2019年11月4日月曜日

日中、表面的に関係改善 習主席国賓来日に批判も―【私の論評】多様性のある独自の外交路線を模索し始めた日本(゚д゚)!


中国の李克強首相(右)と握手する安倍首相=4日、バンコク郊外

 安倍晋三首相は中国の李克強首相との4日の会談で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での中国当局船の活動などを取り上げ、前向きな対応を強く求めた。ただ、李氏の反応は鈍く、状況を改善する考えは示さなかった。首脳の相互往来の活発化で日中関係は改善基調にあるが、東シナ海や人権をめぐる状況はむしろ悪化しており、自民党では習近平国家主席を国賓で迎えることへの疑問の声が強まりつつある。

 「尖閣諸島周辺海域などの東シナ海をはじめとする海洋安全保障問題、邦人拘束事案などにつき、中国側の前向きな対応を引き続き強く求めた」

 約25分間の会談に同席した西村明宏官房副長官は、同行記者団にこう説明した。だが、これらは安倍首相が昨年10月の訪中時にも習氏や李氏らに直接伝えていた懸案で、事態は1年前より悪化している。

 尖閣諸島周辺での中国海警局の船の活動は、今年4月12日から6月14日まで64日間連続で確認され、平成24年9月の尖閣諸島「国有化」以降、最長記録を更新した。最近も、中国の王岐山副主席が参列した10月22日の「即位礼正殿の儀」当日を含め、11月4日まで20日連続で航行が確認された。

 中国での不透明な邦人の拘束も増えた。2015(平成27)年以降、中国当局はスパイ活動への関与などを理由に少なくとも邦人13人を拘束、8人に実刑を言い渡した。さらに9月には北海道大の男性教授が北京で拘束された。理由は明らかになっていない。

 準公務員である国立大の教員が初めて拘束される事態に対し、日本の中国研究者らでつくる「新しい日中関係を考える研究者の会」(代表幹事・天児慧早大名誉教授)は「言葉にし難い衝撃を受けた」として「深い懸念」を表明した。

 自民党の政務三役経験者は取材に「習氏の国賓としての来日に明確に反対する」と述べており、安倍首相の足元からも疑問の声が出ている。(バンコク 原川貴郎)

【私の論評】多様性のある独自の外交路線を模索し始めた日本(゚д゚)!

米中対立の下で、日本の対外政策は一見すると矛盾するさまざまな顔を持っているようにも見えます。日本は、日米首脳間の良好な関係をアピールして日米安保体制の重要性を唱えつつも、その米国が脅かしているとさえ言われる自由な経済秩序の主要な守護者として世界で振る舞っています。

またあるいは、中国に関与する政策を事実上放棄したとも言われる米国とは異なり、中国への一定の「関与」を日本政府は続けています。一方、この東アジアでは、韓国に対して信頼関係の欠如を理由に「ホワイト国」待遇から除外するなど、「トランプ型」とも取れる外交も展開しています。

日本が韓国を「ホワイト国」待遇から除外することを伝えるヤフーファイナンス
この日本外交の多様性をどのように理解すればいいのでしょうか。実のところ、米中対立下で日本は大枠としては米国と歩調を合わせつつも、以前よりも独自の外交路線を追求し始めているのでしょうか、少なくとも結果的にそうなっているのではないでょうか。
しかし、対米共同歩調は、相応に首脳間の個人的な関係に依存している部分があり、またその独自性も米中関係が悪化しているという国際環境の結果である部分があるために、米国の大統領選挙や今後の米中関係の帰趨によっては、さらなる調整を迫られることもありそうです。
トランプ大統領(左) s安倍総理(右)
2019年9月に日米貿易交渉がようやく大枠合意にこぎ着けられそうな見通しになりました。ところが、16年の大統領選以来、トランプ大統領の貿易面などをめぐる日本批判は継続していました。
また、安全保障の面での負担問題もまた、トランプ氏の対日批判の重要な要素でした。しかし、悪化する米中関係を尻目に、日米関係は極めて強固だとの印象を内外に与えてきました。しかし、それはトランプ大統領と安倍晋三首相との間の個人的信頼関係、あるいはその印象に基づいているように思えるほど、首脳間の往来や演出が突出しています。

政策面を見れば、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を日米ともに掲げつつ、実態としては米国が軍事安全保障を重視するのに対して、日本は経済を含めた「法の支配」など、包括的な秩序形成を想定しており、日米間にやや相違が見られます。

対象とする地域も一致していないようです。このFOIPと一帯一路との関係性についても、日本の方が米国よりも柔軟です。経済貿易秩序の面で見ると、環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)が発効し、また日欧EPAをも軌道に乗せた日本は、多角的でリベラルな貿易枠組みを重視し、WTO改革にも前向きな姿勢を見せています。

それに対して米国は決してそうではありません。この他、ペルシャ湾問題など、さまざまな局面で日米には少なからず相違点が見られます。もちろん、従来から経済外交やアジア外交の面で、日本外交は米国に対して独自性を有していました。

しかし、ここにきてやはりグローバルな経済貿易秩序や地域的な秩序形成の面で、たとえ米国のTPP復帰を望んでいるとはいえ、米国と一致するわけではない姿勢を、反発を買わない範囲で比較的明確に打ち出しています。
しかし、このように日米間に多くの相違点が見られるようになっているからと言って、日中が接近している、というのでもありません。首脳交流が以前よりも頻繁に行われてはいるものの、東シナ海での中国の海警の活動は一層活発になり、また解放軍の動きも従来と同じかそれ以上です。最近では北海道大の男性教授が北京で拘束されるという事件もおきました。
結局、軍事安全保障面での緊張は依然継続しています。しかし、米国との厳しい関係を処理せねばならない中国からすれば、世界第3位の経済大国である日本との関係を悪化させたくはないし、軍事安全保障面でも東アジアで中国への警戒が過度に強まり、日米が一致して対中強硬になることも防ぎたいでしょう。
そのため短期的には日本との関係改善の演出をしているようです。それに対し、日本側としても対米関係で難しいかじ取りを求められる中で、あえて対中関係を「こじらせる」必要もありません。
また、東アジアの地域秩序の面でも、RCEPや日中韓FTAを推進し、自国の国益のために高関税をかける政策が広がらないようにする点では日中の利害は基本的に一致しています。
自由で開かれたインド太平洋地域を標榜する日米

また日韓関係に問題が発生しても、それが長期的には中国に有利ではあるものの、韓国の文在寅政権が中国との関係を「等閑視」していることもあって、特に日中関係に直ちに影響を及ぼすものでもありません。こうした意味では、米中対立だけでなく、他の要素を見ても日中間に関係改善を演出するだけの一定の要素があるとも言えます。
ただ、だからと言って、日中が軍事安全保障面での矛盾も乗り越えて「蜜月」になるのかと言われれば、それも当面はありえないです。
米国でトランプ政権が誕生し、従来とは異なる対外政策を採用し、また中国との対立姿勢を明確にし、他方で東アジアでは各国の対中経済依存もあることから米中対立を懸念する雰囲気が広がりつつ、同時に中国の軍事的な拡大や、新たな中国的な価値観を基礎にした秩序拡大への警戒感が強まっています。
そのために、強固な対米関係を持ち、他の東アジア諸国と同様に中国と深い経済関係を持ちながらも、中国に一定程度「対抗」ができる日本は、従来以上に難しい方程式を解きながら対外政策を考えねばならなくなっています。無論、国内政治も重要な要素です。
日本は米国とは大きな枠組みを共有し、また緊密な首脳間関係を前面に出しながら、個々の案件では独自性を発揮しています。対中関係では軍事安全保障面での「敵対」を大前提にしつつも、二国間関係の関係改善ムードを醸しだし、実際には案件ごとに是々非々で対応して、決して中国のプロジェクトを丸々受け入れたりはしていません。
そうして、グローバルな外交では日本自由な経済貿易秩序や法の支配の擁護者として振る舞い、アジア内部では中国とも協調し、またアメリカ・ファーストを唱える米国との分岐は避けています。
米国が抜けたTPPを発効し、日欧EPAを発効させた日本は世界の自由貿易をリードしている

このようなバランス政策は、同じく米国の同盟国でありながら、過度の米中対立は望まず、他方で自由な経済秩序を維持したい国々、例えばドイツやオーストラリアなどの対外政策とも少なからず重なりを持ちます。
しかし、それぞれの国の個々の案件への対応は多様です。米中それぞれの国内、対外政策も「変数」であり、常に変化します。あるいは、中国よりも米国の方が変数が多いとも言えます。
日本をはじめ多くの先進国は、米中に対する大原則を持ちつつも、情勢を見極めつつ個々の案件ごとに対応するようになりました。これがその対外政策の多様性の背景あるのでしょう。
これを秩序移行期への対応と見るのか、政策が見極めきれないトランプ政権への対応と見るのかについては、もう少し長期的な分析が必要でしょう。私自身は、すでに米国が、挙国一致で対中国冷戦を戦う意思を固めた今日においては、日本の対応は無論秩序移行期への対応であると思います。
特に戦術と戦略にわけて考えるべきでしょう。長期的には、米国と同じく中国の体制が変わるか、変わらないのであれば、経済的に無意味な存在となるまで、経済を弱体化させたいというものでしょう。
ただし、戦術的には中国との関係改善を演出して、短期的に余計な波風をたてないということに注力しているのでしょう。長期的には日本は、米国の対中冷戦を後押しすることになるでしょう。
今後の世界情勢によっては、この多様性の中にある日本の対外政策の独自性が、長期的には新たな展開を見せていく可能性があることを念頭におくべきです。
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