□
麻生財務相はわかっていない
不可解な「麻生発言」
「安倍晋三首相から経済対策の指示は出ておらず、現時点でその必要性も感じない」
11月1日の閣議後、会見でこう述べたのは麻生太郎財務相である。だがこの発言が密かに、周囲の混乱を生んでいる。
麻生財務大臣 |
というのも麻生財務相は、今年7月の参院選当時、10月の消費増税後に世界経済が大幅悪化した場合などを念頭に「必要な事態が起きれば、それなりの対応をしようと財政当局として考えている」と発言。
今秋に追加経済対策を実施する可能性を示唆していたからだ。
奇しくも同日付の日経新聞では、「安倍晋三首相は大規模災害や来年夏の五輪後の経済成長を底上げするため、経済対策の策定を近く指示する」と報じられた。
麻生氏の発言とは正反対の趣旨である。
おまけに、こんな数字も同日、厚労省から発表された。9月の有効求人倍率で、その数値は前月比0・02ポイント低下の1・57倍となった。これだけで景気後退は断言できないが、見逃していい数字でもない。ますます麻生氏の発言の真意を計りかねるところだ。
景気後退のサイン
景気停滞について、その兆候を示す調査がちらほらと出始めている。
NHKは、消費増税から1ヵ月が経過し、小売りや外食などの主な企業50社に調査を行った。その結果は、6割の企業が増税のあと、売り上げが前の年の同じ時期よりも減少したと回答したのだ。
また、日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査では、同じく消費増税から1ヵ月で、家計支出について「変わらない」と回答したのは76%、「減らした」と回答したのは21%だった。
ちなみに'14年の消費増税時は、「変わらない」は66%「減らした」は31%だった。今回の増税は8%から10%、前回は5%から8%と、増税割合は前回のほうが大きい。増税幅と消費減少の連動を示している数字といえよう。
さらに、総務省が発表した、10月の東京都区部の消費者物価指数(CPI)も見てほしい。前年同月比0・5%上昇で9月から横ばいだが、増税による押し上げを除くと0・34%で、2年3ヵ月ぶりの低い伸びだった。
また、実質消費支出でいうと、'14年は前年比マイナス2・5%であった。
ここから今回の消費増税の影響を算出してみると、およそ1・8%の消費支出マイナスになることが想定される。
先の読めない金庫番
あまりインパクトを感じない数字かもしれないが、消費以外の需要項目、民間住宅、民間設備投資、公的部門、外需がかなり頑張らないと実質GDP成長率がゼロ近辺に落ち込むレベルといえる。
米中貿易戦争にブレグジット、ホルムズ海峡の緊張や日韓関係悪化と、地政学リスクは7月の参院選時より明らかに増えている。となれば、外需だのみは通用しない。
大規模の景気対策を打たないと、来年の中盤から、つるべ落としの景気悪化になるかもしれない。にもかかわらず麻生財務相が「経済対策は不要」と言い切るのは不可解としか言いようがない。
今の臨時国会は、経産相と法相の二人が辞任する異常事態だ。その中で、補正予算を通さなければいけない。財務相ならその厳しさをわかっているはずだが、どうも先の読めない金庫番、という顔をしているのは愚かだ。
『週刊現代』2019年11月16日号より
【私の論評】インバウンド消費等元々微々たるもの、個人消費に勝るものはない(゚д゚)!
さて、国内景気に関しては、もう一つ不安要因もあります。11月20日に発表された10月分の訪日外客数は前年同月比-5.5%と、8月分と同様に昨年の実績を下回りました。
訪日客によるインバウンド消費金額は2018年に4.5兆円と、2012年(約1兆円)から3.5兆円増えました。個人消費全体が約300兆円ですから、その1%相当を超える消費需要が過去6年で現れました。
インバウンド消費の拡大に加えて、訪日客到来によるビジネス機会の広がりが促した設備投資需要などの波及効果を含めると、インバウンド消費は2013年以降の日本経済の成長を支える牽引役となっていました。その牽引役が、足元で勢いを失っているといえます。
実際に、足元ではインバウンド需要の停滞により、旅行、化粧品関連などの企業で業績悪化が目立っています。個別企業、そして観光需要に依存している地方などには、無視できない悪影響がみられています。
ただ、韓国からの訪日客の大幅な減少だけで日本経済全体が失速する可能性は低いと、私は思います。日韓関係修復の時期は予想できませんが、訪日客全体に占めるシェアが最も大きい中国だけではなく、アジア以外からの訪日客数も順調に伸びています。足元で訪日客は一時的に減っていますが、年間ベースで減少に転じる可能性は低いとみています。
日本人国内延べ旅行者数は、6億4,751万人(前年比1.0%増)となり、うち宿泊旅行が3億2,333万人(前年比0.7%減)、日帰り旅行が3億2,418万人(前年比2.8%増)です。
なぜか、インバウンドばかりに目がいきますが、やはり日本人の旅行者のほうが圧倒的に実数も、消費もはるかに大きいです。現状のインパウンドの4.5兆円と比較すると、20兆円規模です。
少子高齢化の影響もあってか、日本人の延べ旅行者数は、減る傾向にはありますが、消費額の推移をみると、だいたい20兆円台で推移しています。インバウンド消費(18年で4.5兆円)よりもはるかに大きいことがわかります。
インバウンド消費停滞の経済全体へ影響は限定的である一方、日本経済の成長をはっきり押し下げるのは消費増税による緊縮財政政策の悪影響です。当然日本人の国内旅行での消費も減ることになるでしょう。
インバウンド消費は、GDPの1%に過ぎないのですが、日本人による個人消費はGDPの60%を占めます。個人消費が冷え込めば、インバウンド消費がかなり増えたとしても、それは帳消しになります。
11月14日に判明した7~9月実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率+0.2%と、ほぼゼロ成長でした。個人消費は前期比+0.4%と消費増税前の駆け込み消費があったにも関わらず、低い伸びにとどまりました。
個人消費がやや伸びた一方で、在庫投資が成長押し下げ要因になっていましたが、これは駆け込み消費によって積み上がっていた在庫が大きく減少したことを示しています。このため、10~12月には個人消費が落ち込み、GDP成長率は大幅なマイナス成長になる可能性が高いとみられます。
なお、前述した訪日客の8月以降の急減は、GDP統計上では輸出にカウントされますが、輸出全体を前期比-0.3%ポイント押し下げ、7~9月の経済成長に関して若干足を引っ張った格好になります。
インバウンド消費という牽引役が勢いを失う中で、消費増税による悪影響によって2020年前半まで日本経済の停滞が鮮明になり、東京五輪の年となる2020年度のGDP成長率はほぼゼロまで減速する可能性が大きいです。ゼロどころか、マイナス成長になる可能性すらあります。
最近、一部の政治家から10兆円規模の補正予算を求める声があがっていますが、消費増税による緊縮財政を覆すような財政政策を、麻生財務大臣の発言からもうかがえるように、現在の安倍政権が行う可能性はかなり低いことでしょう。
このため、2020年にかけて日本国内には成長を押し上げる要因はほぼ見当たらず、停滞局面に入った日本経済の底入れは、米中を中心とした海外経済の減速に歯止めがかかるタイミングが決定的に影響するでしょう。10月以降勢い良く上昇してきた日本株の2020年にかけての先行きも、海外の経済・株式市場次第の状況が続くことになりそうです。
個人消費がやや伸びた一方で、在庫投資が成長押し下げ要因になっていましたが、これは駆け込み消費によって積み上がっていた在庫が大きく減少したことを示しています。このため、10~12月には個人消費が落ち込み、GDP成長率は大幅なマイナス成長になる可能性が高いとみられます。
なお、前述した訪日客の8月以降の急減は、GDP統計上では輸出にカウントされますが、輸出全体を前期比-0.3%ポイント押し下げ、7~9月の経済成長に関して若干足を引っ張った格好になります。
インバウンド消費という牽引役が勢いを失う中で、消費増税による悪影響によって2020年前半まで日本経済の停滞が鮮明になり、東京五輪の年となる2020年度のGDP成長率はほぼゼロまで減速する可能性が大きいです。ゼロどころか、マイナス成長になる可能性すらあります。
最近、一部の政治家から10兆円規模の補正予算を求める声があがっていますが、消費増税による緊縮財政を覆すような財政政策を、麻生財務大臣の発言からもうかがえるように、現在の安倍政権が行う可能性はかなり低いことでしょう。
このため、2020年にかけて日本国内には成長を押し上げる要因はほぼ見当たらず、停滞局面に入った日本経済の底入れは、米中を中心とした海外経済の減速に歯止めがかかるタイミングが決定的に影響するでしょう。10月以降勢い良く上昇してきた日本株の2020年にかけての先行きも、海外の経済・株式市場次第の状況が続くことになりそうです。
このような状況を麻生財務相はわかっていないようです。補正予算は真水10兆円で与党と財務省の間で攻防中です。この決着がつくのは、今の臨時国会か、年明けの通常国会冒頭かは今のところ不明です。
年明けになれば、通常国会の召集日が1月下旬から1月上中旬になります。現状の国債がマイナス金利なら真水10兆円なんてチマチマしたことをいわずに、国債を金利がゼロになるまで発行しつづければ、103兆円分は刷れるはずと高橋洋一氏が試算しています。
これは、以前の記事にも掲載したことなのですが、国債を擦りまくり100兆円基金を創設して、今後の有効需要確保するという手があり、実際それを実行すれば、たとえ増税したとしても、令和年間はデフレにならなくてもすむ可能性があるのですが、麻生財務大臣には、期待できそうもありません。
【関連記事】