2016年4月25日月曜日

【湯浅博の世界読解】震災の弱みにつけ込む国々 国際政治の過酷な現実 ―【私の論評】緊急事態条項なしに、首都直下型地震や尖閣侵攻は対応できない(゚д゚)!


平成28年4月14日、総理大臣官邸で開催された「平成28年(2016年)熊本県
熊本地方を震源とする地震非常災害対策本部会議」(第1回)にて挨拶をする安倍総理
安倍晋三内閣の危機対処は、立ち上がりが早かった。熊本県を襲った大地震発生から5分後には官邸対策室を設置し、被害状況の把握に努めた。実はこのとき、政府は東シナ海を遊弋(ゆうよく)する中国公船の動向をにらみながら、被災地の熊本に自衛隊員2万人の派遣を決めなければならなかった。

この日午前、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺の領海を中国海警局の船3隻が侵犯していたからである。海警の3隻は午前中、2時間近く領海内をうろつき、西南西の方向へ出ていった。この間、海上保安庁の巡視船は海警が尖閣に近づかないよう警戒し、海上自衛隊の艦船も距離をおいて警戒していた。その夜の大地震発生であった。

海警の3隻が去った後も、政府・自衛隊は依然として南西方面に気を配らなければならなかった。

2011年3月、未曽有の東日本大震災の際に米軍はいち早く2万人動員の「トモダチ作戦」を展開してくれた。まもなく、中国からも15人の救援隊が送られてきたが、1週間して帰国した。入れ替わりに、軍艦を尖閣諸島に送りつけてきたのである。

当時、菅直人内閣の動きに「日本は御しやすい」と判断したのだろうか。ロシアの空軍機は、「放射能測定」を理由に日本の領空ぎりぎりを飛び、中国の艦載ヘリも尖閣沖の海自艦に異常接近して、結果的に復旧の邪魔をした。

香港の「東方日報」は地震発生から約1週間後、尖閣を奪取すべきだと指摘して、「日本が大災害で混乱しているこの機会が絶好のチャンスである」とホンネを吐いていた。

内紛や天災で国が乱れると、そのスキを突いて敵対勢力がなだれ込むのは国際政治の過酷な現実である。腹に一物ある周辺国は、危機に陥ったときの日本のクライシス・マネジメント能力をじっと見ている。それが有事にも直結するからだろう。

過去にも大正12年9月の関東大震災の際、救援の外国勢と裏では虚々実々の駆け引きをしていた。

日本海軍は地震発生とともに、国内3つの鎮守府から艦艇が急行したほか、連合艦隊が東京湾に向かった。このとき、黄海にあった米国の太平洋艦隊も震災4日後に8隻が東京湾入りして、その早さに海軍当局者は度肝を抜かれた。

米軍の救援部隊の中には情報要員が紛れ込んでいた。驚いたことに、この時の震災と火災の関連調査が、後の日本本土空襲作戦の立案の際、焼夷(しょうい)弾使用の参考にされた(防衛研究所ニュース通算86号)。

東日本大震災から早くも5年が経過した。民主党から自民党政権にかわり、日本の危機対応能力は格段に向上している。制度面では、国家安全保障会議(NSC)を設置して効率的な意思決定システムを整えた。運用面でも、中国による領海侵入が繰り返されても、日本はそのつど押し返している。

安倍首相は集団的自衛権の一部行使が可能な安保法制を整備し、同盟国とは日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定し、いざというときの役割分担も整備した。

それでも足りないのは、予想される首都直下型大地震のような「国家存亡にかかわる事態」への対応である。現行憲法にない「緊急事態条項」を早急に補い、万全の態勢を組むのが国民への責務であろう。(東京特派員)

【私の論評】緊急事態条項なしに、首都直下型地震や尖閣侵攻は対応できない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事では、14日午前、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺の領海を中国海警局の船3隻が侵犯していたとあります。

これについては、このブログでも過去に掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国紙が社説で「尖閣に自衛隊派遣なら軍艦出動」「数、日本の比ではない」―【私の論評】中国が一番恐れるのは、日本の武力によって尖閣付近から中国の勢力が排除されること(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より熊本震災以降に中国の海警の艦船が尖閣付近を航行していた内容を以下にコピペします。この記事では、海上保安庁が装備を拡充して、尖閣付近の先住の部隊を創設したことも掲載しまた。
今日本は熊本地震で対応中です。ブログ冒頭の、環球時報の記事(ブログ管理人注:尖閣に自衛隊派遣な中国は軍艦を出動)は13日に公表されものであり、地震発生の前の日であり、特に地震を意識したものではありません。 
しかしながら、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海外側にある接続水域で16日、中国海警局の船3隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認しています。中国当局の船が尖閣周辺で確認されたのは3日連続です。これは、熊本の地震の後です。中国側としては、地震の影響があるかどうかを見極めてるのだと思います。まるで火事場泥棒のような、行動です。
第11管区海上保安本部(那覇)によると、3隻は海警2101、海警2307、機関砲のようなものを搭載した海警31241だそうです。領海に近づかないよう巡視船が警告していました。
「海警31241」※37ミリ連想機関砲4門搭載
この記事では、この三隻の中国公船は、尖閣諸島の領海外の接続水域を航行しているのが発見されたという内容ですが、ブログ冒頭の記事では、「尖閣諸島周辺の領海を中国海警局の船3隻が侵犯していたからである。海警の3隻は14日午前中、2時間近く領海内をうろつき、西南西の方向へ出ていった」とあります。 

熊本地震が発生したのは、4月14日21時26分ですから、この時点ではまだ地震は発生はしてませんでしたが、それにしても、確かにこのようなことがあれば、官邸としても神経を尖らせたものと思います。

それにしても、この記事で領海外を航行という内容ですか、ブログ冒頭の記事では、領海を侵犯としています。一体どちらが正しいのかと疑問に感じたので、サイトを調べてみました。

共同通信の報道によりますと、熊本で震度7の地震が起きる半日前の14日午前10時10分ごろ、中国の海警局所属の艦艇3隻が日本の領海を侵犯していたとありました。これは、今年に入って10日目のことだそうです。。

尖閣の周辺を1時間半にわたって「領海侵犯」していたのです。3隻の艦艇は海警2101、海警2307、海警31241です。 

このうち、「海警31241」は元々軍艦であることが問題視されています。これは、1990年代初頭に就役したジャンウェイ型フリゲート艦を改造して造られたものです。

以上のことから、14日は中国の海警は領海侵犯をしていました。その後、中国海警は15日、16日にも尖閣諸島の付近に姿を現したのですが、このときは領海侵犯はせず、接続領域を航行していたということのようです。

そうして、この海域では海上自衛隊の艦船も出動していて、距離をおいて警戒をしていたということです。海上自衛隊の艦船とはいっても、いろいろ種類がありますが、どの艦船が出ていたかまでは明らかにはされていないようです。

いずにせよ、中国側としては震災発生後にも、海警を派遣して日本側の様子を伺っていたということです。そうして、日本国内では、14日地震の前に、中国の艦船が領海侵犯をしていたということが、ほとんど報道されていません。

地震報道で、このようなことはかき消されたような形になっています。

震災とは、戦争ではありませんが、日本の国土が甚大な被害を受けるということでは、似ています。いずれの場合も、緊急事態であり、日本の危機管理能力が問われることには変わりありません。

震災での周辺諸国の動きというと、ブログ冒頭の記事にも出ていましたが、やはり東日本大震災の時を思い出します。

以下に、佐藤優氏の東日本震災当時のロシアによる挑発に関する記事を引用します。

"
【佐藤優の眼光紙背】東日本大震災とロシア


国家は本質において利己的な存在だ。東日本大震災で世界各国が日本を支援している。しかし、それと同時に被災者救済と福島第一原発の危機が同時進行している状況で、日本の統治能力が弱体化しているか否かを各国は探ろうとしている。特に露骨な動きを示しているのがロシアだ。3月21日付読売新聞電子版はこう報じた。
露戦闘機、日本領空接近…空自機スクランブル 
 防衛省は21日、日本海を飛行していたロシアの戦闘機スホイ27など2機が、日本領空に侵入する可能性があったとして、航空自衛隊の戦闘機を緊急発進(スクランブル)させたと発表した。 
 スホイ27は一時、領空の約60キロ手前まで接近したが、その後、両機とも北方に飛び去った。同省によると、ロシアの戦闘機に対するスクランブルは極めて異例。同省でロシア軍の目的などについて分析している。
ロシアの戦闘機スホイ27
  震災復興のため自衛隊の10万人動員が行われている状況で、日本の防空体制についてロシアがチェックしたのである。友好国ならば決して行わないことである。本件について日本政府は、「あなたの国は隣国が災害で危機に瀕しているときにこういうことを行うのか。こういう行為が日本の感情に与える影響を計算しているのか」と不快感を表明すべきだ。それとともにマスメディアも「いったいロシアは何を考えているのだ」と本件をとりあげ、ロシアに対して厳しい論調を展開して欲しい。

  東日本大震災後、ロシアでは対日政策を巡って融和派と強硬派の対立が生じている。融和派は、チェルノブイリ原発事故で被災したロシアがもつノウハウを積極的に日本に提供すべきと考える。それとともに日本とのエネルギー協力を進めるべきと考える。これに対して強硬派は、極東において日本に対するロシアの外交的、軍事的、経済的優位性を確保しようとしている。ロシア世論は東日本大震災後、日本に対する同情が増している。日本外務省、特に在ロシア日本大使館は、ロシア内部の事情をよく調べた上で、対日強硬論を封じ込め、対日融和論者の力が強くなる方向でロビー活動を展開しなくてはならない。

  日本海におけるロシア空軍の挑発に対しては防衛省だけでなく外務省も毅然と反応しなくてはならない。(2010年3月22日脱稿)

"

前回の、東日本大震災や、今回の熊本震災も、日本の中枢がある首都からは遠いところの震災でしたから、日本の中枢が麻痺するということはありませんでした。

しかし、ブログ冒頭の記事にもあるように、首都直下型大地震のような「国家存亡にかかわる事態」への対応はまだ不十分であり、現行憲法では「緊急事態条項」でさえ定められていません。現憲法は、あくまで、平時の日本を想定して、定められています。

しかし、日本が今後もいかなる戦争をしないにしても、東日本震災や熊本震災で明らかになったように、このような大災害が首都を直撃するような「緊急事態」は十分に想定できます。

平成23年3月11日の東日本大震災では巨大地震と大津波さらに原発事故に見舞われたが、民主党政権の対応はきわめて問題の多いものでした。
緊急災害対策本部の会議であいさつする菅首相。
左は枝野官房長官
=2011年3月15日、首相官邸
菅内閣は、次々と「本部」や「会議」を設置しましたが、それぞれの権限は曖昧な上、指揮系統は混乱し、結局、有効な対策も効果的な措置もとることができませんでした。
災害対策基本法では、「非常災害が発生し、その災害が国の経済や公共の福祉に重大な影響を及ぼすような場合」には、「災害緊急事態」を布告できると定めている(105条)。そして、この「災害緊急事態」が布告されると、政府は「緊急政令」を制定し、「生活必需物資の統制や価格統制、さらに金銭債務の支払い猶予」を行ったりすることができます(109条1項)。

にもかかわらず、菅内閣は「災害緊急事態の布告」を行わず、「緊急政令」も制定しませんでした。。そして、「生活必需物資の統制など必要なかった」とうそぶきました。実際には、震災直後に、現地ではガソリンが不足し、被災者や水・食糧などの生活必需物資、医薬品などが輸送できないという事態が発生していました。これが原因で、助かったかもしれない多くの命が失われていまする。明らかに、「物資の統制」は必要だったのです。
原発訪問で現場の混乱を招いた菅総理
にもかかわらず「物資の統制」を行わなかった理由について、官僚は「国民の権利義務を大きく規制する非常に強い措置であり、適切な判断が必要」であったと答弁しています。

結局「憲法で保障された国民の権利や自由―経済活動の自由―をそう簡単に制限するわけにはいかない」ということです。法律では明確に「権利・自由の制限」が認められているにもかわらず、憲法に根拠規定が存在しないため、そう簡単に権利や自由の制限を行うことなどできない、というのです。

ガレキの処理についてさえ、憲法の保障する「財産権」が問題となりました。流れ着いた家財や車等のガレキを処理し、緊急道路を開通させようとすると、「持ち主の了解なしに処分するのは財産権の侵害であり、憲法違反だ」といった声が上がり、中々処分が出来なかった自治体もいくつかありました。これも憲法に根拠規定がないため、迅速な処理が出来ず、二次被害をもたらした例です。
大規模震災などあった場合には、日本の対応は、世界が注視するところとなり、特にロシア、中国、北朝鮮などの近隣諸国は、日本に付けいる隙がないかどうか探りを入れるのは、当然のことです。日本が弱ったとみるなり、中国は尖閣を急襲するかもしれません。最近は北方領土に関しては、ロシアの経済力が弱り交渉のし易い条件がいろいろと整っていましたが、日本が弱みをみせれば、振り出しに戻すかもしれません。北朝鮮だって、何をやらかすかわかりません。
だとすれば、やはり抜本的な解決のためには、憲法の中に緊急時のための規定をしっかりと定めておく必要があるはずです。これ抜きに日本の大規模災害対応や安全保障は語ることはできません。
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