2016年8月27日土曜日

【日韓財務対話】通貨交換協定再開へ議論開始で合意 韓国側が提案 「日韓の経済協力は有益」と麻生氏―【私の論評】誰か朴槿恵にマクロ経済政策を教えてやれ、そうでないと援助が無駄になるぞ(゚д゚)!



日本と韓国の財務担当閣僚らによる第7回日韓財務対話が27日、ソウルで開かれ、緊急時にドルなどを融通し合う通貨交換協定に関し、昨年2月に終了したものに代わる新たな協定について議論を始めることで日韓双方が合意した。韓国が提案し、日本側が応じた。

財務対話には、麻生太郎副総理兼財務相と韓国の柳(ユ)一鎬(イルホ)経済副首相兼企画財政相らが出席した。

韓国側は、日韓の2国間の経済協力を強化することと、その「証」として日韓双方が同額となる新たな協定の締結を呼びかけた。

麻生氏は「今後ともグローバルや地域的な話で協調する関係を構築していかないといけない」と答え、両国は新たな協定が地域金融市場の安定を高めるとの点で一致した。新たな協定締結に向けた協議は今後行い、締結の時期や金額について詰めていく。

麻生氏は終了後、記者団の取材に応じ、韓国側が新たな協定への議論の開始を提案したことについて「いざというときのために(外貨は)用意しておくべきではないか。韓国が(そのように)必要だと判断したと思う」と述べた。その上で「日韓の経済協力は有益であり、地域の持続的経済成長に資するものだ」と強調した。

日韓の通貨交換協定は、両政府が平成13年に締結した。しかし、24年に当時の李明博大統領が竹島(島根県隠岐の島町)に上陸するなどで日韓関係が悪化、昨年2月に打ち切られた。

日韓財務対話の開催は昨年5月に東京で開催されて以来。

【私の論評】誰か朴槿恵にマクロ経済政策を教えてやれ、そうでないと援助が無駄になるぞ(゚д゚)!

通貨スワップにの関しては、日本側は「向こうから話が出れば検討する」(麻生氏)姿勢ということを予め表明していました。 事前に日本側からこう言われた上でなお議論を持ちかけてくるということは、国内の反日勢力に構っていられない状況ということなのでしょう。

それだけ、韓国経済が危機に瀕しているということです。

韓国が頼みとしていた中国経済は失速が鮮明になり、さらに、米国による韓国のTHAAD配備によって、中国の韓国に対する態度はかなり硬化しました。それに輪をかけてイギリスの欧州連合(EU)離脱が決定したことから、外貨を中心に資本が韓国内から海外へ流出する危険がかなり高まっています。

このままでは、金融危機などで投資家のリスク回避志向が強まった際には、韓国から深刻な資本逃避が起こる恐れがあります。

そこで、韓国内では、米韓・日韓通貨交換(スワップ)締結に関心が集まっていました。韓国の経済専門家の間では、他国との通貨スワップを増やすべきとの主張が強まっていました。

通貨スワップは、両国政府・中央銀行が緊急時に資金(主にドル)を融通し合うもので、日韓スワップ協定は国際金融市場で流通量の少ない韓国のウォン安定化を目的に2001年から始まりました。本来は、締結した両国の金融市場の安定を目的として、相互に金融協力の強化を行うものですが、日韓スワップ協定は、日本から韓国への片務的な性質が強よいです。つまり、実態は日本から韓国への経済支援でした。

しかし、12年に李明博前大統領による竹島上陸を端に発した両国間の関係が悪化したことに伴い、協定延長を取りやめることを検討する動きが双方で加速しました。

日本政府は、韓国からの要請があれば協定を延長することもやぶさかではないとの姿勢をたびたび表明したのですが、韓国側は「日本との協力関係は不要」とする世論の高まりや、反日姿勢を貫く朴槿恵大統領の方針もあり、協定の延長は望みませんでした。

韓国銀行の金仲秀総裁(当時)が、「延長が双方にとって利益になるなら延長することができる」との見解を示したが、菅義偉官房長官は「日本側から積極的に延長する必要はない」と述べています。

かくして15年2月16日、日本政府と韓国政府は「日韓スワップ協定を延長せず、予定通り2月23日で終了する」と発表し、13年半続いた日韓スワップ協定は終わりを迎えたのです。

このような経緯で終了した日韓スワップ協定ですが、韓国は長引く経済の低迷(デフレ)と資本流出の懸念が高まったことで、日本とのスワップ協定を再開させようとの動きが慌しくなっていました。特に、朴大統領が焦りを見せ始めたようです。

日韓財務対話は、両国の財務大臣や財務省幹部クラスが出席し、経済や金融問題について定期的に意見を交わす会合で、以前は毎年定期的に開かれていたのですが、李前大統領が竹島に上陸して以降、開催は中断していました。しかし、昨年5月に2年半ぶりに再開され、また会合を定期的に開くことになりました。

柳副首相と麻生氏
韓国は来年、大統領選挙が控えています。14年の旅客船セウォル号沈没事件以来、支持率は低迷し続け、経済も回復の兆しがみえない朴政権。日本とのスワップ協定を再開させることでウォンの安定化を図り、経済を安定させたいところなのでしょう。ウォンの価値が下落すれば、外国人投資家は一気に外貨を引き上げる可能性が高いです。それを避けるために日韓スワップ協定は一定の役割を果たすことでしょう。

従来と同じように、スワップは日本にとってほとんどメリットがないと考えられるのですが、ウォン安が進めば韓国から資本が急激に流出し、対韓民間融資債権のデフォルトが起こる可能性が高いです。とはいいながら、韓国経済の規模は小さくて、GDPは東京都と同程度です。

全体でそのくらいで、さらに日本の対韓民間融資債権ともなれば、日本の経済の規模からすれば、それがたとえ全部が価値を失って紙切れになったとしても、誤差の範囲でしたかありません。輸出も輸入も微々たるものです。韓国向け輸出がゼロになっても、日本経済にとっては、軽微なものです。

先に述べたように、スワップ協定が終了した当時、菅義偉官房長官は「日本側から積極的に延長する必要はない」と述べています。さらに、今回の日韓財務対話の直前に、通貨スワップに関しては、日本側は「向こうから話が出れば検討する」(麻生氏)姿勢ということを予め表明していました。

今回日本に対して強硬姿勢をとってきた朴政権が、しおらしく頭を下げてきたということです。これは、韓国側がどう体裁を繕っても、国際社会はそうとしか受け取りません。日本政府が韓国政府に、韓国のほうから言ってきたではないかといえば、それに対して韓国政府は抗うことなどできません。

韓国から申し出をしたということで、今回の通貨スワップ協定は、日本の外交の勝利といえるでしょう。

私自身は、この通貨スワップに関しては、反対でした。それに関しては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
通貨スワップ「不要」と打ち切った朴政権 日韓財務対話で復活要求の模様…―【私の論評】韓国は再び通貨危機に陥りIMFの管理下に入り、それを日本のせいにする(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分のみを以下に掲載します。
もしウォン高要因が大きくなれば、韓国はデフレに陥り、かつての日本のような長期不況に陥るでしょう。 
逆にウォン安要因が大きくなれば、韓国は通貨アタックを受けて、金融危機に陥るでしょう。しかし、中国を含めて、韓国を本気で助けようとする国はもうありません。 
結局、韓国が自分勝手な外交によって中国はもとより、日本と米国の信頼を失ったことが、韓国がリフレ政策を採用できない理由だということになります。韓国はなんとも愚かなことをしたものだと思います。 
これを解決するには、韓国がその尊大な態度を改め、日米との和解を本気で進めるしかないのでしょう。

しかし、これも今更かなり難しいです。日本としても、韓国側から、韓国の経済危機を絶対に日本のせいにしないことという確約をとりつけるのはもとより、その他でも譲歩してもらわないと、とてもできるものではありません。

米国としても、韓国が中国側に寝返ることを確約しないと無理です。しかし、過去の韓国はこのような約束はことごとく反故にのしてきたため、いまさら信用されません。結局、韓国はまた通貨危機に陥り、IMFの管理下に入るしかなくなることでしょう。

現状でも韓国経済はかなり危険なのですが、もし9月に日銀が大幅な追加金融緩和を決定した場合、韓国の破綻はさらに早まり、第二の通貨危機に陥ることになります。そうして、韓国は第二の通貨危機も、日本の金融緩和のせいにすることでしょう。本当にやっかいな国です。
今のままでは、このシナリオを変えることはできないでしょう。なぜなら、韓国は深刻なデフレに見舞われているのですが、キャピタル・フライトを恐れて、金融緩和を実行できないでいるからです。韓国内でも、結局のところ、金融緩和を恐れて、それには目をつぶり構造改革の論議ばかりされています。

ただし、確かに構造改革も必要といえば、必要です。それは、あまりにもグローバル一辺倒に偏りすぎた韓国経済の内需をもっと拡大するということです。GDPの4割近くが、輸出で占めていたというのがそもそも間違いです。

日本では、輸出がGDPに占める割合は、15%程度です。米国は、数%です。さらに、個人消費がGDPに占める割合は日本は60%台、米国は70%台、韓国は50%台です。

輸出の占める割合が高いことは、国際競争力があるということで、積極的に受け取られがちですが、それは逆の側面から見ると、外国の経済状況に左右されやすいということです。そうして、今の韓国がまさにそれです。

世界経済の低迷の直撃を受けています。特に、輸出先をかなり中国にシフトしていたというのが致命的です。

このような状態であれば、グローバル化一辺倒から、内需を拡大する方向に進むのが、韓国経済を救う唯一の道です。

たとえ大規模な外貨のキャピタル・フライトが起きたにしても、ウォンは韓国の通過です。国外では安くなっても、韓国内ではそれなりの価値を持って流通するはずです。国外に逃げ出すのは、ウォンではなく、ドルなどの外貨です。思い切った金融緩和政策と、積極財政を行い、内需を拡大させて、デフレからなるべく早く脱却すべきです。

しかも、韓国はEUなどの共同体に入っているギリシャなどとは異なります。ギリシャなどは自ら金融緩和をやりたくてもできないですが、韓国は自らやりたければ、いつでもできるのです。

そうして、これを機会に、グローバル一辺倒から、恒常的に内需をある程度大きくして、日本や他の先進国なみに、個人消費を60%内外にして、輸出はせいぜい20%内外にすべきです。これを、通貨スワップなしに実行するということになれば、どのようなことをしても、韓国はいっときGDPがかなり落ち込みとんでもないことになるどころか、また通貨危機を迎えることは必定です。

しかし、通貨スワップがあれば、この構造改革をソフトランディングさせることができます。とにかく、通貨スワップによりある程度外貨を確保した上で、デフレ脱却のため、大規模な金融緩和と、大規模な財政出動をすべきです。特に、即効性のある財政出動をすぐにも行うべきです。その他の構造改革など後回しで良いです。

誰か、このデフレからの脱却の王道であるマクロ経済政策を朴槿恵に納得するまで教えて、実行させるべきです。そうでないと、また通貨危機に見舞われて、せっかく日本が援助しても、先の通貨危機の時と同じで、韓国はこれを日本のせいにすることになります。

また、来年は大統領選挙であり、朴槿恵が素早く経済対策を行わない限り、経済の低迷で国内が混乱して、朴槿恵に勝ち目は全くありません。

その兆候はすでに見られています。日本では、なぜかほとんど報道されませんが、韓国では、昨年パリのテロ事件があったころに、7万人規模の暴動が発生しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本のメディアはなぜ報じない!?韓国を揺るがす7万人大暴動 来年秋に控える韓国大統領選は?             櫻井よしこ
櫻井よしこさん
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事かなり大規模で、主催しているのは左翼です。以下に、この暴動の様子を写した動画を掲載します。



時の政府の経済対策があまりもまずいと、反対勢力はそれに乗じて大規模な暴動などで、国内を混乱させます。また、国民の中にも不満が鬱積してるので、反対勢力の扇動に簡単にのせられてしまいます。今の韓国がまさにその状況です。慰安婦問題などがなかなか解決しない背景にはこのようなこともあります。

日本としては、もし通貨スワップを再開するというのなら、これを外交カードとしてしっかり持っておき、できうれば、韓国政府に筋違いの構造改革一辺倒の改革を目指すのではなく、通貨スワップにより外貨を確保した上で、デフレから脱却するための、王道である大規模な金融緩和と積極財政を行うように促すべきです。

それに、当然のことながら、慰安婦問題や、竹島問題にもこの外交カードをうまくつかうべきでしょう。さらに、韓国経済が低迷してくれば、日本側は他の外交カードも持つことができるようになるでしょう。これら外交カードをうまく使って、韓国との関係を正常化していく方向に用いるべきです。

それは、麻生財務大臣などでは全く無理でしょうから、誰か日本でまともなリフレ派で外交にも通じている人間がそのような役割を果たすのが望ましいと思います。

もし韓国側が正常化を実行しないというのなら、外交カードを使うべきです。特に、来年大統領選挙でとんでもない人間が大統領になって、まともな経済対策も行わずに、反日的な態度や行動をさらに激化させた場合、即座に通過スワップなど停止すべきです。それで韓国が吠えまくったにしても、単なる負け犬の遠吠えに過ぎません。耳を貸す必要など全くありません。行き着く先は、再び通貨危機です。ぐうの音も出ません。

しかし、そうならないように、外交カードをうまく使うように立ちまわるべきです。

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2016年8月26日金曜日

中国上空の機内から女子高生、北朝鮮SLBMを撮影?…軍事アナリスト「北朝鮮のミサイルと推測」―【私の論評】北SLBM、中国の領空・領海侵犯にもドローン哨戒は有効なことが実証された?

中国上空の機内から女子高生、北朝鮮SLBMを撮影?…軍事アナリスト「北朝鮮のミサイルと推測」

女子生徒が航空機内から撮影した北朝鮮ミサイルの可能性が
ある被写体。右側に飛行機雲のような筋が見える=24日午前
島根県立矢上高(同県邑南町)1年の女子生徒(15)が飛行中の航空機内から、北朝鮮が24日発射した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の可能性がある被写体を写真撮影していたことが26日、高校への取材で分かった。

 矢上高によると、24日午前5時半~40分ごろ、生徒が進行方向左側の窓から景色を撮影していた際、飛行機雲のような筋が真っすぐ上がった後、形が崩れたという。中国上空を南に飛行していたとしている。

 生徒は2020年東京パラリンピックの事前合宿を誘致する活動のため、邑南町の派遣団の一員として訪れたフィンランドから福岡空港に向かう便で帰国途中だった。

 写真を見た軍事アナリストの小川和久静岡県立大特任教授は「噴射されたように真っすぐ軌跡を描いている様子から、ミサイルかロケットとみられる。同じ時間帯に他にミサイルの発射は確認されておらず、北朝鮮のSLBMと推測できるのではないか」と話した。

 北朝鮮は24日午前5時半ごろ、東部咸鏡南道新浦沖からSLBM1発を発射。防衛省によると、ミサイルは東北東方向に約500キロ飛行し、日本の防空識別圏内の日本海上に落下した。
 
 島根県立矢上高(同県邑南町)1年の女子生徒(15)が中国上空の航空機内から、北朝鮮が24日発射した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の可能性がある被写体を写真撮影していたことが26日、高校への取材で分かった。

 矢上高によると、中国上空を南に飛行中の機内で24日午前5時半~40分ごろ、生徒が進行方向左側の窓から景色を撮影していた際、飛行機雲のような筋が真っすぐ上がった後、形が崩れたという。

 生徒は2020年東京パラリンピックの事前合宿を誘致する活動のため、邑南町の派遣団の一員として訪れたフィンランドから福岡空港に向かう便で帰国途中だった。

 写真を見た軍事アナリストの小川和久静岡県立大特任教授は「噴射されたように真っすぐ軌跡を描いている様子から、ミサイルかロケットとみられる。同じ時間帯に他にミサイルの発射は確認されておらず、北朝鮮のSLBMと推測できるのではないか」と話した。

 北朝鮮は24日午前5時半ごろ、東部咸鏡南道新浦沖からSLBM1発を発射。防衛省によると、ミサイルは東北東方向に約500キロ飛行し、日本の防空識別圏内の日本海上に落下した。

【私の論評】北SLBM、中国の領空・領海侵犯にもドローン哨戒は有効なことが実証された?

この出来事について、ブログ冒頭の記事でも、他の報道でも北朝鮮のSLBMらしいということを報道するのみで、この出来事の持つ意味についてはどこも報道しないので、私がこのブログに掲載します。

これは、何を意味するのか?最初に結論を言ってしまうと、北朝鮮のSLBM、いや他の国のSLBMであっても、ドローンによる哨戒が有効であることの証明になっているということです。
北朝鮮のSLBM
ドローンというと、多くの人は最近普及した、4枚プロペラのドローン(クアッドコプター)を思い浮かべるかもしれません。しかし、そうではありません。軽量の飛行機型の偵察ドローンです。

そうして、このドローンは、皆さんが思い浮かべる軍事用のドローンとも違います。それよりもはるかに軽量で、数ヶ月から半年以上も継続して飛行できるものです。そうして、無論レーダーや他の探知デバイスを搭載するものです。

このような、ドローンも開発済みか、開発途上なのでしょうが、これは現在どこの国にとっても軍事上の最高機密なのでしょう、なかなか表にはでてきません。

日本を防衛することを念頭におくと、日本の上空をいくつかのドローンが一日24時間交代交代で飛んでいて、SLBM などの飛行物体を迅速に発見して、それを地上の部隊に知らせ、対処するというシステムです。

これがあれば、今回のように北朝鮮のSLBM(潜水艦発射型核弾頭)が発射されても、探知できずに、攻撃されてしまうという危険を未然に防ぐことができます。それどころか、現在は中国の航空機の領空侵犯に対する航空自衛隊のスクランブルもしなくても良くなります。あるには、するにしても遥かに楽になります。

飛行機のような固定翼を持つドローン「Parrot Disco
ドローンが空中で監視していれば、中国機が領空を侵犯すれば、即座に相手に対して、警告を発信することができます。さらに、地上からミサイルを発射して迎撃するという行動も迅速に行えます。さらに、現在のように航空機によってスクランブルをかけるにしても、従来よりはるかに前もって、領空の侵犯しそうであるという情報が入手できるので、かなり迅速でできます。

SLBMは潜水艦から発射されるため、深海に潜んでいる潜水艦から発射されると、発射されてからしばらくたってから、これを発見しても、現在の核弾頭は複数の弾頭が搭載されて、それが、どの地域を目指しているのか、それをさらに探知するに時間がかかって、防ぎようがないというのが過去の常識でした。

しかし、どんな時にでもドローンが上空24時間飛んでいるというのであれば、それこそ、上の記事にあるように、女子高生が肉眼で察知して、撮影出来たよりはるかに迅速に、これを発見し、対処することが可能になります。

先に述べたように、このようなドローンはすでに開発済みで世界の空を飛んでいるかもしれません。しかし、日本では未だ開発されていないようです。

しかし、これも技術力の高い日本が本気で取り組めば比較的短期間に、世界最高水準のものを開発できます。軽量化といえば、まずはカーボンファイバーが頭に浮かびまずか、これの技術は日本の独壇場です。

炭素繊維は重さは鋼鉄の20%にすぎないのですが、強度は10倍以上にのぼる素材です。 日本は1970年代から炭素繊維の開発に取り組んできました。細い糸を高温で加熱した後に束ねて作る炭素繊維は化学や繊維加工など各種先端技術が伴います。T1000と呼ばれる東レの高強度炭素繊維製品は戦闘機やミサイルに使われるため輸出規制も受けています。

ボーイングの次期旅客機(B787)のカーボンファイパー使用部位
日本は、このような素材を用い、その他の先端技術を用いることで、空中を数ヶ月間も飛行し、SLBMや哨戒任務にあたる、ドローンを作ることは十分可能です。

さて、空中のドローンに関しては、まだ、想像の域を超えていないのですが、それに良く似たものである、水中ドローンに関しては、すでに日本は開発を終えています。

それは、シーグライダーと呼ばれています。その外観はロケットに似ています。その小さな翼で水中を進み、毎時1キロメートル未満で非常にゆっくり移動します。電力消費量は極めて少ないです。

分解したシーグライダー ワシントン大学応用物理研究室が、
地球温暖化による氷河の変化を観察するため開発したもの
結果として、それは一度に何ヶ月も海中にとどまることができます。2009年には、一挺のシーグライダーが、一回のバッテリー充電のみで大西洋を横断しました。横断には7ヶ月かかりました。

シーグライダーのおかけで、科学者たちは、以前には不可能だった多くの事ができるようになっています。シーグライダーは、海底火山を観察することができます。氷山の大きさを測ることができます。魚の群れを追うことができます。

さまざまな深度で水中の汚染の影響を監視することができます。科学者たちは、シーグライダーを利用して海底の地図を作成することまでも始めています。

シーグライダーはすでに、数ヶ月も継続する任務を遂行することが可能になっています。ところが、日本の研究者は現在、SORAと呼ばれる太陽光発電を使ったグライダーを開発中で、この船は再充電のために2、3日間海面に出れば、その後作業を続けられます。結果として、必要な何年も海に留まることができます。

現在、シーグライダーを製造するにはおよそ15万ドル費用がかかるとされていますが、それがなし得ることを考えれば、その費用は非常に小さいです。シーグライダーを使えば、企業は石油とガスの探索のために海底調査ができますし、政府は軍事情報を収集できます。

上で掲載したシーグライダーを水中に投下するところ
シーグライダーは敵に見つかることなく海面にいる船舶や、近くを通り過ぎる友人潜水艦を特定できます。日本では、軍事転用はまだのようですが、日本の技術をもってすれば、容易にできることです。

空中でもこれと同じように、長時間空中を飛行し、様々な情報を収集して、地上や空中の航空機に伝えることも可能です。

まさに、ブログ冒頭の女子高生が肉眼でSLBMを発見したように、ドローンがこれを発見して、地上や他の航空機に知らせ、迅速な行動をとることが可能になります。

日本としては、今回の北朝鮮のSLBMへの対処や、中国の航空機の度重なる領空、領海侵犯への対処を考えた場合、ドローンによる哨戒や、シーグライターの活用など喫緊の課題でしょう。

そうして、F35 を1機購入することを諦めれば、これらの開発は十分にかなりの余裕をもって可能だと思います。

私としては、なぜブログ冒頭のようなことがあっても、メディアや軍事評論家がこのようなことを言及しないのか、不可解です。

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2016年8月25日木曜日

蓮舫氏が語る経済政策 実行されたなら景気低迷で雇用改善はブチ壊し―【私の論評】財政再建はすでに終わっていることを知らない民進党に先はない(゚д゚)!


蓮舫代表代行
民進党の代表選(9月2日告示、15日投開票)は、蓮舫代表代行が出馬の意向を表明している。蓮舫氏は、野党共闘や憲法改正問題について、基本的には岡田克也代表が敷いた路線を踏襲すると思われるが、肝心の経済についてはどうなのだろうか。

蓮舫氏はロイターのインタビューで、経済政策について語っている。「アベノミクスは行き詰まっている」とし、経済政策については「お金の使い方を人に向けていくことで個人の将来不安の解消を図ることが重要」との認識を示したという。

インタビューでは、マイナス金利政策を含む日銀の金融緩和政策について、前向きな発言はみられない。マイナス金利については撤回を「日銀に促したい」と話している。

ただ、マイナス金利は、金融緩和措置であるとともに、金融機関への不当な補助金を防ぐという意味がある。金融機関は日銀への当座預金によって年間2100億円の利払いを受けてきた。一般企業が金融機関へ当座預金しても、金利はゼロであるにも関わらずだ。金融機関が一般企業から当座預金で受け入れた無利子資金を日銀へ当座預金して2100億円もの利ざやを得ているともいえる。

マイナス金利の撤回を日銀に働きかけるということは、事実上、金融機関への「小遣い」を容認し続けることだともいえる。民進党はいつから金融機関の応援団になったのだろうか。

同党の枝野幸男幹事長はかつて、「景気回復のために、金利を上げよ」との珍説を主張したが、蓮舫氏もそれと同じノリなのだろうか。

いずれにせよ、金融緩和を柱とするアベノミクスに否定的な蓮舫氏は、金融引き締め指向とみられるが、そうなると、金融政策と関連性の高い雇用確保は難しくなってしまう。なぜ民進党は雇用確保に冷淡なのか、理解できないところだ。

次に注目すべきなのは、「個人の将来不安の解消が重要だ」というフレーズだ。これは財務省が社会保障のためという名目で、消費増税を訴えるときの決まり文句である。

本コラムの読者なら、日銀を含めた統合政府ベースでみればネット債務残高は100兆円程度に過ぎず、いまは財政再建を過度に進めるべきときではないことはご存じだろう。それにもかかわらず、相変わらずの緊縮財政路線だとみていいだろう。

蓮舫氏は消費増税を安倍晋三政権が2度も延期したことが間違いだと思っているのだろうか。デフレを完全に脱却しないまま緊縮財政を実行すれば、ますますデフレ脱却から遠のく。金融引き締めと緊縮財政の組み合わせでは、実体経済を痛める可能性が極めて高い。雇用の確保ができないばかりか、GDP(国内総生産)ギャップが拡大して、デフレに逆戻りし、賃金も上がらないだろう。

いま求められているマクロ経済政策は、金融緩和と積極財政であるが、蓮舫氏の政策は真逆の方向のように思えてならない。万一これが実行されたなら、景気低迷と失業率上昇に見舞われ、雇用改善もぶち壊しとなる恐れがある。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】財政再建はすでに終わっていることを知らない民進党に先はない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事、高橋氏は「日銀を含めた統合政府ベースでみればネット債務残高は100兆円程度に過ぎず、いまは財政再建を過度に進めるべきときではないことはご存じだろう」と述べています、これに関しては、最近このブログでもとりあげ、さらに私なりに実際に計算してみて、その計算過程もこのブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
「国の借金」巡るホラー話 財務分析すれば怖くない―【私の論評】鳥越より悪質な都市伝説が現実になる新手の辛坊らの発言には気をつけろ(゚д゚)!
国の借金1000兆円は、真夏のホラー映画のような作り話にすぎない!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、いわゆる国の借金、正しくは政府の負債を私なりに計算して、その計算過程も示しました。その結果では、ネットで計算さらに、日銀を連結した統合政府ベースで170兆円 ということになりました。

高橋氏の計算結果とは異なりますが、それでも100超円台であり、どう考えても1000兆円でないことははっきりしすぎるくらいはっきりしています。

これに関しては、他の方も計算過程を公開しています。そのリンクを以下に掲載します。
財政再建は終わりました
この方の計算では、政府の負債は169兆円となっています。私の計算結果170兆円とほぼ同じです。ちなみに、この方のハンドルネームは、アフロといい、ツイッターのアカンうとは、"@Afro_spirits"です。

いずれにしても、政府の借金1000兆円などあり得ないわけです。この計算自体は非常に簡単です。是非私やこの方の計算過程をご覧になって下さい。

さて、この方の計算は信用できるものなので、以下にいくつかのグラフを転載させていただきます。

まずは、以下は統合政府純債務残高の推移を示したものです。


このグラフから日銀の金融緩和政策の国債の買い入れによって、純債務残高が、2014年度でも政府純債務GDP比は35%まで減少していたことがわかります。

さらに、下のグラフは、統合政府の債務残高の予測まで含めた推移を示したものです。


日銀が国債を買えば買うほど統合政府の政府純債務は減ります。

日銀の年80兆円の国債買い入れペースだと、2017年度には純債務から、純資産になるため、財政再建は完璧に終了することになります。実質的には、2016年度中に終了するか、2016年半ばを過ぎている現在もうすでに終了したと言っても良いくらいです。

蓮舫氏は無論このようなことも理解していないのでしょう。実質財政再建が完了した問つても良いこの時期に、さらなる増税など全く必要ありません。

増税すれば、我が国の60%占める個人消費の低迷を招き、GDPの伸びが阻害され、かえって税収が減ることになるだけです。

さて、民進党の代表戦には、前原氏も出馬するそうです。しかし、前原氏もかなり経済オンチです。

かつて(2013年1月)、前原氏は、デフレの原因は人口減であり、震災直後の円高は震災によるサプライチェーンの分断によるものと語っていました。

前原誠司氏
ご存知のように、デフレは純然たる貨幣現象であり、人口の増減とは全く関係ありません。人口が減った国がデフレになっているかといえば、そんなことはありません。それに震災直後の円高がなぜ起こったかといえば、震災の直後は当然のことながら、復興のためなどに円の需要が伸びるにもかかわらず、日銀が金融緩和措置を取らなかったためです。

こんなことは、小学生でもわかります。円の需要が伸びているときに、貨幣を刷り増すとか、その他の手段でも良いので、金融緩和をしなければ、円高になるのは当然のことです。

前原氏も、蓮舫氏に負けず劣らず、経済オンチで、デフレの原因は人口減など頓珍漢、奇妙奇天烈な考えをもっているようで、これでは、民進党にはまともな経済政策は期待できないようです。

民進党代表選(9月2日告示、15日投開票)をめぐり、共産党との共闘の在り方や、憲法改正への対応といった争点がぼやけつつあるようです。既に立候補を表明し最有力と目される蓮舫代表代行が、党内の保守系、リベラル系双方に配慮して主張に曖昧さを残しているためです。出馬を模索する前原誠司元外相も、自らへの支持拡大を狙って本来の強い保守色を封印しており、路線の違いが見えにくくなっています。


野党共闘について蓮舫氏は、「基本的な枠組みは維持しつつ、さらに検討する」との立場。岡田克也代表ら現執行部の後押しを受ける蓮舫氏は、岡田氏らの方針を大筋で踏襲している。同時に、共産党との連携に批判的な保守系の取り込みを意識し、共闘路線を見直す余地も残しており、5日の出馬会見では「民共」連立政権を明確に否定しています

一方、保守系代表格の前原氏は、赤松広隆前衆院副議長らリベラル系との連携を模索し、持ち前の歯切れの良さを失っています。共産党との選挙協力について昨年11月には「シロアリみたいなものだ。土台が崩れる」と反対していたのですが、8日発売の月刊誌の対談では「政策がないまま枠組み論になることのリスクを伝えたくて、あのような発言をした」と釈明。「政策論議を深め、共闘のフェーズ(段階)を進化させる」と強調し、条件付きながら容認論に転換しました。

憲法改正では、蓮舫氏が衆参の憲法審査会での議論に「積極的に参加する」と踏み込み、保守系議員から一定の評価を受けた。一方で、「9条は絶対に守る」ともしていることから、蓮舫氏の姿勢には「八方美人」(保守系中堅)との指摘も出ています。

前原氏は今年1月のブログで「憲法改正は必要」と訴え、戦力不保持を定めた9条2項の見直しに言及しました。ただ、月刊誌では「国民の間では、9条が戦争への歯止めになっているとの思いは浸透している。慎重な対応を取らなければならない」と軌道修正しました。

民進党の代表戦一体どうなるのでしょうか。共産党の共闘などやめるならやめる、やるならやると、立場を鮮明にすべきです。憲法改正についてもそうです。

さらに、本当なら、経済が争点になっても良さそうなものですが、二人とも上で指摘したような、財政再建はすでに終了したという認識もないくらい経済オンチなので、そうはならないでしょう。

それにしても、野党第一党の代表戦がこのような有様であって良いのでしょうか。

本日、経済史の田中秀臣氏が以下のようなツイートをしていました。
田中秀臣氏は、54歳です。前原誠司氏は現在52歳です。蓮舫氏は48歳です。前原氏も蓮舫氏も田中氏よりは若いです。この二人は、新しい思想やアートの騎手ではありませんが、野党第一党を将来的に背負っていく人物であるには違いありません。この二人も、経済を語ると、財務省の増税キャンペーンのパンフレットみたいな(実際はそれ以下)ことしかいえません。

本当に不思議です。それだけ、官僚の洗脳の成果が大きいということなのだと思います。それにしても、この二人に限らず、今の日本、あらゆる分野で他のことではかなり目利きの人でも、こと経済になるとなぜかほとんど駄目で箸にも棒にもかからない人も多いです。

多くの人は、自分は官僚に洗脳されているかもしれないと、疑ってみるべきです。直接には洗脳されていなくても、間接的に洗脳されている可能性は大きいです。

特に、財政再建がすでに終了しているということを理解しようとしない、しようともしない人は要注意です。しかし、それは他の人に指摘されてもなかなか気づくものではありません。自分で気づくしかありません。

洗脳を解く方法は、私は専門家ではないのでわかりませんが、参考になる記事などはあります。その中から一つご紹介します。以下にそのリンクを掲載します。
マインドコントロールのやり方は簡単。洗脳を解く方法もついでに暴露する

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に洗脳を解く方法を箇条書きでまとめておきます。
①自分を客観視できる「一人三役の思考術」を行う

②あらゆる人の話を聞く

③二元論(善悪)で物事を判断&裁くのをやめる
確かに、この3つを本当に心から実践すれば、たとえ洗脳されていたとしても解ける可能性が高いと思います。特に、あらゆる人の話を聞くことや、物事を二元論で片付けるような思考法をやめるようにすれば、かなり効果があると思います。

自分の嫌いな人や、自分の意見と反対の人の意見も聞くこと、勧善懲悪の単純な考え方から脱却すれば、大方の人の洗脳は解けると思います。

それにしても、民進党の大部分というか、政治家の大部分は財務官僚に相当洗脳されています。このような人は、他の人に操作されやすく、そのため他者に都合よく利用されやすく、どのみちまともな思考などできません。

このままでは、民主党に先はないでしょう。しかし、皆さんの将来がそのようなことであって良いはずはありません。

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2016年8月24日水曜日

日本は「無条件降伏」をしていなかった 教科書が教えない歴史の事実―【私の論評】姑息なドイツとまともな日本では、終戦の意味は全く異なる(゚д゚)!


■無条件降伏のウソ

 8月になると、戦争関連の記事や番組が増える。多くの日本人は、1945年に日本は連合国に対して「無条件降伏」をした、と習ってきたし、今もそう信じている人がほとんどだろう。

 しかし、有馬哲夫早稲田大学教授は、新著『歴史問題の正解』の中で、その見方に異を唱えている。第6章のタイトルは、そのものズバリ「日本は無条件降伏していない」である。

 このような見解を聞くと、「戦争を正当化するある種の人たちのトンデモ説だろう」と警戒する人もいるかもしれない。

 しかし、有馬氏はあくまでも第一次資料をもとに、それを論証している。そこで提示している事実は、私たちが信じ込んでいた「日本は無条件降伏した」という見方を覆す内容だ。

 以下、同書をもとに「無条件降伏の真実」を見てみよう。(「 」内は引用)

■海軍作戦部長も「間違い」

 「無条件降伏の真実」とは

 ルーズヴェルト米大統領が、無条件降伏という方針を唱え始めたのは開戦から1年以上経った1943年のこと。敵国が無条件降伏するまで戦争を止めない、というこの方針に、陸海空軍の幹部はもとより、当時の国務長官コーデル・ハルまでもが反対した。

 なぜなら、このような方針を採れば日本など敵国の徹底抗戦を招き、無用に戦争を長引かせることになる。そうなれば自国の兵士たちへの影響もはかりしれない。

 当時のアメリカ海軍作戦部長にいたっては、このように侮蔑的に述べている。

「このルーズヴェルトのお気に入りのスローガン(無条件降伏)は間違いであることを(戦争が進むにつれて)ますます確信するようになった」

 要するに、大統領が国民受けを狙ってぶち上げた方針に対して、政府も軍人もこれは政治的スローガンにすぎず、早期和平の妨げになると考えていた。

 ところが、ルーズヴェルトがこの世を去り、あとを継いだトルーマンもまたこの方針を受け継いでしまう。そこで、実際の交渉にあたってアメリカから日本に対しては、「無条件降伏」は、あくまでも「軍事的指導者の影響力が除去されること」であって、「日本国民の絶滅や奴隷化を意味するのではない」というメッセージを発していた。

 日本を災厄に導いたのは軍閥であって、天皇でも日本政府でも国民でもない、ということである。

 日本政府側も、このメッセージの真意を受け止めたうえで終戦に向けて動くようになったのである。

■国際法上認められない「無条件降伏」

 有馬氏は次のように指摘している。

「私たち日本人は『日本は無条件降伏をした』と繰り返し教わってきたので、『無条件降伏』という言葉に違和感を持つ者はあまりいない。しかし、国際法の観点から見た場合、『無条件降伏』を相手に求めるというのは、当時も今も、相当異常なことだ、ということは理解しておく必要がある。

 近代の戦争においては、降伏した国から主権や基本的権利を奪うことはできず、まったくの無条件ということありえない。

 もしあるならその国民を皆殺しにし、領土をすべて奪ってもいいことになる。実際、こんなことが出来ないように、1941年に行われた大西洋会談では、すべての国には政体選択の自由、領土保全、交易の自由があり、敗戦国も例外ではないとしている。逆説的だが、無条件降伏という言葉は、何が『無条件』なのかを定義しないと使えないのだ」

 有馬氏は、同書で示した事実に関してはすべて根拠(第一次資料)を明記しているので、事実誤認だと思う方も、根拠をもとに反論してほしい、そうした事実をもとに議論することが重要だ、と述べている。

【私の論評】姑息なドイツとまともな日本では、終戦の意味は全く異なる(゚д゚)!

私にとっては、前々から日本は無条件降伏などしていないことなどは、当たり前の事実であり、20世紀の世界で、戦争をした相手に無条件降伏をさせることができるなら、そもそもポツダム宣言など必要もなかったはずだと思います。だから、このブログには過去に何度か、日本は無条件降伏などしていないと書いています

全国戦没者追悼式のご出席された天皇皇后両陛下
このようなことは、別に一次資料になどあたらなくても、常識を働かせれば、すぐに理解できます。もしそんなことが可能なら、戦勝国が我先に、日本に侵攻して自分の領土を勝手に分捕ることができたと思います。

しかし、現実には、そんなことはなく、アメリカでさえ、ある一定期間日本を統治した、後日本を去っています。20世紀の世界で、戦争で負けた相手に対して、無条件降伏をさせることができるというのなら、当時でも日本は米国と、ソ連に占拠され、今でも北日本はロシア領、南日本は米国領だったことでしょう。しかし、現実にはそんなことは不可能でした。

こんなことは、少し常識を働かせれば、理解することができます。日本は、あくまでも条件つきで降伏したのです。無条件降伏をする状況に追い込まれれば、日本人は全国民がいなくなるまで、徹底抗戦したことでしょう。米国や、ソ連の上陸を許したにしても、後にはゲリラ戦で徹底抗戦をしていたに違いありません。これは、多くの日本人がしっかりと認識しておくべきことです。

さて、こうした終戦にまつわる話では、他にも誤解されていることがあります。

ナチス降伏後のドイツの様子を表紙にした当時のグラフ雑誌「ライフ」
その誤解の最たるものは、ドイツと日本の『降伏』や『終戦』の内容は全く異なるということです。これは、日本人でも、理解していない人が多いです。同じ枢軸国で連合国に負けたのだから同じといった表面的なものだけを見ていては事実を見誤ります。

さらにそれを理解しないと何故ドイツが戦後自虐史観を持たずにドイツの誇りを取り戻すことができ、今や再び欧州の名実共に盟主となったかを理解することはできません。

もし、親しいドイツ人がいたとしたら、「ドイツの終戦記念日はいつですか?」と聞いてみれば、驚くべきことがわかります。

日本人ならほぼ100%日本の終戦記念日を判で押したように、8月15日と答えるでしょうがが、ドイツ人は違います。人によって、答えが違います。実はドイツには全国民に共通な明確な終戦記念日はないのです。

質問した相手によって、答えがまちまちで、5月8日、5月9日、6月6日、7月20日、11月9日あるいはユダヤ系なら1月27日と答えるかもしれません。そうして、これらの日付にはそれぞれ歴史的な出来事があって意味があるのです。

それくらいドイツの終戦というのは認識がまちまちなのです。そのため、国際的にこれでは通用しないし国内でも混乱を招くいうことで、現在のドイツでは終戦記念日ではなく『国民哀悼の日』(11月第3日曜)を設けて国民的な記念日としています。

何故こういうことになっているかといえば、ドイツと日本は『降伏』や『終戦』の経緯やその持つ意味が決定的に違うからです。現在のドイツでは、あるいは多くのドイツ人は、『負けて降伏したのはナチス政権とその軍であって、戦後のドイツの政権はその継承者ではない』という論理が根底にあるからです。

1970年にブラント西独首相がワルシャワで跪いたのも、ナチスの悪行は自分たちと無関係という意識があるため哀悼の意を表明することなど全く平気だったのです。強いて言えばナチスに替わって哀悼・遺憾を表したのです。

ワルシャワで跪いたブラント西独首相
さらにこの論理をよく表しているのが、戦後40年記念でのワイツゼッカー大統領(当時)の有名な演説(1985年)で、ドイツの終戦を、『ナチスの暴力支配による非人間的システムからの解放の日』と定義してみせたことです。

この演説で『過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる』とも言っていて韓国はこのフレーズを恣意的に取り上げているのですが、こんなことより、先のフレーズのほうが遥かに重い意味がありますし、歴史の事実を恣意的に曲解する韓国の指摘全く的外れです。

また、統一後のシュレーダー首相(当時)も60年記念(2005年)で、『連合国による勝利はドイツに対する勝利ではなく、ドイツのための勝利であった』などと、まるでドイツが戦勝国側(連合国側)であるかのような錯覚を持たせるような演説をしています。

東西ドイツ統一の影響もあるでしょうがが、すっかり、『悪いのはナチスであって我々誇りあるドイツではない』と言わんばかりの論理です。何故、こんなことがまかり通るかというと、終戦の時の状況が日本とは決定的に違うからです。

ドイツが降伏したのは政府ではなくナチス・ドイツ軍(正確にはその臨時的な継承者)だということなのです。ヒトラーが死にその政権(=軍)だったドイツは臨時政府に相当する代表(フレンスブルク政府=デーニッツ政府)が5月8日にフランスのランスで降伏文書に調印し、5月9日に首都ベルリンで批准手続きをしたのですが、6月5日に連合国によってこの政府はナチス要人による政府であるため正当な中央政府として認めないとされたのです(ベルリン宣言)。

一方、日本はポツダム宣言を受諾しミズーリ艦上で降伏文書に署名した政府代表の重光外務大臣(文官)が存在したように降伏はしたものの正当な日本政府が厳然として存在していました。
戦艦ミズーリ上で調印式に望む日本側使節団
連合軍に対して降伏したのは、ドイツの場合は『ナチス・軍』であって政府ではなかったのですが、日本の場合は『正当な政府』だったのです。この違いは、決定的に大きいものです。

もし、日本が戦争責任を天皇陛下と軍に全て押し付けて『悪いのは天皇と軍』ということにして戦後の政府は戦前・戦中の政府の継承者ではないといったドイツと同じような定義づけをしていたとしたら戦後処理は全く異なったに違いありません。

そもそも、日本ではドイツ知識人のようなご都合主義など通用せず、戦争責任を天皇陛下や軍部のせいになどするようなことは到底できなかったのです。それに、ナチスドイツと当時の日本の軍部などは、全く異なるものです。ましてや、ヒトラーと天皇陛下を同次元で語ることなど到底できません。

ところで、第一次世界大戦後ドイツ中央銀行は、今日の日銀のようにドイツ中央銀行の独立性により、ドイツの金融政策の目標を定めることができたため、マルクを際限なく刷り増ししたため未曾有のハイパーインフレに見舞われました。

その後、ハイパーインフレは収束したのですが、今度は世界恐慌の煽りを受けてデフレが長引きました。1930年代のドイツでは「こんなに俺たちドイツ人は頑張っているのに、なぜデフレ不況から抜け出せないのだ?ユダヤ人が原因に決まっているじゃないか!」という声が巷に溢れていました。
 
その後のドイツ人が何をしたかは、世界中の人間が知っています。結局、ナチスドイツの台頭を招き、ユダヤ人もドイツ人もとんでもない災厄に見舞われることになったのです。しかし、そんな言説を撒き散らしていた当時のドイツの知識人が、そうしてその史実をナチスドイツを悪魔化することで回避した現代のドイツ知識人が、どのような自己批判をしたかは、誰も知りません。このことは、すっかり忘れ去られているようです。
ナチス党大会
日本はドイツのような姑息なことはせずに、国体の護持を選択し、潔くポツダム宣言を受諾し、あのリンチともいうべき極東軍事裁判の結果を受け入れました。

ニュルンベルク裁判では悪魔であるナチスを裁いたのですが、極東軍事裁判は敗戦国日本(政府、軍)を裁いたのです。

ただし、ドイツにおいてはあくまでナチス・ドイツは降伏したということになっているのですが、日本が国家として降伏したかどうかは学問的にはいろいろな説があります。

降伏した主体がどこかによる違いが、戦後の憲法(基本法)を制定する過程で大きく影響したという説もあります。

戦後の処理において(ナチスの継承者ではない)ドイツは、ロンドン勧告やフランクフルト文書に見られるように、憲法(基本法)制定で2つの条件を出したとされます。(ドイツ連邦共和国基本法)

・議会民主主義
・軍隊の保持

そして憲法は制定するがそれは『ドイツの国民が自由な自己決定を行えるまでの暫定的なもの』である『基本法』であるとされたのです。そのためもあってか、ドイツでは戦後何度も憲法が改定されています。

一方の日本の憲法はそうではありませんでした。先日もアメリカのバイデン副大統領がヒラリー大統領候補を応援した際に語ったように、日本国憲法は、米国が草案したものであり、しかもドイツとは異なり、当時の政府は憲法制定の条件を出すことも許されませんでした。

それどころか、米国によって草案された憲法は、暫定的なものであるとはされなかったのです。ドイツとは、異なり日本国憲法は戦後一度も改定されたことがありません。

そうして、これは、明らかに国際法違反です。戦勝国が、敗戦国に対して、憲法の内容を強要するなど明らかな国際法違反です。

このような日本国憲法は、一日でもはやく捨て去り、一度日本は大日本帝国憲法にたちかえり、そこから、自分たちの手で新たな憲法を創りだすべきなのです。

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2016年8月23日火曜日

慰安婦“捏造”吉田氏の長男が真相激白「父は誤った歴史を作り出した」―【私の論評】吉田を裏で操っていた人物や組織が白日の下に晒されるか?


「新潮45」9月号の表紙

慰安婦問題で、衝撃的なリポートが発表された。朝日新聞は、「慰安婦を強制連行した」という吉田清治氏の虚偽証言を30年以上も放置し、日本と日本人の名誉と尊厳を傷付けたが、ジャーナリストの大高未貴氏が、月刊誌「新潮45」9月号で、吉田氏の長男のインタビューに成功したのだ。「父は大変誤った歴史を作り出した」「世界中の慰安婦像をクレーン車で撤去したい」などと激白する長男と、某国組織の関与が疑われる吉田氏の背景とは。大高氏が、渾身リポートの一部を披露した。

私は十数年前から、日本軍による強制連行説を世界に広めた「吉田清治」という人物に興味を持っていた。吉田証言については、現代史家の秦郁彦氏が、吉田氏が慰安婦狩りの舞台になったと証言した韓国・済州(チェジュ)島で現地調査を行い、1992年に産経新聞でその「虚偽性」を指摘している。吉田氏も96年に週刊新潮の取材に「創作話」であったことを認めている。

安倍晋三首相も、自民党青年局長時代の97年5月27日、衆院決算委員会第二分科会で「そもそも、この『従軍慰安婦』につきましては、吉田清治なる詐欺師に近い人物が~」と指摘し、首相就任後の2007年3月5日、参院予算委員会でも「(吉田)証言はまったく、後にでっち上げだったことが分かったわけでございます」と答弁している。

一連の批判に耐えきれず、朝日新聞は14年になって、ようやく吉田証言を虚偽と判断し、16本の記事を撤回した。

本来ならここで終わる話だ。ところが、奇妙なことに吉田証言は生き続け、世界各国に次々と設置される慰安婦像の説明文に憑依して、国際社会で現在もなお増殖しているのだ。

吉田証言を重要な証拠として採用し、国連人権委員会で日本への非難勧告を行ったクマラスワミ報告も、外務省の申し入れにも関わらず、いまだに撤回されていない。

誤解を恐れずに言えば、吉田証言はプロパガンダとしては大成功だったのではなかろうか。

だが、このプロパガンダを行った「吉田清治」という人物の来歴は、謎に包まれたままだった。生年も出生地も定かではなく、学歴も経歴も不明だ。そして、名前はいくつもある。さほど年齢も違わない朝鮮人を、何故か養子にもしている。一体、「吉田清治」とは何者だったのか?
大高未貴氏
 私は、その謎を解明したい衝動にかられ、吉田氏の長男を訪ねた。長男は関東北部の県で、質素な一人暮らしをしていた。最初の取材で、重たい口から発せられた言葉は、以下のようなものだった。

「父が犯した慰安婦強制連行の捏造について、吉田家の長男として、日本の皆様に本当に申し訳なく思っております。できることなら、クレーン車で世界中の慰安婦像を撤去したい…」

「父の責任は重大ですが、一方で、あれだけの創作話を父1人でできるはずがありません。慰安婦問題を既成事実化したい人々の何らかの関与があったはずです」

それから、私は何度も長男のもとに取材に通った。そして、過去の記憶をたどるうちに、驚愕の事実が続々と明らかになってきた。

「父は済州島なんか行っていません。家で地図を見ながら原稿を書いていました」「謝罪行脚のため訪韓した際、父のパスポートに入国スタンプは押されていませんでした。なぜなら…」

朝日新聞は、吉田氏の戦後の経歴を「サラリーマン」などと報じていたが、吉田氏は人生の大半は定職につかず、その生活費は息子たちが賄っていたという。著作、講演活動を繰り広げながら満足にお金を得ることもなく、生活は常に困窮していた。吉田氏は一体、誰のために、何のために活動してきたというのか?

その謎を解くカギの1つは、吉田家と家族ぐるみで長期にわたって付き合いがあった、神奈川県警の元刑事A氏から教えてもらった。

吉田氏は「朝鮮半島のある組織にお金を借りていた」というのだ。吉田氏の韓国謝罪行脚をテレビで見ていたA氏は「正直なところ、可哀そうだなと思いました。(略)痩せちゃっているし、おびえている姿そのものでしたよ…」と当時の印象を語っている。

誰よりも吉田氏を知る長男の告白は、ジワジワと慰安婦問題の虚構の化けの皮を剥がしてゆくこととなろう。

大高未貴(おおたか・みき

【私の論評】吉田を裏で操っていた人物や組織が白日の下に晒されるか?


吉田清治氏は、本当に不可解な人物です。ブログ冒頭の記事にもあるように、さほど年齢も違わない朝鮮人を、何故か養子にもしています。その養子の実名は李貞郁です。このこと一つとっても、本当に不可解と言わざるを得ません。

この不思議に満ちた、吉田清治の謎について、現在までネットで流布されているもののうち、書籍などの資料の裏付けのあるものについて以下にまとめて掲載します。

平成4年。NHK山口放送局は、吉田清治の“証言”に基づいた番組を企画、数十人を取材したのですが、ウラを取ることはできませんでした。その際、吉田本の出版先は、こうNHK側に説明したのです。

「あれは小説ですよ」

非常にシンプルな結論でした。吉田清治のデビュー作『朝鮮人慰安婦と日本人』(新人物往来社昭和52年刊)も、第二作『私の戦争犯罪』(三一書房昭和57年刊)も、ノンフィクションではなく、架空戦記だったのです。



小説が何故、ドキュメント作品と扱われたのでしょうか。それは、著者の吉田清治自身が自ノンフィクションだと言い張っていたからに他ありません。出版社側も表向き否定することはありませんでした。

しかし、実録作品にしては最初から奇妙でした。吉田清治とはペンネームで、本名は吉田雄兎というのです。個人体験を基にしたノンフィクション作品で無名の新人が筆名を使うケースはかなり珍しいことです。

加えて、吉田のこれらの書籍の最大のセールスポイントは、戦後30年以上を経て当事者が初めて告発したことでした。登場人物の仮名表記は有り得るのですが、「勇気ある告発者」が本名を隠すのはかなり不自然です。

他にも吉田は「東司「栄司」といった筆名を使い、本名を明かすことはありませんでした。歴史家が作品中の「史実」に違和感を覚えても、実名が判らない以上、追跡は困難です。これが吉田本の仕掛けの一つでもあったのです。

吉田の小説に登場する「私」は吉田が創出した架空の人物です。そうして、作者もまた架空の存在に近い正体不明の人物だったのです。

「何が目的でこんな作り話を書くんでしょうか」(『昭和史の謎を追う・下』文春文庫498頁)

済州島の地元紙『済民新聞』の文化部長は92年3月、訪ねてきた日本人にそう聞き返しました。現地を訪れたのは、歴史家の秦郁彦氏でした。地元メディアの素朴な疑問に対し、秦氏は答えに窮したといいます。

昭和史の謎を追う〈下〉 (文春文庫)

この時の現地調査で、吉田清治の嘘は完全に暴かれました。ストーリーに登場する逸話の裏付けが何一つ発見されなかったのです。物語のハイライトである「慰安婦狩り」そのものが創作だと判明した瞬間でした。

「著書は小説だったという声明を出したらどうか?」

秦氏は電話で直接、吉田清治にそう勧めました。現地調査の結果が産経新聞や『正論』で大きく取り上げられてから既に数年後のことでした。しかし、吉田清治は突っぱねました。

「私にもプライドはあるし、八十五歳にもなって今さら…このままにしておきましょう」(『慰安婦と戦場の性』新潮選書246頁)

慰安婦と戦場の性 (新潮選書)

秦郁彦氏
吉田清治に“訂正”を求めたのは、歴史真実派だけではありませんでした。捏造派の生き残り、吉見義明も吉田に「誇張部分の訂正」と原資料だと主張する「妻の日記」の公開を要請したのですが、同様に拒まれました。

「私どもも吉田清治証言が正しいというふうには言っていないわけですね。私の書きました本『従軍慰安婦』でも吉田証言は一切取り上げておりません」(『歴史教科書への疑問』展転社224頁)

歴史教科書への疑問―若手国会議員による歴史教科書問題の総括

吉見義明氏
吉見善明氏は、吉田の小説を著作に引用しなかったことを自負しています。吉田本がフィクション作品であることを暴いた決定打は、秦氏の現地調査ですが、それ以前に吉見らは疑いを抱いていました。

吉田清治が済州島に乗り込んで「慰安婦狩り」を行なったという記述が、デビュー作では「昭和19年4月」なのに対し、2作目では「昭和18年5月」と異なります。単純な設定ミスがあったのです。

そして、小説内で披瀝される経歴も嘘と虚飾に満ちていました。

吉田清治はデビュー作で「本籍地は山口県」と記しているのですが、実際は福岡県芦屋町西浜。そして上京して都内の大学に通ったといいます。朝日新聞は吉田の学歴を法政大卒と報道したが、明らかな詐称でした。

また吉田は、秦郁彦氏に対しては自分は、法政大中退と説明していたのですが、同大学には在籍記録が存在しません。

学歴さえもこの有様ですから、職歴はさらに謎です。昭和14年から約1年間、吉田は日系キャリアの中華航空上海支店で営業所主任を務めていたと自己紹介しています。しかし、元中華航空の関係者で吉田を記憶していた者は皆無でしたた。吉田は当時自らを中華航空の主任だとしているのですが、その主任を誰も覚えていないのです。

秦氏が精緻に経歴を追って事実確認が出来たのは、戦中に吉田清治が労務報国会という半官半民の組織で働いていたことだけでした。そうして、これが慰安婦狩りの実行部隊」として小説に登場する組織です。

過去には、清治について「元日本軍人」と解説されるケースが多く見られました。ウィキペディアでも誤った説明が長い間訂正されず、そのまま残っていました。現在では、訂正されています。吉田雄兎が所属していた労務報国会は、軍とは一切関係のない団体です。

労務報国会は、日雇い労働者の適正配置を促進する目的で昭和17年に設立されました。荒っぽい沖仲士などの労務者と供給・斡旋する業者らの特殊な組織です。そこで吉田は下関支部の動員部長だった自称しています。

秦氏の調査で、当時の吉田を知る人物が複数確認されました。組織にいたことは事実です。同時に、吉田の自称ノンフィクションに最初の疑問が呈されたのも、この組織でした。

「慰安婦狩の命令は西部軍→山口県知事→下関警察署長→吉田のラインで来たとしているが、関係者はこのような命令系統はありえないと否定する」(『昭和史の謎を追う・下』文春文庫498頁)

西部軍とは中国・四国・九州を管轄する帝国陸軍の大組織です。その司令官からの命令書を吉田が受け取ったというのです。プロット段階で話が荒唐無稽すぎます。そうしても゜焦点の慰安婦狩りシーンは当然のことながら全て創作です。



史実どころか自分史をも嘘で塗り固めた吉田清治。その人生で最も不可解なかたちで登場したのが、吉田の息子です。

金永達(キム・ヨンダル)という息子が吉田清治のデビュー作『朝鮮人慰安婦と日本人』で紹介されています。もちろん日本人ではなく、朝鮮人です。そして、この名前もまた仮名です。

実名は、李貞郁(リ・ジョンウク)。秦氏への説明によると、吉田は昭和12年4月に、この李貞郁を養子に迎え入れたといいます。なんと、不自然で唐突すぎる縁組みでしょう。

この時、大正2年生まれの吉田雄兎は24歳。設定では大学卒業直後の独身者です。一方の李貞郁は、大正6年生まれの20歳でしたた。4歳年下の朝鮮人を養子として入籍させたとうのです。

吉田の小説では、息子は同じ昭和12年に満州に渡って日本人教師と結婚。そして陸軍に入隊し日支事変で戦死したことになっています。しかし、現実は違います。

「養子にした李貞郁は、戦後は日本人として生活していたので、差別を避けるため金永達の仮名を用い、戦死していたことにしておいた」(『慰安婦と戦場の性』244頁)

嘘が暴かれてから4年後の平成8年、吉田は秦氏にそう明かしました。悲劇的な息子の戦死シーンは完全な創作だったのです。それでも吉田清治は、著作がフィクションであることを認めようとしませんでした。

秦氏の質問に対し、吉田の息子・李貞郁は昭和17年に妻帯し、58年に死亡したと答えています。また生前の職業は、労働組合の幹部だったといいます。

奇妙なストーリーです。朝鮮人を養子に迎えるには、相応の背景なり理由があるはずですが、吉田は何も語っていません。24歳の独身男が朝鮮青年を養子にするという異常事態に親兄弟ら縁者らは反対しなかったのでしょうか。

吉田清治とは一体何者なのでしょうか。プロフィールを調査していた秦郁彦氏は、学歴を辿る過程で、衝撃的な事実に出くわしまし。吉田雄兎は、戦前に死亡していたのです。

昭和初頭、吉田雄兎は地元福岡の門司市立商業高等学校に入学しました。同校は大正7年創立の伝統校で、現在は福岡県立門司大翔館高校へ名称を変更しています。

その門司市立商高の昭和6年度卒業生名簿には、吉田雄兎「死亡」と記されていたのです。何らかのミスがあったようには思えません。

我が国の戸籍制度は戦前から厳格で、軽々に市民を死亡扱いとすることはありません。公的な資料とも言える公立校の卒業名簿で死亡者になっていたことを覆すことはかなり困難なことです。

福岡は吉田の出身地です。親兄弟・親類縁者が身近に居れば、卒業名簿で「死亡」と誤表記される事態になることはあり得ません。非常に不自然です。実際の戸籍上では、どのような扱いなのか興味が尽きないところです。

そして、高校での死亡扱いから40年余り、吉田雄兎の本名を持つ、異形の架空戦記作家が世に現れたのです。果たして、吉田清治の筆名を名乗る男と卒業名簿で死亡扱いだった吉田雄兎は同一人物なのでしょうか。

吉田本には、両親や他の家族にまつわるエピソードが殆ど登場しません。偽りの個人史の片隅に出てくるのは、唐突に養子にした“息子”李貞郁と昭和19年5月に結婚した妻のフサエです。

吉田清治こと吉田雄兎(読売)
ドキュメントを偽装するにしても、小説として、少年時代や家族の逸話をバッサリ削ることは構成的に不自然です。

いったい、吉田清治こと吉田雄兎は何処から来て、何処に消えたのでしょうか。

平成28年の現在でも、吉田清治は生きています。この現代社会で生きていることになっているのです。正確に言えば、死亡が確認されていないのです。

吉田清治こと吉田雄兎の生年月日は、大正2年(1913年)10月15日。実に100歳を超えている。現在なら、かろうじて生きていても決して不思議ではない年齢ではあります。

しかし、今世紀に入ってぷっつりと音沙汰が途絶えています。秦郁彦氏が自白を引き出したのが、最新の発言になるかも知れません。これは、18年前のことです。当時、吉田雄兎は85歳と話していました。その頃の写真をみても、かなり老けています。

もし、今も生きているなら吉田雄兎は、どこに居るのでしょうか。養護施設で暮らしている可能性もあるでしょうが、それを示唆する情報も皆無です。稀代のダークヒーローとして盛んに取り上げた反日メディアも、吉田の消息について一切触れていません。

我が国では年間に約1000人程が行旅死亡人として埋葬されます。行旅死亡人とは、行き倒れ人など身元不明の死亡者のことです。ドヤ街を転々とし、身寄りもIDカードも持たず、ひっそり他界する者も少なくありません。

しかし、吉田は住所不定の労務者とは違います。著作権所有者は、個人情報満載の「著作権台帳」を活用すれば追跡が容易いです。そして、著作権切れを判定する必要から、死亡年月日の確認は重要です。

それでも出版元を介した情報もありません。ミステリーです。特定の狭い専門分野でもあるにせよ、吉田清治は国連リポートにも名を刻む著名人です。クマラスワミ報告書にも、引用された書籍を書いた人物です。そして反日陣営が頼る、唯一の加害側証言者です。

この吉田が、捏造慰安婦騒ぎが拡大し続ける中、現代の日本社会で十数年も隠棲することが可能なのでしょうか。まるで闇に消えてしまったかのようです。

生まれも育ちも末期までも、その人生すべてが曖昧です。正体不明の詐欺師・吉田清治こと吉田雄兎。ハッキリと残っているのは、この男の捏造話で我が国が受けた大きな傷跡だけです。

以上の事実は、別に新しい発見でもなんでもなく、様々な書物などに断片的に書かれていたものを掲載しただけのものです。

しかしながら、今回ブログ冒頭の記事にある通り、吉田清治の長男とされる人物が現れただけではなく、大高氏がインタビューしているというのです。

これで、少なくとも吉田清治が生きているのか、死んでいるのか、なぜあのような小説を書き、それをフィクションと偽ったのか、明るみに出るかもしれません。

これをきっかけとして、元々は、吉田清治のせいで修正された過去の誤った歴史が、正しいものに完璧に改められることを期待します。そうして、なぜ歴史が修正されてしまったのか、吉田清治の息子へのインタビューでとどまることなく、その真実に迫っていただきたいものです。

家族が見つかったのですから、そこから多くの人脈に、多くの人があたれば、さらに多くの事実が明かされるはずです。どんどん明らかにしてほしいものです。

また、長男とされる人も、勇気を持って様々なことを明らかにしていただきたいものです。何よりも、吉田清治とされる人物を裏で操っていた人物や組織を白日の下にさらしていただきたいものです。

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2016年8月22日月曜日

【宮家邦彦のWorld Watch】見るも無残な最近の中国外交 なぜこうも裏目ばかりが続くのか ―【私の論評】中国に騙されないために、世界を騙そうとする中国の最悪のテクニックを学ぼう(゚д゚)!


北京の人民大会堂で握手を交わすスーザン・ライス
米大統領補佐官(左)と中国の習近平国家主席。7月25日

最近の中国外交は見るも無残。やることなすこと、ことごとく裏目に出ている。原因は何なのか。まずは事実関係から始めよう。

【南シナ海問題】フィリピンが中国の人工島問題を仲裁裁判所に提訴したのは2013年。昨年10月、同裁判所は中国にも配慮してか、比側主張の一部にしか管轄権を認めなかった。にもかかわらず、中国は同裁判所に一切協力せず、無視を決め込んだ。案の定、本年7月の判断では中国側主張の多くが否定された。外交的にはあまりに稚拙なやり方だ。

【日中関係】14年11月の日中首脳会談以降も両国関係は進展していない。それどころか、最近尖閣諸島付近では中国公船・海軍艦船の活動がエスカレートしている。こうした動きは日米同盟を一層強化させるだけなのだが、解放軍など対外強硬派は国内の国際協調を求める声など意に介さない。

【米中関係】一連の首脳会議でオバマ大統領が習近平主席に求めたのは南シナ海の非軍事化と米私企業の知的財産権へのサイバー攻撃の中止だ。しかし解放軍が関わるためか、習氏はゼロ回答を繰り返す。米国はサイバー戦担当の現役中国軍人を起訴し中国が造った人工島沖にイージス艦を派遣した。

【北朝鮮】中朝間の軋轢(あつれき)が始まったのは80年代から。当時訪中した北朝鮮の金正日総書記は改革開放を始めた中国を「修正主義」と批判した。90年代以降、金総書記は先軍政治の下で核兵器開発を始める。中国は緩衝国家たる北朝鮮を見捨てることができない。金一族は中国外交の足元を見て生き延びたのだ。

【韓国】一時は蜜月に見えた朴槿恵(パククネ)韓国大統領との関係も悪化しつつある。中国が反対する中、韓国は最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備に踏み切った。中国は猛反発し、韓国批判キャンペーンと報復措置を打つも後の祭り。中国が韓国に投資してきた外交的資源は無駄になった。

【台湾】中国は馬英九前総統の台湾との関係を深めたが、今年1月の総統選で民進党・蔡英文氏の当選を阻止できなかった。ここでも中国外交は投入した資源に見合う成果を上げていない。

 最近の成功例といえば、歴史問題でロシアを対日批判に取り込み、アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立で欧州を巻き込んだことぐらい。でも、筆者の関心は中国外交の失敗自体ではない。その裏にある理由は共産党中枢の国際法「音痴」だけではないだろう。筆者の仮説はこうだ。

 ●今の中国には一貫した戦略に基づく外交政策につきコンセンサスがなく、政治局常務委員7人の中にも外交的知見を持つ者がいない。

 ●この外交的真空状態をめぐり、自薦他薦の政治プレーヤーたちは敵対者を陥れるかのように競い合うから、外交政策は場当たり的に決まる。

 ●論争は恐らく重層的だ。政策面では、韜光養晦(とうこうようかい)型国際協調派と民族主義的対外強硬派が綱引きを行っている。

 ●一方、権力闘争の面では、習主席の周辺で彼の仲間と政敵たちが、政策とは別の次元で綱引きを続ける。この2つは相互に関連し合う。

 ●問題は現在国際協調派の力が弱いことだ。仮に、国際協調策が進んだとしても、不満を持つ対外強硬派には、そうした流れを潰せるだけの物理的パワーがあるからだ。

 最近の中国のちぐはぐな動きもこれで一応説明可能なのだが、これを具体的に検証することは非常に難しい。

 満州事変(昭和6年)を起こした85年前の日本にも政治の中枢に外交的真空があった。当時日本の政治指導者には現場の独断専行を制御するだけの外交的知見がなかったのだ。中国が似たような状況に陥ることはない、と誰が断言できるだろうか。

【プロフィル】宮家邦彦

【私の論評】中国に騙されないために、世界を騙そうとする中国の最悪のテクニックを学ぼう(゚д゚)!

ブログ冒頭の宮家氏の記事では、最近の中国外交は失敗続きであるとしています。実際、そうです。しかし、これはもともと中国外交がうまくて、最近は駄目になったということではないと思います。

中国外交の基本は、数十年前から変わらず、過去も現在も下手くそです。ただし、過去においては、まわりから発展途上の未熟な国ということで、周りの国々も、寛容であまり目立たなかっただけの話です。

最近では、中国自身が喧伝しまくったように、あたかも大国であるかのように周りの国々に信じこませたため、元々外交など稚拙だったのが目立つようになっただけの話です。真の中国は、人口が多いだけの中所得国であり、このブログでも掲載したように、中所得国の罠にどっぷりとはまり、そこから抜け出せそうにもありません。

先進国と、非先進国との間には、埋めがたい溝があります。それは、日本とアルゼンチンという二国の歴史を振り返ればわかります。先進国から非先進国に、非先進国から先進国になることは滅多にありません。

その例外が、日本とアルゼンチンです。日本は、発展途上国から、先進国に転換しました。それとは逆に、アルゼンチンは先進国から、発展途上国に没落しました。中国も、この壁を乗り越えることができずに、中進国のままであり続けるでしょう。

さて、日本では2010年あたりまでは、中国外交をしたたかと見る向きも多かったのは事実です。しかし、私は中国外交がしたたかとか、優れているなどと思ったことは一度もありません。

実際、2010年にはこのブログで、中国外交の稚拙さについて分析をしたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
騙されないために、人を騙そうとするテクニックを学ぼう―【私の論評】これは、国対国の外交にも通じるテクニックだ!!中国は外交の落第生?
人を騙して操ろうとする人がいる、国も同じく他の国を騙して操ろうとする
この記事の元記事は、ライフハッカーのもので、この記事のリンクは今でも生きています。以下にリンクを掲載しておきますので、興味のある方は是非ご覧になって下さい。

騙されないために、人を騙そうとするテクニックを学ぼう

ライフハッカーでは、人を騙すテクニックとして以下の事項をあげています。
■感情を操って論理的な決断をさせる 
■自分の感情をコントロールする 
■チャーミングで魅力的な人間だと思わせる 
■信用させ、疑いを晴らすそうとする 
■羊の皮をかぶった狼
このブログ記事の中で、私はこの5つのテクニックは、国と国でも相通じるテクニックであるとして、このテクニックを中国に当てはめて論評しました。

その内容を以下に引用します。


"
■感情を操って論理的な決断をさせる
中国にとって得な方の選択肢を、日本に「これが正しい選択なんだ」と、感覚的にでも信じさせることができれば、日本は自分で考えて選択したのだ、と思い込みます。だから、漁船を追突させたり、反日デモをしかけたりして、いかにも何か問題があるように感情に訴えかけます。さらに、レアアースの実質的な禁輸、その他日本観光の中止や、様々な手段を講じて、怒りや、憤りの感情、恐怖心を煽っています。感情を操る方法というのは、多かれ少なかれこのようなロジックに基づいています。
■自分の感情をコントロールする
相手に共感させたり、恐怖心を抱かせたり、必要に応じて相手の感情を自由自在に操るためには、自分の感情をコントロールすることが重要になります。自分の感情がコントロールできる中国は、日本の国民感情をもコントロールできる能力を持とうとしている可能性が高いです。
■チャーミングで魅力的な人間だと思わせる
いつもニコニコしてみんなに好かれている人が、突然感情的な一面を見せると、絶大な効果があります。相手の感情をコントロールする人は、ただ演技をするだけでなく、演技が効果的に使えるよう、常日頃から布石を打っているのです。怖いですね...。
中国も同じことです。このブログでは、中国は、第二の経済大国になっている可能性はかなり低いし、実体はボロボロであることを掲載しましたが、 世界各国に対して、魅力をアピールするために、出鱈目の経済報告などを平気で出しています。
さらに、オリンピックや、万博などを国威発揚に利用し、さらに魅力を演出しています。さらに、将来の発展性などさかんにアピールています。この点では、中国は十分成功しているようにみえます。
しかしながら、このような手は、マスコミには通じるものの、アメリカをはじめとする、各国の情報機関までは騙し通すことはできません。なにせ、日本に住んで、中国になどほとんど行ったこともないような私でも、中国の内情をかなり知ることができます。 
■信用させ、疑いを晴らすそうとする
このへんの配慮は中国には欠けているようです。強硬策ばかりとっていては、日本側は疑いぶかくなるばかりです。この点からすると、中国は落第です。このあたりは、やはり、ドイツやイギリス、フランスのほうがはるかに優っています。これに関しては、アメリカも下手ですね。
■羊の皮をかぶった狼
最初、これを見たときは、文字通りのことを頭に思い浮かべ、民主化もされておらず、法治国家化もされていない、チベットやウィグルを平気で弾圧する中国、建国以来、暴動が絶えず、最近でも、小さなものまで入れると、年間で2万件もの暴動(ブログ管理人注:最近では10万件と言われています)がおこる中国の姿にびったり当てはまると思いました。しかし、この意味するところ、良く読み込むとこれとは、全く異なるようです。
このテクニックの趣旨は、自分を善人だと信じさせるためには、ひたすらネガティブな感情を表に出さないということです。相手の行動を批判したり、例え誰かが間違いを犯したとしても、その人のことを批難したりはしません。徹底的に思いやりのある利他主義者を演じるのです。
利己的な中国は、こうした利他主義を演じることができず、この点からは全く外交になっていません。 中国側としては、日本側が「尖閣の領土問題に関して棚上げ」に賛同すれば、ころりと態度を変えて、「羊の皮をかぶった狼」を演じる腹積もりだと思います。しかし、その前の段階で、かなりネガティブな感情を演出し、日本の行動を批判しています。
 この内容、今でもそのまま通じるようです。中国の外交はこの頃と少しも変わっていません。それにしても、なぜこのようなことになってしまうのか、そのヒントはアメリカの戦略家であるルトワック氏が提供しています。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事を以下に掲載します。
【湯浅博の世界読解】「自滅する中国」という予言と漢民族独特の思い込み―【私の論評】すでに自滅した中国、その運命は変えようがない(゚д゚)!
孫子の兵法書
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にルトワック氏の見解からまとめてみます。

まず第一に、中国が巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っているということがあります。中国では、国内が最優先である、外国は二の次です。実際、中国の外相の地位は、他国のそれと比較すると低いです。

現在の中国の外省王毅は200人以上いる党中央委員の一人にすぎません。日本の場合、外相は重要閣僚で、中国で例えるなら「チャイナ・セブン」といわれる党政治局常務委員クラスです。米国でも外交を担う国務長官の地位は極めて高いです。記憶にある範囲で、中国の外交畑から副首相、党政治局委員にまで昇進したのは1990年代の銭其●(たまへんに探のつくり)の例くらいです。

エドワード・ルトワック氏
第二に、中国人(漢民族)は自分たちを"孫氏の兵法"で有名な戦略家孫氏の末裔であり、無意識に自分たちの戦略は優れていると思い込んでいます。しかし、現実にはルトワック氏が「過去千年間に漢民族が中国を支配できていたのはそのうちの3分の1である」と指摘するように、漢民族が戦略的に長けているとはといも言えない状況です。彼らは、自らの権謀術数に自惚れているだけです。

にもかかわらず、彼らは、古代からの漢民族の「戦略の知恵」をかなり優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによって信頼を失っています。

戦車も、空母も、人工衛星も、潜水艦や核兵器やインターネツトさえなかった、古代の戦略を過度に信頼しても、現代に通用しません。それでも、今でも参考になることはあります。しかし、現代の中国と、古代の中国は歴史的にも完璧に分断した別ものです。にもかかわらず、彼らは、その知恵の継承者は自分たちであると信じて疑っていません。

「内向き」で自分たちの「古代の戦略の知恵」を「他文化」にまで適用するような国の、外交が優れたものになるなどということはあり得ません。

ルトワック氏のこの見解は、『自滅する中国』という書籍の中で展開しています。ルトワック氏が指摘するように、いずれ中国は自滅して、現体制は崩れ去ることでしょう。

私は、中国の崩壊は、外交上の大失敗から始まるものと思っています。ルトワック氏が指摘する中国の自滅の端緒となるのは、外交の崩壊です。

ブログ冒頭の記事で、宮家氏が指摘する中国外交の最近の失敗続きは、その前兆とみるべきです。

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