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2018年2月22日木曜日

国会公聴会で話した「アベノミクス擁護」の理由―【私の論評】雇用の主務官庁は厚生労働省だと思い込む人には、雇用も財政も理解不能(゚д゚)!

国会公聴会で話した「アベノミクス擁護」の理由

高橋洋一

 2月21日に衆議院予算委員会公聴会に公述人として呼ばれた。公聴会というのは、予算案採決を前に、各党がそれぞれ推薦する有識者が意見を述べ、参考にするのだが、筆者は自民党推薦の公述人だった。

 話したのは、予算案作成のバックボーンとなっている財政金融政策などについてだ。

マクロ政策の中心は雇用確保安倍政権が支持される理由だ

 今回の30年度予算案に関連して、主に話したのは次のことだ。
第一に、政府のマクロ経済政策は雇用確保を中心とすべきこと、
第二に、財政事情は統合政府(政府と中央銀行を会計的に一体と見て考える)で見るべきこと
第三に、規制改革をもっと徹底すべきこと
 この3つだ。

  まず確認されるべきなのは、政府のマクロ経済政策の中心は雇用の確保ということだ。

 政府はすべての人に職があることを目指すべきだ。職があれば、社会の安定にもつながる。

 職があることは、就業者数で見てもいいし、失業率でもいい。

 例えば、失業率が低くなれば、自殺率は顕著に下がるし、犯罪率も下がる。社会問題のいくつかは、失業率を低下させることで、ある程度解決する。

 さらに、若者にとって職があることは重要だ。例えば、大学の新卒者の就職率は1年前の失業率に連動する。

 一流大学の就職率は常にいいが、筆者が教える大学では雇用事情の影響をもろに受ける。5、6年前には就職率は良くなかったが、今では全員が就職できるまで上昇している。

 この5年間、学生の学力が目立って上昇したわけではない。ただ、アベノミクスに異次元金融緩和があっただけだ。

 学生は就職が自分たちの“実力”のせいでないことをリアルに感じている。就職は学生の一大関心事なので、だから安倍政権の人気が高いのだ。

 マクロ経済政策が雇用政策であることは、欧米では常識だ。

 そして、このことは「左派政党」がいち早く主張した。ところが、日本では、保守の安倍政権が初めて主張して、結果を出している。一部の野党が、いまの金融緩和策を否定しているのは、世界から見れば雇用の確保を無視しているわけで、海外では理解不可能なのではないか。

 マクロ政策で雇用確保に熱心でない一部の野党が、労働法制の議論で細かい話をしているのは、かなり奇異に見える。

 雇用と物価、マクロ政策の関係を示すフィリップス曲線というのがある。

 図表1の横軸はインフレ率、縦軸は失業率を示し、インフレ率と失業率は逆相関の関係であることがわかる。



 これをフィリップス関係という。一般的な経済学の教科書では、横軸が失業率、縦軸がインフレ率なので、縦と横が逆になっているが、内容は同じだ。

 インフレ率がマイナスの時には、失業率が高く、インフレ率が高くなるにつれて失業率が下がる。しかし、失業率はある率から下がりにくくなる。

 この失業率の下限を「NAIRU(インフレを加速しない失業率)」という。実際の値を推計するのは簡単な作業ではないが、私は「2%台半ば」と推計している。

 経済学は精密科学でないので、小数点以下に大きな意味はないが、あえてイメージをハッキリさせるために、図では2.5%と書いた。これは、2.7%かもしれないし2.3%かもしれない。2.5%程度と言うと、2.5が一人歩きするので、「2%台半ば」と言っている。

「インフレ目標」というのは、このNAIRUを実現する最小のインフレ率で、これが現状は、2%程度だ。目標なので2%と言ってもいい。

 こうしたフレームワークは、先進国では共通だ。


インフレ目標は「2%」には根拠がある


 先日のダボス会議(「世界経済フォーラム」)の黒田日銀総裁が出席したセッションで、こんなやり取りがあった。

 ダボス会議は、経済の専門家らも討議を聞いいる。フロアから、「インフレ目標は2%がいいのか」という質問があった。

 これに対して、黒田総裁は、

 <インフレ目標の物価統計には上方バイアスがあるので、若干のプラスが必要なこと、ある程度プラスでないと政策の対応余地が少なくなること、先進国間の為替の変動を防ぐことなどの理由で、先進国で2%インフレ目標が確立されてきた。>

 と答えた。

 国会答弁ならこれでいいのだが、ダボス会議ではこれでは通用しない。会場には妙な空気が流れた。

 「正解」は、

<インフレ目標は、フィリップス曲線上でNAIRUを達成するための、最低のインフレ率である。日本では、NAIRUは2.5%程度なので、インフレ目標は2%。これ以下だと、NAIRUが達成できずに失業が発生する。これ以上だと、無駄なインフレ率で社会的コストが発生する。>

 だ。日本でも国会は、日銀総裁らに「日本のNAIRUはどの程度なのか」と質問したらいいだろう。これが答えられないようでは、中央銀行マンとして失格ということだ。

 図表1で示したことは、先進国で共通だ。

 アメリカでは、NAIRUは4%程度、インフレ目標は2%だ。

 現在、アメリカの失業率は4.1%、インフレ率は2.1%なので、ほぼ最適点。その上で、トランプ政権は大減税しようとしている。それは経済を右に動かす、つまりインフレ率を高めるから、FRBが金融引き締めするのは理にかなっているのだ。

 日本では2016年9月に、量的緩和から長期金利の誘導目標を「0%程度」とする、「イールドカーブコントロール(長短金利操作)」という金利管理に移行した(図表2)。


 量と金利の関係は、コインの裏表の関係なので、上手くやればスムーズに移行するはずだった。しかし、実際には、10年金利は実勢のマイナス0.2%から0%へと引き上げられた。これは、ちょっとした逆噴射になった。この政策のこれからに注目したいと思っている。


適切なGDPギャップは「プラス2%」まだ需要追加策が必要

 話は戻るが、インフレ率と失業率がどう動くかは、実は、GDPギャップの数字がポイントだ(図表3、図表4参照)。


 ここでのGDPギャップは、内閣府が計算した数字を出している。具体的な算出は、現実のGDPと、完全雇用で供給能力がフルに使われた場合の潜在GDPの差額を潜在GDPで割ることによって求められる。

 (現実のGDP-潜在GDP)/潜在GDP

 政策効果としては、積極的な財政政策をすると、公的部門の有効需要が高まるので、GDPギャップは増える。また、金融緩和すると、実質金利が下がり、設備投資などの民間部門の有効需要が高まり、やはりGDPギャップは増える。

 すると、半年くらいのラグがあって、インフレ率は高まり、失業率は低下する。

「2%のインフレ率、2.5%の失業率」を達成するためには、どうすればいいのかというと、GDPギャップをプラス2%程度にすれば達成できる。

 今のGDPギャップは0.7%なので、あと1.3%程度、需要を増やす必要がある。

 現在の日本経済は、GDPギャップはプラスになったので、もういいと言う人もいるが、それでは、インフレ目標2%と、NAIRU2.5%は達成できない。

 なお、その状態になると、賃金は顕著に上がり始める。人手不足になるので、企業でも賃金を上げざるを得なくなる。

 有効需要を作るには、財政政策だけが手段ではない。金融政策もその手段となり得る。

 なので、政府と日銀は、インフレ目標、その裏にあるNAIRU2.5%を共有する必要がある。

 その結果、マクロ経済の良好なパフォーマンスは、経済の一部門である財政にも好影響を及ぼすのだ。


「統合政府」論で考えれば財政再建はできている


 財政の健全化度合いを示すフローのプライマリー収支(基礎的財政収支)は、前年の名目GDP成長率と高い相関がある(図表5)。これは日本に限らず先進国で見られる現象だ。

 であれば、財政健全化を進めるには名目成長率を高くすればいいとなる。

 しばしば、日本は財政状況が悪いという声を聞くが、筆者にはかなり疑問だ。

 経済学では、政府と中央銀行を会計的に合算した「統合政府」という考え方がある。もちろん、行動として中央銀行は、政策手段の独立性があるが、あくまで法的には政府の「子会社」なので、会計的には「連結」するというわけだ。


 この場合、財政の健全化を考える着目点は、統合政府BS(バランスシート)のネット債務ということになる。図6は、財務省ホームページにある連結政府BSに日銀BSを合算し、「統合政府BS」として、私が作成したものだ(図表6)。

 統合政府BSの資産は1350兆円。統合政府BSの負債は、国債1350兆円、日銀発行の銀行券450兆円になる。

 ここで、銀行券は、統合政府にとって利子を支払う必要もないし、償還負担なしなので、実質的に債務でないと考えていい。

 また国債1350兆円に見合う形で、資産には、政府の資産と日銀保有国債がある。

 これらが意味しているのは、統合政府BSのネット債務はほぼゼロという状況だ。

 このBSを見て、財政危機だと言う人はいないと思う。

 もっとも、資産で売れないものがあるなどという批判があり得る。しかし、資産の大半は金融資産だ。天下りに関係するが、役人の天下り先の特殊法人などへの出資金、貸付金が極めて多いのだ。

 売れないというのは、天下り先の政府子会社を処分しては困るという、官僚の泣き言でもある。もし、政府が本当に大変になれば、関係子会社を売却、民営化する。このことは、民間会社でも同じだ。

 例えば、財政危機に陥ったギリシャでは政府資産の売却が大々的に行われた。道路などの資産は売れないというが、それは少額であり、数字的に大きなモノは、天下り先への資金提供資産だ。

 海外から見れば、日本政府はたっぷりと金融資産を持っているのに売却しないのだから、財政破綻のはずはないと喝破されている。

 もちろん、海外の投資家は、政府の債務1000兆円だけで判断しない。バランスシートの右側だけの議論はしない。あくまで、バランスシートの左右を見ての判断だ。

 この「統合政府」の考え方からすれば、アベノミクスによる量的緩和で、財政再建がほぼできてしまったといえる。

 かつて、私のプリンストン大での先生である前FRB議長のバーナンキが言うっていた。

「量的緩和すれば、デフレから脱却できるだろう。そうでなくても、財政再建はできる」

 まさにそのとおりになった。

 実際に、財政再建ができたということを、統合政府BSに即して、具体的に示そう。

 資産が900兆円あるが、これは既に述べたように大半は金融資産である。その利回りなどの収益は、ほぼ国債金利と同じ水準であり、これが統合政府には税外収入になる。

 また、日銀保有国債450兆円は、統合政府にとっては財政負担はない。この分は、日銀に対して国が利払いをするが、日銀納付金として、統合政府には税外収入で返ってくるからちゃらだ。

 つまり、負債の1350兆円の利払い負担は、資産側の税外収入で賄われる。この意味で、財政再建がほぼできたといってもいい。

 フローの毎年度の予算では、それほど税外収入はない。これは、政府子会社や特別会計で、資産化して税外収入を減らすという会計操作をしているからだろう。かつて、私は「埋蔵金」として、そうした資産化したものを吐き出させた経験がある。

 この問題は、本来なら経済財政諮問会議などにおいて政府内できちんと議論すべきだと思っている。

日本の財政緊縮度先進国に比べて高くはない





 いずれにしても、ネットで債務を見れば、日本の財政はそれほど悪くない。ちなみに、ネット債務額の対GDP比を日米で計算してみよう(図表7は中央銀行を含まないベース、図表8は中央銀行を含む統合政府ベース)。これを見れば、日本の財政状況はアメリカより悪くないことがわかる。

 また図表9は、先進各国での財政政策の「緊縮度」を見ようとしたものだ。

 各国でのマクロ経済でGDPギャップがあるときに、財政政策でどこまでそれを解消しようとしているかがわかる。 

 例えば、GDPギャップがマイナス3%のとき、プライマリー収支をマイナス4%にすれば、つまり財政赤字を出して需要を増やせば、GDPギャップとプライマリー収支の差額を算出して、▲3-(▲4)=1となる。この数字が大きいほど、経済状況に応じて財政緊縮度は少ないと判断していい。

 それで見ると、日本は他の先進国に比べて、緊縮度が高いというわけではない。

 ただし、2014年の消費増税以降は、やや緊縮的な財政運営になっているようだ。

最後に、規制改革を述べたい。

 昨年は、加計学園問題が国会で取り上げられたが、はっきりいって時間の無駄だった。

 そもそも、大学の設置申請すらさせないという文科省告示はいかがなものか。認可制度があるのだから、申請は自由なはずで、ダメなら認可で落とせばいい。その申請をさせるというのが、特区の成果だと聞くと、正直あきれ果てる。

 たとえていえば、自動車の運転免許は別に受けてもらうが、自動車学校への入校を特区で認めるといわれるようなものだ。

 だがこうした中身のない規制改革でも、加計学園問題のように社会問題になると、規制改革自体の推進力が衰える。

 しかも、認可申請をさせないという文科省告示は依然として有効であり、それを使って、都心の大学設置も規制するという。驚きを通り越してしまう。

 政府は規制改革のネジを巻き直してもらいたい。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)

【私の論評】雇用の主務官庁は厚生労働省だと思い込む人には、雇用も財政も理解不能(゚д゚)!

下に、2月21日の衆議院予算委員会公聴会で高橋洋一氏が公述したときの動画を掲載します。


この動画の内容といい、ブログ冒頭の記事といい、高橋洋一氏のこれらの発言や、記事に私のようなものが付け加えたり、批判するなどのことは全くありません

さすがに、元大蔵官僚であり、その後さまざまな機会に、具体的なエビデンスを元に政治家にアドバイスしたり、書籍を書いたり、様々なソースに対して記事を書いたりしてきた人だけに、簡潔に誰にでも理解しやすく、現状の政府がマクロ政策を実施すべきときの留意点など、まとめています。

これ以上理解しやすくまとめたものは、他にはないかもしれません。すべての政治家は高橋洋一氏の話に虚心坦懐に耳を傾けるべきです。特に財政政策と、金融政策については、これを本当に理解すべきです。

そうすれば、現在の政府の金融・財政の課題などすぐに理解できるはずです。これは、与党は国民から支持を受ける上で、理解していなければならない基本的な事項です。

野党からすれば、国民から支持を受けるため、与党の力の及ばないところをみつけ、まともな政策論争をしていく上で必要不可欠な事項です。

しかし、現実にはこれを理解したり、理解しようとする政治家は少ないです。現状では、野党ではほとんど皆無であり、与党でも安倍首相とその側近やブレーンなど限られた人しかいません。

なぜそのようなことになってしまうのでしょうか。

私は、まずはブログ冒頭の高橋洋一氏の記事の中の図表1の内容が理解されていないことに原因があると思います。


これを理解していれば、日本のマクロ経済を考えるときに、さほど大きな間違いをおかしたりすることはありません。

そうして、この図を理解する前提として、特に雇用に関して、大雑把にいうと長期的には金融政策が、短期的には財政政策が大きくかかわってくることを理解していなければならないと思います。これが理解されていなければ、ブログ冒頭の記事のように、高橋洋一氏がエビデンスをもとに、わかりやすい説明をしても、右の耳から入って、左の耳から抜けていくだけになります。

さらにもっと話を単純化にすると、雇用に責任のある官庁はどこなのかといことを理解しているかいなかというところまで遡ると思います。

日本で、雇用関係統計数値の主務官庁というと、厚生労働省ということになると思います。主務官庁とは、ある行政事務を主管する行政官庁のことです。失業率など雇用に関する統計事務の主務官庁は確かに厚生労働省です。

では、雇用そのものの主務官庁は、どこなのでしょうか。多くの人は、雇用の統計数値の主務官庁が厚生労働省なので、雇用の主務官庁も厚生労働省だとみなしているのではないでしょうか。

これは、大きな間違いです。雇用そのものの主務官庁は日本銀行です。厚生労働省は、企業の労務管理などの主務官庁です。

実際、厚生労働省は雇用そのもの、特に雇用自体を生み出すことに関してはほとんど何もできません。

そもそも、厚生労働省とは、社会福祉、社会保障および公衆衛生、また労働に関する行政を主務する国の行政機関です。そうして、労働に関する行政とは、労務管理に関する行政と言い換えても良いと思います。

労務管理などの標準的テキストには、確かに雇用という項目もありますが、それは企業などが人を採用するときに関わるものであって、雇用そのものを増やしたり、減らしたりなどということは関係ありません。

昔、確か年末になると派遣村が日本のあちこちにできていたような時期に、ハローワークで働いていたある女性がサイトに「自分の上司である、課長が"私は正直、雇用というものがどういうものなのか良くわからないんだ"と語っていたのでショックを受けた」ということがサイトに掲載されて、話題になったことがあります。

私自身は、この課長さんの語ったことは、正しいと思います。無論、この課長さんは、雇用事務とか雇用や労務にかかわる法規のことなどはそれなりに知っていたと思います。しかし、当時の雇用情勢が非常に悪かった時期に、雇用を増やすために具体的に何をやるべきなのか、わからないという意味で、「雇用というものがどういうものかわからない」と語ったのだと思います。そうして、それは正しいです。

確かにハローワーク自体そうして、それを主管する厚生労働省は、雇用にはかかわっていますが、それは雇用事務、雇用のミスマッチングの是正、失業率等の労務関係の統計の計算事務などに関わっているだけの話であって、雇用を増やすことには関わりがないです。

厚生労働省は雇用そのもの主務官庁ではない
雇用を増やすことに直接関わっているのは、日本であれば日本銀行です。簡単に言ってしまえば、金融緩和をすれば、雇用が増え失業率が下がります。実際、インフレ率を数%高めば、日本や米国などでは、他には何をせずとも、一夜にして数百万の雇用が生まれことが経験的に確かめらている事実です。

金融政策を実施できない、厚生労働省は雇用そのものの主務官庁でないことは明らかです。

特に、中央銀行は、「雇用の最大化」つまりは事実上の完全雇用を達成することに責務をもつものといって良いでしょう。これについては、欧米のように法制化されているところもありますし、いまの日本でも議論され始めている点でもあります。

残念ながら日本では法制化はされていないが、日銀は「雇用の最大化」を責務とする官庁である
日本では、経済といえば、雇用が最も重要であるという観念が少ないようであることと、さらに雇用とくにその時々の経済状況における「雇用の最大化」に責任があるという、観念も希薄なのだと思います。

ブログ冒頭の記事で、高橋洋一氏は「マクロ政策で雇用確保に熱心でない一部の野党が、労働法制の議論で細かい話をしているのは、かなり奇異に見える」と掲載していますが、彼らはそもそも「日銀が雇用そのものの主務官庁」であるという意識が全くないのでしょう。

そうして、雇用の主務官庁は厚生労働省であると考えているからこそ、労働法規の議論で細かい話をしているというか、せざるを得ないのでしょう。

まずは、雇用そのものの、主務官庁は日銀であるという認識がなければ、上で高橋洋一述べていたようなことは、何一つ理解できず、馬の耳に念仏ということになると思います。

もし、このような認識があれば、雇用における問題も正しく認識できるはです。たとえば、アベノミクスで当初実質賃金が下がったことなど、日銀が金融緩和をしたために、雇用が増えたことが原因であることがすぐに理解できるはずです。

要するに、雇用が増えるときには、最初は企業がパート・アルバイトのような人をまず積極的に採用するため全体を平均すると賃金が低くなるのは、当然といえば当然です。そうして、雇用を増やせば、当初は企業は教育・訓練をしなければならいので、労働生産性も落ちます。

しかし、さらに日銀が金融緩和をして、企業の雇用が増えれば、やがて賃金をあげなければ、人を採用できなくなるし、採用してから時間がたてば、労働生産性も上がることになります。企業としては、人手不足になっている昨今将来のことを考えれば、一時労働生産性が下がっても、人を採用するのは当然のことです。

このあたりのことは、図表1の内容がしっかりと頭に入っていなければ、ほとんど理解できませんが、入っていればすぐに理解できます。

さらに、このくらいのことがわからない人は、雇用におよばず、日本政府の財政をみるときに、まずはBSで見るべきこと、それと企業ではすでに法制化されてるように、親会社と子会社の連結でみなければならないのと同じように、政府と日銀をあわれせた統合政府ベースでみるべきことも気づかないのだと思います。

雇用の主務官庁は、厚生労働省ではないことは当たり前といえば、当たり前なのですが、この当たり前のことを理解していない人がここ日本ではあまりにも多すぎるように感じます。

これは、ある意味目印にもなると思います。雇用のことを話している人で、雇用の主務官庁が厚生労働省と思い込んでいる人とは、まともに雇用の話などできません。そのような人は、雇用のことなど全くわかってないとみなすべきです。何かもっともらしいことを言っていても本当はわかっていません。

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2017年6月6日火曜日

“空回り”する野党の政権追及 原因は疑惑ありきの「思い込み」と「ベンチマーク」欠いた批判―【私の論評】人でも店でも政党でも相手の良いところを見るべき(゚д゚)!

“空回り”する野党の政権追及 原因は疑惑ありきの「思い込み」と「ベンチマーク」欠いた批判

民進党の加計学園疑惑調査チーム
 民進党などの野党は、「森友学園」や「加計学園」の問題を政権追及の材料にしてきたが、思惑通りの成果は上がっていないようにみえる。何が間違っているのだろうか。

 結論からいえば、「思い込み」と「ベンチマークの欠如」だ。思い込みというのは、森友学園では「総理の関与」で、今回の加計学園では「総理の意向」。それがあるはずだという前提で目の前の現象を追い続けるというのが、野党や多くのマスコミである。

 こういうときには、別の事象の「ベンチマーク」を探すといい。これは、プロの数学者がしばしば使う方法だ。受験数学など普通の数学問題でこの方法を使うことはないが、これまで誰も解いたことのない難問の場合、似たような構造を持った別の事象で問題を置き換える。そうすると、全く別の事象であっても簡単に解けることがある。

 社会問題の真相の解明でも、同時並行的に起こっている別の問題がしばしば役に立つ。森友学園問題では、小学校予定地だった旧国有地の東側の土地がこれに当たる。

 森友学園に先行して豊中市に売却されたが、そこで土中のゴミが発見されている。にもかかわらず、この事実を知りうる近畿財務局は、森友学園に売却する際、当初その事実を相手方に伝えていなかった。ここが問題の本質だ。

「加計学園」について断定的な報道をした朝日新聞
 加計学園問題のベンチマークは、国家戦略特区で千葉県成田市に医学部新設が認められた国際医療福祉大のケースだ。

医学部新設も38年ぶりだが、もし加計学園に「総理の意向」が働いていたのだとすると、両者のプロセスに差があるはずだ。実際は国際医療福祉大が先行し、加計学園が後になっている。加計学園が追い越したのであれば問題かもしれないが、そうしたこともない。筆者のみるところ、両者のプロセスに顕著な差はなく、「総理の意向」は外部からは認められない。

 前川喜平・前文科事務次官の“告発”について、筆者には、規制緩和の「推進派」に「反対派」が負けて吠えているようにもみえる。閣議決定にある「需要見通し」を文科省が出せない時点で内閣府の勝ちで、「総理の意向」を持ち出すまでもなくゲームオーバーだったのではないか。あまりに惨めな負けだったので、「総理の意向」を言い出した可能性すらある。

 ベンチマークからおかしなことが見つかれば、何かがある。それが「総理の意向」かどうかは、カネの流れを見るのが手っ取り早い。総理の周辺へカネが流れていれば、ベンチマークがなくても政権への大打撃になるかもしれない。

 安倍政権が長期政権になって、ますます野党・マスコミは焦っている。安倍政権は、マクロ政策の金融政策をうまくやって失業率を低位に保っていることが支持率が落ちない最大の要因だ。若者から支持されているのは雇用環境が良いからだろう。安倍政権を叩く野党やマスコミほど、この点が分かっていないが、こうした政策の基本中の基本を理解すべきである。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】人でも店でも政党でも相手の良いところを見るべき(゚д゚)!

森友学園はもとより、加計学園に関しても、もう底が割れているので、新しい話題などがでてきても、それに関してあれこれ分析したりして、このブログに掲載するのはやめます。何かよほどのことでもない限り、ブログではなくツイッターでつぶやく程度にします。

なせがといえば、ブログ冒頭の高橋洋一氏の語るように、加計学園問題を追求することは全く時間の無駄だからです。これからも、新しい事実などもでてくるかもしれませんが、それにしても、元々何もない虚構について、あれこれそれに沿った新事実がでてきたとしても、全く無意味だからです。

結局時間と労力の無駄です。民進党等の野党やマスコミは、この問題を追求し続ければ続けるほど、まるで玉ねぎの皮を剥いでいくように、最後には何もなくなることにいずれ気がつくでしょう。この問題を追求し続けることは彼らを疲弊させるだけです。

さて、ブログ冒頭の記事では、「ベンチマーク」という言葉がでてきます。これは、本当に有効な手段です。300年以上、誰も解けなかった「フェルマー最終定理」も、別のところで問題を解いて、その結果、フェルマー最終定理(下に掲載)が解けています。

経営学用語には、「ベンチマーキング」という用語があります。ベンチマーキングとは、企業が他社の優良事例(ベストプラクティス)を分析し、学び、取り入れる手法を指します。80年代初頭、米国ゼロックスが、倉庫業務はL・L・ビーン、請求回収業務はアメリカン・エキスプレスをベンチマークとし、その優れた点を学んだのが最初とされます。

ベンチマークのコツは、ベンチマークすべき機能や要素の範囲を明確に認識することと、適切な対象を選ぶことです。同じ業界に属する競合企業や、類似業界の企業に限定する必要はなく、むしろ異業種や海外企業に対象を広げヒントを求めると有効な場合が多いです。ベンチマークに際しては、対象企業の優れた点が、どのようなコンテキスト(背景)のもとに成り立っているかを十分認識する必要があります。

なお、ベンチマークとはもともとは技術用語で、土地の測量をする際の基準点を指します。

さて、私自身も過去に「ベンチマーキング」をしたことがあります。そうして、その一環で小売業でよく用いられる「ストアコンパリゾン」をしたことは何度もあります。

新規にお店を出店するに当たって、気になるのが自店とお客様を取り合うことになる競合店の存在です。ストアコンパリゾン(店舗比較)とは、「新規にお店を出店するために同業態のお店を調査したい」「既存店の売上が落ち込んでしまったので、競合店を調査したい」といったケースでよく行われる競合店比較調査のことです。

ストアコンパリゾンマーケットリサーチの中でも比較的簡単に行うことができ、かつ重要な情報を得ることができます。新規開業予定者にとっては、このストアコンパリゾンを通じて、他店の良い点、真似してはいけない悪い点を知ることもできます。

さて、ストアコンパリゾンの方法などの詳細については、以下のチャートを御覧ください。



さらに、詳しく知りたいかたは、他のソースに譲るものとして、肝心要のこれを実行する際の注意点を以下に掲載します。

実際にストアコンパリゾンの作業を幾人かの人やってもらうと、大きく2つに別れます。1つは、競合店の悪いところを徹底的に調べるグループです。そうして、これがたいていは多数派です。そうして、もう一つは競合店の良いところを徹底的に調べます。これは、少数場である事が多いです。

競合店の悪いところを調べる人たちは、「あそこが汚かった、店員の態度が悪かった、何が遅い、何が悪い」などと報告してきます。一方、競合店の良いところを調べる人たちはたとえば、「靴売り場に行ってみると、このくらいのグレードのものが多数陳列してあって、このグレードはお店に来店するお客様のグレードと合致しており、品揃えがマッチしていると思えた」などと、とにかくその店の良いところを探してきます。

これのどちらが優れているかとしえば、無論後者のほうです。競合店の悪い点をいくら列挙しても、あまり役にはたちません。これは、はっきり言って小学生にだってできることです。

それよりも、競合店良い点、たとえば繁盛している理由、長い間店を維持しつづけているその要因を見つけ出すことのほうが、はるかに効果的なのです。



先にもの掲載したように、「ベンチマーク」では、"対象企業の優れた点が、どのようなコンテキスト(背景)のもとに成り立っているかを十分認識する"べきなのです。

これがわかれば、競合店対策もかなり実行しやすくなります。この良い点を真似ることができるなら、真似るからそれよりも良くして、さらにこちら側がさらに別の良い点を打ち出すことができれば、競合店対策は確実にうまくいきます。

しかし、競合店の悪い点ばかりを探してそれを参考にしたとしても、実際には、まともな競合店対策などできません。そのうち、競合店も悪い点を直すことにでもなれば、確実に負けてしまいます。

人でも店でも、政党でも相手の良いところに目がいかず、相手のあら捜しばかりしていては、相手の真の強みに思い至ることはできません。

さて、このようにストアコンパリゾンの注意点からみても、民進党のやっていることは、民進党にとっても良くないことであることは明白です。

民進党のやっていることは、ストアコンパリゾンであれば、競合店の悪いところばかり探しているようで、小学生にでもできるようなことばかりです。

まともな大人なら、安倍自民党政権の良いところを見出すべきです。そのうちの1つとしてあげられるのが、高橋洋一氏も指摘している「安倍政権は、マクロ政策の金融政策をうまくやって失業率を低位に保っている」ということです。

これが本当にどのようなコンテキスト(背景)のもとに成り立っているのかわかれば、民進党はまともな対策を打つことができるはずです。

そうして、それはさほど難しいことではありません。そんなことは、雇用状況が良くなって最も大きな恩恵を受けている若者から真摯に意見を聴けばすぐにわかるはずです。

そうして、それを真に理解すれば、自民党の上をいくことだってできるはずです。金融政策以外にも学べることはあります。

さらに、民進党は、自民党だけではなく、他党からも学べるでしょうし、海外の政党からでも、場合によっては、優良企業からだって学べるはずです。それには、謙虚な姿勢が必要です。

新聞などのマスコミも、自民党がなぜ高い支持率を維持し続けているのか、その背景をももっと報道するようにすれば、野党にとっても良いことです。

そのようなこともせず、ひたすら、「森友学園問題」や「加計学園問題」のような虚構ばかり追求しているようでは、もう先はありません。一時的に、安倍政権の支持率が落ちることがあっても、すぐに元に戻ることでしょう。そうして、民進党はますます支持を失うだけです。

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2016年2月29日月曜日

【湯浅博の世界読解】「自滅する中国」という予言と漢民族独特の思い込み―【私の論評】すでに自滅した中国、その運命は変えようがない(゚д゚)!


孫子の兵法書
中国の習近平国家主席は昨年9月に訪米し、確かに「南シナ海を軍事拠点化しない」といった。果たして、この言葉を素直に信じた沿岸国の指導者はいただろうか。

その数カ月前、米国防総省の年次報告書「中国の軍事力」は、南シナ海の岩礁埋め立てが過去4カ月で面積が4倍に拡大していると書いた。中国の国防白書も、「軍事闘争の準備」を書き込んで、航行の自由を威嚇していた。

かつて、マカオの実業家がウクライナから空母ワリヤーグを購入したとき、中国要人が「空母に転用する考えはない」と語ったのと同様に信用できない。中国の退役軍人がマカオ企業の社長だったから、尻を隠して頭を隠さずというほど明白だった。

漢民族は自らを「偉大なる戦略家である」と思い込んでいる。孫子の兵法を生んだ民族の末裔(まつえい)であるとの自負が誤解の原因かもしれない。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)の上級顧問、E・ルトワク氏は、戦略家であるどころか「古いものをやたらとありがたがる懐古的な趣味にすぎない」と酷評する。実際には、中核部分の「兵は詭道(きどう)なり」というだましのテクニックだけが生きている。

その詐術も足元が乱れることがある。米メディアが南シナ海のパラセル諸島への地対空ミサイル配備を報じた直後、王毅外相が「ニュースの捏造(ねつぞう)はやめてもらいたい」といった。すると、中国国防省がただちに「島嶼(とうしょ)の防衛体制は昔からだ」と反対の見解を表明して外相発言を打ち消していた。

国家の外交が、ひそかに動く共産党の軍に振り回されている。軍優位の国にあっては、当然ながら国際協調などは二の次になる。

ミサイル配備が明らかになったウッディー島は、南シナ海に軍事基地のネットワークを広げる最初の飛び石になるだろう。早くも22日には、CSISが南シナ海スプラトリー諸島のクアテロン礁に中国が新たにレーダー施設を建設しているとの分析を明らかにした。

やがて、これら人工島にもミサイルを配備して戦闘機が飛来すれば、船舶だけでなく南シナ海全域の「飛行の自由」が侵される。

ルトワク氏はそんな中国を「巨大国家の自閉症」と呼び、他国に配慮することがないから友達ができないと指摘する。例外的に1国だけ、核開発に前のめりの北朝鮮がいるが、それも近年は離反気味である。

中国が脅威を振りまけば、沿岸国など東南アジア諸国連合(ASEAN)は、共同で対処する道を探る。オバマ米大統領が昨年はじめてASEAN大使を任命し、米・ASEAN関係を戦略的パートナーに格上げすることで、その受け皿にした。

中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を含む札束外交で歓心を買おうとしても、従属を強要する意図が見えれば中国への警戒心はむしろ高まろう。ASEAN首脳が米西海岸サニーランズでオバマ大統領との会談に応じたのも、対中ヘッジ(備え)になってくれると考えるからだ。

オバマ政権のアジア・リバランス(再均衡)に中身がなくとも、中国のごり押しで米国とASEANの緊密化が進み、中国の影響力をそぎ落とす。それがルトワク氏のいう『自滅する中国』という予言なのだろう。(東京特派員)

【私の論評】すでに自滅した中国、その運命は変えようがない(゚д゚)!

『自滅する中国』は、アメリカの戦略家E・ルトワク氏による、中国はなぜ対外政策面で今後行き詰まるのかを、大まかながら鋭く分析した異色の書です。

以下に、この書籍を読んで私自身が考えたことなどを掲載します。

著者は中国行き詰まる理由として、中国が巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っており、しかも古代からの漢民族の「戦略の知恵」を優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによって信頼を失っていると指摘しています。

この「内向き」な思考にはしばしば驚かされます。中国でかつて行われた、反日デモは官製でもであることが明るみに出ていますが、なぜ国家があのようなことをするかといえば、日本を敵にしたたて、共産党政府に人民の怨嗟の矛先が向かないようにするためです。

最近ほとんど見られなくなった中国の反日デモ。
デモするのも、しないのも、中国内部の事情だ。 
しかし、この反日デモも、発生してしばらくすると、必ずといって良いほど、反政府デモに変わってしまうため、最近では政府が逆に規制をして実施させないようにしています。尖閣や、南シナ海の中国の行動に関しても、対外的な示威行動という側面は無論ありますが、中国内の人民や政敵にむけての示威行動という部分もかなりあります。

さらにこのようなことに、追い打ちするように、著者は中国(漢民族)は実は戦略が下手だという意外な指摘を行なっています。その理由として著者は「過去千年間に漢民族が中国を支配できていたのはそのうちの3分の1である」と語っています。そしてこの戦略の下手さが、現在のように台頭した中国にも随所に見られるというのです。

後半では日本を始めとする東アジアの周辺国の、過去五年間ほどの対中的な動きについて大まかに理解できる構成になっており、著者が驚くほど「嫌韓派」であることがわかるのは意外で面白いところですが、私が最も気になったのは、おそらく誰もが読み過ごしてしまうであろう22章の、アメリカの三つの対中戦略についての話です。

ここには、キッシンジャーがなぜここまで親中派なのか、その理由があからさまに書いてあります。

文章はやや固くて多少読みにくいと感じましたが、それでも原著者の原文の読みにくさを考えれば、これは十分読みやすいほうの部類に入ると思います。

ヘンリー・キッシンジャー氏 

この書籍には、甘言、阿諛、ウソ、脅し、裏切り、毒盛り、暗殺、奇襲・・・という中国の文化と政治を書いてあります。われわれ日本人なら多かれ少なかれ知っている事柄ですが、欧米人にはなじみのない中国のことですから、啓蒙の効果はあるでしょう。しかし、多くの欧米人には「本当? ウソでしょう?」と、すぐには信じられないかもしれません。

中国の演劇とか小説のことにもふれてあれば、中国がどんな世界かわかりやすかったかもしれないです。アメリカ人のルトワック自身も、われわれが何となく知っている、こうした中国の政治文化や外交政策を理解するには、ずいぶんと時間と研究をしなくてはいけなかったのではと想像します。

しかし、たとえばこの戦後の日中関係、あるいは日中国交樹立以後の日中関係、だけをみても、中国の伝統がわかります。たとえば数日前の新聞報道によると、反日政策が強い反中感情を生み出したので、こんどは一般の日本人をターゲットに親中的態度や感情を培養醸成するというようなことがよく見られます。微笑み、もてなし、平手打ち、足げり、罵り、甘言、握手、唾ふきかけ・・・と、ころころ手をかえます。

こうなると、騙す中国より、騙される日本が悪いのかもしれません。

中国は他者を政治的に支配しておかないと安心できません。冊封(さくほう)関係がそれで。まず甘言と賄賂からはいり、次は経済的に依存させ洗脳。最終的に中国の支配下におく。こうなるともう中国は遠慮会釈もなく、冷淡冷酷残忍なとりあつかいをします(第4章)。

さらに、ルトワック氏はこの書籍で、中国の孫子の兵法をとりあげます。これは2500年以上もまえ春秋戦国時代時代の中国の状況から生まれたものですが、この時代の中国内は群雄割拠の時代です。

これはルネッサンス期のイタリアの国際政治とおなじく、文化的に等質でおなじ規模の国家からなりたっていた時代の産物であり、第一に相互に徹底した実利主義と日よみり主義で闘争と協調がなされます。第二に故意に挑発し交渉に持ち込もうとします。第三に虚偽や騙しや、それにもとづく奇襲や暗殺が正当化されあたりまえになっています。

いまの中国もこれをそのまま繰り返しています。

以下に漢民族のコラージュを掲載します。


上段から左から右:蒋中正嬴政
毛沢東楊広郭躍中国人民解放軍の兵士達、パトリック・ルイス・ウェイクワン・チャン
楊玉環曹操司馬懿孫武
劉備関羽張飛孫権

中国人はこの古代からの戦略に深い知恵があるものと信じて疑わず、これさえあれば欧米などをあやつれ、優位にたてると考えています。キッシンジャーはこの中国の考えに敬意をはらう人間です(第9章)。(ただし、この本には書いてはいませんが、キッシンジャーはかって中国を嫌悪軽蔑していました。)

なお、著者は語っていませんが、脅し、甘言、賄賂、裏切りなどは、中国人どうしの対人関係でも用いられる常套手段です。だから中国は信用度の低い社会で、ご存じのとおり日本では考えられないことが起きています。

2012年の習近辺の主席就任でも、激烈なパワー・ポリティックスがありました。あの薄煕来(はっきらい)の裁判も法の正義が実現されるのではなく、単なる政治裁判のショーでした。



こうした中国のあきれるばかりの現金でお粗末なやり方は、かえって信用低下をまねき、中国に対する公式非公式の包囲網を自然と形成させました。第13章以下ではオーストラリア、日本、ヴェトナムなどの中国への警戒が述べられています。

ただこうしたなかで、事大主義・朱子学ファンダメンタリストの韓国だけは中国にすり寄りました(第16章)。その立派な口先とはうらはらに、自分は安全保障のコストをはらわずに、ただ乗りするありさまが書かれています。北朝鮮の核問題をどれだけ真剣に考えているのでしょうか。

私は、韓国の政策からして、もう日本は韓国を朝鮮半島唯一の正統政府をみとめる理由や義務はなくなったと思います。北が核を放棄し、拉致問題を解決すれば、アメリカが強く反対しないかぎり、北ももう一つの正統政府と考えていいのではないでしょうか。

中国がその表面とは違い、実態は多くの脆弱性をもつことは、近年欧米でもさかんに指摘されるようになりました。最後に著者は、この本はいままでどおり中国が成長していうという前提で議論をすすめてきたと断り、この前提に立ちはだかる中国の現実問題にふれます。

著者は中国の民主化に望みをつないでいますが、社会が豊かになれば民主化するわけではありません。これが欧米人の考えの弱いところです。中国の中産階級は西欧の中産階級と違い、歴史上王朝権力を支持してきました。いまは共産党政府を支持しています。また民主化した中国が親日とか親欧米だとは限りません。やはり中華的でしょう。

この本の主題からすれば小さなことですが、著者には欧米人のあいも変らぬロシアについての無理解があります。ロシアはその歴史的経験から中国を大変警戒しています。ロシアが伝統的にタタールの軛を離れ、ヨーロッパに復帰したいというその深層に理解がおよばないようです。ロシアはヨーロッパでありたいのです。

ルトワック氏はウクライナ危機でシナとロシアの接近は氷の微笑だと分析した
この本のどこかで著者は、中国は日欧米から貿易で管理的に差別されれば、ロシアから資源を買いつけることによって、問題を解決できるとしています。しかし資源の爆食国家中国に資源さえあればいいというものではありません。

資源を魅力ある製品化する効率的技術とか、その製品の販路販売の市場といった点で、ロシアが日欧米に代れるわけではありません。

ただし、最近のルトワック氏は、ウクライナ危機でシナとロシアの接近は、氷の微小だと分析しており、両国が本格的な協力関係になることはあり得ないと分析しています。

中国は無差別公平な自由貿易により大いにうるおい、かつ巨大化してきました。逆に、著者もいっているように、中国にたいし管理貿易をおこなえば、中国は大いに損をして弱体化します。この案は、著者に限らず、多くの人にも論じられています。
◆エドワード・ルトワック
エドワード・ルトワック氏 
ワシントンにある大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級アドバイザー。戦略家であり、歴史家、経済学者、国防アドバイザーとしての顔も持つ。国防省の官僚や軍のアドバイザー、そしてホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーを務めた経歴もあり。

米国だけでなく、日本を含む世界各国の政府や高級士官学校でレクチャーやブリーフィングを行う。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれ。イタリアやイギリス(英軍)で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学で学位を取った後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得。

同年国防省長官府に任用される。主著の『戦略:戦争と平和のロジック』(未訳)を始め、著書は約20ヵ国語に翻訳されている。邦訳には『クーデター入門:その攻防の技術』、『ペンタゴン:知られざる巨大機構の実体』、『アメリカンドリームの終焉:世界経済戦争の新戦略』、そして『ターボ資本主義:市場経済の光と闇』がある。
さて、ルトワック氏の分析もそうですが、過去の中国、そうして最近の中国を見ていても、何も大きな変化はなく「内向き」で最初から自滅することが運命づけられているようです。

事実、中国は大帝国を築き、分裂、また大帝国を築き分裂という歴史を繰り返してきました。そうして、大帝国と大帝国との間には、何のつながりもなく分断されているという、愚策を何千年にもわたって繰り返してきました。

中国の歴史を振り返ると、時代が移り変わり、登場人物も変わり、一見すべてが変わって見えるのですが、非常に単純化すると以下のような図式になります。
1.天下統一して、現代中国に近い版図の大国家ができる。

2.官僚主義により行政が腐敗する。

3.民衆が官僚主義の現況である大国家に反発する。それにつけこんだ新興宗教が広がり、大国家全土で反乱が多数興る。

4.叛乱の多発に乗じて地方軍が軍閥化する。軍閥が肥大化して群雄割拠の時代となる。

5.国内の乱れにより周辺異民族の活発化する。大国家の権威が地に落ちる。長い戦乱の世が続き多くの人民が疲弊する。厭戦的な世論が形成される。

6.大国家の権威が地に落ちたのを機に英雄が現われ周辺異民族を巻き込み再びの天下統一をはかる。
多少の前後があったとしても、大体がこのパターンに従うのが中国の歴史です。

現中国もその例外ではないでしょう。いずれ、分裂して小国の集合体になるか、分裂しなかったにしても、図体だけが大きい、アジアの凡庸な、独裁国家になり、他国に対しての影響力を失い自滅することになります。

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