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2020年3月27日金曜日

今も新たな感染者、武漢封鎖を解除する中国の無謀―【私の論評】微笑外交でEUを取り込もうとする中国(゚д゚)!

今も新たな感染者、武漢封鎖を解除する中国の無謀
JBpress



武漢駅で消毒作業の準備をするために集まった消防士たち
(福島 香織:ジャーナリスト)

 4月8日午前零時から、いよいよ武漢の都市封鎖、湖北省の省封鎖が完全解除される。武漢は1月23日から事実上陸の孤島となっていたが,外界への扉が再び開かれ、人や物の往来が本格化する。

 中国としては、新型コロナウイルスに対する勝利宣言を行い、各地で公務員たちが率先してレストランなどに行って大衆の消費心理を刺激し、企業、工場が再稼働して感染勃発前の経済活動が行われ、いやそれ以上の消費、生産が進み経済はV字回復、世界がパンデミックに苦しみ英米欧州の主要都市が(あるいは東京も)“ロックダウン”しているのを傍目に中国市場だけが回復して、中国が世界経済の希望の星、救世主となる、というシナリオを思い描いている(? )かもしれない。だが、そんなにうまくいくわけがない、という感触も、当然、現場の医療関係者、メディアは持っている。

■ 習近平の武漢入りで始まった都市封鎖解除の準備

 中国共産党は、最近はもっぱら「ウイルスとの戦いにいち早く勝利した中国」が、パンデミックと戦う世界各国の模範となり、救世主となる、という大プロパガンダを展開中だ。今や世界で一番安全なのは中国国内で、感染源になっているのは欧米だ、というわけだ。

 中国人民も長期の都市封鎖で鬱屈しており、一刻も早い新型コロナ終息宣言を待っている。気の早い一部の市民の中には、失った春節休みを取り返そうと早くも国内旅行の計画を立てている人も。4月、5月の新疆ウイグル自治区や四川省など景勝地へのチケットの予約が「Ctrip(携程)」などのネット旅行サイトで始まっている。中国旅行社はすでにタイなどへの海外旅行ツアーの受付も始めており、タイの衛生局と観光客は4月中頃には中国観光客を迎えられるとフランス紙にコメントしている。

 だが、疾病予防コントロールセンターや医療現場で働く人間、現場を取材しているメディアからすれば、不安で一杯のようだ。

 中国誌「財新」がこのあたりのことを、かなり突っ込んで書いていた。

 武漢市衛生健康委員会は3月24日に、武漢市で新たな感染者1人が出たこと、その患者は湖北省人民医院の医者だったことを公表した。その医者は、新型コロナウイルスの無症状感染者を診療したことが感染の原因であったとみられている。

 この医者は3月18日に新型コロナ肺炎の無症状患者を診察していた。実は、武漢では今なお日々、数人から十数人のペースで無症状感染者が報告されている。だが、中国がこれまで発表してきた感染者数に無症状感染者は含まれていない。中国での先月末まででの無症状感染者の数は4万3000人以上と香港紙サウスチャイナ・モーニングポストが報じていたが、とすると感染者のおよそ3分の1は無症状感染ということになる。

 だが3月20日には、中国湖北省新型コロナ肺炎感染予防コントロール指揮部が「湖北省封鎖の段階的緩和についての通知」を出している。習近平国家主席が3月10日に武漢を訪れ、“武漢の安全”を身をもってアピールしたのを契機として、中国各省は都市封鎖解除の準備に入っていた。中国各省は武漢に派遣していた医療チームの撤退を3月17日から開始し、3月20日までに1万2000人の医療応援チームが武漢から撤退している。

 「財新」は、こうした習近平の武漢安全アピールや、医療応援チームの撤退が、武漢封鎖の段階的緩和通知につながり、まだ緊張を緩めていい状態ではなかったにもかかわらず、大衆の緊張が一気に緩んでいることに懸念を示している。

■ 全容を把握できない無症状感染者

 中国疾病コントロールセンターの事情通が「財新」に漏らしたところによると、疾病予防コントロール部門のチームが暫定的に武漢から撤退しているが、武漢と湖北省の状況に安心していない、という。「現在、毎日数例から十数例の無症状陽性が出ている。武漢の感染源が完全に遮断できているかどうか判断できない」という。

 無症状感染者は、発熱、咳、喉の痛み、呼吸器症状を示さないが、呼吸気道などからのサンプルでウイルス病原学あるいはIgM抗体の検査によって陽性反応が出た例と定義される。中国では無症状感染者を感染者にカウントしていないが、もし臨床症状がでれば、その時に感染確認例としてカウントしてきたという。無症状感染者は14日間、隔離措置がとられ、2度にわたりPCR検査を受けて陰性が確認されてから隔離解除、ということになっている。

 だが武漢政府が3月22日に発表した前述の声明では、新たに感染者となった医者が診療していた無症状感染者が14日間の隔離監察を受けていたかどうかについては言及されていない。現場では、無症状感染者の措置が徹底されていない可能性もありそうだ。

 無症状感染は、感染確認者と濃厚接触をした者が経過観察されて最終的に検査で発覚するわけだが、無症状だけに、実際の数は把握されていない。3月20日に「ネイチャー」誌で発表された論文では、普通の風邪程度の軽症者や無症状感染者は新型コロナウイルス感染者人数の60%を占める、という。中国の累計感染者数を8万人とすると、中国だけでも少なくともその3倍の感染者がいる、という計算になる。世界ではすでに30万人を超えているので、90万人が実は感染しているということにもなる。

 新たな感染者の中には、感染確認者との濃厚接触の記録がないケースが増えており、無症状感染者、軽症感染者から感染が拡大している現実がある。4月8日に武漢市封鎖が解除されば、人の動きが活発化する。再びアウトブレイクが起きるのではないか、という不安はぬぐえないのだ。

 無症状感染者の感染力については、広東省の疾病予防コントロールセンターが3月19日に米国の医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」(NEJM)上で、新型コロナ肺炎患者は発病後間もなく大量のウイルスを放出するようになるが、ある無症状感染者のウイルス放出量は発病者とほとんど変わりがなかった、と報告している。一部の科学者は無症状感染者のスーパースプレッダーもありうる、と疑っている。

 上海児童医学センターが全国700人の感染児童を調査して分かったのは、児童の56%は無症状、あるいは軽症であるということだ。これが「子供は感染しても発症しにくい」という言説の根拠になっているが、同時に、子供は比較的感染しやすく、学校で集団感染し、無症状のまま各家庭にウイルスを持ち帰り、乳幼児、高齢者や体力のない人間が発症する、という仮説も出てきた。この仮説が学級閉鎖措置の理由となっている。

■ 習近平政権の大プロパガンダとの戦い

 中国の世論誘導を担う「環球時報」は、復旦大学付属華山医院感染科主任の張文宏のコメントを引用する形で、無症状感染者の比率は非常に低い、ウイルスの量も少ない、感染源としてのリスクは比較的小さい、「スーパースプレッダー」にはなりえない、という主張を喧伝しており、武漢封鎖解除と感染症鎮圧勝利宣言へのムードに水を差す懸念を押し込めようとしている。

 医療関係者を中心に武漢封鎖解除に対する不安が広がっている中、武漢衛生健康委員会は23日に、「無症状感染者は一定の感染リスクを持っている。しかし、WHOは、現在あるデータからみれば、発症患者の感染が主流であり、無症状感染者は主要な感染源ではない、としている」と説明。だが、WHO自体が中国に忖度(そんたく)して、適時に適切な発言をしてこなかったことは中国でも知れわたっているので、これは安心材料になっていない。

 武漢の医師が共同通信社に告発したところによれば、習近平の3月10日の武漢視察前に、地元官僚は感染確認者数を操作しただけでなく、大量の症状を伴う隔離監察対象者を解放して、中央に対しては「感染者が出ていない」と報告していたという。また、医療現場に対し血液検査をやらないように指示して、感染者数が増えないようにする工作もあったとのことだ。その医師は「政府の公表データは信用できない。再びアウトブレイクがおきることを心配している」と話している。また武漢の他の医師はツイッター上で、「習近平が武漢視察に来る前に、医師らに14日間の休暇が与えられ、診療が行われていない」と告発していた。

 武漢では、一家全員が新型コロナ肺炎で死亡したケースや、家族を看取ることも満足な葬式も出すこともできなかったケース、絶望して遺族が自殺するケースなど、悲惨な出来事がSNS上で毎日のように流れ、医師たちは再アウトブレイクの危機と隣り合わせで戦々恐々としている。

 そういった現実を、中国政府は「習近平の指導によりウイルスに完全勝利」というプロパガンダで覆い隠そうとしている。それが単なる習近平政権の政治的メンツのためだけであるなら、もはや国家指導者として一分の正統性もなかろう。もし封鎖解除と勝利宣言後に再び中国で感染の猛威が再発したら、さすがに恐怖政治で従順にさせてきた人民も、もう黙ってはいないのではないか。いや、その時は、「この感染症は海を越えて外国からやってきた」と米国やイタリアや日本に責任を擦り付けるつもりなのか。

 ならば今、中国の人民や世界の人々が直面しているのは「ウイルスとの戦い」ではなく、「中国習近平政権の隠蔽や大プロパガンダとの戦い」ではないだろうか。

福島 香織

【私の論評】微笑外交でEUを取り込もうとする中国(゚д゚)!

上の記事にもあるように、まだ武漢ウイルスが終息仕切っているとは思えない中国ですが、その中国が、EUの諸国に対して数百万枚のマスクや低金利融資の提供、医療チームの派遣しています。

中国政府は新型コロナウイルス流行の初期対応に不手際があったとする批判をかわし、「良き中国」「頼りになる中国」を演出しようとしています。

中国は苦境にあえぐ欧州各国に対し、「ほほ笑み外交」の一環として大規模な支援を提供。ここ数週間はフィリピンやパキスタンに大量のマスクや検査キットを寄付し、イランやイラクに医療チームを派遣、スリランカには新型ウイルス対策費として5億ドル(約550億円)を融資しました。

中国国営新華社通信が報じたところによると、習近平国家主席は、新型ウイルスによる打撃が最も深刻なイタリアとスペインの両首相と相次いで電話会談し、支援を表明。特にイタリアには二つの医療チームを派遣し、習氏が進める経済圏構想「一帯一路」への参加を欧州連合(EU)の中でいち早く表明した同国との連帯感を演出しました。

中国、イタリア支援の医療チーム第3陣を派遣

さらに先週はセルビアへの支援を表明し、医療用品を送付。同国のアレクサンダル・ブチッチ大統領は、中国から送られたウイルス検査キットが到着すると、中国大使に対し「あなた方がいなければ、欧州は自分たちで身を守ることは難しいと分かった」と話し、セルビアは「中国の兄弟」を待っていたとも伝えました。

EUは15日、医療用品の輸出を禁じると発表。EUに加盟していないセルビアのブチッチ大統領は、こうした動きを非難しています。新華社によると、中国から送られたさらなる支援物資と医師団は、近日中にセルビアに到着する予定だといいます。

中国政府は近年、厳しい経済状況にあるバルカン半島諸国への影響力をめぐり、特に相手国に多額の債務を負わせるインフラ投資を行うなどしてEUへの対抗姿勢を示しています。

19日付の中国共産党機関紙・人民日報の第1面には、他国に進んで協力する「責任ある大国」としての中国の役割を強調する論説が掲載されました。

こうしたことの背景には、米中両政府が公の場で繰り広げている言葉の応酬があります。中国は最近、多数の米国人ジャーナリストを国外退去処分にしました。一方のドナルド・トランプ米大統領は、新型ウイルスに言及する際、「中国ウイルス」という言葉を使い続けています。

新型ウイルスとの闘いが米国にまで及ぶ中、中国は米国に取って代わって世界のリーダーになろうと急いでいると専門家らは指摘します。

独ハイデルベルク大学で中国の対外援助について研究するマリナ・ルディアック氏は、「トランプ政権下の米国が、国際社会に対し意味のある対応策の提示に失敗し、欧州諸国が国内対応で手いっぱいとなっている今、中国政府には空席をものにするまたとない機会が訪れている」と指摘します。

ルディアック氏は、そうすることで中国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行初期にそれを隠蔽(いんぺい)しようとしたという批判をかわし、「対応を遅らせた国々や備えが中国ほど万全でなかった国々」の救世主として振る舞い、新型ウイルスの流行をめぐるストーリーを書き換えようとしているとも述べました。

一部の欧州諸国では、こうした戦略が功を奏しているようです。在中国の欧州連合商工会議所(EUCC) のイエルク・ブトケ(Joerg Wuttke)会長は、「欧州では、矛盾する筋書きが展開しつつある。大半の人々は、世界的危機を引き起こした責任は中国にあると考えている」「だが、中国からの寛大な人道支援は、欧州の世論をより中国に友好的な方向に導く可能性がある」と述べました。

EUは、新型コロナウイルスへの対応を協議するため、テレビ電話による緊急の首脳会議を開きましたが、イタリアなどが求めたEUの基金を活用した新たな財政支援策は見送られました。

会議では感染拡大が著しいイタリアやスペインなどが、大規模な対策に迫られているとして、財政状況の厳しい加盟国を支援するための基金も活用することや、ユーロ圏の各国が共同で発行し資金を調達する「ユーロ共同債」の発行を求めましたが、ドイツやオランダの反対で見送られました。

イタリアとしては、EUの政策の枠組みの中で、緊縮財政を強いられ、その結果医療体制を縮小したことが今回のコロナウイルスの惨劇につながっています。当然のことながら、EUのこうした態度には憤りを感じているでしょう。

今後イタリアのようEUに対する不満が表面化してくる国が増える可能性は大きいです。最近では、英国のEU脱退などのこともありました。これは、中国から見ればチャンスです。もし、EUが瓦解することがあれば、先行きに不安な国々が、中国との関係を強めるかもしれません。それが、将来的にEUの瓦解につながる可能性もあります。

このような中国にとっての絶好の機会を逃さないためには、習近平としては、中国国内の感染はすぐに終息させる必要があったのでしょう。そうして、EUの国々などに対して積極外交に出て、まずはこれらの国々に対して、中国の存在感を増すことが課題なのでしょう。

中国共産党は、コロナ以前から米国を頂点とする世界秩序に挑戦し、これを変更しようとしていました。そうして、それを公言していました。

それについては、以前このブログでも解説したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明―【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!
ドナルド・トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席
この記事は、2018年7月6日のものです。このあたりから、中国は米国を頂点とする国際秩序を塗り替え、その頂点に立つとはっきりと公言していたのです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを宣言した。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになる。米中両国の理念の対立がついにグローバルな規模にまで高まり、明確な衝突の形をとってきたといえる。 
 習近平氏のこの宣言は、中国共産党機関紙の人民日報(6月24日付)で報道された。同報道によると、習近平氏は6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したという。
 この会議の目的は、中国の新たな対外戦略や外交政策の目標を打ち出すことにあり、これまで2006年と2014年の2回しか開かれていない。 
 今回の会議には、中国共産党政治局常務委員7人の全員のほか、王岐山国家副主席や人民解放軍、党中央宣伝部、商務省の最高幹部らも出席した。出席者には中国の米国駐在大使も含まれており、超大国の米国を強く意識した会議であることをうかがわせる。
このように、中国が国債秩序を塗り替えると、はっきりと公言したのですから、米国としてもこれを見過ごすわけにはいかず、18年から19年にかけて、米国は超党派で、対中国冷戦を実行する体制を整えたのです。

ただし、つい最近までは、 米国は、中国はインド・太平洋地域で米国に取って代わることを意図して、自国の国家主導型経済モデルを国際的に拡大し、地域全体の秩序を中国の好む形に変革しようとしていると考えていました。

それは、米国海兵隊の新戦略にも反映されています。米軍の海兵隊の新戦略は中国の南シナ海、東シナ海での海洋攻勢の抑止に新たな重点をおき、中国軍の島々への軍事攻撃を防ぐ目的を重視することが明らかとなりました。

この新戦略では従来の中東などでの地上戦闘やテロ攻撃への同海兵隊の対処が減り、アジア地域の海洋戦闘能力の増強が図られるという。日本の尖閣諸島の防衛にも前向きな影響が期待できる動きだと言えます。これについては、詳細は、以下の記事を参照にしてください。
尖閣諸島防衛に新たな比重を置く米海兵隊の新戦略
沖縄に駐留する米海兵隊の訓練の様子(2020年3月23日、出所:米海兵隊)

確かに、これらの地域はこれから、経済がかなり伸びるこどか予想されます。しかし、中国がインド・太平洋地域で米国に取って代わることは、かなりの困難を伴うことが予想されます。戦略化のルトワック氏は、南シナ海の中国の基地などは、象徴的な意味しかなく、米軍がやる気になれば、5分で吹き飛ばせるとしています。

であれば、現在の世界秩序の基礎をつくった、ヨーロッパを中国の支配下に置くことのほうが、やりやすいかもしれません。習近平は、八方塞がりの現状を打開するために、EUを利用することを思いついたのかもしれません。

しかし、そのようなことが簡単に成就できるでしょうか。現状では、確かにイタリアなど武漢ウイルスにより社会経済が沈んでおり、中国の助力を請おうとする姿勢もみられますが、コロナであれほどの惨禍に見舞われたイタリアです。そうして、そうなったのは、中国の隠蔽による初動対応のまずさにあります。

ある程度武漢ウイルスが終息すれば、多くの国民から中国への批判は相当高まることになるでしょう。

さらに、中国で再び中国で武漢ウイルスの第二次の爆発的感染がはじまるかもしれません。

中国がEUを中国の傘下に取り込むことに執着すれば、インド太平洋との2正面作戦になってしまいます。無論EUに対しては、軍事的な行動はとらないでしょうが、それにしても、経済支援などはし続けなければならず、現在の中国にそれができるのかは疑問です。

いずれにせよ、コロナ後の中国の動きに関しては、日米ともに協調し、注意深く見守りつつ、EUへの中国の動きも牽制しなければならない時が来るかもしれません。

日米ともにまずは、国内の武漢ウイルス感染を一日も早く終息に向かわせるべきです。

【関連記事】


2018年12月18日火曜日

中国の微笑外交の限界―【私の論評】微笑外交の裏に日米離反の意図、北朝鮮に対する敵愾心、台湾に対する領土的野心あり(゚д゚)!

中国の微笑外交の限界

岡崎研究所

ミンシン・ペイ教授

11月19日付のProject Syndicateのサイトに、米国カリフォルニア州にあるクレアモント・マッケナ大学のミンシン・ペイ教授が、「中国の魅力攻勢の限界」と題する論説を寄稿した。その要旨、以下の通り。

・中国は過去10年間、東アジア諸国に対し強い態度で接してきたが、ここ数か月、微笑外交をするようになった。何が変わったのか。

・2013年、中国は日本の尖閣列島を含む東シナ海に一方的に防空識別圏を設定した。翌年には、領有権争いのある南シナ海に人工島を建設した。そして、2016年には、在韓米軍にミサイル防衛システムを設置することに対抗して韓国に制裁を課した。

・しかし、今、様相は変わってきた。先月、安倍総理は、日本の首脳としては7年ぶりに、北京を訪問した。そして、習近平の訪日は来年予定されている。中国首脳の訪日は10年振り以上である。

・先週、中国の李克強首相はシンガポールを訪れ、両国間の新FTAに署名した。中国は、TPPに対抗して、RCEPの署名も望んでいる。

・中国の新たな非対立的アプローチは、中国指導部の心や目的が変わったからではない。それは、地域の地政学的環境の変化による。この6か月間で、米国は40年間の中国関与政策を止め、中国封じ込め戦略に転じた。中国は、米国との競争激化で、地域の友人を得ようと必死である。

・このような中国の微笑外交の中身は明確である。多くのアジア諸国の第1の貿易相手国である中国は、シンガポールとこの程行なったように、魅力的貿易項目を提示する。

・中国のもう一つのやり方は、首脳レベルの外交を展開することである。韓国、インドネシア、ベトナム、日本等地域の主要国に焦点を当てている。11月20-21日には習近平がフィリピンを訪問する。これらを通じて中国は友好ムードを作りたい。その間、宣伝機関には、攻撃的広報を止めさせる。

・一時的に中国は領有権の主張を抑制するかもしれない。例えば、2012年にフィリピンから奪ったスカボロー礁への人工島建設を中断したり、尖閣諸島への船舶派遣を抑えて日本との対立を避けたりするかもしれない。

・東アジア諸国は中国の新外交を今の所プラスに受け止め、中国の攻撃的態度の一時停止を歓迎している。が、だからと言って、これら諸国が米中対立の中で、どちらか一方に付きたがっているわけではない。ただ、中国覇権の蔭にいたいという国はほとんどない。いざ米中対立が激化すれば、日本、韓国、ベトナム、マレイシア、シンガポールは米国を支持するだろう。

・もし中国が頼れる友人を得たいなら、安全保障、特に領土問題で譲歩すべきである。例えば、尖閣問題で、中国が脅威とならないことを日本に理解してもらうとか、南シナ海問題で仲裁裁判所の判決を受諾して東南アジア諸国を安心させるとか、である。

・今のところ、習近平から譲歩の様子は見られない。中国が戦術的アプローチに固執する限り、その程度の果実しか得られないし、米中対立の中では、まだまだ不十分である。

出典:MINXIN PEI ‘The Limits of China’s Charm Offensive’ Project Syndicate, November 19, 2018

 ペイ教授の指摘は、鋭い。米中対立が激化すると、中国は、アジア諸国に対して微笑外交になり、米中が協調しているか米国が強く出ない時は、近隣諸国に対して、強圧的態度で臨む。日本を含むアジア諸国は、米中対立を決して好むわけではないが、中国が脅威となって行動することは困る。ここにジレンマが生じる。

 この中国外交のアプローチの変化には、騙されないことが重要である。ペイ教授も指摘しているように、中国の表面的変化に惑わされるのではなく、真の意図、目的を見失なわないことが重要である。

 実際に、中国の動きを見ていると、微笑外交に転じても、反日教育がなくなったわけでもなければ、尖閣諸島周辺への船舶の出入りが少なくなったわけでもない(この点、ペイ教授の観察は必ずしも正しくない)。

 甘い経済の提案も、いつそれが変化してしまわないか、気を付けながら慎重に進めるべきだろう。

【私の論評】微笑外交の裏に日米離反の意図、北朝鮮に対する敵愾心、台湾に対する領土的野心あり(゚д゚)!

米国と貿易問題をめぐる対立が深まる中、中国はインドと日本に歩み寄りを見せてきました。習近平国家主席は今年4月、インドのモディ首相と握手し、関係改善を印象付けました。

また、李克強(リー・カーチアン)首相は就任以来初めて、中国の首相としては8年ぶりに今年の5月に日本を訪問しました。10月には、安倍総理は、日本の首脳としては7年ぶりに、北京を訪問しました。

トヨタ自動車北海道の訪問を終え、沿道の同社社員らに
手を振る中国の李克強首相=5月11日、北海道苫小牧市

これは、明らかに米中関係の悪化によるものです。アメリカは昨年末から国防などの安全保障面でも対中強硬策に転じていましたが、さらに対中国貿易戦争を開始しました。

ここで、一見中国の微笑み外交とは関係なくもみえる、北と中国との関係が悪化した要因などを分析します。

2002年9月、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)(元)総書記は、中国遼寧省丹東と隣接する北朝鮮の新義州(シニジュ、しんぎしゅう)を特別行政区(特区)と定めて経済開発を試みようとしました。

それは中国からの「改革開放をしろ」という絶え間ない要求に応じたものでしたが、それでいて「中国外し」のために通貨は米ドルにして、おまけに特区長官の任命に当たり、中国には一切相談せずに、敢えてオランダ籍の中国人(楊斌)を選びました。

楊斌氏

オランダ籍であることから、新義州経済開発特区には、中国以外に西側諸国を招いて、中国が中心にならないように仕掛けをしていたのです。

このことを知った中国は激怒し、楊斌を脱税や収賄など多数の違法行為により逮捕投獄してしまったのです。それにより新義州経済開発特区構想は潰れてしまったのですが、注目しなければならないのは、このとき金正日は日本に対して何をしたかです。

小泉元首相の訪朝を、金正日は受け入れたのです。そして拉致被害者を一部返し、また拉致行為に関しては「特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走って日本人を拉致した」と認めて謝罪しました。

ここで重要なのは、北朝鮮の最高人民会議常務委員会が新義州特区設立の政令を発布したのが2002年9月12日で、小泉元首相が平壌(ピョンヤン)を訪問して金正日元総書記に会ったのが2002年9月17日であるという事実です。

つまり、北朝鮮が「中国外し」をするときは、日本に対しては門戸を開こうとするのです。

楊斌が拘束されたのは2002年10月4日で、11月27日には逮捕投獄されました。小泉元首相が訪朝した9月17日には、楊斌が逮捕されるとはまだ思っていなかった金正日は、経済特区を開発するに当たり、「中国外し」をしておいて、対日融和策に出たということになります。

それを知っている中国は、今回もまた北朝鮮が対日融和策を取る可能性があることを見越して、北朝鮮に先手を打たれまいとして「対日融和策」に出ようとしているのです。

事実5月4日、習近平国家主席は安倍首相からの電話会談申し入れを受け入れ、日中首脳としては初めての電話会談を行いました。

電話をする安倍総理

これは5月2日から3日にかけて、王毅外相が訪朝し、金正恩(キム・ジョンイル)委員長と会談したことと深く関係しています。

王毅外相訪朝の真の目的は、あくまでも4月27日の南北首脳会談で採択された板門店(パンムンジョム)宣言の中で謳われた「中国外し」を回避させることにありました。

すなわち宣言では、「南と北は、休戦協定締結65年となる今年、終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制を構築するため、南北米3者、または南北米中4者会談の開催を積極的に推進していくことにした」とある。中国を外す3者会談の可能性を示唆しました。

中国にとって、中国を排除することなど絶対にあってはならないのです。王毅外相は「中国を外すな」と説得するために金正恩委員長に会ったのです。表面上は熱い抱擁を交わし、非核化など、聞こえの良い「きれいごと」に関して意思確認をしたと言っているのですが、実際は違います。

事実、5月3日の聯合ニュースは「訪朝の中国外相 朝鮮半島問題での「中国外し」回避に総力」と報道しており、中国国内でも、板門店宣言以来、「3者会談とは何ごとか」といった趣旨の報道がめだちます。

中国の外交部などを通した発表としては、せいぜい「中国は半島問題の解決に長いこと大きな貢献をしてきた」という類のことしか言ってないですが、中国政府系あるいは中国共産党系メディアは、識者のコメントとして多くのことを書かせていまする。中朝蜜月を披露した手前、政府自身がストレートに北朝鮮を責めるわけにはいかないのです。

そこで、「3者」と言い出したのが北なのか南なのかに注目が集まる中、「北である」という確信を持っている論評を数多く掲載させています。その主たる論拠を以下に列挙します。
1.1984年1月、北朝鮮は中央人民委員会と最高人民常設会議の連合会議を開催し、「朝米韓」3ヵ国による平和体制への移行を協議すべきだと決議した。朝米の間で平和協定締結を論議し、朝韓の間で北南相互不可侵条約を結んだ後に、朝韓が政治協商会議を開催し「高麗連邦国家」建国を論議すべきとしている。 
2.1994年、北朝鮮は中国に対して「軍事停戦委員会」の駐板門店・中国代表が中国に撤退するように要求してきた。北朝鮮は中国が安全保障上北朝鮮に介入する法的地位を保有することを望んでいない((筆者注:1991年12月に旧ソ連が崩壊すると、1992年8月、中国は韓国と国交を樹立。北朝鮮、「戦争中の敵国(韓国)と国交を樹立した」と中国に激怒)。
3.1996年4月、クリントン米大統領と韓国の金泳三(キム・ヨンサム)大統領が韓国の済州(チェジュ)島で共同声明を発表し、北朝鮮が唱える「3者会談」による平和体制以降を否定し、「中国を入れた4者会談」を提案した。
4.しかし2007年の第2回南北首脳会談において発表された共同声明では、再び「3者または4者による首脳会談を通して休戦体制を平和体制に転換させる」とした。 
5.従って、今般の板門店宣言における「3者会談」の可能性を提起したのは、明らかに北朝鮮側であることが明確である。
以上が、中国政府が識者らに論じさせた根拠の骨格です。

4月29日に韓国政府筋が韓国メディアに一斉に「2007年の南北首脳会談で"3者"を提起したのは金正日」と報道させていました。これは今般の板門店宣言における「3者」提起が、決して韓国側ではないということを韓国政府が中国に知らせたかったためだと考えられます。

ただし、中国はもっと詳細に、「犯人」が北朝鮮であることを十分に分析し、知っていたということができると思います。

そのようなことから、今年3月25日から27日にかけて北京を電撃訪問して中朝蜜月を演じた金正恩に対して、中国は心の奥では不信感を拭えていなかったようです。

金正恩は「朝鮮半島の非核化と平和体制構築のプロセスにおいて、北朝鮮だけでは北朝鮮の自国の利益を保持することはできないので、何としても中国の後ろ盾が必要だ」というせっぱ詰まった気持から習近平に会い、その救いを求めたはずだと中国は言います。だというのに、その一方では、結局金正日以来の北の考え方は変わってはいない、というのが中国の大方の見解です。

何しろ江沢民時代から北朝鮮が表面上見せた中国への熱烈な友好的姿勢は際立っており、最高指導者となってからの金正日は7回にもわたって訪中しています。その間、江沢民や胡錦濤と、どれだけ熱い握手を交わしてきたことでしょう。

だからこそ、金正恩の電撃訪中に当たって、中国は「中国が主導する6者会談」復帰を前提として金正恩に要求したわけです。またもや「3者」に持っていこうとする北朝鮮の策略を防いだはずでした。
しかし金正恩の方が、策略において上手だったことになります。

このようなこともあり、さらに最近の米国による対中政策が厳しさを増してきたことから中国は勢い、日本に本格的に秋波を送るようになったのです。

中国の日本に対する微笑み外交は、すでに昨年から実施されていました。日中両政府は、沖縄県・尖閣諸島のある東シナ海での偶発的な衝突を防ぐ「海空連絡メカニズム」の構築と早期運用に向けて「前向きな進展」があったと発表しました。

「海空連絡メカニズム」とは、自衛隊と中国軍が接近時の連絡方法などをあらかじめ定め、衝突を防ぐ仕組みです。中国・上海で昨年12月5、6日開かれた、日中の外務、防衛、海上保安当局などの高級事務レベル海洋協議で、主要論点がほぼ一致したといいます。

現在習政権と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権の関係は上でも述べたように、劣悪で『事実上の敵』といえます。加えて、習氏は2020年以降、本気で台湾を取りに行こうとしています。

こうなると、中国人は『敵の敵は味方』のフリをするモードになります。日本政府や自衛隊に笑顔で接近して、話し合いの環境をつくろうとします。彼らの本音は、日本人を油断させて『日米同盟の分断』と『自衛隊内のシンパ構築』を狙っているのです。

習氏は昨年10月の共産党大会で、「3つの歴史的任務の達成」を宣言しました。この1つに「祖国統一の完成」があり、武力侵攻も含めた「台湾統一」と受け止められています。

「核・ミサイル開発」を強行する北朝鮮に対しては、米国の軍事的制圧も視野に入ってきています。中国は、緊迫する東アジア情勢の中で巧妙に立ち回り、台湾統一の邪魔になる「日米同盟の分断」に着手したのかもしれません。

習氏にとって、安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領が体現している『日米同盟の絆』は脅威です。ここにクサビを打ち込もうとしているのです。中国人は『台湾は中国の一部。尖閣諸島は台湾の一部』と考えています。

無人島の尖閣諸島は後回しにして、台湾を先に取ろうと考えているのかもしれません。

このようにみていくと、中国の日本に対する微笑外交の背後には、様々なものが隠されていることがわかります。特に、中国の北朝鮮に対する敵愾心、台湾に対する領土的野心、日米離反の意図を忘れるべきではありません。

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2018年11月13日火曜日

中国の「微笑外交」の裏に隠された“意図”―【私の論評】微笑に騙されない安倍総理は「自由で開かれたインド太平洋」構想を着実に進める(゚д゚)!

中国の「微笑外交」の裏に隠された“意図”

岡崎研究所

安倍総理は、10月25日から26日にかけて中国を訪問、習近平国家主席および李克強首相との首脳会談に臨んだほか、日中財界のトップも多数参加した「第三国市場協力フォーラム」や北京大学での学生との交流に参加するなどした。



日中首脳会談等で合意した主要点、日本側が主張した注目点をごく掻い摘んで紹介すると、次の通り。

・第三国民間経済協力を推進(上記「第三国市場協力フォーラム」もその一環)、日中イノベーション協力対話を新たに創設。日本側は、開放性、透明性、経済性、対象国の財政の健全性の4つを条件に、質の高いインフラ事業に限り日中の企業間協力を支援(「第三国市場協力フォーラム」における安倍総理のスピーチ)。

・通貨スワップ協定(互いの通貨が不足した日中の金融機関に対して同通貨を供給する)の締結・発効。

・日本産食品の輸入規制の緩和に向けて積極的に検討。

・RCEPの早期妥結及び日中韓FTAの交渉加速化を目指す。WTO改革を推進する。

・WTOをはじめとする多角的自由貿易体制を一貫して重視する日本の立場を説明すると同時に、補助金や知的財産権を含む問題について中国側が更なる改善を図っていくことが重要である旨指摘。

・「東シナ海の安定なくして真の関係改善なし」との日本側の問題意識を伝達。

・本年5月に合意した防衛当局間の海空連絡メカニズムの初の年次会合の年内開催で一致。日中海上捜索・救助(SAR)協定に署名。

・東シナ海における資源共同開発に関する「2008年合意」について、実施に向けた交渉の早期再開を目指す。

・安倍総理から、米国との同盟関係を外交安全保障の基軸としつつ,アジア太平洋地域の平和と繁栄に貢献するとの日本の立場について説明。

・朝鮮半島の非核化に向けて、関連安保理決議の完全な履行の重要性を改めて確認。拉致問題に関する日本の立場につき、中国側は理解し支持する。

参考:外務省ホームページ

日中間で意思疎通を密にするということ自体は良いことである。安倍総理は「日中間の対話は常にオープンである」と言ってきた。今回の首脳会談は、それを実行に移したものであり、国際社会に対し日本がいたずらに対決姿勢を望んでいるわけではないことを示すことができた。日本の外交力強化に資することが期待される。

日中関係の改善は、中国側により多くの動機がある。第一は、米中貿易摩擦であるが、その他にも、国内経済の停滞傾向にあり、一帯一路が思うように進展せず、北朝鮮問題等も抱え、対外関係の新たな展開を図るために日中関係の見直しが有利と考えたのであろう。

合意内容の中では、第三国における民間経済協力と知的財産の問題に特に注目したい。

上述の通り、開放性、透明性、経済性、対象国の財政の健全性の4つを条件に協力する用意があるとしている。これらは、まさに一帯一路をはじめとする中国の経済戦略が抱える問題点である。日中が協力することで中国によるインフラ投資が国際水準を満たすようになれば結構であるが、協力が限定的なものにとどまるとしても、問題提起をしていくことは良いことである。

中国による知的財産侵害の問題については、安倍総理は率直に指摘をした。米中貿易摩擦の一つの大きな要因は知的財産である。米中間での動きも睨みつつ、それを背景に日中交渉を進めて行くことが期待される。

今回の日中首脳会談では「競争から協調へ」ということが謳われ、日中関係の改善、友好ムードが指摘されたが、最も重要なのは、戦略的背景、地政学的構造である。この点、中国側の「微笑外交」の裏に、日米の離間の意図が隠されていることを忘れるべきではない。例えば、Global Times(共産党の機関紙人民日報系の環球時報の英語版)は、10月25日付け社説‘Internal factor promotes China-Japan ties’で「日本の対中政策が米国の影響から脱することができるかどうかが日本の外交的独立の試金石となる」と書き、同26日付け社説‘Unraveling thorny knot of China-Japan ties worth doing’では「米国は日中関係に戦略的に負の影響を与えてきた」「長期的には日本は米国との関係で厄介ごとが増えるだろう。米軍の日本駐留は、日本の主権を大いに損ねてきた」などと書いている。日中関係推進に当たっては、米国との連携を密にして動くことが最重要である。今回は、10月16日に谷内国家安全保障局長が訪米し、ボルトン国家安全保障補佐官に事前説明を行っている。

中国が地域を「支配」し、世界中で自由、人権、民主主義や法の支配などに基づかない影響力を行使しようとしている状況に変化がない以上、日中関係も根本的な改善には向かうことはないと見るべきであろう。

【私の論評】微笑に騙されない安倍総理は「自由で開かれたインド太平洋」構想を着実に進める(゚д゚)!

このブログに過去に何度か掲載してきたように、中国が民主化、経済の政治の分離、法治国家化を進めようとする意志がない以上、日中関係には根本的な改善はあり得ないとみるべきです。

そうして、実際安倍総理は、そのように中国をみているようです。

本日安倍晋三首相は午前、首相官邸でペンス米副大統領と会談しました。終了後、首相は「北朝鮮の完全な非核化に向け、国連安保理決議の完全な履行が必要だとの認識で一致した」と表明。2人は拉致問題の早期解決に向けた連携の強化でも一致しました。日米が目指す「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進に向けた連携を確認する共同声明を発表しました。


共同記者発表で、首相は「ペンス氏との緊密な調整は日米同盟の強固な絆を示すものだ。自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、インフラやエネルギー分野で緊密に連携していく」と説明。ペンス氏も「ここまで強かった日米同盟はかつてない。日米は自由で開かれたインド太平洋地域を現実のものとするビジョンを共有している」と応じました。

首相は年明けにも始まる日米間の新たな通商交渉に関し、「双方の利益となるように日米間の貿易や投資を拡大し、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域の経済発展を実現する」と述べました。

米中間選挙では、与党・共和党が下院で過半数を失い、トランプ政権が通商問題でさらなる強硬姿勢をとることが懸念されています。こうした現状も踏まえ、日本政府は「強固な日米同盟」を内外に発信したい考えです。

ペンス氏はトランプ大統領の名代として、シンガポールで開く東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議への出席を前に来日しました。首相との会談に先立ち、麻生太郎副総理兼財務相とも会談しました。

今回の会談で最重要はやはり「自由で開かれたインド太平洋」構想の再確認のようです。安倍総理がこの構想を打ち出してから2年で、この構想が着実に形になりつつあります。


日本、米国、インド、オーストラリアの4カ国は11月13日に、シンガポールで開催予定の第13回東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を控え、インド太平洋地域における海洋安全保障と経済開発プロジェクトを推進させる構えです。

安倍首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、地域インフラ発展における4カ国の協力構想の創設戦略のことです。同海域における中国進出を念頭にしており、各国安全保障政策のみならず軍事戦略にも影響しています。

この構想は日本の安倍総理が言い出したということで、かなり円滑に推進されるようになりました。これが、米国が言い出した場合は、インドやASEAN諸国は米国に対する反発も多いので、うまくはいかなかったでしょう。

日本がこれらの国々と、米国とをうまく橋渡しをすることにより、この構想は着実に前進しています。そのため、トランプ政権も安倍政権には一目置き、頼りにしているところがあります。


さて、マイク・ペンス米副大統領は11月10日、米アラスカで記者団に対して、インド太平洋地域における中国共産党政府によるプレゼンス(存在感)が高まる中、米国がインド太平洋地域で最大600億ドル(約6兆8千億円)のインフラ整備支援を行う計画があると述べました。

ホワイトハウスによると、トランプ大統領はASEANおよびアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の出席を見送り、ペンス副大統領が代理出席します。

ペンス副大統領は11日に、インド太平洋地域に対する米国のコミットメント(かかわりあい)は「かつてないほど強い」と述べ、大統領の首脳会議の欠席はアジア軽視では「全くない」と強調しました。

インド紙タイムズ・オブ・インディアによると、米国の国防総省上級幹部はインド太平洋司令部が4カ国と協調的な安全保障の枠組みを構築することに積極的だといいます。

同紙によると米国防総省高官は、南シナ海の南沙諸島の軍事拠点化を進める中国について、「排他的で独占的な」政権が「強引な戦略で国際的なルールを破壊しようとしている」と批判しました。

インドは日米のインド太平洋戦略の軍事発展化に慎重な姿勢を示しています。インド国務院アリス・ウェルス高官は同紙に対し「4カ国は互恵的な計画として協力する構想を共有する。海上安全保障の促進のみならず、海洋分野の開発や経済プロジェクトも含まれる」と述べました。

しかし、ウェルス高官は「避けられない事態に応じて」軍事戦略への進展は排除しませんでした。

米国とインドは毎年2カ国軍事演習を行っています。来年はベンガル湾で水陸両用訓練を行う予定。日本とインドは11月1日から2週間、インド北部ミゾラムで初めてとなる二国間軍事訓練「ダーマ・ガーディアン2018」を行っています。

11月9日、ワシントンで行われた米中外交安全保障対話で、米国は中国に対して、南シナ海に設置されたミサイルシステムを撤去するよう直接要求しました。国務省は声明で、インド太平洋において「いかなる国も脅迫や恫喝で問題を解決するべきではないとの考えを確認した」と述べました。

ポンペオ米国務長官は米中対話後の記者会見で、「中国の南シナ海での活動と軍事拠点化に引き続き注意を払う。また、過去に中国が締結した条件を履行するよう促していく」と述べました。

読売新聞10日付によると、同紙が入手したというASEAN議長声明草案には、中国を念頭に「緊張を高め、平和を損ないかねない」単独行動を批判する文言を入れる方向で調整しているとされています。

ASEAN議長声明草案には、中国を批判する文言が入るか入らないかは今のところはわかりませんが、それがどうなろうとも、日本、米国、インド、オーストラリアの4カ国は「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進し、インド・太平洋地域から中国の覇権を葬り去るでしょう。

米国は、現在対中国「冷戦Ⅱ」を実行しています。これは、中国が体制を変えるか、体制を変えないならば、他国に影響力を行使できない程に経済力を削ぎ落とすまで、続けられます。

その一方で、日米印壕は、「自由で開かれたインド太平洋」を維持するため、中国が現在以上の暴虐を防ぐ役割を協同で担うことになります。

「冷戦Ⅱ」の画像検索結果
ペンス副大統領は「冷戦Ⅱ」という言葉を発した

米国の「冷戦Ⅱ」は、少なくとも10年、長ければ20以上継続され、必ず結論はでます。

中国が体制を変えれば、中国がつくった南シナ海の環礁の埋立地を自ら撤去し、中国が自力で元の環礁に戻すことになるでしょう。

中国により軍事基地化された南シナ海の環礁ファイアリクロス(2017年12月14日CSIS公表)
中国が体制を変えなかったとしたら、経済がかなり弱体化し他国への影響力を失い、南シナ海の中国の埋立地はそれを維持するだけでも莫大な経費がかかり、中国にとっても無意味になります。

しかし、その時になっても維持していれば、日米壕印の連合国が南シナ海の埋立地を海上封鎖し、埋立地の軍事基地を無効化した後に、上陸し中国軍の武装解除をし、その後に埋立地を破壊し元の環礁に戻すことなるでしょう。このようなことをしても、その時には、中国は力を失い、なすがままにされるしかなくなっているはずです。そもそも、環礁を元に戻すだけの経済力もないかもしれません。

いずれにせよ、20数年後くらいには中国の覇権は南シナ海から排除され、埋立地は元の環礁に戻ることになるでしょう。

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