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2019年8月5日月曜日

日本経済には漁夫の利も、英国のEU離脱―【私の論評】英国はブレグジットで緊縮策を捨て去り、新たな経済モデルを樹立するかもしれない(゚д゚)!

日本経済には漁夫の利も、英国のEU離脱

塚崎公義 (久留米大学商学部教授)

英国の新首相は、EU離脱を強行する方針なので、欧州経済は混乱しそうです。しかし、日本経済への悪影響は限定的だろう、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は考えています。



失われる「自由貿易のメリット」は限定的

 EUは「人・物・資本・サービスの移動の自由」を基本理念としていますので、英国がEUを離脱すれば、大陸との間での様々な移動に支障が出る事になるでしょう。

 その中で、日本経済に影響しそうなのは、物の移動すなわち貿易でしょうから、本稿は貿易に焦点を当てましょう。

 経済学は、「自由貿易によって国際分業が促進され、それぞれの国が得意な物を作って交換し合うことで、双方にメリットがある」と教えています。それはその通りなのですが、工業国と農業国のような場合はともかく、産業構造も得意分野も似通っている先進国同士の場合には、そのメリットは限定的でしょう。したがって、EU離脱の悪影響も限定的です。

 イギリス人が「フランス産ワインに関税がかかるので国産スコッチで我慢しよう」と考えると、フランスのワインメーカーにとっては輸出が減ってしまいますが、一方でフランス人が「英国産スコッチに関税がかかるので国産ワインで我慢しよう」と考えれば、ワインメーカーの国内販売が増えるので、トータルの影響は限定的なのです。

 悲観論の好きな評論家やマスコミが「ワインメーカーは輸出が減って困るだろう」と書き立てるかもしれませんが、物事は多面的に見る必要があるので、要注意です。

 物の移動以外でも、たとえば金融業は英国から大陸への大量脱出が起こりそうですが、それによって英国のGDPが減った分は大陸のGDPが増えるわけでしょうから、欧州全体のGDPも、したがって日本から欧州への輸出も、それほど影響を受けないと思われます。

日本企業の英国工場は英国企業

 日本企業が英国に生産子会社を持っているケースは多いでしょう。したがって、英国経済が混乱したり、工場から欧州大陸への輸出が難しくなったりした場合、親会社の日本企業が痛手を被ることになりかねません。

 しかし、本当に痛手を被るのは英国企業である生産子会社であって、仮に失業するとしたら英国人従業員です。日本の本社は、海外子会社からの配当が減るだけです。これは、日本の景気にほとんど影響しません。

 日本企業は海外子会社から配当を受け取っても、それを日本人従業員のボーナスとしたり日本国内の設備投資に使ったりせず、手元資金として貯めておくか銀行に借金を返済するために使う場合が多いでしょう。それならば、配当が増えても減っても日本の景気には影響がない、というわけですね。

 親会社から生産子会社への部品の輸出が減るかも知れませんし、親会社の株価が下がれば株主の消費が減るかも知れませんが、いずれも影響は限定的でしょう。

合意なき離脱だと短期的には混乱するだろうが……

 英国のEUからの離脱が「合意なき離脱」になると、短期的には混乱が生じるでしょう。たとえば、税関が混乱して荷物が届かない、といったことが起きるかもしれません。しかし、時が経てば混乱も収まり、荷物も届くでしょう。

 部品が届かないから生産が止まる、ということもありそうですが、その場合にも部品が届き始めてから遅れを取り戻すべくフル生産が始まるでしょうから、少し長い時間軸で見れば、影響は限定的でしょう。

 そもそも、合意なき離脱の可能性が高まってから実際に離脱するまでに時間がありましたから、各企業が十分な準備をしていると考えてよさそうです。

日本経済には漁夫の利も

 欧州のGDPはそれほど減らず、英国子会社の損失も日本経済には響かず、合意なき離脱の影響も少し長い時間で考えれば影響が小さいとすれば、上記を見る限り、日本経済への影響は、限定的でしょう。

 一方で、日本経済が漁夫の利を得ることも期待されます。いままで「ドイツ車は関税がかからないから、日本車よりドイツ車を買おう」と考えていた英国人が、「どちらも関税がかかるなら日本車を買おう」と考えるかもしれません。

 もしかすると、英国と日本の自由貿易協定が締結され、「ドイツ車には関税がかかるけれども日本車はかからないから、日本車を買おう」ということになるかもしれませんね。

EUの崩壊は起きない

 悲観論を述べたがる評論家の中には、英国がEUを脱退すると、次々に脱退する国が出てきてEUが崩壊する、と言う人がいるかも知れませんが、それは杞憂です。

 まず、英国経済は今回のEUからの離脱で少なからぬ痛手を被るでしょうから、それを真似ようという国は多くないはずです。

 それ以上に重要なのは、英国がEUを離脱したのは、ユーロを使っていなかったからであって、ユーロを使っている国がユーロ圏から離脱するのは大変な労力が必要です。

 特に、対外純資産がマイナスの国がユーロ圏から離脱するのは、大きなリスクを伴います。海外の債権者が返済を求めて来たときに、今ならユーロを返済すれば良いのですが、自国通貨を使うようになると、自国通貨をユーロに替えて返済する必要が出て来ます。

 最初の返済は良いのですが、最初の返済のためにユーロを買うと、自国通貨安ユーロ高になりますから、次の返済は少し大変です。次の返済のためにユーロを買うと、3回目の返済はさらに大変です。こうして、最後の返済は非常な負担となるかもしれないわけです。

 そのことは、外国の債権者も予想ができますから、ユーロ圏を離脱した対外純債務国に対しては、高い金利を要求するようになるでしょう。今はユーロ圏にいるから安い金利で借りられているのだ、と考えれば、離脱はリスクというより明白なコストと言うべきかもしれませんね。

世界経済への影響は限定的

 英国が離脱しただけでEUの経済が大混乱をすることは考えにくいですから、仮に大混乱するとしても英国経済だけでしょう。それであれば、英国の輸入が落ち込む程度ですから、世界経済への影響は限定的なはずです。

 かつてのように英国ポンドが基軸通貨であったならば、世界中の投資や貿易等に使われている通貨の流動性が低下したりすれば大問題となりかねませんが、今は概ね英国国内だけで使われている通貨ですから、対外的な影響は小さいでしょう。

 リーマン・ショックが基軸通貨である米ドルの流動性を著しく低下させて世界経済に甚大な打撃を与えたのとは、その面でも大きく異なるわけですね。

 本稿は、以上です。

【私の論評】英国はブレグジットで緊縮策を捨て去り、新たな経済モデルを樹立するかもしれない(゚д゚)!

ロンドンではなぜか、ジョンソン氏への懸念がさほどでもないようです。それは以下の2点に集約されるようです。

1、強硬派のジョンソン氏も、首相になれば現実路線に転じて円滑な離脱を目指すはずだ
2、「合意なき離脱」でも悪影響は案外大きくないだろう
です。

1について、もう少し詳しく説明すると、党首選におけるジョンソン候補の「合意なき離脱も辞さない」とする主張は、あくまでもEU離脱派の保守党議員向けであり、首相になり離脱派と残留派が拮抗する国民世論を前にすれば、より現実的な道を選ばざるを得ないだろう、というのです。

ボリス・ジョンソン英国首相

実際、党首選が進むにつれ、ジョンソン氏は10月末の離脱を目指すという目標は変えないものの、「合意なき離脱」ではなく、EUとの交渉による円滑な離脱の可能性を探る姿勢を強めています。

ジョンソン氏は、ロンドン市長時代の左派的なスタンスからEU強硬離脱という右派的なスタンスへと立ち位置を変化させており、特定の主張に固執せず、柔軟だという指摘もあります。こうした彼の特徴が、やや根拠に欠ける安心感を国民に与えているのでしょう。

2の「合意なき離脱」でも影響はないという見方の根拠としては、

1、悪影響の試算がマイナス面だけであり過大
2、予測不能な部分が多いため、思ったほど悪くならない可能性がある
3、事前に悪影響をある程度織り込んでいるため、事後に反動でプラスとなるものがある
の3点が挙げられる。

確かに、1の過大推計はこの手の試算によくあることです。たとえば大イベントの経済効果試算などでは、プラス要因ばかりを積み上げ、消費者がイベント参加で使うお金を捻出するために、実は節約するといったマイナス面を十分に考慮しないことが多いです。

2の予測不能に関しても、予想から大きく上振れすることも下振れすることもあるということであり、上振れにのみ注目すれば、そういう考えもできるのでしょう。

3の反動についても、不透明感から投資は抑制気味のようであり、離脱後に動き出すものもあるでしょう。とすれば、思ったほど悪くはならないという程度は言えるのでしょうが、希望的観測の域を脱していないようにも見えないではありません。

ある大手会計系コンサルティングファームによると、2千社のCEOに対して行った調査で、英国は最近もなお、投資対象国としての人気ナンバーワンを維持しているといいます。ポンド安が投資の魅力を高めている面があり、こうした結果を踏まえ、ブレグジット後もイギリスへの投資が加速するのではという見方もあります。

また、ブレグジットはそもそも英国が抱える課題を解決するために実施するのですから、一時的に混乱しても、長い目で見れば悪いはずがないという声もありました。これは、日本人など部外者が見落としがちな視点なのかもしれないです。

もともと英国がブレグジットを目指した背景には、移民の流入で生活が圧迫される層の存在があり、移民流入をもたしたと彼らが考えるEUルールへの根強い反発があります。裏返せば、EUルールから解放されることが自らの生活改善につながるという期待感が、ブレグジットの原動力になっています。

ロンドンの移民

こうしてみると、楽観論の根底に、ブレグジットによってもたらされるであろう環境改善への期待があるのは確かです。離脱やむなしとなったからには、それを信じるしかありません。円滑な離脱であればなお良しということなのでしょう。

そうして、これは以前のこのブログにも掲載したのですが、ジョンソン新首相は、これまでの英国の緊縮財政を変える可能性が高いです。ジョンソン氏は以前から積極財政に舵を切ることを国民に約束しています。

金融政策に関しては不透明なところもありますが、イングランド銀行(英国の中央銀行)は、以前から果敢な金融緩和政策をおこなつてきました。ブレグジットで景気が落ち込んだ場合も、おそらく大規模な緩和に踏み切るでしょう。

これと、ジョンソン氏の積極財政が結びつけば、ブレグジットによる悪影響はかなり緩和される可能性があります。

英国で19世紀の「ディケンズ病」が再燃、猩紅熱などの患者急増

そもそも、英国の最近の保守党による緊縮策は像像を絶するところがあります。英国で19世紀から20世紀初頭にかけて流行した猩紅熱(しょうこうねつ)や栄養不良など「ディケンズ病」と呼ばれる疾病が再燃し、患者数が急増しています。

専門家が英国民保健サービス(NHS)の統計をもとにまとめた調査によると、2010年以来、猩紅熱や栄養不良、百日咳、痛風のために病院を受診した患者は、年間3000人(52%)のペースで増加しました

1900年代初頭に乳幼児の死亡の筆頭原因だった猩紅熱については、2010~11年にかけて429人だった患者数が、17~18年にかけては1321人と208%増加ししました。

百日咳は、1950年代に英全土で予防接種を推進した結果、英国ではほぼ根絶されたはずだったのですがが、患者数は2010~18年にかけて59%増となりました。

同じ期間に栄養不良の患者は54%、痛風の患者は38%、それぞれ増えています。

今回の調査結果を発表した野党労働党は、こうした疾患が増えているのは政府による緊縮策が原因だとして政府を非難しました。

労働党の影の内閣保健相、ジョナサン・アシュワース議員は、「緊縮策のために我々の社会が病んでいる」「これは貧者が若くして死亡するということだ」と強調しています。

英看護協会の専門家ヘレン・ドノバン氏も、緊縮策の影響で検査や予防対策などの予算が削減されたと述べ、「過去のものと思われていた疾患は今後も見過ごされ、国民が危険にさらされる」と指摘。「我々は、健康の不平等拡大が国土を荒廃させる国家非常事態に直面している」と危機感を募らせています。

ボリス・ジョンソン英国首相は7月25日午前、初の閣議を開催。昼前には首相として初めて議会で演説しました。

ジョンソン首相は演説の中で、英国のEU離脱(ブレグジット)を10月31日までに実現する決意を重ねて強調。EUに対しては「離脱協定に変更を加えることを一切受け付けない姿勢を再考するよう期待する」と述べました。EUがこれを拒否すれば、合意なき離脱(ノー・ディール)を選択するとし、離脱期限までにその準備を最大限加速させると力説しました。

ブレグジット以外の政策課題については、医療、治安、インフラ整備などを重視する姿勢をにじませました。演説で言及した主な方針は以下の通りです。
●国営医療サービス(NHS)の予算拡大。20の病院で施設改修を実施。かかりつけ医師(GP)の診察待ち時間の短縮。
●路上一般犯罪の抑制。2022年までに警察官2万人を増員。職務質問権限の拡大。
●初等・中等教育機関における児童・生徒に係る予算の引き上げ。今国会閉会までに教育費支出を過去の水準まで増加。
●全国の地方自治体への支援強化。各地における機会不平等の是正。
●道路、鉄道、光ファイバー、第5世代移動通信システム(5G)、住宅など社会インフラの整備。
●移民諮問委員会(MAC)によるオーストラリア型ポイント制移民政策の検証。
●(メイ前政権が発表した)2050年までの温室効果ガス(GHG)純排出ゼロ実現に向けた政策の推進。蓄電池技術開発などによる電気自動車(EV)産業や航空機産業の集積強化。
●バイオ産業、衛星や地球観測システムなどの強化。
●全国各地で自由貿易港(特区)を設置。通商交渉を加速。
演説では触れませでしたが、ジョンソン首相は保守党の党首選を通じ、個人への減税にも取り組む姿勢を明言してきました。英国では年収5万ポンド(約675万円、1ポンド=約135円)以上の所得がある居住者は40%の最高税率が適用されますが、これを8万ポンドに引き上げると約束。社会保険料の支払いが免除される所得基準も引き上げる方針を打ち出していました。

しかし、英国のシンクタンク、財政研究所の試算によると、政府はこれらの減税策を実現すれば、社会保険料免除の基準の引き上げ幅に応じて年間120億ポンドから200億ポンド超の歳入を失うことになります。

減税をうたう一方で、演説で述べたような積極財政を伴う政策を打ち出していることについて、実行を疑問視する声も聞こえています。ロンドン市長時代に見せた行政手腕を発揮できるか、注目が集まります。

ただ、財政研究所などの試算は、日本の財務省の官僚のように、緊縮脳に凝り固まった人間が算出している可能性が大であり、ジョンソン新首相が過去の緊縮財政から決別して、国債などを大規模に発行して、減税などの積極財政に取り組んだ場合は、これまでとは全く話が違ってきます。

そうして、英国にとってこれがブレグジットの最大の利点となります。自国の考えで、全く制約を受けることなく、金融緩和や積極財政ができるのです。

これが実現すれば、英国は短期ではブレグジットの悪影響を最小限にとどめ、長期的にはかなり発展することになるかもしれません。

そうなれば、緊縮という呪縛から免れることがいかに素晴らしいことなのか、多くの国々が理解するかもしれません。

それが、緊縮に凝り固まっているEUや日本にも良い影響を及ぼすかもしれません。そうして、英国が新たな経済モデルとなるかもしれません。

【関連記事】

2019年7月28日日曜日

ジョンソン新英首相、EU離脱は「とてつもない経済好機」―【私の論評】ブレグジットの英国より、日本のほうが経済が落ち込むかもしれない、その理由(゚д゚)!

ジョンソン新英首相、EU離脱は「とてつもない経済好機」

ボリス・ジョンソン氏

ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)英首相は27日、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット、Brexit)について、テリーザ・メイ(Theresa May)前首相の下では「有害な天気事象」として扱われていたが英国にとって「とてつもなく大きな経済好機だ」と主張した。

 ジョンソン氏は中部マンチェスターで行った演説で、「英国民がEU離脱の是非を問う国民投票で反対票を投じた相手はEUだけではない。英国政府にも反対を突き付けたのだ」と述べ、離脱派が勝利した地域に新たな投資を行うと明言。EU離脱後に向けて貿易協定交渉を推し進め、自由貿易港を設置して景気浮揚を図ると確約した。

 さらに、財政難にある100自治体を支援するため、36億ポンド(約4800億円)を投じて基金「タウンズ・ファンド(Towns' Fund)」を設置し、そうした自治体に必要な交通輸送網の改良やブロードバンド接続の向上を実施していくと約束した。

 またジョンソン氏は、EU離脱について「英議会が主権をEUから取り戻すだけではない。われわれの都市や州や町の自治が強化されるということだ」と述べ、「EU離脱は、とてつもなく大きな経済好機だ。英国はこれまで何十年も(EUに)許可されなかったことを実行できるようになる」と強調した。

【私の論評】ブレグジットの英国より、日本のほうが経済が落ち込むかもしれない、その理由(゚д゚)!

英国では、ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)氏が保守党党首選挙を制し、メイ首相に代わって新首相に就任しました。前外相のジョンソン氏が、現外相のジェレミー・ハント氏に勝利しました。10月31日に期限が迫る欧州連合(EU)離脱など、ジョンソン氏には取り組むべき問題が山積しています。

それについては、他のサイトでもかなり詳しく掲載されていますので、そちらを参照していただきたいと思います。

確かにジョンソン新首相の前途は多難です。しかし、明るい材料もあります。

それは、まずは過去の保守党政権が一貫して緊縮的な財政運営を行ってきたのに対し、ジョンソン氏は所得減税、社会保障負担の軽減、教育・治安対策・インフラ関連予算の拡充などを掲げて拡張的な財政運営にかじを切る方針だということです。

ケン・ローチ監督が引退宣言を撤回して作り上げ、カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた
 『わたしは、ダニエル・ブレイク』には、イギリス政府の緊縮財政政策に対する痛烈な批判が
 込められている。

また、ジョンソン氏はEU離脱後もEUと緊密な通商関係を継続するとともに、より多くの国や地域と自由貿易協定を結ぶことを目指しています。ジョンソン氏が財務相に選んだサジド・ジャビド前内相、貿易相に選んだエリザベス・トラス前副財務相は、いずれも自由主義経済の信奉者として知られています

最大の貿易パートナーであるEUとの関係が、これまでほど緊密でなくなる可能性があることや、英国が離脱できずにいる間に、EUが日本や南米南部共同市場(メルコスール)などとの通商協議をまとめた点は英国に分が悪いです。ただしこれまでも、そしてこれからも、英国が世界有数の自由貿易志向国家であることに変わりはないです。

ジョンソン氏も無秩序な形での合意なき離脱を望んでいる訳ではないです。やむなく選択する場合も、国民生活や経済活動への打撃を小さくするため、EUとの間で最低限の取り決めをし、通関業務の簡素化や中小企業への支援強化など、準備作業を加速する方針です。

様々な閣僚ポストで改革を実践してきたマイケル・ゴーブ元環境・食糧・農村相を合意なき離脱の準備を担当する閣僚に任命しました。

EU側は英国への影響緩和を目的とした措置に否定的ですが、EU加盟国である隣国アイルランドへの影響の大きさを考えれば、既存ルールの暫定適用など、緊急避難的な対応には応じる可能性もあります。

企業側の対応も万全とは言えないです。合意なき離脱対応によるコスト負担も発生するでしょう。ただ、今年3月末に合意なき離脱の予行演習が行われており、一通りの準備作業と頭の体操はできています。無論、どんなに準備をしても物流の混乱は避けられないでしょうし、想定外の問題も発生するでしょうが、合意なき離脱の影響を軽減することは可能です。

合意の有無はさておき、離脱確定後は手控えられていた設備投資が再開し、先に述べた通り、財政政策も拡張的となります。EUとの経済・貿易関係に大きな亀裂が入ったり、金融システムに混乱が生じたりしない限り、英国の景気拡大に弾みがつく可能性があります。特にイングランド銀行は、危機に陥ったときはすぐに金融緩和に踏み切るということを過去にも実践してきました。

こうなると、思い出されるのは、2016年に米国でトランプ大統領が誕生した後の株式市場の活況と米国経済の好調ぶりです。トランプ氏の型破りなパーソナリティーや保護主義的な政策を不安視する声も多かったのですが、大規模な減税と財政出動で景気拡大を後押しし、ドル高けん制発言や中央銀行の独立性を度外視した発言のため株高があがり、さらにその後は経済がよくなりました。特に雇用の回復には目を見張るものがありました。

では、ジョンソン氏は公約通り拡張的な財政運営を行うことが可能なのでしょうか。英国は欧州債務危機でEU諸国が導入した財政協定への署名を拒否したのですが、EUの一員として財政規律を順守する必要があります。ところが、離脱後はその財政規律の束縛からも解放されることになります。

野放図な財政拡張は調達金利の上昇を招く可能性もありますが、世界的な低金利環境下で、ある程度は許容されるはずです。英中央銀行のイングランド銀行(BOE)も、離脱後は財政ファイナンスを禁じられたEU条約の対象から外れます。財政政策との協調も視野に入れた柔軟な金融政策運営が可能になります。

折しも、離脱協議の長期化で延長されたマーク・カーニーBOE総裁の任期は来年1月に迫っており、現在、後任の人選が進められています。総裁の任命権は財務相にあり、次は新政権の意向に沿った人物となりそうです。

後継候補として、ジョンソン氏がロンドン市長時代に経済アドバイザーを務めたジェラルド・ライオンズ氏、元BOE副総裁のアンドリュー・ベイリー氏、元インド準備銀行(中銀)総裁のラグラム・ラジャン氏などの名前が挙がっています。

マスコミではトランプ氏とジョンソン氏は様々な共通点が報道されていますが、それらの大部分は些細なことに過ぎません。最大の共通点は、経済活性化を重視した拡張的な財政運営に関する考え方です。ジョンソン氏の金融政策に対する姿勢は未知数ですが、積極的に介入する素地は整うことになります。

強硬離脱派首相の誕生に不安が先行しますが、トランプ氏がまともな経済政策を実行して、経済を良くし、特に雇用をかなり良くしたように、ジョンソン氏も積極財政、金融緩和策などの、まともな経済対策で、ブレグジットをソフトソフトランディングさせ、それだけにとどまらず英国経済をさらに発展させることに期待したいです。

さて、日本を振り返ると、10月より消費税が10%になります。デフレから抜けきっていない、この時期に緊縮財政をするとは経済政策としては悪手中の悪手です。

この状況は、実はロンドンオリンピック直前の英国と似ています。英国は、ロンドンオリンピックの直前に付加価値税(日本の消費税に相当)を大幅にあげ、大失敗しています。

それについては、このブログでも何度か掲載しています。そのうちの一つの記事のリンクを以下に掲載します。
景気後退…消費増税「回避」待ったなし!? 専門家「4月に判断しないと間に合わない」―【私の論評】ロンドンオリンピック直前に消費税増税した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!
ロンドンオリンピックのビーチバレーの試合
詳細は、この記事をご覧いただくもとして、この記事の結論部分をいかに引用します。 
英国は量的緩和政策で景気が回復基調に入ったにもかかわらず、「付加価値税」の引き上げで消費が落ち込み、再び景気を停滞させてしまいました。 
その後、リーマン・ショック時の3.7倍の量的緩和を行っても、英国経済が浮上しなかった教訓を日本も学ぶべきです。

このようなことを主張すると、英国の財政は日本よりも良い状況だったからなどという人もいるかもしれませんが、日本の財政は負債のみでなく、資産にも注目すれば、さほどではないどころか、英国よりもはるかに良い状況にあります。

それについては、昨年のIMFのレポートでも裏付けられています。このレポートの内容を掲載した記事を以下の【関連記事】の一番最初に掲載しておきます。

これを知れば、増税など絶対にすべきでないことは明らかです。
さて、ボリス・ジョンソン氏はこれまでの保守党とはうってかわって、EUの軛(くびき)から離れて、積極財政を実行しようとしています。イングランド銀行も、EUの軛から離れれば、かなり自由に金融緩和ができます。

そうなると、経済的にはブレグジットは意外とソフトランディングできるかもしれません。短期的には、いろいろ紆余曲折があるものの、中長期的には英国経済は良くなる可能性も大です。

これに対して、日本は10月から現在の英国とは真逆に、緊縮財政の一環である、増税をします。さらには、日銀は緩和は継続しているものの、イールドカーブ・コントロールにより、引き締め傾向です。

こうなると、英国はブレグジットをソフト・ランディングさせ、中長期的には経済がよくなるものの、日本は増税で個人消費が落ち込み、再びデフレに舞い戻り、経済が悪化するでしょう。 まさに、ブレグジットした英国よりも、増税で日本の景気のほうがおちこむかもしれません。

それこそ、緊縮財政で『わたしは、ダニエル・ブレイク』で描かれた当時の英国社会のようになってしまうかもしれません。

安倍総理は、任期中には10%以上に増税することはないと明言しました。これ以上の増税は今後はないでしょうが、それにしても10%の増税は国内経済に甚大な悪影響を及ぼすことは、確実です。

そうなった場合、安倍総理は、増税見送りや凍結ではなく、まずは減税による積極財政を実行すべきです。次の選挙で是非公約に掲げて実行していただきたいです。

【関連記事】

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