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2020年2月26日水曜日

日本の好機とすべきブレグジット―【私の論評】日本にとって、安全保障でも21世紀型の製造業の模索でも頼りになるパートナーになり得る英国(゚д゚)!


岡崎研究所

 2月8日、訪日中のラーブ英外相と茂木外相との間で、第8回日英外相戦略対話が行われた。会談では、英国のEU離脱後も引き続き、日英が価値を共有するパートナーとしてグローバルなリーダーシップやインド太平洋へのコミットメントで協力を進めていくことが確認された。今回の協議を踏まえて発出された共同プレスステートメントの第1パラグラフは、次のように言っている。


 「日本と英国は最も緊密な友人であり、パートナーである。本日、我々は、気候変動に対処し、新しい技術の潜在能力を安全に活用し、地域の安全保障を維持し、持続可能で自立的な開発を促進し、自由貿易を強化し、ルールに基づく国際システム並びに民主主義及び人権を擁護することを含め、グローバルなリーダーシップを発揮すべく共に取り組むことへのコミットメントを再確認した。我々は、自由で開かれたインド太平洋へのコミットメントについて協議するとともに、善を促進する力としてのグローバルな英国という英国のビジョンについて議論を行った」

 EUを離脱した英国にとり、経済連携は最優先課題である。日本にとっても、英国との経済関係を、英国がEUに加盟していた時と同様に維持することが利益になる。「日EU経済連携協定(EPA)を日英間の将来の経済的パートナーシップの基礎として用いるとの過去のコミットメントを再確認した。両国の自由貿易に対するコミットメントに沿って、我々は、新たなパートナーシップを日EU・EPAと同様に野心的で、高い水準で、互恵的なものとするために速やかに取り組む」と共同プレスステートメントにある通り、スムーズに進むと見られる。

 経済の分野では、英国のTPP11への加盟問題もある。英国は既に2018年より、TPP11への加盟に関心を示している。英国がTPP11に加盟することの意義の一つは、TPP11の側から見ると、TPP11の世界のGDPに占める割合が、現行の13~14%から17%に拡大することである。これはTPP11の影響力拡大につながり得る。もう一つの大きな意義は、英国のインド太平洋へのコミットメントが格段に強化される点である。TPP11への加盟には他の加盟国の承認が必要なので、紆余曲折があるかもしれないが、いずれにせよ、日本としては2018年から一貫して英国の加盟を支持している。今回の共同プレスステートメントも「英国は環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定への関心を改めて表明した。日本は英国の関心を歓迎するとともに、この文脈において英国を支援する旨再確認した」としている。なお、英国は、米国、ニュージーランド、豪州との貿易協定も求めている。

 英国のインド太平洋へのコミットメントは、経済分野以上に、安全保障の分野で大きな進展が見られる。日本や豪州との安全保障協力を強化し、フランスなどと「航行の自由作戦」を実施したりもしている。2018年以来、北東アジアに英海軍艦船6隻が派遣されているという。さらに、空母を太平洋に派遣する構想も持っているらしい。

 英国がインド太平洋における軍事的プレゼンスを高めているのは、海洋通商国家として、航行の自由という国際的ルールを守ることが死活的に重要であるからである。共同プレスステートメントには、「南シナ海及び東シナ海における状況について懸念を表明するとともに、現状を変更し、緊張を高めようとするあらゆる一方的な行動に対し強く反対した。我々はまた、南シナ海行動規範(COC)が1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)に反映された国際法に整合し、航行の自由及び上空飛行の自由を確保し、かつ南シナ海を活用するステークホルダーの権利及び利益を害さないことの重要性を強調した」とある。

 もう一つの背景としては、この地域には英連邦の国々が多く存在するので、これらとのつながりを強化しておきたいとの英国の意図が考えられる。

 EUを離脱した英国は、グローバル・ブリテンを掲げるが、多くの困難に直面しよう。そうした中で、英国のインド太平洋へのコミットメントの強化は、日本が掲げるインド太平洋構想にとっても心強く、日英双方の利益になる。その進展ぶりから目が離せない。

【私の論評】日本にとって、安全保障でも21世紀型の製造業の模索でも頼りになるパートナーになり得る英国(゚д゚)!

ブレグジット以降に具体化される「グローバル・ブリテン」構想による英国の安全保障政策は、日本が戦後初めて国際社会共通の物差しを世界に浸透させるルールメイキングに成功した「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」とリンクすることで実効性を担保し、極めて大きな効果が期待できます。

FOIPは2012年の第2次安倍政権発足直後、首相名で発表された英文の論文「アジア民主主義防護のダイアモンド」構想が最初でした。中国の台頭に対抗することを念頭に置いて、インド、ASEAN、オーストラリア、アメリカ、それに英国、フランスまでが加わる日本発の安全保障構想です。


すでに米国はこの構想に基づいて、ハワイに本拠を多く太平洋軍の名称を「インド太平洋軍」と改称し、インド軍、自衛隊、オーストラリア軍などが加わる軍事訓練を重ねています。

これらのことから、ジョンソン首相は「第二次日英同盟」にしばしば言及しており、2018年10月には日本がUKUSA協定国(ファイブアイズとも呼称されている)で行われる多国間机上演習に招待され、防衛省から5名が参加しています。

このUKUSA協定はもともと第二次大戦中にドイツのエニグマ暗号を米英共同で解読したのが始まりで、戦後戦略上最も重要な秘密情報を共有するため、かつて異国の植民地であった国々が参加。参加国は英国の他アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5ヵ国。このことから「ファイブアイズ」とも呼ばれています。

いずれにしろ、高度な情報コミュニティであり、英語圏以外で演習に招待されることは極めてまれで、2016年のドイツ、フランスしかありません。これへの参加は安全保障とステータスの向上という観点から見ると、日本にとって魅力的であり、高度な安全保障システムに参加可能な日英同盟に近づくステップにもなりうるのです。

「グローバル・ブリテン」構想のもう一つの柱は、英国が経済的な自由を取り戻し、世界的な展開を推進することです。ブレグジット後はEU以外の国・地域との貿易関係の強化が急務となります。そのため、英国政府は2018年7月からアメリカ、ニュージーランド、オーストラリアとのFTA(自由貿易協定)協議に加え、アメリカが抜けた後、日本が主導的にまとめ上げたTPP(環太平洋パートナーシップ)11への参加に前向きな姿勢を示しています。

英国の経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT紙)が2018年10月31日、アメリカが関税障壁を引き上げたり、中国との貿易戦争を続けている状況と対比し、TPP11の発効は自由貿易の類まれなる勝利だと評価。また、FT紙は10月8日付の記事で安倍晋三首相へのインタビューを掲載。安倍首相が英国のTPP11参加を「もろ手を挙げて歓迎」し、TPP11のさらなる拡大に意欲的なことを紹介。TPP11が「グローバル・ブリテン」の経済面での重要な位置づけとなることを表明しました。

FT紙は2018年10月8日付の記事で安倍晋三首相へのインタビューを掲載

英国としても世界で最も繁栄している環太平洋地域の経済活動に参加して、ブレグジット後の活路を見出そうとしていると思われます。ブレグジット後の英国にとって日本の存在価値は高いと言えますし、日本にとっても世界の安全保障と経済に深くコミットする道筋となることでさらなる飛躍のチャンスでもあるのです。
一方英国は、21世紀型の製造業を興すことで地盤沈下した地方経済を蘇らせて国内経済の〝南北問題〟を解消する一方、大学を中心に世界中から人材を吸い寄せて資本も集める挑戦を開始しました。それは、ティースバレー(ティーズ川の下流域を中心とした英国の北東に都市領域)とその周辺を、関税、付加価値税(VAT)のないフリーポート・フリーゾーンにする構想です。

石炭と鉄鉱石の産地が近いティーズバレーは、19世紀から製鉄で栄え、ピーク時には年間1000万トンの石炭と鉄鉱石を飲み込み、350万トンのスラブ(鋳塊)と鉄製品を吐き出しました。造船や化学も強く、1970年代前半まで工場労働者で賑わいました。旧工業地帯の人口は70万。今や見る影もなく工場は閉鎖し、周辺にはシャッター街が広がっています

このディーズバレー港とその周辺を関税、付加価値税(VAT)のないフリーポート・フリーゾーンにする構想が脚光を浴びています。外資を呼び込んで新しい産業を興し、EUだけでなく、北米・南米・アジア・オーストラリア・英連邦加盟国とティーズバレーを結ぶ壮大な構想です。 

「仕事なんか戻ってくるもんか」「私たちゃあ生きてるんじゃない。ただ存在しているだけさ」と地元住民でさえ吐き捨てる街を蘇らせるためにティーズバレー市長ハウチェン氏がジョンソン首相に掛け合い、マニフェスト(政権公約)にも採用された秘策があります。

今後3年のうちに自由貿易協定(FTA)で貿易額全体の80%をカバーする戦略を掲げるジョンソン政権の切り札と言えるかもしれないです。フリーポートは一言で説明すれば国内に〝オフショアの産業特区〟を設けるアイデアです。

港のティーズポートには18・2平方キロメートルの遊休地があり、フリーポートに指定された暁には今後25年で52億ポンド(約7400億円)の投資が見込めます。地域の失業率は7・2%(英国全体は3・8%)ですが、サプライチェーンも含め3万2000人の雇用を創出、経済効果は20億ポンド、税収増は10億ポンドとハウチェン市長は算盤)を弾いています。

英財務省の首席政務次官を務める保守党のリシ・スナック下院議員(2月13日の内閣改造で財務相に抜擢)の報告書によれば、フリーポートやフリーゾーンは世界135カ国3500カ所に広がり、6600万人の雇用を創出。米国では250カ所のフリーゾーンが42万人の雇用と7500億ドルの商取引を生み出しています。

関税やVAT、規制から完全に自由なフリーポートとフリーゾーンを組み合わせたり、その中に工場や企業を誘致したり、世界のフリーポートには実に97もの異なるモデルがあります。

しかし、EU規制下で認められるフリーポートは短期間保管するだけの保税倉庫に毛が生えたようなもので、同一競争条件(レベル・プレーイング・フィールド)により国家補助金や税制、環境、労働条件に厳しいタガがはめられています。

このため12年を最後に英国からリバプールやサウサンプトンなどのフリーポートは完全に姿を消しました。ジョンソン首相が描くのは規制緩和や国家補助金を呼び水にフリーポートやフリーゾーンへ外資や21世紀型の製造業を呼び込む競争力ある産業特区です。

これまで議会で単独過半数を獲得し、EUから離脱するのがジョンソン首相の最優先課題でした。先の総選挙で保守党は「レッドウォール」と呼ばれる旧炭鉱・造船街などオールドレイバー(古い労働党)の支持を得ました。

「レッドウォール」を再活性化させるため、フリーポート構想に加え全国一律の法定生活賃金(労働者の生活を保障する賃金の下限)の引き上げを行い、国内経済の〝南北問題〟を是正しながら、EUに縛られずに世界と繋(つな)がるグローバル・ブリテンを目指す試練が始まりました。

英国の起業家ネットワーク、テク・ネーションの調査では、19年に企業価値が10億ドルを超えるスタートアップ企業である「ユニコーン」を8社も生み出した英国のデジタルテクノロジーへの投資は、前年に比べ31億ポンド増えて過去最高の101億ポンド(約1兆4400億円)を記録しました。ドイツの54億ポンド、フランスの34億ポンドを合わせた額より多く、欧州全体の3分の1を占めています。


ベンチャーキャピタル投資は前年比44%増。成長率で見た場合、ドイツ41%増、フランス37%増、イスラエル22%増、米国20%減、中国65%減を上回り、世界首位に立ちます。英国のユニコーンは計77社になり、ドイツの34社を圧倒しています。

英国にはオックスフォード大学やケンブリッジ大学など世界トップ100に入る大学が11校もあり、テクノロジーの拠点は全国に広がっています。EU市民は英国離脱によって自由に行き来できなくなりますが、米国や中国に比べるとはるかに就労ビザが取得しやすいという強みがあります。

EUとの通商交渉の行方はまだ分かりません。しかし21世紀型の製造業を興すことで地盤沈下した地方経済を蘇らせて国内経済の〝南北問題〟を解消する一方、大学を中心に世界中から人材を吸い寄せて資本も集める英国の挑戦がこれから始まろうとしています。

これから、大きなチャレンジをする英国は、日本にとって安全保障でも21世紀型の製造業の模索でも頼りになるパートナーになるのは間違いないようです。



2019年11月25日月曜日

国際社会で模索すべき香港デモの解決策―【私の論評】安倍政権の財界親中派への配慮は、いつまでも続かない(゚д゚)!

国際社会で模索すべき香港デモの解決策

岡崎研究所
 6カ月以上にわたる香港の抗議運動を巡る情勢は、収まる兆候を見せるどころか、益々激化、暴力も起こり、危険な状態になっている。日本人がそれに巻き込まれ、負傷する事件もあった。現況及び今後の香港情勢は、非常に憂慮される。もともと自由と民主主義を求め、2047年まで保証された「一国二制度」を維持するために平和に始まった抗議運動であり、これが、大きな流血事態を招くようなことを許してはならない。天安門事件のような事態は、中国共産党にとっても回避すべきことは言うまでもない。 

引渡法案に抗議する大勢の人々が参加した6月のデモ

 11月13日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の社説は、中国共産党政府が、香港基本法の関連規定の実現となる国家安全法の制定と香港行政長官を選出する普通選挙の導入を抱き合わせで行えないかと提案している。それがデモの平和裏の収束と流血回避の唯一の可能性だと指摘する。ただし、これは、中国共産党にとって、デモへの屈服になってしまい、中国の他の地域への波及の可能性もあり、なかなか実行は難しいだろう。そのことは、フィナンシャル・タイムズ紙の社説も認めている。しかし、国家安全法は、以前にも立法化が試みられたことがあり、内容如何にもよるが、理論的には考えられないことではないように思える。興味深い提案であり、これは、フィナンシャル・タイム紙から中国共産党政権に対するシグナルと考えても良いかもしれない。

普通選挙の実施は、デモ側の五大要求(①逃亡犯条例案の完全撤回、②警察の暴力的制圧の責任追及と独立調査委員会の設置、③デモ「暴動」認定の撤回、④デモ参加者の逮捕・起訴の中止、⑤林鄭月娥行政長官の辞任と民主的選挙の実現)の1つとなっている。兎に角、今や、香港当局がデモ隊側に何らかの譲歩をしない限り、現下の危険な事態は解決されない。それへの代案が中国共産党による軍事介入ということであれば、尚更追求すべき方策かもしれない。北京政府も、民主化を求める住民の意思を無視していては、問題は永遠に解決しないし、武力で問題は解決しないことを認識すべきだろう。

抗議デモの長期化により、香港経済が予想以上に悪化しているという。今年第 3四半期(7~9月)の成長率はマイナス3.2%(前期比)となったという。観光業も不振になっている。

国際社会、特に米国と前の統治国である英国がきちっと中国に話していくことが重要である。米国では、「香港人権・民主主義法案」が下院を通過し、上院も承認すると見られている。日本など他の諸国も、適切な形で平和裏の解決を求めていくべきだろう。

【私の論評】安倍政権の財界親中派への配慮は、いつまでも続かない(゚д゚)!

政府への抗議デモが続く香港で24日、4年に1度の区議会選挙が実施され、投票率は過去最高の71.2%でした。中間集計で民主派が300議席を獲得したのに対し、親中派は40議席に留まり、デモに強硬姿勢で臨む香港政府と中国の習近平指導部に民意が明確にNOを突きつけた形となりました。

親中国政府派の候補者が敗北したことを受けて歓声を上げる民主派の人々

ただし、区議会議員はほとんど決定権がなく、町内の顔役のような役割です。ですからこれで物事が決まるとか、状況が変わることはないですが、民意をキチンと伝えるということはできるようにはなるかもしれません。

香港市民は、現在の林鄭月娥(キャリー・ラム)香港特別行政区行政長官も含めて、行政府に対してはNOを、そうしてその裏にいる中国共産党や中国政府に対しても、NOだという民意が示されたというところも大きいです。

この選挙結果が出る直前に、まだトランプ大統領は署名していませんが、アメリカ議会で香港人権・民主主義法案の可決が行われたということが、大きく背中を押したは間違いないと思います。

米下院は、香港が高度な自治を維持しているかどうか米政府に毎年検証することを求める
「香港人権・民主主義法案」など中国への圧力を強める複数法案を可決。写真は14日に香港

特に香港中文大、理工大でのデモが激しくなって来たあたりで、デモ隊が暴力を振るっていて市民の心が離れているということを、勝手に解説する中国の専門家と称するような方がいましが、結局民意はそうではなかったということです。

むしろ、YouTube等で、警察側の暴力が動画が拡散しています。YouTubeで「香港」というキーワードを入れて検索すると、かなりの動画を見ることができます。大学構内で学生が警察に対して完全に屈している、逮捕されますという姿勢を見せている学生に向けて、硬い靴で顔を思い切り踏みつける、背骨を警棒で殴るという状況も拡散されています。

これはもう完璧に暴力による虐待であり、それに対して市民は強い危機感を持っているし、学生に対するシンパシーを持ち続けているということです。今回の区議会選挙の前段で、あのような強行策を取ったということが、逆の方向に出たしまったのでしょう。民意は行政庁からどんどん離れつつあります。むしろ、40議席を獲ったことが不思議なくらいです。

現地のメディア、或いは記者の人が伝えているネットなどを観るとと、得体の知れない投票箱が運ばれて来て、中身を調べろということになっていました。周りで監視していた市民が、そんな得体の知れないものは受け取れないと揉めていました。また、投票しに行ったら「すでに午前中に君の名前で投票されています」とあったとか、選挙そのものがどうなっているのかということも報道されています。

中国国内においては、建国以来民主的な選挙は行われていません。上は、主席から、下は下級役人まで、どのようなポストも指名によって行われています。中国には、民主的な選挙をどのようにコントロールできるのか、ノウハウがありません。

だから暴力の行使というあからさまなやり方を持ち出したのではないでしょうか。そもそも、中国では建国以来毎年平均2万件程度の暴動があったとされ、2010年あたりからは、毎年平均10万件もの暴動が発生しているといわれています。

これらの暴動を城管、公安警察(日本の警察にあたる)、武装警察、人民解放軍などを用いて、鎮圧してきたわけですから、中国からすれば、デモの鎮圧など簡単で香港のデモなど取るに足らないものと見ていたといのが、大きなミスです。

もう1つのミスは、そういう状況が必ずSNSや動画で拡散、それも瞬時に拡散されてしまうということです。中国サイドは、このあたりを甘く見ていたようです。中国本土ではネットも政府の金盾によるコントロール下にあります。だから香港のネットも簡単にコントロールできるかと思いきや、そうではなかったのです。

さらに、香港には、米国籍、英国籍等外国人が多く存在します。さらに、外見は香港人でありながら、国籍は外国という人も大勢います。これらの人々が、逐一海外に様々な情報を伝えているというところも、大陸中国とは異なるところです。



米国で、香港人権・民主主義法案が成立して、米国の香港に対する最恵国待遇が外されることが確実になって来ました。ブルームバーグが報道したところによると、東京都の担当者が香港の金融機関に対して、東京に戻って来ないかと働きかけているそうです。

東日本大震災以降、東京から避難した香港系金融機関がいくつもあるわけですが、そういう金融機関に対して東京に戻って来ないかと言うだけではなく、拠点を香港から東京に移さないかとアプローチしているそうです。

これに対して、香港在住の金融機関がかなり前向きになって来ているようです。そうなると、香港の金融センターとしての役割も危うくなります。これを中国サイドはどう見るのでしょうか。

現在香港では金融機関の多くの職員が在宅勤務のような形になっているそうですし、長期出張として東京やシンガポールなどで業務をしているところが多いそうです。その長期出張が東京への拠点の移動の1つの布石ではないかと、言われています。

在宅勤務ということは、店舗は閉鎖されていることを意味します。実質的に、金融機能は麻痺状態に陥っているのではないでしょうか。

これを中国はどう見るのでしょう
か。習近平政権は腐敗撲滅運動を実施していて、その大きな拠点が香港であるということは見抜いているようです。ただここを潰してしまうと、本土の赤い官僚貴族たちに対して、広範囲に影響があります。

香港には共産党幹部たちの隠し資産があります。そのような金融機関の動きを見てみると、事実上の内戦状態に陥っているともいえます。つまり戒厳令こそ宣告されていなですが、同じ状況にあるといえます。
米国の香港人権・民主主義法案に関しては、後はトランプ大統領の署名を残すのみですが、仮に署名しなくても、また議会で大多数で可決すれば施行することができます。

たとえ、トランプ大統領が署名を拒否したとしても、採決すれば通ってしまいますから、トランプ大統領としても署名するでしょう。そうなると、問題は日本のスタンスなのです。

来年(2020年)、習近平国家主席が国賓待遇で来日しますが、それをこのまま容認して進めて良いのかということがあります。これは考え直すべきです。

ここに来て、ようやく各政党が非難決議や談話を出し始めましたが、遅きに失した感はく免れません。

現在、各国政府、特に西側先進国はかなり強烈なメッセージを出して、中国との条約の見直し作業に入っている状況です。まさに天安門前夜と同じような状況になっているのは間違いないです。それにも関わらず、日本だけが平時と同じような状況で中国との関係を保っているということは、国際社会のなかで日本が孤立することにもなりかねません。

いままで中国に対して、対話のドアはオープンだと言いながら、言いたいことは言ってきました。どうしてここへ来て変わってしまったのでしょうか。

官邸の方針が変わったということは言えると思います。これまでは少なくとも、安全保障と経済問題はバランスを取って来ました。現在の対中政策は、安全保障問題は後退して、経済一本槍です。安全保障問題に対して消極的姿勢になったようにみえます。

しかし、これは、おそらく中国幻想の妄想から冷めやらない、財界親中派に対する配慮に過ぎないものと考えられます。安倍総理は、総理に就任してから6年間も中国に行きませんでしたが、昨年はじめて中国を訪れています。ところがその翌日に中国から帰った途端、インドのモディ首相を別荘に招待しています。この事実が、安倍外交の何であるかを象徴していると思います。

いずれ財界親中派も、世界の潮流が変わったこと、さらには、中国にはもう先がないことなどを理解することになれば、安倍政権も元の鞘にもどることになると思います。ただし現状でも中国に対する厳しい見方は変わっていないでしょう。

米国をはじめ、世界中の国々が中国に対して厳しい態度をとりつつある現在、安倍政権による財界親中派に対する配慮はいつまでも継続できないでしょう。

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2019年11月4日月曜日

日中、表面的に関係改善 習主席国賓来日に批判も―【私の論評】多様性のある独自の外交路線を模索し始めた日本(゚д゚)!


中国の李克強首相(右)と握手する安倍首相=4日、バンコク郊外

 安倍晋三首相は中国の李克強首相との4日の会談で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での中国当局船の活動などを取り上げ、前向きな対応を強く求めた。ただ、李氏の反応は鈍く、状況を改善する考えは示さなかった。首脳の相互往来の活発化で日中関係は改善基調にあるが、東シナ海や人権をめぐる状況はむしろ悪化しており、自民党では習近平国家主席を国賓で迎えることへの疑問の声が強まりつつある。

 「尖閣諸島周辺海域などの東シナ海をはじめとする海洋安全保障問題、邦人拘束事案などにつき、中国側の前向きな対応を引き続き強く求めた」

 約25分間の会談に同席した西村明宏官房副長官は、同行記者団にこう説明した。だが、これらは安倍首相が昨年10月の訪中時にも習氏や李氏らに直接伝えていた懸案で、事態は1年前より悪化している。

 尖閣諸島周辺での中国海警局の船の活動は、今年4月12日から6月14日まで64日間連続で確認され、平成24年9月の尖閣諸島「国有化」以降、最長記録を更新した。最近も、中国の王岐山副主席が参列した10月22日の「即位礼正殿の儀」当日を含め、11月4日まで20日連続で航行が確認された。

 中国での不透明な邦人の拘束も増えた。2015(平成27)年以降、中国当局はスパイ活動への関与などを理由に少なくとも邦人13人を拘束、8人に実刑を言い渡した。さらに9月には北海道大の男性教授が北京で拘束された。理由は明らかになっていない。

 準公務員である国立大の教員が初めて拘束される事態に対し、日本の中国研究者らでつくる「新しい日中関係を考える研究者の会」(代表幹事・天児慧早大名誉教授)は「言葉にし難い衝撃を受けた」として「深い懸念」を表明した。

 自民党の政務三役経験者は取材に「習氏の国賓としての来日に明確に反対する」と述べており、安倍首相の足元からも疑問の声が出ている。(バンコク 原川貴郎)

【私の論評】多様性のある独自の外交路線を模索し始めた日本(゚д゚)!

米中対立の下で、日本の対外政策は一見すると矛盾するさまざまな顔を持っているようにも見えます。日本は、日米首脳間の良好な関係をアピールして日米安保体制の重要性を唱えつつも、その米国が脅かしているとさえ言われる自由な経済秩序の主要な守護者として世界で振る舞っています。

またあるいは、中国に関与する政策を事実上放棄したとも言われる米国とは異なり、中国への一定の「関与」を日本政府は続けています。一方、この東アジアでは、韓国に対して信頼関係の欠如を理由に「ホワイト国」待遇から除外するなど、「トランプ型」とも取れる外交も展開しています。

日本が韓国を「ホワイト国」待遇から除外することを伝えるヤフーファイナンス
この日本外交の多様性をどのように理解すればいいのでしょうか。実のところ、米中対立下で日本は大枠としては米国と歩調を合わせつつも、以前よりも独自の外交路線を追求し始めているのでしょうか、少なくとも結果的にそうなっているのではないでょうか。
しかし、対米共同歩調は、相応に首脳間の個人的な関係に依存している部分があり、またその独自性も米中関係が悪化しているという国際環境の結果である部分があるために、米国の大統領選挙や今後の米中関係の帰趨によっては、さらなる調整を迫られることもありそうです。
トランプ大統領(左) s安倍総理(右)
2019年9月に日米貿易交渉がようやく大枠合意にこぎ着けられそうな見通しになりました。ところが、16年の大統領選以来、トランプ大統領の貿易面などをめぐる日本批判は継続していました。
また、安全保障の面での負担問題もまた、トランプ氏の対日批判の重要な要素でした。しかし、悪化する米中関係を尻目に、日米関係は極めて強固だとの印象を内外に与えてきました。しかし、それはトランプ大統領と安倍晋三首相との間の個人的信頼関係、あるいはその印象に基づいているように思えるほど、首脳間の往来や演出が突出しています。

政策面を見れば、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を日米ともに掲げつつ、実態としては米国が軍事安全保障を重視するのに対して、日本は経済を含めた「法の支配」など、包括的な秩序形成を想定しており、日米間にやや相違が見られます。

対象とする地域も一致していないようです。このFOIPと一帯一路との関係性についても、日本の方が米国よりも柔軟です。経済貿易秩序の面で見ると、環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)が発効し、また日欧EPAをも軌道に乗せた日本は、多角的でリベラルな貿易枠組みを重視し、WTO改革にも前向きな姿勢を見せています。

それに対して米国は決してそうではありません。この他、ペルシャ湾問題など、さまざまな局面で日米には少なからず相違点が見られます。もちろん、従来から経済外交やアジア外交の面で、日本外交は米国に対して独自性を有していました。

しかし、ここにきてやはりグローバルな経済貿易秩序や地域的な秩序形成の面で、たとえ米国のTPP復帰を望んでいるとはいえ、米国と一致するわけではない姿勢を、反発を買わない範囲で比較的明確に打ち出しています。
しかし、このように日米間に多くの相違点が見られるようになっているからと言って、日中が接近している、というのでもありません。首脳交流が以前よりも頻繁に行われてはいるものの、東シナ海での中国の海警の活動は一層活発になり、また解放軍の動きも従来と同じかそれ以上です。最近では北海道大の男性教授が北京で拘束されるという事件もおきました。
結局、軍事安全保障面での緊張は依然継続しています。しかし、米国との厳しい関係を処理せねばならない中国からすれば、世界第3位の経済大国である日本との関係を悪化させたくはないし、軍事安全保障面でも東アジアで中国への警戒が過度に強まり、日米が一致して対中強硬になることも防ぎたいでしょう。
そのため短期的には日本との関係改善の演出をしているようです。それに対し、日本側としても対米関係で難しいかじ取りを求められる中で、あえて対中関係を「こじらせる」必要もありません。
また、東アジアの地域秩序の面でも、RCEPや日中韓FTAを推進し、自国の国益のために高関税をかける政策が広がらないようにする点では日中の利害は基本的に一致しています。
自由で開かれたインド太平洋地域を標榜する日米

また日韓関係に問題が発生しても、それが長期的には中国に有利ではあるものの、韓国の文在寅政権が中国との関係を「等閑視」していることもあって、特に日中関係に直ちに影響を及ぼすものでもありません。こうした意味では、米中対立だけでなく、他の要素を見ても日中間に関係改善を演出するだけの一定の要素があるとも言えます。
ただ、だからと言って、日中が軍事安全保障面での矛盾も乗り越えて「蜜月」になるのかと言われれば、それも当面はありえないです。
米国でトランプ政権が誕生し、従来とは異なる対外政策を採用し、また中国との対立姿勢を明確にし、他方で東アジアでは各国の対中経済依存もあることから米中対立を懸念する雰囲気が広がりつつ、同時に中国の軍事的な拡大や、新たな中国的な価値観を基礎にした秩序拡大への警戒感が強まっています。
そのために、強固な対米関係を持ち、他の東アジア諸国と同様に中国と深い経済関係を持ちながらも、中国に一定程度「対抗」ができる日本は、従来以上に難しい方程式を解きながら対外政策を考えねばならなくなっています。無論、国内政治も重要な要素です。
日本は米国とは大きな枠組みを共有し、また緊密な首脳間関係を前面に出しながら、個々の案件では独自性を発揮しています。対中関係では軍事安全保障面での「敵対」を大前提にしつつも、二国間関係の関係改善ムードを醸しだし、実際には案件ごとに是々非々で対応して、決して中国のプロジェクトを丸々受け入れたりはしていません。
そうして、グローバルな外交では日本自由な経済貿易秩序や法の支配の擁護者として振る舞い、アジア内部では中国とも協調し、またアメリカ・ファーストを唱える米国との分岐は避けています。
米国が抜けたTPPを発効し、日欧EPAを発効させた日本は世界の自由貿易をリードしている

このようなバランス政策は、同じく米国の同盟国でありながら、過度の米中対立は望まず、他方で自由な経済秩序を維持したい国々、例えばドイツやオーストラリアなどの対外政策とも少なからず重なりを持ちます。
しかし、それぞれの国の個々の案件への対応は多様です。米中それぞれの国内、対外政策も「変数」であり、常に変化します。あるいは、中国よりも米国の方が変数が多いとも言えます。
日本をはじめ多くの先進国は、米中に対する大原則を持ちつつも、情勢を見極めつつ個々の案件ごとに対応するようになりました。これがその対外政策の多様性の背景あるのでしょう。
これを秩序移行期への対応と見るのか、政策が見極めきれないトランプ政権への対応と見るのかについては、もう少し長期的な分析が必要でしょう。私自身は、すでに米国が、挙国一致で対中国冷戦を戦う意思を固めた今日においては、日本の対応は無論秩序移行期への対応であると思います。
特に戦術と戦略にわけて考えるべきでしょう。長期的には、米国と同じく中国の体制が変わるか、変わらないのであれば、経済的に無意味な存在となるまで、経済を弱体化させたいというものでしょう。
ただし、戦術的には中国との関係改善を演出して、短期的に余計な波風をたてないということに注力しているのでしょう。長期的には日本は、米国の対中冷戦を後押しすることになるでしょう。
今後の世界情勢によっては、この多様性の中にある日本の対外政策の独自性が、長期的には新たな展開を見せていく可能性があることを念頭におくべきです。
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2019年6月26日水曜日

G20議長国・日本に難題山積 経済と安全保障の均衡取り…当面の解決策模索できるか―【私の論評】G20で見えてくる衆参同時選挙ではなく、時間差選挙の芽(゚д゚)!

G20議長国・日本に難題山積 経済と安全保障の均衡取り…当面の解決策模索できるか


サミット会場近くで警備をする警官

28、29日に大阪で20カ国・地域首脳会合(G20サミット)が開かれる。中心となる議題やG20に合わせて開かれる予定の米中首脳会談などの注目点、議長国である日本の役割について考えてみたい。

 G20は、米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダおよび欧州連合(EU)の「G7メンバー」に、ロシア、中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、オーストラリア、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチンを加えたものだ。

 国際通貨基金(IMF)が4月9日に公表した世界経済見通しは、2019年の成長率予測を3・3%とし、前回1月の見通しから0・2ポイント引き下げた。米中貿易戦争や中国経済の減速、英国のEU離脱問題が引き続き懸念材料だからだ。

 世界中が注目している米中貿易戦争では、G20の場で米中首脳会談が開かれることが決まった。このニュースで米国株などが上昇する場面もあった。

 もっとも、今回の米中首脳会談で、すべてが解決するとは多くの人が思っていない。よくて部分的な解決であり、最終的な解決には時間を要するというのが一般的な見方だ。

 英国のEU離脱(ブレグジット)も大きな問題だ。メイ首相は来日するかもしれないが、すでに保守党党首は辞任しており、もはやレームダック状態だ。ブレグジットは英国の国内問題にとどまらず、欧州経済にすでに悪影響を与えている。メイ首相の政治力があれば日英間で貿易問題を話し合い、日英経済連携協定(EPA)や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への英国加盟などの可能性があったが、これらの問題は次期首相の手に委ねられる。

 香港の「逃亡犯条例改正」審議が、大衆デモによりに延期となったが、これについて英国は、香港返還の経緯などを国際社会に説明する必要がある。「一国二制度」がすでに形骸化しており、今回の事件もそれが顕在化したにすぎない。G20では、香港の人権問題を扱ってもいいはずだが、はたしてどこまで議論できるのだろうか。もっとも米中首脳会談において、トランプ米大統領が中国に対して人権問題として取り上げるかもしれない。

 国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は、G20に対し、世界的な経済成長へのリスクを和らげるため貿易摩擦の解決を最優先課題とするよう求めている。

 ただし、米中貿易戦争は、単に経済の問題だけではない。知的財産権の強制移転や盗用という安全保障面での問題もある。議長国の日本としては、経済問題と安全保障問題のバランスをとりながら、当面の解決策を求めていく必要がある。

 資本取引の自由という西側資本主義ロジックと、生産手段の私有を制限するために資本取引制限のある東側社会主義ロジックとの間の調和・調整が問題解決に求められている。

 また、人権や環境にも配慮し、地球規模問題の解決を図る必要もある。国際社会において名誉ある地位を占めるのは、言うは易く行うは難しだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】G20で見えてくる衆参同時選挙ではなく、時間差選挙の芽(゚д゚)!

夏の参院選を控え、G20サミットで議長を務める首相にとっては、外交手腕を示す格好の場となりそうです。一方、韓国大統領府高官は25日、G20サミットに合わせ、首相と文在寅大統領との日韓首脳会談について「開かれない」と記者団に語りました。高官は「われわれは会う準備ができていると伝えたが、あちら(日本)から何の反応もなかった」と説明。一方で、その場で日本から要請があれば、「いつでも会える」と述べ、会談への未練をにじませました。

安倍総理と、トランプ米大統領との会談は今回のサミットで12回目を数えます。4、5月に続く3カ月連続の相互往来で、強固な日米同盟を世界に示します。非核化をめぐる米朝協議など最新の情報を共有し、北朝鮮が非核化に向けた具体的な行動を示さない限り、国連安全保障理事会の決めた経済制裁は解除しない方針も再確認します。

また首相は、今月のイラン訪問の詳細をトランプ氏に伝えます。イラン革命防衛隊によるホルムズ海峡付近での米軍無人機撃墜などで米イランの対立は激化しており、首相は衝突回避の重要性を働きかける意向です。

中国の習近平国家主席は、2013年の国家主席就任後初の来日となります。首相との会談では、米中貿易摩擦が世界経済最大のリスクとなっていることから、通商問題で意見を交わします。20~21日の中朝首脳会談を踏まえ、北朝鮮情勢も協議します。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案撤廃をめぐる香港の混乱について、首相がどう提起するかにも関心が集まるところです。

26回目となるプーチン大統領との会談は、協議が停滞している日露平和条約交渉の取り扱いが焦点です。昨年11月、日露両首脳は1956(昭和31)年の日ソ共同宣言を基礎に条約交渉を加速させることで合意しましたが、プーチン氏は北方領土の引き渡しに関し「計画はない」と明言するなど、局面打開は難しい情勢です。

一方、G20サミットの全体会議では、世界経済、イノベーション、格差・インフラ、気候変動の計4分野が主要議題となります。

トランプ米大統領が今回のG20首脳会議で目指すのは、中国との貿易摩擦、ロシアとの核軍縮、イラン核問題など米国が抱える懸案に関し、「米国第一」の立場から自国に有利な展開を引き出すことです。

トランプ大統領

G20などの多国間会議の場で設定される首脳会談は外交儀礼上、必ずしも正式な会談に位置づけられるわけではないです。

しかし、主要国などの首脳が一堂に会する多国間会議は、複数の国の首脳とそれぞれ効率的に意見を交わす一方、利害が多国間にまたがる特定の懸案については会議の場で合意形成を図れるという利点があります。

トランプ大統領も中国問題については今回、首脳会議ではサイバー攻撃などによる情報窃取、技術移転の強制、関税や非関税障壁などに関し「不公正な貿易慣行」の排除に向けた各国と認識をすり合わせつつ、習近平国家主席との直談判で具体的合意にこぎ着けたい考えです。

ただ、G20首脳会議の枠組みそのものは既に形骸化が明白となっており、米政権としてはさほど重要視していないのも事実です。

2008年に当時深刻化していた世界金融危機に対応するためにワシントンで始まったG20首脳会議は、世界経済が回復軌道に乗った09年にピッツバーグで開かれた第3回首脳会議の時点で、本来の役割は終了したとの指摘は多いです。

ピッツバーグサミット

その第3回会議でも、メディアに最も注目されたのはイランが当時、秘密の核施設の存在を明らかにしたことに対して米英仏の首脳が抗議の合同記者会見を開いたことで、形骸化の萌芽は既に現れていました。

今回もG20自体は米中の直接対決を前に存在がかすみがちになるのは確実とみられます。

そうした中で、安倍総理にとってG20を活用する方法として、やはり増税凍結もしくは見送りの地ならしです。

これについては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【G20大阪サミット】大阪から世界が動く 米中貿易摩擦で歩み寄り焦点 日本、初の議長国―【私の論評】G20前後の安倍総理の意思決定が、安倍政権と国民の運命を左右することになる(゚д゚)!
詳細は、この記事をごらんいただくもとして、以下に増税見送りに関する部分のみ引用します。
経済協力開発機構(OECD)は5月21日、世界全体の実質GDP成長率が2018年から縮小し、19年は3.2%、20年は3.4%との経済見通しを発表しました。日本については、19年と20年のGDP成長率をそれぞれ0.7%、0.6%とし、3月の前回予測から0.1ポイントずつ下方修正しました。米中貿易摩擦の影響が大きく、OECDは「持続可能な成長を取り戻すべく、各国政府は共に行動しなければならない」と強調しました。 
そのような中、日本が初めて議長国を務めるG20サミットが開かれます。日本は議長国として、機動的な財政政策などを各国に呼びかける可能性が高いです。それにもかかわらず、日本のみが増税すれば、日本発の経済不況が世界を覆うことになる可能性を指摘されることにもなりかねません。 
平成28年5月下旬、三重県で開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット、G7)で、安倍首相は「リーマン・ショック級」の危機を強調しながら、増税延期の地ならしを進め、直後に延期を正式表明しました。
伊勢志摩サミットで「リーマン・ショック級」の危機を強調した安倍総理

果たして、G20はG7の再来となるのでしょうか。もし今回増税すれば、日本経済は再びデフレスパイラルの底に沈み、内閣支持率がかなり落ちるのは目に見えています。 
それでも、増税を実施した場合、安倍政権は憲法改正どころではなくなります。それどころか、野党はもとより与党内からも安倍おろしの嵐が吹き荒れレームダックになりかねません。 
まさに、G20前後の安倍総理の意思決定が、安倍政権と国民の運命を左右することになります。
 さて、増税見送りということでは、当初永田町では、衆院解散のタイミングは6月から7月初頭の間に断行して今夏の参院選との同日選に持ち込む案(この場合、投票日は8月4日とするとの説があった)と、今夏は参院選単独で行っておいて今秋から暮れにかけて衆院選を行う「時間差ダブル選挙」とする案がありました。

現状では、衆参同時選挙の芽はなくなってしまったようですが、全くないということでもないと思います。さらに、今秋に増税凍結を公約として衆院選挙という手は未だ否定しきれないところがあると思います。暮ということでは、増税延期には間に合わないので、今秋衆院選は未だにありえる選択肢です。

現在、政争の道具にするには、全く不利で実際他国ではほとんど政争の道具にされていない年金問題で野党は政府を追求しようとしています。この試みは、「もりかけ」問題と同じく野党にとって全く不毛な結果に終わることでしょう。

しかし、現実には与党の支持率は落ちています。とはいいながら、野党に支持率はあがっていません。この状況ですからから秋に衆院選をすることにし、それまでの間に年金問題に関して国民にわかりやすく説明していくことなどの戦略は十分に考えられます。

いずれにしても、伊勢志摩サミット(G7)で、安倍首相は「リーマン・ショック級」の危機を強調しながら、増税延期の地ならしを進めたように、G20でもそれを安倍総理が実行するかどうか、見逃せないところです。

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2019年4月2日火曜日

【新元号】安定的な皇位継承の確保を検討 男系継承を慎重に模索―【私の論評】なぜ皇位は男系によって継承されなければならないのか?


平成最後の一般参賀に臨まれる天皇、皇后両陛下と皇族方=1月2日、宮殿・長和殿

 新元号が「令和(れいわ)」と決まり、皇太子さまが5月1日に新天皇に即位されることで、政府は「そんなに時間を待たないで」(菅義偉(すがよしひで)官房長官)安定的な皇位継承を確保する検討に入る。これまで125代にわたり一度の例外もなく受け継がれてきた皇室の伝統にのっとり、父方の系統に天皇を持つ男系の男子による皇位継承維持を慎重に模索する。

 「(旧11宮家の皇籍離脱は)70年以上前の出来事で、皇籍を離脱された方々は民間人として生活を営んでいる。私自身が(連合国軍総司令部=GHQの)決定を覆していくことは全く考えていない」

 安倍晋三首相は、3月20日の参院財政金融委員会でこう述べた。これが首相が旧宮家の皇族復帰に否定的な見解を示したと報じられたが、首相は周囲に本意をこう漏らす。

 「それは違う。私が言ったのは『旧宮家全部の復帰はない』ということだ」

 また、首相が女性宮家創設に傾いたのではないかとの見方に関しても「意味がない」と否定している。

 そもそも皇室典範は「皇位は男系の男子が継承する」と定めており、女性宮家を創設しても皇位継承資格者は増えないからだ。典範改正で女性宮家の子孫も皇位継承資格を持つようにするというのなら、それは女系継承容認につながり、皇室の伝統の歴史的な大転換になる。

 首相官邸筋は「天皇陛下の周りも、女系天皇をつくろうという気は全くない」と明言し、政府高官もこう指摘する。

 「女性宮家は(女性皇族の)みなさんもそれは避けたいのではないか」

 現在、男系の男子である秋篠宮家の長男、悠仁さまが皇位継承順位3位だが、仮に女系天皇を認めた場合にはどうなるか。現在は継承権のない皇太子さまの長女、愛子さまとの間で「どちらにより正統性があるかが問われ、とんでもない事態になる」(別の政府高官)との懸念もある。

 一方、戦後にGHQの皇室弱体化の意向で皇籍離脱した旧宮家の復帰に関しては、現皇室との血の遠さを強調する意見がある。だが、皇位はこれまで直系ばかりで継承されてきたわけでは決してない。

 「旧皇族から適格者に何人か皇族に復帰してもらい、その方自身には皇位継承権は付与せず、その子供から継承権を持つというのはどうか」

 首相官邸内では、こんなアイデアもささやかれている。(阿比留瑠比)

【私の論評】なぜ皇位は男系によって継承されなければならないのか?

神宮式年遷宮

天皇の皇位がなぜ男系によって継承されてきたのでしょうか。これに答えるのは容易ではありません。そもそも、人々の経験と英知に基づいて成長してきたものは、その存在理由を言語で説明することはできません。

なぜなら、特定の理論に基づいて成立したのではないからです。天皇そのものが理屈で説明できないように、その血統の原理も理屈で説明することはできないのです。

しかし、理論よりも前に、存在する事実があります。男系継承の原理は古から変更されることなく、現在まで貫徹されてきました。これを重く捉えなくてはならないです。

例えば、神宮式年遷宮は、神宮(伊勢神宮)において行われる式年遷宮(定期的に行われる遷宮)です。神宮では、原則として20年ごとに、内宮(皇大神宮)・外宮(豊受大神宮)の二つの正宮の正殿、14の別宮の全ての社殿を造り替えて神座を遷します。

このとき、宝殿外幣殿、鳥居、御垣、御饌殿など計65棟の殿舎のほか、装束・神宝、宇治橋[なども造り替えられます。

記録によれば神宮式年遷宮は、飛鳥時代の天武天皇が定め、持統天皇の治世の690年(持統天皇4年)に第1回が行われました。その後、戦国時代の120年以上に及ぶ中断や幾度かの延期などはあったものの、2013年(平成25年)の第62回式年遷宮まで、およそ1300年にわたって行われています。

このような儀式が、1300年にわたって継承されてきたことに大きな意味と意義があります。これほどの継承が繰り返されてきたことは日本以外に世界に類をみません。これも、継続することに意味があるのです。

同様に、天皇は男系により継承されてきた世界最古の血統であり、これを断絶させることはできないです。

もはや理由などどうでもよいのです。特定の目的のために作られたものよりも、深く、複雑な存在理由が秘められていると考えなくてはいけないのです。

男系継承は女性蔑視の制度ではない

男系継承は男女の性別の問題と勘違いされますが、そうではありません。いうなれば家の領域の問題であり、男女は関係ないのです。男系継承とは、「天皇家の方に天皇になってもらう」ことに尽き、それは天皇家以外の人が天皇になるのを拒否することに他ならないです。

民間であっても、息子の子に家を継がせるのが自然で、娘の子たる外孫に継がせるのは不自然です。愛子内親王殿下の即位までは歴史が許しますが、たとえば鈴木さんとご結婚あそばしたなら、その子は鈴木君であって、天皇家に属する人ではありません。

もし鈴木君が即位すれば、父系を辿っても歴代天皇に行きつくことのない、原理の異なる天皇が成立することになります。

民間ならば、継承者不在でも、外孫を養子にとって家を継がせることもあるでしょう。しかし、天皇はそれをやってはいけないのです。継承者がいなくなる度に養子を取るようなことがあれば、伝統的な血統の原理に基づかない、天皇が成立することになり、それは既に天皇ではないのです。

また、男系継承は女性蔑視の制度だという人がいます。これも大きな間違いです。歴史的に天皇は民間から幾多の嫁を迎えてきました。近代以降でも明治天皇・大正天皇・今上天皇の后はいずれも民間出身であらせられます。

ところが、皇室が民間の男性を皇族にしたことは、かつて只の一度の例もありません。男系継承とは、女性を締め出す制度ではなく、むしろ男性を締め出す制度なのです。民間の女性は皇族との結婚で皇族となる可能性がありますが、民間の男性が皇族になる可能性はありません。

皇室の歴史は、『古事記』『日本書紀』の神話にさかのぼります。初代天皇神武天皇の伝説にさかのぼれば、皇室は公称二千六百年の歴史を誇ります。なぜそれほど皇室は続いてきたのか。神話や伝説の時代から変わらぬ伝統を保持してきたからです。

だから皇室では、先例が吉、新儀は不吉なのです。なぜ? と言われても、そういう世界だからとしか言いようがありません。

そのもっとも重要な伝統は、歴代天皇はすべて父親をたどれば天皇に行きつきます。父親が天皇でなければ、その父親、さらに父親とたどりつけば必ず歴代天皇の誰かにたどりつく。これを男系と言いますが、歴代天皇はすべて男系です。天皇になる資格がある人を皇族と言いますが、二千六百年間、皇族全員が男系です。

女性の皇族も、全員が男系です。つまり父親が天皇・皇族です。しかし、民間人と結婚された女性皇族が、その子供を皇族にした例は一度もありません。


ところで、「愛子さまが天皇になれないのは可哀そう」という主張もあります。皇位の継承は、その星に生まれた者の責務なのであって、あたかも甘い汁を吸うかのような権利などでは毛頭ありません。

皇后陛下が失語症になられたこともありました。しかし、見事に克服あそばし、立派に皇后としてのお役割を全うされていらっしゃいますが、皇后だけでも大変なお役割であって、一人の女性が天皇と皇后の両方のお役割を担われるとしたら、それは無理というべきでしょう。

男系継承の原理は簡単に言語で説明できるものではありませんが、この原理を守ってきた日本が、世界で最も長く王朝を維持し現在に至ることは事実です。皇室はだてに二千年以上も続いてきたわけではないのです。

歴史的な皇室制度の完成度は高く、その原理を変更するには余程慎重になるべきです。今を生きる日本人は、先祖から国体を預かり、子孫に受け継ぐ義務があります。何でも好き勝手に変えてよいということはないのです。

以上のことを考慮すると、冒頭の記事にあるように、「旧皇族から適格者に何人か皇族に復帰してもらい、その方自身には皇位継承権は付与せず、その子供から継承権を持つというのはどうか」という考え方が最も理にかなった方法であると思います。

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2017年9月30日土曜日

小池新党との距離感を模索するにせよ、すべての道は憲法改正に通ずる―【私の論評】希望の党もマスコミも数年後には、民進党のように破棄される?

小池新党との距離感を模索するにせよ、すべての道は憲法改正に通ずる

『三浦瑠麗』

 衆議院が解散されました。解散の噂が立ち始めたころからメディアをにぎわしているのは解散に「大義」があるかということでした。この時期の解散に、党利党略的な意味があることはもちろんそうでしょう。政権の支持率が回復傾向にあり、東京都の小池百合子知事の立ち上げた「希望の党」の準備も整っているようには見えないからです。野党は、「モリ・カケ問題」から逃げるため都合の良い解散であるとして批判しています。

衆院解散を表明した安倍首相の記者会見を伝える街頭テレビ=9月25日、東京・有楽町
 私は少し違う見方をしています。総理の解散権とは、政治のアジェンダセッティング(課題設定)を行う権力であると考えているからです。政治の最大の権力は、政治が答えるべき問いを設定することです。重要なのは問いへの答えではなくて、問いそのものなのです。民主政治においては、正しい問いが設定されさえすれば、一定の範囲内で落としどころが探られるものだからです。

ただ、既存の政治やメディアの中からはどうしても出てきにくい課題というものがあります。例えば、政治に携わる者のほとんどが中高年男性である日本において、子育てに関する問題は長らく家庭内の問題として処理され、政治課題になりにくかった。同様に、安全保障問題を臭いものとして忌避する傾向があり、国防について正面から取り上げる機運にも乏しい時代が続きました。

 時の政権が進めたい政策があれば、総理は国民の信を問うことができるのです。その時々において注目される政治テーマは、与野党の力関係やメディアの傾向によって決まってくるのだけれど、総理にはいったんそれをリセットする権力を付与する。それが、日本の民主主義のルールであり、慣習なのです。

 そうした中で行われた安倍晋三総理の会見は、良い意味でも悪い意味でも自民党の面目躍如でした。看板政策の「人づくり革命」において幼児教育の無償化を前面に出すのは、民進党や日本維新の会の看板政策を横取りしてのことです。経済政策を打ち出す際に、財源の話を持ち出すのも野党を牽制(けんせい)するためです。消費増税分を社会保障の充実に使うということで、財政は悪化します。2020年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は放棄せざるを得ません。そんな中、財政の裏付けのない、バラ色の政策提案がなされないように布石を打っているのです。

もう一つ、北朝鮮危機を前面に出すのは、野党共闘への影響を狙ってのことでしょう。民進党と共産党がスキャンダル追及の局面で協力することと、安全保障上の危機が迫る中で協力することはまったく意味合いが違うからです。当然、与党は愛国心カードを切ってくるでしょう。対応を間違えれば、「政争は水際まで」という民主国家の大原則を破ることになり、国民の信頼を決定的に失うことになるでしょう。

 ただ、解散の一番の目的は他にあると思っています。それは、憲法改正を実現するために公明党に圧力をかけること。言うまでもなく、憲法改正は第1次政権当時から安倍総理およびその周辺の宿願です。ところが、モリ・カケ問題が長引いたことで、永田町の改憲機運は随分としぼんでいました。官邸の中にさえ、政権維持に集中するためには、改憲の可能性を示唆する3分の2の議席は邪魔だと思っている人もいたそうです。

 総理周辺にとって最もいら立たしかったのは、公明党の姿勢だったのではないでしょうか。「衆院選が迫る中で改憲の発議は難しい」とか、「年限を切って改憲論議をすることは適切でない」とか、公明党は明らかに引け腰になっていました。本年5月に総理自らが表明した自衛隊明示の加憲案は、そもそも公明党に配慮してリベラルに歩み寄った穏健なものです。その改憲案からすら逃げるとは何事か、ということでしょう。今般の解散における総理周辺の本音は、9条を中心に据えた改憲案を明示した上で3分の2の議席を更新すること。その事実を公明党に突き付けて、改憲に向けた具体的な手続きを開始することだと思います。

もう一つ重要なのが小池新党の存在です。「希望の党」に対して総理が融和的な姿勢を示しているのも、小池知事が改憲支持の立場を明確にしたからではないでしょうか。「希望の党」はこれまでも存在してきた改革の「スタイル」を追求する党です。「日本新党」や「みんなの党」の系譜に連なります。寄せ集め集団で、たいした政策理念があるようにも見えない政党が、数年後に存続している可能性は限りなく小さいでしょう。

「希望の党」の結成会見に臨む小池百合子代表=9月27日、東京都新宿区
 であるからして、日本政治における中長期的な影響はほとんどないでしょう。ただ、今般の選挙において重要なのは、「希望の党」が自民党の票を食うのか、野党票を減らす方向に行くのかということです。それによって、憲法改正へ向けた具体的な動きが進んでいくかが見えてくるからです。小池知事の発言を見ていると、自公の間にくさびを打ち込む意図が明白であり、興味深い展開となっています。

 今般の選挙を指して、争点に乏しいという意見も聞かれますが、そんなことはありません。公明党に圧力をかけるにせよ、小池新党との距離感を模索するにせよ、全ての判断は改憲との関連性で下されるでしょう。まさに、全ての道は改憲に通じているのです。

【私の論評】希望の党もマスコミも数年後には、民進党のように破棄される?

三浦瑠麗氏
三浦瑠麗氏の、主張する今回の衆院選では「すべての道は憲法改正に通ずる」という主張は正しいと思います。

特に、「政治の最大の権力は、政治が答えるべき問いを設定することです。重要なのは問いへの答えではなくて、問いそのものなのです。民主政治においては、正しい問いが設定されさえすれば、一定の範囲内で落としどころが探られるものだからです」ところは大賛成です。

これは、政治の世界のみならず、マネジメントの世界でも同様です。特に、トップ・マネジメントには良く当てはまります。経営学の大家ドラッカー氏は次のように言っています。
重要なことは、正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである。間違った問いに対する正しい答えほど、危険とはいえないまでも役に立たないものはい。(現代の経営下P226)
ドラッカー氏は次のようにも語っています。
マネジメント、特に大組織のトップマネジメントは,予期せぬ失敗に直面すると,いっそうの検討と分析を指示する。(イノベーションと企業家精神P36)
問題が起きると検討とすぐに、分析を指示し報告書の作成を要求するということは,間違った問いに対する正しい答えです。

正しい問いは、報告書でも犯人探しでもなく、マネジメントが、外へ出て、よく見、よく聞くことです。そうすることによって、はじめて新たな、正しい問いができるようになるのです。
状況からの圧力は、未来よりも過去を、機会よりも危機を、外部より内部を、重大なものよりも切迫したものを優先する。(経営者の条件P149)
まさに、安倍総理は今回の解散で、正しい問いを発したのです。民進党は、正しい問いを発することもできず、今回の解散にうろたえ、結果として、民進党を廃棄する道を選んだのです。

三浦さんの主張で唯一賛同できないのは、「消費増税分を社会保障の充実に使うということで、財政は悪化します。2020年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は放棄せざるを得ません。そんな中、財政の裏付けのない、バラ色の政策提案がなされないように布石を打っているのです」という部分に関しては、賛同できないとこもあります。

それについて、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
民進は共産と共闘するのか 増税凍結提言で維新好機、準備不足が響く小池新党―【私の論評】消費増税凍結が争点となりえない裏事情(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみ引用させていただきます。
まずは、首相の今回の解散決断は、北朝鮮情勢の緊迫化、内閣支持率の好転、上の動画にも掲載されていたように、公明党の来年の池田大作氏生誕90周年に対する配慮など様々な要因が重なったための急ごしらえのものであるということがあります。 
そのため、政治的な駆け引きが必要な消費増税の凍結や再々々延期などは全く無理です。10%の消費増税は、2019年10月に実施されることはすでに法律で決まってることです。これを凍結ないし再々々延期するには法律を修正するか、新しい法律を国会で通す必要があります。 
そのためには、国会で消費税増税に反対する議員が多数派になっていなければなりません。無論、その前に安倍総理は自民党内をまとめる必要があります。
そもそもそのための政治日程など、組まれていませんし、白紙の状態にあると見て間違いないです。ちなみに他の野党・新党に至っては、たとえ言ってみたとしてみても、それを争点にして自党に選挙戦を有利にするまでの準備も何もない状況です。 
そうして、上の読売新聞の記事のプライマリーバランス2020年問題に関しては、安倍総理の単なる口約束のようなものであり、いつでも撤回できるものであり、これは安倍総理による消費税の分配という形を借りた財務省批判と見るのが妥当だと思います。一般の人はもとより、政治家ですらも気づかないでしょうが、財務省の高級官僚たちは気づいていると思います。
私達としては、政治家や一般の人々も含めて、いかに財務省が酷いことをしているのかを訴えていくことと、今回の選挙では、北朝鮮対応を第一に考えるにしても、その中でも経済に関してまともな認識を持っている議員を選ぶことに専念すべきと思います。 
そうして、安倍総理は選挙が終われば、憲法改正は無論のこと、消費税増税阻止に向けて着々と準備を開始すると思います。これは、ポスト安倍の政権運営にも必須です。もし、増税されてしまえば、増税後にはまた日本はデフレスパイラルのどん底に沈み、そのときの政権がいずれの政権であれ、政権運営はかなり困難になるのは目に見えています。
とにかく、準備も整っていない段階で、消費税凍結など口にしても、何の意味も持たないことから、今回の選挙では安倍総理は、増税先送りは争点にせず、財務省がいかにガツガツと金を溜め込んでいるかを批判することにしたと考えられます。ただし、希望の党がこれを争点にし、それが本当に勝敗を分ける争点になりそうになった場合には、「必ずしもあげるとは限らない」などと、安倍総理も消費税凍結を公約に掲げるかもしれません。

ただし、これ以外は、三浦氏の考えは、概ね正しいものと思います。そんなことよりも、もっと重要なのは、やはり三浦氏が主張している、すべての道は憲法改正に通ずるという点です。

自民党が次の選挙で、圧勝すれば「憲法改正」は実行しやすくなります、希望の党が躍進して、自民党が大きく後退したとして、小池氏は改憲支持の立場であることから、これも「憲法改正」から遠ざかることはなく、むしろ近づくことになります。

とにかく、どちらに転んでも、よほどのことがない限り、国政において改憲勢力が最大になる見込みです。今回、希望の党に合流する元民進党の議員らも、内心はどうかは別にして表だって「憲法改正」には反対できません。

これで間違いなく改憲そのものには道が開けるものと思います。マスコミも安倍憎しの一心だけで、単純に希望の党を応援するというわけにもいかなくなりました。そうして、次の段階では、具体的な改憲の内容が議論になるものと思います。

そうして、民進党が消え去ることは確定しました。民進党がなぜ消えざるを得なかったのか、その背景については実は以前このブログに何度か掲載したことがあります。その典型的なもののリンクを以下に掲載します。
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離党を表明したときの長島昭久氏
詳細は、この記事を読んでいただくものとして、以下に民進党が消え去る運命であることを触れた部分だけ以下に引用します。

"
現在の民進党は、今のまま自己変革ができないというのなら破棄すべきです。これについては、経営学の大家ドラッカー氏の言葉を思い出します。

以下にドラッカー氏の『乱気流時代の経営』からの言葉などを掲載します。
長い航海を続けてきた船は、船底に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる。(『乱気流時代の経営』
 企業経営においてはあらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスが、常時、見直されなければなりません。多少の改善ではなく、根本からの見直しが必要です。

なぜなら、あらゆるものが、出来上がった途端に陳腐化を始めているからです。そして、明日を切り開くべき有能な人材がそこに縛り付けられるからです。ドラッカーは、こうした陳腐化を防ぐためには、まず廃棄せよと言います。廃棄せずして、新しいことは始められないのです。

ところが、あまりにわずかの企業しか、昨日を切り捨てていません。そのため、あまりにわずかの企業しか、明日のために必要な人材を手にしていません。

自らが陳腐化させられることを防ぐには、自らのものはすべて自らが陳腐化するしかないのです。そのためには人材がいります。その人材はどこで手に入れるのでしょうか。外から探してくるのでは遅いです。

成長の基盤は変化します。企業にとっては、自らの強みを発揮できる成長分野を探し出し、もはや成果を期待できない分野から人材を引き揚げ、機会のあるところに移すことが必要となります。
乱気流の時代においては、陳腐化が急速に進行する。したがって昨日を組織的に切り捨てるとともに、資源を体系的に集中することが、成長のための戦略の基本となる。(『乱気流時代の経営』)
これは、無論政治や政党の話ではなく、企業経営に関わるものです。しかし、組織ということでは原則は同じです。

政党組織でも、陳腐化してしまったものは破棄しなければならなのです。民進党もこの原則を貫くべきです。民進党にもそうしたことができる人材もいないことはありません。

長島氏や馬淵氏などその筆頭です。しかし、今回は長島氏が離党ということで、民進党は有為な人材を失ってしまいました。

今のままの民進党がこれからも続くというのであれば、国会でも、森友問題など、 もはや成果を期待できない分野に拘泥し、多くの議員が無駄などうでも良い仕事に拘泥するというようなことがこれからも繰り返されます。

そんなことを防ぐためにも、民進党は変わらなければなりません。しかし、それができないというのなら、今の狂った民進党そのものを破棄するしかありません。そうして、それは有権者が判断して実行すべきものです。私には、もはや自己変革のできない民進党には、有権者が引導を渡すべきと思います。
"
現状を見回せば、絶対に憲法改正に反対であるとか、安保法制にも絶対に反対というのでは、とても現在までの変化に対応しているとは言い難いです。彼らは、そのような考えは廃棄し、改憲すならこうすべき、安保はこうすべきと具体的な代案を出すべきでした。

しかし、彼らのやってきたことは、最初からどう考えても筋悪の森友・加計問題での安倍総理への個人攻撃や、与党攻撃です。ドラッカー氏の言葉をかりれば、森・加計問題に資源を体系的に集中し、他をおろそかにしました。

これにばかり拘泥し、いざ安倍総理が解散を口にするとうろたえ、そこに小池新党が旋風を巻き起こすと、それに乗るために、民進党を事実上廃棄するという道を選びました。今のままだと、有権者に破棄されてしまうことを肌で感じ取ったのでしょう。それだけは避けたかったので、希望の党に合流する道を選んだのです。

しかし、陳腐化された思想を持ったままの議員は、小池氏に合流を拒まれるかもしれません。古いものは、人でも、あらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスがいずれ必ず破棄される運命なのです。自ら破棄するか、自らが破棄されるしかないのです。

さて、今後小池氏と、希望の党はどうなるかといえば、やはり、三浦氏の語るように、寄せ集め集団で、たいした政策理念があるようにも見えない希望の党は、数年後には、役立たずとなり、廃棄されることになるのでしょう。

それにしても、民進党は、民主党時代を含めなければ、結党から2年もたっていないではないですか。非常に短命でした。古い体質のマスコミも予想もつかないところから、早期瓦解するかもしれません。数年後には、いくつかの会社の合併話などかもちあがっているかもしれません。

そうして、小池氏としては、そのときには憲法改正など何らかの成果を持って、自民党に返り咲き、総理大臣の座を目指すということかもしれません。あるいは、また新党をたちあげるのでしょうか。あるいは、旋風をこれから起こす新たな政党に移るのでしょうか。

しかし、そのようなことが許されるでしょうか。それほど、政治の世界は甘くはないと思います。

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2017年4月24日月曜日

トランプ大統領に「揺さぶり」? 日本が「米国抜きTPP」模索―【私の論評】TPP11で日本が新たな自由貿易のリーダーになる(゚д゚)!


オバマケア廃止法案の可決に失敗した後、ホワイトハウスで記者会見するトランプ
トランプ米大統領が「離脱」を宣言した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を巡り、日本政府は米国を抜いた11か国での発効「TPP11(イレブン)」を目指す方向にかじを切った。これまでは米国を説得し、翻意するのを待つ構えだったが、アジア太平洋地域の自由貿易を推進する重要性や米国との2国間交渉を有利に進めるうえで、TPPイレブンが得策と判断した模様だ。

TPPは2015年10月、日米やオーストラリアなど12か国が大筋合意し、各国がそれぞれ国内で批准に向けた手続きを進めていた。しかし米大統領に就任したばかりのトランプ氏が2017年1月、離脱の大統領令に署名。TPPは、12か国GDP(GDP)合計の85%を占める6か国以上が批准しなければ発効できない取り決めになっており、約60%を占める米国の離脱で事実上、発効できない状況に陥っていた。

 米国に対する「防波堤」にする狙いも

日本は「市場規模の大きい米国が抜けたTPPは意味がない」との立場から、米国が将来、翻意するのを待って発効を実現したいとの立場だった。しかしTPPは先進国や途上国も含め、知的財産保護など従来の自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)と比べ「画期的なルール作りで合意できた」(経済産業省筋)という自負がある。複数の通商関係者は、世界的に保護主義的な動きが広がる中、日本がTPP発効を目指す姿勢を明確にすることが自由主義を守る立場として重要だと判断したという。

また、TPP11が発効すれば、豪州などは米国より低い関税で牛肉などを日本に輸出でき、米国の農産物の競争力は相対的に低下する。そうなれば米国の農業界は黙っていないはずで、トランプ政権がTPPに戻る可能性も出てくるとの期待もある。

一方、TPPを離脱した米国は今後、日本に対し、2国間のFTA交渉を求めてくるのは必至だ。特に、農業分野で厳しい要求が突きつけられる可能性は高く、TPP11を目指す姿勢を打ち出しておくことで、米国に対する「防波堤」にする狙いもある。

 ベトナムなどは再交渉を求める可能性

ただ、TPP11が実現するか否かには不透明要因も多い。まず、事実上、米国抜きで発効できないとの要件については、11か国の合意で条文から削らなければならない。また、そもそもTPP参加の最大の狙いが米国市場への参入だったベトナムやマレーシアにとって、TPP11は意味がないものに映りかねない。国有企業改革など厳しい条件をのんだベトナムなどは再交渉を求める可能性もある。各国が次々と再交渉を求める事態になれば、まとめるのは至難の業ということになる。

TPP11か国の中でメキシコやカナダは米国との北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を控え、どこまで米国抜きのTPP発効に積極的になれるかも見通せない。

2017年5月後半にはベトナムで閣僚会合が開かれる。麻生太郎・副総理兼財務相は4月19日、ニューヨークでの講演で、「(閣僚会合で)米国なしで11か国だけでやろうという話が出る」と言明しており、各国の動向が注目される。
【私の論評】TPP11で日本が新たな自由貿易のリーダーになる(゚д゚)!

トランプ大統領は、TPPの離脱を決定しました。その一方米国内では、選挙キャンペーン中から公約の最も大きな柱としてきた、オバマケア廃止法案の可決には失敗しました。

このブログで何度か掲載してきたように、三権分立が厳密に適用されていることもあり、アメリカの大統領は平時には世界で最も権限のない権力者なのです。だからこそ、オバマケアの廃止法案の可決に失敗したのです。

日本国内では、米大統領というとかなり大きな権限を持っていて、何でも決めることができると誤解している人もいます。しかし、それは明らかな間違いです。こういう人から見ると、なぜトランプ大統領が、オバマケア廃止法案の可決に失敗したのか理解できないものと思います。オバマケア廃案に関しては、共和党の中にも反対する人々が多数いたので、廃案にはできなかったのです。

TPPに関しては、共和党の中にも反対者はいたのですが、圧倒的に多数が反対だったので、トランプ大統領がTPP離脱の大統領令を発して、それに反対したとしても、議会で勝つ見込みがないので、すんなりと通ってしまったということです。

こういうことを考えると、TPPに関しても、TPP11が発行すれば、米国が後から入るという可能性もあながち全く否定はできないです。

メキシコのグアハルド経済相
TPP11に関して、メキシコのグアハルド経済相は18日、環太平洋連携協定(TPP)から米国が離脱した場合でも、合意文書の文言を修正することで、発効は可能との見方を示しました。

日米の主導でアジア太平洋の12カ国が大筋合意に至ったTPPの合意文書には、米国抜きでは発効しないとする文言が含まれています。

グアハルド経済相は、日本がリーダーシップを発揮すれば、その文言を含む条項は「問題なく」削除でき、メキシコなど他の参加国は米国抜きでTPPを発効させることのメリットとデメリットを評価することが可能だと発言。米国を除く11カ国でTPPを推進させる考えを示しました。

トランプ米大統領は今年1月の就任直後、TPPから正式に離脱する大統領令に署名しました。

TPP参加国は、ベトナムで今年11月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で貿易に関する踏み込んだ協議を行う予定。閣僚らは5月に準備会合を開始します。

トランプ大統領は18日、米国人の雇用と、政府調達における米国製品の購入を促すことを目的とした大統領令に署名しました。

グアハルド経済相はこの大統領令について、影響はまだ明らかではないですが、北米自由貿易協定(NAFTA)に違反する可能性があると指摘しました。



TPPというと、日本ではかつて、民主党政権時代に「TPPは亡国の協定」とか、「国民皆保険がなくなる」とか、「日本の農業が壊滅する!」とか、面白いことを言って拍手喝さいを受けた人たちがいます。これを、今ではTPP芸人と予備揶揄する人もいます。

と安倍政権が誕生し、2013年にTPPへの参加を表明すると、この芸人たちは「表明した瞬間にすべてはアメリカの思い通り決まっている!」などと言っていました。しかし、残念ながら一発芸人の命は短いものです。

トランプ氏が「TPPから離脱」を宣言したことにより、TPP芸人バブルは完全に弾けてしまったようです。

そうして、もはや「死に体」とも見られているTPPですが、いつか生き返るかもしれない。そんな望みにかけているのが今の日本政府です。しかし、そのような日はそもそもやって来るのでしょうか。

トランプ大統領がーが翻意するわけがないというのが大半の見方です。万が一、米国が対応を変えるにしても、トランプ政権が続く最低4年間は無理というのが、大方の見方です。

しかし、そんな中で、TPP11への期待が高まっています。TPP11は日本にとっても望ましい結果を招くことになります。まず、米国の農産物が日本市場から駆逐されることになります。TPPが発効すれば、加盟国が日本に牛肉を輸出する際の関税は、現在の38・5%から将来は9%になります。

米国が非加盟なら関税は高いままですが、米国のライバル、オーストラリアやカナダが加盟すれば9%になります。他にも牛肉を生産する国はあります。日本の消費者は豪州牛やカナダ牛や他国の牛肉を安く買えるし選択の幅も広がります、米国牛は競争力を失います。米国は世界有数の輸出量を誇る小麦でも不利になります。

そうなれば米農業界は必ずトランプ氏を突き上げることになります。TPP11を使って米国を不利な状況に追い込み、自ら『加入させてほしい』と言わせるように持って行けば良いのです。

もし日本などがTPP11を発効させた後、米国が加入を求めれば、米国は日本など既加盟国の要求に応じねばならなくなります。米国が日本に輸出する自動車関税はゼロですが、日本が米国に輸出する際は現在2・5%です。TPP交渉では、2・5%を25年もかけて段階的に撤廃することでしかまとまらなかったのですが、今度は即時撤廃も夢ではありません。

中国が世界貿易機関(WTO)に加盟する際、中国の交渉担当者が「私たちは一切要求できないのに、なぜ既加盟国は一方的に要求するんだ」と怒ったら、米国の担当者は「それが加入交渉というものだ」と答えたといいます。日本も米国に同じことを言えば良いのです。まさに、米国に対する上手からの交渉ができる千載一遇のチャンスです。
TPP反対派が問題とした内容。今では、これはすべてデマであったことが発覚している
米国抜きでも発効する意味は大いにあります。あそこまで自由化の高い国際ルール作りは前例がなく、他の交渉に与える影響は大きいです。それに、発効しなければ各国の自由化も全部元に戻ってしまうことになります。

TPPは成長市場であるアジア地域で遅れていた知的財産保護などのルールを作りました。社会主義国のベトナムでさえ国有企業改革を受け入れました。TPPが棚上げとなれば各国の国内改革の動きも止まってしまうことになるのです。

TPP合意を機に、日本の地方の中小企業や農業関係者の海外市場への関心は高まっていました。電子商取引の信頼性を確保するルールなどは中小企業などの海外展開を後押しするものです。日の目を見ないで放置しておくのは、本当に勿体無いです。

さて、最後にTPP11が発効して、それに対して中国が入りたいという要望を持つことは十分に考えられます。このような要望が出てきた場合、米国は焦るものと思います。これによって米国のTPP加入を促すという手も考えられます。

ただし、中国はすぐにTPPに加入させるわけにはいかないでしょう。中国が加入するには、現状のように国内でのブラックな産業構造を転換させなければ、それこそトランプ氏が主張するようにブラック産業によって虐げられた労働者の労働による不当に安い製品が米国に輸入されているように、TPP加盟国に輸入されることとなり、そもそも自由貿易など成り立たなくなります。

このあたりを理解すれば、トランプ氏も意外とTPPに入ることを決心するかもしれません。そもそも、政治家としての経験のないトランプ大統領は、これを理解していないだけなのかもしれません。しかし、理解して、それが米国の利益にもなると理解すれば、意外とすんなり態度を改めるかもしれません。

やはり、中国もTPPに参加したいというのなら、社会主義国のベトナムでさえ国有企業改革を受け入れたのと同じように、国内の民主化、政治と経済の分離、法治国家化を進めなければならないでしょう。

それによって、中国自体の構造改革が進むことになります。こうして、TPPにより、中国の体制を変えることにもつなげることも可能です。

このような可能性を見ることができなかったトランプ大統領は後に後悔の臍を噛むことになります。

このようなことを掲載すると、「いやそのようなことはない。日本は米国の属国だから、米国の言いなりになるしかないし、そもそもTTPに米国が入ることもない」などと言う人もいるかもしれません。しかし、そのような人は、TTP芸人らの末路はどうなったのかと、言い返してやりたいです。

いずれにしても、上記で示したようなことを前提に、安倍総理にはまずはTPP11発効に向けて頑張って頂きたいものです。

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