2019年11月2日土曜日

【日本の解き方】「デジタル人民元」の発行はドルの基軸通貨体制に脅威 FBと米政府は手を組むか―【私の論評】基軸通貨にはなり得ないデジタル人民元の末路(゚д゚)!


米ドル(上)と人民元(下)

中国の政府系シンクタンク、中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事長が講演で、「中国人民銀行が、世界で初めてデジタル通貨を発行する中央銀行になる可能性がある」と発言したことが話題になっている。

 技術的な観点では、デジタル通貨の技術はできているので、中央銀行がその発行者になることは可能だ。単純にいえば、多くの種類があるデジタル通貨も基本は同じであり、どれかをコピーすれば新たなデジタル通貨を作ることができる。

 政府や中央銀行がデジタル通貨の発行主体になれば、民間主体のデジタル通貨が抱える問題点の多くは解消されるとともに、駆逐される可能性も高い。

 民間企業の米フェイスブックが発行を目指しているデジタル通貨「リブラ」は、米国議会で苦労している。米政府や中央銀行はリブラの発行が及ぼす影響を警戒しており、リブラの規制法ができようとしている。そこで、フェイスブックが持ち出してきたのが、中国の脅威だ。

 これは、的外れな論点ではない。リブラは複数の法定通貨で構成されたバスケットに裏付けられるが、その中に中国の人民元は含まれていない。しかし、中国人民銀行が、リブラをコピーして、各国の法定通貨に人民元を加えたデジタル通貨を作るのは難しくない。この場合、このデジタル人民元は中国がコントロールするブロックチェーン上で稼働することとなるに違いない。

 日本や欧米などの民主主義国では、ブロックチェーンは分散化され政府が管理することはあり得ないが、同じ技術でも中国では全て政府が管理することとなるだろう。

 もしデジタル人民元ができれば、米国による金融制裁を回避することも実際に可能になる。現在はドルが国際金融で基軸通貨として支配的なので、米政府が米国の銀行を抑えれば、世界中でドル決済を事実上行えなくなるが、デジタル人民元でドル支配を乗り越えられる可能性がある。

 もちろん米国もデジタル人民元にドルの有用性が吸収され、基軸通貨の立場が損なわれるおそれがあることを承知している。

 そこで、フェイスブックその他の通貨の裏付けがある安定的なデジタル通貨を規制し、民間企業であっても米政府の意のままに操ろうとしているのだろう。フェイスブックがマイクロソフトのように物分かりがよければ、規制に服する代わりに利益を保証してもらえるというわけだ。

 もっとも、フェイスブックは、規制当局の支持が得られるまではリブラの発行を遅らせる姿勢を改めて示しており、フェイスブックと米国政府は条件闘争しているようにも見える。

 結局、国際基軸通貨としてのドルの立場を守るためにも、フェイスブックと米政府が最終的には協力し、デジタル人民元の台頭を許さないと、筆者はみている。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】基軸通貨にはなり得ないデジタル人民元の末路(゚д゚)!

アップルのティム・クックCEOが暗号通貨(仮想通貨)発行につき、否定的な見解を述べたことが報じられています。

今年6月、Facebookは暗号通貨プラットフォーム「Libra」を正式に発表。ブロックチェーンの管理団体「Libra Association」に参加するMastercardなどの共同創立者とともに、Libraを推進するとアナウンスしていました。

フランスの新聞Les Echosはインタビューの中で、アップルがこの動きに追随するのかと質問。それに対してクック氏は「通貨は国家の管理下に置かれるべきだと思います。民間企業グループが競合する通貨を創り出すアイディアには賛成できません」「民間企業は、このような形で権力を得ようとすべきではありません」と回答しています。

これに先立ってアップルの幹部は「暗号通貨を注視している」との趣旨を述べており、独自の暗号通貨を模索しているとの見方もありましたが、否定されたかたちです。

もっとも、クック氏の言葉は額面通りに受け取れないかもしれません。1つには、同氏がFacebookのザッカーバーグ氏とプライバシーの扱い等を巡って確執があり、当てつけを返した可能性も考えられるわけです。

もう1つは、Libraを取り巻く環境が危うさを増していること。米上院は消費者プライバシーの保護を懸念して公聴会を開催し、米政府もLibraが資金洗浄などに使われる恐れについて「非常に深刻な懸念」を表明、Libra担当者はスイスで26カ国の中央銀行幹部から質問攻めに遭うことに。そうした情勢を鑑みたのか、PayPalも撤退を表明していました。

さらに言えばクック氏は「事業を展開している現地の法律に従う」、つまり政府と対立しない方針を一貫しています。米国政府やEU諸国も大手ハイテク企業による暗号通貨に懸念を抱いているなかで、参入は問題外かもしれません。

アップルCEOティム・クック氏

ただし、仮にリブラ導入が阻止されても、他の主体が同様の仕組みを導入する可能性は残ります。

容易に想像できるのは、新興国で最初に導入される可能性です。金融システムが未発達で銀行取引にアクセスできない人が多い国々にとっては、既存の金融システムからの移行コストが相対的に小さいこともあり、スマートフォンと通信網だけで金融システムを高度化し得る可能性は魅力的でしょう。

この記事の冒頭に記事にもでてきた、リブラはビットコインと同様、ブロックチェーンの技術を使って開発される仮想通貨ですが、ビットコインとの最大の違いは、ドルやユーロなど既存通貨によって価値が担保される点である。要する、リブラはいつでもドルやユーロなどの既存通貨と交換できるということです。

リブラはリブラ協会と呼ばれるコンソーシアムが通貨を管理する予定ですが、リブラ協会はドルやユーロといった既存の法定通貨を保有し、この保有資産を裏付けにリブラを発行する仕組みとなっています。リブラと既存通貨の交換レートは変動するものの、各国通貨のバスケットになっているので、価格変動は穏やかなものになります。

IMF(国際通貨基金)には、主要通貨をバスケットにしたSDR(特別引出権)という、事実上の国際通貨がありますが、リブラはこれに近い仕組みと考えてよいです。主要通貨をベースに通貨を発行するという点では、保有するドル資産などを裏付けに、政府ではなく民間企業が通貨を発行している香港ドルとも似ています。
日本では政府が発行しないと通貨ではないといった議論をよく耳にしますが、それは単なる思い込みです。経済学的に見た場合、通貨は、それに価値があると多くの人が認識すれば、通貨として流通する性質を持っています。
政府の方が民間よりも信用度が高いので、法定通貨の方が流通しやすいのは事実ですが、民間が発行主体であっても、通貨の要件を満たさないわけではありません。
中国政府はリブラの計画をきっかけに、デジタル通貨の発行を進める決断を行ったようですが、その理由は、リブラが持つ潜在力が想像以上だったからです。

リブラについては、各国から様々な懸念が寄せられており、マネーロンダリング対策などで協議を進めていくとしています。しかし、リブラにはマネロンに関する懸念があるという各国通貨当局の説明は、額面通りには受け取らない方がよいでしょう。

もちろん、匿名性の高い仮想通貨が世界に流通すれば、犯罪資金などの温床になる可能性はありますが、現金とは異なり、仮想通貨は理屈上、その行方を電子的に追跡できます。

現金ほど匿名性が高く、犯罪やテロに利用しやすい決済手段はほかにないです。それにもかかわらず、現金が主な決済手段として全世界で使われている現状を考えますと、仮想通貨が普及するとマネロン対策ができなくなるというのは杞憂に過ぎません。

各国の通貨当局が本当に恐れているのは、マネロンなどではなく、リブラのような仮想通貨が普及することで、中央銀行が持つ巨大な権力が脅かされることです。

現代の金融システムは、中央銀行が通貨を一元的に管理し、傘下にある民間銀行を通じてマネーの流通をコントロールすることで成り立っています。

中央銀行はその気になれば、その国の経済を自由自在に操ることができるので、この仕組みは、中央銀行を頂点とした銀行による一種の産業支配システムと言い換えることができるかもしれません。

ところが、ここでリブラのような仮想通貨が広く流通する事態になると、状況が一変します。

中央銀行による統制が効かないマネーの比率が増えれば、金融政策の効果は半減し、中央銀行が持つ権力も大きく削がれることになります。金融機関にも十分な情報が入らなくなり、一般企業に対する支配力も大きく低下してしまうでしょう。

米国は常に巨額の貿易赤字を垂れ流していますが、それは多額のドルを世界にバラ撒いていることと同じです。つまり米国は貿易赤字を通じて全世界にドル経済圏を構築しているわけなのですが、世界経済におけるドル覇権の影響力はすさまじく、各国企業はドルなしでは経済活動を継続できません。

近年、グローバル化が進み、海外にも気軽に送金できるようになりましたが、銀行間の送金ネットワークも実は米国がドルベースで構築したものであり、ドル覇権と密接に関係しています。海外送金が簡単になったのはドルが普及したことが要因であって、多国籍という意味でのグローバル化が進んだ結果ではありません。

ドル覇権が続く限り、米国には金融機関を通じて世界のあらゆる情報が集まってきますが、インテリジェンス(諜報)の世界において、これほど有益な仕組みはほかにないでしょう。

米国のような通貨覇権国はお金の動きをチェックするだけで、全世界の情勢をほぼリアルタイムに把握できてしまうのです。そもそも、予算は国家意思といわれるように、すべての国家の政策には何らかの予算がついて初めて実行できるからです。

そうして、予算の実行にはすべてお金が絡むわけで、お金の流れをつかんでいれば、予算の実行過程まで把握できるのです。無論予算の実行には、ドルだけではなく自国通貨も使用するので、全部を把握できるとはいえませんが、それにしても全ての国が貿易をしており、その決済にはドルを使うことから、貿易に関しては把握できるわけで、その内容から自ずと、国内のこともかなりのところまで把握できるのです。

近年、このドル覇権に対して公然と挑戦状を叩き付けたのが中国です。中国は人民元をベースにした独自の銀行送金ネットワークの構築に乗り出しており、ドル覇権を周辺から突き崩そうとしています。ただし、これはいまのところ、成功しそうにはありません。

このような現実を考えると、全世界で27億人の利用者を持つフェイスブックが、本格的な仮想通貨の計画を打ち出したことのインパクトが、米中の通貨当局にとっていかに大きいことなのかお分かりいただけると思います。

これまで規模の小さい途上国は、ドル覇権の下にぶらさがる形でしか通貨システムを構築できませんでした。内戦が続き国土が荒廃したカンボジアでは、国連による暫定統治で経済を復活させましたが、金融システムはドルと現地通貨の二本立てとなっています。現在、カンボジアはめざましい経済発展を遂げていますが、これはカンボジアがドル経済圏であることと無縁ではありません。

中国はカンボジアを中国経済圏に引き入れようと、莫大な資金を投下していますが、企業における決済や預金、投資がドルになっている以上、中国もそのルールに従わざるを得ないです。通貨覇権を握っていることは、何兆円もの経済援助をはるかに上回る効果があるのです。

もしリブラが世界に普及した場合、自国通貨とリブラの二本立てで金融システムを構築する新興国が出てきても不思議ではないです。こうした新興国は、リブラを交渉材料に、ドル覇権を狙う米国と人民元覇権を狙う中国を上手くてんびんにかけ、双方から好条件を引き出そうとするでしょう。

つまりリブラという仮想通貨は、これまで構築してきたドル覇権を脅かす存在であり、そのドル覇権に対して挑戦状を叩きつけている中国にとっても、それは同じことです。

中国は発行を計画している人民元のデジタル通貨を用いて、国際的な人民元の普及を画策する可能性があります。表面上はリブラとは対立関係にありますが、この世界は「蛇の道は蛇」であり、リブラとデジタル人民元が共存することも十分にあり得ますし、米国政府が水面下でフェイスブックとの交渉を進めている可能性も否定できないです。

さらに言えば、ユーロ陣営や英国の動きにも注目する必要があります。

ユーロ圏各国は、表面的には仮想通貨規制で各国と足並みを揃えるというスタンスですが、ユーロ圏内では、ビットコインなどの仮想通貨を自由に流通させています(英国も同様)。欧州各国が、仮想通貨に対して警戒感を示しつつも、ドル経済圏に対する牽制球としての役割を仮想通貨に期待している面があるのは明らかです。

とはいいながら、先に述べたように、リブラはいつでもドルやユーロなどの既存通貨と交換できる通貨です。特に、いつでもドルと交換できるというのが強みです。

対して、中国の人民銀行が発行する仮想通貨はおそらく、ドルといつでも交換できるようにしたいのは山々でしょうが、それは現状では不可能に近いです。

リーマンショック後、人民元発行残高の100%相当のドル資産を人民銀行は保有していました。ところが、バブル崩壊不安を背景に資本の流出が激しくなりました。ドル資産は大きく減り、海外からドルを借りてようやく3兆ドル台の外貨準備を維持するありさまです。それでも人民元発行残高ドル資産比は6割まで落ちたのです。


これでは、中国が仮想通貨を発行したとしても、当然のことながら、ドルで担保することなど全くできません。

さらには、今年は中国の国内債が記録的なペースでデフォルト(債務不履行)に陥っていますが、来年はオフショア市場の番かもしれないです。現時点で「ストレスト」に分類される企業が発行したドル建て債の大量償還が近づいているためです。

ブルームバーグの集計データによると、利回りが現在15%以上のオフショア債86億ドル(約9260億円)相当が2020年に償還を迎える。言い換えると、ストレスト企業のドル建て債発行残高の約40%が来年償還となるからです。

ルームバーグの集計データによると、利回りが現在15%以上のオフショア債86億ドル(約9260億円)相当が2020年に償還を迎える。言い換えると、ストレスト企業のドル建て債発行残高の約40%が来年償還となる。

これらのことを考えると、現状ではドル建での信用がない中国の仮想通貨は仮に発行したとしても、リブラほどは普及しないことが十分考えられます。

仮想通貨自体には、現在ではあまり信用が高くはありません。それは、当然といば当然です。これは、自分におきかえて考えてみるとわかると思います。自分の給料が全部仮想通貨で支払われたとしたらどうするでしょうか。

たいていの人は仮想通貨は便利とは思うでしょうが、自分の給料が全部仮想通貨で支払われたとしたら、やはり不安を感じると思います。やはり、少なくとも一部、もしくはかなりの部分を既存の通貨に変えて、銀行に預金したいと思うのではないでしょうか。

現在の現金だって、昔は金や、銀に変換できる時代があり、それぞれ金本位制とか銀本位制と呼ばれていました。ただし、政府の発行する貨幣が長い間使われてきた実績があるので、今はなくなりました。

仮想通貨も同じことです。最初はこれで貯蓄することなどに不安を感じる人は多いでしょう。長く使われるようになって、しばらくして多くの人が安心するようになれば、ドルの保証などいらなくなるでしょうが、それまでには長くかかると認識すべきです。

現状では、人民元建てだけの信用だけでは、使い手にとってはかなり不安です。であれば、なかなか普及しないでしょう。

これから、先10年くらい中国がかつての中国のように、毎年10%程度の成長を続けるとの信頼が市場から得られれば、中国発の仮想通貨も普及する可能性はありますが、それはあり得ません。


それでも、金融システムが未発達で銀行取引にアクセスできない人が多い国々にとっては、中国の仮想通貨を使う意味は大きいかもしれません。スマートフォンと通信網だけで金融システムを高度化し得る可能性は魅力的でしょう。ただし、このような国々の多くが、仮想通貨を使うようになって、経済発展したとして、どのくらいの規模になるかという問題があります。

さらには、デジタル人民元が普及していくと、現金とは異なり、仮想通貨は理屈上、その行方を電子的に追跡できることから、中国国内では困る人が大勢出てくる可能性が大です。

無論中国の暗黒社会の構成員を容易に摘発しやすくなるというメリットもありますが、役人の不正や、政府要人の不正なども把握しやすくなります。中国共産党の幹部らは、現状ではメリットばかり考えているのでしょうが、彼らにとってデメリットも大きいことをいずれ痛感するようになるでしょう。

そもそも、ブロックチェーンは、常にみんなにみはられている台帳のようなものです。中国政府だけが、見張るブロックチェーンによる、仮想通貨は本当に仮想通貨といえるのかという問題もあります。

以上のことを考えると、現状では中国の仮想通貨はそれほど危険な存在とはとても思えません。ただし、将来の危険な芽を潰すという意味では、高橋洋一氏の主張するように、やはり国際基軸通貨としてのドルの立場を守るためにも、フェイスブックと米政府が最終的には協力し、デジタル人民元の台頭を防ぐことになると思います。

フェイスブックCEOのザッカーバーグ氏

さらに、リブラはドルトの交換ができるということで、発行には自ずと限界があるので、FRBの権力を脅かすまでにはならないでしょうし、フェイスブックは米国による規制等を受け入れるでしょうから、リブラがドルにとって変わるような事態にはなることはないでしょう。

さらに、ザッカーバーグ氏も、ドルに変わる通貨などという大それたことは考えていないでしょう。そんなことより、リブラを用いて、フェイスブックのユーザーにさらなるベネフィトをどのように提供していくかということに関心があることでしょう。

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