2017年8月6日日曜日

07年追加利上げで「逆噴射」… いまも日銀で尾を引く潜在成長率の“間違った前提”―【私の論評】モノを知らないということは本当に恐ろしいことだ(゚д゚)!

07年追加利上げで「逆噴射」… いまも日銀で尾を引く潜在成長率の“間違った前提”

 日銀は、2007年1~6月の金融政策決定会合の議事録を公表した。追加利上げをめぐる議論やサブプライムローン問題への認識がどうだったのか注目されたが、議事録から何が読み解けるだろうか。

 筆者にとって、10年前の日銀議事録はきわめて興味深い。06年3月、日銀は量的緩和を解除した。筆者は当時、総務大臣補佐官を務めていたが、「消費者物価統計が安定的にプラスになっている」という日銀の主張に対し、「消費者物価統計には上方バイアスがありプラスではない」と主張していた。そのため、06年3月時点では日銀が量的緩和解除することに反対だった。

竹中平蔵氏
 この主張は、当時の竹中平蔵総務相と中川秀直政調会長らには賛同してもらったが、与謝野馨経済財政担当相らが強く反対し、結局政府は何もアクションをとらずに、06年3月、日銀は量的緩和解除した。

中川秀直氏
 筆者は当時、官房長官だった安倍晋三氏に「この量的緩和解除により半年から1年後に景気が悪くなる」と話した。結果として、筆者の主張が正しく、安倍首相は国会でも06年3月の量的緩和解除に懐疑的な意見を述べており、それがアベノミクスの金融緩和につながっている。

官房長官時代の安倍晋三氏
 そして日銀は06年7月に無担保コールレート(オーバーナイト物)について、0%から0・25%に、07年2月に0・25%から0・5%へと利上げし、さらなる金融引き締めを行った。

 06年7月の利上げは全員一致であったが、07年2月には岩田一政副総裁が反対した。副総裁は総裁を補佐する立場であり、利上げは決定会合議長、つまり総裁の提案なので、かなり異例の事態だった。

 07年2月の金融政策決定会合の議事録をみると、岩田副総裁の苦悩が読み取れる。岩田副総裁と他の委員の意見の差は、物価の将来見通しである。岩田副総裁は物価上昇率の先行きに不透明感が強いことを強調したが、他の委員は楽観的だった。

 物価については、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比でみて、06年7~12月は小幅プラス(0・1~0・3%)であったが、07年1~6月は小幅マイナス(▲0・3~0%)だったので、岩田副総裁の懸念はもっともだった。

 その根拠として、岩田副総裁は、潜在成長率を1・7%としていることを主張していた。これは驚きである。日銀は最近まで0%台半ばと言っている。4月には上昇修正し0%台後半と言っているようだが、それでも07年当時に、執行部である副総裁が1・7%と言ったのはびっくりした。もちろん当時の議事要旨にはまったく書かれていない。

 筆者としては、この岩田副総裁の前提はまともであり、その後の物価上昇率の推移を説明できると思う。しかし、日銀としてはこの意見を取り入れることはできなかった。

 潜在GDPの天井が低いという日銀の前提が、リーマン・ショックでも他の先進国でも巨額な量的緩和が採用されたのに日銀がやらなかった遠因になったといえるだろう。そして、いまでもそれを引きずっている。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】モノを知らないということは本当に恐ろしいことだ(゚д゚)!

上の記事では、当事の岩田総裁が潜在成長率を1.7%としていたことが掲載されていますが、当事から本当にこのくらい成長していれば、デフレなどにはならなかったはずです。

にもかかわらず、本来緩和政策をすべきときに、利上げという金融引締めを実行してしまったことが、日本経済の転落のはじまりです。

さて、現在の日銀はどうかいとえば、やはりまともな経済理論を忘れているようです。そうして、日銀は政策に掲げているインフレ率の2%上昇の達成時期を「'19年ごろ」と1年先延ばしにしました。

日銀は消費拡大を「緩やかに進んでいる」とポジティブに捉えていますが、物価目標はすでに、'13年の導入決定からなかなか達成できていないことから、これ以上目標を掲げ続けることに意味があるのかと疑問を呈する向きも多いです。果たして「2%」という数字目標、そして今回の達成延期にはどのような意味があるのでしょうか。

そもそも、金融政策の究極的な目標は何なのでしょうか。それは「物価の安定」ではなく、「雇用の確保」を達成することです。経済理論では、インフレ率と失業率は「逆相関」の関係にあります。インフレ率が高ければ失業率は低く、逆にインフレ率が低ければ失業率が高くなるのです。これは、フィリップス曲線としてこのブログでも過去に何度か掲載してきました。

しかし、インフレ率がいくら上がっても失業率がほとんど下がらなくなる「限界」がこの逆相関にはあります。経済政策を行っても失業率の改善に効果がなければ意味がないです。

インフレ率の上限を定めているのは、失業率を無理やり下げるために極端な金融政策を実施しようとすることを自制させるためでもあります。

安倍政権の経済政策によって、現在就業者数は200万人程度上昇し、失業率は3%程度まで改善しています。

ここで重要なのは、なかなかインフレ率が上がらなくても、失業率が低下すれば金融政策の目的は達成されているということです。

日銀はあまりこのような説明をしない。というのは、日銀自身「金融政策=雇用政策」という意識が欠けていたからだでしょう。特に、民主党政権時代に任命された総裁、副総裁、政策委員会審議委員にはこのような成果基準を念頭に置かない人がほとんどでした。

しかし、おそらく今の日銀は構造失業率を「2%台半ば」と考えを改めているはずです。そして、完全雇用を達成するためには、金融緩和は継続すべきだと判断した結果が今回の目標達成の延期です。

インフレ率上昇の達成時期を'19年としたのは、裏を返せば少なくともあと2年は金融緩和を続けるということです。それと同時に、失業率を「2%台半ば」まで下げていくとの宣言でもあるのです。

たしかに金融政策は「物価の安定」を名目として実施されることが多く、今回の日銀のインフレ目標も例に漏れないです。ただし、「物価の安定」は雇用が確保されてこそ成り立つものです。

日銀もそのことに気づいて方針転換を図っているのですから、雇用の確保のために金融緩和を続けると説明したほうが国民に対して説得力もあるはずだし、これは報道にも同様のことがいえます。メディアにはもっと金融政策のリテラシーを持ってもらいたいです。

そうして、無論のこと、政治家などにもリテラシー持ってもらいたいものです。ブログ冒頭の記事で、高橋洋一氏が総務大臣補佐官を務めていた当事、「消費者物価統計が安定的にプラスになっている」という日銀の主張に対し、「消費者物価統計には上方バイアスがありプラスではない」と主張していたそうで、そのため、06年3月時点では日銀が量的緩和解除することに反対していたとあります。

そうして、この主張は、当時の竹中平蔵総務相と中川秀直政調会長には理解していただいたとあります。

中川秀直氏といえば、ご存知現在週刊新潮の女性問題スクープによって辞任に追い込まれた中川俊直の父親です。中川秀直も女性スキャンダル等にまみれた政治家でした。

中川俊直氏の女性スキャンダルを報道した週刊新潮の紙面
何を隠そう第66代内閣官房長官を辞任したのは、それが理由なのです。

2000年にゴシップ雑誌に中川秀直は愛人とともに一緒に撮影された写真がスクープとして掲載されました。

また愛人と過ごしている時のビデオや音声テープまでも流出したと言われていました。それによると中川秀直と思われる人物が愛人の女性に、警察情報を垂れ流していたのです。

この問題は国会で取り上げられて、厳しく詰問されるものの、中川秀直氏は否定していました。

しかし、2000年10月27日に音声テープの声の主が自分であると認め、これらの騒動の責任をとって内閣官房長官を辞任したのです。

中川秀直氏の不倫を伝える当事の週刊誌の紙面
中川秀直氏は、このようなスキャンダルにまみれた政治家ではありましたが、経済政策にはある程度まともな見識をもちあわせていました。中川秀直氏は、上げ潮派とも呼ばれていました。

上げ潮派(あげしおは)とは、経済と財政の関係において、財政(国家)による、経済(市場)への介入を少なくすることによって経済を成長させ、成長率が上がる事で税収が自然増となり、消費税の税率を上げなくても財政が再建されるとする立場を指します。

2006年、小泉政権の下、内閣府特命担当大臣(金融・経済財政政策担当)与謝野馨を中心とする経済財政諮問会議は、『「歳出・歳入一体改革」中間とりまとめ』と『経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006』を発表しました。これらの文書では、2011年度までの基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目標として掲げており、歳出・歳入の一体改革が提唱されました。

上げ潮派は、増税を先送りし金融緩和による景気刺激策や、大胆なイノベーションなどにより経済成長が達成されることで、税収が自然増となりプライマリーバランスの黒字化が達成できると主張していました。

経済学者の高橋洋一は「上げ潮派」は、自身、中川秀直、竹中平蔵の3人しかいないと明言しています。当事は残念ながら、安倍晋三氏は未だ金融政策などを理解していると高橋洋一氏は見ていなかったのだと思います。

しかし、安倍総理は第一次安倍内閣が崩壊してから、真摯に反省をして、やはりまともな経済対策の重要性を確信したのでしょう。

経済学者の田中秀臣氏は「『上げ潮派』はサプライサイド経済学だけでなく、その正反対の立ち位置と言えるオールド・ケインジアンのローレンス・クラインに理論的根拠を策定してもらっている」と指摘しています(田中秀臣 『雇用大崩壊 失業率10%時代の到来』 NHK出版〈生活人新書〉、2009年、123頁)。

田中氏は「『上げ潮派』の目的は『小さな政府』の実現であり、デフレ脱却が目的ではなく、『小さな政府』達成のための一手段でしかなかったところが、この政治集団の限界であった」と指摘しています。確かに『上げ潮派』の主張と一致する、いわゆる『小さな政府』を実行するため、何もかも民営化して、たとえば「株式会社大学」を設立するような試みはほとんど全部失敗しています。

現在まともに残っている株式会社大学は、4つです。その4つもかなり機能を限定しています。
LEC東京リーガルマインド大学院大学 (2004年 株式会社東京リーガルマインド) - 「LEC東京リーガルマインド大学」として設立されたが、2013年に学部を廃止し、大学院のみを存続させ、現大学名に改称。 
デジタルハリウッド大学 (2005年 デジタルハリウッド株式会社) - 大学院のみの「デジタルハリウッド大学院大学」として設立。その後、学部を設置してデジタルハリウッド大学に改称。 
ビジネス・ブレークスルー大学 (2005年 ・2010年 株式会社ビジネス・ブレークスルー) - 大学院のみの「ビジネス・ブレークスルー大学院大学」として設立。その後、学部を設置してビジネス・ブレークスルー大学に改称。 
サイバー大学 (2007年 株式会社サイバーユニバーシティ株式会社) - ソフトバンク株式会社系列。なお本学は、全講義ともにインターネット配信形式となっており、スクーリングは一切ない。
そういった意味では、高橋洋一氏はデフレ脱却を目的としていましたから、厳密な意味では上げ潮派ではなかったといえます。そうして、その後リフレ派と呼ばれる人々が出てきて、まともな財政政策と金融政策を実行すべきことを主張しました。

しかし、いずれにせよ、当事の上げ潮派の考え方が、日銀の政策などにとりいれられていて今日に至っていれば、日本は早期にデフレから脱却できていた可能性がかなり高いです。しかし、中川秀直氏がスキャンダルに塗れて、辞任してしまうようでは、それが叶わなかったのも無理はありません。

いずれにせよ、政治家にはもっと財政政策や金融政策のリテラシーを持ってもらいたいです。現在のように未だに政治家のほとんどがリテラシーを持っていない状況では、安倍内閣が終焉を迎えれば、自民党の終焉というだけではなく、その後どの党が政権の座につこうと、超短期政権で終わり、日本は混乱します。

これに関しては、日本以外の国の人々と日本経済に関して、議論をしていると良く理解できます。多くの外国人には「何でここで量的緩和解除するのか」「金融緩和なしで財政出動して、製造業を見殺しにするのか」など日本はなぜ愚かな経済対策をやるのかといわれることがしばしばあり、何とも情けない限りです。

さらに最近では、戦後初めてといっても良いくらいの、まともな金融政策を実行する安倍政権を倒閣する動きが顕著になっており、もしそれが成功したら、政治家はもとより官僚も、マスコミも、日本はとんでもないどん底に陥ることを全く理解していないようです。

いずれ日本は、また雇用もGDPもどん底に落ちて、その後ようやっと、まともな金融政策や財政政策が重要だということに気づくのでしょうか。いや、それにさえ気付かず、どん底まで真っ逆さまに落ちていくのでしょうか。

本当に恐ろしいことです。モノを知らないということは本当に恐ろしいです。

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