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2018年4月15日日曜日

TPP復帰というトランプ氏の奥の手 対中国での戦略的効果は大きい―【私の論評】貿易赤字それ自体が悪という考えは間違い!それに気づけば復帰は間近(゚д゚)!


アメリカ・ナンバーワンを目指すトランプ大統領

これはトランプ政権というより、何かの冒険物語だろうか。12日に飛び込んできたのはあらゆる分野の貿易にとっての朗報だ。ドナルド・トランプ米大統領が農業州の共和党議員らとの会合で、2017年に脱退した環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への復帰を検討するよう政権幹部に指示したというのだ

 これが単に大衆の歓心を買おうとする得意のツイートのようにすぐ消えるものかどうかは分からない。だが出席者たちの話では、トランプ氏はラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長とロバート・ライトハイザー通商代表部(USTR)代表に対し、以前よりも有利な条件でTPP交渉に戻る可能性について調査を指示したという。

 容易な道のりではないだろう。ただでさえ、ライトハイザー氏や同氏の事務所は、同氏が外に出るや否や、この指示は本気ではないと記者団に告げている。だがリンジー・ウォルターズ大統領副報道官は同日午後、大統領がこの2人に検討を要請したことを認めた。2人がその通りに努力することを期待しよう。

ロバート・ライハイザー

 関係筋によると、トランプ氏は特に加盟11カ国に含まれない中国に対し、TPPが経済的・戦略的に大きな影響力を持ちうるとの主張に反応したという。これはトランプ氏がTPP脱退を決める前、われわれの一部が主張していたことだ。だが貿易をめぐり中国と決戦の場を迎えた今、トランプ氏は中国以外の太平洋諸国とより良い貿易関係を結ぶ方が得策だと考えてもおかしくない。

 会合に出席したベン・サッシー上院議員(共和、ネブラスカ州)は後からこう述べた。「中国の不正行為に対抗するために米国にできる最善の策は、自由貿易と法の支配を信じる太平洋地域の他の11カ国を率いることだ」

 トランプ氏はまた、自身の進める関税第一主義が、外国からの報復措置によって農業州に経済的被害をもたらすという訴えに耳を傾けたという。米国の農業生産者は輸出市場を失う可能性に身がすくんでいる。中西部では大豆とトウモロコシの輪作を行う農家が多く、今年いずれの作物を植え付けるかを決断する時期が迫っている。

 大豆を植えれば、中国が25%の報復関税を課した場合に大きな損害を被るだろう。トウモロコシを植えれば、多くの農家が同じことをするために価格が暴落するかもしれない。農業が抱えるさまざまなリスクに、トランプ氏の通商政策がさらなる政治的な不透明さを加えている。米農業生産者に中国以外の市場を開放することが一段と必要な理由はそこにある。

【私の論評】貿易赤字それ自体が悪という考えは間違い!それに気づけば復帰は間近(゚д゚)!

ドナルド・トランプ米大統領は、今年の1月25日スイス・ダボスで行われた米CNBCテレビのインタビューで、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への復帰を検討する用意があると表明していました。これについては、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプ大統領がTPP復帰検討「有利な条件なら」 完全否定から大転換した理由―【私の論評】トランプはTPPが中国国内の構造改革を進めるか、中国包囲網のいずれかになることをようやく理解した(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を引用します。
TPPは成長市場であるアジア地域で遅れていた知的財産保護などのルールを作りました。社会主義国のベトナムでさえ国有企業改革を受け入れました。TPPが棚上げとなれば各国の国内改革の動きも止まってしまうことになります。 
TPP合意を機に、日本の地方の中小企業や農業関係者の海外市場への関心は高まっていました。電子商取引の信頼性を確保するルールなどは中小企業などの海外展開を後押しするものです。日の目を見ないで放置しておくのは、本当に勿体無いです。 
さて、米国が離脱したままTPP11が発効して、それに対して中国が入りたいという要望を持つことは十分に考えられます。 
ただし、中国はすぐにTPPに加入させるわけにはいかないでしょう。中国が加入するには、現状のように国内でのブラックな産業構造を転換させなければ、それこそトランプ氏が主張するようにブラック産業によって虐げられた労働者の労働による不当に安い製品が米国に輸入されているように、TPP加盟国に輸入されることとなり、そもそも自由貿易など成り立たなくなります。

このあたりのことを理解したため、トランプ大統領は、TPPに入ることを決心するかもしれません。そもそも、政治家としての経験のないトランプ大統領は、これを理解していなかっただけかもしれません。だからこそ、完全否定から大転換したのかもしれません。 
そうして、これを理解して、それが米国の利益にもなると理解すれば、意外とすんなり加入するかもしれません。 
中国がどうしても、TPPに参加したいというのなら、社会主義国のベトナムでさえ国有企業改革を受け入れたのと同じように、中国国内の民主化、政治と経済の分離、法治国家化を進めなければならないでしょう。
それによって、中国自体の構造改革が進むことになります。こうして、TPPにより、中国の体制を変えることにもつなげることも可能です。 
しかし、改革を実行しない限りTPPは中国抜きで、自由貿易を進めることになり、結果として環太平洋地域において、中国包囲網ができあがることになります。 
大統領に就任した直後のトランプ大統領は、このような可能性を見ることができなかったのでしょう。しかし、最近はその可能性に目覚め、完全否定から大転換したのでしょう。
TPPは成長市場であるアジア地域で遅れていた知的財産保護などのルールを作成しています。ベトナムはこのルールを守れるように、国営企業の改革に取り組んでいます。

中国はといえば、もしTPPに加入するとすれば、国営企業改革どころではすみません。まずは、中国憲法の位置づけを変えなければならなくなるでしょう。中国では中国共産党は、憲法よりも上の位置づけです。

平たくいえば、共産党は憲法より上の存在であり、共産党の都合により何でもできるということです。中国でも、すべての法律は憲法に基づいて作成されていますから、当然のことながら、すべての法律は中国共産党の恣意により、共産党にとって都合が良ければ、そのまま施行し、都合がわるければ、施行を停止することができます。

このような状況で自由貿易などできるはずがありません。まずは、憲法の位置づけを変えなければ、中国はTPPに入ることはできません。そうして、憲法を共産党よりも上の位置づけにもってくるということは、現体制の崩壊ということになります。そのようなことは、中国にはできません。

憲法改正で終身主席となり、事実上の中国皇帝となった習近平

となれば、中国としては、TPPには入らず、独自の路線で世界と貿易をするしか他にありません。TPPが発効して、環太平洋の国々が自由貿易を頻繁が頻繁になされることになれば、TPPにおける自由貿易が通常の取引ということになり、中国との取引はリスキーであると認識されるようになります。

実際にかなりリスキーです。中国経済が順調に拡大しているときならそうでもないでしょうが、現在のように低迷していれば、中国と取引していれば、いつどのような目にあうかもわかりません。

また、中国は金融政策・為替政策も恣意的で、いつどのように変わるかも予測不可能なところがあります。そもそも、政治と経済が不可分に結びついており、他の先進国では考えられないようなやりかたで、経済に直接手をいれるということもしばしばあります。しかし、TPP加盟諸国であれば、そのようなことはありません。

そうなれば、環太平洋の国々が中国との貿易を避けるようになるでしょう。そうなると、貿易でも栄えてきた中国にとっては窮地に陥ることになります。しかし、現体制を維持しなければ、ならない中国共産党は、これを傍観するしかありません。その結果中国は弱体化することになります。仮に、中国が現体制を構造改革に変えてまで、TPPに参加することがあれば、環太平洋地域の諸国にとっても望ましいことになります。

トランプ氏はこのようなことを理解し始めたのでしょう。さらに、トランプ氏の関税第一主義が、諸外国からの報復措置によってかえって国内産業を窮地に陥れる可能性が大であること、さらにこのブログで何度か掲載してきたように、経済学上の常識である、貿易赤字そのものが悪という認識は間違いであることをトランプ大統領が気づけば、米国がTPPに復帰するのも間近くなるでしょう。


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2017年10月30日月曜日

北朝鮮に核放棄させる奥の手、「日本の核保有」論議―【私の論評】核論議のために歴史を直視せよ(゚д゚)!

北朝鮮に核放棄させる奥の手、「日本の核保有」論議

石破発言が反発されなかった好機を逃してはならない

 北朝鮮は日本の総選挙中に騒ぎを起こすのは得策でないとみていたのだろうか。核実験や弾道ミサイルの発射などを行わなかった。

選挙中には発射されなかった北朝鮮のミサイル 写真はブログ管理人挿入
 米国は本土への北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM) の完成・配備の脅威を目前にして、石油の全面禁輸をはじめとした安保理決議を目指したが、北朝鮮の暴発を怖れる中露の反対により上限の設定で決着した。

 これにより北朝鮮は体制崩壊を免れ、水爆弾頭付のICBMを持つ可能性が大きくなってきた。水爆実験成功後の金正恩委員長の言動をみても、核保有国に進む決意が伺える。

 ドナルド・トランプ米大統領の「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」との発言を、日本人は軍事行動も意味していると受け取っているが、米国の一部には核容認論が出始めていることを忘れてはならないだろう。

北朝鮮のICBM装備で日本丸裸

北朝鮮は米国が攻撃体制を完備しないうちに核兵器の小型化と米国を射程に収める弾道ミサイルの実験・配備に注力している。

 火星12がグアムなどを射程範囲に収め、火星14が米大陸の西海岸を、そして、細部は不明ながら火星13が東海岸をカバーする。北極星3号は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)で、不意急襲的に西海岸であろうと東海岸であろうと、目標を自由に選定できることを狙っている。

開発中の火星13とみられる北朝鮮のミサイル
 北朝鮮が核弾頭付ICBMを装備した場合、米朝間では相互確証破壊(MAD)戦略が機能して米国が攻撃されることは避けられるが、日本にとっては最悪となる。

 米国はICBMによる核の傘を日本に差しかけてきたが、ICBMが機能しないと「核の傘」が開かず、日本は北朝鮮の中距離弾道ミサイル(IRBM)などの脅威に直面するからである。

 北朝鮮は国連制裁にもかかわらず、核もミサイルも継続すると公言している。それができるのは、国連制裁が骨抜きになっているからである。

 「石油の一滴は血の一滴」と言われるように、近代国家における「油」断は国家の滅亡につながる。日本が米国に宣戦布告したのも米国が石油禁輸に踏み切ったからであった。中国もロシアもそのことを知っているから、石油の全面禁輸に強硬に反対してきた。

 後述するように、国連制裁で石油製品などが30%削減されるというが、原油は従来どうりで北朝鮮に時間的余裕を与えるにすぎない。それでは核・ミサイルの廃止どころか、時間を与えて完成を促しているようなものでしかない。

 北朝鮮の意思を変更させることができない日本は国連や米国と共同歩調で圧力をかける方法が最善で現在も行っているが、中露の抜け穴が防げない現実に直面している。

国連制裁の概要

9月3日の核実験(第6回目)の規模は160キロ~250キロトンの水爆とみられ、国際社会に大きな衝撃を与えた。従来は安保理制裁決議に1か月超の期間を要したが、今回は1週間余であったことが衝撃の大きさを表している。

 米国は当初北朝鮮への石油の全面禁輸を提案していたが、9割を輸出している中国は依然として話し合いを重視し、国際社会の圧力強化に向き合っていない。ロシアも北朝鮮制裁に関しては反米親中的な姿勢をとりつづけている。

 このために年間原油供給量は過去12か月の総量内、天然ガス液や軽質原油コンデンセート(天然ガス副産物)の輸出禁止、石油製品の調達は2018年以降、年間上限200万バレルなどとなった。

 北朝鮮に対する制裁決議採択は9回目であるが、これまでは金融取引凍結や、民生に影響を及ぼさない範囲で北朝鮮の石炭・鉄鉱石などの輸入を禁止することなどで、石油の輸出は含まれていなかった。

 今回は石油の制限措置が初めて盛り込まれ、決議が厳格に履行されれば石油関連の輸出の約3割が削減されることになるとされる。

 外貨獲得の主要産業となっている繊維製品の輸出も禁止され、すでに禁輸対象とされている石炭などと合わせると9割以上が制裁対象となったことになる。このほか、新規の海外派遣労働者も原則受け入れ禁止となった。

 ところで、制裁は効果を上げるのだろうか。中国税関総署発表によると中国からの9月単月の輸出は前年同月比で約7%減少しているが、1~9月の累計では前年同期比は約21%増で、制裁効果は限定的となっている。

 制裁決議が採択されると、関係国は履行状況の報告義務が生じるが、2016年における2回の安保理決議では193カ国の半数以下でしかなく、制裁の履行状況がつかめないのが実情のようだ。

核ミサイル開発に賭けてきた北朝鮮

金正恩党委員長は2012年に党のトップに就任以来、核開発と共に国民が飢えないように経済の改善を図る「並進路線」をとるとしてきた。

 しかし、実際は毎年のように、しかもますます頻繁にミサイル発射を行い、今年9月9日の建国69周年の祝賀行事に出席せず、別会場で開かれた「水爆実験の成功」を祝うパーティに参加した。

 パーティでは核・ミサイル実験に携わる科学者や技術者多数を特別に招いた祝賀講演まで開催した。金委員長が核兵器研究所長と腕を組んで酔歩よろしく歩く場面の報道からは、水爆成功をいかに重視していたかが分かる。

「水爆実験の成功」を祝うパーティに参加した金正恩
 このパーティで、金委員長は「水爆の爆音は艱苦の歳月を、ベルトを引き締めながら、血の代償で成し遂げた朝鮮人民の偉大な勝利だ」と強調した。

 米国を恐怖に追い込むほどの「偉大な勝利」であるが、その一方で経済の改善を図るどころか、空腹に耐え(「ベルトを引き締め」の意)させる艱難辛苦を人民に強いることになったと白状したのである。

 米国の研究機関は、中国からの石油供給が絞られても、北朝鮮は民間用の石油消費を40%まで減らすなどして、核・ミサイル開発への当面の影響はほとんどないとの見通しを示している

 事実、制裁は一段と厳しくなるが、金委員長は「無制限の制裁封鎖の中でも国家核戦力完成をいかに達成するかを(国際社会に)はっきり見せつけるべきだ」と語っている。

米国の姿勢の変化

ロナルド・レーガン大統領の時代から「アメリカは日本を助けるのに、なぜ日本はアメリカを助けないのか」という国民の不満が大きくなってきたと言われる。

 NATO(北大西洋条約機構)諸国に対しては、対GDP比2%の国防費を要請しているが、日本に対しては明示的ではない。

 トランプ大統領は予備選のときから声を大きくして、「米国の若者を犠牲にしてなぜ日本を守らなければならないか」という趣旨の発言を繰り返していた。

 核兵器に関しても「米国は世界の警察官ではない。米国が国力衰退の道を進めば、日韓の核兵器の保有はあり得る」とニューヨーク・タイムズに語っている。

 就任前の発言であり、戦略的に、あるいは政治的に考慮して発せられた発言かどうかは判然としないが、大統領候補の頭にあったこと、そしてその人が大統領になったことは銘記すべきであろう。

 日米間には原子力協定があり、核物質の軍事利用については米国の承認を得る必要がある。したがって、日本が「核兵器」と関わるにあたっては初期の段階から米国の監視下に置かれることは言うまでもない。

 そうした中で、次期首相にいちばん近いと言われている石破茂元自民党幹事長が、「米国の核の傘に守ってもらいながら『日本国内には置かない』というのは本当に正しいか」と非核三原則に言及(2017年9月6日、テレビ朝日))した。

テレビ朝日で非核三原則について言及した石破氏
 産経新聞(9月16日付)「単刀直言」で「日本が核を持つ選択肢はないと思います」と述べ、「危ない核保有論者」と言われないように予防線を張っているが、核についての発言は注目に値する。

 北朝鮮の暴走を前にして、Jアラートで避難訓練が行われ、核シェルターが話題になりつつあることなどから、国民もマスコミもさほど大きな反発の声を上げなかった。

日本の生きる道

小渕恵三内閣の西村真悟防衛政務次官が週刊誌で「(核武装について)国会で検討してはどうか」と発言して辞任に追い込まれた当時とは大きな様変わりである。

 第1次安倍政権時の中川昭一政調会長が「核保有の議論は当然あっていい。憲法でも禁止していない」と発言すると野党が盛んにバッシングし、ジョージ・W・ブッシュ米国大統領は「核の傘」の有効性で牽制し、また「中国の懸念を知っている」とも語り、北朝鮮の核に無関心の体である中国も、「日本(の核)」となると簡単ではないと指摘した。


 米国の相対的な軍事力の低下や北朝鮮が日々見せつける現実的な脅威、さらには中国の南シナ海や尖閣諸島における傍若無人的な振る舞いなどから、日本の指導的地位にある人や国民の間に意識の変化が生じているのが見て取れる。

 安全保障では、無関心派や米国頼みの国民が多かったが、北朝鮮などからの脅威の増大で「日本は日本人で守る」という気概が芽生えているということであろう。

 ジョージ・ワシントン初代大統領が「外国の純粋な行為を期待するほどの愚はない」と言ったことや、現代の米国が常に国益を追求して戦争もしばしば行ってきたことを思い起こせば、なおさら「自分の国は自分で守る」という意識は正常である。

 日本では憲法9条の不戦条項と唯一の被爆国ということから、脅威が現に存在する事実さえ直視しようとしない感情論が先に立ってきた。
 核を保有するかしないかはともかくとして、「核(開発・装備)もテーブルの上にある」といった戦略的かつ政治的発言で、中ロを動かす必要がある状況になりつつあるのではないだろうか。

 先の総選挙絡みで行われた世論調査では、非核三原則を見直すかどうかを議論することについては、「議論すべきだ」は「そうは思わない」(回答の一例43.2%:53.7%)より低く、否定的な回答が目立っていた。

 ただ、「思わない」という人には、「核をなぜ議論のテーブルに上げようとするのか」という国家戦略や外交交渉上の視点は考慮に入っていないのではないだろうか。

おわりに

日本には「核論議」というだけで、拒否反応を示す人が多い。そこで、本心はどこまでも非核であることを内心に秘めながら、中ロを北朝鮮の非核化のために行動させるため政府と国会で丁々発止の議論を行い、日本の真剣度を見せつける。

 そうした高度の戦術を駆使しないと外交交渉は成り立たない。口先だけと思われては中ロを本気にさせることはできない。

 これまで北朝鮮が外交交渉で巧み(?)に振る舞ってきた外交術を逆に取り入れて、日本は「核論議」から「核武装」へ進むぞといった構えを見せ、議論の掌で中露を躍らせるのも考えるべき戦略ではなかろうか。

 多くの議員たちも個人的には「論議の必要性」を認めながらも、世論と保身という壁に挟まれて言い出せない場合も多いに違いない。

 その点、石破議員が制約つきではあるが、核問題で「議論すべきではないか」と言い出したことは勇気ある提言と見るべきである。

 核問題を言い出したから、危険人物と決めつけないで、むしろ「日本の安全」を机上の空論でしかやらない政治屋(Politician) でなく、タブーを排除して誰よりも真剣に考えている政治家(Statesman) と見てはいかがであろうか。

 なお、日本は米国に矛の役割と戦略防衛上の兵器を依存している負い目から、ともすれば主権を蔑にした交渉を受け入れたりしてきた。

 ロン・ヤス関係も小泉・ブッシュ関係も、米国の国益に資する環境づくりに日本が致され、日本の国益を蔑にした感が強い。

 特に小泉首相は「民でできることは民で」と叫び、解散・総選挙までして郵政民営化を行った。しかし、その発端が米国のイニシアティブであったことを国民どころか多くの議員も知らされていなかった。

 良識ある一部の議員は抵抗したが離党し、あるいは刺客にやられてしまった。そして、今、国民の貯金という膨大な日本の国富が米国に吸い上げられるシステムが確立している。

 安倍首相にはトランプ大統領とくれぐれもウィン・ウィンの関係を築いてほしいと願いたい。

【私の論評】核論議のために歴史を直視せよ(゚д゚)!

日本では、本当に非核三原則が守られてきたのかどうか、民主党政権時代にはそれについての調査が行われたことがありました。

2009年9月16日、核兵器持ち込みなどに関する日米間の四つの密約の調査を岡田克也外相が実施をさせました。

当時の岡田外務大臣
当時の与党民主党は総選挙中に、核密約の調査を公約していました。岡田外相の指示は、この公約を新政権発足後ただちに実行したものです。

岡田氏が調査を命令した四つの密約のうち、核持ち込みに関する密約(1960年)、朝鮮半島有事の際の軍事行動に関する密約(同)、72年の沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりに関する密約(71年)の三つは、すでにアメリカ側の解禁文書で、その存在が明らかになっていました。

沖縄返還時に結ばれた、有事の際の核持ち込みに関する密約は、沖縄返還交渉で佐藤栄作首相の密使を務めた若泉敬・京都産業大教授(故人)が、著書『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』(94年刊)で、その存在を明らかにしました。

自公前政権までの歴代政権は、これらのすべてについて、一切の調査を拒否し、その存在を否定してきました。同年6月には、4人の歴代外務次官経験者が核持ち込み密約の存在を確認(共同通信記事)。同月末には村田良平元外務次官が初めて実名を出して、同密約の存在を認めました。その他の外務省元高官や首相経験者らも、同密約の存在を事実上認める発言をしています。
当時の岡田外相が調査命令における四つの密約とは以下のようなものでした。

核持ち込み密約
核兵器を積んだ米艦船・航空機が、日米安保条約に規定された日本政府との事前協議抜きに、日本国内に自由に出入りできるという密約です。1960年に安保条約が改定された際に、日米間で「討論記録」という形で合意され、63年の大平正芳外相とライシャワー駐日米大使の会談で、その位置づけが明確にされました。
朝鮮有事密約
朝鮮半島で武力衝突が起こった時には、在日米軍は国連軍として行動するため、日本からの戦闘作戦行動への発進であっても、事前協議なしに発進できるという密約です。
沖縄核持ち込み密約
1972年の沖縄返還後も米軍が核兵器をふたたび持ち込むことを認めた密約。日本側の秘密交渉役だった若泉敬・京都産業大教授(故人)が著書『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』で、69年11月21日に行われた日米首脳会談前に、自身とキッシンジャー大統領補佐官が密約交渉を進めたことなどを暴露しています。 
同書は、首脳会談9日前の11月12日に、キッシンジャー氏から手渡された極秘の「合意議事録」草案(英文)も紹介。草案は、「極めて重大な緊急事態が生じた際には、米国政府は、日本国政府と事前協議を行った上で、核兵器を沖縄に再び持ち込むこと、及び沖縄を通過する権利が認められることを必要とするであろう」と述べています。 
文書はさらに、「米国政府は、沖縄に現存する核兵器の貯蔵地、すなわち、嘉手納、那覇、辺野古、並びにナイキ・ハーキュリー基地を、何時でも使用できる状態に維持しておき、極めて重大な緊急事態が生じた時には活用できることを必要とする」として、核持ち込み時に使用する基地の名前を挙げています。
07年8月には、若泉氏の主張を裏付ける文書が米国立公文書館で発見されています。
沖縄補償肩代わり密約

71年に日米両政府が調印した沖縄返還協定の交渉をめぐり、米軍が接収した土地の原状回復や、米軍施設移転など、本来米国が負うべき巨額な財政負担を、日本政府が肩代わりすることで合意した密約。当時、外務省アメリカ局長として交渉にかかわった吉野文六氏が、密約の存在を認めています。今年3月に、国内のジャーナリストや作家らが、合意文書の公開を求め、東京地裁に提訴しています。

外相の調査命令(全文)
岡田克也外相が16日に外務省の藪中三十二事務次官に対して命じた「いわゆる『密約』問題に関する調査命令について」の全文は次の通り。◇ 
外交は国民の理解と信頼なくして成り立たない。しかるに、いわゆる「密約」の問題は、外交に対する国民の不信感を高めている。今回の政権交代を機に、「密約」をめぐる過去の事実を徹底的に明らかにし、国民の理解と信頼に基づく外交を実現する必要がある。 
そこで、国家行政組織法第10条及び第14条第2項に基づく大臣命令により、下記4点の「密約」について、外務省内に存在する原資料を調査し、本年11月末を目処に、その調査結果を報告することを求める。 
なお、作業の進捗状況は随時報告し、必要に応じて指示を仰ぐよう併せて求める。 
 一 1960年1月の安保条約改定時の、核持ち込みに関する「密約」 
 二 同じく、朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動に関する「密約」 
 三 1972年の沖縄返還時の、有事の際の核持ち込みに関する「密約」 
 四 同じく、原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」
さて、この当時の民主党政権は密約があったことに関して、大騒ぎをしていました。しかし、このような密約があるのは当然といえば、当然でした。

憲法九条ではなく日米安保条約のおかげで戦後日本の安全が保たれたことなど、狂信者以外誰でも知っている事実でした。

米国の核の傘がなければ、中国・ロシア・北朝鮮に脅され放題であったはずです。

では、非核三原則とは一体何なのでしょうか。見ざる!言わざる!聞かざる!だったのではないでしようか。当時から、誰も見たり、言ったり、聞いたりはしないものの、当然米国は日本に核を持ち込める状態にあると、誰もが了解していたのではないでしょうか。

日光東照宮の三猿
見ざる言わざる聞かざるという言葉の意味は、「余計なことは見ない、言わない、聞かない」ということです。

また、子供に対しては「子供の頃には悪事を見ない、言わない、聞かない方が良い」という教えであり、大人に対しては「自分に不都合なことは見ない、言わない、聞かない方が良い」という教えにもなっています。

インドのマハトマ・ガンディーは、いつも三猿の像を身につけていて、「悪を見るな、悪を聞くな、悪を言うな」という教えを授けたといわれています。

また、「見猿 言わ猿 聞か猿」というように、「猿」の字を使うこともあります。これは、世界的にも有名な日光東照宮の三猿(さんざる、さんえん)の彫刻が思い起こされますね。

もう、我々は米国の核の傘がなければ、日本の平和と安定もなかったという事実を受けとめ、狂信者らの騒音を「世論」と呼ぶのはやめるべきなのです。このようなものを世論と呼んでいては、真の国民「輿論」が沈黙するだけです。

日本は言論の自由がある国である。核武装することと核武装について議論することは別であす。議論を封じることによって核武装そのものを否定するのは自由主義の国のやりかたではありません。

 戦争をしたくないならば、以下の二つのことをしなければならないです。
第一に戦争について真剣に議論をすることです。
第二に戦争の準備を死に物狂いですることである。
日頃、核武装せよなどと主張している人は、「よくぞ悲惨な世論状況の中で密約を守った」と歴代政権を弁護すべきです。

「文書を正式に破棄したわけではない」。対日政策に携わる米政府当局者は2010年に、1960年の日米安全保障条約改定時に日米双方が署名した秘密議事録について、法的には今も有効との見方を示しました。

秘密議事録は、安保改定前に行われていた、米軍運用をめぐる「現行の手続き」が、日本側に発言権を認めた事前協議の対象とはならない点を明記。米軍は53年から核搭載艦船を日本に寄港させていた経緯があり、核搭載した艦船や飛行機の日本への立ち寄りについて米側は「日本との事前協議の必要はない」との立場を堅持してきました。
それまで極秘扱いだった秘密議事録は、日本側が2010年3月に日米密約調査の結果を公表した際、その存在が明らかにされ、外務省内で原本は見つかりませんでしたが、写しが公開されました。
 
冷戦終結に伴う米核政策の変更で核搭載艦船が日本を訪れることはなくなりましたが、核装備した軍用機が朝鮮半島有事などで飛来することは今でも十分にあり得ます。その際に重要となるのが秘密議事録であり、米軍がこれを盾に日本への相談なしで核を持ち込む可能性もあります。

なお密約調査を主導した当時の岡田克也元外相も秘密議事録は「基本的に有効」との認識を表明していました。

我々は、歴史を直視し、まともな核武装論議をすべきです。まともな論議をしてこなかったからこそ、今私達は北朝鮮の脅威にさらされているのです。

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2016年3月7日月曜日

安倍政権が発射準備中の「ダブルバズーカ」〜消費増税スキップとさらなる奥の手 ダブル選はこれで圧勝!? ―【私の論評】野党は腰砕けで全崩壊(゚д゚)!

安倍政権が発射準備中の「ダブルバズーカ」〜消費増税スキップとさらなる奥の手 ダブル選はこれで圧勝!? 

安倍首相は伊勢志摩サミットに向け、世界経済の現状とリスクを分析する有識者会議の設置を表明した。これで、ますます消費増税延期の可能性が高まった。安倍政権は消費増税延期と大型財政出動の「ダブルバズーカ」で圧勝をおさめるつもりだろう。


ピンチをさらなるピンチに変える民主党

まもなく合併する民主党、維新の党のホームページ上に「党名案を募集します」と書かれている。3月2日、新党協議会「党名検討チーム」が初会合を開き、民主党の赤松広隆最高顧問、福山哲郎幹事長代理、維新の党の江田憲司前代表、柿沢未途前幹事長が話し合ったが、折り合いはつかず、党名を公募することになった。募集期間4日(金)~6日(日)とされた。

この党名公募は、ネット上ではバカにされまくっている。「党名すら決められないのか」と、ネット上では両党を揶揄するための面白い党名をアップする、いわゆる「大喜利」状態である。「党名検討チーム」がまとめられないので、公募という時間稼ぎをしたのだが、決められないと印象づけてしまった。8日に予定されていた新しい党名と綱領の中間とりまとめは遅れるかもしれない。

民主党と合流する維新の党の大半、例えば松野頼久代表らは民主党離党組の「出戻り」である。彼らが民主党を離党することになったのは、基本的には民主党内での消費増税議論がきっかけだった。

民主党と維新の党の新党は、他の野党にも参加を打診しているが、小沢一郎氏は排除される見通しだ。というのは、3日の連合の春闘集会で、民主党の野田佳彦前首相が「一番足を引っ張った元代表さえ来なければ、あとは全部のみ込もうと思っている」といい、小沢氏の参加に反対したからだ。

これは、正確にいえば、野田政権がマニフェストに書かれていなかった消費増税を強行しようとした時、小沢氏が反対して党を割って出て行ったことを指して、野田氏は「一番足を引っ張った」といっているわけだ。

この野田氏のロジックが民主党内で主流となっているのであれば、民主党はどのように党名を変更しても、消費増税に対してまともなロジックを構築できない。実際、民主党幹部からは、野田氏が同時に主張していた「議員定数大幅削減」がなければ、消費増税を認められないという話が聞こえてくる。

一方、安倍政権のほうが、明快なロジックである。安倍首相は、表向き消費増税は予定通り進めるというが、菅官房長官は「税収が下がるくらいなら消費増税しない」といっている(もっとも、この発言は、従来から安倍首相が言っている「増税しても、景気が悪くなったら元も子もない」と同じ意味である)。

このため、消費増税延期が徐々に既定路線化している。最近、テレビのコメンテーターで消費増税延期を言い出す人が出てきたが、本コラムの読者からみれば、「遅行指標」の典型例のはずだ。いずれにしても、菅官房長官のほうが民主党と比べればはるかに明快である。
着々と打たれる解散への布石

民主党は、新党名を決められないうえ、経済ロジックもグダグダであることが国民の目にはっきりわかってしまった。雇用政策としても、本コラム読者であれば、安倍政権のほうが遙かにまともであることがわかるだろう。松尾匡・立命館大教授のような左派経済学者でさえも、この点を認めている。

民主党の最も弱いところは、経済政策である。たとえ民維が合併して大きくなったとしても、安倍政権はこの点をついてくるだろう。

そのための布石は着々と打たれつつある。先週の本コラム(「日本のGDPを引き上げ、アベノミクスを「合格点」へと導く効果的な一手をここに示そう」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48049)では、2月27日に閉幕したG20(20ヵ国財務大臣・中央銀行総裁会議)で「財政政策、金融政策の一体発動」が打ち出され、その延長線上に、G7伊勢志摩サミットがあることを紹介した。

先週、その路線をさらにはっきりさせることが国会で明らかにされた。安倍首相は伊勢志摩サミットに向け、世界経済の現状とリスクを分析する有識者会議の設置を表明したのだ。

アメリカの経済学者・スティグリッツ氏の参加も検討されていると報じられており、前回の増税延期前にクルーグマン氏が官邸を訪れたことと重なる。安倍首相の消費増税についての言い回しが微妙に変化していることや、菅官房長の「税収が下がるくらいなら消費増税しない」発言から、この有識者会議について、増税延期とダブル選挙へのお膳立てとの観測も出ている。

この有識者会議は、中国経済の減速や原油価格の低下、金融市場の混乱などをテーマに、今月中頃からサミットまでに5回程度開催される予定だ。これが注目されるのは、これまで消費増税の決定の前は、内閣府・財務省主導による経済財政諮問会議の「点検会合」が開かれており、今回の有識者会合がその点検会合と重なるからだ。

2014年4月からの5%から8%への消費増税では、2013年8月26日から30日まで点検会合が開かれている。そこでは、有識者・専門家60名が参加し、消費増税すべきが7割超、予定変更すべきが1割超との意見が出され、結果として消費増税が実行された。

しかし、消費増税後に景気が腰折れし、点検会合で出された意見の多くは間違いだったことがはっきりした。2014年1月に公表された内閣府の中期財政試算では、消費増税しても景気は落ち込まないと試算していたが、実際には、大きく落ち込んだ。それを示すのが次の図だ。






安倍首相はこの事実を重く受け止め、点検会合に不信感をもったのではないか。
消費増税すれば、政府目標は崩れさる

2015年10月からの8から10%への消費再増税については、やはり経済財政諮問会議の点検会合が2014年11月4日から18日まで開かれている。

ここで、注目すべきは、安倍首相はAPEC首脳会議、ASEAN関連首脳会議及びG20首脳会合出席のために、11月9から17日まで外遊していることだ。この外遊期間をつかって、海外から与党要人に個別に電話をかけて衆院解散を伝えたようだ。要するに、経済財政諮問会議の点検会合による10%への消費再増税ありきの議論を、まったく受け入れるつもりがなかったのだ。

そして、今回も内閣府・財務省主導による各種会議のことはそれほど信用しないだろう。今年1月に公表された内閣府の中期財政試算では、2017年4月からの8%から10%への消費再増税について、前と同じように「消費増税でも、景気は悪くならない」と試算している。

ところが、前回2014年と同じように見通しを誤ると仮定してみると、消費増税した場合には名目GDPは大きく低下するだろう。その場合、2020年度の名目GDPは570兆円弱にしかならず、政府目標600兆円にはとどかない。

一方、消費増税をスキップした場合にはどうなるのか。内閣府が試算する経済成長率が維持できれば、名目GDPは順調に増加して、2020年度には政府目標の600兆円に達する。それを示すのが下図である。



■消費増税スキップは当然

消費増税を行った場合のプライマリーバランスは、内閣府の中期試算より酷くなり、2020年度でもGDP比で11%程度である。一方、消費増税をスキップすれば、2020年度のプライマリーバランスはほぼゼロになる(下図)。


いずれにしても、この試算によって、安倍首相のいう「増税しても、景気が悪くなったら元も子もない」や菅官房長官の「税収が下がるくらいなら消費増税しない」は、かなりまっとうな話であることが確認できる。

伊勢志摩サミットにおいて、世界経済の安定・上昇ためには財政政策と金融政策の同時発動が必要、ということが議論されるはずだが、そうであれば、消費増税スキップは当然であろう。

財政政策としては、消費増税スキップだけではなく、財政出動もあると筆者は思っている。先週の本コラムでも言及した「財投債」は、プライマリーバランスを悪化させずに、今のマイナス金利環境を生かす政策でもある。さらに、本コラムでかねてより指摘してきた外為特会や労働保険特会の埋蔵金である。

埋蔵金や財投債を財源とすれば、30兆円程度の財政出動が可能である。埋蔵金は減税・給付金系の政策、財投債は公共事業系の政策とすれば、バランスのとれた財政出動が可能になる。マクロ経済の観点から、財政政策は有効需要を作るが、減税・給付金は短期的な有効需要を作りやすい。一方公共事業は、供給制約から短期的な有効需要を作りにくいが、長期的な計画で安定的に有効需要が作れる。

いずれにしても、30兆円程度の財源を、プライマリーバランスの悪化なしで用意できるのだから、これらを利用しない手はない。

ダブルバズーカ、発射

消費増税スキップによって有効需要を減少させずに、埋蔵金・財投債による財政出動によって有効需要をかさ上げする財政政策をとれば、景気がよくなるのは明らかだろう。

しかも、これらの政策手段を可能にしているのが、アベノミクスの成果である。外為特会や労働保険特会の埋蔵金、財投債を可能にするマイナス金利環境はすべてアベノミクスの果実である。その果実をさらに政策に投入することによって、さらなる成長が可能となる。

5月26、27日伊勢志摩サミット、6月1日国会会期末という政治日程を考えると、次の戦略が浮き彫りになる。

まず、有識者会議で「世界経済の安定のためには緊縮財政からの脱却が必要」との方針を打ち出し、サミットで世界の首脳がその方針を確認し、そうした外交成果も踏まえて国会で報告し、国会会期末までに衆院解散だ。解散から40日以内に総選挙を行うという憲法54条があるので、7月10日が衆参ダブル選挙になる。

もちろん、解散総選挙は総理の専権事項なので、安倍首相以外は誰にもわからないが、多くの政治家は、ますますこのスケジュールを意識せざるを得ないだろう。ダブル選挙の争点は経済になるだろう。ダブル選挙には、消費増税スキップと埋蔵金・財投債による大型財政出動というダブルバズーカが発射されるのではないか。

〔付記〕本コラムをまとめた新著『数字・データ・統計的に正しい日本の針路』が発売された。過去の予測はそれほど外れていないと思う。これからの未来を見るために、参考にしていただければ幸いである。

数字・データ・統計的に正しい日本の針路 (講談社+α新書)

高橋洋一

【私の論評】野党は腰砕けで全崩壊(゚д゚)!

上の記事の最後で高橋洋一氏が、推奨している書籍、私も購入して読み始めています。ちなみに、私自身はこのウェブサイト「現代ビジネス」のコラム「ニュースの深層」は毎回楽しみに読ませていただいていますので、特段目新しいことはないのですが、それでも一冊の書籍にまとまっているというが非常に良いです。

とにかく、図表が多く、高橋氏がこの書籍でご自身が語っておられるように、とにかく数値に基づいて物事を見るという姿勢が貫かれています。そうして、経済、そうして数値というと、マクロ経済学の小難しい数式などを思い浮かべがちですが、この書籍には、そのようなものはなく、中学校程度の学力があれば、誰にでも理解できるようなグラフや図表が満載です。

この、書籍を一度読まれれば、日本の経済の現状についてあまり知らない方でも、マクロ経済学など一度も学ばれたことのない方でも、今の日本の経済・金融のことが手に取るように理解できます。

ブログ冒頭の記事、そうしてこの書籍を読まれれば、高橋洋一氏の語っている「消費増税スキップと埋蔵金・財投債による大型財政出動というダブルバズーカの発射」は、おそらく実行に移されるであろうことを確信を持って理解できます。

消費増税スキップと埋蔵金・財投債による大型財政出動というダブルバズーカの発射

実際、これを実行しなかった場合、安倍政権は長期政権にはなり得ないと思います。まずは、最近の中国経済の減速、アメリカの利上げ、過去に見ないほどの原油価格の下落、南シナ海、北朝鮮だけではなく、今や世界中に存在する地政学的リスクの顕在化しています。

そのため、株価が下がったり、円高傾向になっていて、そこに8%増税の悪影響がさらにじんわりと浸透すると、夏頃には顕在化します。平成13年4月より実施してきた、金融緩和による効果の成果であり、増税後もなお継続していた、雇用状況の改善が後退し始める可能性が大です。

参院選の頃には、株価が下がり、GDPの成長率も鈍化、さらなる円高に見まわれ、野党は実体経済を正しく分析することもなく、「それみたことかアベノミクスは頓挫した」と一斉に安倍内閣を糾弾することになります。

国民も経済が落ち込むと、安倍自民党への支持を撤回する人も多くなると考えられます。安倍自民党としては、全く何も良い材料がない中で、苦しい選挙戦を強いられることになります。

そうして、消費税増税10%をそのまま継続すれば、それこそ、日銀が白川体制だった頃に逆戻りになり、またデフレが再発して、その時の政権が誰のものであれ、以降短期政権が続くことになります。そうして、そのようなことを繰り返していれば、2009年に政権交代があって、自民党が下野したようなことの再現になるかもしれません。


消費税増税10%を実施すれば、日本はまた
白川日銀体制のときのようにデフレに!

私は、よもや安倍総理がそのような愚かなことはしないと思います。高橋洋一氏が指摘しているように、10%増税だけは踏みとどまるべきです。

10%増税スキップ、埋蔵金・財投債による大型財政出動というダブルバズーカの発射ということになれば、上の記事で高橋氏も指摘しているように、野党は腰砕け状態ですから、かなり楽にそうして、有利に選挙戦を戦えることになります。そうなると、安倍政権はおそらく長期政権となり、東京オリンピックの頃にも安倍政権が継続している可能性が高くなると思います。

野党の腰砕け状態は、まさに安倍政権にとって追い風です。上の記事では、民主党などの腰砕けを掲載していましたが、他党の腰砕けぶりも酷いものです。

昨年11月7日のテレビ番組で、「北朝鮮、中国にリアルの危険があるのではなく、実際の危険は中東・アフリカにまで自衛隊が出て行き一緒に戦争をやることだ」と堂々と言っていた共産党委員長の志位和夫は、今年の年頭の北朝鮮“自称”水爆実験を受け、「地域と世界の平和と安定に対する極めて重大な逆行だ。暴挙であり、厳しく糾弾する」との談話を出していました。

志位は、過去に支那や北朝鮮が脅威ではないと言っていながら、北朝鮮の“自称”水爆実験を批判して見せまたが北朝鮮はこれまでにも複数回核実験を行っていました。にもかかわらず、危機はないと言い放った昨年11月7日の発言に関して、志位は未だに説明責任を果たしていませんし、果たすつもりもないようです。



それに、共産党は、国会開会式への出席等安易な路線変更などもしました。良い、悪いは別にして、一貫性を売りにしてきた、共産党なのに、なぜこのようなことをしたのか理解に苦しみます。

社民党の福島みずほは、『福島みずほのどきどき日記』というブログで「日本国憲法殺人事件を許すな」(http://mizuhofukushima.blog83.fc2.com/blog-entry-2909.html)と題し、「安倍総理が日本国憲法を殺そうとしている」と主張していましたが、憲法は人ではないですから、殺人ということばが成立するはずもなく、言うならば「憲法の破壊」とでも言えばいいものを、わざわざ「殺人」という言葉遣いをして、政権批判をしたつもりなのでしょう。しかし、日本語くらい正しく遣ってていただきたいものです。



1月4日から衆議院予算委員会が始まり、民主党の幹事長枝野氏を筆頭に四人が質問にたっちました。しかしながら、内容は散々でした。

枝野氏は質疑中、「民主党政権下での実質GDPの伸び率が5.7%で、安倍政権の2.4%の2倍だ」と自賛していました。しかし、これはリーマンショック以前の時点での成果が影響しているだけで、リーマンショック以降は大幅マイナスになっています。それを、安倍政権になって+5.6%、+3.2%分とV字回復させたことには触れていませんでした。

山井和則氏の質問は、安倍総理にワタミの前経営者を参議院議員に立候補させたことへの謝罪を遺族に求めました。企業と個人間の問題と、自民党総裁の候補者の任命権の問題を同一に論じ、「安倍総理は悪人だ」と感情論で印象付けたかったのあろうが、こじつけにあきれるばかりです。

また、当時の数日間の株価下落を取り上げ、「過去最大の下げ幅で年金運用損は4兆円に上る」と指摘して総理にその答弁を求めたり、「年金運用にギリシャ国債を買っている」などと糾弾していましたが、ギリシャ国債を買っている事実はなく、理論的な整合性の全く無い、思い込みや改竄されたデーターでの質問姿勢は民主党の浅薄な見識を疑わざるを得ない。

年初からして、この調子で、馬鹿げたこれからも、国会質疑が繰り返されるのかと思うとげんなりしたものです。そうして、これは、その後も変わらず、現在も似たような状況というか、ますます酷くなっています。

そのせいでしょうか、甘利大臣の辞任後であるにもかかわらず、世論調査では、安倍自民党の支持率が上がるという、野党にとっては不甲斐ない結果となっています。

このような野党の動向を見る限り、高橋洋一氏が主張するような、経済の問題を抜きにしたとしても、参議院選挙の結果は与党の圧勝になるのではないかと思われます。

民主党参議院議員は現有五十九議席、今回の改選議員数はそのうち四十二名となっていますが、ほとんどが落選するとの予想もあり、民主党は歴史的大敗を期し、旧社会党と同じ道を歩むのは確実な情勢です。

それに、旧社会党と同じように、民主党の名称はこの世から消えることは、民主・維新の合同ですでに決まっています。この新党も、維新はもともと民主から分離した議員も多いことから、新党となっても、惨敗するのは目に見えています。

民主・維新は、両党の合流に向けて新しい党名を国民から募集することを決めた。
社民党は、間違いなく絶滅危惧種です。現有国会議員はわずか五名。衆議院に二席を得ていますが、残り三名の参議院議員のうち、福島瑞穂と吉田忠智現代表は今回の改選組です。前回の参院選での比例得票率は2.36%、衆院選の比例得票率は2.46%と、安定した低空飛行を続けています。55年体制以降、最大野党を誇った旧社会党の面影は最早微塵もありません。

選挙結果は蓋を開けてみるまでわからないですが、野党惨敗が予想されるなか安倍総理が参議院選挙に合わせて衆議院を解散しダブル選挙に打って出る可能性はかなり高まっていると思います。

争点は「消費増税の是非」「憲法改正の是非」などが考えられますが、何れにせよ自民党の圧勝でしょう。

そうして、このような事態を招いてしまったのは、高橋洋一氏が語るように、経済、特に金融政策に対する無理解であることもいうまでもありませんが、もっと根源的な理由は、野党には我が国をどのような国にしたいのか、というビジョンもないまま、ただただ与党自民党に対峙し、自民党を自分たちのところまで、引きずり下ろしてやろうというだけで、汲々とし、政策論争も何もしないという実体が多くの国民に見透かされたのだと思います。

夏には、安倍総理は衆参両院同時選挙に踏切、それに先立って、ダブルバズーカを発射し、日本経済の将来を確かなものにし、腰砕け野党を粉々に粉砕してほしいものです。そうして、その後は、既存の野党が十分に反省するか、それができないというのなら、新たに政策論議の出来る健全な野党の台頭に期待をしたものです。

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