2019年12月12日木曜日

習近平の言論・思想統制に「中国史上最悪」の声―【私の論評】今のままでは、まともな意思決定ができず、習近平が失脚するか、中国共産党が崩壊する(゚д゚)!

習近平の言論・思想統制に「中国史上最悪」の声

ついに“焚書”も、知識の迫害はどこまでエスカレートするのか

山西省長治市の本屋

(福島 香織:ジャーナリスト)

 言論・思想統制の方法の中で最も野蛮なものの1つ説明を追加である「焚書」。秦の始皇帝の「焚書坑儒」(書を燃やし、儒者を生き埋めにする)は学校の世界史の時間でも習っただろう。秦の始皇帝の歴史的評価は諸説あるとしても、イデオロギーや政治的理由で書籍を破壊する行為というのは文明社会にとって、やはり悪だ。

 だが中国では近年になっても、それに近いことが行われ続けてきている。今年(2019年)10月に中国教育部が各地の小中学校図書館に図書の審査整理を通達したことは、その最たる例といえる。


カザフ語の書籍を回収して処分

 この“焚書”通達は、まず新疆ウイグル自治区地域の小中学校で行われていたことが海外メディアで話題となった。12月3日、新疆北部のイリ・カザフ族自治州の小中学校では図書館の蔵書の中でカザフ語で書かれた書籍やカザフ文化関連の書籍を生徒たちに集めさせ、処分した。米国の政府系メディア「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」は、とある学校で生徒たちが寮内の中にあったカザフ語書籍を探し集め、赤い布袋に入れ、校庭に運んでいる様子の動画をアップ。別の動画では数十人の生徒たちがいくつもの赤い布袋を運び出して、政府役人が取りに来るのを待っていた。

 RFAは、これは2017年以来、新疆地域で行われた3度目の「書籍審査」だと伝えた。処分対象の書籍は、カザフ語書籍、新疆人民出版社、イリ・カザフ自治州出版社が出版したカザフ文化関連の出版物である。その中には『遊牧民族文化と中原民族文化』『カザフ文化』といった学術書も含まれていたとか。また、学生たちは個別の家庭にも派遣され、問題書籍を探し出す作業を行った。そうして集められた書籍は学校ごとに地元政府に渡されたという。

 2017年と2018年には、新疆ウイグル区自治区ボルタラ・モンゴル自治州で地域学校のカザフ語書籍を回収して生徒たちの前で燃やすという、文字通りの「焚書」を行ったことが確認されている。この目的は、学校で生徒たちがカザフ語を学習することを禁止し、政府の教育方針に沿わない歴史や伝統文化の知識を得てはならないということを皆に肝に銘じさせることだったといわれている。

 匿名の関係者がRFAに証言したところによれば、焚書対象の図書にはやはり学術書が多く、カザフスタン元大統領のナザルバエフの著作『光明の路』の中国語版や、カザフスタンの著名詩人のムフタールの詩集(中国語版)も含まれていたという。

 新疆地域のカザフ語書籍への迫害は、中国国内で報道されることはなかった。だが、甘粛省鎮遠県の図書館で行われた「書籍審査整理」は中国国内でも報じられ、中国人知識人を震撼させた。


中国の知識人、文化人が一斉に非難

 10月23日、県政府はホームページで「図書館が社会主流イデオロギーの伝播の中心地としての作用を十分に発揮するため、近日、図書館組織は蔵書の中で、社会から寄贈された違法出版物、宗教出版物、偏向性のある文書書籍、写真資料集、図版、雑誌刊行物を全面的に書棚から排除し迅速に廃棄する」と発表。さらに2人の女性が図書館入り口付近で書籍を燃やしている写真を掲載した。

 これはネット上でちょっとした議論を呼び、まもなくその記事や論評はほとんど削除された。だが12月8日になって、新京報が「図書館が書籍を燃やすことは、文明と法律の観点で審査される必要がある」との論評を発表。すでにこの論評はネット上でみることができなくなったが、「(甘粛の図書館のような焚書は)おそらく社会が受け入れ可能な範疇を超えている。(県政府の)発信は粗暴な印象で、文明の保護でははない」「宗教類出版物が、いつ『全面的審査整理によって排除され迅速に廃棄されなければならない図書』となったのか?」と訴え、中国の宗教管理条例や出版管理条例など既存の法律に違反する、と非難している。ネットではこれに関連して「焚書が起きたなら、坑儒もおきるだろう」といったコメントも出たほか、中国の名だたる文化人からも非難の声が相次いだ。

  『最後の貴族』などのノンフィクション作品がかつて国内で禁書扱いになったこともある作家の章怡和は、微信(中国のSNS)で「学校から始める全国範囲の“焚書”は、中国文化の運命に関わることであり、全国人民代表大会による可決が必須だ。こんなことを誰が批准したのか? 誰か署名したのか?」と怒りをあらわにしていた。

  『民主論』などの著書もある公共知識分子(知識人)、北京錦都芸術センター董事長の栄剣は、「焚書が始まれば坑儒もそう遠くないかな? こんなに多くの良心的教授が教室から排斥されているのが目に入らないか? 賀衛方はなぜ姿を消したのか?」と非難めいたつぶやきをしている(注:賀衛方は北京大学法学院教授。開明的知識人の代表格だが、弟が冤罪と思われるテロ宣伝物所持容疑で逮捕されるなど圧力を受けており、表舞台から姿を消している)。

秦の始皇帝も毛沢東も超えた?

 今回の焚書事件にあたり、2017年12月11日にRFAのサイトに「習近平の焚書坑儒」というタイトルで著名歴史家、余英時のインタビューが掲載されていたことを多くの人が思い出していた。

  「この新たな坑儒、新たな焚書は、すでに毛沢東を超えている。秦の始皇帝がやったのは、わずか400人余りの儒家を埋めたにすぎず、焚書といってもすべてを焼き払うことはできなかった。毛沢東は秦の始皇帝よりもずっとひどかった。だが、毛沢東が死んで数十年後に、まさか新たな焚書坑儒をやる秦の始皇帝のような人間が登場するとは思わなかった。現代の始皇帝、習近平だ。

 習近平が目下行っている焚書坑儒は毛沢東よりもひどい。彼の言論統制によって胡錦濤、江沢民時代には多少あった言論の自由はまったくなくなった。あえて異見を言う人もいなくなった。江沢民、胡錦濤時代は異見を言うことはできた。異見を聞くと党は機嫌を害したが、すぐに捕まえるということもなかった。

 今は様々な方法で異見者を引っとらえ投獄してしまう。人権弁護士の件(2015年7月に始まった人権弁護士300人以上の一斉逮捕、通称「709事件」)は衝撃だったが、対象はその後、人権弁護士にとどまらず、政府に批判や異見を唱えるありとあらゆる人間に広がった。ひどい場合は、室内で仲間うちで話したことが原因で有罪判決を言い渡された」・・・。

 習近平政権が始動した2013年、「目下のイデオロギー領域の状況に関する通達」で、「七不講」と呼ばれる、大学での討論におけるタブーが通達され、西側のイデオロギーおよび歴史を自由に研究することが全面的に禁止された。その後、新聞記者たちの管理強化とイデオロギー教育が厳しくなり、2015年に「709事件」に象徴される人権弁護士らへの大弾圧が始まり、2016年頃から知識人や学者たちのへの迫害、弾圧が目立ち始め、2018年頃から新疆ウイグル族の強制収容問題が表面化し、2019年は香港での抵抗運動と弾圧が世界の耳目を集めている。

 秦の始皇帝は儒家を迫害したが、習近平の迫害対象は、学者、法律家、宗教家ら、良心と知識を持ち合わせるすべての人間に及ぶ。それは時に国内だけでなく、香港のような「一国二制度」で本来は異なる政治システムが運用されるべき土地に対しても、あるいは主権国家に対しても及ぶ。

 英語教材などで中国書籍市場での利益が少なくない英国ケンブリッジ大学出版局は中国共産党の求めに応じて、そのアーカイブからチベットや台湾、天安門事件という3つの「T」に関する論文・資料へのアクセス遮断処置をとった。その後、その事実が報道されて国際社会から非難の集中砲火を受けたことで、この措置は解除されたが、中国共産党が海外の組織や知識人に対しても干渉してくる例として、国際社会の肝胆を寒からしめた。

 こんな大規模で広範囲なイデオロギー統制は、秦の始皇帝も毛沢東もやらなかったのだ。


「知」そのものを弾圧する習近平

 今、習近平政権が行っていることは、単なるイデオロギー統制というレベルでは説明できないかもしれない。

 ウイグル問題は、イスラム教徒やウイグル民族に対する弾圧と捉えがちだが、とくに新疆の大学教授、教育関係者たちをはじめとする良心的知識人たちが集中的に逮捕され、海外に留学している優秀な学生やその家族への迫害がものすごい。これは、漢民族に対して行われている大学教授弾圧や人権弁護士弾圧ともリンクしているといえる。それは香港における愛国教育強化、銅鑼湾書店事件、イデオロギー統制強化の動きとも連動しているし、また最近、日本の大学教授が学術交流の名目で訪中した際に「スパイ罪」で逮捕された(のちに釈放)事件とも同じ流れの中にあるかもしれない。

 つまり、特定の民族や特定の宗教をターゲットにした、というより、習近平政権の狭いイデオロギーと相容れないすべての思想、考え、異見者に対する弾圧だと考える方がわかりやすい。それは人権の問題とも言えるし、もっと大仰に言えば、「知」そのものへの弾圧ともいえるのではないか。今の習近平政権は、毛沢東の文革以来の、叡智を求める人の良心を抑圧し弾圧する恐ろしい時代だと言っても過言ではない。しかもITやAIといった知的先端技術で台頭している中国が、その技術を用いて人間の良知を弾圧し、自由にものを考え討論する知性を人々から奪いつつあるというならば、なんと皮肉なことだろう。

 私が中国・北京に駐在していた頃は、共産党体制内にいながらも多様な意見、見識を持つ知識人がたくさんおり、公式に発表はできなくても党内では比較的に自由な議論ができたと聞いた。また、私自身、そういう知識人たちにいろいろ教えられることが多かった。

 だが、彼らは1人、また1人と「坑」に埋められていっている。今、声を上げている数少ない知識人たちは本当に勇気ある人たちだが、彼らの口も確実に封じられていくだろう。習近平政権前の状況を知っているだけに、この10年の中国社会の変化は本当に恐ろしい。



イデオロギー統制の現実を直視せよ

 最近、講演会などで、習近平政権のイデオロギー統制や、全体主義と自由主義の対立構造について説明すると、「なるほど、全体主義だと異なる意見の対立がないので、ある意味、スピード感のある発展が可能なのですね。中国の発展の秘密がわかりました」といった反応をいただくことがある。

 民主主義の自由社会は、異なるイデオロギー、異なる政治スタンスの存在を許容するため、意見対立が起き、時には激しい争いとなり、決着をつけて次の発展段階に行くのに時間がかかる。異なる意見を最初から恐怖政治を使ってでも排除できれば、確かに決断が早くでき、その分発展が早い。確かにそういう論は一時期米国学者の間でももてはやされたことがあった。

 だが、今の中国のイデオロギー統制を見て「だから発展が早い」と評価する人は、どうして自分自身が排除される側となる可能性を想像しないのだろうか。自分は為政者のいかなる意見にも黙って従うから、迫害される立場になり得ない、ということなのだろうか。常に為政者の考えを忖度してびくびくして生きていくことの息苦しさを想像できないのだろうか。

 当コラムでも何度か触れているように、国際社会は今、欧米式の開かれた自由主義的な秩序、価値観と、中華思想的な全体主義的秩序、価値観の対立の中で、どちらに属したいかを問われて答えを出さねばならない。もう一度、「毛沢東を超えた」と中国人をして言わしめているイデオロギー統制の現実をよく見てほしい。


【私の論評】今のままでは、まともな意思決定ができず、習近平が失脚するか、中国共産党が崩壊する(゚д゚)!

焚書というと、古代中国の「焚書抗儒」、ナチスドイツの焚書などが有名ですが、これらについては、他のメデイアでも十分に取り上げられていることなので、ここでは解説しません。詳細を知りたい方は他のメディアをあたってください。

ナチスによる焚書のための図書の搬出

中国では最近でも焚書の事実があります。もっとも顕著なのは、尖閣諸島の地図でしょう。これに関しては、ウイグルのように直接人民の迫害につながってるわけではないので、日本国内ではあまり大きく報道はされていませんが、焚書であることには違いありません。


中国に進出し、世界的人気を誇る生活雑貨「無印良品」。このブランドを展開する日本企業「良品計画」が中国政府から執拗な圧力を受けていることが1月に明らかになりました。現地で配布していた家具カタログ内の地図に、中国が主張する「わが国の固有の領土、釣魚島」が記されていないなどと、因縁をつけられたのです。同社は仕方なくカタログを廃棄したのです。

中国に進出した「無印良品」

日本政府にの菅義偉官房長官は記者会見で、「尖閣諸島が日本の固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかだ」と強調。「中国側の独自の主張に基づく措置は全く受け入れられない」と、中国に事実関係の確認と説明を申し入れたといいます。

さて、この「無印良品」のブランドで知られる日本の大手小売・良品計画ですが、中国本土の同社商標を模倣する企業により「商標権侵害」の訴えを受けた裁判で、このほど、北京高裁でも良品計画が敗訴しました。

このほど、北京市の高級人民法院は、日本企業の良品計画に対して、「良品計画」の商標を保有する北京棉田公司に賠償金など約1000万円を支払うよう命じる判決を下しました。

良品計画は「本家」であるにもかかわらず、商標権がはく奪されました。

さて、話を元に戻しますが、外国作成の地図に、ある地域や島が「中国の固有の領土」として描かれているか否かで、嫌がらせが行われたのは今回が初めてではありません。中国にある日本人学校で使う日本の教科書の地図にも、当局は数年前から目を光らせていました。最初は台湾、次は南シナ海、さらに沖縄県尖閣諸島にも触手を伸ばしてきました。

中国は「外国が紙上で中国の領土を分裂させている」と非難しています。しかし、中国自身が他国の教科書や企業のカタログ、ひいては内政にも干渉するのは「正義だから構わない」のでしょうか。

大陸国家である中国は海の世界に関しては、近年まで無関心でした。私の手元に、58年11月に中国国家地図出版社から出された『世界地図集』があります。現在の中国が頑として「釣魚島」と呼び「尖閣」という表現を禁止しているのに対し、58年の権威ある地図はご丁寧にも日本式に「魚釣島と尖閣諸島」と表記。さらに島々の南西沖に国境線を引き、「琉球群島に属する」と明白に記しています(下地図写真参照)。



しかも、この地図の前書きでは「社会主義の兄、ソ連の先進的な製図と知識を吸収して作成した」と明記。中国だけでなく、社会主義の親分ソ連も同島を日本領と認めていたわけです。

出版と結社の自由が実質的にない中国では、万事が指導者の意思で決定。まさに指導者の発言そのものが法律といます。

その意味で、64年1月28日付の共産党機関紙・人民日報の記事は興味深いです
。「中国人民の偉大な領袖」「世界革命の指導者」毛沢東が日本の日中友好協会副会長、日本アジア・アフリカ連携委員会の常務理事、それに日本共産党機関紙・アカハタ(現・赤旗)の北京特派員らに接見した席上でのことです。

毛は「最近、日本全国で大規模な大衆運動が起こり、米帝国主義の核搭載戦闘機と潜水艦の配備に反対している」と、日本の反米運動を評価。その上で、「駐留米軍を追い出し、米軍基地を撤廃して、日本の領土沖縄を返還するよう求めている。こうした日本人民の正義の闘争を中国人民は断固として支持する」と述べたのです。

毛ははっきりと、「日本の領土沖縄」と話しています。その発言は58年の『世界地図集』での「魚釣島と尖閣諸島は琉球群島に属する」との描き方と一致しています。中国の公式見解は一貫して、「魚釣島と尖閣諸島は琉球群島の一部」でした。当時は毛以下、誰も琉球群島こと沖縄と尖閣諸島の帰属を区別しませんでした。

このような地図は決して1冊や2冊ではありません。尖閣諸島の所有権を唱えだすまでは、ほとんどが以前の地図を踏襲していました。だが21世紀に入って覇権主義的な海洋進出を始めると、北京の古書店街から以前の地図類は姿を消しました。政府の役人が訪れては没収して回ったからです。中国外務省をはじめ、政府の公文書館内に保管していた地図も「極秘」扱いとなり、閲覧できなくなりました。

2月1日、中国外務省の会見(下写真参照)で日本の記者が「日本企業のカタログどころか、中国外務省の会見場の地図にも魚釣島が印刷されていない」と問いただしました。そう指摘されても、同省が会見場に58年の地図を設置することはありません。それどころか、世界各国の出版物への口出しばかりが続くでしょう。




しかし、このようなことをして意味があるのでしょうか。中国国内から、尖閣諸島の地図を抹消したとしても、日本をはじめとする諸外国には「尖閣」を記した地図が残っています。中国も諸外国の地図まで抹消することはできません。

実際、ごく最近まで、世界各国で中国はもとより、各国が作成した地図の中に「尖閣」という表記がみられるものが、何度となく発見されています。それは、あまりに頻発することなので、最近では日本国内ですら、ニュースとしてとりあげられることもなくなりました。

これは、中国共産党にとっては、意味がないどころか、世界中の国々から中国は平気で歴史修正をする国だとみられるようになり著しい信用の失墜につながるだけの結果になりました。

「人の口には戸はたてらぬ」という日本の諺がありますが、中国共産党がいくら歴修正をしようとしても、真実は何らかの形で世界中に伝えられていくのです。それを何とかコントロールできると思い込むのは、中国共産党の驕り高ぶり以外の何ものでもありません。

ブログ冒頭の記事で、福島香織氏は、「民主主義の自由社会は、異なるイデオロギー、異なる政治スタンスの存在を許容するため、意見対立が起き、時には激しい争いとなり、決着をつけて次の発展段階に行くのに時間がかかる」としていますが、これは本当にそうでしょうか。

私は、こうしたことが当てはまることもあるとは思いますが、当てはまったように見える事柄でも良く探ってみれば、本当はコミュニケーション不足などが真の原因なのではないかと思います。

経営学の大家ドラッカー氏は、意思決定の過程における意見の不一致に関して以下のように述べています。

成果をあげる者は、意図的に意見の不一致をつくりあげる。そのようにして、もっともらしいが間違っている意見や、不完全な意見によってだまされることを防ぐ。(ドラッカー名著集(1)『経営者の条件』)
ドラッカー氏は、意思決定の過程では意見の不一致が必要だといいます。理由は三つあります。
第一に、組織の囚人になることを防ぐためである。組織では、あらゆる者が、あらゆる決定から何かを得ようとする。特別のものを欲し、善意の下に、都合のよい決定を得ようとする。
そのようなことでは、小さな利害だけで決定が行なわれます。問題の理解抜きでのそのような決定の仕方は、きわめて危険です。
第二に、選択肢、つまり代案を得るためである。決定には、常に間違う危険が伴う。
最初から間違っていることもあれば、状況の変化によって間違うこともあります。決定のプロセスにおいて他の選択肢を考えてあれば、次に頼るべきものとして、十分に考えたもの、検討ずみのもの、理解ずみのものを持つことができます。

逆に、全員一致で決めていたのでは、その決められたものしか案がないことになる。
第三に、想像力を刺激するためである。理論づけられ、検討し尽くされ、かつ裏づけられている反対意見こそ、想像力にとって最も効果的な刺激剤となる。すばらしい案も生まれる。
明らかに間違った結論に達している者は、自分とは違う現実を見て、違う問題に気づいているに違いないと考えなければならないのです。

もし、彼の意見が知的かつ合理的であるとするならば、彼はどのような現実を見ているのかを考えなければならなりません。意見の不一致こそが宝の山なのです。意見の不一致が問題への理解をもたらしてくれるのです。

いかなる問題であれ、意見の不一致が皆無などということは、奇跡です。まして、四六時中奇跡を起こしているなどありえないと心得るべきです。それでは、社長が一人いればよいことになります。

多くの組織で、後で不祥事となった行動の多くが、ろくに議論もされずに決められていることは偶然ではないのです。

成果をあげる者は、何よりも問題の理解に関心をもつ。 (『経営者の条件』)
私は、以前このブログで、中国共産党は間違い繰り返し、それでも反省することなく、さらに間違いを繰り返し、いずれ崩壊するであろうと、主張しました。

習近平は自らの意見に一致しない議論は、焚書までして排除するわけですから、これでは、まともな意思決定はできず、いずれ失脚するか、失脚せずに自らの地位にとどまり続ければ、正しい意思決定ができず、誤謬に誤謬を積み重ね、中国共産党は崩壊することになるでしょう。

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2019年12月11日水曜日

日米が台湾の港湾に寄港する重要性―【私の論評】日台関係は、「積み木方式」で実質的な同盟関係にまで高めていくべき(゚д゚)!

日米が台湾の港湾に寄港する重要性

岡崎研究所

 台湾国防部は11月13日、今年9回目となる米国の軍艦の台湾海峡通過を発表した。このように、米軍は最近、台湾周辺におけるプレゼンスを高めている。11月17日付けTaipei Times社説‘US port calls benefit Taiwan’は、さらに踏み込んで、米海軍艦船の台湾、具体的には高雄港への寄港を提案している。同社説は、米海軍艦船の高雄寄港は、同港の改良工事に伴う経済的メリットがあり、そして、米国の台湾防衛へのコミットメントを明確に示すことができる、と指摘する。 



 上記主張の背景として、これまで米国7艦隊が台湾海峡周辺海域を遊弋する際は香港に寄港するのが通例であったが、今年は香港で大規模デモがあったこともあり、中国当局(および香港行政長官)が米軍の香港寄港を拒否したことが挙げられる。そして、香港に代わって台湾の高雄港に寄港すればよいとの議論に結び付いたのであろう。

 米海軍の艦船が台湾に寄港すれば、中国が強硬にこれに反対するであろうことは、はっきりしている。上記社説は、「だからと言って、中国が武力行使を含む具体的な行動をとるようなリスクは冒さないのではないか」と述べ、中国のあるべき反発に対しては、比較的楽観的な見方を示している。果たしてこのような見方は適切だろうか。今日の香港情勢、米中貿易戦争、台湾の総統選挙の行方など不確かな要因は多く、これらが米台関係に及ぼす影響についても不透明な点が多い。

 かつて、1996年、台湾における最初の民主的な総統選挙が行われた際、江沢民政権下の中国はミサイルを台湾北部海域と南部・高雄海域に発射し、台湾を威嚇したことがある。その時、米国は第7艦隊を台湾海峡に急派し、中国はなすすべなくミサイル発射をとりやめた。今日の中国の軍事力を勘案すれば、米国艦隊が高雄に寄港する場合には、当然ながら、中国からの種々の恫喝的反応がありうることを考慮しておく必要があろう。

 しかしながら、米国の対台湾コミットメントを明確にするために、高雄に寄港することとなれば、米台関係にとって極めて重要な意味をもつことは間違いない。それは確かに上記社説が言う通り「台湾人に米国の台湾へのコミットメントを確信させることになる」だろう。

 今日、米国は、台北にあるAIT(米国在台湾協会:事実上の米大使館)の組織防衛のため、また、「台湾関係法」に基づく対台湾武器供与の必要性などから、海兵隊を中心に約一個旅団の軍関係者が台湾において勤務中であるとされている。

 振り返って、日本と台湾との関係を見れば、安全保障面での情報交換、対話、交流については、特段の進展は見られない。日本としては、アジア太平洋地域における自由・民主主義の台湾の重要性、良好・緊密な日台関係のさらなる発展のためにも、せめて災害発生時や医療上の必要時には日本の艦船が台湾の港湾に自由に寄港できるように、各種の方策を検討すべきではないだろうか。それは、当然ながら緊急時には台湾の艦船が日本の港湾を使用するようになることを意味するものである。


【私の論評】日台関係は、「積み木方式」で実質的な同盟関係にまで高めていくべき(゚д゚)!

日米艦船の高雄への寄港に関しては、昨年のこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクくを以下に掲載します。
【トランプ政権】米で「台湾旅行法」成立、政府高官らの相互訪問に道 中国の反発必至―【私の論評】アジアの脅威は北朝鮮だけではなく台湾を巡る米中の対立もあり(゚д゚)!
トランプ米大統領と蔡英文台湾総統
トランプ大統領は3月16日、米国と台湾の閣僚や政府高官の相互訪問の活発化を目的とした超党派の「台湾旅行法案」に署名し、同法は成立しました。台米関係に関しては、他の進捗もありました。その部分を以下にこの記事より引用します。
米国側の台湾を支持する最近の重要な動きには、台湾旅行法以外にも、昨年12月にトランプ大統領が署名し成立した、2018会計年度の国防授権法(2018国防授権法)もあります。

2018国防授権法には、米艦船の高雄など台湾の港への定期的な寄港、米太平洋軍による台湾艦船の入港や停泊の要請受け入れ、などの提言が盛り込まれています。なお、オバマ大統領の下で成立した2017国防授権法でも、米台間の高級将校、国防担当高官の交流プログラムが盛り込まれており、今回の台湾旅行法の内容は目新しいものではありません。 
2018国防授権法に関しては、在米中国大使館公使が「米国の艦船が台湾の高雄港に入港する日が、中国が台湾を武力統一する日になろう」と、異例の威嚇的発言をしています。中国側が、米国による台湾への軍事的関与に対して極めて敏感になっていることを示しています。
今後米艦艇が、高雄に寄港することは十分に考えられます。米上院は今年6月27日、2020会計年度の国防権限法案を賛成多数で可決しました。同法には、台湾への武器売却のほか、米軍艦による定期的な台湾海峡通過を支持する内容などが盛り込まれています。

米台関係については、双方の実務関係のあり方を定める「台湾関係法」と台湾への武器供与に終了期間を設けないことなどを公約した「6つの保証」を拠り所にすると明記。台湾との国防や安全保障における連携を強化するべきとする米国の立場が示されました。

また、国防長官への提言として、安全保障分野での台湾との交流強化を政策として推進するべきと記されました。実戦訓練や軍事演習を台湾と合同で実施することで台湾の十分な防衛力確保を促すとし、これが両交戦者間の軍事力などが大幅に異なる非対称戦における台湾の作戦能力に見合っていると強調しています。このほか、「台湾旅行法」に基づいた米台高官の交流促進や人道支援分野における協力拡大なども提唱されました。

同時に、米と同盟国、パートナーが国際ルールが認めるいかなる場所でも飛行、航行できる約束を守る姿勢を示すとして、米軍艦が引き続き定期的に台湾海峡を通過するべきとの提言がなされました。

今法案は
米議会下院iにおいて7月12日、賛成220票、反対197票で可決しました。今後トランプ大統領の署名を経て成立します。

「米中新冷戦」の幕開けから1年が経った10月24日(現地時間)、ペンス米副大統領が、ワシントンの政策研究機関ウィルソン・センターで、「米中関係の将来」について演説を行ったことはこのブログにも掲載し解説ました。


このスピーチの中から、台湾関係分だけを以下に引用します。
(5) アメリカは台湾を支持する
ペンス氏: 私たちの政権は、これからも「1つの中国」政策を尊重していきますが、中国はここ数年の小切手外交を通して、台湾を承認している2カ国以上に、中国の承認へと変えるよう仕向け、台湾の民主主義への圧力を強化しています。 
補足解説: 台湾との関係を強化することが、中国との約束を反故にすることにはならないと強調しました。ところが、そのような中国は今や、台湾に「一国二制度」を受け入れるように迫り、現状変更を試みています。日本はそれを追認・黙認せず、台湾を強力にサポートすべきです。
日台関係は友好的です、それは東日本大震災において台湾側から日本に対して200億円を超える支援が寄せられたことからもうかがえます。人口2300万人の台湾からこれほど多くの寄付が送られたことは、日本側を驚嘆させると同時に、あらためて日台関係の「きずな」を感じさせることになりました。

他方、当時の民主党政権は、台湾のこうした日本支援に対して、「一つの中国」の原則にたって、是々非々で、つまり震災復興関係の祭典があっても、台湾代表を招待しないといった姿勢で臨み、多くの批判を浴びました。

その後、そうした姿勢は修正され、自民党政権が成立してからは復興関係の式典での台湾代表への待遇に変化がありました。ところが、注目すべきは社会レベルでの動きです。

2013年3月8日にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本対台湾戦が東京ドームで行われた際、東北地方出身のある個人のツイッターでの呼びかけに応じて、プラカードなどで台湾に感謝する意思表示をしようという運動が起こりました。

呼びかけはソーシャルメディアでシェアされ、東京ドームの観客席には「感謝」の文字が多く見られました。こうした行動に対し、試合終了後、日本に惜敗した台湾チームは球場全体に「お辞儀」をして応えた。このシーンは、日本側ではテレビの放映時間が終了していたためにあまり知られていませんが、台湾では広く報道されました。その模様を収めた動画を以下に掲載します。



ところで、9月16日、台湾は南太平洋の島嶼国ソロモン諸島と断交した。その4日後の20日には同じ地域のキリバスからも国交断絶を突きつけられるという事態が起きました。これについては、このブログでも解説しました。

こうした台湾が国交国を失うケースは近年頻発していますが、ここで特に記しておきたいことがあります。このブログでは、日米をはじめ、「台湾と断交」と書いてきたのですが、正確にはこれらの国々は「中華民国」と断交したのです

その背景にあるのが、中華人民共和国の唱える「ひとつの中国」政策、つまり「世界に中国はひとつだけ。その中国を代表する正統な政府が中華人民共和国であって中華民国ではない」という政策です。中華人民共和国が南アフリカをはじめとする各国に対して迫ったのも「中華人民共和国を認めるか、中華民国を認めるか」という選択なのです。

言い換えれば、台湾が国交国と断絶し、失っていく原因は、この中華人民共和国が唱える「ひとつの中国」政策といってよいです。台湾が1971年に国連を追放されたのも、中国を代表する正統政府は中華人民共和国だと認められたからであり、「台湾」という名義で国連に残るという選択肢がないわけではなかったと言われています。

実際、水面下では当時日本の岸信介政権が蒋介石に対し台湾名義で国連に残るよう説得工作を行ったのですが、「中華民国」にこだわる蒋介石に一蹴されたといいます。

1969年(昭和44)年に岸信介元首相は極秘訪台し、中華人民共和国の国連加盟と同時に追放が必至となる蔣介石政権に対して「中華民国」の国号を放棄して「台湾共和国」としての国連残留案を提示したといわれています。既に中共政権を承認していた英国や米国も台湾を国連の一般加盟国に残留させるために日本と連携していました。(下はその時の写真です)


左から蔣介石、岸信介、宋美齢

台湾は現在にいたるまで国連に加盟出来ておらず、国連の関連組織である世界保健機関(WHO)や国際民間航空機関(ICAO)への限定的なオブザーバー参加さえ、中国の圧力によって妨害されることが多いです。これもまた「中華民国」という名称が大きな要因となっているといえます。

外交部(日本の外務省に相当)は馬英九政権(2008年5月~2016年5月)時代、公式サイトに「国際法における台湾の地位」という文章を掲載しました。これは、「カイロ宣言」によって台湾は中華民国に返還され、したがって中華民国が1945年より、台湾・澎湖の主権を有効に行使し続けていると主張するものです。しかし一部の学者は、この見解に反対の立場を示すと共に、外交部に対して文章の削除を提言していました。

外交部は2017年し11日、記者からの質問を受けてこの件に言及した。外交部は、「国際法における台湾の地位」の文章については、内部で見直しを検討したものの、現在も公式サイトから削除していないと説明した。

外交部によると、カイロ会談は1943年11月23日から27日までエジプトの首都カイロで開催された。同年12月1日になって、この会議に参加していた中国、米国、英国の3か国の指導者が「カイロ宣言(Cairo Declaration)」を発表。「カイロ宣言」には、「満洲、台湾および澎湖島のごとき日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」との文言が盛り込まれており、各国もその後、この歴史的事実を尊重してきた。

外交部によると、「カイロ宣言」は各国の指導者が合意の上で作成した国際文書であり、「条約」の二文字は冠していないものの、その内容と原則は、戦後レジームにおける国際文書などで再三引用されており、世界の大多数の国々及び学者によって重視されてきたものである。

そのため、台湾がその国名「中華民国」を名称変更するのはそう容易なことではありません。選挙のたびに有権者が「台湾」か「中華民国」かで割れるうえ、総統が演説の中で「中華民国」を何回使ったか、がニュースになるほど賛否が分かれる状況では、国名変更は遠い道のりと言わざるを得ないです。

であれば、台湾を取り巻く日本をはじめとする国際社会はどのように台湾と接していくべきでしょうか。それに有効な解決方法がすでに日台の政府間で進められている「積み木方式」による各種協定の締結です。

これは、米台もすすめている方法です。今後米国は、「積み木方式」によって、実質上の同盟関係になることが予測されます。

日本も台湾とは国交がなく、他の国家のように条約を締結することが出来ないです。例えばFTAを結ぶにしても、中国による妨害も考えられ現実的ではないです。

そこで、包括的な条約を結ぶのではなく、投資や租税、電子取引や漁業など、個別の協定を結ぶことを、あたかも積み木を積み上げていくことで、実質的にはほぼFTAを締結したのと等しいレベルにまで持っていくことを目指すのです。

この方法で、無論台湾が、TPPに加入することも可能になるかもしれませんが、それには、TPPの加盟国が台湾と個別に交渉してつみあげていくことになるので、かなりの時間と労力が強いられることになると考えられます。しかし、これはいつの日が実現すべきだと私は思います。

さらに、安全保証面においても、個別の協定を多数結ぶことにより、実質的に日台が同盟関係に入っている状況を作り出すのです。

現在、台湾は中国の圧力により、いっそう国際社会における外交空間を狭められています。ところが、知恵を絞ることによって外交関係がなくとも、実質的には国家間とほぼ同等レベルの密接な関係にまで作り上げられるというモデルを日台間で実現させ、その成功例を世界に発信していくべきです。そうして、この関係は国際法が適用できるものにまで、高めていくべきです。

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2019年12月10日火曜日

中国大崩壊へ。安易な「仮想通貨支配」が失敗に終わる当然の理由―【私の論評】無繆という宿痾(しゅくあ)に取り憑かれた中国共産党は、これからも失敗を繰り返し続け、いずれ崩壊する(゚д゚)!

中国大崩壊へ。安易な「仮想通貨支配」が失敗に終わる当然の理由


今年10月末、仮想通貨技術を中国がリードすると発言し、「仮想通貨の父」とまで呼ばれ始めた習近平国家主席でしたが、1ヶ月も経たないうちに取り締まりに転じ、中国国内で混乱が生じています。突然の方向転換の裏にはどんな事情があるのでしょうか。台湾出身の評論家・黄文雄さんがメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、その背景を探っています。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【中国】中国の仮想通貨支配は自己過信して自滅するパターン

中国の仮想通貨交換業者に早くも影響、最近の業界取り締まりで

中国政府は、仮想通貨の取締りを強化しており、最近、国内の仮想通貨交換業者の少なくとも5つが、営業を停止したか、国内利用者へのサービス提供をやめると発表したそうです。

中国の取締り強化によって、処分対象となる可能性が噂されていた仮想通貨取引所のIDAX Globalは、11月24日に中国国内でのサービス停止を発表しましたが、それ以来、同社のCEOが失踪して連絡がとれなくなっているという報道もあります。

中国撤退発表から5日、仮想通貨取引所CEOが失踪 顧客資産引き出せず

中国は2年前の2017年9月にも、国内での仮想通貨への投機熱が高まり、またマネーロンダリングや海外への資金移動の手段にもなりうることに危機感を抱いた中国当局は、仮想通貨の発行による資金調達を禁止し、取引所を次々と閉鎖に追い込みました。

中国「仮想通貨資金調達禁止」のインパクト

中国では、汚職役人が多額の資金を海外へ持ち出すとともに、習近平政権の独裁政治を嫌った富裕層が中国から海外へ逃げる動きや、転売目的の爆買いなどが横行し、中国の外貨準備高が急減したと言われ、ここ数年、中国政府は中国人1人あたりが海外に持ち出せる外貨を年間5万ドルに制限していました。

しかし、仮想通貨では簡単に国境を超えて海外での取引が可能になってしまうため、中国政府はこれを禁止したわけです。

しかし、今年10月末、習近平が仮想通貨の中心的な技術である「ブロックチェーン」の開発を、中国がリードするといった発言を行ったことで、仮想通貨市場が急騰しました。

最近、フェイスブックの仮想通貨「リブラ」が話題になりましたが、習近平は、デジタル通貨をつくり、それを世界に広げようという魂胆があるのかもしれません。なにしろ、中国は2017年にIMFのSDR(特別引出権)構成通貨になったことで、国際通貨の仲間入りしましたが、現在でも世界での人民元の決済は2%にも満たない状況です。

デジタル通貨を発行し、仮想通貨での覇権を握ろうとしているとも噂されています。

「デジタル人民元」中国の野望 ブロックチェーンで監視

習近平の発言で、中国の投資家たちは仮想通貨が解禁されたと大喜びし、ビットコインが急騰、習近平は中国で「仮想通貨の父」とまで呼ばれ、検索サイトでは「ブロックチェーン」を意味する中国語区「区块鍵」が検索キーワード1位になるなど、にわかに仮想通貨市場が活気づきました。

ビットコイン急騰の背景に中国あり 習近平主席、いまや「仮想通貨の父」と呼ばれる存在に(ひろぴー)

ところがその大騒ぎもつかの間、中国政府はわずか1カ月足らずで仮想通貨を取り締まる動きに転じたわけです。

もともと中国では、共産党がすべてを指導・支配し、絶対無謬であるため、なんでも自分たちの思い通りに操作できると過信しています。ところが、いざ蓋を開けてみると、思い通りにいかず、慌てて禁止したり隠蔽したりするといったことが多いのです。

最近も、中国IT企業のテンセントが開発中のAIサービスを公開したところ、学習したAIは「中国共産党は腐敗ばかりで無能」「中国の夢は米国への移住」と共産党批判を展開しはじめたため、IT企業が急遽サービスを停止するということがありました。

「共産党は無能」「中国の夢は米国への移住」正直なAIが反乱? 対話プログラムで批判展開、中国IT企業が急遽サービス停止

香港にしても、共産党の力で香港人を牛耳れると思ったのでしょうが、まったく思惑とは逆の結果になってしまいました。先に行われた香港の区議会選挙にしても、中国共産党は親中派が勝つと確信していたといいますが、結果は正反対のものとなりました。

そもそも、習近平政権が誕生してからは、日本には安倍政権、台湾には蔡英文政権、そしてアメリカにはトランプ政権という、対中国姿勢の厳しい政権ばかりが成立しています。

結局、仮想通貨にしても思い通りに操れると思っていたのでしょうが、国内市場が過熱して、自分たちが仮想通貨をつくるまえに市場崩壊が起こることを懸念したのかもしれません。

株式市場にしても、中国政府は自分たちでうまく操れると思っていたところ、2015年に大暴落が起こり、先物取引や株を売ること自体を禁止するといった、およそ株式市場にはふさわしくない命令を出したことで、すっかり廃れてしまいました。共産党が恣意的に相場を操作するとなれば、投資家にとってあまりにもリスクが大きすぎます。

現在の米中貿易戦争にしても、中国は自分勝手なルールで、自由市場を乱してきたことが一因となっています。鉄鋼がいい例ですが、中国政府の補助金で成り立っている国有企業に過剰生産させて国際市場の価格を下落させてシェアを奪う、国有企業によって海外企業を買収し他国の技術を奪うといったことを続けてきました。

しかし前述したように、なんでも思い通りに操れると慢心した中国が、いずれ失敗して、思惑とは逆の結果になるというのが歴史法則です。そもそも中国共産党は絶対無謬の存在である必要があるわけですから、過ちを認めて、失敗から学ぶことができないのです。

そんな中国が、最新技術を自分たちの思い通りに使って市場を操ろうとしても、絶対に悲劇的な失敗になることは目に見えています。


【私の論評】無繆という宿痾(しゅくあ)に取り憑かれた中国共産党は、これからも失敗を繰り返し続け、いずれ崩壊する(゚д゚)!

このブログでも、過去に中国の仮想通貨は失敗するであろうことを掲載しました。黄文雄氏も失敗するとみているということで、まさに我が意を得たりという心持ちがしました。

その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】「デジタル人民元」の発行はドルの基軸通貨体制に脅威 FBと米政府は手を組むか―【私の論評】基軸通貨にはなり得ないデジタル人民元の末路(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくもとして、以下にこの記事の結論部分のみを引用します。
以上のことを考えると、現状では中国の仮想通貨はそれほど危険な存在とはとても思えません。ただし、将来の危険な芽を潰すという意味では、高橋洋一氏の主張するように、やはり国際基軸通貨としてのドルの立場を守るためにも、フェイスブックと米政府が最終的には協力し、デジタル人民元の台頭を防ぐことになると思います。
フェイスブックCEOのザッカーバーグ氏
さらに、リブラはドルとの交換ができるということで、発行には自ずと限界があるので、FRBの権力を脅かすまでにはならないでしょうし、フェイスブックは米国による規制等を受け入れるでしょうから、リブラがドルにとって変わるような事態にはなることはないでしょう。 
さらに、ザッカーバーグ氏も、ドルに変わる通貨などという大それたことは考えていないでしょう。そんなことより、リブラを用いて、フェイスブックのユーザーにさらなるベネフィトをどのように提供していくかということに関心があることでしょう。
中国による仮想通貨は結局はうまくはいかないでしょうが、それでも米国には警戒され、リブラが先に普及することになるかもしれません。ただし、リブラがドル等との交換ができるということで、信用保証をしているように、仮想通貨が本格的に流通するようになる前には、やはりドル等との交換ができるという条件は必須でしょう。

現在の普通に使われている、世界各国の紙幣も普及する前までは、金や銀と交換できるのが普通でした。ただし、紙幣や貨幣が一定の信頼を得て、現在では金・銀本位制をとる国はなくなりました。

中国が仮想通貨を発行しても、中国における外貨不足の昨今では、ドルに交換することはできないでしょう。そうなると元に交換でるきようにするでしょうが、そうなると信用力はガタ落ちです。

それでも、中国が仮想通貨を発行すれば、使う人もいるでしょうが、どういう人が使うかといえば、中国国内や他の発展途上国で銀行口座がない人等、銀行にアクセスするのが困難な人などに限られると思います。そういう人が仮想通貨を使ったとしても、どれほどの経済活動をするかという問題があります。

無論、そういう人たちが今後経済的に裕福になり、将来大きな経済活動を行うようになれば、中国が仮想通貨を発行する意味もでてくるでしょうが、それははやくても20年後、30年後ということになります。それまでは、仮想通貨が中国にとって重荷になるだけで、ほとんど益をもたらすことはないでしょう。

それでは、中国政府が仮想通貨を発行する意味はないわけです。黄氏は、「仮想通貨では簡単に国境を超えて海外での取引が可能になってしまうため、中国政府はこれを禁止したわけです」としていますが、確かにそのような面もありますが、仮想通貨では国境を超えた取引に関しては、それを簡単に追跡することが可能です。であれば、こうした面よりも、やはり実利的な面を考えた場合、中国政府にとってほとんど益がないどころか、当初は負担が大きいということに、気づいたのだと思います。

いずれにせよ、中国政府は仮想通貨も自らコントロールできると過信していたのでしょうが、そうではないことに気づき、仮想通貨の取締りを強化したのでしょう。

このような過信はどこからくるかといえば、黄氏がいうように、中国共産党は絶対無謬であるとの驕り高ぶりにあるのでしょう。

驕り高ぶりといえば、日本でも最近官僚の無繆性が暴露された、統計問題がありました。政府の56ある基幹統計の半数近い22統計で不適切な手続きが見つかった問題は「統計には間違いはないはず」と思い込む無謬(むびゅう)性に官僚組織が対応できない実態をさらけ出したようです。

統計問題で揺れた厚生労働省

そうして、この誤りは誰もが気づくものであり、この統計問題はいずれ是正されるでしょう。しかし、もっと大きな官僚の誤謬が日本では、まるで宿痾のようにいつまでたっても治癒されることはありませんでした。

それば、長年の財務官僚による財政政策の誤謬と、日銀官僚による金融政策の誤謬です。特に平成年間は、財務・金融官僚がほとんど全部の期間にわたって、デフレを推進するという誤った政策をとってきたため、他国が経済が伸び続けたにもかかわらず、にほんだけが横ばいもしくは低下という状況が続きました。

こうした財務省の誤謬は、消費税への10%への増税という形で今になっても継承されています。日銀も、イールドコントロールカーブを採用してから、引き締め気味であり、誤謬が継承されているようです。ただし、はっきりと金融引き締めに転じてはいなため、財務省よりはましかもしれません。

官僚や、官僚組織はどうも、こうした無謬性に冒されやすい体質があるようです。

そうして、今一度中国を振り返ってみると、中国には政治家は1人も存在しません。存在するのは官僚だけです。何しろ、建国以来一度も選挙をしたことをない国です。

中国共産党の幹部は習近平を含め、誰一人政治家ではありません。選定方法は指名制です。中国人民によって選ばれた政治家など1人も存在しないのです。

社会学者マックス・ヴェーバーは、「政治家の本領は『党派性』と『闘争』である」と指摘していますが、中国には中国共産党1党しか存在せず、最初から全体主義なのです。

習近平は政治家ではない

日本でも、無謬性という宿痾におかされやすい、官僚が日本を統治していたらどいうことになるでしょうか。金儲けには成功しても、日本国の統治に成功するととても思えません。

官僚によってのみ統治される官僚天国の中国には、最初から見込みがないことが理解できるのではないかと思います。やはり毛沢東をはじめとする建国に参加した先達たちが大間違いをしたということです。本来なら、同じ共産党でも少なくとも2党制にして、選挙で代表が選ばれる仕組みを導入すべきでした。

そうではなくても、建国から今日にいたるいずれかの時期にそうした体制を築くべきでした。それをせずに、現在でも1党独裁制を保ってきた中国にはもう見込みがありません。

これからも、中国共産党は仮想通貨導入の失敗のような数々の失敗を繰り返し、それでも何の反省もすることなく、さらに失敗に失敗を重ね、いずれ崩壊することになるでしょう。米国による対中国冷戦はそれを幾分はやめるだけです。

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2019年12月9日月曜日

消費増税の「悲惨すぎる結果」が判明…日本の景気、打つ手はあるのか―【私の論評】令和年間には、日本の潜在能力を極限まで使い、超大国への道を歩むべき(゚д゚)!

消費増税の「悲惨すぎる結果」が判明…日本の景気、打つ手はあるのか
案の定、ひどかった
悪い数字のオンパレード

本コラムの読者であれば、10月からの消費増税によって深刻な景気問題が起こっていることは予想どおりだろう。

ここ10日間に、10月の経済指標が出てきたが、それらはおしなべて景気後退を示唆するものばかりだ。いよいよ統計上も、消費増税による日本経済の悪化が明らかになってきたといえる。

以下、具体的な数字を並べてみよう。
経産省が11月28日に発表した10月の商業動態統計によれば、卸売業は前月比▲8.2%、前年同月比▲10.0%、小売業では前月比▲7.1%、前年同月比▲14.4%といずれも大幅な低下。 
財務省が11月28日に発表した10月分貿易統計によれば、輸出は前年同月比▲9.2%、輸入は▲14.8%とともに大きく低下した。 
経産省が11月29日に発表した10月の鉱工業指数によれば、生産指数は、前月比▲4.2%、前年同月比▲7.4%と大幅な低下。10月の出荷指数は、前月比▲4.3%、前年同月比▲7.1%とこれも大幅低下。 
厚労省が11月29日に発表した10月の一般職業紹介状況において、10月の有効求人倍率は1.57倍で、前月と同じ水準にとどまった。 
総務省が12月6日に発表した10月の家計調査によれば、2人以上世帯の消費支出は1世帯あたり27万9671円で、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比5.1%減少した。 
内閣府が12月6日発表した10月の景気動向指数は、景気の現状を示す一致指数が前月比5.6ポイント下落の94.8だった。
経産省の商業動態統計や鉱工業指数は、生産活動を表す指標だが、軒並み悪い数字ばかりだ。

消費増税の悲惨な影響

財務省の貿易統計における輸入の減少は、国内需要の弱さを示す。GDPは国内所得を意味し、それが下がると、国内消費と海外からの輸入が下がる。つまり、輸入の落ち込みは景気悪化の第一段階である。

総務省の家計調査は、国内需要の大半を占める消費の悪化を示している。消費税率が8%に上がった2014年4月よりも落ち込み幅が大きい。2014年4月の消費税の上げ幅は3%だったが、今回は2%だった。それにもかかわらず、さらに駆け込み需要もあまりなかったのに、今回は落ち込みが大きい。10月の家計調査の数字は、ここ20年を振り返っても最低である。

景気の状況は、こうした生産活動を中心に判断できる。ちなみに、景気動向指数の一致指数は、(1)鉱工業生産指数、(2)鉱工業用生産財出荷指数、(3)耐久消費財出荷指数、(4)所定外労働時間指数、(5)投資財出荷指数(除く輸送機械)、(6)商業販売額(小売業)、(7)商業販売額(卸売業)、(8)全産業営業利益、(9)有効求人倍率(除く学卒)から算出されるが、10月の速報では、このうちデータのない(4)所定外労働時間指数と(8)営業利益以外の7指標すべてがマイナスだった。

要するに、景気を表す統計数字すべてでマイナスという、悲惨な結果になっているのだ。

景気のカギを握る消費も、景気そのものの状況を示す景気動向指数も、前回の2014年10月の消費増税時に比較して、今回の落ち込みは大きい。

増税前の1年間の平均でみると、実質消費指数は前回105.9、今回は100.5だ。前回の消費増税時(2014年4月)は100.5、今回は95.1で、それぞれ下落ポイントは5.4、5.4と同じである。しかし、今回の方が増税幅は2%と前回の3%に比べて小さい。それだけ影響が大きいというわけだ。

景気動向指数を見ても、前回は増税前1年間は上昇基調で平均100.3、消費増税時は100.8と腰折れする形になった。しかし今回は、増税1年前は下降基調で平均100.3、消費増税時は94.8と、景気の下振れをダメ押ししている。

前回と今回は勝手が違う

今回の消費増税に際しては、前回2014年4月のように景気が悪化するという予測が多かったが、それは当然である。前回と異なるのは、現下の国際経済環境が最悪に近いということだ。本コラムでも繰り返し書いてきたが、(1)米中貿易戦争、(2)ブレグジット、(3)ホルムズ海峡の緊張、(4)日韓紛争と問題が山積している。

(1)については、来年11月の米大統領選まで完全解決は無理だ。そもそもこれは貿易問題ではなく、安全保障の絡む米中の覇権争いだからだ。対中政策については議会民主党も賛成するため、トランプ大統領も後退は許されないし、問題化すればするほど大統領選にも有利になる。

最近では、人権という要素も加わった。香港問題、ウイグル問題である。西側諸国からみれば、あのトランプ大統領が人権について中国を諭すなど滑稽だが、香港人権法はすでに米議会の多数が賛成しているので署名せざるを得ない。ウイグルについても同様の法案があるが、その成立も時間の問題だ。

(2)のブレグジットは、いよいよ正念場を迎えている。雌雄を決する英国総選挙は12月12日だ。保守党が勝利すれば、英国のEU離脱が来月にも決まる。労働党が勝利するか、どの政党も過半数に達しなければ、状況はさらに混迷する。離脱でも英国経済は悪くなるだろうが、結論がはっきりしなければさらに悪くなる。どっちにしても、欧州経済にとってはいい話ではない。

(3)のホルムズ海峡は、アメリカとロシアがエネルギー輸出国になり、「多少の混乱があっても、エネルギー価格が高くなるのは歓迎」という中、音頭を取る国がなく、いつ紛争が起きても不思議ではない状況だ。日本は、イランとの友好関係があるため有志連合には加わらないが、といっても自国だけで船舶を護衛できる力はない。万が一ホルムズ海峡で紛争が起きたら、日本は世界で一番被害を受ける国になってしまう。

(4)日韓関係も依然として不透明だ。韓国が土壇場でGSOMIAを延長したことで、首の皮一枚で日米韓の連携は維持できたが、日韓はギクシャクしている。当然韓国経済への影響は大きく、日本への打撃は小さいものの、無関係とはいかない。

日韓関係のほころびをねらって、北朝鮮はミサイルを連射している。年内にも、人工衛星と称して弾道ミサイルを打ち上げるかもしれない。米朝関係も、首脳会談は不可能な状態であり、アメリカが軍事オプションをちらつかせていた2年前の状況に戻りつつある。


「大盤振る舞い」がまだ足りない

こうしてみると、現在の世界経済と世界の安全保障は、決していい環境ではない。これは、前回増税時の2014年4月と大きく異なっている。

それでも安倍晋三首相は、消費増税を2度延期して麻生財務大臣の顔を潰したことを考え、3度も延期はできないとして、今年10月の消費増税に踏み切った。

もちろん、景気悪化の懸念はわかっていて、景気の回復基調を腰折れさせないよう、経済対策のパッケージを7月の参院選直後に示唆していた。

増税後にそれを吐き出すというのであれば、そもそも増税しなければいいというのが一般人の考えだろうが、政治家はそうは考えないのだろう。

経済対策の内訳は、国・地方合わせた財政支出が13.2兆円、民間支出も加えた事業規模は26兆円。いったい、どこまで効くのか。

この景気対策を受けてのマスコミ各社の社説は、以下の通りだ。
朝日新聞「26兆経済対策 必要性と効果の精査を」 
毎日新聞「13兆円の経済対策 規模ありきのつけは重い」
読売新聞「経済対策 効果のある事業に絞り込め」
日経新聞「「賢い支出」なのかをしっかり監視したい」 
産経新聞「経済対策 効果を吟味し具体化図れ」
いずれの社説も、財政再建を考慮し、大盤振る舞いに疑義を呈している。

これだけの経済対策をする場合には、財務官僚が各マスコミをまわってレクするのが通例だ。もし今回もレクをしたのであれば、対策そのものに財務省が積極的でなかったのかもしれない。社説の多くは、景気悪化の意識はそれほど感じられず、財政再建のほうに注意が向いている。

結論から言おう。新聞社説とは逆に、この景気対策では足りない。補正を出すのが遅れたために、同じものをあと1、2回はやらなければいけない。

合理的な財政支出の拡大を

現実の日本の財政は、先週の本コラムを読んでいただければわかるが、それほど心配する必要はない。なにしろ、今はマイナス金利環境なので、国債発行は将来世代へのツケとはならない。将来投資をするには絶好の環境である。

公共投資の割引率はここ15年間4%に据え置かれており、筆者の計算では、本来採択すべき必要な公共事業は、現状の3倍程度もある。逆に言えば、今の建設国債は必要額の1/3程度しか発行されていない。

MMT(現代貨幣理論)のような空理空論ではなく、現実に即した割引率によって実際に公共事業要求をしたほうが、予算獲得のためにははるかに有効だ。財務省には、「予算要求なければ予算査定なし」という言葉がある。逆にいえば、合理的な予算要求があれば査定しなければいけなくなるので、適切な割引率に基づく費用対効果をきちんと示して要求すれば、断り切れないはずだ。

こうした合理的な財政支出拡大を行えば、自ずとデフレ脱却にもつながる。

若干、数量的な考察をしてみよう。今回の消費増税は、物価への影響で考えると、年間で0%台半ばのマイナス効果がある。一方、今回の景気対策では1%程度のプラス効果がある。

足下のインフレ率は0%程度だ。今回の補正予算のタイミングが遅くなったこともあり、今回と同規模の景気対策をもう1、2回打たないと、デフレ脱却はできないだろう。幸いにも今はマイナス金利なので、上に述べた割引率を実際に活用すれば、当初予算でも建設国債の大増発は可能だ。

筆者の言うように「100兆円基金」を作っておいて、今後の公共事業に備えるというのも一案である。すべては、来年の通常国会に提出される当初予算と補正予算のできばえ次第である。

【私の論評】令和年間には、日本の潜在能力を極限まで使い、超大国への道を歩むべき(゚д゚)!

高橋洋一氏の試算によれば、現状のマイナス金利の国債を金利が±0になるまで刷り増すと、103兆円くらいは刷れるそうです。国債の短期金利がマイナスになり始めたのが、2014年で、現状では長期の国債も金利がマイナスです。以下に国債イールドカーブの推移を掲載しておきます。


国債とは、政府が借金をするための手段であり、この金利がマイナスということは、国債を発行して通常なら、国債購入者に対して国債償還時に、政府が金利を支払わなければならないのですが、金利がマイナスということは、政府が金利を支払うのではなく、国債購入者が政府に対して金利を支払わなければならいということです。

なんというか、夢のような話ではありませんか。高橋洋一氏がかたるように、100兆円の基金を設置したとしても、将来政府が借金をはらうどころか、さらに儲かるという話なのです。

現状では、どう考えてみても、マイナス金利の国債を大量に刷り増ししたとしても、将来世代への付になるはずもありません。それに、もともとマイナス金利でなくても、いくつかの条件を満たしていれば、国債が将来世代への付にならないことを明らかにしたアバ・ラーナーの理論についてはこのブログにも以前掲載したことがあります。

アバ・ラーナー

その条件とは、国債による資金の調達先が、外国ではなく、日本国内であるということです。さらに、不完全雇用であるということです。日本の国債はこの条件を満たしています。日本国債の購入者のほとんどが日本国内ですし、いまのところ完全雇用は達成している状況ではありません。

消費税10%に引きあげられたたのですから、雇用状況は悪化することはあっても、これから良くなって完全雇用になることはないです。

様々な状況を考えると、やはり高橋洋一が主張しているように、国債を刷りまし、100兆円基金をつくっておき、これによってしばらく経済対策を打ち続けるというのが、目下で考えられる最高の経済対策であると考えられます。

国債金利がマイナスの状況は、これからも続くかもしれませんが、それにしても国債情勢が悪化していますから、いつどこでどうなるかもわかりません。だから、なるべく早く新規国債を増刷し、なるべくはやく100兆円基金をつくるべきでしょう。

100兆円の基金、しかもその資金の調達が国債ということになれば、マイナス金利昨今でも、国債は将来世代のつけという考えから抜け出せない、輩が大反対し、またまた「国債は将来の日本を破壊する」などというデマを撒き散らすことでしょう。

まずは財務省は大反対するでしょうし、経済に疎い野党も大反対することでしょう。財界や、識者の中でも大反対するものも多いでしょう。

しかし、安倍総理には伝家の宝刀があります。それは、衆院の解散総選挙です。100兆円基金による経済対策を公約として、安倍総理はこれを実行すれば良いのです。

もし、安倍総理がこれを実行し、選挙に勝った場合、安倍政権は経済対策で経済を良くすることは無論のこと、憲法改正にもスムーズに着手できるようになるでしょう。

実際、安倍総理は安倍晋三首相は9日の記者会見で、衆院解散・総選挙について「国民生活に直結するような大きな政策については国民の信を問うべきと考えるが、今後とも国民の負託に応えていく上で、国民の信を問うべきときが来たと考えれば、解散総選挙を断行することに躊躇(ちゅうちょ)はない」と述べました。

もし、この基金が実現すれば、令和は平成と異なり、すっかりデフレは払拭され、緩やかかなインフレで、日本経済は次ぎのステージに上がることになります。過去の財務官僚の財政政策の間違い、日銀官僚の金融政策の間違いで世界で日本だけが、経済が発展しませんでしたが、令和年間には、日本だけが経済発展をするということになるかもしれません。

日本には、このような潜在能力があるわけですから、この潜在能力を過去のように潜在させて、日本経済を破壊するようなことはやめ、潜在能力を極限までつかいこなし、日本国憲法典の怪しげな、世界に通用しない独自解釈などやめ、国際法を尊重し、超大国への道を歩むべきです。

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2019年12月8日日曜日

「桜を見る会」一色で臨時国会閉幕へ 「一言で言えば、『桜ブーメラン国会』だ」作家・門田隆将氏が斬る!―【私の論評】「桜を見る会問題」で喜ぶのは中国・北・韓国!日本国民ではない(゚д゚)!

「桜を見る会」一色で臨時国会閉幕へ 「一言で言えば、『桜ブーメラン国会』だ」作家・門田隆将氏が斬る!


臨時国会は週明けの9日、閉幕する。本来の焦点だった、憲法改正手続きを定めた国民投票法改正案の採決は見送りとなり、後半国会は、首相主催の「桜を見る会」への追及一色に染まった。著書『新聞という病』(産経新聞出版)がベストセラーになっている作家の門田隆将氏が、今国会を分析した。

 「一言で言えば、『桜ブーメラン国会』ではないか」

 門田氏はこういい、続けた。

 「立憲民主党や共産党などの左派野党は、あの手この手で追及していたが、私から見ると欺瞞(ぎまん)だらけだ。民主党政権時の招待枠などには知らぬ存ぜぬ。天に唾する行為だ。安倍晋三政権を追及しても、野党支持率は上がらなかった。かえって、国民は『野党に政権は任せられない』と再確信できた」

 ただ、自民党の対応にも、門田氏は納得していない。

 「国民民主党の森裕子参院議員が、国会質問で、政府の国家戦略特区ワーキンググループ座長代理の原英史氏を根拠もなく中傷し、自宅住所のホームページに公開するなど、人権侵害をしたとして懲罰を求める請願が出された。だが、自民党国対は許しているようにみえる。憲法51条で、国会議員には免責特権があるが、彼女を放置していいのか」

 門田氏は、激変する国際情勢に関心の薄い国会の「ふがいなさ」にも、あきれている。

 「中国共産党政権による香港やウイグル族への弾圧に、米国議会が『香港人権・民主主義法』や『ウイグル人権法』で怒りの声を上げても、日本は非難決議すらできない。与野党ともに存在意義を失っている」

 前出の著書『新聞という病』は発売から半年だが、勢いは止まらない。

 「中国や韓国、野党を持ち上げてきた左派メディアに対し、国民は内心あきれている。オールドメディアが報じても、国民は簡単には踊らない。現実的野党を目指すべきで、騒ぐだけの駄々っ子では見放される。悪質なマルチ商法で経営破綻した『ジャパンライフ』の元会長が『桜を見る会』に招待されていた件でも、ネット上では、メディア幹部と同社の関係が暴露されている」

【私の論評】「桜を見る会問題」で喜ぶのは中国・北・韓国!日本国民ではない(゚д゚)!

私自身は、「桜を見る会」を追及する野党やマスコミの面々をみると、本当にぼんくらにしかみえず、ぼんくら顔をみると、うんざりして、何というか倦怠感しか感じず、何の興味もわかないどころか、テレビでその話題になり、長そうになると、すぐにチャンネルを変えてしまいます。

民主党時代の「桜を見る会」

日本全国で、このように感じる人は多いのではないでしょうか。要するに、バカバカしいのです。もう、野党の腹の中は丸見えです。要するになんでもかんでも、とにかく倒閣に結びつけたいだけなのです。

これだけ大ごとになったのは、共産党の田村智子参院議員が11月8日の参院予算委員会で、招待人数と支出額が増えていることを取り上げたことがきっかけでした。そこに問題があるというのなら、人数と予算を制限すれば良いだけの話です。私には、来年の開催を中止する意味があったとは思えないです。

委員会で、"「桜を見る会」が年々規模が大きくなり、当初の趣旨から逸脱しつつあるのではないか"と野党議員あたりが、国会で質問して、与党の責任者が「はい、わかりました。確かにそのようなことが懸念されますので、来年からの実施方法を検討させていただきます」と答えて、本当に来年の「桜を見る会」の実施方法を検討して。実施すればそれで良いことです。国会の審議時間など、5分ですむ話ではないかと思います。

「桜を見る会」のような催しものに近いものは、民間企業でも催されていると思います。そのような「会」に呼ばれたことのある人も多いのではないかと思います。そのような「会」の規模が大きくなることは、特に企業の業績が大きくなることはありがちなことです。しかし、それをもって、会社の社長や幹部を解任できると考える人などはまずは存在しないのではないでしょうか。

ところが、政府ということになると、倒閣に結びつけることができると考える、野党議員やマスコミが存在することには、本当に驚きです。

その後、左派野党の追及は、「安倍首相後援会の5000円前夜祭」から、大誤報だった「高級寿司提供疑惑」「招待者名簿のシュレッダー破棄問題」「反社会的勢力の出席疑惑」「ジャパンライフ元会長の招待問題」など、目まぐるしく焦点を変えました。これで倒閣や与党のマイナスイメージを、国民に訴えることができたと本気で思っているのでしょうか。だとすれば、そうとういかれているとしか私には思えません。

独立記念日にリンカーン記念堂の上空でアクロバット飛行をする米海軍の「ブルーエンジェルス」

米国では、ドナルド・トランプ大統領が7月の独立記念日に合わせて祝賀行事を行った。大統領専用機「エアフォースワン」や戦闘機が披露される大規模なものでした。一部では批判もあったが、国民はおおむね、「軍や国民への感謝を示す行事だ」と理解し、日本のような騒動には発展しませんでした。

中国でも、今年は建国70周年の、軍事パレードが行わました。これについても、中国人民が批判したという話はありません。無論本当は批判すべき、日本の政治家の中で声をあげた人はいませんでした。

中国建国70周年軍事パレード

「モリカケ」問題もそうでしたが、日本の左派野党やマスコミは次々に焦点をズラすことで、あたかも大問題があるかのように演出して、現地視察などのパフォーマンスを繰り返しているだけのように見えます。物事の本質を精査しないで報道するメディアにも大きな責任があります。

そもそも、ジャパンライフに関してはは、悪質なマルチ商法で経営破綻したのですが、報道するメディアも広告を流して被害者拡大に加担していたことを忘れているのではないでしょうか。

今回も大騒ぎすることで国民投票法改正案など、憲法改正の議論をさせない意図が明確です。

日本を取り巻く安全保障環境が厳しいなか、憲法改正は「国民と国家を守る」ために不可欠です。「桜を見る会」よりも優先度がかなり高いというか、これに対しては「桜を見る会」など全く無意味です。日本が憲法改正や解釈の改変などをしないで喜ぶのは、どこの国は、中国、北朝鮮、韓国であり、左派野党は、自国民や国家、国民のことも考えず、中国、北朝鮮、韓国を利しているだけではないのかと思いうと、全く暗澹たる気持ちになります。

あまりにくだらな時間の無駄でもあるので、今後は「桜を見る会」関連はもうこのブロクではとりあげません。

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2019年12月7日土曜日

異色のアニメ「幸福路のチー」が教える台湾民主化の変化と成長―【私の論評】自らを見つめ直す民主台湾は次のステージに!「幸福路のチー」はその先駆け(゚д゚)!


野嶋 剛 (ジャーナリスト)

 アニメといえばアジアでは完全に日本の独壇場であり、普段は日本のアニメを消費する側だと思われてきた台湾から、日本に輸出される本格的アニメ作品が現れた。11月末から全国上映が始まった『幸福路のチー』である。


「幸福路のチー」より 以下同じ

 いまちょうど台湾では、4年に一度の総統選挙の投票日である1月11日に向けて、選挙運動が盛り上がっている。日本以上に元気のある台湾の民主主義がどうして成り立ったのか知りたい人は、この映画を見ることをオススメしたい。本作は「幸福路」という台湾に実在する場所を舞台に、チーという少女の人生にスポットをあてながら、実は、1980年代までの戒厳令時代から、民主主義の定着、2014年のひまわり運動まで、台湾社会の変化と成長そのものを描き出すという仕掛けになっているからだ。

 宋欣穎(ソン・インシン)監督は、1974年生まれ、京都大学で映画理論を学んだだけあって日本語も達者だ。本作のために、40人のアニメーターを集め、スタジオも作ってしまった。会ってみて思ったが、創作に一切妥協を許さない頑固さと、多くの人々を粘り強くまとめる柔軟さの両方を併せ持った個性の持ち主である。本作刊行と同時に、京都での生活を題材にした短編小説集『いつもひとりだった、京都での日々』(早川書房)の日本語版も日本で同時に出版された。

本作が台湾で公開されたのは2017年だった。ほとんど本格的なアニメ作品がなかった台湾なので、最初の前評判が高かったとは言えなかったが、予想を超えるロングランとなり、世界各地の映画祭で出品作に選ばれ、東京アニメアワードフェスティバル長編コンペティション長編部門グランプリなど多数の映画賞を受賞した。




 本来は極めて台湾ローカルな物語である本作が、どうしてこれだけ世界で幅広評価を受けたのか、ソン監督は、こう振り返る。

「誰もがこの映画を見た人は、自分の人生を思い起こしてしまうそうです。私が育ったのは台北郊外の新荘というところですが、ほかにも台湾にはあちこちに『幸福路』があります。いろんな人から、私たちの家の近くの幸福路ではないですかと尋ねられました。文化や歴史は違うはずなのに、外国人の観客からも、同じことを言われました」

「幸福路」で育ったチーは、両親や地域も期待するほどの優等生だったが、高校生のときに湧き上がった民主化運動に衝撃を受け、医学部の道を捨てて、学生運動に熱中する。だが、卒業後は仕事につけず、やっと探し当てた就職先のメディアでも、ひたすら原稿を書くだけの日々。台湾での生活に見切りをつけ、米国人に渡って結婚したが、可愛がってくれた祖母の死をきっかけに台湾に戻る。祖母との心の中で対話を重ねながら、自分の生い立ちや社会の変化を振り返り、「あの日思い描いた未来に、私は今、立てている?」と自問する。

物語は、ソン監督の歩んできた人生をモデルにしているが、創作の部分もある。ソン監督は「この年代の女性は、周囲の期待に応えようと生きてきて、なんでも望んだものは持っているようにみえて、あまり幸福ではないような心境に陥るのです。英語のタイトルは『オンハピネスロード』となっていますが、本当は『アンハピネスロード』、あるいは『ロード・トゥ・ハピネス』かもしれませんね」と笑った。

自らの才能に限りがあること、周囲の期待を上回れなかったことを受け入れることほど残酷で、苦痛なことはない。そんな挫折も、大半の人が大なり小なり持つことだ。自分の才能の限界を知るところから人生が始まるということは多くの人々が深く共感するところであろう。だからこそ、チーの独白に感情移入することができるのかもしれない。

本作の感動のエンディングを一層美しく彩っている主題歌「幸福路上」を歌うのは、台湾のトップ歌手の一人、蔡依林(ジョリン・ツァイ)だ。作品に感動して主題歌を引き受けた。チー役の声優はこれも台湾のトップ女優の桂綸鎂(グイ・ルンメイ)、チーのいとこ役は台湾を代表する映画監督、魏德聖(ウェイ・ダーシェン)である。無名の監督の初作品で、しかもアニメ作に対して、これだけの有力者がそろって協力したことは、本作の成功に大きなプラスとなった。いずれも本作の構想に触発されて応援団を買って出た人々だ。

「幸福路」の途上にいるというのは、台湾自身も変わらない。

本作のスタートであり、チーが生まれたのは、1975年の蒋介石総統の死去の年。当時の学校では、台湾の地方言語である台湾語は禁止され、世界最長の戒厳令が続いていた。1987年の戒厳令の解除、民主化運動。1999年の台湾大地震と初の政権交代。そして、2014年のひまわり運動に至ったところで映画は幕を引く。

 これらの40年におよぶ台湾の現代史が、すべてこの作品に、巧みに盛り込まれていることに驚かされる。いま、日本の高校から台湾には大勢の学生たちが修学旅行に出かけているが、学校側はまず学生たちにこの映画を見てもらうべきであろう。






『ALWAYS 三丁目の夕日』のようなノスタルジー

 台湾激動の40年をすべて物語の内部のうまく詰め込みながら、お堅い政治映画ではなく、むしろ『ALWAYS 三丁目の夕日』のようなノスタルジーが漂っている。そして、この映画は、何度みても飽きることがない。私は台湾で一度、機内で一度、そして、この映画の日本公開にあわせて試写会で一度。見るたびに異なるシーンに惹きつけられる。

試写会で日本語字幕がついた本作を見たときに、一番グッと来たのは、主人公のチーが、祖母から「不一樣就是力量(違うことが力なのよ)」と言われるところである。




 チーが表の主役だとすれば、最も強いインパクトを与える裏の主役はこの祖母である。原住民のアミ族である祖母は、健康に悪いとされる嗜好品のビンロウを食べたり、飼っているニワトリを捌いたりして、チーに衝撃を与える。チーは同級生から祖母をバカにされ、祖母をいったんは軽蔑しかけるが、そんな孫に対し、祖母はそう語るのである。

同質性の高い日本から台湾に行くと、その多様性には驚かされることが多い。本省人、外省人、客家人、16部族を数えるさまざまな原住民たちが暮らし、他人とは違うことが当たり前、いやむしろ、他人と違うことこそ生きていくうえでのパワーになる、という考え方がある。今後、外国人を多く受け入れることになる日本にもぜひ学んでほしいところだ。

チーのように、激動の時代に生きることは、幸運ではあるが、幸福とは限らない。

「私たちの世代は、私は13歳のときですが、戒厳令が解除された前と後で考え方が大きく違う社会になり、価値観もかなり混乱しています。チーのように、子供のころは、親孝行で勤勉な人間になるように教育で教え込まれました。でも13歳からは自由こそ大切だと教わるようになったのです。民主化運動の時代は、みんなが社会を正しい方向に変えられると信じていました。私も民主化運動に参加しましたが、いまの台湾を見ていると、いろいろな問題も多く、本当にこれでよかったのかと思うことも少なくありません」

そう語るソン監督だが、時代に翻弄された人だけが持つ喪失感も創作力の源なのだろう。ソン監督は、処女作で世界を驚かせた。次の作品は実写映画になるという。ウェイ・ダーシェンの次の世代を担う新しい才能の出現に、期待を持たずにはいられない。

11月29日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次ロードショー

【私の論評】自らを見つめ直す民主台湾は次のステージに!「幸福路のチー」はその先駆け(゚д゚)!

最初にこのアニメの日本語ダイジェスト版を掲載します。



このアニメの歴史的背景ともなっている、台湾の歴史、是非とも知っておくべきものと思います。その上で、このアニメをご覧になると、一層感動が深まると思います。

台湾の歴史年表を簡単に掲載します。
~1622年   原住民の時代
1622~1661年 オランダ統治時代(39年)
1661~1683年 鄭氏政権時代 (22年)
1683~1895年 清朝時代    (212年)
1895~1945年 日本統治時代 (50年)
1945~現 在  中華民国統治時代
以下に本当に簡単に台湾の現代史を掲載しておきます。この程度の知識でも、ある無しでは随分異なると思います。ただしし、これはほんのさわり程度に過ぎないので、興味のある方は、いずれかの書籍を是非ご覧になってください。

1945年8月、日本は戦争に負けました。このときに、日本が統治していた朝鮮半島、満州とともに台湾を手放すことになりました。

連合国軍の協定に基づき、台湾は蒋介石が率いる中華民国政府に接収されたのです。これを台湾人(俗に本省人という)は喜びました。日本支配の時代がようやく終わり、これで”祖国に復帰”できるのです。これを「光復」と呼びました。

ところが、日本の手から離れた、島国・台湾を統治するために同年10月、中国大陸からやってきた蒋介石の部下・陳儀(ちんぎ)率いる国民党政府は台湾人の期待をみごとに裏切ったのです。

たとえば、役所では大陸からきた中国人たち(外省人)による汚職や腐敗がはびこり、ました。軍隊(やはり外省人)には規律がなく、やりたい放題で民間人をわずらわせ、経済は破綻し、物価の高騰は進む一方でした。

そこで、台湾人(本省人)の不満はつのりました。「光復」からたった1年後に、新聞の日本語欄はすべて廃止となりました。これにより、台湾人の不満は一層つのりました。

陳儀の国民党政府は、言語・文化政策においても過激でまったく融通がきかなかったのです。それまで台湾語もしくは日本語を使用していた台湾人(本省人)は競うように
「国語(中国語=北京語)」を学んだ。生きるために、学ぶしかなかったのです。

そうして賄賂や汚職にまみれた(大陸からきた)外省人への不満はますますつのり、ついに事件が起きたのです。

1947年2月27日、一人の寡婦が密売していた’やみタバコ’を警官が摘発。許しを請うていた女性を警官は殴打し、商品を没収。これに同情し、多くの本省人が集まり、小競り合いとなりました。

この事件はさらに大きくなり、事件とは関わりのない民衆(本省人)が射殺されたりしてついに本省人の中華民国への怒りと不満が爆発し、翌28日、大規模な、抗議デモに発展したのです。

非武装のデモ隊に対して、国民党政府は無差別に発砲するなど厳しく制圧し、多くの死者を出しました。これが本省人にとって”悪夢のはじまり”と言われる「二・二八事件」(台湾大虐殺)です。

このあと、本省人のエリートや知識階級の人々が国民党政府によって次々と投獄・処刑され始めました。1949年には「戒厳令」が敷かれました。いわゆる軍事統治― 恐怖政治、「白色テロ」時代のはじまりです。

戒厳令は1987年にようやく解除されました。この間(約40年)、台湾では約14万人の人たちが連座し(連座とは=他人の犯罪で連帯責任を問われて罰せられること)、拷問を受け、数千もの人々が処刑されたといいます。

主な罪状は「スパイ容疑」(中国共産党との関わり)や、「台湾独立案件」(中華民国からの独立を画策したという罪)でした。

実際は罪のない人々が濡れ衣を着せられ、次々と投獄され無き者にされたという恐ろしい時代でした。

多くの働き盛りの若者や、将来有望な学生たちが犠牲になりました。運よく生き残った人たちも口をつぐみ、沈黙を守りました。要は常に警戒して暮らしていたのです。当時は、とても日本語の歌など うたえるわけもなかったのです。

戒厳令が解除された、1987年は、つい最近です。ほんの32年前まで台湾がそんな恐ろしい国だったとは信じがたいです。
これは20世紀を通じて世界最長の戒厳である。

この悲しく残酷な時代の台湾が描かれているのが、香港の明星トニー・レオンも出演している超有名な映画『非情城市』です。もちろん、戒厳令解除後の制作です。歴史を踏まえたうえで観ないと、理解できない映画です。


上の記事にもあるように、チーが生まれたのは、1975年の蒋介石総統の死去の年。当時の学校では、台湾の地方言語である台湾語は禁止され、世界最長の戒厳令が続いていた。1987年の戒厳令の解除、民主化運動。1999年の台湾大地震と初の政権交代。そして、2014年のひまわり運動に至ったところで映画は幕を引く。

この時代は激動の時代であったことがおわかりになると思います。これを知らなければ、「幸福路のチー」というアニメの素晴らしいの半分も本当には理解できないと思います。

そうして、民主化などとうてい不可能とも思われていた、台湾が今日は民主化されているのです。大陸中国こそ、台湾の民主化を見習うべきだ思います。

台湾民主化の原動力となったのは、李登輝元総統です。これについては、以下の記事が詳しいです。

李登輝が「台湾民主化は日本のおかげ」と語るワケ
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に李登輝が総統だった時の写真と、この記事の最後のしめくくりの部分だけ掲載します。



 李登輝は一連の民主改革を、一滴の血も流さず、一発の銃弾も打つことなく完成させた。「台湾の人々に枕を高くして寝させてあげたかったから」という信念を貫いた李登輝に、その強さの源を聞いて刮目したことがある。 
「日本教育だよ。人間生まれてきたからには『公』のために尽くせ。そう叩き込まれてきたんだ。だから私は国民党の権力を手にしたときも、『私』のことは全く考えることなく『公』のために使おうと決心できたんだ」。

 そして李登輝はこう続けたのである。「だから台湾の民主化が成功したのは、日本のおかげでもあるんだ」と。
『公』に尽くすとは、最近の日本では忘れられがちなことです。 しかし、昔から日本では、国難に遭うと、『公』に尽くす人が出てきて、危機から脱するということがありました。

現在と、未来の日本はどうなるのでしょうか。そのようなことは、『ALWAYS 三丁目の夕日』のようなノスタルジーとして昭和を懐かしむ日本人の心の中だけの存在になってしまったのでしょうか。私は、そうは思いません。現在の若い世代の中から将来そのような人が出てくると期待しています。

そうして、台湾は民主化されてから日が浅いです。様々な文化や、産業力が芽生えるためには、ある程度の平和な状況が続かないと無理であるとの社会学の研究結果が示しています。これからも、台湾の平和と繁栄が長く続いたときにこれらが花咲くことになるのではないかと思います。

台湾映画には、最近は大きな動きがあります。たとえば、興行成績を次々と塗り替えている『返校』です。これは、台湾の白色テロを初めて題材にした作品です。この作品の一番のメッセージが「今ある自由や民権は元からあるものではなく、多くの人の犠牲の上に獲得したのを忘れないで」というものだからです。これは、「幸福路のチー」にも共通しています。

自分を見つめ直すという機運が高まった後に、その国の文化や産業が発展し始めるのではないかと思います。日本も終戦直後には、良くも悪くも、そのような作品で溢れかえっていました。

「幸福路のチー」はこれから台湾が発展していくことを示すその先駆けかもしれません。その時には、宋欣穎(ソン・インシン)以降の新たな世代が台湾を次のステージにあげているのではないか思います。そうして、その時には大陸中国は凋落していると思います。

日本のアニメ界も、イノベーションをしなければ、台湾勢に追い越されるかもしれません。そうして、日本のアニメ界のイノベーションの鍵は、「幸福路のチー」のように自らを見つめ直すことではないかと思います。

李登輝氏が語るように、台湾民主化に大きな影響を与えるほどの大きな潜在能力が日本にはあるようです。それを見直した新たな世代が日本でも日本を次のステージにあげていくのではないかと私は期待しています。

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