2018年1月12日金曜日

謝った「ノストラダムス」作家 財政破綻の予言も外れっぱなし、そろそろ謝罪していいのでは―【私の論評】財政破綻派は謝罪しないというなら破綻して無害な存在になれ(゚д゚)!

謝った「ノストラダムス」作家 財政破綻の予言も外れっぱなし、そろそろ謝罪していいのでは

ノストラダムスの肖像画 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
 1970年代に『ノストラダムスの大予言』がベストセラーになった作家、五島勉氏のインタビューが話題になっている。「1999年7月に人類が滅亡する」と信じた子供や若者は多かったが、現実にはならず、五島氏は「当時の子供たちには謝りたい」と述べたという。

五島勉さん。昨年88歳になった
 一方、経済分野での有名な「予言」といえば、「日本の財政は破綻する」というものだ。これもノストラダムスと同様、現実にはなっていないのだが、謝罪した人がいるとは聞いたことがない。

 財政破綻の問題は、一部の好事家だけの対象ではなく、経済学者の間でも心配する声は大きい。東京大学金融教育研究センターでは、主要な国内経済学者をメンバーとして「『財政破綻後の日本経済の姿』に関する研究会」を2012年6月から14年10月まで開催していた。その問題意識は「もはや『このままでは日本の財政は破綻する』などと言っている悠長な状況ではない」とし、「財政破綻後の状況や破綻後に直面する国民的課題・政策課題に焦点を合わせた議論・研究を開始する必要がある」というものだった。

『財政破綻後の日本経済の姿』に関する研究会のメンバーリスト
 経済学者による「財政破綻本」もかなり出ている。10年11月には『日本経済「余命3年」』、13年2月には『金融緩和で日本は破綻する』という書名の本も出版されたが、破綻は現実には起こらなかった。財政破綻は面白い材料なのか、ほかにも類書は少なくない。



 財政破綻を20年近くも主張している国会議員もいる。筆者が国会に参考人として呼ばれた際、「予言は当たっていない」と指摘すると、「当たっていないことは認めるが、言わざるを得ない」と述べていた。実現したら困るので、根拠がなくても言う必要があるというのでは、ノストラダムスの予言と大差ない。

 元財務官僚の筆者の経験からいっても、財政当局は、国内では財政破綻論は増税の根拠にできるので、放置している。むしろ、財政破綻論を書きたい著者には財政資料をレクチャーするなどして後押しすることもある。10年6月の『絶対に受けたい授業「国家財政破綻」』はその典型例だが、一方で「財政破綻しない」という筆者の意見も掲載されている希有な本だ。


 財政破綻を信じる人はさまざまだ。財務当局やマスコミが訴える「財政危機論」を信じているだけの人も多い。

 東大の研究会の場合、債務残高対国内総生産(GDP)比が他国に比べて大きく、財政が維持できないことが数式で示されている。しかし、その式が成立するには、単なる債務残高ではなく「ネット債務残高」である必要がある。

 バランスシート(貸借対照表)の右側(負債)だけでなく、左側(資産)を含めた両方を見る必要があるのに、東大の研究会では誤解しており、その誤解が直されないままその後の議論が行われている。

 間違った前提から正しい結論は導かれないので、予測が外れるのはある意味当然だ。東大の研究会は活動を停止したらしいが、関係者は謝罪してもいいのではないか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】財政破綻派は潔く謝罪せよ(゚д゚)!

ブロク冒頭の記事にでてくる、五島勉氏のインタビューでの謝罪とは、週刊文春のインタビュー記事にでてくるものです。その記事は文春オンラインでも読むことができます。以下のそのリンクを掲載します。


作家・五島勉インタビュー #1

以下に文春オンラインのインタビュー記事から、五島氏の謝罪の部分だけ掲載します。

五島 弁解するわけではないんだけど、私は「大予言」シリーズの初巻の最後に、「残された望みとは?」という章を書いていて、予言を回避できる方法がないか考えようと言ってるんです。もちろん、米ソの対立とか核戦争の恐怖とかがあって、ノストラダムスが警告した状況が来ることは間違いない。それは破滅的なことかもしれないけど、みんながそれを回避する努力を重ねれば、部分的な破滅で済むんだということを書いたんです。だからこの本は、実は部分的な破滅の予言の本なんです。 
 だけど、私がこの本を書くとき、ノンフィクション・ミステリーという手法に挑戦したことで誤解を生んでしまった。ミステリーが最後にどんでん返しをするように、初めに全滅するんだと書いておいて、最後になって人類が考え直して逆転して、部分的な破滅で済むんだと、それに向かって努力しなければならないと書いたんです。だけど、ここのところをみんな読まないんです。 
―― たしかに多くの人が、1999年7月に全滅するんだと信じていましたね。 
五島 ただ、私はそのことをちゃんと主張できるけど、当時の子どもたちがね。まさかこんなに子どもたちが読むとは思わなかった。なんと小学生まで読んで、そのまま信じ込んじゃった。ノイローゼになったり、やけっぱちになったりした人もいて、そんな手紙をもらったり、詰問されたりしたこともずいぶんありました。それは本当に申し訳ない。当時の子どもたちには謝りたい。
私は、「ノストラダムスの大予言」と、その続編の「続ノストラダムスの大予言Ⅱ(五島氏著)」も読みました。そのため、五島氏の主張は理解していました。

その当時の理解は、確かに世界の破滅はあり得るが、努力すればそれは回避できるだろうというものでした。



そうして、成年に達ししばらくすると、この書籍のことはほとんど忘れてしまいました。特に経営学の大家ドラッカーの書籍を読むようになってからは、ほとんど忘れてしまいました。

特にドラッカー氏が著書の中で未来予測について、以下のように語っていることを知り、未来予測は全く無意味であることを納得しました。

「未来を予測しようとすることは、夜中にライトをつけず、リアウィンドウを見ながら田舎道を運転するようなものだ。」

日本が滅多なことで財政破綻しないことはこのブログでも何度か掲載してきました。以下に新たにその根拠を掲載します。日本が財政破綻しないことなど、1分もあれば論破できます。

その意味では、この書籍は今の私にとっては、何の影響力もありません。おそらく、多くの人がこのような状況にあるものと思います。

それでも、五島氏は謝罪と、あの書籍の意図したことをはっきりとインタビューで応えています。これは、なかなかできないことなのかもしれません。

実際、多くの「財政破綻論者」が今でも謝罪などしていません。しかし、「日本が財政破綻しないこと」はあまりにもはっきりしており、このブログでも何度かその理由を掲載してきました。本当にこれは、1分もあれば論破できることです。以下に再度論破してみせまょう。

細かな数字は脇に置いて、日本の借金は1000兆円とされます。一人当たり800万円となり、一般家庭に置き換えて、給料が40万円なのに90万円の使っていて、1000万円の借金がある。だから破綻する。こう脅す説明では「日本の資産」について触れません。

無駄な支出は減らすべきですが、日本には大雑把にいって700〜800兆円の「資産」があります。こういうと、財政破綻論者は「ドヤ顔」で、資産はすぐ売れるとは限らないからやっぱり危ないといいます。しかし、それも論破できます。「資産」といった場合様々なものがありますが、日本政府の資産で一番大きいの純金融資産です。すぐに換金できるものがほとんとです。

金融資産とは、政策投資銀行(旧日本開発銀行)やUR都市機構(旧住都公団)などの特殊法人、独立行政法人に対する貸付金、出資金です。

もしそれらを回収したらどうなるかといえば、仮にこれらを民営化か廃止すれば回収ということになりますが、政府が破綻するということはまったくなく、役人の天下り先がなくなるだけの話です。

つまり、日本の借金なるものは200〜300兆円で、これはかなり大きいと見る人もいるかもしれませんが、世界水準でGDP比で見れば、決して突出した数字(割合)ではありません。このような見方をすれば、米英よりも少ないです。

財政破綻派が、1000兆円の借金と切り出した時点で「嘘」と思って間違いないです。

さらに、借金といえばサラ金や銀行からの借り入れをイメージしますが、日本国の借金の大半は「国債」によります。日本国債を買うのは国民や国内企業・金融機関です。外国の機関投資家などが購入するのはほんの数%にすぎません。これをわかりやすく例えれば、親が子どもから金を借りているようなものです。

つまり家庭内でお金が循環しているということで、これで家計が破綻した事例などありません。

「財政破綻論」を主張していた方々は、高橋洋一氏が主張しているようにやはり謝罪すべきと思います。そうでないと、主張していた方々自身が次のステップに進むことができないでしょうし、何よりも多くの人々に誤解を与えたままになってしまいます。

私の経験でいうと、私の母がなくなってから少ししてから、もう使わなくなった母のお茶の道具類を、古物商に引き取りにきていただいたのですが、その時の鑑定士が女性でしたが、その女性が「円が心配、無価値になるのでは」と語っていました。この女性は日本の財政破綻を心配しているようでした。

その、女性はそのような心配は全くないことを、上記のような説明も加えながら話をしました。このような無用な心配を多くの人々にさせるのは、本当に良くないことだと思います。財政破綻派があくまで謝罪しないというのなら、ご自身が破綻すべきと思います。

破綻して、発言力も何もなくなり、無害な存在になっていただきたいです。

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2018年1月11日木曜日

中国共産党が恐れる郭文貴を直撃 「宿敵・王岐山を絶対潰す」―【私の論評】郭文貴氏未報道は、日本メディアの偏向を暴露(゚д゚)!


郭文貴
 「ニイハオ、ニイハオ。我是郭文貴」--マンハッタンの五番街に面し、セントラルパークを見下ろす高級コンドミニアムの18階。そのフロアをまるごと所有する男が、合掌をして笑顔で出迎えた。

 男の名は郭文貴(かくぶんき)。身体は筋肉質で、胸元に山吹色のネクタイが輝く。不動産開発業や投資によって180億元(約3054億円、一昨年時点)の資産を築いた大富豪だが、初対面では礼儀正しい印象の人物だ。

 だが彼の素顔は、かつて北京五輪がらみの公共事業に食い込み、中国の情報機関である国家安全部(国安部)や公安部とも協力してきた筋金入りの政商である。2014年、親交のある国安部元副部長・馬建の失脚を前に海外へ逃亡した。

 やがて昨年春、自身が中国政府に国際指名手配を受けた前後から、郭文貴は様々なメディアや自身名義のYouTubeなどで多数の党高官のスキャンダルの「爆料」(暴露)を開始。中国政界に激震をもたらしはじめた。

 特に苛烈な攻撃を加えたのは、習近平政権第1期に党中央紀律検査委員会(中紀委)を率いて汚職摘発の辣腕を振るった王岐山(おうきざん)と、公安・司法部門のトップだった孟建柱(もうけんちゅう)だ。

王岐山(おうきざん) 写真はブログ管理人挿入
 郭は王岐山について、大手エアライン海南航空との一族ぐるみの癒着、隠し子の存在や女優との醜聞を暴露。また孟建柱についても、愛人と隠し子問題、江沢民派による権力奪取目的の秘密会合「南普陀会議(※注1)」への出席などを明らかにした。

 【※注1/習政権の成立前、江沢民派が開いたと郭が主張する秘密会議。胡錦濤の腹心・令計画の息子の暗殺が決定されたという(公的には事故死とされる)】

 内容の信憑性に疑問の声も上がるが、稀代の梟雄・郭文貴の弁才がフルに発揮されたネット動画には独特の魅力もあり、国内外の多数の中国人を惹きつけている。

 中国共産党が最も恐れる男・郭文貴。2018年、彼が採る次の一手は何か? ニューヨークで2時間にわたり本人に直撃した。

孟建柱(もうけんちゅう)
 --一連の暴露で、王岐山と孟建柱への攻撃が特に激しい理由は何でしょうか?

 「3点ある。第一は法治に反した王岐山らへの反抗だ。中紀委を握った王の権力は肥大し、反腐敗を口実にやりたい放題だった。孟建柱も警察機構・検察院・裁判所を押さえていた。連中は強大な権力を背景に国家を盗み取った「盗国賊」だ。こうした悪人どもに打撃を与えるには、秘密の暴露こそ最強の攻撃なのだ。

 第二は、私自身や大事な人たちへの迫害だ。王岐山らは私の帰国を要求し、家族と200人余りの従業員を脅迫した。彼らを守らなくてはならない。また、私の中国国内の資産の差し押さえも不当で、断固抗議する。

 第三に、私は中国の情報機関に長年協力してきたので、王岐山や孟建柱の過去を知っている。2000年代後半、馬建と当時の中紀委はすでに王や孟の乱倫や汚職を調査していたのだ」

 --仮に弱みを握られていたなら、壮絶な逆襲を受けるのは明らかなのに、王岐山らはなぜ郭さんの摘発を考えたのでしょう?

 「ここまでの逆襲は予想外だったのだろう。普通、中紀委や公安に逆らう中国人は皆無だからな。

 しかも、私は2006年の劉志華(※注2)の失脚の際も、当時の北京市長だった王岐山とやり合っている(笑)。まさか2度も逆らうとは思わなかったに違いない」

 【※注2/北京市元副市長。五輪インフラ整備に携わったが失脚。郭が籠絡していたとの説がある】

 --習政権第2期、王岐山は常務委員(党最高幹部)に残留せず、孟建柱も中央委員を外れました。暴露の影響はあると思いますか?

 「当然だ。なかでも王岐山は海南航空との癒着問題、孟建柱は彼の隠し女児と南普陀会議への参加が決定的なダメージになった」

 --他にも様々な党幹部の醜聞を公開しています。次のターゲットは?

 「それは言えない(笑)。大事なのは、私の家族や従業員や資産に害を与えているのは誰かということだ」

 --習近平の一族にも汚職疑惑があります。従来、習を直接批判していないのはなぜでしょうか?

 「習主席に善悪の評価を下すのはまだ早い。仮に彼がヒトラー式の独裁をしたり、世界の平和を乱すなら問題だが、そうではないから。私は習主席が中国の法治・民主・自由にどのような姿勢を示すか注目している」

習近平
 --一連の暴露行為の情報ソースは何ですか?

 「多くのチャンネルがある。王岐山の海南航空癒着問題を例にすれば、国安部の馬建が以前から調べ上げていた。また富豪ゆえの人脈もある。

 私は海航の幹部何人かと親しく、また日米を含めた各国に、同社の関係者と私の共通の友人が何人もいる。王ではつかみ切れない世界だろう(笑)。ただ、最も重要なソースは国安部経由で得ている」

 --党幹部が政敵の失脚を目的に情報提供する例は?

 「無数にある。習主席のスキャンダルが最も多いが、他にも様々だ。党高官の99%は問題を抱えているからな(笑)。ただ、私は他人の政争の道具にされるのはゴメンだから、それらはほぼ使わない。

 なにより、連中のリークは正義が目的ではないので嘘が交じる。私は過去の暴露において嘘を言ったことはなく、不確かな情報は使っていないのだ」

 --あなたが暴露した情報に、嘘は一切ないと?

 「ない。(昨年5月)中国の国安部の連中が私に「これ以上暴露をするな」と交渉に来たのが何よりの証拠だ。仮に私の話が嘘なら、彼らはそんなことを言わない」

范冰冰(ファン・ビンビン)
 --郭さんは昨年7月、王岐山が有名女優でハリウッドにも進出した范冰冰(ファン・ビンビン)の性接待を受けたことを匂わせ、ツイッターに「ハメ撮り現場」の写真を投稿しましたが、それは彼女の映画の一場面を切り取ったものでした。あれは嘘ではありませんか。

 「一種の「釣り」だ。画像には彼女の特徴が写っており、見る者が見れば意味がわかる。私はその証拠動画を持っている」

 --ならば、なぜ動画を公開しないのですか?

 「流せばアメリカでは犯罪になる。これはポルノの流出だ。范冰冰は(権力者の毒牙にかかった)被害者であり、加害者ではない。彼女を傷つけるに忍びない」

 --そうなのでしょうか?

 「多くの人が虚々実々の印象を受けることは理解する。だが、私が動画を持っていることは事実。それ以上に、王岐山が強大な権力を有し、傍若無人に好色にふけったことは事実なのだ。私の主張は、結論から見ればなんら間違ってはいない」

 --暴露を9か月間も続けていると、ネタ切れをしたり情報の質が下がる恐れはありませんか?

 「いくらでも語るべき情報はある。なにより、党の上層部には真の『パンドラの箱』が存在するのだが、私は現時点でそれを開けていない。彼らが最も恐れる情報はまだ公開していない」

 --公開する予定は?

 「各国の政府がそれを知りたいと言うならば、協力して答える気はある」

■取材・文/山久辺参一(ジャーナリスト)

※SAPIO2018年1・2月号

【私の論評】郭文貴氏未報道は、日本メディアの偏向を暴露(゚д゚)!

ブログ冒頭のSAPOの郭文貴氏に対するインタビューの動画の掲載されたTweetを以下に掲載しておきます。


中国外交部スポークスマン陸慷の定例会見によると、昨年4月18日、北京政府は、国際刑事警察機構(INTERPOL)を通じて、米国へ逃亡中の中国の大富豪、郭文貴(別名、郭浩雲。1967年生まれ)を指名手配しました。

郭文貴氏は、平成26年(2014年)の長者番付で、個人資産155億元(約2500億円)を所有し、それでも中国では74位の富豪です。中国共産党の金まみれの闇は深いです。

郭の「爆料」は中国内外で爆発的な注目を集めていますが、その評価に対しては真っ二つに割れています。中後の若者に多い否定派は「暴露の内容はまるでスパイ小説のよう。現実離れしている。ウソも多い」「耳目を引く話やもったいぶった言い方で注目を集めているだけだ」と疑いの目を向けています。

実際、彼の暴露には不正確なものも含まれているのでしょうが、全てを虚偽と否定することは難しいです。例えば中国の大手航空会社、海南航空が王が私腹を肥やす手段になっているという暴露です。

海南航空はこれを否定しましたが、その後、経歴不詳の「神秘の投資家」が大株主にいることが判明しました。これだけでも怪しさ満点ですが、その後の展開はさらに不可思議でした。郭の暴露後、この神秘の投資家は保有株を慈善団体などに贈与したのです。その結果、中国で最も成長力のあるこの航空会社は慈善団体が筆頭株主となっているのです。

この一事をもってみてもわかるとおり、郭の暴露がすべて現実離れしているわけではないことがわかります。中国の現実こそが現実離れしているのです。

郭を批判する者は「中国に荒唐無稽な現実があるとしても、批判者までもがそれに乗っかる必要はない」と言っているようですが、では彼らは中国に何らかの変化をもたらすことはできたのでしょうか。

米国や欧州には無数の中国民主化団体がありますが、天安門事件以来約30年間、亡命した民主活動家たちは内輪で盛り上がるだけで何の成果も上げることはできませんでした。一方、郭はたった1人でこのムーブメントを作り上げたのです。

郭文貴氏にとってはTwitterも強力な武器だ
先進国の民主主義社会において、フェイクニュースを駆使するのは許されることではありません。しかし、一党独裁の強大国に立ち向かおうとする時、きれいごとだけで勝てると思うのは愚か者でしょう。

そうしてあの魯迅も「フェアプレーには早すぎる」と喝破しています。こと中国に限っては、相手がフェアな土台に乗って初めてこちらもフェアプレーをするべきと考えるのが妥当です。

郭は「習近平には反対しない、敵は王岐山だ」と言い続けてきたましたが、これも巧妙な分断工作とみるべきでしょう。ただし、昨年8月18日のネット番組で郭は新たな姿勢を示しています。すなわち、「今秋の十九大後に習近平は政治改革を行うべきだ」。もし習近平が政治改革を行わなければ、郭の矛先は習に向かう、としていました。

怪しげな暴露とゴシップを駆使して中国の体制転換を促そうとする郭文貴。果たして今後、どのような結末を迎えるのでしょう。

このように中国内外では注目の的なのに、中国の現指導部に配慮する日本のメディアは郭文貴を全く取り上げません。日本では、昨年は「もりかけ」騒動であけくれましたが、これによって結局安倍首相が関与したという物証はいまだにあがっていません。

中国の現体制の闇は、安倍首相や現政権などとは比較の対象ともならないくらい、巨大なものです。そうして、調べればそれなりの物証があがってきます。

というより、現在の中国の体制は、民主化、政治と経済の分離、法治国家がなされておらず、この点から腐敗や悪がはびこるのは必然です。

私は、今や中国政府の報道するニュースソースよりも、郭文貴氏を含めた、ネットからの情報のほうがよほど正確だし、現実に即していると思います。

そうして、日本以外のメデイアはこれらも報道しています。かといって、中国政府からニュースソースを遮断されたという話はききません。

しかし、日本のマスコミは現指導部に対する配慮からでしょうか、これらをほとんど報道しません、このことからも日本のメディアはかなり偏向していることがわかります。

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2018年1月10日水曜日

仏女優C・ドヌーブさん、男性の「女性口説く権利」を擁護―【私の論評】ポリティカル・コレクトネスなどクソ食らえ(゚д゚)!


仏女優のカトリーヌ・ドヌーブさん(2017年2月14日撮影、資料写真)
フランスを代表する女優のカトリーヌ・ドヌーブ(Catherine Deneuve)さんが9日、男性には女性を「口説く自由」が認められるべきと、仏女性ら100人が連名で発表した書簡で述べた。この中でドヌーブさんらは、セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)をめぐる一連のスキャンダルによって新たな「ピューリタニズム(清教徒の思想)」に拍車がかかっていると非難した。

書簡は一連のセクハラの「告発」を嘆く内容で、ドヌーブさん他、約100人のフランス人女性作家や役者、学者らが連名で発表。仏紙ルモンド(Le Monde)に掲載された。告発の流れは、米ハリウッドの元プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)氏が、数十年にわたり性的暴行やいやがらせをしていたとの訴えがきっかけとなって起きた。

こうした告発の波を「魔女狩り」と称し、性的自由を脅かすものだと主張する書簡には、「レイプは犯罪だが、誰かを口説こうとするのは、たとえそれがしつこかったり不器用だったりしても犯罪ではないし、紳士的な男らしい攻めでも違う」「誰かの膝に触ったり唇を盗もうとした途端に、男性たちは罰されて職場を追放されている」とつづられていた。

公開書簡はまた、ハッシュタグ「#MeToo(私も)」などのソーシャルメディアのフェミニスト運動を「禁欲的な…清浄化の波」と批判しており、「女性が、特にキャリアの上で性的暴力の犠牲となったことへの合法的で必要な抗議」が魔女狩りに変わってしまっているとも指摘した。

「女性に声を上げさせようとする解放への働きかけが、今や逆に作用しており、人々に『正しく』発言することを強要し、それに同調しない人々を黙らせ、(新しい現実に)寄り添わない人を共謀者や裏切り者として位置づけている」 (c)AFP/Fiachra GIBBONS / Jessica LOPEZ

【私の論評】ポリティカル・コレクトネスなどクソ食らえ(゚д゚)!

このニュースをTwitterで知った私は、すぐに以下のようなTweetをしました。
フランスやイタリアでは、女性を口説くのは、礼儀であるともされています。フランスやイタリアで、すべての男が女性を口説かなくなったら、とんでもないことになりそうです。

そのようなことが、世界中に広まって、それが普通になってしまったとしたら、世界はとんでもないことになるでしょう。

現在の日本にそのような風潮が広まってしまえば、少子高齢化にさらに拍車がかかってとんでもないことになりそうです。

それを考えると、カトリーヌ・ドヌーブさんの主張は当然のことだと思います。カトリーヌ・ドヌーブさんというと、フランスのミュージカル有名なミュージカル「シェルブールの雨傘」で主演女優をされた方です。

すべての台詞にメロディがつけられ語りが一切無い完全なミュージカル 1964年のフランス映画です。とにかくすべてにおいて美しい映画でした。後世に残したい名作です。久しぶりに彼女の顔を見ました。そうして、面影がまだ残っていることに驚嘆しました。

以下に映画「シェルブールの雨傘」より、抜粋した動画を掲載します。


このようなフランスの「美」を代表するような大女優が、男性の「女性口説く権利」を擁護したというのですから、その影響力も大きいと思います。

世の中がおかしなことにならないように、この主張が多くの人々に理解されると良いと思います。

このポリティカル・コレクトネスという病気、最近では日本でも無縁ではなくなってきました。たとえば、以下の記事のようことがありました。
ゼロ戦展示で論議「戦争美化になる」「史実を隠すな」 愛知県が“苦肉”の暫定展示 
間近に見ることができるゼロ戦。当時の最高の技術水準がわかるが、展示にあたっては
「戦争美化につながる」と反対の声もあった=愛知県豊山町のあいち航空ミュージアム
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
国産初のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の開発をきっかけに航空産業の発展を期して愛知県が昨年11月、豊山町にオープンした航空博物館「あいち航空ミュージアム」に、第二次大戦時の戦闘機「ゼロ戦」の復元機が展示されました。 
展示に際しては「戦争賛美につながる」などと反対の声が出るなど議論もありましたが、かつて世界の航空界をリードした技術の結晶として暫定公開にこぎ着けました。現代の若者にも人気を集める「ゼロ戦」。訪れた人からは「史実を隠してはならない」「公開で戦争は絶対あってはならないと訴えることも大切」といった声が聞かれました。
ドイツなどでは、メッサーシュミットなどの機体を陳列することにほとんど異論はでないそうです。イギリスでもそうです。実際、第二次世界多飲中のドイツの名機であ、メッサーシュミット Me109が、英国王立空軍博物館に展示されています。それが以下の写真です。


それにしても、もし零戦展示が戦争美化と言うなら、瓶詰・缶詰、トレンチコート、ランドセルなども使用禁止を訴えるべきということになってしまいます。これらの品々は「戦争」の中で開発、使用されたものです。

瓶詰めの開発者 ニコラス・アペール

零戦展示反対派は、これをどのように捉えるのでしょうか。ちなみに瓶詰めは、19世紀、ナポレオンの軍用食保存技術の公募に応じてアペールによって発明された瓶詰を湯煎し食品を長期保存する方法です。これは、金属容器を使う缶詰のルーツでもあるのです。

瓶詰が使われるようになった当初はコルク栓で、その上から蝋を垂らすことで密封していました。後にねじ巻式の蓋が開発され、瓶詰の蓋の主流となっています。現在でも、コルク栓が使われている瓶詰は存在します。

軍用・携帯用としては重くて割れやすい事から缶詰に取って代わられましたが、家庭用としては再度蓋ができて中身が見える事、空いた瓶を転用できる事などから現在も広く用いられています。

さて、話が少しずれてしまいましたが、上で現在の日本に女性を口説くことを忌避するような風潮が広まってしまえば、少子高齢化にさらに拍車がかかってとんでもないことになりそうであることを主張しました。

そうして、これと零戦の展示への異論(すなわち戦争忌避)とは一見関係ないように見えまずか、これは多いに関係しているところがあります。

エドワード・ルトワック氏
それは、米国の戦略家であるルトワック氏の『戦争にチャンスを与えよ』という書籍を読んでいるときに感じました。

著者のエドワード・ルトワック氏はルーマニア生まれの戦略家で、本の帯にある写真を見るとムキムキのマッチョで、いかにも喧嘩が強そうな風貌です。

本書の自伝的部分を読むと、確かに喧嘩っ早いです。少年のころ入ったイタリアの学校で、発音がおかしいと言って馬鹿にしたクラスメイトをぼこぼこに殴って退学になったそうです。

移ったイギリスの学校でも同様ないきさつで暴力沙汰を起こしました。ところが、イギリスの学校は彼を退学にしませんでした。

その理由が面白いです。学校の校長は彼の両親を呼んで、こう言ったそうです。「お宅の息子さんはまだ英語がうまく喋れないようだし、授業についてこれるかどうかも分かりません。それでも彼は大丈夫です。彼は自分の世話を自分でできるからです」

方法はどうあれ、自分に降りかかった問題を自分で解決する気力と能力がある。そういう人間を評価するのがイギリス人だとすれば、そこにイギリスという国の強さがあると、筆者は考えているように見えます。

人生のマネジメントは国家のマネジメントにつながり、それはさらに国家と国家とが渡り合う戦略につながります。その戦略によって、小さな島嶼国家が大英帝国として世界に君臨したのです。

そういう世界の現実を見るとき、戦争にはそれなりの意義があると、筆者は言うのです。戦争の意味は、戦う双方が気力でも物資でも疲弊し尽くすところにあります。そこでやっと停戦に至り、戦後の復興に取り組むことができ、平和が訪れます。。

「戦争にチャンスを与えよ」とは、そういう意味なのです。

その視点から見ると、国連やNGO、米ソなどの大国が他国の戦争に介入して無理やり休戦に持ち込むのは、戦争の真の目的を達成させないばかりか、むしろ戦争状態を長引かせ、本当の平和をもたらさないので最悪だとルトワックは指摘しています。その典型が朝鮮半島だとも言えるかもしれません。

これがルトワックの論法です。極論にも思えますが、論旨は清々しいほどに明瞭です。この他にも筆者独自の戦略論が展開されますが、いずれも論旨は明瞭。「なるほど、そうか~」と唸ることも再三でした。

例えば、今の日本は北朝鮮の脅威に対して、「何もしていない」。最悪の対応をしていると指摘しています。

ルトワックによれば、国と国との関係でできることには、
① 降伏
② 先制攻撃
③ 抑止
④ 防衛
などがありますが、現状の日本はこのどれも選択していません。今の日本の北朝鮮に対する対応は、「まあ大丈夫だろう」という無責任な態度だというのです。

そう言われれば確かに、北朝鮮がミサイルを飛ばす度に日本政府は、「遺憾だ。断固抗議する」とは談話を発表するものの、実質的には上の4つのうち、どれも選択していないようです。

さらに、もう一つ、面白いと思ったのは、「男は戦いを好み、女は戦士を好む」という筆者の人間観です。

男たちが戦争を嫌うようになれば、女たちは愛すべき戦士を失い、子どもを産まなくなるとしています。

これが今、ヨーロッパをはじめ、多くの先進諸国で起こっている「少子化」現象なのです。日本も、もちろん例外ではありません。

これは一見極論のように思えますが、考えるべき点も多いです。女性はどのような男性の子どもを産みたいと思うか、ということです。

そうして、ブログ冒頭の記事おけるカトリーヌ・ドヌーブさんの男性の「女性口説く権利」を擁護するという発言は、背後にはやはりこのようなことを意識しているのではないかと私は思いたいです。

伊藤博文 1841年10月
そうして、ルトワック氏はこの書籍で、戦争が平和につながり、平和が戦争につながるとも主張しています。長い間平和が続きすぎると、それが戦争の温床となるというのです。

実際、過去の歴史を紐解いてみると、確かに平和が長く続くと、戦争が起こっています。

男が一切戦いをしなくなり、戦士がこの世から姿を消し、男は女性を口説かなくなり、女性は戦士を失い、子どもを産まなくなり、それでも平和が続くと、やがて戦争になるということなのでしょう。

そう考えると、最近の若者の草食化などを考えると、日本はこのままでは、戦争に巻き込まれるのではないかと思ってしまいます。

これは、どこかで軌道修正しないと大変なことになりそうです。まさに「ボリティカル・コレクトネスなどクソ食らえ」と言う精神が今こそ必要なのかもしれません。

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2018年1月9日火曜日

中国、印北東州で道路建設 インド側反発「インフラ整備で領有権主張する常套手段」―【私の論評】中華サラミ戦術には逆サラミ戦術で対抗せよ(゚д゚)!



インドが実効支配し中国も領有権を主張する印北東部アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設していたことが判明し、インド側が反発を強めている。歴史的に国境をめぐって摩擦が続く両国だが、インフラを整備して領有権を主張する中国の手法に反発は根強く、火種は今年もくすぶり続きそうだ。

 インド英字紙インディアン・エクスプレスなどによると、工事が発覚したのは昨年12月28日。中国人数人のグループが中国南西部チベット自治区から、同州側に1キロほど入り、重機を使って600メートルほど道路を建設していた。

 一団はインドの国境警備隊に発見されて中国側に戻ったが、立ち去った際に掘削機などをその場に残していったという。同紙はインド政府高官の「このような一方的な活動は激しく非難される」というコメントを掲載し、反発している。

 両国は昨夏に中印ブータンが国境を接するドクラム地区で、約2カ月半にわたって軍が対峙したが、発端は中国軍が道路の建設を始めたことだった。「それだけに今回の動きには敏感にならざるを得ない。インフラ整備を進めて領有権を主張するのは中国の常套手段だ」とインド紙記者は分析する。

 インド側の反発に中国側も敏感に対応した。中国外務省の耿爽報道官は3日の記者会見で、道路作業員についての言及は避けつつも、「中国はいわゆるアルナチャルプラデシュ州という存在を認めていない」と改めて強調した。中国は同州を「蔵南」(南チベット)と呼んで自国領土と主張しており、2016年には中国軍が実効支配線を越えて約45キロ侵入し、数日駐留した経緯がある。

 インドが実効支配し中国も領有権を主張する印北東部アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設していたことが判明し、インド側が反発を強めている。歴史的に国境をめぐって摩擦が続く両国だが、インフラを整備して領有権を主張する中国の手法に反発は根強く、火種は今年もくすぶり続きそうだ。

 インド英字紙インディアン・エクスプレスなどによると、工事が発覚したのは昨年12月28日。中国人数人のグループが中国南西部チベット自治区から、同州側に1キロほど入り、重機を使って600メートルほど道路を建設していた。

 一団はインドの国境警備隊に発見されて中国側に戻ったが、立ち去った際に掘削機などをその場に残していったという。同紙はインド政府高官の「このような一方的な活動は激しく非難される」というコメントを掲載し、反発している。

 両国は昨夏に中印ブータンが国境を接するドクラム地区で、約2カ月半にわたって軍が対峙したが、発端は中国軍が道路の建設を始めたことだった。「それだけに今回の動きには敏感にならざるを得ない。インフラ整備を進めて領有権を主張するのは中国の常套手段だ」とインド紙記者は分析する。

 インド側の反発に中国側も敏感に対応した。中国外務省の耿爽報道官は3日の記者会見で、道路作業員についての言及は避けつつも、「中国はいわゆるアルナチャルプラデシュ州という存在を認めていない」と改めて強調した。中国は同州を「蔵南」(南チベット)と呼んで自国領土と主張しており、2016年には中国軍が実効支配線を越えて約45キロ侵入し、数日駐留した経緯がある。

【私の論評】中華サラミ戦術には逆サラミ戦術で対抗せよ(゚д゚)!

2016年の人民解放軍によるアルナチャルプラデシュ州侵入については、このブログでもとりあげました。
孤立浮き彫りの中国 ASEAN懐柔に失敗 あの外相が1人で会見の異常事態―【私の論評】海洋戦略を改めない限り、これから中国は大失態を演じ続けることになる(゚д゚)!
中国の王毅外相
この記事は、2016年6月15日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事では当時の南シナ海での中国の侵略に加えて、当時人民解放軍がインドのアルナチャルプラデシュ州に侵入していたことを掲載しました。その部分のみ以下に引用します。
インドと中国が領有権を争い、インドの実効支配下にある印北東部アルナチャルプラデシュ州に今月(一昨年6月)9日、中国人民解放軍が侵入していたことが分かりました。印国防省当局者が15日、産経新聞に明らかにしました。中国は、インドが日米両国と安全保障で連携を強めていることに反発し、軍事的圧力をかけた可能性があります。 
中国兵約250人は、州西部の東カメン地区に侵入し、約3時間滞在しました。中国兵は3月にも、中印とパキスタンが領有権を主張するカシミール地方でインドの実効支配地域に侵入し、インド軍とにらみ合いになっていました。アルナチャルプラデシュ州への侵入は、最近約3年間、ほとんど確認されていませんでした。
アルナチャルプラデシュ州 地図の赤い斜線の部分
 ドクラム地区への人民解放軍の侵入もこの記事でとりあげています。その記事のリンクを以下に掲載します。
中印紛争地区、離脱合意のはずが「中国固有の領土だ」 軍駐留を継続、トンネル建設も着手か―【私の論評】この動きは人民解放軍による尖閣奪取と無関係ではない(゚д゚)!

この記事は、昨年12月3日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくもとして、一部を以下に引用します。
インド、中国、ブータンの国境付近のドクラム地区で中印両軍の対峙(たいじ)が続いた問題をめぐり、中国側が最近、「ドクラム地区は固有の領土」と改めて発言し、軍隊駐留を示唆したことが波紋を広げている。中国軍が付近でトンネル建設に着手したとの報道もあり、インド側は神経をとがらせる。双方「要員の迅速離脱」で合意したはずの対峙だが、対立の火種はくすぶり続けている。
 中国国防省の呉謙報道官は11月30日の記者会見で、ドクラム地区をめぐり、「冬には撤退するのが慣例だが、なぜ(部隊が)依然、駐留しているのか」と質問され、「中国の領土であり、われわれはこの原則に従って部隊の展開を決定する」と応じた。

中国国防省の呉謙報道官

 ドクラム地区はヒマラヤ山脈の一角に位置し、冬は積雪のため部隊配備が困難となる。中国側は現在も軍隊が駐留していることを否定せず、配置を継続させることを示唆した格好だ。 
 発言にインドメディアは反応し、PTI通信は「中国が軍隊を維持することを示唆」と呉氏の発言を報じた。中国側の動きに敏感になっていることがうかがえる。 
 ドクラム地区では、中国軍が道路建設に着手したことを契機に6月下旬から中印両軍のにらみ合いが発生。8月28日に「対峙地点での国境要員の迅速な離脱が合意された」と宣言され、事態は収束したかのように見えた。
この中国のやり方、本格的な衝突にまではならないように、すこしずつ国境をずらしているようなものです。南シナ海でも、最初は人一人がようやっと、上陸できるようなところに掘っ立て小屋を立て、人一人を交代で常駐させるようにして、中国の占拠がはじまりました。

あれから、何十年もたって、今では環礁が埋め立てられ、港はもちろんのこと空港まで整備している有様です。

この戦術何やら、どこかで聴いた話と似ています。それは、バス停をずらした婆さんの話です。以下にその話を掲載します。

むかしむかし、小さな駄菓子屋を一人できりもりしているばあさんがいました。その駄菓子屋は広い道路に面していて近くに中学校もあったのですが、売り上げは思わしくなくばあさんは質素な暮らしを強いられていました。 
その中学校は田舎の中学校のため、バスで通学している学生も多かったのです。バス停はばあさんの店から十メートルほど離れたところにあり、登下校の時間になると学生たちで賑わっています。あの学生たちが店に来てくれれば……。そう考えたばあさんは一計を案じました。その日から、毎日夜になるとこっそりとバス停を店の方向に動かしたのです。バレないように、一日に五ミリずつ。 
そして数年後。バス停はばあさんの店の真ん前に移動し、店はバス待ちの学生たちで賑わうようになった、といいます。 
この話は、本当なのかどうかはわかりませんが、何かを一気に動かすと多くの人々に気付かれるのですが毎日少しずつ動かしていると意外とバレないものなのです。カツラも同じです。ある日突然、急激に髪の毛が増えるとこれは絶対にカツラだとバレます。だから少しずつ植毛していき、不自然にならないように増やしていくのです。

それはともかく、この現象はやはり人間の認識能力の盲点を突いたものでしょう。大脳の空間識野は、特に急激な変化、すなわち微分情報を抽出するように働きます。それゆえ、微分量が少ない緩やかな変化は認識されにくくなっているのです。

なぜこのような働きをするようになったのかは、進化論で簡単に説明がつきます。ある動物の認識する外界は、動くものと動かないものに大別されます。動かないものというのは、大地・山・樹木などです。これらはその動物にとって、友好的ではないが敵対的でもありません。中立なのです。ゆえに、特殊な場合をのぞいてはこれらの動かないものに注意する必要はないです。

これに対して動くものは要注意です。動くものは、さらに三種類に分けられます。すなわち、敵・餌・同種の異性です。敵からは逃げねばならぬし、餌と同種の異性は追いかけねばならないです。これらを素早く発見することは、生きていくためには重要な能力です。したがって、動くもの、すなわち微分量が大きいものを認識する能力が進化の過程で身についたのでしょう。



これと、似たような話で、「サラミ戦術」というのがあります。サラミ戦術(サラミせんじゅつ、ハンガリー語: szalámitaktika [ˈsɒlɑ̈ːmitɒktikɒ] サラーミタクティカ)とは、敵対する勢力を殲滅または懐柔によって少しずつ滅ぼしていく分割統治の手法です。 別名サラミ・スライス戦略、サラミ・スライシング戦略ともいわれます。


ロバート・ハディック米特殊作戦司令部の契約要員が、2014年11月24日付のナショナル・インタレスト誌に、「中国のサラミ戦術に対抗する6つの方策」という論説を寄せています。
ロバート・ハディック氏

戦争の理由になるには小さすぎる行動も、積み重なると、相当な戦略的変化になります。この中国のサラミを切るような戦術に対抗するには、ハディック次の6つのことをすべきであるとしています。
第1:東・南シナ海での漁船団を拡大すること。中国の民間船舶プレゼンスに対抗し、国家安全保障上の優先事項として漁船団を拡大すべきである。これは法執行および沿岸警備の船舶(白塗りの船舶)のプレゼンスも正当化する。 
第2:海洋での法執行と沿岸警備の能力、プレゼンスを拡大すべきである。各国は軍艦よりも非軍事的な船舶(白塗り船舶)に予算を回すことで、より速く能力改善を達成し得る。中期的には中国の海軍の能力増強に隣国は対抗しえない。しかし白塗り船舶での競争はより有利に行える。 
第3:米国と同盟・パートナー国の海洋当局(軍も含む)は情報交換、将校交流、多数国間訓練を拡大すべきである。これは低コストの能力向上になる。 
第4:米国などは、即時情報共有システムを樹立すべきである。事件の時の対応に役立つ。 
第5:米国と同盟・パートナー国の政策・企画担当者は多数国間の危機対応の準備をすべきである。 
第6:地域の関心国をこの構想に加わるように招請し、この構想への国際的支持を広めるべきである。
この対抗策というのも、悪くはないとは思いますが、これではあの傍若無人な中国に対しては不十分だと思います。ただし、ロバート・ハディック氏は、中国がいわゆる「サラミ戦術」を用いているということを多くに人々に認識させたという点で、大きく貢献したと思います。そうして、中国は南シナ海でも、尖閣でも、中印国境でもこのような戦略をとっています。

私はサラミ戦略に対しては、「逆サラミ戦略」という戦略を採用すべきだと思います。 それは、さきほどのバス停を動かした婆さんのたとえでいえば、バス停が動いたと認識した段階で、それを元に戻すのです。元に戻すにしても、いきなり元の位置に戻すというのではなく、これも一度に5mm程度を戻すのです。

これは、婆さんが毎日5mm動かしているとすると、ある時点で、婆さんが日々5mm移動しても、バス停は全く動かなくなることを意味します。そうすると婆さんは、動かしても無駄だと思うようになり、諦めてしまいます。

諦めた後でも、毎日5mmずつ動かすのです。そうして、元の場所に戻ったら動かすのをやめるのです。このやり方を「逆サラミ戦略」とでも名付けたいと思います。

ただし、現実にはバス停とは異なるので、もっと複雑なものになるでしょう。尖閣であれば、最初は尖閣諸島に何らかの理由をつけて、とにかく人を常駐させるようにします。次の段階では、少人数の武装兵力を常駐させるようにします。

そうして、最終的に尖閣を要塞化するのですが、要塞化するまでに20年〜30年かけるようにするのです。尖閣諸島付近の海域にも、自衛隊の艦艇や空母が日々往来するようにしますが、そうなるまでにやはり、数十年の年月をかけるのです。そうこうしているうちに、中国は尖閣を諦めることでしょう。諦めなければ、本格的な武力衝突になりますが、そうなったら、それでやむを得ないという精神で望めば良いのです。

そのときは、尖閣を日々往来する艦艇、空母、尖閣の要塞が一気に火蓋をきり、尖閣付近の中国軍を一掃すれば良いだけのことです。しかし、こうした覚悟は中国にも事前に十分に伝わることでしょう。いままで、他国にそのようなことをされたことがないので、中国は思い違いをしてきたものと思います。そうして、オバマの戦略的忍耐がこれに拍車をかけたのです。



ブログ冒頭の記事の事例では、アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設したという事例では、掘削機など捕獲し、道路は破壊し、今度は逆に中国領に数百メートルインド側が中国領内に進み、その地点に掘削機を置くようにします。

中国側が何も言ってこなければ、インド側はそこに居座りつづます。中国側がクレームを言ってくれば、削岩機をそこに残して、元の国境線内に戻すようにします。このようなことを繰り返し、中国側が1mmもインド側に入ってこれないようします。

南シナ海の場合は、中国の環礁を多数の艦艇で取り囲み、燃料・食料・水などを補給できないようします。その場合、中国側の平和的な撤退は許すようにします。その後は、米国や近隣諸国が中国の環礁を共同管理し、破壊するなり、軍事基地として使うなりします。

ただし、こうしたことをするにしても、あくまでもサラミ戦術で数十年かけて行うようにします。オバマの戦力的忍耐を元に戻すには、これくらい長い年数をかける必要があります。ただし、諸状況が好転すれば、その時点では速度をはやめるべきですが、基本はあくまで逆サラミにすべきです。

とにかく、中国が今後も国境線を破るようなことをすれば、このようにすべて逆サラミ戦術で押し返すのです。それも、日米印露豪、ASEAN諸国すべてが合同でこれを行うのです。

この中で、露はすでに、中国と国境問題を解決ずみです。ソ連時代には国境紛争がありました。しかし、2004年、中国とロシアは国境問題を最終決着させ、国境河川の中州である黒瞎子島/大ウスリー島・タラバロフ島の半分などが中国に引き渡されました。

中露の国境紛争は、さかのぼれば17世紀から存在し、たび重なる武力衝突をも引き起こしてきました。にもかかわらず、最後は“交渉”によって決着するという、きわめて珍しいケースとなっています。これについては、本日述べると長くなるので、いずれ日を改めてまた掲載しようと思います。

大規模紛争や本格的戦争にならずに、中国の野望を完璧に打ち砕くには、このようなやり方が有効だと思います。

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2018年1月8日月曜日

韓国と北朝鮮の「南北会談」になんの期待も抱けない、歴史的な理由―【私の論評】周辺諸国は北崩壊後は「助けず、教えず、関わらず」の「非朝鮮半島三原則」を貫け(゚д゚)!

韓国と北朝鮮の「南北会談」になんの期待も抱けない、歴史的な理由

3月を越えればどうせまた…

髙橋 洋一氏  プロフィール

危機的状況になんら変わりなし

新年早々、北朝鮮情勢が動いている。1月1日、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、新年の辞で、韓国との対話チャネルが開かれているとし、2月の平昌オリンピックについて北朝鮮の選手団を派遣することを示唆した。

これに、韓国の文在寅大統領がすぐに飛びついた。これまで韓国の対話要求に対して北朝鮮は無視してきたが、金正恩氏の歩み寄りとも取れる発言を歓迎。早速、9日の南北高官級会談を北朝鮮に提案した。

一方、アメリカのニッキー・ヘイリー米国連大使は、北朝鮮が完全に非核化するまでは、いかなる話も真剣に受け止めないとして、今後北朝鮮と韓国との会談があってもアメリカ政府が重要視することはないと反応した。アメリカ国務省のナウアート報道官も、「北朝鮮の狙いは米韓分断にあるかもしれない」と警戒した。

金正恩氏は新年の辞で、「核のボタンが私の事務室の机の上にいつも置かれている」と述べており、対話路線とも取れる発言の一方で、アメリカには強硬姿勢を崩してはいない。

ただし、アメリカは、平昌オリンピック開催中の2月9日から25日までの間とその直後、そしてパラリンピックの期間中3月9日から18日までの間、米韓合同軍事演習を実施しないとし、韓国と北朝鮮の交渉を見守る姿勢を見せた。

それを受けて、5日、北朝鮮は韓国が提案していた南北高官級会談について応じるとの連絡を送ってきた。

以上が、今年に入ってからの米韓朝の動きである。

その背景には、国連の北朝鮮に対する経済制裁が累次に及び行われた結果、制裁決議内容はほぼ限界にまでなっていることが大きく影響しているだろう。この冬にエネルギー関係の対外取引を制限されるのは、北朝鮮にとっても痛いところだ。

昨年だけでも、

国連安保理決議第2356号(2017年6月2日 http://www.un.org/en/ga/search/view_doc.asp?symbol=S/RES/2356%282017%29)、

国連安保理決議第2371号(2017年8月5日 http://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=S/RES/2371%282017%29)、

国連安保理決議第2375号(2017年9月11日 https://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=S/RES/2375%282017%29)、

国連安保理決議第2397号(2017年12月22日 https://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=S/RES/2397%282017%29

とかなり実効的な措置が採られており、国連内からもこのままでは北朝鮮経済は壊滅的になるという見方もでている。たとえて言うと、クビを絞めているが、ほんの少し力をぬいている状態とはいえ、長時間になれば窒息死する程度である。


制裁決議に反する闇の取引は依然行われているが、アメリカは、制裁決議に反する取引を規制するために、半軍事行動ともいえる「臨検」実施の可能性もちらつかせている。現在では国連憲章第7章41条(主として経済制裁)の実効性を高めるために、臨検が認められているとはいえ、戦時下では「軍事活動」ともされる行為である。
しかも、昨年12月末のクリスマス休暇で、在韓米軍の家族は一時アメリカに帰国している人も少なくない。そのまま、アメリカに滞在して韓国に戻らなければ、アメリは比較的容易に軍事オプションを行使できうる状態になっている。
そうした状況に対して、金正恩氏がついに反応せざるをえなかったのだろう。金正恩氏の言葉は威勢がいいが、ミサイル実験では、間違ってもアメリカを刺激しないような範囲に撃ってきている。この点から、かなりアメリカを配慮しているのは、北朝鮮問題の専門家では周知の事実である。
最悪のシナリオ
北朝鮮は、核ミサイル開発を進め、アメリカにそれを認めるように直接交渉を望んでいた。しかし、アメリカの強硬姿勢を崩さなかったためそれが挫折した。今さら中国にアメリカとの仲介を頼めないし、ましてアメリカと歩調を合わせる日本にもできない。そこで、もっとも与しやすい韓国を選んだのだろう。
韓国は、是非とも2月の平昌オリンピックを成功させたいという弱みがあるため足下を見られている。北朝鮮の誘いに対して、韓国が直ちに歓迎姿勢を示したのは、北朝鮮にまんまとはめられた公算が高い。金正恩氏の話の中には、繰り返し北朝鮮の核の力について言及している箇所もある。
北朝鮮は、決して非核化せずに、韓国にささやきながら、時間稼ぎをして、いまだ未完成とされる核ミサイルの再投入技術を最終的に完成させ、核ミサイルの実戦配置を成就させようという魂胆だ、とみたほうがいい。ここで非核化を飲むようなら、金正恩氏の失脚にもなりかねないからだ。
なお、再投入技術も、あと半年から1年以内で完成する予定という点は専門家間では意見の相違はほとんどない。ということは、この平昌オリンピックとパラリンピックの2月から3月までの時間を有効利用しないことはありえないはずだ。
これまで、6ヵ国協議でも北朝鮮の核ミサイル開発は止められなかった。それを韓国が実効的に止めれば、世界の平和のためには素晴らしい出来事だ。真のノーベル平和賞にも値するだろう。ただし、これまで国際社会を欺いてきた北朝鮮である。楽観論は禁物で、ここ2カ月は韓国のお手並み拝見である。
一方で筆者はこの時期に、韓国外務省が日韓合意について、日本政府との交渉過程についての検証結果を発表し、さらに文在寅大統領が、慰安婦問題をめぐる日韓合意に強く反対する元慰安婦の女性らと面会し「合意は政府が一方的に進めたもので、誤りだった」と謝罪したことがとても気になっている。
北朝鮮の誘いに韓国が乗ったことについて、米韓の分断を危惧するのは上に述べたとおりである。そのうえこの時期に、日韓合意を反故にするといわんばかりの韓国の行動は、日韓の分断を懸念させるものだ。
この事態について、日本の外務省は日韓関係がマネージ不能になると警告している。西側諸国としては、常識的にはちょっと首をかしげたくなることだが、韓国外交はどのような行動原理に基づいて動いているのか。
文在寅大統領は、昨年12月に中国国賓訪問したが、実はこれとあわせて考えると、韓国の外交スタイルが見えてくる。
歴史を紐解けば分かる
カギは半島国家としての韓国の歴史にある。
地続きの大陸側と海を隔てた海洋側に挟まれながら、国家運営をする宿命をもつ韓国。朝鮮半島の歴史をみても、朝鮮王朝では「事大交隣」、つまり大陸側には「事大」、海洋側とは「交隣」という関係だ。
事大とは「大国に事(つか)える」ことであり、陸続きの中国へ服従する朝貢関係だ。交隣は「隣国と交わる」ことであり、海を隔てた日本とは距離を置いた対等交際だ。
しかし、朝鮮戦争でこの構図に変化が起こった。アメリカが介入し、朝鮮半島は南北に二分され、南半分の韓国は大陸側の中国から離脱して、海を隔てた日本を含めた西側についた。韓国は、アメリカと同盟関係を結んだ。
一方、韓国と対峙する北朝鮮は中国の同盟国となった。韓国は「事大交隣」を大きく変更せざるを得なくなり、アメリカの同盟国である日本も並べての、日米韓という新しい関係になった。
そもそも、朝鮮半島の歴史において、現在の韓国のように朝鮮半島の一部が大陸側の影響を直接的に受けないのは、高句麗、百済、新羅の三国時代以来ともいえる。
この中で、韓国のTHAAD問題がある。いまは「事大交隣」ではなく、韓国が西側の一員になったという新たな関係である以上、北朝鮮の脅威に応えるためには、THAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)の韓国配備は自然であるが、これが超大国への道を歩もうという中国を刺激した。
この中国の怒りを前にして、韓国は最近忘れかけていた「事大交隣」のDNAがふたたび働き出したと考えるのがいい。正確にいえば、近年の中国の躍進に、韓国が恐れおののいて「事大交隣」の記憶がよみがえり、2015年9月、抗日戦争勝利70周年軍事パレードに朴槿恵大統領が西側諸国の国家元首でただ一人参加した。
これを受けて、中国に接近しすぎる勧告をけん制するために、アメリカがTHAADミサイルを配置させたといったほうがいいだろう。
3月超えればまた一触即発に
冒頭の文大統領の訪中は、いくら中国に冷たくされたとはいえ、まさに「事大」である。また、今回の北朝鮮の誘惑に乗るのも「事大」である。
しかし、日米に対しては「交隣」を保っている。今回の北朝鮮の誘いに乗って米韓関係がうまくいかなくても、慰安婦問題で日韓関係をこじらせても、もともと「交隣」の関係であるからかまわないという姿勢だ、としか思えない。昨年9月にニューヨークで開かれた日米韓首脳会談で、北朝鮮への圧力で合意しながら、韓国は北朝鮮への人道支援を打ち出したのも、日米には「交隣」という姿勢であることのあらわれだ。
さらに、トランプ大統領の訪韓時に元慰安婦を晩餐会に招いたことも、日本へは慰安婦問題の日韓合意を反故にしようとすることも、あるいはその一方で平昌五輪が窮地になると安倍首相に訪韓要請をするなどの傍若無人ぶりも、「交隣」という概念で理解できる。
しかしながらこれだけは言っておきたい。北朝鮮問題で、韓国が歴史的伝統とも言える「事大交隣」の姿勢を採ると、世界平和が脅かされる事態になってしまう、ということだ。
北朝鮮の核ミサイルは、いまや世界の脅威となっている。米国国民ですら、北朝鮮の核ミサイルを現実的な脅威と考える人が8割にもなっている。これは、実際にアメリカ本土まで核ミサイル攻撃があり得るという意味だけではない。
アメリカは、中東政策も転換しているが、もし北朝鮮が核ミサイル技術を手中にしたら、中東のイランへの核拡散が現実化して、中東の軍事バランスを一気に崩れかねない。となると、中東での核ミサイル保有がドミノ的に進展することは不可避である。
この核拡散は、アメリカのみならず世界によって最大級の脅威にならざるを得ない。そうした世界的な安全保障を考えると、アメリカはなんとしても朝鮮半島の非核化は譲れないところなのだ。これは、同じ核保有国である中国やロシアにとっても同じである。こうした大局観が韓国には欠けているようにみえる。
韓国は慰安婦問題でも、日韓の外交成果を反故にしようとしている。国家間の約束を無視することで、韓国外交の信用失墜になるだろう。
その「不誠実国家」の韓国と「ならず者国家」の北朝鮮が話し合っても、平昌オリンピック・パラリンピックを見かけだけでも成功させたい韓国と、核ミサイル完成のために時間稼ぎがしたい北朝鮮の思惑が当面の3月まで合致するだけで、朝鮮半島の非核化にはほど遠い内容になりそうだ。
これでは、国際社会から受けいれられるものになりそうもない。というわけで、2、3月は何とかなっても、その後は依然として朝鮮半島が一発即発の危機状況であることは、変わらなさそうだ。

【私の論評】周辺諸国は北崩壊後は「助けず、教えず、関わらず」の「非朝鮮半島三原則」を貫け(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事で、高橋洋一氏は、北朝鮮問題で、韓国が歴史的伝統とも言える「事大交隣」の姿勢を採ると、世界平和が脅かされる事態になってしまう、としています。

この歴史的伝統については、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【書評】寄らば大樹の陰。朝鮮内部抗争に振り回された日本の歴史―【私の論評】過去の歴史に学び朝鮮半島とのつきあいは、拉致問題などの例外は除きほどほどにすべき(゚д゚)!
写真はブログ管理人挿入 以下同じ
この記事では、石平氏の『韓民族こそ歴史の加害者である』を紹介させていただきました。タイトルこそセンセーショナルですが、冷静な筆致で史実を丹念に辿り、その上で、このタイトル通りの結論を引き出しています。

「目から鱗(うろこ)」という使い古された表現がありますが、この本はまさに、今まで我々の目を覆っていた「韓民族は日本帝国主義の被害者だった」という鱗を取り除き、韓民族の真の姿をはっきりと見せつけてくれます。この本を読まずして、北朝鮮や韓国に関する歴史も外交も議論できないでしょう。
前置きが長くなりましたが、本書は、韓民族が内部抗争に勝つために周辺諸国を戦争に引きずり込んだ、というパターンが、7世紀初頭の高句麗・百済・新羅の三国統一戦争から、20世紀の朝鮮戦争まで繰り返されたという史実を克明に描いています。

その中で、日本が巻き込まれたのが、西暦661年の白村江の戦い[a]、1274(文永11)年、1281(弘安4)年の元寇[b]、そして近代の日清戦争、日露戦争ある。特に元寇では、高麗国王が自らの生き残りのために、日本征伐をフビライに提案する経緯が生々しく描かれていて、「そうだったのか」と思わせます。

この記事では、近代における日清、日露、朝鮮戦争の部分のさわりのみを紹介させていただきます。この書籍まだご覧になっていない方は、上のリンクをご覧になれば、一部紹介しています。一部しか紹介していないので、是非ご覧になってください。まさに「目から鱗」です。

内部抗争から始まった朝鮮戦争
 日本の降伏後、米ソは38度線を境にして、それぞれ南北を占領した。米ソ英は5年間の信託統治期間の後、朝鮮の独立と統一政権の樹立を図るという「モスクワ協定」を結んだが、肝心の韓民族自身が、例の如く内部闘争に明け暮れて、統一政権どころではなかった。 
 結局、ソ連を背景とした金日成と、アメリカから戻った李承晩が、それぞれ北朝鮮と韓国の政権を樹立した。それだけでなく、彼等は、それぞれ相手国を打倒して、自らが朝鮮の統一政権になることを目指していた。 
 最初に仕掛けたのは金日成だった。当時は日本の産業施設が多く残っていた北朝鮮の方が、農業中心の韓国よりも、圧倒的に国力は上だった。金日成はソ連のスターリンに南進の許可を求めた。邪悪な政略の天才スターリンは、もしアメリカとの戦争になったら、中国を矢面に立たせようと、毛沢東の支援を得るよう指示した。 
 中華人民共和国を建国したばかりの毛沢東は慎重で、38度線を越えてアメリカが攻め込んできたら、自国の国境が脅かされるので参戦をする、と消極的な支持を表明した。これをもとに、北朝鮮は1950年6月25日、38度線を越えて、韓国内に侵攻した。
3ヶ月で済んでいたはずの朝鮮戦争が..........
 北朝鮮は2ヶ月後の8月末には南朝鮮の90%以上の領土を占拠したが、ここで米軍を中心とした国連軍が救援に入り、わずか1ヶ月でソウルを奪還した。米軍もも国連軍も、38度線まで奪還すれば、そこで戦闘を止める計画だった。その通りに事が運んでいたら、朝鮮戦争は3ヶ月で停戦を迎えていたはずだった。
 しかし、ここで李承晩は一気に北朝鮮を打倒して統一政府を作ろうと、韓国軍に38度線を突破させた。これに引きずられる形で、国連軍も38度線を越えて進撃し、ついには中国国境沿いにまで近づいた。ここで毛沢東はやむなく中国共産党軍を投入したのである。
 こうして米中の激突となった朝鮮戦争はさらに2年9ヶ月以上も続き、結局、38度線の振り出しに戻って、停戦を迎えた。金日成なくば、そもそも朝鮮戦争は起こらずに済んだかも知れないし、李承晩がいなければ、3ヶ月で終わって、その後の6百万の犠牲者の大部分は失われずに済んだろう。
 結局、韓民族の内部抗争と外部勢力の引きずり込みという伝統的な宿痾で、米中ともに何の益もない戦争に巻き込まれたのである。
活用し損ねた歴史の叡知
 こうして朝鮮半島の歴史を通観して見ると、日清、日露、朝鮮戦争という3つの戦争とも、同じ構造をしていることが明らかになる。韓民族が内部抗争に勝つために、それぞれ周辺諸国を戦争に引きずり込むというパターンである。
 通常の民族のように、韓民族が一つにまとまって独立統一国家を作っていれば、中国、ロシア、日本の緩衝地帯となり、東アジアの平和が保たれていた可能性もある。そう考えると、韓民族は「東アジアのトラブルメーカー」だ、という石平氏の指摘は説得力を持つ。
 韓民族が内部抗争という宿痾を自ら克服できないなら、今のように南北でせめぎ合い、結果として日米中ソの緩衝地帯になっている方が良い、というのは、冷酷な地政学的戦略から言えば、合理性がある。米中とも、現在はその戦略をとっているのだろう。だから、北朝鮮で膨大な餓死者が出ようと、各国は手は出さないのである。これが冷厳な国際社会の実態である。
「半島とは一定の距離をおいて、韓民族内部の紛争にできるだけ関与しないようにするのが、もっとも賢明な道」とは石平氏の結論ですが、この本で半島の歴史を丹念に辿ってみれば、頷くしかない結論です。

この結論は、日清戦争前に金玉均が残忍な方法で処刑された後、彼を支援していた福沢諭吉が『脱亜論』で「我れは心に於て亜細亜東方の悪友を謝絶するものなり」と語ったのと同じです。この叡知を当時から活用していれば、我が国の近代史もまた別の形になったでしょう。我々は歴史の叡知を活用し損ねたようです。
石平氏の書籍からもわかるように、韓国が大陸との緩衝地帯になるという見方がありますが、歴史を見れば緩衝地帯と言うよりも、内部の勢力争いから外国勢力を引き入れて戦争を引き起こしてきた事の方が多いのです。最近では朝鮮戦争が良い例ですが、朝鮮戦争において米国は韓国を助ける必要があったのでしょうか。
朝鮮半島が統一国家であったとしても、ロシアや中国に対して完全な独立国であることが出来るでしょうか。現在も北朝鮮は中国に依存し、韓国はアメリカに依存して生きています。歴史的に見ても朝鮮王朝が中国王朝に対して単独で戦って勝ったという歴史はありません。だから緩衝地帯になる事はあまり期待出来ないです。

韓国の軍部ですら、在韓米軍が撤退したら韓国軍は北朝鮮に勝てないと言っているくらいです。歴史的に見ても朝鮮半島が一番安定していた時は中国の属国になっていた時であり、あるいは南北に分かれて国家が存立していた時です。
三世紀の朝鮮半島
だから朝鮮半島は日本の手が離れてからは、中国の属国となるか、南北に分かれて大陸と海洋勢力で均衡がとられるかのどちらかです。北朝鮮が崩壊して韓国によって統一される事はあるのでしょうか。あるとすれば韓国が中国と手を組んで北朝鮮を滅ぼす事かもしれません。

歴史を見れば新羅が唐と手を組んで高句麗を滅ぼしました。しかし唐は内乱状態となり朝鮮統治に手が回らなくなり新羅が朝鮮を統一しました。文在寅大統領は、中国の手を借りて北朝鮮を併合して、新羅のように朝鮮半島を統一できると夢見ているのかもしれません。しかし、これは古代の事であり11世紀以降は高麗と李氏朝鮮の時代となり、大陸国家の一部となりました。

朝鮮半島は内部抗争が激しく、歴代の中国王朝も手を焼いたから属国として統治しました。ところが、日本は朝鮮半島を併合して直接統治しようとしました。それが間違いの元であり、朝鮮民族は統治が難しく冊封していた歴代中国王朝も手を焼いてきました。

朝鮮半島が分断国家となったのは、ロシアや中国やアメリカとの勢力争いで戦争となったからですが、冷戦体制は共産主義勢力の圧倒的な攻勢が続きました。韓国が共産主義に落ちれば他のアジア諸国にも影響が及ぶと恐れられるほどになり、日本にも共産主義の脅威は吹き荒れました。

韓国はかろうじて独立は保ち、韓国の高度経済成長は自由主義のショーウィンドウとして機能しました。しかし政治的には安定せず経済成長も財閥経営であり一部のものにしか恩恵が回りませくん。一昨年大韓航空機が羽田で事故を起こしても会社側は事故を認めず、羽田が一日中混乱したにもかかわらず大韓航空の謝罪はありません。

韓国は日本に仕掛けて来た「歴史戦」でも、謝罪や賠償を求め続ける姿は朝鮮民族の統治の難しさを実感させるものです。日本国を非難し続けるのも、過去の歴史のトラウマが残っているからであり、日帝時代に大規模な独立運動が起きなかったのもトラウマであり、3.1の独立運動も過大に評価したものに過ぎません。韓国の歴史では中国に亡命政権が出来て韓国は戦勝国と教えられているようです。

米国が北朝鮮を最近まで放置状態にしていたのも、米国は関わりたくないだけであり、中国に丸投げしてきたということです。北朝鮮も韓国も対外的に騒ぎまくるのも、放置される事を嫌うからであり、日本に対する嫌がらせ攻勢も無視されたくないから従軍慰安婦や竹島でも騒ぎ立てて無視されないようにしているのです。
韓国は、中国寄りの姿勢を変えず「事大主義」を繰り返し、北朝鮮と交わり「交隣主義」を繰り返そうとしています。その果にあるのは、朝鮮半島統一かもしれませんが、こんなことでは、とても韓国は北朝鮮の脅威に立ち向かえそうにありません。
私自身は、いずれ朝鮮半島は、北が崩壊しその後は日米中露が、国連軍などの形で北の領土を分割して統治し、韓国もいずれ内乱などがおこり、それを日米中露は無視して、2つから3つに分割し、半島に小さな国家群ができあがるようになれば、最も良いのではないかと思います。
そうして、いずれは日米中露も撤退しつつも、国境は一ミリにたりとも侵犯されないようにしてこれを囲み、朝鮮半島のこれら複数の国家群が互いに「事大交隣」を繰り返し、幾つかの国が合同したり、離散したりを永遠に繰り返している状態になりただし、周りの国々はそれを助けもせず放置して、害が及ばないようにするのが最も良いのではないでしょうか。
周辺諸国が「助けず、教えず、関わらず」の「非朝鮮半島三原則」を貫き、半島内の諸国が互いに「事大交隣」で疲弊し、半島外の国々に害を及ぼさないように隔離するのです。そうでないと、いずれ周辺諸国や米国も、悪影響を被ることになります。
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2018年1月7日日曜日

【アジアを先導する日本】台湾海峡を中国から守る“主役”は日本 日台、中国共産党の野望を打ち砕くソフトパワーに―【私の論評】「いずも」の空母化は、中共の野望を粉微塵に打ち砕く(゚д゚)!

【アジアを先導する日本】台湾海峡を中国から守る“主役”は日本 日台、中国共産党の野望を打ち砕くソフトパワーに

 米フーバー研究所フェロー、エミリー・チェン氏(在米台湾人)が2016年2月、米外交専門誌『ナショナル・インタレスト』で発表した論文「台湾海峡の次の主役は日本か?」は、タイトルから十分刺激的だった。

 台湾海峡は、台湾と中国・福建省を隔てる海峡で、1950年代から90年代まで、何度も台湾海峡危機と呼ばれる軍事的緊張が高まった。96年の台湾総統選挙では、台湾独立志向が強い李登輝氏が「民主」というスローガンを掲げて出馬したことに、中国共産党は強く反発した。

 中国人民解放軍は軍事演習として、ミサイルを台湾海峡に立て続けに撃ち込み、台湾を恫喝(どうかつ)した。これに対し、当時のビル・クリントン米大統領は空母2隻を中心とする艦隊を台湾海峡に派遣し、中国共産党に圧力をかけ、事態の沈静化を図った。中国による軍事的威嚇は台湾人をかえって団結させ、総統選挙では李氏が圧勝した。

 そんな、朝鮮半島の38度線と並ぶ「アジアの火薬庫」といえる台湾海峡の命運は日本が握っていると、チェン氏は論文に記した。

 彼女は、日本の軍事力で中国の台湾侵攻を阻止できる-と単純に考えたのではない。論文では軍事には触れず、この10年の日台間の民間交流の爆発的拡大と、濃密な親密度、相互理解について、日本文化の台湾への侵透から解き明かしている。そんな日台関係が、中国共産党の野望を打ち砕くソフトパワーになると、さまざまなデータを用いて論じているのだ。
チェン氏がそんな構想を描けた背景に、安倍晋三首相が第二次政権発足直後の2012年暮れに発表した「アジアの民主的安全保障ダイヤモンド(セキュリティーダイヤモンド)構想」があったのである。

 現実的な問題として、現在、日台間の軍事交流を進められる環境はない。だが、台湾は確実に、中国共産党の独裁政権を嫌う、成熟した海洋民主国家として、新しい一歩を踏み出している。この論文は、民進党の蔡英文総統が16年1月の台湾総統選挙で、国民党候補を打ち破るという予兆の中で書かれたものだった。

 昨年7月、中国の空母「遼寧」が台湾海峡を通過し、戦闘機や爆撃機も不穏な動きを見せた。中国共産党にしてみれば、クリントン米政権に空母を派遣された恨みを20年後に晴らすとともに、独立志向の蔡政権への脅しと嫌がらせの一環である。

 そんななか、海上自衛隊のヘリ搭載型護衛艦「いずも」は昨年6月、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国11人の士官を乗せて、南シナ海で不審船対処や救難訓練など国際法に準拠した研修を実施した。それは、中国が国際法を無視して、南シナ海の岩礁を埋め立て要塞化している海域の近くだった。

 ■西村幸祐(にしむら・こうゆう) ジャーナリスト。1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退。在学中、「三田文学」の編集を担当し、80年代後半から、作家、ジャーナリストとして活動。2002年日韓サッカーW杯取材後、拉致問題や歴史問題などにも、取材・執筆分野を広げる。アジア自由民主連帯協議会副会長。著書に『21世紀の「脱亜論」 中国・韓国との訣別』(祥伝社新書)、『報道しない自由』(イースト・プレス)など。

【私の論評】「いずも」の空母化は、中共の野望を粉微塵に打ち砕く(゚д゚)!

ブログ冒頭の西村氏の記事で、最後に「いずも」のことが出ているのは、当然といえば当然です。エミリー・チェン氏が触れていなかった、軍事力によっても日本が「台湾海峡の次の主役」になり得る可能性が高まってきたことです。

それは、この「いずも」の軽空母化です。これは、中国が極度に恐れていることです。米国の空母に加えて、日本の空母が台湾海峡を頻繁に行き来するようになることを恐れているのです。

なぜそこまで、中国は「いずも」空母化を恐れるのでしょうか。

日本ではF-35Bの導入検討が報道されました。共同通信によれば防衛省には「来年後半に見直す「防衛計画の大綱」に盛り込むことも想定」した検討が進められているといいます。

これはF-35Bを搭載した軽空母を作るということです。空自導入中のF-35Aの一部を軽空母用のB型に改めるのです。それを現在ヘリコプターを運用している海自軽空母「いずも」、「かが」で運用しようとする検討です。

なぜこのような構想が持ち上がったのでしょうか。簡単にいえば中国への対抗策です。日本は中国海軍力の成長に脅威を感じています。中でも日本が持たない空母を中国が保有しました。これは日本にとって大きな脅威です。それに対抗するためには日本も空母を持つしかない。それがF-35Bの「いずも」型搭載検討なのです。

さらにいえば、F-35B軽空母は対中海軍力の劣勢を一挙に改善できる力を持っています。

なぜなら日本が軽空母を持てば以下のようなことが実現できるからです。
1中国空母を陳腐化
2中国艦隊戦力の更新強要
3中国潜水艦戦力の更新遅滞
を引き起こせるからだ。


1 中国空母の陳腐化

日本がF-35B搭載の軽空母を作ると中国の正規空母は建造中を含めて全て旧式化することになります。なぜなら、中国の空母は艦載機の性能で圧倒的劣勢に陥るからです。中国空母が搭載しているJ-15戦闘機は第4世代戦闘機である。第5世代のステルス戦闘機F-35には手も足もでないです。レーダ探知できないF-35Bに対し中国のJ-15は一方的劣勢の立場に転落するからです。

中国初の国産空母。昨年4月26日水曜日に中国・大連で行われた進水式にて
実運用の差はさらに広がることになります。現用の中国空母はカタパルトを持ちません。このためJ-15戦闘機は発進時に重量制限が掛けられています。性能上は最大離陸重量33トンだが実際には28トンでの発艦も厳しいのです。しかも滑走路を長く取る必要があるためめ発艦の間隔も相当に間延びします。

日本軽空母にはそのようなことはありません。F-35Bはカタパルト無しでも満載重量で発艦できます。しかも着艦帯との取り合いもないため連続発進が可能となります。その結果、中国空母は日本軽空母に勝てない二線級装備となります。

そうしてこれは平時にも有効です。日本の軽空母に比較して、中国空母は旧式扱いされることになります。日本軽空母と並べられた場合「中国空母は日本空母に敵わない」ということが誰の目にも明らかになります。

2中国艦隊戦力の更新強要

日本軽空母登場により中国艦隊は日本に対して質的劣位に陥ることになります。中国は、対米劣勢に加え対日劣勢にも陥ることになります。実際上は、このブログで述べているように、アジア最大の海軍力を持つのは日本なのですが、それでも、中国の時代遅れの空母や、他の艦艇も数は多いので、なかなかそれを認識できないということがありますが、日本が軽空母を持った場合、誰の目から見ても明らかに中国は劣勢になります。その結果、中国は自国艦隊戦力を今以上に近代化しなければならなくなります。



これは駆逐艦以下にも及ぶことになります。空母にカタパルトを付け、ステルス艦載機を開発するだけではありません。空母を護衛する055、052C/D、054Aといった駆逐艦・フリゲートもF-35によるステルス攻撃に対抗しなければならないのです。

特にF-35向けに開発されたの対艦/対地/巡航ミサイルであるJSM対艦ミサイルの登場は、中国の護衛艦に厳しいことになります。ステルス性能が高いため正面からではレーダに映らないです。ミサイル側はレーダを使わない画像誘導のため逆探知も効きません。その上、従来ミサイル同様に高度2.5m程度の超低空を飛んでくるのです。

軍艦のレーダで波の乱反射の中を飛んでくる対艦ミサイルの探知は難しいです。その上、高ステルス性のJSMではミサイル反応が乱反射ノイズよりも小さくなるのです。

仮に探知できても迎撃できません。中国迎撃ミサイルは基本的に陸上転用型です。米国製とは異なり海面乱反射対処や超低空目標対処能力は高くはないです。一部の光学誘導あるいは電波・光学複合誘導タイプを除けばロックオンできないのです。

結果、中華イージス以下のシステムは、全く役立たずとなり更新を迫られることになります。空母、艦載機、駆逐艦の更新の結果どういうことになるでしょうか。

中国海軍の数的増勢は難しくなります。90年代建造の旧式艦更新もままならなくなることからすれば、今後は艦隊規模は縮小することになります。

3中国潜水艦戦力の更新遅滞

日本軽空母導入は中国に空母、艦載機、駆逐艦の更新を迫ることになり、それにより中国海軍の成長を抑制し、縮小方向に進めることになります。

そうしてこれは、中国潜水艦の更新増強を邪魔することにもつながります。

元々、中国空母は海軍力競争では脅威ではありますが、実際の戦闘ではさほどの脅威ではありません。日米は日本本土周辺なら容易に沈められます。所詮は艦載機30機未満の空母に過ぎません。搭載している早期警戒機もヘリコプターのZ-18AEWであり低性能です。

中国海軍初の原子力攻撃潜水艦。原子炉や戦闘システムが未熟であり、
静粛性や放射能漏れなどの問題があったが、数度の改修により改善されている
本当に面倒な敵は中国潜水艦です。性能向上は大幅に進んでおり、今のところはかなり簡単に探知できるのですが、近いうちには探知不能、もしくはかなり難しくとなるかもしれません。

実戦ではその対処に苦労することになります。どこに潜っているのかわからないということにもなりかねません。その中国潜水艦に対処するため日米海軍力は、多くの海域に軍備を分散して配備をせざるを得ないことになる可能性もあります。

このような背景から、日本の軽空母は、潜水艦への資源配分を妨害できる点もメリットです。空母建艦競争等は日米にとって都合の良い話なのです。中国は空母機動部隊1つを作るために最新の通常潜水艦10隻と原潜2隻を諦めることになります。これは日米にとって良い取引です。

防衛省がF-35Bを導入したいと考える理由はこのようなものだ。日本は導入と軽空母運用により中国との軍事力積み上げゲームを有利にできるのである。

導入コストは?

さほどではありません。F-35Bそのもののコストは大したものではありません。もともと計画されている空自F-35Aの一部をF-35Bに改める形ででできます。もちろん1機あたりの取得コストが20億円程度上昇することになります。エンジン等一部部品の集積を行う必要も生まれます。とはいいながら、全く新規の巨大事業ではありません。

空母もすでに準備されています。「いずも」「かが」はそのまま使えます。最初から各部寸法はF-35Bに合わせて作ってあります。格納庫も無理に詰め込めば14機は入ります。短距離離陸のためのスキージャンプはいりません。微速・無風でもF-35Bは軽量状態で100m未満で発進可能です。20ノット(約40km)、向かい風10mもあれば満載状態でも100mで発進できます。

あるいは中古コンテナ船を改修してもよいです。90年代末に建造された4000TEUクラスはただ同然で入手できます。経済性低下と排ガス規制でスクラップ処理がはじまっているからです。とはいいながら、全長300m、25ノット(約50km)出せる優良船です。飛行甲板を貼るだけでF-35B母艦として運用できます。


結論

日本が軽空母を数隻持ち、交代で台湾海峡を航行するようになれば、どういうことになるでしょうか。中国共産党の野望を打ち砕くソフトパワーとともに有効なハードパワーにもなります。

さらに、米国の空母も台湾海峡を不定期なが、航行させ、さらに日本の軽空母とともに、5隻程度の空母とともに、台湾海峡で大規模な軍事演習など行えば、中国は極度のプレッシャーにされされることになり、対抗上空母開発とともに海軍力の再構築に追い込まれることになります。

だからこそ、中国は「いずも」の空母化を極度に恐れているのです。「いずも」の空母化と、さらなる親密な日台関係が、中国共産党の野望を打ち砕く巨大パワーとなるのです。

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