2017年1月3日火曜日

ヴェネツィアの海が、支那の海になる日―【私の論評】権力闘争に手詰まりの習近平は間もなく失脚か?

ヴェネツィアの海が、支那の海になる日

ヴェネツィアの港が、インドやケニアを通る新しい通商ルート「海のシルクロード」の発着点だ。ギリシャのピレウス港のケースに続いて、支那の地中海に対する関心をあらためて裏付けている。

2012年に竣工した世界最大のコンテナ船「CMA CGM Marco Polo」。
支那〜欧州ルートで活躍が期待されている。
かつて何世紀もの間にわたり、アドリア海はセレニッシマ(訳注:ヴェネツィア共和国の称号。「晴朗きわまるところ」の意)の「湾」であった。長さは800km、イタリアの沿岸とバルカン半島沿岸の間の広さは平均150km。そこにはサン・マルコのライオン(訳注:ヴェネツィア共和国旗)の旗がはためく要塞が点在していた。ヴェネツィアの商船が香辛料や金属、織物といった中近東・極東との交易の果実を故郷に持ち帰る通路だったのだ。

その後、新大陸が発見され、彼らの夢は終わった。オランダや英国の商船はアジアの植民地沿いに航路を移し、支那への航路を短縮した。アドリア海の栄華は歴史上のものとなった。

しかし、今日、歴史は繰り返す。ヴェネツィアと支那を結ぶ、新しい「海のシルクロード」だ。支那の港から東南アジア、インド、ケニアを経由し、拡張されたばかりのスエズ運河を通って地中海に入りサン・マルコのライオンの下でその旅程を終える通称ルートのことだ。

OBOR
北京はアドリア海を研究している。「シルクロード経済ベルト」という壮大な名前を冠する野心的なインフラ政策の行程を完結させるためだ。報道などでは「一帯一路」と要約されているが、英語でいう「One belt, one road」から「OBOR」の略称が生まれた。

駐中イタリア大使のエットレ・セクィは、2016年11月にミラノで開催されたイタリア支那基金の「チャイナ・アワーズ」において、次のように説明している。「ここ数日、最も興味深いことが議論されています。それは、港に関するものです。支那人たちは、アドリア海の港湾システムに注目しています」

そこには資金が流れ込み始めている。ヴェネツィアのオフショア・オンショアの新しい港湾システムの計画は、イタリアと支那のコンソーシアム「4C3」に委ねられることになっている。

一方で、支那は地中海に関心をもっていることをすでに示している。2016年4月に国営の支那遠洋運輸集団(China Ocean Shipping Company。COSCOとしても知られる)はアテネの港、ピレウス港を3億6,800万ユーロで買収した(彼らはすでに3つの埠頭の1つを運営していた)。ツィプラス政権はほかの購入者を見つけられず、中国人のみがこの施設の譲渡に手を挙げたのだった。

アテネはOBORのルートを概観した地図上で大きく目立つ寄港地の一つであり、その近くにあるのがヴェネツィアだ。12月に辞意を表明したマッテオ・レンツィ政権のインフラ担当大臣、グラツィアーノ・デルリーオは、「(ヴェネツィア、トリエステ、ラヴェンナを含む)アドリア海奥部の港は、極東からやってくる輸送を引きつけるために、一つの統合されたシステムとして立候補しなければならない」と公に語っている。

6月、(トリエステが含まれる)フリウリ州当局は、国際物流フェアのために上海へと飛んだ。「トリエステはシルクロードのコース上にあります。そして、最近北京政府の推進している一帯一路のイニシアティヴは、支那の投資家たちがトリエステ港に対して新たな関心を抱くことにつながります」と、上海凱榮法律事務所の金玉来は語った。そして、ヴェネツィアも、天津港とマルゲーラ、浜海の工業地域(訳注:いずれもヴェネツィア、天津の地区)の間で姉妹都市提携を結んだ。

いま、北京はヨーロッパまで道を延長したがっている。例えば、重慶とデュースブルクを結ぶ鉄道による陸路、そして海路だ。後者のの場合、アドリア海を通過する。「検討は進んでいます」。前述のセクィは言う。「支那人によると、アドリア海は中欧ヨーロッパの国々へと向かう効果的な連絡路なのです」

*ブログ管理人注:上の記事で「支那」と表記されている部分は原文では「中国」となっています。(以下同じ)

【私の論評】権力闘争に手詰まりの習近平は間もなく失脚か?


「一帯一路」とは、(1)支那西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、(2)支那沿岸部から東南アジア、インド、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)の二つの地域で、交通インフラ整備、貿易促進、資金の往来を促進していく構想です。夢のような構想ですが、支那は「本気」であり、具体的な目標を高速鉄道の建設に置いています。

実際に、支那浙江省義烏と英ロンドンを結ぶ国際定期貨物列車の運行が1日、始まりました。支那が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の一環で、支那メディアによると、両国間の直通貨物列車は初めて。支那は欧州との経済関係強化のため、中央アジアを通じた鉄道物流の充実を図っています。

支那浙江省義烏の駅で、英ロンドンへの出発を待つ
国際定期貨物列車=2016年12月31日
運行距離は約1万2千キロ。新疆ウイグル自治区のアラシャンコウで通関し、カザフスタンやロシア、ポーランド、ドイツ、フランスなどを経由。英仏海峡トンネルを通って18日間でロンドンに到着する予定。貨物は衣類などが主でした。

運行会社の責任者によると、海上輸送に比べて輸送時間を1カ月近く短縮でき、コストは航空便の20%程度だといいます。浙江省は製造業が盛んで、義烏は日用雑貨の世界的な卸売市場としても知られいます。

支那は「一対一路」で「経済スーパーパワー外交」を展開するつもりのようです。支那の成長果実を周辺国にもシェアすることによって、周辺国との経済圏を構築し、善隣関係を強めることがねらいですが、同時に、過剰投資に悩む国内産業の新たな市場開拓、対外投資の拡大、約4兆ドルの外貨準備の運用多角化といった支那自身の経済的な思惑も込められています

「一帯一路」を言い出したのは習近平・国家主席であり、彼の権力確立に伴って、この構想にも勢いをつけようとしています。

「一対一路」を言い出した習近平だが、その思惑は・・・・・
支那の高速鉄道は日本の新幹線の派生技術ですが、支那はなぜか「国産」技術に自信を強めており、(1)高速鉄道の技術や設備は支那が提供して建設 (2)運営には沿線国も参画 (3)石油・ガス、鉱物資源の資源国との間では、高速鉄道技術と資源を交換する、といった形で、支那版高速鉄道を大々的に輸出していく構えでした。

具体的には、(1)支那東北部からロシアを経由して欧州と結ぶ欧州アジア鉄道 (2)新疆から中央アジア諸国を横断してトルコにつながる中央アジア線 (3)支那南西部からインドシナ半島を縦貫する汎(はん)アジア線の3つの高速鉄道建設計画が策定された。

李克強首相は、外遊する度に、これらの高速鉄道計画を売り込んでいました。国内で「高速鉄道のセールスマン」と呼ばれていました。しかし、この売り込みも、惨憺たる失敗であることは、依然このブログにも掲載しました。以下にその記事のリンクを掲載します。
【恐怖の原発大陸支那】南シナ海の洋上で支那製の原発計画が進行中 19年までに運転開始へ―【私の論評】支那の原発輸出は頓挫するが、南シナ海浮体原発は甚大な危機!核兵器持ち込みも(゚д゚)!
バンドン郊外で開かれた高速鉄道の着工式典に出席したジョコ大統領(左から2人目)
と支那鉄道公司の盛光祖社長(中央)ら=1月21日、インドネシア
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、支那の高速鉄道の導入で、シンガポール、ベネゼエラ、タイ、米国など世界各地で頓挫している実体を掲載しました。この地域は、直接「一対一路」とは関係はないものの、それにしても、支那鉄道技術が未熟なことを露呈してしまいました。これでは、「一帯一路」の陸のシルクロードもうまくいくとは到底思えません。

さて、支那の鉄道技術水準の低さは別にして、この構想は控えめに言っても前途多難です。通過地帯の需要密度が低すぎて、金のかかる高速鉄道を採算に乗せるのは至難だからです。せいぜい需要密度が見込める区間で部分開通できるくらいが関の山、全線開通を無理に目指せば、投融資の不良債権化は必至です。

一昨年は支那が主導的に設立する新しい国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が大きな話題になりましたが、一昨年11月の北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)では「シルクロード・ファンド」という耳新しい言葉が登場しました。この400億ドル規模の投資ファンドは、まさに「一帯一路」構想を推進するために設立される直接投資のファンドです。

北京はこの二つの機関に「一帯一路」事業の投資と融資を分担させるつもりだったのかもしれませんが、シルクロード・ファンドとAIIBの間で、利益の衝突や運営理念の衝突が起きることも懸念されました。

AIIBは多数国が参加する「国際金融機関」である以上、融資はアンタイド、援助事業にも国際競争入札が求められるはずでしたが、シルクロード・ファンドは支那単独で設立され、支那高速鉄道の調達を条件とする「ひも付き(タイド)」援助機関でした。

シルクロード・ファンドが出資し、AIIBが融資する形で同一事業に共同投融資を行うなら、AIIBのアンタイドは有名無実になり、支那産品のメーカーファイナンス(例:クルマのローン)を出す機関に成り下がってしまいます。それに、採算の取れない全線開通事業にAIIBが融資すると聞いたら、どこの国もAIIB参加の意欲が失せるのが当然です。

そのせいもあったのでしょうか、AIIBは昨年1月の段階で、開店休業状態でした。それについては、このブログにも以前掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
AIIB開業式典であいさつする習主席。懸念材料は消えないままだ=昨年1月
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、支那が主導するアジアインフラ銀行(AIIB)は昨年スタート早々、「開店休業」となりました。6月の予定だった最初の融資案件承認が「年内」へ大幅に遅れたからです。信用格付けを取得できない事態が尾を引いているとみられ、日米の参加を“懇願”するしかない状況でした。その後、どうなったかも、ほとんど報道されていないので、実質今も開店休業状態とみられます。

鉄鋼産業をはじめ、投資バブルがもたらした過剰設備に悩む支那の業界は、「一帯一路」事業が救世主になってくれることを夢見ていたのでしょうが、この夢はかなわなかったようです。元々安値受注では業界の苦境を救えないし、投資家であるシルクロード・ファンドが被援助国に支那産品を高値で調達するように求めれば、深刻な利益の衝突が起きたことでしょう。元々かなり無理があったのです。

これを言い出した、習近平はかなり厳しい状況におかれたものと思います。習近平は、数年前から腐敗撲滅運動という名を借りて、その実権力闘争を行っています。支那は3大グループで権力闘争をしています。胡錦涛派(共青団)の李克強氏、福建華僑(客家 はっか)を地盤とする太子党の習近平主席、上海閥と太子党の江沢民派の3つです。

習近平主席は、もともと江沢民の後ろ盾で主席になったのですが、主席就任後は江沢民と距離を置き、胡錦涛派と結託して、江沢民派を追い落としました。

その後、江沢民派という共通の敵を追い落とした習近平主席と胡錦涛派の李克強氏は次第に対立するようになりました。今は、習近平は江沢民派残党と胡錦涛派の両方を敵に回しています。主席就任以来最も政治的基盤がぜい弱な状態です。

こうした権力闘争の最中に、南シナ海での支那暴挙は、国際仲裁裁判所により全面的に否定されてしまいました。「一対一路」構想も、AIIBも頓挫状態です。

そんな最中に、安倍総理はハワイを訪問して、真珠湾で慰霊をし、それに動向した稲田防衛大臣はその直後に靖国神社を参拝をしています。


習近平政権が弱体化している時に、日本では対支那強硬派の稲田朋美氏が防衛大臣に就任し、そうしてとうとう参拝をしたのです。歴代の支那主席は日本の首相、主要閣僚の靖国神社参拝に反対し、押さえ込んできました。

支那においては、習近平主席は日本の閣僚も押さえ込めない弱い主席ということになったはずです。これは、習近平主席と対立する胡錦涛派、江沢民派にすれば、習近平を引きずり下ろす絶好のチャンスのはずです。他の閣僚や、安倍首相が参拝すれば、ますます半習近平派は勢いづくことでしょう。

しかし、ここで習近平も反撃に出ました。それは何かというと、空母遼寧の南シナ海への覇権です。支那の事情を知らない人にとっては、なぜ空母「遼寧」の南シナ海への派遣が、反撃になるのかと考えられるかもしれませんが、支那という国は、元々自国内部の都合で動く国です。この派遣も、国内での権力闘争の相手に対する示威行為の一環であると考えられます。

昨年12月24日、航行する支那の空母「遼寧」
国際的にも、国内的にも追い詰められた習近平は、苦肉の策として、これを実行したものと思われます。これを実行することにより、何か南シナ海での情勢に何か、支那にとって有利な面がでてくれば、習近平の立場は強まり、権力闘争には有利になります。

しかし、このブログでも以前示したとおり、空母「遼寧」はボロ船に過ぎず、戦術的にも、戦略的にもあまり意味はありません。八方塞がりになった習近平が窮余の一策として行ったものとみられます。

今のところ、反習近平派は、この様子を見守っているところなのだと思います。この派遣が特に何も影響がないと見定めれば、徹底的に習近平を追い詰めるでしょう。

そうなれば、習近平は窮鼠猫を噛むの諺どおりに、尖閣諸島占拠を目指すかもしれません。しかし、そうなったにしても、今の支那の人民解放軍には、日本の自衛隊に勝ち目は全くありません。米軍相手ならなおさらです。

そうなると、今年は権力闘争に手詰まりの習近平は間もなく失脚するか、失脚しないまでも、失脚への道筋が顕になる年になるかもしれません。

習近平が失脚して、後に誰が新たな主席になろうと、支那は軍事的にも、経済的にも手詰まりで、相当混乱することになることでしょう。

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2017年1月2日月曜日

【新年一般参賀】平成で2番目の9万6千人超が祝う 陛下の譲位で関心高まる 4回目は入場制限―【私の論評】皇尊弥栄 すめらみこといやさか


新年の一般参賀で、訪れた人たちに手を振られる天皇陛下=2日午前、皇居
新年恒例の一般参賀が2日、皇居で行われ、天皇、皇后両陛下や皇族方が宮殿「長和殿」のベランダに立ち、手を振って応えられた。宮内庁によると、計5回で9万6700人の参賀者が訪れた。

平成の新年一般参賀では、皇太子妃雅子さまがご成婚後初めて参列された6年に、計8回で11万1700人が訪れたのが最多。今年はそれに次いで多かった。天皇陛下が昨年8月に譲位の意向を示されたことで、国民の関心が高まったのが要因とみられる。

宮内庁によると、4回目だけで会場内の人数が2万6730人に達したため、入場を制限したという。

陛下は毎回、マイクを通じて「新年おめでとう。皆さんとともにこの日を祝うことを誠に喜ばしく思います。本年が人々にとり、穏やかで心豊かに過ごせる年となるよう願っています」とあいさつをされた。

【私の論評】皇尊弥栄 すめらみこといやさか



宮内庁は1日、新年にあたり天皇陛下の歌5首と皇后さまの3首を発表しました。また天皇ご一家の写真と映像を公表されました。陛下は1990年から新年の「ご感想」(年頭所感)を元日に公表されていらっしゃいましたが、高齢に伴う負担軽減のため今年から取り辞められました。

天皇ご一家の写真
陛下の歌は、昨年5月に熊本地震の被災地を訪問した際や、11月に長野県の満蒙開拓平和記念館を訪れた際の感想を詠まれたもの。皇后さまは、1月にフィリピンを訪問した際の思いを詠まれました。

今年、両陛下は2月末~3月初旬にベトナムを初めて公式訪問するほか、5月には富山県で開催される全国植樹祭への出席が予定されるなど、今年も多くの公務に取り組まれます。

両陛下の外国訪問は、昨年1月のフィリピン以来。ベトナムでは首都ハノイと、フエを5泊6日で訪れることが検討されています。

両陛下と皇族方は1日、新年の祝賀行事に出席し、2日は一般参賀で計5回皇居・宮殿のベランダに立たれました。

以下に、1日に発表された、天皇陛下の歌5首と皇后さまの3首の歌を掲載します。
 <天皇陛下> 
 第六十七回全国植樹祭 
山々の囲む長野に集(つど)ひ来て人らと共に苗木植ゑけり
 第三十六回全国豊かな海づくり大会 
鼠ヶ関(ねずがせき)の港に集(つど)ふ漁船(いさりぶね)海人(あま)びと手を振り船は過ぎ行く 
 第七十一回国民体育大会開会式 
大いなる災害受けし岩手県に人ら集(つど)ひて国体開く
 平成二十八年熊本地震被災者を見舞ひて 
幼子の静かに持ち来(こ)し折り紙のゆりの花手に避難所を出づ
 満蒙開拓平和記念館にて 
戦の終りし後(のち)の難(かた)き日々を面(おも)おだやかに開拓者語る 
 <皇后さま>
  一月フィリピン訪問
許し得ぬを許せし人の名と共にモンテンルパを心に刻む
 被災地 熊本
ためらひつつさあれども行く傍(かたは)らに立たむと君のひたに思(おぼ)せば
 橿原神宮参拝 
遠つ世の風ひそかにも聴くごとく樫の葉そよぐ参道を行く


 皇尊弥栄
       天皇皇后両陛下 万歳! 万歳! 万歳!


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天皇陛下、「深い反省」再度表明=終戦記念日―【私の論評】沖縄戦で最大の犠牲者を出したのは、実は北海道の将兵(゚д゚)!


2017年1月1日日曜日

なぜ日本で「支那」が憚られるも海外で「China」がOKか―【私の論評】「中国」ではなく、「支那」と呼称すべきこれだけの理由(゚д゚)!

なぜ日本で「支那」が憚られるも海外で「China」がOKか
写真、チャートはブログ管理人挿入 以下同じ
英語で中国のことを「China」と呼ぶにもかかわらず、「シナ」と呼ぶことがはばかられる世の中になっている。評論家の呉智英氏が、なぜ日本では「中国」と呼ぶことが強制されるようになったのかについて解説する。

              * * *

 沖縄における機動隊員の「土人」「支那人」発言がジャーナリズムの一部で今も批判の的となっている。しかし、よく観察してみると「土人」批判が中心となり「支那人」批判は勢いを減じている。「支那人」批判が論理的に成り立たないと気づきだしたのだろう。「東シナ海」も「インドシナ半島」も、これらジャーナリズム自身が使っているのだから。

 「支那」「支那人」が禁止され、「東シナ海」「インドシナ半島」(支那かシナかは、単なる用字の違い)が許されている矛盾に気づけば、真実は容易に分かる。これは国家権力による言論抑圧なのである。

 敗戦期の1946年、連合国占領下の言論統制策の一環として、原爆の被害報道や米兵の犯罪報道などとともに「支那」使用が禁止されたのだ。同年六月の外務省局長通達が、この言論弾圧の法的根拠である。その文書の中に、「東支那海」などは可とあるから、これらは許されているのだ。

 では、支那は、なぜ日本に「中国」を強制したのか。支那が世界の「中心の国」であり、日本(朝鮮やベトナムも)はその属国だと認めさせたいからだ。「中華思想」「華夷(かい)秩序」である。しかし、イギリスやフランスやドイツに、支那は世界の中心だからChinaではなくCentral Landと呼べとは言えない。それ故、欧米では「支那」が通用している。

 夷(えびす)として差別されている日本人が、嬉々としてこれを受け容れ、この差別を批判する人たちを差別者であると誹謗する。歪んだ“正義”が言論界を支配している。

 昨年、米大統領選で勝利したトランプのもとへ安倍首相が真先に駆けつけた。これを「朝貢外交」だと、愚かな言論人たちは批判した。安倍総理の行動は、適否は別として、外交技術の範囲内だ。朝貢外交を批判するなら、支那を「中国」と呼ばせることをまず批判すべきである。朝貢外交は華夷秩序の下で行なわれる。

 こんな異常な言論空間が70年も続き、さまざまな場所で「支那」狩りが行なわれてきた。C・H・ビショップ文、K・ヴィーゼ絵の絵本『シナの五にんきょうだい』の絶版事件もその一例である。

絵本『シナの五にんきょうだい』の表紙
 原著は1938年刊。日本では1961年福音館から石井桃子訳で刊行された。内容は、ユーモラスなホラ話である。支那の五人兄弟は、それぞれ海の水を飲み干すなどの超人的な特技を持っているが、それ故に死刑になりそうになる。しかし、その特技によって助かる。子供が喜びそうな創作おとぎ話である。ところが、1970年代、「シナ」が侵略的で差別的だという理不尽な非難が起き、1978年に絶版に追い込まれた。

 その後も復刊を望む声が多く、1995年、瑞雲舎から新訳が出て重版が続いている。書名は『シナの五にんきょうだい』のままだ。福音館は何におびえて絶版にしたのだろう。周囲の出版人、言論人は何を考えていたのだろう。新訳の訳者は川本三郎である。川本も一つぐらいはいいことをしている。

 ●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。

【私の論評】「中国」ではなく、「支那」呼称すべきこれだけの理由(゚д゚)!

皆様、明けましておめでとう御座います。昨年中は大変お世話になりました。本年もよろしくお願い申し上げます。

さて、今年の抱負として私は、さほど大きなものではないのですが、このブログでは今年こそは、大陸中国を中国と呼称するのはやめて、「支那」にすることとしました。そうするにおいては、昨年中に熟慮に熟慮を重ねてまいりました。その結果「支那」と呼称することに決めました。本日は、その熟慮の内容を掲載させていただきます。

ブログ冒頭の記事以外も、支那を中国と呼ぶべきではない理由があります。

まず第一に、日本には中国育ちの日本人が大勢いるからです。無論この中国は支那のことではありません。 中国には、中国銀行、中国放送、中国新聞、中国交通、中国ガス機器、中国電力等、 社名に「中国」を含む多くの企業がありますが、言うまでもなくすべて日本の企業です。 また中国には中国山地があり、中国自動車道が通っています。

ところが紛らわしい事に、なぜかマスコミは支那を「中国」と呼び、 中国のことをわざわざ「中国地方」などと脇に押しやったような言い方をしています。2011年に、「中国で『讃岐うどん』商標登録申請、香川県が異議へ」という見出しの 新聞記事がありましたが、記事の内容は「支那人が支那の国内で日本の商標を申請した」というものでした。 それなら「支那で『讃岐うどん』商標登録申請」と言うべきです。 先ほどの見出しでは、まるで瀬戸内海をはさんで中国と四国がもめているみたいです。


日本の山陽・山陰を合わせた地域を中国と呼ぶ歴史は非常に古く、 『類聚三代格』の元慶二年(878)二月三日の官符に既に見られますから、 少なくとも千百年以上の歴史があります。


中国とは本来日本の山陰・山陽地方を合わせた地方のことだ
一方、一般に日本人が支那を「中国」と呼び始めたのは戦後の事ですから、 まだ70年程の歴史しかありません。 また「中国」と呼び始めた時点で、中華民国(建国1912年)はまだ三十数年の歴史しかなく、 中華人民共和国(建国1949年)に至っては存在すらしていませんでした。

ということは、千百年以上も在り続け、使われ続けて来た日本国内の由緒正しい地名を脇に押しやって、 海外にある新興国の略称を優先させていることになります。 なぜこんな不自然な馬鹿げたことが起こってしまったのでしょうか。

事の始まりは、昭和21年(1946)に外務省が出した通達です。 当時GHQの管理下にあった外務省は、 東京都内の主要マスコミに対して「支那」の使用をやめるように通達しました。
中華民國の國名として支那といふ文字を使ふことは過去に於ては普通行はれて居たのであるが 其の後之を改められ中國等の語が使はれてゐる處支那といふ文字は中華民國として極度に嫌ふものであり、 現に終戰後同國代表者が公式非公式に此の字の使用をやめて貰ひ度いとの要求があつたので、 今後は理屈を拔きにして先方の嫌がる文字を使はぬ樣にしたいと考え念のため貴意を得る次第です。 要するに支那の文字を使はなければよいのですから用辭例としては 
中華民國、中國、民國。中華民國人、中國人、民國人、華人。 
日華、米華、中蘇、英華などのいづれを用ひるも差支なく唯歴史的地理的又は學術的の敍述などの場合は 必しも右に據り得ない例へば東支那海とか日支事變とか云ふことはやむを得ぬと考へます。 
(昭和21年6月7日付「中華民国の呼称に関する件」より引用)
「今後は理屈を拔きにして」とある通り、理屈の通らない無茶苦茶な押し付けであることは明らかです。 当時の日本は敗戦によって民主主義を封殺され、GHQによる野蛮な検閲と洗脳に支配された時代でしたが、 それでもこんな暴力団の脅しのような要求に屈した外務官僚には大いに責任があります。

しかしよく読むと、支那と呼ぶべきでないとされているのは「中華民国」、つまり台湾のことです。 また「中国」の他に「民国」という候補も挙げられていますから、 こちらを使えば無用な混乱は避けられたはずです。わざわざ問題のある「中国」の方を使い、さらには 中華人民共和国にまで「中国」という名称を適用したことは、 マスコミの過剰適応であり、外務官僚と同罪です。


驚くべきことにマスコミの力は絶大でした。 ありとあらゆるすべてのメディアにおいて「支那」から「中国」への書き換えが行われ、 過去の戦争の名前までもが、 例えば「支那事変」は「日中戦争」にという具合に書き換えられました。 その一方で「中国四千年」「中国文明」などと、あたかも何千年も前から「中国」という国があって、 日本人がそう呼んでいたかのように触れ回りました。 つまり単に国の呼称が変えられただけではなくて、歴史全体が書き換えられたのです。

このような洗脳により、最近まで日本人が支那を支那と呼んでいた事も歴史から消し去られて しまいました。 それでも個人の中にはいまだに支那と呼ぶ人はいるのですが、 マスコミがこぞってシナを強引に「中国」と呼び続けるものですから、 逆に支那と呼んでいる人達の方が、何か特別な意図を持った人のように思われてしまいます。

このような理不尽な押し付けによって、日本人とりわけ中国の人達は様々な不利益を被っています。 中国は日本の地名です。戦争に負けたからと言って呼び名を強要されるいわれはありません。 これが支那を「中国」と呼んではいけない 一つ目の理由 です。

第二の理由をあげます。「支那(シナ)は日本人だけの呼び名であり、中国人を侮蔑してこう呼んだのだ」と 主張する人がいます。これはまったくの嘘です。 「シナ」も「支那」も日本だけで使われた言葉ではないし、ましてや差別語ではありません。

『広辞苑』には、「支那」とはシナに対する外国人一般の呼称であると書かれています。
支那(しな)(「秦(しん)」の転訛)外国人の中国に対する呼称。初めインドの仏典に現れ、 日本では江戸中期以来第二次大戦末まで用いられた。 戦後は「支那」の表記を避けて多く「シナ」と書く。インド人の「シナ」という呼称に「支那」の字を当てたのは当のシナ人です。 そしてシナ人自身も自国を「支那」と呼んでいました。 「国父」とされる孫文も自国を「支那」と言っています。 差別語であればシナ人は使わないはずです。

一方、日本人は元々シナを「から」「もろこし」と呼んでいました。 「支那(シナ)」と呼び始めたのは外国人の影響です。 江戸時代の学者・本居宣長(1730-1801)は、『玉がつま』の中で、 日本の一部の学者が外国の真似をして「支那」と呼ぶことを批判しています。
もろこしの國を、もろこしともからともいひ、漢文には、漢とも唐ともかくぞ、皇國のことなるを、 しかいふをばつたなしとして、中華中國などいふを、かしこきことゝ心得たるひがことは、 馭戎慨言にくはしく論ひたれば、今さらにいはず、又中華中國などは、いふまじきことゝ、 物のこゝろをわきまへたるひとはた、猶漢もしは唐などいふをば、つたなしとやおもふらむ、 震旦支那など書くたぐひもあんなるは、中華中國などいふにくらぶれば、よろしけれども、 震旦支那などは、西の方なる國より、つけたる名 なれば、そもなほおのが國のことをすてゝ、人の國のことにしたがふにぞ有ける、 もし漢といひ唐ともいはむを、おかしからずとおもはゞ、 漢文にも、諸越とも、毛虜胡鴟とも書むに、何事かあらむ、
このことからも、支那(シナ)は「日本人だけが使った言葉」ではない事が明らかです。 むしろその呼称が世界標準だったために、日本人までが使うようになったというのが真実です。

これは今も同じです。 下記の一覧表は、世界の国々が支那を何と呼んでいるかをまとめたものです。 これを見ると、国毎のなまりはあるものの、多くの国が「シナ」に基づく呼び方をしている ことが分かります。英語の「チャイナ」もシナが変化したものです。 朝鮮語の「チュングク」とベトナム語の「トゥルンコック」のみが「中国」に基づいた呼称のようです。 ペルシャ語の「シニスタン」は「震旦(しんたん)」と同源で、やはり「秦(しん)」が元になっています。


他の国々では 支那をどう呼んでいるか

「China を『中国』と呼ぶ重大な過ち」中嶋嶺雄(WiLL 2006年9月号)より引用
また「仮に差別語ではないとしても、人が嫌がる呼称をわざと使うのはよくない」などと もっともらしいことを言う人もいますが、シナ人が嫌がっているというのも非常に疑わしい話です。 先に述べた通り、シナは世界中の国々からシナもしくはその変形で呼ばれているのに、 なぜそれらに対して抗議をしないのでしょうか。

 そもそも中華人民共和国の英語名は "People's Republic of China" で、 シナ政府自身がつけた呼び名です。 これを日本語に訳すなら、「支那人民共和国」になる事は言うまでもありません。

sina.comのポータル
2000年、支那の巨大ポータルサイト 新浪(sina.com) に対して、 日本に留学経験のあるシナの学者が抗議をしたことがありました。 「sina は日本による差別語だから改名するべきだ」と言うおなじみの主張です。 その時 sina.com の代表者は 「支那は英語のチャイナ(China)の過去の発音で、それ自体に侮辱の意味はない」と言って拒否しました。 さらに続けて、「sinaを世界のブランドにし、シナ人が誇れる呼び名にする」と言ったそうです。 至ってまともな意見です。

大体シナを「差別語」だと言い張る人達は、一定期間以上日本に住んでいていて日本のマスコミの報道に接した人たちだけです。 もし支那にいる支那人が sina.com の名称を嫌がっているとしたら、 わざわざ日本に留学した学者に指摘されるまでもなく、最初から大騒ぎになっていたはずですし、 間違っても人気サイトなどにはならなかったでしょう。

「意図的にシナと呼ぶ態度がシナを差別語にしたのだ」のでたらめ他に、「支那という呼び方を変えてくれと要請したにも関わらず、日本人は変えようとせず、 意図的に支那と呼び続けた。だから支那は差別語になったのだ」という主張もありますが、これも論外です。

本当の差別語や明らかに侮蔑している場合はともかく、相手をどう呼ぶかは呼ぶ側が決めることです。 「このように呼んで欲しい」と要請をするの良いですが、それが受け入れられるかどうかは相手次第です。 それを相手が要請に従わないからと言って「差別」と決めつけるのは、 やくざの言いがかりと同じです。 ましてや相手が国際標準の呼び方をしているところに、ごく少数の国しか使わない特殊な呼び方を 押し付けるなどというのは もってのほかです。

さて支那人が「支那と呼ぶな」という時、必ずその後に「中国と呼べ」が続きます。なぜ、そのようなことになるかといえば、ブログ冒頭の記事にもある通り、支那が世界の「中心の国」であり、日本(朝鮮やベトナムも)はその属国だと認めさせたいからです。これは、「中華思想」「華夷(かい)秩序」によるものです。

そもそも「中国」と言う言葉には、「世界の中心の国」という意味の普通名詞の用法があります。 この用法は固有名詞としての「中国」とは違って、非常に長い歴史があります。 その言葉は中華思想という世界観を前提としています。

その世界観は、「中国」を中心として、四方に野蛮な異民族がいるというものです。 四方の異民族は東夷(とうい)、西戎(せいじゅう)、南蛮(なんばん)、北狄(ほくてき) と呼ばれました。 使われている文字を見れば分かる通り、周辺の異民族を侮蔑してこう呼んでいました。


そして「中国」には、天からの命令(天命)を授かって世界を治める「天子(てんし)」がいるとされました。 天子が政治を行う場が朝廷です。 皇帝は天子の別称で、「皇」の字は天子にのみ許されるとされました。 皇帝は「中国」を治めるのみならず、四方の野蛮な異民族をも臣下の国として従え、 その国の長に「王」の称号を授けました。 王は皇帝に忠誠を誓い、「中国」に貢ぎ物を納めました。 これがいわゆる「中華秩序」です。だから「中国」は尊称でもあります。

支那の皇帝は自国を「中国」と尊称で呼び、臣下の国にも「中国」と呼ばせました。 だからシナの忠実な臣下である朝鮮などは、支那を「中国」と呼びました。 つまり 他国を「中国」と呼ぶ国は、その国の臣下の国に他ならない という事です。 これに似た働きをする言葉には「ご主人様」や「親分」などがあります。 ある人を「ご主人様」と呼ぶ人は、その人の召使いであることは明らかです。 ある人を「親分」と呼ぶ人は、その人の子分に違いないでしょう。

唐本御影」聖徳太子が描かれた肖像画
ところが7世紀の始め、支那の前にもう一つの大国が現れました。 その国もまた自国を中国と呼びました。 次に示すのは、その国から支那に送られてきた国書の一節です。
日出づる処の 天子が、日没する処の 天子に手紙を送る(日出處天子致書日沒處天子)
 天子が二人になっています。 続いて送られて来た二通目の国書は次のようなものでした。
東の 天皇が謹んで西の 皇帝に申し上げます(東天皇敬白西皇帝)
天子にしか許されないはずの「皇」を名に持つ元首が二人います。言うまでもなく、これは日本が支那に送った国書です。 共に聖徳太子の手によるものとされていて、 前者は支那の歴史書『隋書』に、後者は日本の歴史書『日本書紀』に記録されています。

先に述べた中華思想の世界観を理解していれば、この二つの国書が提示しているものが、共に 「二つの中国」という新しい世界観 であることがお分かりでしょう。これは一つの中国を前提とするシナ人の中華秩序を否定するものでした。 隋の煬帝は不本意ながらもこの国書を受け入れています。 それ以来アジアには二つの中国があり、互いに張り合って来たわけです。


この新しい秩序を受け入れなかったのは、支那よりもむしろ支那の属国の朝鮮でした。 明治時代に日本が朝鮮に修好を申し入れた時も、国書に「皇」の字が使われていると言って拒否しました。 今でも朝鮮人などが、天皇という呼称を嫌って「日王」などと言うのは、 この「二つの中国」という世界観を認めたくないからです。 日本国内にも、執拗に聖徳太子の存在を否定し、 大和朝廷を「ヤマト王権」と言い換えたがる勢力がありますが、 まったく同じ発想です。 「朝廷」は天子が政治を行う場、「王」は皇帝の臣下であることを思い出して下さい。 「大和」を「ヤマト」に置き換えるのは、「大」が敬称だからです。

さて今日の私達は当たり前のようにシナを「中国」と呼んでいますが、 それは「中国」が「中華人民共和国」の略称だと思っているからです。 しかしそう呼ぶことは、聖徳太子が確立されたた「二つの中国」という日本の基本的立場を危うくするものです。 日本こそが中国なのに、なぜ他国を「中国」などと呼ぶのでしょうか。 これが支那を「中国」と呼んではいけない 二つ目の理由 です。

朝鮮人やベトナム人がシナを「中国」と呼ぶのは、臣下の国としての長い歴史を反映したものなので 問題ありません。日本人がそう呼んではいけないのは、日本の歴史を反映していないからです。 私達は敗戦と共に、そういう間違った呼称を巧妙に押し付けられたということです。 本を正せば、「中国」の意味や聖徳太子の国書の意味を教えない学校教育に根本的な問題があります。

このブログでも、昨年までは支那のことを中国と呼称していましたが、今年から支那と呼称することにします。

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2016年12月31日土曜日

【政治デスクノート】自民党に異変 “シルバー政党”化が進む民進党を尻目に若者の支持を獲得―【私の論評】何をさておいても雇用情勢さえ良ければ、良しとせよ(゚д゚)!



自民党が最近おかしい。産経新聞社は毎月、フジニュースネットワーク(FNN)と合同で世論調査を実施しているが、このところ自民党支持層が若返っているのでは!?と感じる。自民党といえば「高齢」「地方」のはず。支持者を集めた会合などを取材すると“加齢臭”が渦巻いていたのに…。自民党の「1強多弱」と呼ばれる状況は、どうやら若者の支持拡大が背景にありそうだ。

   内閣支持率を若者が牽引

 安倍晋三内閣の支持率を世代別にみると、このところ20代(18、19歳含む)の支持率が高い。特に今年9月は68・6%に達し、その後も60%以上の高支持率をキープ。直近の12月17、18両日実施の調査では、全体の支持率55・6%だったが、20代の支持率は63・6%もあった。

 過去3年間の年ごとの平均をみても、平成26年は53・5%(全体51・7%)で27年が52・1%(47・4%)。今年は58・4%(52・5%)に跳ね上がっている。最近の安倍内閣の支持率は若い世代が牽引しているといっても良さそうだ。

 ただ、20代の支持率は独特な動きをみせる。60代以上の高齢者は比較的安定しているが、20代は1カ月で一気に10ポイント前後の急上昇、急下落をすることが珍しくない。他の世代が軒並み上がっているのに、20代だけが下落しているときもある。

  「期待」と「醜聞」

 20代の支持率が急上昇するのは内閣改造の後が目立つ。新しい顔ぶれとなった内閣への「期待」が支持率につながっているからにほかならない。

 ただ、平成26年10月の調査だけは、9月に内閣改造をしたにもかかわらず、10ポイント近く急落した。このときは、経済産業相だった小渕優子氏の「政治とカネ」の問題と、法相だった松島みどり氏の「うちわ配布」問題などが浮上し、2人とも1カ月半ほどで閣僚辞任を余儀なくされた時期と重なる。

 若者は「期待」が大きい分、スキャンダルに敏感で失望に変わるのも早いようだ。特に「政治とカネ」の問題は「古い政治」体質と映るのか、敬遠する傾向が強い。

 実際、平成27年2月の内閣支持率は、26年12月の衆院選とその後の内閣改造などで政権運営に勢いがつき3調査連続のアップとなったが、20代の支持率だけが失速。農林水産相として初入閣した西川公也氏の政治献金問題が連日報じられていた時期だった。

 また、28年5月の調査でも、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)開催とオバマ米大統領の広島訪問などで内閣支持率が上昇したにもかかわらず、20代だけは下落している。この時期は、自民党が支援した舛添要一東京都知事の公私混同疑惑がメディアを賑わせていた。

  自民党支持層の若返り

 では、自民党支持層も若返っているのか-。

 今年12月の調査では、自民党の支持率は40・7%。支持層の世代構成をみると、60歳以上が41・0%を占め、50代14・0%▽40代14・3%▽30代13・5%▽20代17・2%-だった。平均年齢は53・13歳で、やはり自民党支持層の主軸は60歳以上の高齢者といえる。

 若返りは気のせいだったのか…。ただ、過去3年の傾向を分析すると、どうやらそうでもなさそうだ。

 自民党支持層に占める60代以上の割合は、平成26年が平均42・7%で、27年は42・4%。28年が41・9%となり、わずかだが右肩下がりが続いている。逆に20代の割合は、26年が平均11・8%、27年は11・9%で、28年は14・4%だった。今年1年で2ポイント以上も増えているのだ。

 「期待」「醜聞」で揺れながらも、安倍内閣の若者人気と連動するように、じわじわと高齢者のシェア率が減る一方で、若者の支持が増えている。

   民進党は“シルバー政党”化

 逆に、支持層の高齢化が進んでいるのが民進党だ。今年12月の調査で、民進党支持層の60歳以上の占める割合は、62・0%に達した。共産党の60・5%も上回っている。旧民主党政権時代は50%前後で自民党と大差なかったが、徐々に増加。右肩上がりを続け、最近は60%前後で推移している。

 特に今年は、山尾志桜里前政調会長が事務所経費として多額のタクシー代を支出していた問題や、蓮舫代表の日本国籍と台湾籍のいわゆる「二重国籍」疑惑などが相次ぎ、自民党のお株を奪うほどだ。

 これでは、蓮舫代表が「酉年には大きな政治的な動きがある。29年は衆院解散・総選挙とも言われている」と選挙戦への決意を表明したところで、まだまだ党勢拡大は厳しい。

【私の論評】何をさておいても雇用情勢さえ良ければ、良しとせよ(゚д゚)!

上の記事の、分析で決定的に欠如しているのが、なぜ若者が自民党を支持するようになったのかというところです。

上の記事でも、「期待」によって支持率が伸び、「醜聞」によっては、下がるとしていますが、その「期待」の中身は何なのかについては、触れられていません。

上の記事では、「期待」は新しい内閣の顔ぶれだとしていますが、顔ぶれが新しくなっても、根本的に何かがなければ、「期待」のしようもありません。

その根本的何かとは何なのでしょうか。それは、他党と自民党と決定的に違うものでしょう。それは、経済対策ではないかと思います。

その中でも、財政政策は増税という緊縮財政策をとったために大失敗し現状でもGDPの伸びは低迷し、デフレに戻る一歩手前の状況ですが、金融政策においては、緩和策をとったため雇用状況がかなり改善しています。

このブログでも何度か強調していますが、雇用と金融政策は、密接に結びついています。日本や米国のくらいの規模の国であれば、物価を数%上昇させただけで、他は一切何をせずとも、一夜にして数百万人の雇用が生まれます。これは、マクロ経済学条の常識です。

それは、フィリップス曲線を見れば、誰にでも理解できます。フィリップス曲線(フィリップスきょくせん、英: Phillips curve)は、経済学においてインフレーションと失業の関係を示したものです。アルバン・ウィリアム・フィリップスが1958年の論文の中で発表したました。

縦軸にインフレ率(物価上昇率)、横軸に失業率をとったときに、両者の関係は右下がりの曲線となります。フィリップスは、初めて発表した時は縦軸に賃金上昇率を取っていましたが、物価上昇率と密接な関係があるため、縦軸に物価上昇率を用いることが多いです。

これは、インフレ率が高い状況では失業率が低下し、逆に失業率が高いときはインフレ率が低下することを意味します(インフレーションと失業のトレードオフ関係)。

このことをしっかり理解して、金融緩和を実施したのが、安倍政権です。これを全く理解できず、金融緩和を評価しないのが民進党です。

以下にフィリップス曲線の模式図を掲載します。


さて、実際の日本のフィリップス曲線を以下に掲載します。


さて、このグラフは、1980年〜2014年までの日本のフィリップス曲線です。デフレ期である1996年〜2013年までの失業率の高さがはっきりと分かります。フィリップス曲線は、

1997年にフィリップス曲線は、別次元にシフトしましたた。この時に何が起きていたのでしょうか。96年から97年にかけての公共投資の抑制と97年4月の消費税率引き上げという財政面からの引き締めが景気を抑制しています。まさに橋本内閣による構造改革がデフレ日本を切り開いたということです。

さて、2014年には、この曲線がまた別次元にシフトしました。この時何が起こっていたかとえいば、安倍内閣になって2013年に実施された日銀による包括的金融緩和策が実施されてから1年が経過しています。金融緩和策が功を奏して、インフレ率が上昇し、失業率が低下しています。

このグラフは、2014年までしか掲載されていませんが、最近のグラフをみると、さらに1980年の時点に近づいていることがわかります。



そうして、今年の春の就職率はどうだったかといえば、以下のような状況です。

これをご覧いただければ、なぜ若者が安倍政権を支持するのか良くご理解いただけるものと思います。民主党政権時代は大卒就職内定率57.6%でした。雲泥の差です。

この数字の違いは、ここ数年実際に就活をした人なら身にしみて理解できるはずです。私は、企業で人事を担当していたこともありますから、この違いは良く理解できます。

特にデフレのときには、まさに人事としては選び放題という有様でした。そうして、気になったのは、実際に入社してきた新人の様変わりでした。

国立大学の大学を卒業して、別のこれも国立大学の大学院を卒業した、女性社員は卒業と同時に奨学金で数百万円の借金を背負っていました。その後知ったのですが、このような人は珍しくはありませんでした。

ある男性社員は、比較的家が裕福なのか、奨学金はもらわず、親の仕送りで学費を賄ったようでしたが、アルバイトはしていました。

ところが、驚いたのが、大学4年間を札幌で過ごしたにもかかわらず、一度もあの大歓楽街のすすき野に飲みに行ったことがないという話を聞いたときです。飲むのはほとんど、家飲みだったと語っていました。車などとても買うような余裕などなかったようです。

彼が、学生時代を過ごした時は、民主党政権で、デフレ・スパイラルのまっただ中で、就活も非常に大変な時期でした。デフレは、これほど若者を苦しめているのかと、当時驚嘆したものです。

このようなことは、自分が経験しなくても、実体験は次々と後輩に受け継がれていくでしょうし、大学や高校の就職担当の先生方にも次々と受け継がれていくことでしょう。それよりも、何よりも内定率とか、就職率という形で情報が学校に残ります。

だから、若い人たちが、安倍政権を支持するというのは、良く理解できます。これに対して、シルバー層は、これから就職して、長い間努めるということはないので、雇用環境が良くなっても自分たちにはあまり関係ないので、アベノミックスなど眼中にないのでしょう。

しかし、これは日本の政治に深刻な影を落としています。何しろシルバー層は、若者層より人口が多く、さらに投票率も高いという実体があります。このあたりが、来年早々の衆院解散はないであろうことの、根拠にもなっていると思います。


今年の参院選から18歳から投票できるようになりましたが、若者の投票率は依然として低いです。若者は、自分たちの意思を政治に反映させるためにも、投票に行くべきです。

※単位は万人※18歳19歳の投票率は 今年の参議院選挙の速報値から※その他の年代の投票率は未だ出ていないため、前回の参議院選挙の投票率を適用
それにしても、私自身は当然若者ではないのですが、会社で人事を担当したり、その後役員になったときも、その時々の雇用状況は、企業経営において重要な要素なので、民主党政権時代よりは、現状のほうがはるかに若者にとって良いであろうことは想像できます。

シルバー層も、自分たちの子どもや孫、あるいは親戚の子どもや孫が、まともに就職できないような世の中は、決して望まないだろうとは思うのですが、やはり自分に直接関係ないとそうは思えないのかもしれません。

シルバー層も、長い間続いたデフレによって、多くの人が経済的に余裕がなく、若者にまで気を配る余裕もないのかもしれません。

経済政策を見る尺度は、いろいろなものがあります。そうして、様々な尺度があり複雑です。しかし、一つだけ言えることがあります。それは、何をさておいても、雇用状況がよけば、良しとしなければならないということです。

逆に、雇用状況が悪ければ、他の経済指標が良かったにしても、社会は不安定になります。雇用が確保されてこそ、活気ある社会が期待できるのです。

来年は、安倍政権も、機動的財政政策に着手し、さらに量的金融緩和も実施し、短期間で経済を本格的に建て直し、シルバー層にも支持されるようになっていただきたいものです。

残念ながら、マクロ経済音痴の民進党には、ほとんど期待していませんが、少なくとも、マクロ経済的知見を身につけて、安倍政権と経済面でまともに渡り合えるように成長していただきたいです。そうして、まともに野党としての役割を担っていただきたいものです。

今年も、後残りわずかとなりました。本年中は、大変お世話になりました。良いお年をお迎え下さいませ。

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2016年12月30日金曜日

【メガプレミアム】「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ―【私の論評】日米がロシアに歩み寄りの姿勢をみせる理由はこれだ(゚д゚)!

【メガプレミアム】「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ

ロシア人女性が中露国境の街で、長い冬に向けた生活必需品の買い出しに熱を入れている。写真は
黒河市の露店市場。国境のロシア人にとっては中国の物資はなくてはならないものになっている。
人口が希薄なロシア極東に中国人が流入し、ロシア人を心理的に圧迫している。ロシアの調査機関は今世紀半ばを待たず、中国人がロシア人を抜いて極東地域で最大の民族になると予測する。中国人には19世紀の不平等条約でウラジオストクなど極東の一部を奪われたとの思いがあり、ロシア人には不気味だ。欧米に対抗して蜜月ぶりを演出する両国首脳の足元で、紛争の火だねが広がっている。(坂本英彰)

  中国人150万人が違法流入

 「中国人がロシアを侵略する-戦車ではなくスーツケースで」

 米ABCニュースは7月、ロシア専門家による分析記事を電子版に掲載した。露メディアによると、国境管理を担当する政府高官の話として、過去1年半で150万人の中国人が極東に違法流入したという。数字は誇張ぎみだとしつつも、「国境を越える大きな流れがあることは確かだ」と記す。

 カーネギー財団モスクワ・センターによると在ロシアの中国人は1977年には25万人にすぎなかったが、いまでは巨大都市に匹敵する200万人に増加した。移民担当の政府機関は、極東では20~30年で中国人がロシア人を抜いて最大の民族グループになるとしている。

 インドの2倍近い広さがある極東連邦管区の人口は、兵庫県を少し上回る630万人ほど。これに対し、国境の南側に接する中国東北部の遼寧、吉林、黒竜江省はあわせて約1億人を抱える。

国境を流れるアムール川(黒竜江)をはさんだブラゴベシチェンスクと黒竜江省黒河は、両地域の発展の差を象徴するような光景だ。人口約20万人の地方都市の対岸には、近代的な高層ビルが立ち並ぶ人口約200万人の大都市が向き合う。

 ABCの記事は「メキシコが過剰な人口を米国にはき出すように、ロシア極東は中国の人口安全弁のようになってきている」と指摘した。ただし流入を防ぐために「壁」を築くと米大統領選の候補が宣言するような米・メキシコ関係と中露関係は逆だ。中露間では人を送り出す中国の方が、ロシアに対して優位に立つ。

  20年後の知事は中国人!?
 ソ連崩壊後に過疎化が進行した極東で、労働力不足は深刻だ。耕作放棄地が増え、地元住民だけでは到底、維持しきれない。

 米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿したロヨラ大シカゴ校のコダルコフスキー教授によると、過去10年で日本の面積の2倍超の約80万平方キロの農地が中国人に安価にリースされた。そこでは大豆やトウモロコシ、養豚など大規模な農業ビジネスが展開されている。

 中国と接する極東のザバイカル地方は今年、東京都の半分にあたる1150平方キロの土地を中国企業に49年間長期リースすることで基本合意した。1ヘクタールあたり年500円余という格安だ。これに対しては「20年後には知事が中国人になりかねない」などと、ロシア国内で猛反発も起きた。

ロシア政府はロシア人の移住や定着を促すため土地を無償貸与する法律を制定したが、ソ連崩壊後の二の舞になる可能性も指摘されている。1990年代、分配された国有企業の株は瞬く間に買収され、政府とつながる一部特権層が私腹を肥やす結果となった。

 極東は中国なしでは立ちゆかず、結果として中国人の流入を招く。コダルコフスキー教授は「中国はアムール川沿いのロシア領を事実上の植民地にしてしまった」と指摘した。

  「未回復の領土」

 中国人が大量流入する状況で「領土回復運動」に火がつくと、ロシアにとっては取り返しのつかない結果となりかねない。

 欧米列強のひとつだったロシア帝国は1858年と1860年、弱体著しい清帝国との間で愛琿条約、北京条約をそれぞれ締結し極東地域を獲得した。沿海州などを含む日本の数倍に匹敵する広大な領域で、これにより清帝国は北東部で海への開口部を失った。アヘン戦争後に英国領になった香港同様、清にとって屈辱的な不平等条約だ。

 中国と旧ソ連は1960年代の国境紛争で武力衝突まで起こしたが、冷戦終結後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国に領土問題は存在しない。

 にもかかわらず中国のインターネット上には「ロシアに奪われた未回復の領土」といったコメントが頻出する。

ニューヨーク・タイムズは7月、近年、中国人観光客が急増しているウラジオストクをリポートした。海辺の荒れ地を極東の拠点として開発し、「東方を支配する」と命名した欧風の町だ。吉林省から来た男性は「ここは明らかにわれわれの領土だった。急いで取り戻そうと思っているわけではないが」と話す。同市にある歴史研究機関の幹部は「学者や官僚がウラジオストクの領有権について持ち出すことはないが、不平等条約について教えられてきた多くの一般中国人はいつか取り返すべきだと信じている」と話した。

  アイスで“蜜月”演出も

 台湾やチベット、尖閣諸島や南シナ海などをめぐって歴代政権があおってきた領土ナショナリズムは、政権の思惑を超えロシアにも矛先が向かう。極東も「奪われた領土」だとの認識を多くの中国人が共有する。

 9月に中国・杭州で行われた首脳会談でプーチン大統領は、習近平国家主席が好物というロシア製アイスクリームを贈ってまさに蜜月を演出した。中露はそれぞれクリミア半島や南シナ海などをめぐって欧米と対立し、対抗軸として連携を強める。

 しかし極東の領土問題というパンドラの箱は何とか封印されている状況だ。ナショナリズムに火がつけば、アイスクリームなどいとも簡単に溶かしてしまうだろう。(2016年10月4日掲載)


【私の論評】日米がロシアに歩み寄りの姿勢をみせる理由はこれだ(゚д゚)!

中国とロシア、両方とも広大な領土を持つ国ですが、その内容はかなり違います。まず人口は、中国が14億人弱、一方ロシアは1億4千万であり、これは日本の1億2千万よりわずかに多いだけです。

GDPはといえば、中国11,181.56(単位10億ドル)、ロシア1,326.02(単位10億ドル)であり、実に中国のGDPはロシアの8倍以上です。(2015年の数字、以下同じ)

1人あたりのGDPは、ロシア9,243.31ドル、中国8,140.98ドルロシアは、中国の1.1倍です。ちなみに、日本の1人あたのGDPは、32,478.90ドルです。

そうして、ロシアは中国と世界で一番長く国境線を接している国です。これを考えれば、上記のような問題が起こるのは当然といえば、当然です。

これについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
上念司「中国包囲網の決定打はモンゴル・トルコのランドパワー強化に在り!」―【私の論評】ソ連崩壊後、小国ロシアになってから国境溶解が顕著になり中国にとって軍事的脅威はなくなった!日本は経済援助を通じて中国と国境を接する国々のランドパワーを強化すべき(゚д゚)!
かつての中ソ国境紛争の係争地だった黒瞎子島は今では観光地になっている
この記事は、2014年5月13日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではロシアと中国の国境があいまいになっている「国境溶解」という現象について解説しました。

この記事より、国境溶解に関わる部分を以下に引用します。
国境の溶解現象とは、中ロ国境を中国人が多数超えてロシア領内に入り、様々経済活動をしているため国境そのものが曖昧になっていることをさします。 
黒竜江とウスリー江を挟んだ対岸は、中国有数の農業地帯であり、 渤海、金以来のさまざまな民族の興亡の地として歴史に残る遺跡も多いです。 わずかに川ひとつ隔てただけで、一方は衣食を外からの供給に仰ぎつつ資源を略奪しつづけ、 年々人口を減らしつづけているシベリアであり、一方は年々人口を急増させつつある 黒龍江省です。 
ロシア側の、全シベリアの人口を総和しても、数十分の一の面積しかない黒龍江省の半分にしかならないのです。この救いがたい落差は、 つまるところ社会的な圧力になります。ソ連政府はだからこそ国境地帯に厳しい軍事的な緊張を 作り出すことによって、中国からの圧力に対抗していたといえるでしょう。 
国境を挟んだ中国側の吉林省、遼寧省と北朝鮮、 内モンゴル自治区とモンゴル、新彊とカザフスタンおよびウズベキスタン、中国の雲南省とミャンマー、 中国の広東省とベトナムなどを比較してみると、常に面積の少ない中国側の各省が人口ではるかに勝っていることがわかります。 
この明白な不均衡こそが、国境を超えて大量の中国人が流出あるいは進出しつつある 根本的な原因です。この点から言えば、シベリアも例外ではないばかりではなく、 最も典型的なものです。ソ連の軍事的圧力が解消し、 国境貿易が開始されたことは、この過程を一気に促進させました。

ソ連の崩壊によってシベリアのロシア人社会は、直ちに危機に陥いりました。 政府は給与を支払うことができず、多くの労働者が引き上げていきました。 シベリアに市場はなく、シベリア鉄道もいたるところで寸断されようとしていました。 だから、中国からの輸入が不可欠のものとなりましたが、一方で中国に売り渡すものを シベリアのロシア人社会は何も持っていませんでした。その結果、 中国人がシベリアに入り込んできて、役に立つものを探し出し、作り出してゆくしかなくなりました。 
こうして、国境溶解が進んていきました。この国境溶解は、無論中国にとっては、軍事的脅威がなくなったことを意味します。 
特に現在のロシアは、ご存知のようにウクラナイ問題を抱えており、中ロ国境にソ連時代のように大規模な軍隊を駐留させておけるような余裕はありません。 
かつてのソ連の脅威がなくなったどころか、国境溶解でロシア領内にまで浸透できるようになった中国は、この方面での軍事的脅威は全くなくなったということです。 
各地で軍事的な脅威がなくなった中国は、これら国境地帯にかつのように大規模な軍隊を派遣する必要もなくなり、従来から比較すると経済的にも恵まれてきたため、海洋進出を開始刷るだけの余裕を持ち、実際に海洋進出を始めました。
 ブログ冒頭の記事は、この「国境溶解」がますます酷くなっている現状を示したものです。このような状況にある中露両国です。この二国が、同盟関係にあるように見えても、そう装っているだけでしょう。

ロシアは、この「国境溶解」にかなり頭を悩ましていることでしょう。冷戦終結後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国に領土問題は存在しない。

さて、このブログでは、何度か中露関係に関する、米国の戦略家ルトワック氏の見方を紹介してきました。その典型的な記事のリンクを以下に掲載します。
【日露首脳会談】中国、日露連携を警戒「包囲網」強化に対抗―【私の論評】会談のもう一つの目的は、ロシアを安全保障のダイヤモンドの一角に据えること(゚д゚)!
米国の戦略家エドワード・ルトワック氏
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、ルトワック氏の中露関係に関する分析に関する部分を以下に一部引用します。
ウクライナ危機をきっかけに中ロはさらに接近し、日米へのけん制を強める……。世界ではこんな見方が多いが、ルトワック氏の予想はちがった。 
ロシアは、中国とは仲良くならない。シベリアなどに侵食してくる中国を脅威だとみているからだ。むしろ、ロシアは中国をにらみ、本当は日米と協力を広げたいはずだ――。ルトワック氏はこんな趣旨の予測を披露したという。
「いまの中国は共産党体制だったときのソ連と同じだ。何を考えているのか、外からは分からない。しばしば、唐突な行動にも出る」。公式な場では決して中国を批判しないロシアの政府関係者からも、こんなささやきが聞かれる。
では、日本はどうすればよいのか。中ロの結束が弱まれば、日本の選択肢は広がる。それでもロシアが対中外交で協力したり、領土交渉で譲ったりすると期待するのは禁物だ。 
米政府当局者は「ロシアに過剰な期待を抱かないほうがいい。日本には戦中の経験もある」と語る。第2次大戦末期、日本の降伏が確実とみるや、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、攻め込んできた。 
ユーラシアの両雄はどこに向かうのか。日本は歴史の教訓をひもときながら、冷徹に次の一手を練るときである。
トランプ次期米大統領も、安倍首相も、「国境溶解」のことやルトワック氏の分析に関しては、当然のことながら頭に入っているものと思われます。

だかこそ、トランプ氏はロシアに接近する姿勢を見せているのだと思います、安倍首相もそうでしょう。だからこそ、敢えて日露首脳会談を日本で開催したのです。

トランプ氏は、ロシアに歩み寄りの姿勢をみせることによって、ロシアが関与するウクライナ問題や、シリア問題などがすぐに解消するとは思っていないでしょう。

安倍首相も、ロシアに歩み寄りの姿勢をみせたからといって、領土問題がすぐに解決するなどとは思っていないでしょう。

しかしながら、中国を牽制するための一つの手段として、ロシアを利用する価値があるものと信じているものと思います。

現在のところ、中露国境は「国境溶解」が深刻になっているというだけで、深刻な問題とはなっていません。しかし、中国が領土的野心をむき出しにして、極東地域に進出したとしたら、これはロシアのみならず、日本にとっても、米国にとっても大きな脅威です。

たとえ、中国が極東地域を領土にはしなかったにしても、この地に覇権を及ぼすことができるようになれば、北極海や、オホーツク海に中国が、戦略原潜を航行させるようになるかもしれません。

中国の戦略原潜
北極海では今、温暖化に伴う氷の融解により船舶の航行が容易になりつつあり、北極海を経由して既存の航路より短時間でアジアと欧州をつなぐ「北極海航路」に注目が集まっています。ロシアにとり、自国の領海を船舶が多く行き来する状況は、航路周辺の基地での商業の活性化や、万が一船舶が氷に閉じ込められないよう、護衛サービスを提供できるメリットがあります。

ただし、同海域の氷が溶けることは、その海域を各国の海軍の艦船が容易に航行できることも意味します。国際法で非軍事化が定められた南極と異なり、北極海はその多くの海域で軍事演習などを各国が行うことが可能で、各国の軍事プレゼンスが高まることはロシアにとり懸念すべき状況なのです。

中国は、北方海域でも存在感を高めています。2012(平成24)年以降、砕氷船「雪龍」がほぼ毎年、北極海航路を航行しています。昨年9月には海軍艦艇5隻が、北極海の玄関口となる米アラスカ州沖のベーリング海を初めて航行しました。

中国の砕氷船「雪龍」
ロシアにとってオホーツク海は戦略原潜を展開する「聖域」だけに中国の動きに神経をとがらせています。11年と14年には、雪龍の航路上でミサイル演習を行い威嚇しました。昨年12月に策定したロシアの国家安全保障戦略では、極東と北極圏をつなぐ沿岸防衛システムを構築する方針を決定しました。千島列島と北方領土への地対艦ミサイル配備も対中牽制(けんせい)の意味合いがあります。

南シナ海での中国の行動は、南シナ海を中国の戦略原潜の聖域にするという目論見があります。中国の覇権が、極東地域、北極海にまでおよべば、中国はロシアに変わって、北極海とオホーツク海を中国の戦略原潜の聖域にするかもしれません。

そうなれば、中国はロシア、日米はもとより、世界中の国々特に北半球の国々にとって、かなりの脅威になります。北極海や、オホーツク海なども第二の南シナ海になりかねません。

そんなことは、当然のことながら、ロシアは避けたいでしょう。そのロシアに対して、日本や米国が、歩み寄りの姿勢を見せておくことは、中国を牽制するということで非常に重要な意味があります。

トランプは外交の素人だとか、日露首脳会談は、北方領土問題が進展しなかったので、全く意味がないというような見方は、まだ物事を表面的にしかみられない子どものような見方に過ぎません。

日米のロシアへの歩み姿勢は、当然のことながら、プーチンの頭にも「いざというときには、中国を牽制するために、日米に力を借りることができる」とインプットされていることでしょう。

しかし、日米に力を借りれば、当然のことながら、日米に対して何らかの譲歩をしなければならなくなります。しかし、中国がこれからも、軍事力を強化させていけば、そんな悠長なことも言っておられなくなります。

北方領土問題が、解決の緒を見出すことができるのは、その時かもしれません。しかし、そのときに、日本が安全保障の面で、ロシアにどの程度助けることができるかによって、これはかなり左右されると思います。

いずれにせよ、私たちは、大人の見方でこれを見守り支援すべきです。

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2016年12月29日木曜日

【日本の解き方】1人当たりGDPが世界20位 ドル建てに一喜一憂不要だが、デフレによる経済停滞は深刻―【私の論評】来年も、馬鹿や政局利用のための経済珍説に騙されるな(゚д゚)!

【日本の解き方】1人当たりGDPが世界20位 ドル建てに一喜一憂不要だが、デフレによる経済停滞は深刻

日本の1人当たり名目GDP推移およびBRICs各国の水準(2015年)比較と円/米ドルの
為替レートの推移(期間 : 1960年~2015年)グラフはブログ管理人挿入以下同じ
 内閣府は22日、2015年の日本の1人当たり名目国内総生産(GDP)がドル換算で3万4522ドルだったと発表した。これは、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中20位にあたる。ちなみにGDPの総額では世界3位だ。

 基本的なことであるが、GDPについておさらいしておこう。GDPは一国の経済活動を付加価値ベースで明らかにする統計だ。名目値のままの名目GDPと、物価上昇を考慮し、それを除いた実質GDPがある。

 これらには「三面等価の原則」がある。生産面、分配面、支出面の3方向からみた値は同じで、分配面からみたGDPは、おおざっぱに言えば国民の所得の総額である。こうしてみると、1人当たりの名目GDPは、平均的な国民の名目所得といえる。


 こうした議論は自国通貨建てでは重要な意味がある。ドル表示でGDPが少なくなった、多くなったという議論は、所得をドル表示で見て、少なくなった、多くなったという議論と同じである。日本国内の法定通貨は円であるので、いくらドル表示で所得が少なくなっても、逆に増えても国民生活には直接的には関係がない。

 この意味で、そもそも自国経済を議論するときに、GDPや1人当たりGDPの他国通貨表示には意味はない。また、GDPがドル表示で少なくなっているという問題意識は、円高指向ともいえる。円高は円がドルに対して相対的に少なくなることで起こるが、モノに対しても相対的に過小になっていることが多く、デフレ指向にもなる。

 以上のことから、ドル建ての1人当たりGDPの数字をみて、一喜一憂するのはあまり意味がない。しかし、長い目で、その推移をみると、一定のインプリケーション(意味合い)がある。

 というのは、円高になると、形式的にドル建ての名目GDPは大きくなるが、その一方で円高・デフレで名目GDPを減少させている場合が少なくない。短期的には、前者のほうが大きいが、長い目でみれば両者はかなり相殺されるとみられる。ということは、長い目でみたドル建ての1人あたり名目GDPの推移、特に国際比較した日本の順番には一定の意味があるといってよい。

 1990年前後、日本の1人当たりGDPはOECD加盟国中トップクラスだった。ところが、失われた20年で、その地位は徐々に低下してきた。

 他の先進国で日本ほど順位を下げた国はなく、これは日本だけがデフレで経済成長が停滞した証しだろう。

 しばしば、この失われた20年間の要因として人口減少が挙げられるが、世界各国でみると人口と1人当たりGDPとの間には明確な相関がないことから、人口の要因ではなく、デフレというマクロ経済運営の失敗であった公算が大きい。何度も本コラムで指摘しているように、デフレ克服が日本経済再生のカギとなる。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】来年も、馬鹿や政局利用のための経済珍説に騙されるな(゚д゚)!

上の記事を簡単にまとめると、国民1人あたりのGDPは短期で、ドル建てで他国と比較することは意味がないのですが、長期みると意味があるということです。その例として、日本は他の先進国と比較する順位を下げていますが、その原因は日本だけが長期デフレで経済成長が停滞したということです。

そうして、人口と1人あたりGDPとの間には相関関係はないということです。それは、以下のグラフをみても良くわかります。


上のグラフは、人口の増加率と1人当たりのGDP伸び率を示したものですが、両者の相関係数は0.09であり、全く相関関係はありません。人口減が、デフレの原因などとする見解はまったくあてはまりません。

さて、ドル建ての1人あたりのGDPの数字をみて、一喜一憂するのはあまり意味がないという格好の事例があります。その事例を以下に示します。

以下は、韓国の中央日報の記事です。
日本の1人当たりGDP、OECD加盟国で20位に下落…韓国が追い越す可能性
2016年12月23日09時31分  [ 中央日報日本語版]
日本の1人当たり名目国内総生産(GDP)が3年連続で減少したことが分かった。

22日、内閣府は2015年ドルで換算した日本の1人当たりGDPが3万4522ドルと集計されたと明らかにした。

これは、昨年より9.6%も下落したもので、2013年以来続いている減少傾向から抜け出すことができなかった。

日本の1人当たりGDPを経済協力開発機構(OECD)加盟国の他国に比べると、35カ国の中で20位だ。OECD加盟国のうち2位だった2000年に比べれば、15年間で18段階も下落した。

このように、日本の1人当たりGDPが次第に落ちているのは、物価の下落やデフレーションが長引いているためだとみられる。しかも、円安が進んでドルで換算した1人当たりGDPがより低下した。

これを受け、韓国が1人当たりGDPで日本を追い越す可能性があるという見通しも出ている。国際通貨基金(IMF)は、韓国の1人当たりGDPが2020年に日本と同様の水準である3万6000ドル台に増加するものと見込んでいる。特に、購買力平価(PPP)基準に1人当たりGDPは2018年に4万1966ドルと、日本の4万1428ドルを追い越すとの予想を明らかにした。

一方、昨年韓国の1人当たりGDPは2万7200万ドルと、OECD加盟国のうち22位となった。
ドル換算による日本、韓国、米国の一人あたりGDPの推移
韓国は、昨年OECD加盟国のうちで22位になっていたことをもって、日本を追い抜くかもしれないとしています。ひよっとするとそうなるかもしれません。しかし、ここで冷静に分析すれば、最近はウォン高、円安の傾向が著しいので、このようなことが起こっているだけであって、別に韓国経済が著しく成長しているとか、日本経済が著しく停滞しているということもありません。

もし、来年韓国の一人あたりのGDPが、日本のGDPを追い越すことがあれば、それは韓国経済が致命的な打撃を受けたという証左になるだけであり、韓国経済の好転を意味することにはならないでしょう。

韓国経済は昨年から断末魔の状況にありましたし、今年に入ってからもその状況は変わらず、とんでもない状況です。やはりドル建ての1人当たりの短期のGDPの推移をみて、一喜一憂するのは全くの間違いであることがわかります。

さらに、もう一つ事例があります。

それは、民主党政権時代と安倍晋三政権を比べて、ドル建ての1人当たりGDPで民主党時代の方が良かったという愚かな言説もありましたが、これはまったく意味がありません。なにしろ、日本人は円で生活しており、1人当たりの円建て名目GDPは安倍政権の方が高いです。安倍政権の方が民主党時代より経済パフォーマンスが良いのは、失業率などの雇用指標をみても明白です。

それは、以下のグラフを見ても容易に理解できることです。

f:id:kibashiri:20141118161710p:image

ドル建てによる、GDPの短期(数年)での国際比較は、あまり意味を持たないということです。これだけをもってして、経済に関する主張をすることは、全くの無意味であるということです。そんなことよりも、過去20年近くにもわたって、日本がデフレだったことのほうが、余程大問題です。

今年も、あとわずかになりました。来年も、また新たな手口で、政局利用や馬鹿による経済珍説が続々と出てくるでしょう。何しろ、今の日本では政治家も官僚も、メディアも、経済で大嘘をついても、全く責任も取らないし、取らされもしません。だから、無責任で出鱈目を放言し放題です。そうして、それを頑なに信じこむ人々も大勢います。私たちは、騙されないように、お互いに気をつけましょう。

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2016年12月28日水曜日

【電通女性社員過労自殺】労務問題が経営揺るがす 安倍政権の働き方改革示す一罰百戒の側面も―【私の論評】根本にあるのは電通の市場独占!これを崩さない限り問題は起こり続ける(゚д゚)!

【電通女性社員過労自殺】労務問題が経営揺るがす 安倍政権の働き方改革示す一罰百戒の側面も

女性新入社員が過労などで自殺し、長時間労働をいとわない旧態依然の企業体質が露呈した電通の石井直社長が辞任に追い込まれた。労務問題への対応を誤れば、大企業といえども屋台骨が揺らぐことが明確になった。

 電通はさまざまな企業や団体から広告を請け負う代理店で、世界有数のメディア関連企業だ。国内の政治や経済、スポーツなど各界にネットワークを張り巡らせており政治力もあるが、政府は強硬姿勢で臨んだ。

電通本社ビル
 労働基準監督署からの度重なる是正勧告にもかかわらず、抜本的な改善策を怠っていた電通の経営陣に対し、安倍政権の働き方改革への本気度を示すために、一罰百戒の意味を込めたと言えそうだ。

 「取り組んだら放すな、殺されても放すな」などの言葉が並ぶ「鬼十則」という電通社員の心構えを巡っては、SNSなどに批判の声があふれ、社員手帳からの削除を余儀なくされた。若手社員が追い詰められた理由や背景の徹底解明が求められる。

【私の論評】根本にあるのは電通の市場独占!これを崩さない限り問題は起こり続ける(゚д゚)!


高橋まつりさんのtwitterのプロフィール写真

この事件、安倍首相の肝いり「働き方改革」を進めている段階で、明らかになりました。そのためでしょうか、政府としてもかなり厳しく追求する構えであるようです。

この事件で、厚生労働省東京労働局が石井直社長を含む役員から事情を聴いていたことが28日、分かりました。東京労働局が記者会見して明らかにしました。年明け以降、家宅捜索した3支社を管轄する各労働局と連携し、上層部の組織的な関与について捜査を本格化させます。東京地検も電通幹部への事情聴取に乗り出す方針です。

東京労働局によると、会社と上司だった幹部の書類送検容疑は平成27年10~12月、高橋さんら2人の社員に対し、労使協定(三六協定)の上限である月50時間を超えた違法な残業をさせた疑いによるものです。2人についてはそれぞれ月約58時間と約54時間の残業を確認しました。起訴を求める「厳重処分」の意見を付けました。労働局は捜査継続を理由に、上司の詳しい役職や認否を明らかにしていません。

高橋さんは昨年12月に亡くなり、今年9月に労災認定されました。うつ病発症前には労使協定の上限を超える105時間の残業をしていました。

しかし残念ながら、いまのところ残業のことばかりが追求されているようです。しかし、高橋まつりさんを自殺に追いやった、電通の異常性はたんなる長時間労働だけではありません。

それについては、以前もこのブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【電通に強制捜査】「この件はわれわれに判断できるレベルでなくなった」と厚労省幹部 安倍政権、高橋まつりさん過労自殺に重大関心―【私の論評】今回の強制捜査は、公取委の出番の前哨戦かもしれない?
悪魔のイラスト

 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では電通の異常なまでの広告市場の寡占ぶりをとりあげました。以下に、この記事の結論部分を掲載します。
電通1社で4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告市場のシェアは5割に及ぶという状況は異常ですし、それに大手企業に限っていえば、ほとんど100%が電通、博報堂が占めています。 
平成20年には業界首位の電通がネット広告大手のオプトへの出資比率を引き上げ。さらに平成21年7月、ネット広告大手のサイバー・コミュニケーションズを完全子会社化。平成25年3月には英イージスグループを買収し、海外展開も加速しています。 
また、業界2位の博報堂DYホールディングスはアサツーディ・ケイとの合弁で設立したネット広告大手のデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムを連結子会社化。さらに同子会社の博報堂は平成21年2月、PRエージェンシーであるケッチャム(米)と業務提携を結びました。 
業界首位の電通と2位の博報堂による再編は活発化しており、このままでは、業界における2社の寡占化は今後も進むものとみられます。

本来の公取委の機能からすれば、これを放置しておくわけにはいかないはずです。政府・官邸もこれには危機感を抱いてると思います。

私自身は、今回の厚労省による電通本社・支社に対する強制捜査は、実は公取委による審査の前哨戦ではないかと思っています。

そもそも、電通が市場を寡占して、さらには寡占を強化するためのさまざまな団体と「非公式なつながりを強化する」戦略を前提に人員採用の方針が採用されていなければ、過労死などの問題など起こらなかったはずです。

寡占により、仕事は無尽蔵といつても良いほどあり、同じ社員でも「非公式なつながりを強化する」ための人材はあまり仕事をせず、そうではない人材にしわ寄せが行くことが過労死の原因だからです。

この構造を壊さなければ、問題は根本的に解決されません。私は、電通をいくつかに分割するのが一番良い方策だと思います。それによって、電通の寡占状況がなくなり、それによって労務環境が改善されるとともに、マスコミの偏向も是正されると思います。

どう考えても、電通の寡占状態は良いことではありません。やはり、早急に公取委が審査すべきものと思います。 
そうして、官邸、安倍総理は当然のことながら、このようなことを視野に入れていると思います。
ある企業の市場におけるシェアが小さければ、存続の危機に見舞われます。適度にライバルが存在すると、商品やサービスの用途が広まり、市場が膨らみます。

しかし、独占状態になると、想像力は失われ、市場のキャパは100で止まってしまいます。
どのような市場においても、ライバル不在の独占状態よりも、適度なライバルが存在した方が、市場のキャパが拡大するはずです。

最近のテレビが面白くないのは、電通による支配が広告業界に及ばず、メディアに対しても及んでいるからではないかと思います。


企業が市場を支配すると惰眠をむさぼることになります。自己満足によって失敗することになります。市場を支配すると、組織のなかに革新に対する抵抗が出てくるようになります。外部の変化に対する適応が危険なまでに難しくなります。

企業が、市場において目指すべき地位は、最大ではなく最適であるべきなのです。想像力や革新性を失わないために、ライバルを歓迎すべきなのです。

まさに、市場を独占した「電通」は惰眠を貪り、長時間労働においては、前々から問題を起こしていて、厚生労働省などから厳重注意を受けていたにもかかわらず、また問題を起こしてしまったのです。

おそらく、「電通」の市場独占状況を打破しなければ、同じような問題が起こり続けるものと思います。たとえ、一時影を潜めたように見えても、忘れたころに似たような問題が発生することになると思います。

あるいは、「電通」内でこの問題が解決したにしても、電通の取引先などで、低賃金労働や、長時間労働が発生するということになり、問題は解決しないと思います。

「電通」の市場独占状態を何としても打破すべきです。

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