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2020年4月16日木曜日

米軍コロナ禍、その隙に台湾を恫喝する中国の卑劣さ―【私の論評】東アジアで失敗続きの中国は、今後軍事的挑発をエスカレートし、台湾武力奪取の可能性大(゚д゚)!

米軍コロナ禍、その隙に台湾を恫喝する中国の卑劣さ
日本にも迫る中国海洋戦力による危機

台湾海峡を通過中の米海軍イージス駆逐艦「バリー」(写真:米海軍)

(北村 淳:軍事社会学者)

前回の本コラム(「米空母『コロナ感染』でチャンス到来の中国海軍」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60070)で取り上げたように、南シナ海で対中牽制作戦を実施していた米海軍空母「セオドア・ルーズベルト」は艦内で新型コロナウイルス感染が発生したため急遽グアム島の米海軍基地に撤収した。

 作戦中断ならびに乗組員上陸措置を巡ってセオドア・ルーズベルト艦長のブレット・クロージャー大佐とトーマス・モドリー海軍長官代理をはじめとする海軍指導部が衝突し、クロージャー大佐は艦長を解任されてしまった。しかし、モドリー海軍長官代理に対する批判が湧き起こり、モドリー氏は辞職に追い込まれた。

 現時点(4月13日)で、およそ5000名のセオドア・ルーズベルト乗組員のうち感染が確認されたのはクロージャー大佐を含めて600名(全乗組員に対するPCR検査は現在も継続中)に上る。70機の航空機を積載した空母セオドア・ルーズベルトは完全に戦列を離脱してしまった。

 新型コロナウイルス感染のために緊急出動が不可能となってしまっている米海軍空母はセオドア・ルーズベルトだけではない。横須賀を母港としている「ロナルド・レーガン」、シアトル郊外のブラマートンで出動調整中であった「カール・ビンソン」と「ニミッツ」の3隻の乗組員にも感染者が発生している。

 このように大平洋艦隊の空母が4隻も新型コロナウイルス感染に見舞われたため、当面の間は東アジア海域に米海軍空母打撃群が緊急出動することは不可能な状況となっている。そのため米海軍などでは、「中国軍が米海軍空母戦力の不在につけ込んで、台湾を武力恫喝したり軍事攻撃するようような事態が起こらなければ良いのだが」と真剣に危惧している。

台湾東岸沖に中国の空母艦隊が接近

 米海軍がそうした危機感を抱くことはけっして杞憂ではない。実際に中国軍は台湾周辺で活動を活発化させている。

 4月10日午前、中国本土からH-6爆撃機、KJ-500早期警戒管制機、それに4機のJ-11戦闘機という計6機の中国空軍機編隊が、バシー海峡上空を台湾南端沖から台湾東岸沖へ抜けて、西太平洋上空での遠距離機動訓練を実施した。台湾空軍機が緊急発進し、監視活動を行ったところ、往路と同じくバシー海峡上空を経て中国大陸へ戻っていった。

中国福建省と台湾の間が台湾海峡。台湾とフィリピン(正確にはマヴディス島)の間がバシー海峡

 中国空軍機が中国へ取って返したのと入れ替わりに、アメリカ空軍EP-3E電子偵察機が台湾南端の南シナ海沖上空で情報収集活動を実施した。また、その日の夕方、アメリカ海軍第7艦隊に所属し、横須賀を母港としている米海軍イージス駆逐艦「バリー」が、中国軍による台湾周辺上空や海域における威嚇的行動を牽制するために、台湾海峡に北側から進入し南下を開始した。すると中国海軍はミサイルフリゲート「南通」を派遣して、バリーの追尾を開始した。

 バリー(および南通)が台湾海峡を南下中の4月10日夜7時頃、長崎南西沖東シナ海を南下する中国海軍の空母艦隊を海上自衛隊駆逐艦「あきづき」とP-1哨戒機が確認した。空母艦隊は空母「遼寧」、052D型ミサイル駆逐艦2隻、054A型ミサイルフリゲート2隻、そして901型高速戦闘支援艦「呼倫湖」の6隻で編成されていた。

中国海軍「遼寧」(写真:統合幕僚監部)

 4月11日、東シナ海を南下してきたその空母艦隊は沖縄本島と宮古島の間のいわゆる宮古海峡を西太平洋に抜けた。南下してきた中国艦隊は南西方向へ転進し、バシー海峡方面へと向かった。

 台湾東岸沖に中国空母艦隊が接近してきたため、台湾海軍では厳戒態勢が発令され、軍艦が出撃準備を開始した。それとともに台湾軍当局は台湾市民に向けて、「わが軍は台湾周辺の空域と海域に対する警戒態勢を固めている。台湾市民は安心してください」とのメッセージを発した。

 台湾東岸沖をゆっくりと南下した中国空母艦隊はバシー海峡を抜けて南シナ海へと抜ける模様である(4月13日時点で公式確認は取れていない)。

東アジア「唯一」の空母で台湾を恫喝

 東シナ海を南下し南西諸島島嶼線を抜けて台湾東岸を回り込んでバシー海峡を南シナ海へと向かった中国海軍空母「遼寧」は、現時点において東アジア海域で作戦行動を実施中の「唯一」の航空母艦である。

 上記のように東アジア海域に展開している米海軍空母セオドア・ルーズベルトとロナルド・レーガンはともに新型コロナウイルス感染のために緊急出動ができず、このほかの米大平洋艦隊空母も台湾・日本周辺海域に急行できる状態ではない。

 佐世保を母港としている米海軍強襲揚陸艦「アメリカ」は、軽空母としての運用は可能であるが、現在までのところ運用可能な艦載機F-35Bは最大で13機といわれている。したがって、練習空母の域を出ていないとみなせる「遼寧」に対してすら“空母”といえる状態ではない。

 もちろん中国海軍が空母艦隊を台湾東海岸沖に展開させて台湾を軍事攻撃するような愚劣な作戦を実施することはほとんどあり得ないが、現時点において東アジアで「唯一」の航空母艦を台湾周辺海域で航行させるということは、明らかに台湾に対する恫喝ということになる。

 実戦における航空母艦の威力に関しては、アメリカ海軍内においても疑義が生じてきている。だが、航空母艦という強力で巨大な軍艦を派遣することの政治的意義は、依然として強いのである。

 実際、中国軍当局者たちは、「中国軍航空機や艦艇による台湾周辺での各種機動訓練は、台湾分離独立分子に対する斬首作戦ならびに台湾独立分子を援助しようとする外国勢力の介入を阻止するための抑止効果を期待してのものである」と繰り返し述べている。

 そして「このような各種訓練を繰り返すことにより、台湾独立分子は自らの企てが無謀であることと、もはや外国勢力による効果的な支援は期待できないことを悟るであろう。そして、そのように独立分子が目を覚ますまで、この種の訓練は繰り返されるし、さらに強化されることになる」と警告している。

危機感を共有しなければならない日本

 確かに中国側が宣伝しているように、少なくとも現時点においては、アメリカ海軍による強力な台湾支援は極めて厳しい状況にある。また、かつてはアメリカ軍や台湾軍が僅かながらも期待していた日本による何らかの支援も、新型コロナウイルスに対する日本政府の危機感のなさや無為無策から判断すると、そもそも期待することが誤っていたと考えざるをえない状況に陥っている。

 とはいっても、台湾に対する軍事的危機は日本にとっても全く同様の危機である。日本にはCOVID-19だけでなく中国海洋戦力による危機も差し迫っていることを、日本政府・国会は直視しなければならない。

【私の論評】東アジアで失敗続きの中国は、今後軍事的挑発をエスカレートし、台湾武力奪取の可能性大(゚д゚)!

米軍もコロナ感染で深刻なダメージを受けています。しかし、中国の人民解放軍もダメージを受けているはずです。

中国ウイルスは相手を選びません。中国人民解放軍内にも感染が広がっている気配があります。護衛艦や国産空母を備え、世界に海洋覇権を打ち立てようという解放軍も、ウイルス相手では勝手が違うのかもしれないです。

湖北省孝感市の解放軍空軍降兵軍保障部の軍官に新型肺炎感染が確認されたのは1月25日、すぐさま同じ部隊の200人が隔離されたと1月27日に香港蘋果日報が報じています。孝感市は武漢から70キロ離れた小都市です。

湖北省は解放軍唯一の空軍降兵軍(空降兵15軍)が配置され、武漢全体で5000人以上の兵士を有する。感染の恐れのある兵士たちは軍用機倉庫に隔離されたといいますが、そこは暖房設備もなく外と気温がそう変わらず、劣悪な環境であると、香港に拠点のある中国人権民主化運動情報センターが指摘していました。

その後、軍内の感染状況についてはほとんど情報がありませんでしたが、解放軍報が2月17日に、東部戦区の多くの軍官兵士が隔離監察を受けており、その中には新型ミサイル護衛艦「常州」艦長・余松秋も含まれていると報じていました。

小さな記事ではありますが、解放軍内で新型コロナウイルス感染が起きていることを公式に認めた記事です。過去、エイズやSARSの感染が軍内で発生したときも、解放軍内の感染状況は国家安全にかかわる問題として公表してこなかったことを考えると、この新型コロナウイルス感染はかなり大規模なものではないか、という憶測も流れています。

「常州」は、解放軍艦艇として初めて紅海での船舶救援オペレーションを成功させ、映画「オペレーション:レッド・シー」のモデルともなった解放軍・東海艦隊のエース艦です。感染が発生してからは厳格な管理、体温測定と消毒、隔離措置などを行い、今年の訓練、任務においての影響はない、としています。また余松秋艦長は招待所で1月30日から隔離監察を受けており、隔離先で訓練の難題を研究していたとされています。

また、中国人権民主化運動情報センターによれば、国産空母「山東」からも1人の軍人の感染が確認され100人が隔離中といいます。山東は大連港でメンテナンス中であり、3月に海南島の三亜軍港に戻る予定でしたが、帰港は遅れるといいます。

ちなみにCCTV4(国際チャンネル)で放送された最近の山東の様子は乗員全員がマスクをつけ、密閉式の完璧管理で防疫対策を実施しており、「死角なし、感染者ゼロである」と報じています。

このほか、武漢にある海軍工程大学が1月初め封鎖されたという情報が一部で流れています。

中国人民解放軍とて、中国ウイルスには相当を手を焼いているようです。では、中国人民解放軍もコロナ禍で手を焼いている最中に、東アジアで「唯一」の航空母艦を台湾周辺海域で航行させてまで、台湾に対する恫喝するのでしょうか。

その理由は以前もこのブログに述べた、台湾が独力で中国ウイルス封じ込めに成功したことにあると思います。当該記事のリンクを以下に掲載します。
新型コロナが証明した「独立国家」台湾―【私の論評】台湾が独力で中国ウイルス封じ込めに成功したことは、その後の世界に大きな影響を与える(゚д゚)!
flickerより Robin Huang 台湾国旗柄のビキニの女性 写真はブログ管理人挿入
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
今回の中国ウイルス禍で、台湾がウイルスの封じ込めに成功したことは、台湾国内のみではなく、世界に対して大きな貢献になりました。
もし、台湾が封じ込めに失敗し、中国に助けられるような事態になっていれば、そうして日本も大失敗していれば、何しろ、現状では米国が深刻な感染に悩まされている状況ですから、中国はアジアで大攻勢にでて、中国ウイルス後の新たな世界秩序は大きく中国側に有利なものに傾く可能性がありました。
中国としては、台湾が中国ウイルス封じ込めに失敗していれば、中国がイタリアなどのEU諸国に対して実施している、マスクや医療機器の提供や、医療チームの派遣などで微笑外交を台湾に対しても実行したことでしょう。

これにより、中国は今年1月の台湾総統選での蔡英文氏の再選により、失った台湾での失地回復を行うことができたかもしれません。

そうして、中国ウイルスが終息した後には、甚大な被害を受けた台湾に対して、莫大な経済的援助をすることになったと思います。

そうなると、台湾独立派が台頭した台湾を馬英九政権時代のように、親中派を増やすことができたかもしれません。

考えてみると、中国は昨年11月には、香港区議会議員選挙で親中派が敗北しています。今年1月には、台湾選挙で蔡英文総統が再選されています。いわば連敗続きでした。

中国ウイルスに関しては、韓国は当初は対策に失敗しましたが、最近では収束に向かっています。日本も、感染者が増えつつはありますが、それでも死者は相対的に少なく、中国や米国、EU諸国に比較すれば、中国ウイルス封じ込めには成功しています。

香港の対応も素早いものでこれも封じ込めに成功しています。中国国内で武漢における感染発生がまだ隠され、警鐘を鳴らした医者が警察に処分されていた1月1日前後、一国二制度のおかげで報道の自由がある香港メディアは問題を大きく報道し、市民に注意を呼び掛けました。

中国官僚のごまかしをよく知っている香港人が、2003 年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓をしっかりと心に刻み、徹底的な対策をしたことも効果的でした。

中国は、中国ウイルスで、台湾、香港、日本がかなり痛めつけられていれば、得意の微笑外交で、台湾、香港、日本に対して存在感を高めることができたかもしれません。

しかし、台湾は世界的にみても、最高水準で中国ウイルスの封じ込めに独力で成功し、独立国としての意地をみせました。

今の中国が、台湾統一のためにできることといえば、軍事的な脅威をみせつけて、存在感を強調することです。

だからこそ、本当は中国人民解放軍の中にも感染者がいるにもかかわらず、遼寧で台湾を恫喝しているのです。

おそらく、遼寧にも欠員ででいるかもしれません。欠員が出て、未熟な交代要員を乗鑑させて急場をしのいでいるかもしれません。

それにしても、今後中国ウイルスが終息するにつれて、中国による台湾への恫喝はさらに度合いを強めていくかもしれません。

香港も中国ウイルスで中国に頼ることなく、収束をみせています。

そうなると、中国に残されている道は、もう軍事的な示威行動による恫喝でしか、存在感を発揮できなくなります。

米軍が中国ウイルスから早期に立ち直れば、今後も中国は軍事的な恐喝どまりで終わらせるかもしれませんが、そうでなければ、台湾を武力で統一してしまおうと考えるかもしれません。

本年2020年は、中国の二つの100年計画の一つ「小康社会の全面的実現」目標の期限である建党100周年の2021年より一年前であり、もしこの時点で台湾統一が実現できれば、習近平政権にとっては長期独裁を全党および人民に納得させるだけの効果を持つ歴史的偉業となるからです。

ウイルスの封じ込めと、台湾統一に成功すれば、これは、習近平が成し遂げた大偉業ということになります。今まで、際立った業績のが一切なかった習近平にとって大きな手柄となり、習近平体制が定着することになります。

この脅威は日本にとっても他人事ではありません。台湾の次は、尖閣、尖閣の次は、沖縄、その次は日本ということになるかもしれません。

こうした脅威があることを前提に、日本は現行の憲法、法律内でこれに対処できることは実行し、さらに将来に備えて、憲法改正も急ぐべきです。特に、緊急事態条項は、中国ウイルスなどへの脅威への対処や、今後予想される中国による軍事的脅威に備えるためにも、必要不可欠であると考えます。

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