき
  • TPPルールは発展途上国と先進国の実情を反映したバランスの取れたルール集大成だ
  • TPPルールの導入により、中国を始めとする一部国の特権的措置を是正し公平なルール運用を実現できる
私は従来からこのブログで中国などが自国の保護主義的な産業政策を講じながら、他国の政策を非難するといった振る舞いに対し、TPPのようなより厳格なルールをWTOに導入すべきだと主張してきました。

現行のWTOルールは、加盟国の約3分の2が「途上国」と自称できるなど、既に実態と合っておらず、機能不全に陥っています。中国などが「途上国」の地位を利用し、保護主義的措置を講じながら、他国の政策を非難するなどの不公平な状況が生じています。

このような状況が長く放置されれば、先進国のみならず、発展途上国からも不満が高まるでしょう。WTOが公平な自由貿易のルールを担保できなくなれば、制度そのものの存在価値が揺らぎかねません。

そこで、TPPのようなより厳格なルールをWTOに取り入れ、制度の抜本的改革を行うべきだと主張する意見があるのです。TPPでは国有企業規制などが盛り込まれており、中国の保護主義政策は認められなくなります。環境や電子商取引などの新分野のルール作りも行われ、WTO協定の現代化が図れます。

TPPには発展途上国から先進国まで、多様な国々が参加しています。その中で、現在の世界経済の実態を踏まえた上で、真に自由で公平な貿易ルールが策定されました。単なる関税撤廃にとどまらず、国有企業規制、環境、電子商取引など、グローバル経済における様々な課題に対応するルール作りが行われています。

つまり、TPPのルールは、途上国の実情を考慮しつつ、先進国の利益も反映させた、バランスの取れた現代的な自由貿易のルール集大成となっているのです。自由貿易を推進しつつ、必要な制限や例外措置なども盛り込まれています。

このようにTPPは、単なる理念ではなく、現実的な視点から作られた具体的で実行可能な自由貿易ルールであると評価できます。そのため、TPPのルール水準をWTOに取り入れることで、WTOを時代に適ったより公平な制度に生まれ変わらせられるという主張につながるのです。

TPPに参加国の実情を反映したバランスの取れたルール集大成であるという点は、WTOへの取り入れを主張する大きな根拠となっていることは間違いありません。

つまり、TPPルールの導入によって、加盟国が「途上国」と自称できる例外規定の撤廃や、国有企業への補助金規制など、中国を始めとする一部国の特権的措置を是正し、真に公平なルール運用を実現できると考えられているのです。

ただし、TPPルールをWTOに組み入れるには、多数国の合意が必要で課題は多いことは確かです。経済連携協定での実践を経ながら、徐々にWTOへの影響を与えていく現実的なアプローチが必要不可欠でしょう。

ただし、中国がTPP参加に名乗りを上げていることは、WTOへのTPPルール導入の可能性に影響を与える重要な要素になり得ます。

中国がTPP参加を表明した背景には、台湾をけん制する狙いがあるとの指摘もあります。しかし一方で、TPPの高い水準のルールに基本的に同意し、自国にもその規律を受け入れる用意があることを示しているとも受け取れます。

もし仮に中国が、TPPルールをWTOに導入することに強く反対するようであれば、大きな矛盾が生じてしまいます。TPPのルール許容を前提に参加を表明しておきながら、同じルールをWTOに持ち込むことに異を唱えるのは整合性を欠くからです。

そういった矛盾を中国自身がおかしたくないと考えるのであれば、WTOへのTPPルール導入を表立っては反対できなくなる可能性は高まります。重要な貿易相手国である中国の賛同があれば、WTO改革のための多数国間合意形成が現実味を帯びてくるでしょう。

中国はTPP参加に手をあげたが・・・・・

TPPの交渉に当初は最大12か国(アメリカを含む)が参加していました。しかし、アメリカがTPPから離脱を表明したため、残りの11か国でCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)が2018年に発効されました。

5か国がTPPへの新規加盟交渉に参加している、または参加を申請している状況です。

・英国 ・中国 ・台湾 ・エクアドル ・コスタリカ

台湾は、中国が台湾のTPP参加を牽制する狙いがあるとの指摘もある中で、加盟を強く希望しています。

しかし、中国がTPPに加盟することは現実的にはまったく無理があると考えられます。TPPのルール水準は非常に高く、国有企業への補助金規制や労働者の権利保護、環境基準の遵守など、中国の現体制とは相いれない部分が多くあるからです。

中国が本当にTPPのルールを全て受け入れるつもりであれば、国有企業改革や労働法制の大幅な見直しが不可欠になります。しかし、そこまでの大改革に踏み切る可能性は極めて低いと見られています。

そうしたTPPの高いハードルを考えると、中国のTPP加盟表明は本気度に欠けるのではないかと指摘される所以です。台湾を牽制する狙いや、協定の内容を把握する意図があるのかもしれません。


しかし結果的に、そうした表明により、TPPのルール受入れを追及される立場に自らを追い込んでしまった形になっています。TPPへの本格的な関与は現実的でない中で、このジレンマを抱えつつあるということが言えそうです。

つまり、中国はTPP加盟を口にした時点で、国内の抵抗勢力を押し切れず、実際には対応できない高いハードルに自らを追い込んでしまった可能性が高いと言えます。

TPPの旗振り役の日本としては、TPPの加盟国をさらに増やしつつ、いずれTPPをWTOのルールにすることを実現すべきでしょう。

世界もこうした動きに同調すべきです。特に米国はそうです。そうして、最悪は中国を一時的、あるいは恒久的にでもWTOから除外してでも、WTO改革をすすめる覚悟を持つべきです。そのための準備を今からすべきです。


米国内でも湧き上がるバイデンのTPP加盟申請の必要性―【私の論評】CPTPP加盟申請で、実は危険な領域に足を踏み入れた中国(゚д゚)!〈'21 10/18〉

2024年4月12日金曜日

日米比、初の3カ国首脳会談-中国進出念頭に海上訓練拡充で合意―【私の論評】安倍イズムが育んだ日米比の安全保障協力 - 官僚レベルから首脳レベルまでの歴史的な絆

日米比、初の3カ国首脳会談-中国進出念頭に海上訓練拡充で合意

まとめ
  • 「日本とフィリピンを防衛する米国の決意は揺るぎない」と米大統領
  • 米は国際社会の「中心的役割」継続を、岸田首相が米議会で演説


 日本、アメリカ、フィリピンの3カ国首脳が会談を行い、自衛隊と米比両軍の海上共同訓練の拡充に合意した。

 南シナ海情勢を踏まえ、海洋安全保障が最重要議題となった。バイデン大統領は日本とフィリピンの防衛への決意を表明した。

 3カ国は、南シナ海と東シナ海における中国の行動に深刻な懸念を示し、新たな共同訓練の実施や資源サプライチェーン強化などで協力を強化することで合意した。

 岸田首相は、米議会での演説で、自由と民主主義が脅威に晒されており、特に中国の動向が課題だと指摘。米国の支援と存在が不可欠であると述べた。岸田演説は、選挙後の日米関係の重要性を米議会に訴えるものだった。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安倍イズムが育んだ日米比の安全保障協力 - 官僚レベルから首脳レベルまでの歴史的な絆

まとめ
  • 安倍前首相の日米同盟強化への尽力と指導力が、現在の日米同盟の基盤を築いた。
  • 日米協力は官僚レベルでの継続的な取り組みであり、政権交代に影響されないものだった。
  • 「自由で開かれたインド太平洋」構想は安倍前首相の外交の柱で、その延長線上にある日米比の安全保障協力が進展している。
  • 日米比3か国の防衛大臣会談、軍隊間の共同訓練、非伝統的安全保障分野での協力など、緊密な連携が進んでいる。
  • 岸田首相は、安倍イズムの外交・安全保障政策を継承し、国内においても経済政策や自民党内の調整などで安倍路線を踏襲すべきだ

昨日のこのブロクでは、安倍首相の日米同盟強化への献身的な努力とリーダーシップなくしては、現在の日米同盟の堅実な関係基盤と協力体制を築くことは不可能であり。安倍首相の尽力こそが、今日の日米同盟の地位向上に不可欠な要因だったのではないかと掲載しました。

結局のところ、今日の日米首脳会談は、安倍イズムの影響下での日米同盟強化であったと結論ずけました。

その根拠として、日米同盟の強化はすでに両国の官僚級の折衝はから始まっていたことを根拠としてあげました。それは、両国の首脳の政権がこれからも続くか続かないにかかわらず、日米という国家間で継承される合意事項であるともいえます。

今回の日米首脳会談はこれを追認したものに過ぎません。

今回の日米比の首脳会談でも同じことがいえます。日米比の安全保障協力の進展は、安倍前首相の時代から見られる「自由で開かれたインド太平洋」構想の具現化であると言えます。

安倍首相は在任中、日本の外交・安全保障政策の大きな柱として、この構想を掲げ、地域の主要国との連携強化に力を入れてきました。特にフィリピンとの関係強化は重要な課題の一つでした。

こうした安倍首相の方針は、その後の日本政府によっても継承されており、日米比三カ国の安全保障協力はその具体的な成果として表れているといえます。

日米比の3か国による安全保障協力も活発に行われてきました。
  • 2022年以降、日米比三カ国の防衛大臣会談が定期的に開催され、地域情勢への共同対応について議論が行われています。
  • 日米比三カ国の自衛隊、米軍、フィリピン軍による共同訓練の実施が活発化しており、相互運用性の向上が図られています。
  • 災害救援活動や 海洋安全保障等、非伝統的安全保障分野での協力も強化されてきました。
  • 情報共有や海上監視、訓練支援など、各国の軍事当局間での緊密な連携も進んでいます。
  • 日米両国がフィリピンに対する装備品供与や訓練支援など、二国間の取り組みも行っています。
このように、日米比三カ国間での安全保障面での協力は着実に進展してきており、地域の平和と安定に向けた重要な枠組みとなっています。特に、日米比の省庁レベルや軍事当局レベルでの緊密な対話と協調が進展してきたと言えます。

2022年には第1回日米比陸軍種ハイレベル懇談会が日本で開催された

省庁間、軍事当局間での緊密な対話と実務レベルの協力は、この構想の実現に向けた着実な取り組みの一環であると評価できます。

これは、日米比の多くの人々も認めるところであり、今回の日米比の首脳の合意は、安倍イズムの延長線上にあるものとえ、この三者が新しく始めたものではなく、安倍イズムによる「自由で開かれたインド太平洋」構想の継承とみることができます。もっといえば、安倍首相は中国をめぐる世界秩序を変えたのです。

中国への対処ということでは、「自由で開かれたインド太平洋」構想とこの構想に含まれる諸国との提携や、協力の強化の方針は、安倍イズムによってすでに方向づけられたものです。そのため日米比の現在の首脳は、これを自分たちの成果とすることはできません。

特に、大統領選、総裁選が間近に迫っている、バイデン大統領と、岸田首相はそうです。

バイデン、岸田ともに、政権を安定させたいなら、インド太平洋地域以外の外交や国内を安定させる政策を推進することが肝要です。

岸田首相は、昨日も述べたように、大きな問題は国内にあり、有り体にいえば、自民党党内です。これについては、米国はこれに干渉することはできません。ただしLGBT理解増進法案などの例外はありますが、国内の大きな方向性に関しては、もっぱら岸田首相が采配しなければなりません。ここでも岸田首相は、安倍路線を継承するべきなのです。

安倍首相は、地球儀を俯瞰する外交を実行して成果をあげており、この点で、岸田首相が外交で努力したとしても、あまり大きな成果とみなされることはありません。おそらく、岸田首相の独自での外交での成果といえば、ウクライナ電撃訪問くらいかもしれません。

安倍首相地球儀を俯瞰する外交で成果をあげた

やはり岸田首相は、安倍氏の経済状況を改善し雇用と企業収益が拡大する路線を継承し、デフレから完全脱却すべきなのです。それとともに、自民党内のリベラル派に対して一定の歯止めをかけなければなりません。さらに憲法改正もすすめるべきなのです。国内でも安倍イズムを継承することが、自民党政権を安定化させる唯一の道だと認識して、その方向に転換すべきなのです。

これは、岸田政権が崩壊して、次の政権に変わったにしても、あてはまることだと思います。

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2024年4月11日木曜日

日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」全文 中国の「危険な行動」に言及―【私の論評】安倍イズムの影響下での日米同盟強化: 岸田政権の課題と展望

日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」全文 中国の「危険な行動」に言及

まとめ
  • 日米同盟がかつてない強さに高まり、両国が大胆な措置を講じてきたことを確認
  • 防衛・安全保障協力の深化に向け、日本の防衛力強化や日米指揮統制体制の向上などを歓迎
  • 先端技術分野での共同開発・生産、経済安全保障の強化などによる日米の技術的優位性の確保
  • インド太平洋地域の自由で開かれた秩序の維持に向けた地域協力の推進
  • 気候変動対策での両国の連携強化とクリーンエネルギー分野でのリーダーシップ発揮


  日米首脳共同声明は、過去3年間にわたり、両国が勇気ある措置を講じることにより、日米同盟が前例のない高みに到達したことを確認している。この歴史的な展開を踏まえ、両首脳は新たな日米グローバル・パートナーシップの構築に合意した。

  そのための具体的な取組として、まず防衛・安全保障協力の強化が掲げられている。日米両国は、同盟がインド太平洋地域の平和、安全および繁栄の礎であり続けることを確認し、日本の防衛力強化や指揮統制体制の強化など、同盟の新たな時代に対応した取組を支持した。さらに、日米の指揮統制体制の向上や情報協力の深化、ミサイル防衛の強化など、地域の安全保障上の課題に直接対処するための具体的な施策も明記。

 加えて、宇宙開発、イノベーション、経済安全保障、気候変動対策など、幅広い分野で日米が連携して取り組むための新たな戦略的イニシアチブを発表した。特に、次世代技術の共同開発や、経済安全保障の強化に向けた政策協調の強化などが重要な柱となっている。

 一方で、北朝鮮の核・ミサイル問題、ロシアのウクライナ侵略など、地域や世界の安全保障上の重要課題に対しても、関係国と協調して対処していくことを表明。

 さらに、日米両国民の絆を一層深化させるため、人的交流の強化やグラスルーツレベルの地方自治体間連携など、多様な取組についても言及されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安倍イズムの影響下での日米同盟強化: 岸田政権の課題と展望

まとめ
  • 日米首脳会談の共同声明は、日米同盟の新たな時代を示す戦略的パートナーシップの構築を目指すものであり、防衛、経済、技術、外交など広範な分野に焦点を当てている。
  • 共同声明の注目すべき点は、日本の防衛力の抜本的強化、先端技術分野での日米協力の深化、経済安全保障の強化の3つに集中している。
  • 日本の防衛力の強化は、専守防衛の原則からの転換を意味し、抑止力と対処力の強化につながる。
  • 先端技術分野での協力は、経済安全保障上も重要であり、両国の競争力を高める。
  • 日米関係の強化には、安倍首相のリーダーシップや外交努力が大きく寄与しており、岸田首相もこの路線とともに、日本国内の政策に関しても安倍イズムを継承すべきである。

この共同声明は、21世紀の課題に取り組む日米同盟の新たな時代を切り拓くべく、防衛、経済、技術、外交など、広範な分野における具体的な戦略的パートナーシップの構築を示すものとなっています。

共同声明の中で特に注目すべき点は以下の3つです。

1. 日本の防衛力の抜本的強化
共同声明では、2027年度までに日本の防衛費をGDP比2%まで増額し、反撃能力の保有や統合作戦司令部の新設など、日本の防衛力を大幅に強化することが盛り込まれています。これは注目すべき点です。
なぜなら、これまで日本は専守防衛を旨としてきましたが、今回の防衛力強化は抑止力の大幅な強化につながるものです。地域の安全保障環境が厳しさを増す中で、日米同盟の抑止力と対処力を引き上げる上で、日本の防衛力強化は不可欠な取り組みだと位置づけられているからです。

このような日本の防衛力増強は、同盟国である米国にとっても大きな意義を持ちます。日本の防衛力が強化されることで、米国の同盟国としての負担が軽減され、より効果的な抑止力の発揮が期待できるためです。

2. 先端技術分野での日米協力の深化
共同声明では、AI、量子、半導体、バイオテクノロジーなどの重要・新興技術分野で、日米が協力して研究開発や産業基盤の強化に取り組むことが明記されています。
これは注目に値する点です。先端技術分野でのリーダーシップを確立することは、経済安全保障上も極めて重要です。両国が互いの強みを活かしながら、これら次世代技術の開発や保護に協力することで、技術的な優位性を確保し、経済的な競争力を高めていくことができるためです。

また、こうした技術協力は、日米同盟の絆をより強固なものにする効果も期待できます。先端技術を共に推進していくことで、経済的な利益共同体としての側面が一層強化されるからです。

3. 経済安全保障の強化
共同声明では、日米両国が非市場的な政策や慣行への対処、信頼性のあるサプライチェーンの構築など、経済的側面からの安全保障強化に取り組むことが明記されています。
これは重要な点です。地政学的な競争が激化し、経済的な安全保障の確保が喫緊の課題となる中で、日米が緊密に協調してこの分野に取り組むことは、両国の経済的利益を守る上で不可欠だからです。

特に、先端技術分野での覇権を握ることは、経済安全保障上も極めて重要です。日米が連携して、こうした分野での優位性を確保していく狙いがうかがえます。
 
以上3点は、共同声明の中でも特に注目すべき点だと考えられます。日米同盟を21世紀の安全保障環境に合わせて強化していく上で、これらの取り組みが大きな意味を持つためです。


日米が安全保障面での一体化を模索することは、もはや多数の米国民にとって当然のことです。今回の合意に対する大きな騒ぎは起きていません。日本との同盟強化に反対する声はほとんどなく、ドナルド・トランプ前大統領や共和党支持者を含めても、日米同盟の強化に異議を唱える声はありません。

日本という国が米国にとってより身近な存在になっています。大谷翔平選手やテレビドラマ、アニメなどを通じて、日本文化が米国に浸透しており、日本人に対する親近感が高まっています。これは、中国に対する米国民の嫌悪感とは対照的であり、日本は米国人にとって好意的な国として位置付けられています。

ギャラップ世論調査では、日本が米国人にとって最も好きな国の一つに選ばれています。この好意的な姿勢は、日米関係の強化にも繋がっていると言えます。

しかし、一方で岸田首相に対する米国メディアの関心は薄いです。岸田首相の政治的地位は不安定であり、政権内部や有力派閥のスキャンダルに揺れ動いています。そのため、米国メディアは岸田首相を「影の薄い総理大臣」と見ており取り上げることが少ないです。これは安倍首相とは対照的です。

しかし、日米関係の強化に向けては、両国のまともな官僚や議員らが着実に動いているようです。両国の政治的不安定さにもかかわらず、日米関係の堅固さを確保するために、彼らは日々努力しているようです。そのため、今回の日米首脳会談も、両国の関係強化の一環として注目されています。

官僚レベルにおける日米関係強化に向けた取り組みには以下のようなものがあります。

防衛・外交面では、外務省北米局と米国務省が定期的な政治対話を行っており、北朝鮮問題に関する制裁政策の調整や台湾問題に関する協議などが実施されているほか、自衛隊と米軍の共同訓練を強化することで軍事面での協力関係を深めています。

経済・貿易面では、経済産業省と米通商代表部がIT分野など特定分野の共同研究を進める一方で、農林水産省と米農務省もTIFAにおける農産品の市場開放交渉を行っています。

文化交流面では、文部科学省と米教育省が大学間交流事業の拡大に努めるとともに、外務省と米国務省が語学研修制度を活用した若手研修生の派遣数を増やしています。

テクノロジー面では、総務省と米通信委員会が5G技術の標準化で、経済産業省も半導体技術分野で共同研究を進めることで協力体制を強化しています。

さらに、環境・エネルギー面では再生可能エネルギー分野、科学技術面では宇宙開発分野での国際協力も進められています。

上に述べた具体例は、ごく一部にすぎません。 

なぜ日米関係がこのようになっているかといえば、やはり安倍首相の尽力があったおかげです。

これなくしては、現在の日米同盟の強固な地位と日米協力体制がこの水準に達することは極めて困難であったと思います。

特に、トランプ政権下で米国第一主義が強まる中、安倍首相はトランプ大統領個人との信頼関係を築き、日米同盟の重要性を直接説得しました。加えて、日米同盟を東アジアにおける安定と繁栄の礎と位置づける戦略もトランプ政権のアジア観と合致するものでした。


この結果、トランプ政権下では一時東アジアからの関与が低下した傾向に歯止めが掛かり、日米同盟を軸とする米国の東アジアに対する関与が強化されることになりました。同時に、安倍首相の尽力により日米同盟の重要性が再確認されました。

安倍首相の日米同盟強化への献身的な努力とリーダーシップなくしては、現在の日米同盟の堅実な関係基盤と協力体制を築くことは不可能でした。安倍首相の尽力こそが、今日の日米同盟の地位向上に不可欠な要因だったのではないかと考えます。

そのことを岸田首相は再認識すべきです。岸田文雄首相は昨年2月26日の自民党大会で、2012年の政権交代後からの自公政権10年間について話しをしました。安倍元首相の強力なリーダーシップの下、経済状況は改善し雇用と企業収益が拡大したこと、デフレから脱却できたことなどを指摘しました。外交・安全保障面では「自由で開かれたインド太平洋」の推進、日米同盟の深化、平和安全法制の整備などの実績を挙げました。

10年間を振り返り、民主党政権下で失われた日本の誇りと自信、活力を取り戻すため、皆で力を合わせ国を前進させたとアピールしました。今こそ安倍元首相と菅前首相が築いた10年間の成果の上に、次の10年を創造する時だと強調しました。防衛力を抜本的に強化し、積極的な外交を展開することで、戦後最も複雑な状況の中でも国民を守り抜く考えを表明しました。

岸田首相は、今回の日米首脳会談は、安倍首相が敷いた既定路線に乗った形で、成功を収めたことを理解すべきです。

そうして、米国との関係については、米国政府という相手があることであり、安倍首相が構築した日米関係の方向性を崩すことは最早できません。さらに、日米関係を基軸とした外交・安全保障に関しても、これを崩すことはできません。


問題は、国内であり、もっと有り体にいえば、自民党党内です。これについては、米国はこれに干渉することはできず、ただしLGBT理解増進法案などの例外はありますが、国内の大きな方向性に関しては、もっぱら岸田首相が采配しなければなりません。ここでも岸田首相は、安倍路線を継承するべきなのです。

そのことを強く認識して、経済状況を改善し雇用と企業収益が拡大する路線を継承し、デフレから完全脱却すべきなのです。それとともに、自民党内のリベラル派に対して一定の歯止めをかけなければなりません。外交だけではなく、国内でも安倍イズムを継承することが、自民党政権を安定化させる唯一の道だと認識して、その方向に転換すべきです。

これをないがしろにすれば、岸田政権が崩壊するだけではなく、自民党が崩れ、それだけならまだしも、安倍首相が語っていたような、悪夢の民主党政権のよう暗黒史を自民党政権が自ら招くことになりかねません。そうなれば、いずれ自民党は再び下野することになるでしょうが、それまでの間に悪夢の自民党政権が日本国内を毀損すことになりかねません。さらには、次の政権は安倍イズムとは、逆の政権運営をするかもしれません。

これだけは、絶対に避けるべきです。岸田政権は今後、安倍イズムを定着させるべく、邁進すべきです。

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2024年4月10日水曜日

今後も南シナ海で共同パトロール実施へ、日豪比と=米大統領補佐官―【私の論評】日米首脳会談で浮上!安倍から岸田政権への「統合作戦司令部」構想の歴史とバイデン政権の影響

今後も南シナ海で共同パトロール実施へ、日豪比と=米大統領補佐官

サリバン米大統領補佐官


 サリバン米大統領補佐官は、日本、オーストラリア、フィリピンとの南シナ海での共同演習について、今後共同パトロールが増える見通しを示し、中国の威圧に対応するための行動だと述べた。

 また、日米首脳会談と日米フィリピン首脳会談が予定されており、中国の影響力拡大への対抗策が議題となる。さらに、安全保障の枠組み「AUKUS」において、日本との協力拡大が予想される。

 バイデン大統領と岸田文雄首相は、首脳会談で、防衛・安全保障や宇宙開発における協力強化を発表する見通しであり、日本の「統合作戦司令部」発足に向けた米国の支持も明らかにされた。また、在日米軍司令官の階級の格上げが検討されている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】日米首脳会談で浮上!安倍から岸田政権への「統合作戦司令部」構想の歴史とバイデン政権の影響

まとめ
  • 日本の「統合作戦司令部」構想は2010年代初頭から自民党を中心に検討されてきた。安倍政権時代に具体化が進み、岸田政権で発足に向けた米国の支持が得られた。
  • 有事の際、統合作戦司令部は韓国のように米軍の指揮下に入る可能性があり、日本政府との調整が必要。日本は、韓国のような体制を取るべきではない。
  • バイデン政権は日米統合作戦司令部発足を支持しつつ、有事の指揮権移管を求める可能性がある。
  • バイデン政権はウクライナ支援への日本の協力も要求してくる可能性がある。日米同盟強化とウクライナ支援を関連づけて日本に働きかけてくるかもしれない。
  • 岸田首相の今回の米国訪問は総裁選に向けた重要な機会だが、失敗すれば総裁選前に辞任につながるリスクがある。慎重な対応が求められる。
上の記事に「統合作戦司令部」という言葉がでてきます、日本のこの構想は、2010年代初頭から自民党を中心に検討されてきたものです。当時の日本の防衛体制は、陸海空自衛隊がそれぞれ独立した司令部を持っており、統一的な指揮命令系統が不足しているという課題があり、この問題に対する解決策として「統合作戦司令部」の創設が検討され始めました。

特に、2012年から2020年にかけての安倍晋三政権時代に、この構想が大きく前に進みました。安倍政権は日本の防衛力強化を重要政策の一つに位置づけており、統合的な指揮命令系統の確立が不可欠だと考えていました。そのため、安倍政権下で「統合作戦司令部」の具体化に向けた検討が活発化し、その構想が具体的な形となっていきました。

その後、2023年に岸田文雄政権が発足すると、日米首脳会談の場で統合作戦司令部の発足に向けた米国の支持が明らかにされました。つまり、長年にわたる自民党内部の検討と議論を経て、ついに岸田政権下で具体化への大きな一歩を踏み出したのです。

これに関して、日本の統合作戦司令部は平時は自衛隊の指揮下にありますが、有事には米軍との緊密な連携の下に置かれ、場合によっては日米共同の作戦統制が行われる、すなわち有事には米軍司令部の下に置かれる可能性も指摘されています。無論、安倍元首相はそのようなことは目指していませんでした。

実際韓国は、そのような状況になっています。韓国軍の最高指揮権は韓国大統領にあり、平時・有事を通じて大統領が韓国軍を指揮しています。韓国軍は独自の軍司令部を持ち、韓国大統領の指揮下にあります。

韓国軍

ただし、有事の際は、韓国軍の戦時作戦統制権が韓米連合司令部に移譲され、連合軍司令官(米軍4星将軍)が韓国軍を指揮することになります。

つまり、平時の韓国軍は大統領の指揮下にあるが、有事には作戦統制権が米軍に移る体制になっています。

バイデン政権は、岸田政権が発足して以来、統合作戦司令部の発足を支持しているのですが、その位置づけに関して、有事には米国の指揮下に入るように圧力をかけてくるかもしれません。その背景には、有事の際に日本の自衛隊と米軍との指揮命令系統を明確化し、より緊密な協力体制を構築したいという米国の意図があると考えられます。

具体的には、有事の際の統合作戦司令部の位置づけについて、次のような圧力をかける可能性が指摘されています。
  • 統合作戦司令部を米軍の指揮下に置くよう求めること
  • 少なくとも作戦統制権の一部を米軍に移管するよう要求すること
  • 日米の指揮系統の一元化を強く主張すること
これらは、有事における日米の迅速な軍事対応力を高める狙いがあると考えられます。

ただし、有事においては自衛隊の指揮権を日本政府が維持するというのは独立国家として、当然のことであり、有事の際の指揮権をめぐって日本政府と米国政府の間で調整が必要になると見られます。


今後の日米首脳会談などの場で、この点をめぐる激しい協議が行われる可能性が高いと考えられます。

岸田首相は、なし崩し的に、有事の指揮権を米国に譲るようなことがあれば、国民の反発を招くことになるでしょう。こうした圧力をはねのけて、独立国家としての意地をみせていただきたいものです。

一方、AUKUSに関しては、昨日このブログで指摘した通り、協力強化を見据えた上で、日本やその同盟国の安全保障に危険を及ぼす可能性のある人物や組織の排除は正当化されるべきであり、そのための法制度の整備が重要です。岸田首相はこの方向に舵をきるべきです。

さらに、ウクライナ情勢をめぐり、バイデン政権は日本に対して様々な要請を行う可能性があります。

まず、対ロシア制裁への更なる参加要請が考えられます。日本はすでにロシアに対する制裁措置を講じていますが、バイデン政権はさらなる制裁強化を求めてくる可能性があります。

日本はこれまでにウクライナに対する軍事支援は行っておらず、バイデン政権はより積極的な軍事支援を要請してくる可能性があります。

さらに、ウクライナの復興支援や人道支援などに対する日本の経済的な協力を求めてくる可能性もあります。

ウクライナ支援に関して、許容できる範囲なら良いですが、法外な要求に応じてしまえば、国民の反発は必至です。

バイデン大統領夫妻との夕食会に向かう車中での岸田・バイデンの様子

特に注目されるのは、日米統合作戦司令部の発足を支持する中で、ウクライナ情勢への対応で日本の協力を引き出したいというのがバイデン政権の意図と考えられることです。

日米同盟の強化とウクライナ情勢への対応は、バイデン政権にとって重要な政策課題であり、これらを関連づけて日本に要請してくる可能性が高いといえます。

岸田首相にとって、今回の国賓待遇での米国訪問がが総裁選に向けた重要なチャンスとなる可能性もありますが、政治的リスクも大きいといえます。上手く乗り越えられれば有利な展開につながる可能性もありますが、失敗すれば総裁選を待たず辞任にまで追い込まれかねないです。慎重な外交的立ち振る舞いと、国内世論への配慮が重要になってくるでしょう。

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2024年4月9日火曜日

米英豪「AUKUS」、日本との協力を検討 先端防衛技術で―【私の論評】日本の情報管理体制改革がAUKUS参加と安全保障の鍵となる

 米英豪「AUKUS」、日本との協力を検討 先端防衛技術で

まとめ

  • 米国、英国、オーストラリアの3か国がAUKUSの枠組みの下、日本との先端防衛技術分野での協力を検討している
  • 日本はサイバーセキュリティや秘密保持の課題を抱えており、協力を進める上で一定の障壁がある
  • AUKUS は原子力潜水艦の配備に加え、量子computing、AI、サイバー分野などでの協力を日本と検討しているが、具体的な内容は未定


 米国、英国、オーストラリアの3か国は、日本と先端防衛技術分野で協力することを検討している。これは、これら3か国が設立した「AUKUS(オーカス)」と呼ばれる安全保障の枠組みの一環である。

 岸田首相がワシントンでバイデン大統領と会談する際に、この件が取り上げられる見込みだ。3か国は、日本の強みと各国との緊密な2国間防衛パートナーシップを認識しており、先進技術の共有に向けて日本と協力したいと表明している。

 ただし、日本はサイバー防衛強化や秘密保持の必要性から、協力には課題が残されているという指摘もある。

 AUKUS は第1の柱として原子力潜水艦の配備を進めているが、日本はその参加は検討していない。代わりに、量子コンピューティング、AI、サイバー技術などの分野での協力を検討している。

 AUKUS はこの第2の柱に他国の参加を望んでいるが、情報保護などの課題もある。一方、日本政府は具体的な協力内容は今のところ決まっていないと述べている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の情報管理体制改革がAUKUS参加と安全保障の鍵となる

まとめ
  • AUKUS との協力推進に向けた特定秘密保護法や セキュリティクリアランス制度の改善が喫緊の課題
  • 国家安全保障に危険を及ぼす可能性のある人物・ 組織の排除が可能となるよう、法的手続きを整備すべき
  • 政治的対立ではなく、国家の安全保障を最優先 する必要があり、これを正当化し裏付ける法律の制定強化が必要
  • 岸田首相はAUKUSとの協力強化に向け、 情報管理体制の抜本的な強化に着手する可能性
  • 日本や同盟国の安全保障に危険な親中派・ 媚中派の排除は正当化されなければならない
日本がAUKUSとの防衛技術協力を進める上での課題は、以下のようなものがあります。

まず、特定秘密保護法の整備について、2014年の法制定以降、一定の改善がなされてきました。秘密指定の基準明確化や罰則強化など、法的な基盤は整備されつつあります。ただし、AUKUS での協力では、より機密性の高い情報を共有する必要があり、現行法でも十分とは言えません。法制度のさらなる拡充が求められています。

次に、セキュリティクリアランス制度については、公務員や防衛産業関係者を対象とした制度が2016年に拡充されましたが、課題も残されています。まず、審査内容についてはハニートラップなどのスパイ工作への対応が十分ではありません。

また、対象者の範囲も公務員や防衛産業に限定されており、AUKUS での協力に必要な大学研究者やベンチャー企業関係者などまでは広がっていません。制度の拡充が求められています。

さらに、近年の政府の情報管理体制の脆弱性も大きな問題です。内閣府のタスクフォース報告書への中国企業ロゴ混入や、防衛省の調達情報流出など、機密情報の管理に深刻な課題があることが明らかになっています。法制度の形式的な整備だけでなく、実効性のある運用体制の構築が喫緊の課題です。

内閣府のタスクフォース報告書に入っていた中国企業ロゴの透かし

加えて、スパイ対策の法制度も整備されていません。機密情報の窃取やスパイ活動への加担に対する罰則規定の整備が求められています。

以上のように、特定秘密保護法の拡充、セキュリティクリアランス制度の強化、政府の情報管理体制の抜本的な改善、そしてスパイ防止法の整備など、日本にはAUKUSとの本格的な技術協力を進めるための総合的なセキュリティ体制の構築が喫緊の課題なのです。これらに取り組まなければ、信頼できる協力関係を築くことは難しいと指摘されています。

日本の情報管理体制が脆弱であれば、機密情報の流出リスクが高まります。そうなれば、AUKUS 参加国は日本との技術協力に慎重にならざるを得なくなります。

同様に、日本がファイブアイズ情報共有体制に参加できなくなる可能性もあります。ファイブアイズは極秘情報の共有が前提であり、日本の情報管理能力が信頼されなければ、参加国から排除される恐れがあります。

さらに広く見れば、日本の安全保障上の地位そのものが脅かされかねません。先進国の情報共有ネットワークから締め出されれば、戦略情報の収集や分析、さらには危機対応能力までが大幅に制約されることになります。その結果、日本の安全保障環境が大きく悪化し、地域における存在感も失われかねません。

つまり、日本が情報管理の抜本的な強化に取り組まなければ、AUKUS をはじめとする各国との協力関係が損なわれ、ファイブアイズからの排除も危惧されます。これは日本の安全保障と地位に深刻な打撃を与える可能性があるのです。

Five Eyes

岸田首相がワシントンでバイデン大統領と会談する際に、この問題が取り上げられることは、日本政府にとって重要な機会となります。AUKUS への参加や、より広範な安全保障協力を進めるためには、日本の情報管理体制の改善が必要不可欠であることを、両首脳が共有できるからです。

そのため、岸田首相は会談の場で、日本のセキュリティ強化に向けた具体的な取り組みを表明する可能性が高いと考えられます。特に、前述の課題に対する対応策を示し、早期の法制度整備や運用体制の構築に言及するなど、AUKUS との協力強化に向けた決意を示すことが期待されています。

日本政府にとって、AUKUS との連携は重要な安全保障上の課題です。岸田首相は、この首脳会談を、日本の情報管理体制を抜本的に強化する好機と捉え、積極的に行動すべきです。

まず、AUKUS との防衛技術協力の推進に向けて、特定秘密保護法やセキュリティクリアランス制度の改善が喫緊の課題です。これらの法制度を強化することで、機密情報の適切な管理体制を構築できるようになります。


その上で、これらの制度に基づいて、国家の安全保障に危険を及ぼす可能性のある人物やグループを排除することが可能になります。例えば、中国寄りの政治姿勢を示す議員や、中国企業との癒着が疑われる官僚などが、適切な審査によって排除の対象となり得るでしょう。危険な民間企業や、教育機関、その人物も対象となり得るでしょう。

法的な手続きと適正な理由に基づいて人事面での対応を行うことは、日本の国益を護る上で正当化されるべきだと考えます。単なる政治的対立ではなく、国家の安全保障を何よりも優先する必要があるのです。

岸田首相は人事を非常に重要視しています。特に、政府の政策課題や国民生活に関わる重要な判断を行う際に、即戦力となる人材を選ぶことを重視していると述べています。これは、国政推進において調整力、実行力、そして答弁力を備えた人材が必要だという考えに基づいています。

また、自由民主党の役員人事に関しても、国民の信頼回復に向けて努力する姿勢を示しており、特定の派閥や政策集団に属さず、中立的な立場で党改革を進める意向を表明しています。

AUKUS との協力強化を見据えた上で、日本やその同盟国の安全保障に危険を及ぼす可能性のある人物や組織の排除は正当化されるべきであり、そのための法制度の整備が重要です。岸田首相はこの方向に舵をきるべきです。

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