2017年8月19日土曜日

【日本の解き方】景気拡大による人手不足、苦境に陥るのはブラック企業 労働者には賃上げの好機―【私の論評】長期と短期でみた雇用対策のありかた(゚д゚)!

【日本の解き方】景気拡大による人手不足、苦境に陥るのはブラック企業 労働者には賃上げの好機

このところの人手不足を深刻だと感じ、景気への悪影響を懸念する企業も少なくないようだ。ただ、人手不足は労働者や景気にとって本当に問題なのか。そして人手不足を解消するにはどのような方法があるのか。

 産経新聞社が7月下旬から8月上旬にかけて主要企業121社を対象に実施したアンケートによれば、4割近く(無回答を除く)の企業が人手不足を感じているという。人手不足は商機を逃す要因にもなりかねず、景気に悪影響を与えるとの懸念も6割に上った。

 これは、企業側からみた話である以上、当然ともいえる。企業にとって人手不足は、人件費を増やすコストアップ要因になるし、もし人手不足に対応できなければ企業の死活問題にもなる。

 ただし、人手不足になる要因は何かと言えば、景気拡大を受けた仕事の増加である。しかも賃金の上昇で対応するとしても、企業が倒産するまで賃金を上げることはもちろんなく、基本的には企業収益の範囲内である。つまり、景気拡大によってこれまで儲けた分と、今後儲ける分の一部を労働者に還元するだけのことだ。

 このように考えれば、企業の人手不足は、企業の担当者にとっては大変なことだろうが、その背景に仕事の増加があるので、うれしい悲鳴といったところだ。この意味では、人手不足が景気の悪影響になるというのは、大げさな表現であり、せいぜい人手不足に対応できない企業の経営が大変になるという程度の話である。

 もちろん、労働者から見れば、人手不足は、就職の選択肢が広がるという意味でありがたい話だ。

 11日のNEWSポストセブンで堀江貴文氏が「仕事で悩んでいるなら才能よりも環境を疑え」と興味深いことを書いている。仕事や人間関係で悩んでいたら「さっさと辞めたらいい」としているが、まったくその通りだ。

堀江貴文氏
 もっとも、アベノミクスの前の民主党政権時代は、そう気安く言える経済環境ではなかった。失業率が今よりも高かったので、会社を辞めても、次の仕事を確保するのが難しかったからだ。下手をすると、会社の仕事に悩んで自殺という最悪の結果になることもあった。

 ところが、今では失業率は低くなり、人手不足なので、新たな会社を探すのは難しくない。これは、自殺者数の減少という形で成果になっている。

 いずれにしても、原因として景気拡大による仕事の増加がある限り、人手不足は経済全体にとって良い話だ。

 一方、苦境になる代表格は、賃金切り下げで収益を上げてきたブラック企業だ。本コラムでも書いてきたが、デフレ時代には売り上げ減少の中、賃金カットを行うブラック企業が勝者になる。しかし、脱デフレ時代には、拡大する収益を労働者と分け合うような企業が勝者になるはずだ。

 企業が人手不足を悪者にするのは、ブラックな側面が出たとみるべきだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】長期と短期でみた雇用対策のありかた(゚д゚)!

人手不足の問題が深刻化する中、労働者派遣業界にもその影響が及びつつあるようです。帝国データバンクが8月8日に発表した「労働者派遣事業者の倒産動向調査(2017年上半期)」によると、労働者派遣業の倒産件数は2年連続で増加しています。本来、人手不足の状況は労働者派遣業の追い風となるはずですが、深刻な人手不足が派遣する人材の確保も困難にしている実態が明らかとなりました。

調査によると、2017年上半期(1月~6月)の労働者派遣業の倒産件数は37件となり、前年同期の33件から12.1%の増加となりました。上半期の倒産件数は2年連続となります。負債総額は前年同期比30.3%増の37億8300万円となり、こちらも2年連続の増加となっています。

派遣の仕組み
年ベースで見ると、倒産件数、負債総額共に2014年を境に2年連続の減少を続けており、2016年は倒産件数57件、負債総額39億9600万円でした。2017年は上半期を終えた時点ではありますが、共に増加に転じる可能性が高いです。帝国データバンクによると、2017年7月単月での倒産件数は6件となっており、通年では70件程度が見込まれています。また、負債総額に至っては、7月単月で4億7500万円となっており、1月から7月の累計で既に前年を上回っています。

本来であれば、人手不足が叫ばれる現在の環境は、労働者派遣業に追い風となるはずです。しかし、現在の深刻な人手不足は派遣する人材の確保も困難にしており、皮肉な事に人手不足が労働者派遣業界自体も苦しめているようです。

帝国データバンクによると、2017年上半期において、労働者派遣業界の景況感を示す景気DIは54.7と基準となる50を上回っています。国内平均が46.1と50を下回る中、業界としての景気は悪くないです。

問題は深刻な人材不足にあります。雇用の過不足を表す「雇用過不足DI」を見ると、労働者派遣業は非正社員で65.4と基準の50を大きく上回ります。国内平均は54.9となっており、業界の大きな課題となっています。また、正社員の「雇用過不足DI」も62.1となっており、こちらも基準の50や国内平均の57.4を上回ります。ここ数年、労働者派遣業の「雇用過不足DI」は高止まりしており、派遣スタッフや自社の正社員の確保に頭を悩ませている事が分かります。

労働者派遣業における人手不足の原因は、近年の雇用環境の改善が大きな要因となっています。厚生労働省が発表した2017年6月の正社員の有効求人倍率は1.01倍となり、2004年の調査開始以来、初めて1倍を超え、求人が求職者を上回る状態となっています。パートタイムを含めた全体の有効求人倍率は1.51倍となっており、こちらはバブル期の水準も上回り、高度経済成長末期以来の水準を叩き出しています。労働市場は売り手市場となっており、派遣スタッフを希望する労働者が減少していると見られます。

人手不足がのしかかる労働者派遣業ですが、その影響を大きく受けているのは中小零細業者であるようです。冒頭の調査によると、2017年上半期の倒産件数37件の内、負債総額5000万円未満のものは26件となっており、その比率は70.3%に上る。負債総額5000万円未満の倒産が全体の7割を超えるのは、調査を開始した2008年以降で初となります。

対する大手は国内全体の人手不足を追い風とした事業運営を行っています。業界最大手であるリクルートホールディングス <6098> が8月10日発表した、2018年3月期第1四半期決算によると、同社の国内人材派遣事業の売上高は前年同期比12.6%増の1257億円となっており、好調です。テンプホールディングスから社名変更したパーソルホールディングス <2181> の2018年3月期第1四半期決算でも、人材派遣事業の売上高は前年同期比10.4%増の1174億円となっています。

大手では派遣スタッフの人材確保に向け、賃金を上げる動きも進んでいます。また、一部では派遣スタッフの契約を従来の有期雇用から無期雇用に切り替える動きも出ています。大手が資金力や知名度を活かした人材確保に動く中、中小零細は非常に厳しい戦いを強いられています。人手不足の問題は簡単に解決する問題ではありません。労働派遣業は人材を確保出来た者のみが生き残れる消耗戦に入っていく可能性もあります。中小零細の人材派遣業者は特色を出していく等、生き残りに知恵を絞らなければならないでしょう。

株式会社ネオキャリアの女性スタッフ
たとえば、人材サービスを手がける株式会社ネオキャリア(東京・新宿区)は、45歳以上限定の労働者派遣サービスを今月中に始めます。

今の労働市場は、人手不足が深刻化しており、若い人にとっては「売り手市場」。一方で、1970年代半ばに生まれた「ロスジェネ世代」には、90年代後半の就職氷河期もあって、中年フリーターが増えています。こうした人材を活用する狙いがあるようです。

「派遣業界は今まで、45歳未満か、50歳以上のシニア層の募集が基本でした。45歳から50歳の“エルダー層”には求人がない状態だったのです。しかし、今の中高年は肉体的に若く、仕事に就くと定着率が高く、出勤率も良く、勤務態度もマジメだと派遣先企業からの評判がいい。それが、45歳以上のサービスを提供しようと考えたキッカケです」(ネオキャリア広報担当)

職種は、コールセンターやデータ入力などの事務職を中心に、清掃業務などもあるといいます。時給は1500円から2000円。失職中やフリーターの中高年にとって、文字通り“ネオキャリア”となるのかも知れません。人材コンサルタントの菅野宏三氏は「労働市場の実態に即したサービス」と評した上でこう続けます。

「これまで40代以上は求人が極端に少なく、仕事を探すのが困難な状況が続いてきました。しかし、若い働き手でなくても構わない職種がどんどん増え、企業サイドも中高年を積極的に受け入れるようになっている。人手不足を、コストと時間がかかる若い人材ではなく、45歳以上の中高年で補おうということでしょう。“苦肉の策”とも言えますが、方向性は正しいと思います」

なお、中高年の採用は“人柄重視”だそうです。若者とも和やかに働ける人が重宝されるらしいです。

今後人手不足がさらに続くと、さらに高齢者や女性に焦点があてられるようになるかもしれません。

一昔前の肉体労働者(実際ほとんどの労働者がこの範疇で、これらの多くは、モノ運んだり、つくったり、農業、漁業などの労働者であり、それが大勢を占めていた)であれば、55歳にもなればもう十分働いたという感覚であり、そこからさらに働きたいなどというものはほとんどいませんでした。多くの人が、50歳にもなれば、定年して引退生活することを心待ちにしていました。

一昔前のアメリカの肉体労働者
しかし、知識労働者は違います。彼らは、まだまだ、健康で頑丈であるばかりではなく、まだまだ働く能力が十分にあり、また、定年した後でもそうしたいと願っています。ただし、ここでいう知識とは仕事に適用できる知識を意味します。本や百科事典に書かれてあるようなものは、仕事に直接適用することはできず、単なる情報にすぎません。そうして、知識を仕事に適用するのが、知識労働者です。

そうして、現代ではこの知識労働が仕事の大部分を占めています。モノ運んだり、つくったり、農業、漁業などの労働者の労働者は、少数派になりました。それに、このような労働者ですら、知識を仕事に適用する場面が増えてきています。ここは勘違いしないでいただきたいと思います。

年金が破綻するかもしれないと思われている日本でも(実はさほど深刻ではないのですが、本日は本題から外れるので述べません)、おそらくアメリカの後を追い、いずれ定年が70歳まで、引き上げられるか、実質上の定年撤廃(働けるまで働く)という時代がやってくるかもれしません。

世界中の先進国や新興国では、少子高齢化で若者の数が少なくなっているため、雇うのが困難になりつつあります。さらには、若年層は、企業で再教育が必要ですが、高齢者、特に高学歴の知識労働者については、その必要もないです。

数年前までの雇用状況が悪化していた状況では、そのような必要はないですが、これから日本も高齢者を活用することを本気で考えなければなりません。いずれ、高学歴の高齢な知識労働者の奪いあいになることも十分に考えられます。

ただし、若年層はフル・タイムで働くことを前提とした人事・労務管理が行われてしかるべきですが、高齢者に関しては、臨時とか、契約、コンサルタントなど、多様な就労形態による人事・労務管理が重要になってきます。

しかし、今後さらに景気が上向き、さらに少子高齢化が進んだことも考え、上記のようなこと記憶にとどめておいて、手をうつべきと思います。

建築現場で働く女性
それにしても、雇用に関しては短期的展望と、長期的展望を持っておく必要があります。現状の人手不足は、2013年から始まった日銀による金融緩和に源があります。日本では、金融政策と雇用とが密接に結びついているという考えは一般的ではありませんが、欧米では常識です。簡単にいうと、金融緩和をすれば雇用は増え、引き締めをすると雇用は減ります。

一方、2014年4月からは、日本はデフレにから完全に脱却していなかったにもかかわらず、8%増税を実施してしまったため、個人消費が減退して、GDPが伸び悩みの状況でした。

しかし、その状況も金融緩和を継続して行っていたせいもあって、改善されつつあります。このブログでも先日掲載したように、デフレ脱却まで「もうひと押し」のところにます。

実際この記事にも掲載したように、8月14日に発表された2017年4-6月期のGDP速報値では、実質GDPの季節調整済前期比(年率換算)が+4.0%と、大きく上振れました。

しかし、この状況がいつまで続くかは保証の限りではありません。今後、過去のようにデフレ下で金融引締めや、増税などの緊縮財政をするようなことはなく、まともな金融政策や、まともな財政政策が実行されるかどうかを見極めるべきです。

それにしても、直近の人手不足は何とかしなければなりませんから、特に人手を必要とする小売・サービス業のような業態では、営業店舗などの現場では、過去のように新卒ばかりに頼るというのではなく、中高年の活用を積極的にすすめるべきです。この分野では、女性の活用も従来から進んでいますが、女性の活用もさらにすすめるべきです。

そうして、これから先日本でもまともな金融政策や、財政政策ができるようになると判断できた場合は、さらに雇用政策を変えていくべきです。運悪くもしそうならなければ、残念ながら、再度ブラック的になるしかありません。もちろん完全なブラックはいけませんが、デフレ期には企業がある程度ブラック的になるのはやむを得ません。それは、企業の責任ではなく、政府の経済対策のまずさのせいです。以下には、日本の金融・財政政策がまともになると判断された場合のみ記載します。

先に述べたように、現場だけではなく、会社の中枢である本部も含めて会社の様々な部署に高齢の知識労働者を配置することを考えるべきです。

そうして、このようなことを考慮しなければならない時代には、当然のことながらあらゆる市場もかなり大きく変わります。

日本では、過去デフレが続いたので、顕著ではなかったのですが、日本のように極端なな長期のデフレに見舞われなかった先進国においては、50歳未満と、それ以上の年代層の2つの異なる労働市場が併存しています。日本もそのようになります。日本はデフレだったために、この労働市場の二分化が進みませんでした。

若者が就職に苦しむような時代には、当然のことながら高齢者の労働市場など出来上がる余地もありませんでした。

このように2つに別れた市場に対応するマーケティングと、イノベーションが必要になりす。特に50歳以上の市場に対応するためには、若者では無理であり、高齢の知識労働者は欠かせなくなります。

いずれにせよ、このように労働市場がはっきり二分化する時代にはやくなってほしいものです。

さらに、労働市場だけではなく、あらゆる市場が多様化します。1920 年代、30 年代まで:あらゆる国が多様な文化と市場を有していました。  たとえは、農村市場、富裕市場などです。

 第2次大戦後は、あらゆる先進国が大衆向けの唯一の文化と市場を有する時代が続きました。 今日、再び市場の多様化の兆しがみられます。たとえば、ハイテク株のバブル市場(45歳未満)、長期投資市場(50歳以上)、高学歴者のための継続教育市場、そうして少子化がこれからも進みか つて4、5人の子供にかけていた総額を超える額を1人にかけるようになり若年市場ができあがります。

日本のように極端で長期のデフレに見舞われなかった他の先進国では、市場の多様化がかなり進みましたが、日本ではそうではありませんでした。今後、まともな経済対策が行われ、不況が数年続くようなことがあっても、デフレが長期にわたって続くことがなければ、このようなことが日本でも起こります。

このような市場の多様化に対処するためのもマーケティング(顧客の創造)、イノベーションは必要不可欠であり、特に高齢者の市場には若者だけでは対処できません。質量ともに、幅広い人材が必要になります。

とにかく、このような状況にはやくなって欲しいものです。そのためにも、政府はこれからまともな経済対策を実行して、数年間不況が続くようなことは仕方ありませんが、経済の癌ともいわれる異常事態のデフレに舞い戻るようなことだけはすべきではありません。

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