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2020年5月11日月曜日

先行き不透明なプーチンの任期延長―【私の論評】今こそ、北方領土を取り戻す最大の好機、日本は過去の過ちを繰り返すな(゚д゚)!


岡崎研究所

 ロシアでは3月に、プーチンの大統領任期を2024年から後12年間延長する憲法改正案が議会で可決されている。プーチンはそれを憲法の規定に従って国民投票にかけなければならない。この国民投票は本年4月22日に行われる予定であったが、新型コロナウイルス感染者が増えている状況の中で、プーチンは国民投票を延期する決定をした。いつ行うかは決まっていない。


 憲法改正案が国民投票で承認されるためには、投票率が50%以上、かつ、賛成票が投票の50%以上である必要がある。ロシア国民が、このプーチン任期を延長するための投票に行き、投票率50%を超えられるか、投票者の50%が賛成票を投じるか、予断を許さないように思われる。

 これについて、ロシアの民主活動家ウラジーミル・カラムーザがワシントン・ポストに4月14日付で‘Vladimir Putin has a popularity problem — and the Kremlin knows it’(プーチンは人気の問題を抱えており、かつクレムリンはそのことを知っている)と題する論説を寄稿しており、参考になる。カラムーザは、プーチンの任期延長、大統領の年齢制限についての最近のレバダ社による世論調査の結果を紹介している。それによれば、プーチンの任期延長については、賛成48%、反対47%、大統領の年齢上限については58%が「元首は70歳より高齢であるべきではない」と回答した由である。カラムーザは、権威主義国家では世論調査で政権寄りの結果が出る傾向にある、いわゆる「権威主義バイアス」がある中でこういう結果が出たことは驚きである、と指摘する。

 カラムーザは、さらに、ロシア政府は正規の国民投票ではなく超法規的な「人民投票」を目指しているようだが、問題はその後で、ロシアの社会の大部分は、プーチンが任期延長はないと繰り返し約束したにもかかわらず任期を延長しようとしていることを信頼の裏切りとみなしているとして、プーチンの前途が明るくないことを示唆している。

 カラムーザはロシアの民主化を願望している人であり、ネムツォフ関係財団に関与している人であるので、上記の分析は、彼の希望的観測である可能性があるが、彼の言うような結果になる可能性も十分にあるように思われる。

 ロシアの経済は、原油価格の低下で苦境にあることに加え、新型コロナウイルス感染拡大によってさらに下押しされることはほぼ確実である。サウジアラビアとロシアが減産合意に失敗した後、原油価格が急激に下がり、サウジもロシアも苦境に陥り、減産合意に改めて合意したが、新型コロナウイルスで世界経済は不況入りしており、需要が減産以上に減っている。プーチンが最初減産を拒否したのは間違いであったと言える。経済困難は国民の不満につながり、プーチンの人気は当然下降する。

 プーチンは2024年から12年間大統領に留まることを目指しているが、そうなると引退時には83歳になる。ロシアでは男性の平均寿命が70歳にもならない中で、83歳というのは大変な高齢者との印象がロシア人にはあるだろう。

 投票率、開票の操作などは当然予測できるが、プーチン政権が今後も盤石であるとの前提で対応することは難しいと思われる。

【私の論評】今こそ、北方領土を取り戻す最大の好機、日本は過去の過ちを繰り返すな(゚д゚)!

ロシアのプーチン大統領が2000年5月に最初に就任してから20年が過ぎました。

ソ連崩壊後の混乱が続くロシアを引き継いで時に強引な手法で安定を回復させ、異例の長期政権を敷いてきました。

ところが今や、強権の弊害が際立ちます。プーチン氏自身が提起した憲法改正を巡る政治劇はその象徴に見えます。

ロシア議会の上下両院は3月、2040年で大統領任期が切れるプーチン氏が1月に提案した憲法改正をきっかけに、任期をさらに2期12年延ばし、最長で36年まで大統領職にとどまれる改正案を採択しました。

改憲が実現すれば、現在通算4期目のプーチン氏の5選へ道を開き、旧ソ連の独裁者スターリンの約30年をしのぐ長期支配が可能になります。

当初は任期切れ後、改憲案で権限を強化する国家評議会議長や上下両院の議長に就き、院政を敷く狙いとみられていました。

しかし、下院での論議で「私はカモメ」で有名な女性宇宙飛行士テレシコワ議員が、現職を含む大統領経験者はこれまでの任期数を問わずに大統領選に出馬できるとする条文の追加を突如提案しました。

ソ連初の女性宇宙飛行士テレシコワ

これを受けて、プーチン氏は急きょ下院で演説。憲法裁が合法と認め、4月の全国投票で国民の承認が得られれば修正案に問題はないとの立場を示しました。

4月に予定されていた全国投票は新型コロナウイルスの感染拡大で中止されましたが、ロシアメディアによると、テレシコワ、プーチン両氏の演説は通算5選に道を開くために政権中枢が筋書きを描いた政治劇といいます。

プーチン氏には、自らの「レームダック(死に体)化」を防ぎ、権威を維持しつつ後継体制づくりを進めたい思惑があるとみられるますが、どうなるでしょうか。

ソ連崩壊後は米欧と同じ民主国家を目指しましたが、再び対決する世界観に回帰したロシアは「力による現状変更」でクリミア半島を併合し、米欧は経済制裁を科しました。

政権長期化で人気に陰りも見え、新型ウイルスの感染拡大が止まらず、それに伴う原油価格低下による経済低迷という難題も横たわります。

感染者は膨らみ続け、首相ら政権幹部も含まれます。輸出の6割を占める石油や天然ガスなどエネルギー部門は、原油安で経済の打撃は深刻です。

経済が停滞し、内政・外交とも不安定化しかねない状況です。国内から政権への不満が噴出し、政権基盤が揺らぐ恐れもあります。

懸念されるのは、新憲法案の北方領土交渉への影響です。「ロシア領の割譲禁止」という条文が盛り込まれています。クリミアを念頭に置いたのでしょうが、北方領土の不法占拠の正当化に利用されないか心配です。

北方領土問題が解決するチャンスは過去に1度だけありました。それは旧ソ連のゴルバチョフ政権の末期、91年12月のソ連崩壊の直前でした。

当時、ソ連の経済状態は最悪で、ゴルバチョフ大統領は北朝鮮の猛反発を押し切り、韓国との国交正常化に踏み切りました。両国の国交正常化は1990年3月、世界経済国際関係研究所(IMEMO)の招待でモスクワを訪れた金永三民自党代表最高委員(当時)とゴルバチョフ氏の会談が実現し、国交樹立に向けた新たな局面を迎えました。そうして、同年9月、両国は共同声明に署名し、国交を結んだのです。

       1990年 12月 14日に韓国のノテウ (廬泰愚) (前列左)大統領ソ連
                               ゴルバチョフ大統領(前列右)の間でかわされた共同宣言の調印式

どうしても、韓国マネーが欲しかったからです。このようなことからも、日本もジャパンマネーの力を上手く利用して、北方領土を取り戻せる可能性が十分ありました。

実際、91年4月にゴルバチョフが来日し、もしかすると4島が日本に返ってくるのではないかとの機運が高まったのは間違いありません。

しかし、ゴルバチョフサイドからソ連崩壊の予兆を伝えられていたにも拘(かかわ)らず、私もそうでしたが、外務省も眉唾ものとして信じることをせず、交渉の準備を怠ってしまったのです。

私自身は、当時ドラッカー氏が「20世紀中に、必ずソ連は崩潰すると」いくつかの根拠を示しながら、主張していましたが、この時にはソ連は必ず崩潰すると信じていました。ところが、それを周りの人に話してみても、だれもそれは「あり得ない」と語っていたことを思いだします。

そんななかでも、ゴルバチョフが北方領土で譲る気配を見せたことに、敏感に反応した日本の政治家がいました。当時の自民党幹事長、小沢一郎氏です。機を見るに敏なところまでは良かったのですが、ところが、91年の1月と3月、小沢氏は通産省(当時)ルートでソ連と交渉した際に、280億ドルとも言われる金額を提示。

小沢一郎氏

露骨に金で島を買いたいという態度を示し、札束でゴルバチョフの頬を叩くようなことをしました。ソ連崩壊の危機に直面し、弱体化していたとはいえ、向こうにも面子があります。さすがに、あまりに直截的な日本の交渉姿勢にゴルバチョフもムカッときたのでしょう。話は流れてしまいました。

国内政局だけでなく、外交の場においても、壊し屋が「本領」を発揮していたのです。

それにしても、小沢氏以外の政治家がこれを強力にすすめなかったのは、かえすがえすも残念です。

先日もこのブログで述べたように、北方領土交渉の先行きがかなり見通せるようになった現在、安倍晋三首相はプーチン氏と対話を重ね、領土問題解決の機運を一層確実にできるよう、明確なメッセージを送り続けなければならないです。

ロシアの経済は、原油価格の低下で苦境にあることに加え、新型コロナウイルス感染拡大によってさらに下押しされることはほぼ確実です。

これは、従来なら本格的な戦争、それも総力戦でもなければ、あり得なかったことです。これは、間違いなく、日本に残された最後のチャンスです。

現在は、ロシアが中国からの属国的地位から決別して、独自の道を歩み、民主化をすすめ、日米欧などの国々とともに、中国の体制を変えるまたとないチャンスです。

米国が中国に対して、中共幹部の資産の凍結などをするような制裁に出るか、出るようそぶりでもみせれば、この動きは一挙に加速化します。もしそうなれば、習近平は中共幹部全員の敵になります。

日本は、このチャンスを過去のように逃すべきではありません。

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