米国の民間通信社、AP通信が、中国の国営通信社である新華社との業務提携を強化した。しかし米国では、この提携強化は中国政府のプロパガンダ工作に利用される恐れがあるとの懸念が出ている。
米国連邦議会上下両院の超党派14議員は、AP通信と新華社の業務提携に対する懸念を連名で表明し、AP通信に提携の内容を公表するよう求める書簡を送った。この異例の動きは、米国政府の新華社への警戒の強まりを反映している。最近、米国政府は新華社を中国共産党政権の対外宣伝工作機関であると断じ、米国での活動内容を司法省に届け出させる新たな措置をとった。
米国政府は「新華社は報道機関ではない」
2018年12月19日、米国議会の下院のマイク・ギャラガー(共和党)、ブラッド・シャーマン(民主党)、上院のマルコ・ルビオ(共和党)、マーク・ウォーナー(民主党)ら超党派の合計14人の議員は、AP通信のゲイリー・プルイット社長あてに書簡を送り、同社が11月に発表した新華社との業務提携・協力の拡大合意の内容を明らかにすることを求めた。
下院のマイク・ギャラガー議員(共和党)
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ギャラガー議員らの発表によると、同書簡の趣旨は以下の通りだという。
・AP通信は独立した民間のジャーナリズム機関である。だが、それとはまったく対照的に、新華社の使命の核心は、中国内外で中国共産党の正当性と行動への理解を広めることにある。
・新華社は米国内でも中国共産党のプロパガンダ機関として機能している。さらには、米側の情報を集める諜報機関としての機能も果たしている。その任務には、外国の報道機関への宣伝の浸透と影響力の行使も含まれる。
・米国政府は新華社のそうした機能や任務を重く見て、最近、米国における「外国代理人」に認定した。その結果、新華社は報道機関ではなく中国政府の政治活動団体とみなされるようになった。
・AP通信は、中国政府機関である新華社との提携を強化することによって、中国側からの宣伝が浸透し、影響を受ける可能性が高くなる。この可能性は米国の国家安全保障にも関わるため、AP通信は新華社との提携内容を公表すべきである。
以上の趣旨の書簡の意義について、共和党のギャラガー議員は「中国政府の政治宣伝機関である新華社は、事実に基づく報道をする他の諸国の一般ニュースメディアとは根本から異なる。新華社と米国の報道機関との提携は、米国の国益や、共産党の弾圧に苦しむ中国国民の利益に反するおそれがあるため、その内容の透明性が欠かせない」と述べた。
民主党リベラル派として知られるシャーマン議員は、「新華社が米国内の支局や通信員を使って、米側の秘密情報を集める諜報活動に関与してきたことは立証されている。新華社がAP通信からどれほどの協力を得るかについて公表は必要だ」と語った。
中国政府の言論統制は既知の事実
新華社側の見解としては、AP通信との提携強化を発表した11月に、蔡名照社長が「新メディア、AI(人口知能)、経済情報などの領域に新たに重点を置いて、提携を拡大していく」と語っている。
AP通信側は「今回の合意は、長年の提携内容からとくに変わったことはなく、APの報道の独立性が侵されることはない」と述べており、提携強化の内容を公表するかどうかは言明していない。
だが、米国では民間からも懸念の声があがっている。人権擁護団体の「全米民主主義財団」のクリス・ウォーカー代表は、「中国政府が言論の自由を制限していることは周知の事実であり、その中国政府のプロパガンダ組織と提携する民主主義国のメディアは自己検閲や中国の政治宣伝の拡散に陥る危険を冒すことになる」と述べた。
今回の米国議会の動きは、最近の米国の中国に対する新たな対決姿勢の一環とも言える。特に、トランプ政権に反対する民主党議員たちまでが共和党議員と歩調を完全に合わせて、中国の国営通信社への不信や警戒を示している点が注目に値する。なお日本では、共同通信社が新華社通信と長年、提携・協力の関係を保っている。
【私の論評】もはや中国を利することは米国から制裁されかねない危険行為であると認識せよ(゚д゚)!
冒頭の記事では、「なお日本では、共同通信社が新華社通信と長年、提携・協力の関係を保っている」と締めくくっていますが、日本のマスコミと新華社の関係はどうなのでしょうか。
中国国営新華社通信は昨年1月31日、都内で説明会を開き、日本向けに日本語でのニュース配信サービスを2月1日から始めると発表しました。これまで同社は中国語以外では、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語、アラビア語、ポルトガル語でニュースを配信してきたが、日本語が7言語目になるという。
新華社によると、中国関連ニュースを中心に1日約80本の記事や、写真や映像も配信しています。中国の経済などに関するニュースを中心とし、それ以外に国際関係や日本に関する報道についても配信しています。
日本での配信サービスでは、共同通信グループの共同通信デジタルと共同通信イメージズが販売面で協力しています。
新華社の蔡名照社長は説明会で「日本でのサービスが中日関係の発展に寄与し、両国人民の友好促進の新たな力になることを願っている」と述べました。
説明会には福田康夫元首相や中国の程永華駐日大使らも出席。福田氏は「日中平和友好条約締結40周年など記念すべき年にこの事業が開始されるのは大変意味のあることだ」と語りました。
それにしても、米国とは大きな違いです。本当に日本は呑気といえば、呑気です。
日本のメディアの中国に対する協力姿勢は以前から顕著です。それは、2015年のAIIBに「反対」世論と乖離するメディアの論調をみても明らかです。
当時、中国が設立を主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加の是非をめぐって、多くのメディアの論調と世論とが、大きな違いをみせていました。
軍事・安全保障面につづき、金融面でも既存の世界秩序に挑戦する中国の姿勢の表れとみられているAIIB構想。北京で設立覚書きが調印された2014年11月の時点では、僅か21カ国にとどまっていたAIIBの参加表明国は、2015年3月11日にイギリスが参加を表明すると、雪崩を打ったように増え、4月16日の中国の発表によると、57カ国にのぼりました。
日本政府に「バスに乗り遅れるな」といった参加を促す掛け声が国内財界などで急速に高まったのも、この頃でした。中国も、創設メンバーとなるための申請期限(3月末)後も、日本や米国の参加を歓迎する意向を繰り返し示してきまし。
しかし日本政府は、AIIBについて、債務の持続性や(融資対象とする開発プロジェクトが)環境・社会に与える影響への配慮、加盟国を代表する理事会のガバナンス(統治)、日本が歴代総裁を出すアジア開発銀行(ADB)とのすみ分け--などが不透明で懸念されるとして、米国とともに参加に慎重な姿勢で一貫してきた。
一方、国内の多くのメディアは、政府の慎重姿勢の転換を求めていました。日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞が日本政府の姿勢を批判、疑問視する社説や論評記事を掲載していました。
NHKも、「AIIB創設からみえてきたもの」と題した5月8日(午前0時)放送の「時論公論」で、加藤青延解説委員が「世界銀行やアジア開発銀行ADBは、最近、AIIBとは競うのではなく協力しあってゆく方針を示しました。もし日本が加わることで、その中身に深くかかわることができるのであれば、日本はアジアにおいて、ADBとAIIBという二枚のカードを手にすることになります」と参加の“利点”を説いていました。
民放でも、「報道ステーション」(テレビ朝日系)などが、政府の姿勢に批判的なコメンテーターの発言を伝えていました。
ところが、です。読売新聞社が5月8~10日に行った全国世論調査では、≪AIIBに日本政府が米国と共に参加を見送っていること≫を「適切だ」とする肯定的評価がなんと73%に上ったのです。≪そうは思わない≫はわずか12%に過ぎませんでした(5月11日付朝刊)。
3月28~29日に産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が実施した合同世論調査では、AIIB参加への反対は53.5%、賛成は20,1%でした。調査の実施主体は異なりますが、メディアの多くが「参加すべき」と説いたにもかかわらず、AIIBへの参加に反対する国民は明らかに増えていたのです。
日本政府がAIIBに示してきた懸念は、すでに現実化しつつありました。2015年5月22日までシンガポールで行われた創設メンバー国による第5回首席交渉官会合では、代表である理事が、AIIBの本部が置かれる北京に常駐しないことで一致しました。
理事が本部に常駐する世界銀行やADBの体制と比べ、運用上の公平性の担保が難しいことは明らかでした。同会合では中国が重要案件に拒否権を持つことでも合意しました。これでは、中国の専制は止められないと見るのが当然でした。
「平和的台頭」をうたいながら急速な軍備拡張を続け、日本をふくむ周辺国と軍事的摩擦を相次いで引き起こしていた中国の横暴な覇権主義、歴史問題での反日姿勢に対して、国民の不信感は極度に高まっていました。
たとえ金融の分野であっても、中国の覇権主義的な動きには警戒を要することを見抜いている国民にとって、AIIBを評価する国内メディアは、もはや「中国の代弁者」に過ぎない存在に思えていたのではないでしょうか。先に挙げたメディアのいずれもが、過去に「親中」的な報道が目立っただけになおさらでした。
安倍晋三首相は2015年5月21日、東京都内で講演し、公的資金によるアジア向けのインフラ投資を今後5年間で約3割増やすと表明しました。AIIBに対抗する狙いは明らかでした。引っ張らないよう願いたい。
この当時は、米国の大統領はまだオバマでした。そのオバマですら、拒否したAIIBに対して、世論を無視してまでマスコミは日本も参入すべきと報道したのです。
これは、日本のマスコミは中国を利するためにあると思われても仕方ないです。特に、米国からそう思われしまうと、とんでもないことになりかねません。
これについては、似たような懸念を日本の先端産業に抱いていることを以前このブログで表明したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米国の技術を盗用して開発された中国のステルス戦闘機J-20
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この記事では、中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置を掲載しました。このように米国が対策に苦慮している一方。日本には、「スパイ防止法」もなく「スパイ天国」の様相を呈しています。
そのことに関する懸念をこのブロクでは表明しました。以下のその部分のみを引用します。
世界一ともいえる「産業スパイ天国」を終わらせることが、中国の「技術略奪」の時代を終わらせることに直結します。と同時に、「世界秩序の破壊者」トランプ氏が目指す「米中冷戦」の勝利を一気に引き寄せることになるでしょう。
これをいつまでもグズグズ実行しなければ、日本の先端的な企業は中国への技術移転を防ぐために、米国から制裁をくらうことにもなりかねません。そのことを理解している経営者や研究機関はまだ少ないのではないかと危惧しています。
日本の先端産業は、中国のスパイに対してあまりも無防備です。米国が必死で、米国内で気密漏洩をしても、どこからか情報が漏れていることに気づき、よく調査してみたら、それは「日本のスパイ天国」から漏れていたことが明らかになった場合など、米国は日本の先端産業に何らかの制裁を課してくる可能性は十分にあります。
さらに、米国の技術が「日本のスパイ天国」から漏れなくなったにしても、日本が中国に対して、日本の先端産業を漏洩して、その結果として中国は米国から技術の窃盗をしなくても、日本からの窃盗で十分やっていけるような状況になったとすれば、この場合も日本の先端産業は米国から制裁される可能性は十分あります。
最近の米国は中国に対する攻勢を、強めています。こんな最中に中国に利することが、正しいことなどという考えはすでに時代遅れであり、そのような考えを捨てることができなければ、自滅するおそれもあるということです。
これには、何も先端産業に限ったことではないです。マスコミも同じことです。中国を利するような報道ばかりしていて、それが米国にも伝わって、中国のプロパガンダが米国に悪影響を及ぼしていると考えれば、米国は日本のマスコミ業界にさえ制裁を加えかねないです。
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