2022年7月3日日曜日

戦争は「誇張」されている?「夏を満喫」するウクライナ市民の写真が意味するもの―【私の論評】戦争の一側面しか見ない人に戦争を語る資格なし(゚д゚)!

戦争は「誇張」されている?「夏を満喫」するウクライナ市民の写真が意味するもの

<ウクライナで「夏を楽しむ」人々の写真が投稿され、一部からは「戦争のひどさが誇張されているのでは?」との声も上がるが>

オデーサのビーチには地雷を警告する看板が

ウクライナでは今も激しい消耗戦が続いている。特に東部での戦闘が激化し、ウクライナ軍はセベロドネツクの南北などでロシアの進軍に抵抗している。

一方、戦場がおおむね東部に移ったことで、広大な国土を持つウクライナのほかの地域では、戦いの激しさを以前ほど身近には感じなくなってきているのかもしれない。そうした地域の人々が、夏の到来を「楽しんでいる」様子を収めた写真がネットにはいくつも投稿されている。

しかし、これらの写真を見て、ウクライナは「報道されているほどひどい爆撃を受けていないのではないか?」と、主張する人が現れている。ウクライナの「惨状」は誇張されており、ここまで資金をつぎ込んで支援しなくても大丈夫ではないのか、というのだ。果たして彼らの主張は正しいのか?

6月16日に投稿されたあるツイートには、ウクライナの首都キーウの小さなビーチと思われる場所を数十人が利用する写真が掲載されている。

このツイートは、ユーチューバーのアレックス・ベルフィールドが投稿したもので、1万人以上が反応している。ベルフィールドはツイートの中で、メディアが戦闘の激しさを誇張し、誤解を招くような報道を行っていることを示唆している。


キーウの写真を掲載し、戦闘の激しさを疑問視するようなツイートはほかにもある。これらのツイートで紹介されている写真は、キーウを東西に横切るドニエプル川で撮影されたものだ。

ドニエプル川沿いは以前から、キーウ市民が水泳や日光浴を楽しむ人気のレジャースポットだが、それは2022年も例外ではないようだ。

■広大な国土すべてが戦場ではない

ウクライナはロシアに次いで、ヨーロッパで2番目に大きい国であり、直接的な軍事行動が比較的少ない地域もあるのは当たり前のことだ。

首都キーウはここ数週間にも砲撃を受けるなど無傷なわけではないが、それでも現在の主な戦場は北東部やドンバス地域であり、キーウからはかなり離れている。例えば、ロシアがまだ奪取を宣言していないハルキウまでは、キーウから車で約6時間かかる距離がある。

戦争が始まって2カ月間、ロシアの砲撃が続いたものの、その後ウクライナ軍は、首都と隣接地域から侵略軍を追い出すことに成功した。ただし、ロシア軍が再び攻撃を仕掛け、キーウの奪取を試みる懸念も残っている。

■絶望的な状況でも「日常」を求める心理

キーウは現在の戦闘休止状態によって、やや落ち着きを取り戻したとも言われている。しかし、政府当局は市民に対し、水辺で爆発物の調査が続いているため、ビーチに近づかないよう警告している。

また、ドニエプル川などで撮影された写真は絵のように美しいかもしれないが、キーウでは今も時おり空爆があり、ボランティアによる瓦礫の撤去が続いている。空襲警報はほぼ毎日、全国各地で発令されている。しかし、戦争の脅威がより明白な地域でも、ビーチや公共空間を利用する人々の姿が写真に収められている。

本誌がソーシャルメディアアプリのテレグラムで見つけた未検証の投稿では、(キーウよりはるかに戦場に近い)オデッサで、ミサイル防衛システムが背後で発射されるなか、市民が公共空間で詩を朗読したり、海からの侵入を防ぐバリアが設置されたビーチで、日光浴を楽しんだりしている。

オデーサの海岸を利用していた複数の市民が、地雷で命を落としたという投稿もある。

言うまでもないことだが、国の一部の人々の行動を捉えた写真が、必ずしもほかのすべての人々の行動や考え方を反映しているとは限らない。2020年には、新型コロナウイルス感染症によってソーシャルディスタンスの確保が求められ、効果的なワクチンもなく、感染者数が増加していたにもかかわらず、欧米のビーチや公園には大勢の人が訪れていた。

ユーチューバーのベルフィールドは、ほかの投稿でも誤解を招くような主張を行っている。彼らのツイートには、戦争に関する十分な裏付けがある証拠が欠けているように見える。なにより、人は絶望的な状況であっても、必死に「日常」を求めようとすることに対する繊細な理解も欠けているように見える。

ツイッターで共有されたこれらの写真は、ウクライナにおける戦争の存在や、その激しさの反証にはならない。キーウのビーチを満喫する人々の写真が存在するのは確かだが、これは決してメディアが戦争を誇張している証拠ではない。さらに、戦争の脅威がより明白である地域の映像は、リスクが高まっていても同じ生活を続け、残酷な戦争のなかで平常心を保とうとしている人々の姿を示しているように見える。
(翻訳:ガリレオ)

【私の論評】戦争の一側面しか見ない人に戦争を語る資格なし(゚д゚)!

このようなツイートをする人は、現実認識能力に著しく欠けているのでしょう。戦争していても、人々は日常生活を送るわけですし、食事をしたり、学校に言ったり、仕事をして生活の糧を得たり、恋愛したり、結婚したり、子供を産んだり、時には息抜きもするのです。日常生活の一面だけみて、それを全部であるというのは明らかに間違いです。

1995年に封切られた『きけ、わだつみの声 Last Friends』という映画で主人公の織田裕二さんが「誰がこの戦争を始めたんだ!」などと、主人公が悲痛な叫び声をあげるシーンが予告編としてテレビCMで何度も映されたことがあり、その予告を見た、曽野綾子さんが「戦争中にはこんなことは全くなく、淡々と日々が過ぎていった」と語っておられました。


確かに、戦中末期には、食料不足などが顕著になっており、その面では大変だったでしょうが、戦前・戦中が軍部が専横した暗黒時代であるような見方は全くの間違いです。

そのような話は、私は伝聞として聴いたことがあります。私の曽祖父は太平洋戦争直前の頃も札幌に住んでおり、太平洋開戦時には、家に訪ねてきた近くの駐在さんと、開戦の話になり駐在さんも曽祖父も「いやー大変だ、日本と米国が戦争になった、日本は負けてしまうだろう、とてつもないことになった」と互いに大声で話ていたと祖父が私が中学生くらいのときに語って聞かせてくれました。

 確か、私が映画か何かで「官憲が一般市民を監視して、弾圧」をしていた映画のシーンなどをみて「あれは本当なのか」という質問を祖父にしたときの答えだったと思います。

当時の日本軍部が、ナチスのように振る舞い、国民を弾圧したなどというのは全くの間違いです。無論、官憲による弾圧が全くなかったとはいえず、そのようなこともあったとは思いますが、しかし、それがナチスのように、国家レベルで組織的に体系だてて行われていたかといえばそれはなかったと思います。

ある期間戦争をしていても、たとえば年単位で数字だけをみれば、戦争などしたなどということが認識できないこともあります。また、日本は戦後すべてが焦土と化して、そこから戦後日本がスタートしたという見方も、一見正しいようですが、これも正しくはありません。

これについては以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
【田村秀男のお金は知っている】「新型ウイルス、経済への衝撃」にだまされるな! 災厄自体は一過性、騒ぎが収まると個人消費は上昇に転じる―【私の論評】今のままだと、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は落ち込み続ける(゚д゚)!
この記事は、2020年2月のものであり、コロナが流行り始めたばかりの頃です。この頃は、マスコミは日本の経済停滞はコロナのせいであるとして、それ以前に増税がなされて経済が停滞していたことを無視するような報道をしていました。この記事は、それに対する批判の記事です。

その後皆さんご存知のように、コロナはパンデミックとなり、世界中で経済の停滞をもたらしましたが、安倍政権でコロナが流行り始めてから、政権交代した菅政権の両政権の期間において、当時いわれていた需給ギャップ100兆円に匹敵するほ合計100兆円の補正予算を組み、この期間には失業率が2%台という低さに抑え、大成功しました。

ただ、マスコミがこれを報道しないため、これを偉業であると認識しない人も多いです。

さて、本筋に入るため、この記事から一部を引用します。
あの第二次世界大戦であってさえ、統計上は年度ペースでみていれば、多くの国々で後の歴史学者は第二次世界大戦があったことさえ気づかないだろうと、あの経営学の大家ドラッカー氏が述べていました。

簡単にいうと戦争中は、各国が戦争のために、兵器などを大量に製造し、戦後は復興、復旧のためものすごい勢いで、生活物資などを増産するため、年度ベースでみると戦争の形跡など見当たらなくなってしまうのです。

日本も例外ではありませんでした。日本は確かに、原爆を2発も落とされ、主要都市はことごとく爆撃され、とんでもない状態になりましたが、それでも統計上は終戦直後には、国富の70%が残り、そこからスタートしたのであり、良くいわれているように戦後のやけのヶ原でのゼロからのスタートではなかったのです。

大都市や中核都市は焼け野原になっていても、地方での農産物や、製造の基盤は残っており、そこからのスタートであり、決してゼロではなかったのです。そのような物資や基盤を求めて、終戦後しばらくの間は北海道への他地区からの移入が続きました。

しかし、日本の場合は他の先進国では見られなかった特殊な現象がありました。それは、軍部による様々な物資の莫大な隠匿でした。それは、金塊から、米、小麦粉、砂糖、塩、医療品、衣服など様々な膨大な隠匿物資があったそうです。

NHKスペシャル「東京ブラックホール」で紹介された、旧日本軍による隠匿物資
これらは、戦争中は戦争継続という意味合いで、まだ理解できますが、戦争が終わっても隠匿していたのは理解できないところです。これは、はっきり言うと犯罪です。

このように、様々な物資が隠匿されたため、終戦直後の多くの国民の生活はかなり貧しいものでしたが、それら隠匿物資も、米軍に摘発されたり、闇市で売られるようになったり、その闇市が日本の警察によって摘発されるなどして、市場に出回るようになりました。そうして、ご存知のように日本は驚異の高度成長を遂げることになるのです。

日本の軍人というか、陸軍省等実体は役人ですから、何やら日本の役人には、物資を隠匿するような習性が元々あったようです。そのような習性は、現在の財務省の官僚や、日銀の官僚などに今でも色濃く受け継がれているようです。 

なお、戦後の物資隠匿については、以下の記事が詳しいです。是非ご覧になってください。

敗戦直後の「地獄」は、物資の隠匿に狂奔したエリートの不正によってもたらされた〔前編〕 貴志謙介『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』より
敗戦直後の「地獄」は、物資の隠匿に狂奔したエリートの不正によってもたらされた〔後編〕 貴志謙介『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』より

多くの日本人は未だに、官僚に欺かれているようです。財務省による増税の論理や、消費税の社会保障目的税化の理屈を聴いていると、本当にそうだと思います。

そうして、いえるのは戦争にも様々な局面があり、ある一面だけをみてそれが全部であるかのように思うことは明らかに間違いであるということです。

感情だけで戦争を見るのも良くないですし、経済合理性だけでみて、年次ベースで経済指標だけみていれぱ、戦争があったことにすら気づかないかもしれません。マクロ的視点だけでも、ミクロ的視点だけでも戦争の実像は捉えられません。

確かに、日本は戦後国富が七割が温存され、そこからスタートという、他のアジア諸国などから比較すれば、恵まれたスタートを切りましたが、一方で第二次世界大戦では大勢がなくなっていますし、日本の都市部の多くが焼け野が原になったのは事実です。


そうして、沖縄戦においては、軍人の戦死者が一番多かったのは北海道出身者であり、1万800名と記録されています。

私は旭川の高校を卒業しましたが、在学中に同じクラスの人に、祖父が沖縄で戦死したという話を聞いた後で、また同じ学年の他のクラスの人の祖父もやはり沖縄で、戦士したという話を聴いたので、郷土史を調べたところ、その事実を発見しました。沖縄戦で軍人で一番戦死者が多かったのは北海道ということには本当に驚きました。

当時、日本史の先生にそのことを話すと、先生も驚いていました。

郷土史によれば、北海道の上川地方では、沖縄戦の戦死者も含めて、農家の戦死者が多く、戦後しばらく農村社会に影を落としていた時期があったそうです。

以下に沖縄戦での北海道の戦没者数を市町村別に掲載します。

「本籍地市区町村ごとの刻銘者数〈市区町村名は合併前のもの〉」【北海道】

ー北海道計1万800ー

石狩支庁〉ー1092ー

札幌市761、江別市82、千歳市32、恵庭市34、広島町17、石狩町25、当別町52、新篠津村10、厚田村35、浜益村39、不祥5

渡島支庁〉ー1354ー

函館市684、松前町78、福島町46、知内町26、木古内町47、上磯町60、大野町37、七飯町46、戸井町44、恵山町25、椴法華村7、南茅部町27、鹿部村15、砂原町15、森町67、八雲町85、長万部町39、不祥6

檜山支庁〉ー326ー

江差町41、上ノ国町41、厚沢部町31、乙部町44、熊石町37、大成町32、奥尻町10、瀬棚町29、北桧山町25、今金町36

後志支庁〉ー1299ー

小樽市557、島牧村17、寿都町72、黒松内町26、蘭越町45、ニセコ町24、真狩町22、留寿都村34、喜茂別村34、京極町31、倶知安町42、共和町51、岩内町89、泊村40、神恵内村19、積丹町41、古平町33、余市町116、仁木町13、赤井川村11、不祥3

空知支庁〉ー1612ー

夕張市168、岩見沢市115、美唄市155、芦別市43、赤平市55、三笠市119、滝川市86、砂川市59、歌志内市66、深川市119、北村20、栗沢町66、南幌町17、奈井江町27、上砂川町32、由仁町49、長沼町58、栗山町71、月形町17、浦臼町17、新十津川町55、妹背牛町26、秩父別町30、雨竜町27、北竜村21、沼田町51、幌加内町40、不祥3

上川支庁〉ー951ー

旭川市304、士別市82、名寄市92、富良野市65、鷹栖町30、東神楽町10、当麻町31、比布町21、愛別町18、上川町16、東川町31、美瑛町48、上富良野町29、中富良野町26、南富良野町22、占冠村2、和寒町24、剣淵町19、朝日町12、下川町17、美深町25、音威子府村6、中川町19、不祥2

留萌支庁〉ー238ー

留萌市50、増毛町37、小平町29、苫前町23、羽幌町41、初山別村17、遠別町9、天塩町19、幌延町13

宗谷支庁〉ー198ー

稚内市41、猿払村20、浜頓別町4、中頓別町23、枝幸町11、歌登町15、豊富町13、礼文町18、利尻富士町41、利尻町11、不祥1

網走支庁〉ー1147ー

北見市163、網走市109、紋別市82、東藻琴村17、女満別町33、美幌町63、津別町39、斜里町50、清里町17、小清水町26、端野町28、訓子府町36、置戸町35、留辺蘂町41、佐呂間町60、常呂町20、生田原町25、遠軽町54、丸瀬布町14、白滝村17、上湧別町30、湧別町54、滝上町43、興部町37、西興部村25、雄武町29

胆振支庁〉ー583ー

室蘭市205、苫小牧市64、登別市28、伊達市65、豊浦町34、虻田町24、洞爺村15、大滝村7、壮瞥町26、白老町31、追分町26、厚真町21、鵡川町16、穂別町21

日高支庁〉ー223ー

日高町11、平取町26、門別町34、新冠町8、静内町35、三石町26、浦河町37、様似町27、えりも町19

十勝支庁〉ー929ー

帯広市194、音更町86、士幌町22、上士幌町25、鹿追町29、新得町30、清水町58、芽室町67、中札内村17、大正村4、更別村18、忠類村10、大樹町27、広尾町31、幕別町62、池田町40、豊頃町43、本別町54、足寄町43、陸別町19、浦幌町49、不祥1

釧路支庁〉ー489ー

釧路市214、釧路町26、厚岸町51、浜中村33、標茶町28、弟子屈町42、阿寒町30、鶴居村12、白糠町29、音別町23、不祥1

根室支庁〉ー207ー

根室市100、別海町36、中標津町31、標津町20、羅臼町8、歯舞町10、千島択捉郡留別村1、千島択捉郡泊村1

樺太庁〉ー152ー

以上は、沖縄戦だけの戦没者数です。

戦争の一側面しか見ない人は、以上で述べたようなことを見逃してしまうのでしょう。左翼運動家などが「戦時中沖縄は捨て石にされた」などと暴言をはいたりすると、ほんとうにやるせない気持ちになったことがあります。

私は、戦争の一側面しか見ない人に、戦争を語る資格はないと思います。

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2022年7月2日土曜日

与党の「消費減税で年金カット」発言は国民に対する恫喝そのものだ 消費減退という指摘も的外れ―【私の論評】財務省による消費税の社会保障目的税化は、世界の非常識(゚д゚)!

日本の解き方

自民党の茂木敏充幹事長

 消費税の減税をめぐる与党からの発言が注目された。岸田文雄首相は「引き下げに伴う買い控え、あるいは消費が減退するなどの副作用がある」とし、自民党の茂木敏充幹事長は「野党の言うように下げるとなると、年金財源を3割カットしなければならない」と述べた。

 それにしても、「消費税は社会保障目的税である」という財務省の罠にはまっているのは情けない。

 世間で常識化している「消費税の社会保障目的税化」は、結論から言えば間違いだ。実は、1990年代までは大蔵省(現財務省)も、消費税は一般財源であり、社会保障目的税としてはいけないという正論を主張していた。

 しかし、99年の自民、自由、公明党の連立時に、大蔵省が当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、消費税を社会保障に使うと予算総則に書いた。2000年度の税制改正に関する答申(政府税制調査会)では、それに対する抗議の意味も含めて、「諸外国においても消費税等を目的税としている例は見当たらない」と記述されている。

 付け加えるなら、消費税は地方税とすべきだ。消費税は安定財源なので、先進国では地方の税源であることが多い。これは、国と地方の税金について、国は応能税(各人の能力に応じて払う税)、地方は応益税(各人の便益に応じて払う税)という税理論にも合致する。

 いずれにしても、社会保障論や租税論からみれば、消費税を社会保障目的税とするのは間違いだ。

 社会保障は、助け合いの精神による所得の再分配なので国民の理解と納得が重要だ。というわけで、日本を含めて給付と負担(保険料)の関係が明確な社会保険方式で運営されている国が多い。ただし、日本のように税金が半分近く投入されている国はまずない。このように税の投入が多いと、給付と負担が不明確になるからだ。

 つまり、消費税を社会保障目的税にするのではなく、保険料で賄うほうが望ましい。保険料は、究極の社会保障目的税とも言える。世界では「社会保険税」とされ、税と同じ扱いである。

 もし日本でも、世界の他の国と同様に、消費税が社会保障目的税でなければ、茂木幹事長の恫喝(どうかつ)ともいえるような暴論もなかっただろう。

 ちなみにコロナ危機を受けてドイツや英国では飲食、宿泊、娯楽業界の付加価値税の時限的引き下げが行われた。これで、岸田首相のいう「消費減退論」も的外れであることがわかるだろう。

 岸田首相や茂木幹事長の意見は、消費税を社会保障目的税とした間違いによるものだろう。一方、国民が「恫喝」と感じたのはまさに正しい。

 財務省が国際常識に反しているのは、今後増大する社会保障を〝人質〟として消費税の増税に持っていこうとしたところにある。まさに、これは「恫喝」そのものだ。

 岸田首相や茂木幹事長の発言から、財務省のいいなりとなっていることや、日本の消費税に隠された闇が浮かび上がってしまった。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】財務省による消費税の社会保障目的税化は、世界の非常識(゚д゚)!

茂木氏が実際にどこで、どのような発言をしたかといえば、以下のようなものです。

茂木氏は28日、沖縄県嘉手納町での演説で「野党は選挙が近づくと年中行事のように『消費税を下げる』と話す。野党の言うようにすると、社会保障の財源を3割カットしないといけない。そんなことはできない」と語りました。

同時に「消費税は年金、医療、介護、子育て支援の大切な財源だ」と強調。実際に消費税率を下げるには「おそらく1年近くかかる」と述べ、物価高対策として即効性に欠けると主張しました。

消費税を社会保障目的税とする国はなく、それは社会保障論や租税法論から筋違いであることを財務省は1990年代には理解していました。しかし、社会保障人質・恫喝のために筋を曲げたのです。それから考えれば、茂木幹事長の恫喝は、財務省から見ればよく言ったということになります。

上の髙橋洋一が語っているように、年金・医療・介護は基本的に、税方式ではなく「保険方式」によって運営されるべきものです。事実、日本の基本的な制度設計もそうなっています。

医療が保険方式であるのは馴染み深い事実ですが、誤解されているのは年金です。「年金は国からもらえるお金である」と思っている人が、本当に多いです。

「年金」とは政府からもらえるお金ではない

簡単に説明すると、「健康保険」が発想としては「病気にならなかった人のお金で、病気になった人を保障する」ものであるのに対して、年金保険は「早く死んでしまった人の保険料を、長生きした人に渡して保障する」ものです。

年金が保険であることは、法律を見ればよくわかります。

たとえばサラリーマンが加入している厚生年金は、「厚生年金保険法」という法律に基づいています。法律名のなかに「保険」と書かれていることでわかるように、あくまでも「保険」です。

他方で、国民年金の場合は「国民年金法」という名前の法律で、法律名に「保険」という言葉は付いていませんが、法律の文面を読むと「被保険者」「保険料」という言葉があり、やはり保険であることがわかります。


保険というのは保険料で成り立つシステムです。したがって、税金とはまったく関係がありません。この重要な点を押さえておかないと、財務省の「年金などの社会保障費が逼迫しているから消費増税が必要」というまやかしの論理に騙されてしまいます。

日本の場合、国民皆保険制度になっており、国民には社会保険料を支払う義務があります。ですから、保険料は実質的には税金と同じです。しかも、社会保障限定で使われるものですから、究極の目的税です。

消費税と社会保険料には大きな違いがあります。消費税は誰がいくら支払ったのかという明細が残っていないのに対して、社会保険料は誰がいくら支払ったかという個人別の明細記録が残っています。じつは、この記録の有無の違いが大きいのです。

保険料は記録が残るので、給付と負担の関係が明確になります。保険料を多く支払った人は給付が多くなり、保険料をあまり支払っていない人は、給付が少ない。じつにシンプルな仕組みです。

このように給付と負担の関係が明確なほうが、国民もストレスがありません。

「こんなに年金が少ない」という文句に対し、過去の保険料支払いの記録をもとに「年金の給付額は支払った保険料に対応しています。あなたの保険料の支払いはこの額なので、給付はこの額です」とはっきり伝えることができます。

不満がゼロになることはないにせよ、少なくとも「俺の年金が少ないのは政府のせいだ」という類の声はいまより減ることでしょう。

ところが消費税を年金財源に使う場合は、消費税の支払い記録が残っていません。

消費税を払っていない人が「俺の年金が少ない」と文句をいってきたとき、「消費税をあまり払っていないので年金が少ないんです」と答えられません。

誰がいくら消費税を払ったかという記録がないと、「ルールでこの額しか出ません」程度のことしかいえません。

その点、社会保険料には①使用目的が明確、②記録が残る、③給付と負担の関係が明確という3つの利点があるのです。やはりこの3つの利点をいかして、社会保険は保険料だけで賄い、消費税は地方税とするのが、ベストです。

消費税を社会保障目的税化してしまったため、消費税税率の引き上げに賛成する人の多くの人が、年金、医療、介護や子育て支援必要としています。まさに、財務省の恫喝に乗った形です。


保険料は、究極の社会保障目的税ともいえます。保険料といっても、その法的性格は税と同じで強制徴収であり、滞納すれば財産没収などの滞納処分を受けるのは世界共通です。このため、保険料とはいえ、世界では社会保険「税」として、税と同じ扱いです。

ただ、今の日本は、世界の常識になっている「歳入庁」がないという先進国の中で珍しい存在です。税・保険料の徴収インフラができていないので、徴収漏れも多く想定されており、これが社会保障の財源不足や不公平感にもつながっています。

財務省は、社会保障財源の確保について、歳入庁創設による保険料という正道ではなく、消費税の社会保障目的税化という邪道を進めました。

実は、経済団体が消費増税に賛成している理由についても、鍵はここにあります。保険料は労使が折半するので企業負担もあるが、消費税は企業負担がないと経済界は考えて、消費増税に前向きなのでしょう。

その上に、財務省が消費増税と法人税減税のバーターを持ち出すので、さらに経済界は消費増税に前のめりになるのです。

やはり、消費税は高橋洋一氏の主張するように、地方税とすべきです。そうすれば、消費税増税と法人税減税のバーターも成り立たなくなります。

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