左派系メディアでは、天下り問題で文部科学省の事務次官を引責辞任した前川喜平氏が正義のヒーローのように扱われている。今回の決裁文書の改竄(かいざん)問題でも、佐川宣寿前国税庁長官を官邸の圧力の被害者のように印象づける動きや、デモで「官僚がんばれ」という人までいる。結論ありきのコメントを求めるメディアも含め、そこにはご都合主義があるように筆者には思えるのだが、いかがなものだろうか。
ちょうど1年前であるが、文科省による組織的な天下り斡旋(あっせん)が問題になっていた。天下り斡旋は、国家公務員法違反である。これは文科省の調査報告書にも書かれているが、その法律は第1次安倍晋三政権時に成立したものだ。筆者はその企画に関わったが、当時、安倍首相が国会を延長してまでも成立に執念を燃やしたものだ。当然のことながら、天下りの主要路を断たれた官僚からは怨嗟(えんさ)の声があがった。
実は、筆者はそこで退官したが、この流れをくむ公務員改革は続き、自民党政権末期に、自公と民主が歩み寄って、内閣人事庁などの公務員改革基本法の骨子ができ、第2次安倍政権になって、内閣人事局創設に至った。これらの公務員改革を当時のマスコミは絶賛し、天下りを批判した。1年前の文科省による天下り斡旋についても、マスコミは非難し、その首謀者である前川氏も批判されていた。
ところが、左派系メディアは、加計学園問題で「総理の意向」と書かれた文科省文書の存在を認めた前川氏が安倍政権批判を始めると、手のひらを返したように持ち上げ始めた。ちなみに前川氏は、メディアで問題とされた新国立競技場の高額発注の責任者でもあった。
今回の財務省による決裁文書の改竄も、公文書改竄という刑法にも触れうる問題である。それなのに、「佐川氏が忖度(そんたく)せざるをえなくなった」「内閣人事局があるから官僚が萎縮していた」など問題の本質からずれるコメントが目立った。
政治家から指示があれば、それは刑法違反の共犯にもなりかねないので問題だ。しかし、政治家で決裁文書のことを知っている人はまずおらず、知らなければ指示はできないだろう。
そこで、忖度とか内閣人事局の問題とかで、なんとか官邸が問題だということに持っていこうとしているのだろう。
筆者は元財務キャリアで、官邸勤務経験もあるので、官邸への忖度があったのではないかというコメントをしばしばメディアから求められる。しかし、本コラムで書いているように、「財務キャリアが官邸に忖度することはまず考えられない」と言うと、メディアでは使えないコメントして扱われる。メディアはまず結論ありきで、それに合った人のコメントしか扱わないと思った方がいいだろう。
安倍政権を叩きたいあまり、「反安倍」の人には手のひら返しでも無条件に賛同する一方、エビデンスに基づく客観的な話でも、「反安倍に使えない」と断定して無視するのは、おかしいと思う。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】政治とは政党と官僚との化かし合いという現実を忘れるな(゚д゚)!
官僚の果たしている役割とは何かといえば、政府の仕事を実行する事です。また、それを実行するための専門技術・能力を持っているのが官僚です。官僚制と言った場合は、政府全体の体型を指します。
官僚は、執行する側の人間ですから法律通りに前例通りに運営する事が至上命題です。これを、国民に代わり、「シビリアンコントロール」したり、官僚の命題である「法律」を新規に作ったり、改正したりするのが国民の負託と、立法権を持つ「政治家」です。
政治家は官僚をコントロールする為に官僚組織の長として君臨しますが、官僚のもう一つの指名「素人である政治家を補佐する」というものがあります。
官僚は、執行する側の人間ですから法律通りに前例通りに運営する事が至上命題です。これを、国民に代わり、「シビリアンコントロール」したり、官僚の命題である「法律」を新規に作ったり、改正したりするのが国民の負託と、立法権を持つ「政治家」です。
政治家は官僚をコントロールする為に官僚組織の長として君臨しますが、官僚のもう一つの指名「素人である政治家を補佐する」というものがあります。
素人であ政治家が国家百年の計を乱さないように、補佐するのも官僚の仕事なんですが、政治家が馬鹿だと、いわゆる官僚のレクチャーにより、官僚の都合の良いように政治家は洗脳されてしまいます。管理監督するはずの政治家が管理監督される側の官僚に管理監督されてしまうということがしばしば行われています。ただし、この方は政治家は楽であることはいうまでもありません。
この一番酷い事例は、財務省による増税路線でしょう。復興税、税と社会保障の一体改革による消費税の目的税化など、これらは理論的には破綻しています。
まずは、東日本大震災のような大きな自然災害があったときに、復興税で復興事業を実施するなどということは、古今東西に例をみません。
通常は、償還期間が100年程度の復興債で実施します。なぜなら、復興による工事により再建されたり新たなつくられるインフラなどは、震災を受けた世代だけではなく、後々の世代も使用するものだからです。負担を世代間で平等にわかちあうという趣旨で復興債を用いるのが普通です。
しかし、財務官僚は、ご説明資料などを用いて、政治家にレクチャーし、あたかも復興税がまともな政策であるかのように洗脳し、結局復興税を導入してしまいました。
税と社会保障の一体化による消費税の目的税化なども同じです。そもそも、税の目的税化など不可能です。たとえば、自衛隊が、税を払った人は防衛し、そうでない人は防衛しないとか、税を多めに払った人を優先的に防衛するなどということはできません。社会保険制度も同じことです。
こんなわかりきったことを曲げて財務省は、消費税を増税するために、これを正当化するご説明資料を作成し、政治家にレクチャーし洗脳しました。そのため、現状では、消費税を上げる必要性など全くないのですが、増税はしなければいけないと思い込む政治家がほとんどです。
証人喚問された元財務相理財局長だった佐川氏 |
ブログ冒頭の記事で高橋氏が批判している前川氏には、他にも多くの問題がありました。たとえば、前川氏は、平成27年9月に安保法制に反対した学生団体「SEALDs(シールズ)」などが国会前で行った集会に参加していたことを明かしていました。
前川氏は2時間近くに及ぶ講演の終盤近くになって、「ここだけ内緒の話ですけど」と前置きして「2年前の9月18日、国会前にいたんです」と切り出した。
前川氏は「集団的自衛権を認めるという解釈は成り立たない。立憲主義に反する」と主張。デモに参加した動機について「今日行かなきゃ、もうないと思ったんですね。その日は安保法制が参議院で成立した日ですから」と語りました。
当時、前川氏は文科省の審議官で翌年の6月、事務次官に就任した。公務員で、しかも省庁事務方のトップを担い、加計学園問題でも参考人招致を受け、今も積極的に発言している前川氏が、従来から安倍政権に批判的だったことを自ら認めた形です。人事院規則では国家公務員は政治的行為ができない事になっています。
一般職国家公務員の政治的行為の制限について
このようなことをして、平気の平左で、しかも自分から告白するような人物である、前川氏など、全く信用できないことはこのことだけでも、明らかです。
余程、政治家が自覚を持ち、勉強して動かないと良い意味でも悪い意味でも、官僚の専横を許してしまうことがあります。
また官僚は各省庁の組織の一員なので、政府の利益より、組織の利益を優先させたり、さらに悪い官僚の場合は、個人の利益を優先させたりすることになります。
これをシビリアンコントロールで排除するのが政治家の仕事なのですが、これができないと、全体的には政府全体が悪い方向へ行く場合もあります。
特に、三権分立の補完や監視が上手く行っていないとそうなります。ただし、官僚制そのものは民間でも広く使われている制度であるため、一概に官僚制度だけが悪いとはいえません。
では、日本の政治のどこが間違いなのでしょうか。それは、いくつもあるかもしれませんが、その中でも最大のものは立憲主義に基づいてた運営が行われていないということでしょう。
立憲主義の前提となるのが、政党の近代化です。それについては、以前このブログにも何度か掲載したことがあります。その典型的な記事のリンクを以下に掲載します。
立民、「首相の解散権制約」の不毛 民進“分裂騒動”の責任押し付けたいだけ 宇佐美典也氏緊急寄稿―【私の論評】立憲主義の立場からも首相の解散権は正しい(゚д゚)!
立憲民主党の枝野代表、実は彼こそ立憲主義とは何かを最も知らない人物かもしれません |
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、近代政党に関する部分のみを以下に引用します。
近代政党には、三つの要素があります。
綱領、組織、議員です。
明確な理念をまとめた綱領がある。綱領に基づいて全国組織が形成されます。全国の政党支部が議員を当選させます。その議員たちは政策の内容で競い合い、自由で民主的な議論で党首を決めます。選ばれた党首は直属のシンクタンクとスタッフを有し、全国組織に指令を下します。この条件に当てはめると、自民党は近代政党ではありません。無論、他の野党も、近代政党とは言い難い状況にあります。
自民党が有する最大のシンクタンクは官僚機構(実体は財務省主計局)ですが、ヨーロッパの政党は官僚機構に対抗できるシンクタンクを自前で揃えています。
イギリスなどでは、自前でブレーンを用意して勉強した政治家だけが、党の出世階段を上ります。政治の世界の実体は、政党と官僚は化かし合いです。イギリスの政党は、近代政党ですが、それでも失敗することもあります。たとえば、過去のイギリスでは、付加価値税(日本の消費税にあたる)を増税したのですが、その後若者雇用を忠信に雇用情勢がかなり悪化したため、イングランド銀行(イギリスの中央銀行、日本の日銀にあたる)が大規模な金融緩和を実施したのですが、景気はなかなか回復しませんでした。
そのような失敗もあることはあるのですが、時々NHKBSのワールドニュースを見ている限りにおいては、日本の国会よりもはかにまともな国会運営がなされています。
政党が近代化されていれば、日本でも政治家が官僚に恒常的に化かされるということはないかもしれません。
それにしても、日本でいますぐまともな政策を立案できるシンクタンクを機能させることは無理かもしれません。いまのところ、やはり政治家には官僚に化かされない程度の知識を身につけることが最優先課題だと思います。
私達、有権者はそのような政治家を選ぶべきです。そのために、官僚にいつも化かされてばかりの、政治家は選挙で投票しないことです。
特に、増税を手放しで賛成するような政治家には絶対に投票すべきではありません。しかし、そうなると、今の日本ではほとんど投票すべき政治がいなくなってしまうという恐ろしい現実もあります。
ただし、政治はそもそもが、「政党と官僚」の化かしあいということを理解すべきです。これを理解していないと、そもそも政治の本質がわからなくなります。
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