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2019年1月2日水曜日

米国議会で広まる中国国営メディア規制の動き―【私の論評】もはや中国を利することは米国から制裁されかねない危険行為であると認識せよ(゚д゚)!


超党派の14議員が米AP通信と新華社の業務提携拡大に懸念を表明
米国ニューヨークにあるAP通信本社ビル

(古森 義久:ジャーナリスト、産経新聞ワシントン駐在客員特派員)


 米国の民間通信社、AP通信が、中国の国営通信社である新華社との業務提携を強化した。しかし米国では、この提携強化は中国政府のプロパガンダ工作に利用される恐れがあるとの懸念が出ている。

 米国連邦議会上下両院の超党派14議員は、AP通信と新華社の業務提携に対する懸念を連名で表明し、AP通信に提携の内容を公表するよう求める書簡を送った。この異例の動きは、米国政府の新華社への警戒の強まりを反映している。最近、米国政府は新華社を中国共産党政権の対外宣伝工作機関であると断じ、米国での活動内容を司法省に届け出させる新たな措置をとった。

米国政府は「新華社は報道機関ではない」

 2018年12月19日、米国議会の下院のマイク・ギャラガー(共和党)、ブラッド・シャーマン(民主党)、上院のマルコ・ルビオ(共和党)、マーク・ウォーナー(民主党)ら超党派の合計14人の議員は、AP通信のゲイリー・プルイット社長あてに書簡を送り、同社が11月に発表した新華社との業務提携・協力の拡大合意の内容を明らかにすることを求めた。

下院のマイク・ギャラガー議員(共和党)

 ギャラガー議員らの発表によると、同書簡の趣旨は以下の通りだという。

・AP通信は独立した民間のジャーナリズム機関である。だが、それとはまったく対照的に、新華社の使命の核心は、中国内外で中国共産党の正当性と行動への理解を広めることにある。

・新華社は米国内でも中国共産党のプロパガンダ機関として機能している。さらには、米側の情報を集める諜報機関としての機能も果たしている。その任務には、外国の報道機関への宣伝の浸透と影響力の行使も含まれる。

・米国政府は新華社のそうした機能や任務を重く見て、最近、米国における「外国代理人」に認定した。その結果、新華社は報道機関ではなく中国政府の政治活動団体とみなされるようになった。

・AP通信は、中国政府機関である新華社との提携を強化することによって、中国側からの宣伝が浸透し、影響を受ける可能性が高くなる。この可能性は米国の国家安全保障にも関わるため、AP通信は新華社との提携内容を公表すべきである。

 以上の趣旨の書簡の意義について、共和党のギャラガー議員は「中国政府の政治宣伝機関である新華社は、事実に基づく報道をする他の諸国の一般ニュースメディアとは根本から異なる。新華社と米国の報道機関との提携は、米国の国益や、共産党の弾圧に苦しむ中国国民の利益に反するおそれがあるため、その内容の透明性が欠かせない」と述べた。

 民主党リベラル派として知られるシャーマン議員は、「新華社が米国内の支局や通信員を使って、米側の秘密情報を集める諜報活動に関与してきたことは立証されている。新華社がAP通信からどれほどの協力を得るかについて公表は必要だ」と語った。

中国政府の言論統制は既知の事実

 新華社側の見解としては、AP通信との提携強化を発表した11月に、蔡名照社長が「新メディア、AI(人口知能)、経済情報などの領域に新たに重点を置いて、提携を拡大していく」と語っている。

 AP通信側は「今回の合意は、長年の提携内容からとくに変わったことはなく、APの報道の独立性が侵されることはない」と述べており、提携強化の内容を公表するかどうかは言明していない。

 だが、米国では民間からも懸念の声があがっている。人権擁護団体の「全米民主主義財団」のクリス・ウォーカー代表は、「中国政府が言論の自由を制限していることは周知の事実であり、その中国政府のプロパガンダ組織と提携する民主主義国のメディアは自己検閲や中国の政治宣伝の拡散に陥る危険を冒すことになる」と述べた。

 今回の米国議会の動きは、最近の米国の中国に対する新たな対決姿勢の一環とも言える。特に、トランプ政権に反対する民主党議員たちまでが共和党議員と歩調を完全に合わせて、中国の国営通信社への不信や警戒を示している点が注目に値する。なお日本では、共同通信社が新華社通信と長年、提携・協力の関係を保っている。

【私の論評】もはや中国を利することは米国から制裁されかねない危険行為であると認識せよ(゚д゚)!

冒頭の記事では、「なお日本では、共同通信社が新華社通信と長年、提携・協力の関係を保っている」と締めくくっていますが、日本のマスコミと新華社の関係はどうなのでしょうか。

中国国営新華社通信は昨年1月31日、都内で説明会を開き、日本向けに日本語でのニュース配信サービスを2月1日から始めると発表しました。これまで同社は中国語以外では、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語、アラビア語、ポルトガル語でニュースを配信してきたが、日本語が7言語目になるという。

新華社によると、中国関連ニュースを中心に1日約80本の記事や、写真や映像も配信しています。中国の経済などに関するニュースを中心とし、それ以外に国際関係や日本に関する報道についても配信しています。

日本での配信サービスでは、共同通信グループの共同通信デジタルと共同通信イメージズが販売面で協力しています。

新華社の蔡名照社長は説明会で「日本でのサービスが中日関係の発展に寄与し、両国人民の友好促進の新たな力になることを願っている」と述べました。

説明会には福田康夫元首相や中国の程永華駐日大使らも出席。福田氏は「日中平和友好条約締結40周年など記念すべき年にこの事業が開始されるのは大変意味のあることだ」と語りました。



それにしても、米国とは大きな違いです。本当に日本は呑気といえば、呑気です。

日本のメディアの中国に対する協力姿勢は以前から顕著です。それは、2015年のAIIBに「反対」世論と乖離するメディアの論調をみても明らかです。

当時、中国が設立を主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加の是非をめぐって、多くのメディアの論調と世論とが、大きな違いをみせていました。

軍事・安全保障面につづき、金融面でも既存の世界秩序に挑戦する中国の姿勢の表れとみられているAIIB構想。北京で設立覚書きが調印された2014年11月の時点では、僅か21カ国にとどまっていたAIIBの参加表明国は、2015年3月11日にイギリスが参加を表明すると、雪崩を打ったように増え、4月16日の中国の発表によると、57カ国にのぼりました。

日本政府に「バスに乗り遅れるな」といった参加を促す掛け声が国内財界などで急速に高まったのも、この頃でした。中国も、創設メンバーとなるための申請期限(3月末)後も、日本や米国の参加を歓迎する意向を繰り返し示してきまし。

しかし日本政府は、AIIBについて、債務の持続性や(融資対象とする開発プロジェクトが)環境・社会に与える影響への配慮、加盟国を代表する理事会のガバナンス(統治)、日本が歴代総裁を出すアジア開発銀行(ADB)とのすみ分け--などが不透明で懸念されるとして、米国とともに参加に慎重な姿勢で一貫してきた。

一方、国内の多くのメディアは、政府の慎重姿勢の転換を求めていました。日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞が日本政府の姿勢を批判、疑問視する社説や論評記事を掲載していました。

NHKも、「AIIB創設からみえてきたもの」と題した5月8日(午前0時)放送の「時論公論」で、加藤青延解説委員が「世界銀行やアジア開発銀行ADBは、最近、AIIBとは競うのではなく協力しあってゆく方針を示しました。もし日本が加わることで、その中身に深くかかわることができるのであれば、日本はアジアにおいて、ADBとAIIBという二枚のカードを手にすることになります」と参加の“利点”を説いていました。

民放でも、「報道ステーション」(テレビ朝日系)などが、政府の姿勢に批判的なコメンテーターの発言を伝えていました。

ところが、です。読売新聞社が5月8~10日に行った全国世論調査では、≪AIIBに日本政府が米国と共に参加を見送っていること≫を「適切だ」とする肯定的評価がなんと73%に上ったのです。≪そうは思わない≫はわずか12%に過ぎませんでした(5月11日付朝刊)。

3月28~29日に産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が実施した合同世論調査では、AIIB参加への反対は53.5%、賛成は20,1%でした。調査の実施主体は異なりますが、メディアの多くが「参加すべき」と説いたにもかかわらず、AIIBへの参加に反対する国民は明らかに増えていたのです。

日本政府がAIIBに示してきた懸念は、すでに現実化しつつありました。2015年5月22日までシンガポールで行われた創設メンバー国による第5回首席交渉官会合では、代表である理事が、AIIBの本部が置かれる北京に常駐しないことで一致しました。

理事が本部に常駐する世界銀行やADBの体制と比べ、運用上の公平性の担保が難しいことは明らかでした。同会合では中国が重要案件に拒否権を持つことでも合意しました。これでは、中国の専制は止められないと見るのが当然でした。

「平和的台頭」をうたいながら急速な軍備拡張を続け、日本をふくむ周辺国と軍事的摩擦を相次いで引き起こしていた中国の横暴な覇権主義、歴史問題での反日姿勢に対して、国民の不信感は極度に高まっていました。

たとえ金融の分野であっても、中国の覇権主義的な動きには警戒を要することを見抜いている国民にとって、AIIBを評価する国内メディアは、もはや「中国の代弁者」に過ぎない存在に思えていたのではないでしょうか。先に挙げたメディアのいずれもが、過去に「親中」的な報道が目立っただけになおさらでした。

安倍晋三首相は2015年5月21日、東京都内で講演し、公的資金によるアジア向けのインフラ投資を今後5年間で約3割増やすと表明しました。AIIBに対抗する狙いは明らかでした。引っ張らないよう願いたい。

この当時は、米国の大統領はまだオバマでした。そのオバマですら、拒否したAIIBに対して、世論を無視してまでマスコミは日本も参入すべきと報道したのです。

これは、日本のマスコミは中国を利するためにあると思われても仕方ないです。特に、米国からそう思われしまうと、とんでもないことになりかねません。

これについては、似たような懸念を日本の先端産業に抱いていることを以前このブログで表明したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米国の技術を盗用して開発された中国のステルス戦闘機J-20

この記事では、中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置を掲載しました。このように米国が対策に苦慮している一方。日本には、「スパイ防止法」もなく「スパイ天国」の様相を呈しています。

そのことに関する懸念をこのブロクでは表明しました。以下のその部分のみを引用します。
世界一ともいえる「産業スパイ天国」を終わらせることが、中国の「技術略奪」の時代を終わらせることに直結します。と同時に、「世界秩序の破壊者」トランプ氏が目指す「米中冷戦」の勝利を一気に引き寄せることになるでしょう。
これをいつまでもグズグズ実行しなければ、日本の先端的な企業は中国への技術移転を防ぐために、米国から制裁をくらうことにもなりかねません。そのことを理解している経営者や研究機関はまだ少ないのではないかと危惧しています。
日本の先端産業は、中国のスパイに対してあまりも無防備です。米国が必死で、米国内で気密漏洩をしても、どこからか情報が漏れていることに気づき、よく調査してみたら、それは「日本のスパイ天国」から漏れていたことが明らかになった場合など、米国は日本の先端産業に何らかの制裁を課してくる可能性は十分にあります。

さらに、米国の技術が「日本のスパイ天国」から漏れなくなったにしても、日本が中国に対して、日本の先端産業を漏洩して、その結果として中国は米国から技術の窃盗をしなくても、日本からの窃盗で十分やっていけるような状況になったとすれば、この場合も日本の先端産業は米国から制裁される可能性は十分あります。

最近の米国は中国に対する攻勢を、強めています。こんな最中に中国に利することが、正しいことなどという考えはすでに時代遅れであり、そのような考えを捨てることができなければ、自滅するおそれもあるということです。

これには、何も先端産業に限ったことではないです。マスコミも同じことです。中国を利するような報道ばかりしていて、それが米国にも伝わって、中国のプロパガンダが米国に悪影響を及ぼしていると考えれば、米国は日本のマスコミ業界にさえ制裁を加えかねないです。

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2018年10月7日日曜日

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玉城氏は、普天間飛行場の危険を放置するのか?
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

沖縄県知事選は、元自由党衆院議員の玉城(たまき)デニー氏が、約8万票の大差で圧勝した。玉城氏は、名護市辺野古にある米軍キャンプ・シュワブを拡張して、米軍普天間飛行場(宜野湾市)を移設する計画について「断固阻止する」と公約している。

 以前も指摘したが、「国防は国の専権事項」というのが世界の常識だ。自治体の首長や住民が国防問題を左右できる日本の現状は、法制度に不備があるという意味だ。国会は怠慢過ぎないか。

 そもそも、市街地にある普天間飛行場は危険だからと、沖縄県民が移設を望んだのだ。日米両政府はその希望を聞き入れて移設を推進してきた。

 今回の選挙結果は「沖縄県民が普天間移設の希望を撤回し、固定化を望んだ」と解釈することも可能だが、本当にそれで良いのだろうか。

 実は、辺野古よりも普天間の方が、米軍にとって使い勝手がいい。例えば、標高75メートルの高台にある普天間は、辺野古と比べて津波や高波の影響を受けにくい。さらに、V字型に配置される辺野古の2本の滑走路は、いずれも1200メートルと短いが、普天間はボーイング747も離着陸可能な2700メートルである。

 普天間飛行場は市街地の真ん中にあり、「世界一危険」だと言われてきた。私も長年そう信じていたが、詳しく調べてみると、1945年の設置から現在まで、普天間に関わる航空機事故で死傷した日本人は1人もいない。

ちなみに、2015年に東京都調布飛行場近くで発生した小型機墜落事故では、搭乗者5人のうち2人死亡、3人が負傷し、地上でも1人死亡、2人が負傷した。普天間が世界一危険であれば、調布は宇宙一危険なのか?

2015年に東京都調布飛行場近くで発生した小型機墜落事故

 04年、沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落したときも、乗員3人が負傷したが、日本人の死傷者は1人も出ていない。

 もちろん過去に、普天間飛行場を拠点とする米軍機の事故が何度も発生し、多数の米兵が死亡・行方不明になったことは事実だ。彼らは日米安保条約に基づく任務中の事故により、日米両国のために命を落とした英雄である。基地反対派だけでなく、日本はこの事実を軽視していないか。

 先週のコラムで私は「沖縄県知事選の本質は、米中代理戦争だ」と指摘した。結果的に、米国が敗北し、中華人民共和国(PRC)が勝利した。

 共産主義国として国民に参政権を認めない国が、民主主義国の選挙制度を利用して勝負に勝つとは皮肉な話だ。今後、PRCの「間接侵略」が一段と進行するだろう。もし、「琉球独立」が実現したら、協力した沖縄県民は、参政権に加えて人権まで失う「究極の皮肉」が実現する。 

 ■ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士、タレント。1952年、米アイダホ州生まれ。71年に初来日。著書に『儒教に支配された中国人・韓国人の悲劇』(講談社+α新書)、『トランプ大統領が嗤う日本人の傾向と対策』(産経新聞出版)、『日本覚醒』(宝島社)など。

【私の論評】日本でも、米国議会の「米中経済安保調査委員会」を超党派で設立して、中共の化けの皮をはがせ(゚д゚)!

ケント・ギルバート氏は、PRCの「間接侵略」が一段と進行するだろうと警告していますが、これについては米国ですでに警告を発していました。それも、オバマ政権末期の時点で発していました。

沖縄では中国が米軍基地反対運動をあおり、米軍へのスパイ活動を展開している。このようなショッキングな警告が米国議会の政策諮問の有力機関からすでに二年前に、発せられていました。中国は長期戦略として日米同盟を骨抜きにすることを図り、その具体策として沖縄での米軍基地反対運動へのひそかな支援や米軍の活動への秘密裡の軍事諜報工作を展開しているのだそうです。

沖縄基地反対運動

米国側の政府や議会の関連機関が日米同盟の光や影、虚や実について論じ、内外への注意を喚起するという作業は長年、続いてきました。ところが沖縄での米軍基地問題に関して中国の干渉を正面から指摘したという実例はきわめて珍しいです。米国側としてはそれだけ沖縄での中国の動きを危険視するにいたったということでしょう。日本側としては日米同盟の堅固な保持を望む限り、その警告を真剣に受けとめざるを得ないでしょう

日米同盟はこのところ全体として一段と堅固になりながらも、なお沖縄での在日米軍基地への反対運動は複雑な振動を広げています。まるで強壮な人間のノドに刺さったトゲのように、全身の機能こそ低下させないまでも、中枢部につながる神経を悩ませ、痛みをさらに拡大させかねない危険な兆候をみせているといえるでしょう。

沖縄の米軍基地の基盤が揺らげば揺らぐほど、日米同盟の平時有事の効用が減ることになります。日本への侵略や攻撃を未然に抑えるための抑止力が減ることになるからです。また朝鮮半島や台湾海峡という東アジアの不安定地域への米軍の出動能力を落とし、中国に対する力の均衡を崩すことにもつながるわけです。

沖縄あるいは日本全体を拠点とする米国の軍事力が弱くなることを最も歓迎するのは誰でしょうか。いまや東アジア、西太平洋の全域で米国の軍事的な存在を後退させようとする中国が米軍弱化の最大の受益者であることは明白です。

中国がそのためにソフト、ハード両面での多様な措置をとっていることは歴然ですが、二年前までは沖縄での反米軍基地運動への中国の関与は提起されることはまずありませんでした。しかも中国の対沖縄工作の最終目的は日米同盟分断だというのです。

「沖縄と中国」というこの重大な結びつきを新たに提起したのは米国議会に設置された「米中経済安保調査委員会」という機関です。この委員会は2000年に新たな法律により、「米中両国間の経済と貿易の関係が米国の国家安全保障にどう影響するかを調査して、議会と政府に政策上の勧告をする」ことを目的に常設されました。議会の上下両院の有力議員たちが選ぶ12人の委員(コミッショナー)が主体となり、米中関係を背景に中国側の軍事や外交の実態を調査するわけです。

各委員は中国の軍事、経済、外交などに詳しい専門家のほか、諜報活動や安保政策の研究者、実務家が主になります。最近まで政府や軍の枢要部に就いていた前官僚や前軍人、さらには上下両院で長年、活躍してきた前議員たちも委員を務めます。そしてそのときそのときの実際の中国の動き、米中関係の変動に合わせて、テーマをしぼり、さらなる専門家を証人として招いて、公聴会を開くのです。

同委員会は毎年、その活動成果をまとめて、年次報告書を発表する。その内容は詳細かつ膨大となります。最終的には米国の政府と議会に対中政策に関する提言をするわけです。同委員会の事務局も中国や軍事、諜報に関する知識の抱負なスタッフで固められ、特定テーマについての報告書を委員たちとの共同作業で定期的に発表しています。

米国の中国研究はこのように国政レベルできわめて広範かつ具体的なアプローチが多いです。中国の多様な動向のなかでも米国側が最も真剣な注意を向けるのはやはり軍事動向だといえます。この米中経済安保委員会はまさに中国の軍事動向と経済動向の関連を継続的に調べているのです。



米国議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が沖縄と中国のからみに関しての調査結果をこのほど明らかにしたのは 「アジア太平洋での米軍の前方展開を抑える中国の試み」 と題する報告書の中でした。

合計16ページのこの報告書が警告する沖縄での中国の動きを米国の戦略全体の中で位置づけるために、まずこの報告書の主眼についての記述を紹介します。
中国は東アジア、西太平洋地域でもし軍事衝突が起きた場合の中国人民解放軍の米軍に対する脆弱性を減らすために、その種の衝突への米国側の軍事対応を抑える、あるいは遅らせるための『接近阻止』または『領域否定』の能力を構築することを継続している。 中国側は同時に軍事衝突が起きる前の非軍事的選択肢を含むその他の措置も推進している。それらの措置とは米国側の戦略的な地位、行動の自由、作戦の余地を侵食することを意図する試みである。
要するに中国はアジアでの米軍の軍事能力を削ぐことに最大の努力を傾けているというのです。その米軍能力の削減のための工作とは必ずしも軍事手段には限らないです。一連の非軍事的な措置もあるというのです。同報告書がその非軍事的措置としてあげるのが以下の三種類の動きでした。
・関与
・威圧
・同盟分断
以上、三種の中国側の戦術はみなアジアでの米軍の弱体化、同時に中国軍の強化を狙いとしています。その戦術の標的は米国と同時に日本などその同盟諸国により鋭く照準が絞られていまなす。本稿の主題である沖縄に対する中国の工作はその中の「同盟分断」の戦術に含まれていました。

では中国はなぜアジアでの米軍の能力の弱化にこれほど必死になるのでしょうか。その点については同報告書は以下の骨子の理由をあげていました。
中国人民解放軍幹部が軍科学院の刊行物などに発表した論文類は中国がアジア、西太平洋で 『歴史上の正当な傑出した立場』 に戻るためには、米国がアジアの同盟諸国とともに、有事に中国の軍事能力を抑えこもうとする態勢を崩す必要がある、と主張している。
以上の記述での中国にとっての「歴史上の正当な傑出した立場」というのは明らかに 「屈辱の世紀」 前の清朝以前の中華帝国王朝時代のグローバルな威勢、ということでしょう。その過去の栄光の復活というわけです。

この概念は習近平国家主席が唱える「中国の夢」とか「中華民族の偉大な復興」というような政治標語とも一致しています。「平和的台頭」という表面は穏やかなスローガンの背後にはいまの中華人民共和国を過去の王朝時代のような世界帝國ふうに復活させようというギラギラした野望が存在している、と米国側の専門家集団による同報告書はみているのです。

この「野望」は2016年、南シナ海での中国の海洋覇権追求に関して国際仲裁裁判所が「根拠なし」と裁定した「九段線」にもあらわとなっていました。「南シナ海は古代から九段線の区画により歴史的に中国の領海だった」という時代錯誤の中国政府の主張は、「歴史上の正当な傑出した立場」の反映なのです。ただし現代の世界ではその正当性はないのです。ちなみに、この「九段線」なるものはルトワックの『中国4.0』という書籍によれば、中華民国の将官が酔っ払って何の根拠もなく地図に描いたものとされています。

中国が主張する九段線

しかし中国側からすれば、その「正当な傑出した立場」の構築や達成には米国、とくにアジア駐留の前方展開の米軍の存在が最大の障害となります。

この点の中国側の軍事的な認識を米中経済安保調査委員会の同報告書は以下のように総括していました。
中国軍幹部たちは、米国が中国の正当な進出を阻もうとして、その中国封じ込めのためにアジアの北地域では日本と韓国、南地域ではオーストラリアとフィリピンを拠点とする軍事基地システムを築き、グアム島をその中核とし、中国深部を長距離の戦略兵器で攻撃ができるようにしている、とみている。
だからこそ中国にとっては米国がアジアで構築してきた一連の同盟関係とその軍事態勢は有事平時を問わず、敵視や反発の主対象となるわけです。

同報告書は中国側のそのアジアでの米軍の能力を弱めるための対米、反米そして対米国同盟諸国への非軍事的手段の基本的な特徴について以下のように解説していました。
中国人民解放軍の最高幹部たちは各種の論文で『戦争は単に軍事力の競合ではなく、政治、経済、外交、文化などを含めての総合的な競い合いだ』と繰り返し主張している。 つまり政治、経済、外交、文化などの非軍事的要因が軍事作戦を直接、間接に支えなければ勝利は得られないという考え方なのだ。
だから米軍のアジアでの中国のかかわる紛争への介入を阻むためには単に軍事力だけでなく、米国の政治システムや同盟相手の諸国の対米依存や対米信頼を弱めるための外交、情報、経済などのテコが必要となる。その種のテコには貿易協定や友好外交などから賄賂的な経済利権の付与も含まれてくる。
つまりは非常に広範で多様な手段による米軍の能力削減、そして同盟の骨抜きという意図なのです。中国側のその種の意図による具体的な活動が前述の三戦術「関与」「威圧」 「同盟分断」だというわけなのです。

その三戦術のうち対沖縄工作が含まれた「同盟分断」を詳述する前に「関与」と「威圧」について報告書の概略を紹介しておきます。
【関与】 
中国はタイやパキスタンとの経済協力を深め、軍事協力へと発展させ、中国海軍の現地での港湾使用などで、米軍に対する軍事能力を高めている。オーストラリアやタイとの合同軍事演習を実施して、両国の米国との安全保障協力を複雑にする。 韓国との経済のきずなを強めて、安保面でも韓国の米国との密着を緩める。
  【威圧】
中国はフィリピンとのスカーボロ環礁での衝突の際、フィリピン産バナナの輸入を規制した。日本との尖閣諸島近海での衝突の際はレアアース(希土類)の対日輸出を規制した。いずれも経済的懲罰という威圧行動だった。尖閣付近では海警の艦艇の背後に海軍艦艇を配備し、軍事力行使の威圧をかける。中国はベトナムの排他的経済水域(EEZ)での一方的な石油掘削作業でも軍事的な威圧をした。この種の威圧はいずれも米軍の抑止力を減らす意図を持つ。
「米中経済安保調査委員会」の同報告書はそのうえで3戦術の最後の【同盟分断】に触れて、そのなかの主要項目として「沖縄」をあげていました。

注目されるのは、同じ「同盟分断」の章では米国の同盟諸国の国名をあげて、国別の実態を報告しているのに対し、日本の場合は、日本という国名ではなく「沖縄」だけを特記している点でした。中国の日本に対する同盟分断戦術はいまのところ沖縄に集中しているという認識の反映のようなのです。その記述は以下のような趣旨でした。
【同盟分断】
中国は日本を日米同盟から離反させ、中国に譲歩させるための戦術として経済的威圧を試みたが、ほとんど成功しなかった。日本へのレアアースの輸出禁止や中国市場での日本製品ボイコットなどは効果をあげず、日本は尖閣諸島問題でも譲歩をせず、逆に他のアジア諸国との安保協力を強め、米国からは尖閣防衛への支援の言明を得た。
中国はだから沖縄への工作に対日戦術の重点をおくようになったというわけです。
中国軍部はとくに沖縄駐留の米軍が有する遠隔地への兵力投入能力を深刻に懸念しており、その弱体化を多角的な方法で図っている。
沖縄には周知のように米軍の海兵隊の精鋭が駐留しています。第3海兵遠征軍と呼ばれる部隊は海兵空陸機動部隊とも称され、空と海の両方から遠隔地での紛争や危機にも対応て、展開できます。多様な軍事作戦任務や地域の安全保障協力活動が可能であり、有事や緊急事態へスピーディーに出動できます。米軍全体でも最も実践的な遠征即応部隊としての自立作戦能力を備えているともいわれます。

沖縄の米海兵隊

まさに中国側からすれば大きな脅威というわけです。だからその戦力、能力をあらゆる手段を使って削ぐことは中国にとっての重要な戦略目標ということになります。

同報告書は次のようにも述べていました。
中国は沖縄米軍の弱体化の一端として特定の機関や投資家を使い、沖縄の米軍基地の近くに不動産を購入している。
報告書はこの中国側による沖縄の不動産購入について脚注で「中国工作員が米軍基地近くに米軍関係者居住用のビルを買い、管理して、管理者用のカギで米軍関係者世帯宅に侵入して、軍事機密を盗もうとしている」という日本側の一部で報道された情報を引用していました。

米国の政府や議会の報告書では米側独自の秘密情報を公開することはまずないですが、一般のマスコミ情報の引用とか確認という形で同種の情報を出すことがよくあります。つまり米側の独自の判断でも事実と認めた場合の「引用」となるわけです。

そして報告書はこんどは引用ではなく、同報告作成者側の自主的な記述としてさらに以下の諸点を述べていました。
中国は沖縄に米軍の軍事情報を集めるための中国軍の諜報工作員と日本側の米軍基地反対運動をあおるための政治工作員を送りこみ、日米両国の離反を企図している。
沖縄での中国の諜報工作員たちは米軍基地を常時ひそかに監視して、米軍の軍事活動の詳細をモニターするほか、米軍の自衛隊との連携の実態をも調べている。
中国の政治工作員は沖縄住民の米軍基地に対する不満や怒りを扇動することに努める。そのために中国側関係者が沖縄の米軍基地反対の集会やデモに実際に参加することもよくある。その結果、沖縄住民の反米感情をあおり、日米同盟への懐疑を強め、日米間の安保協力をこじれさせることを企図している。
同報告書は中国側の沖縄でのこうした動きをはっきりと 「スパイ活(Espionage)」とか「扇動(Agitation)」と呼び、そうした行動が将来も続けられるという見通しを明言していました。このへんはこの記述以上に詳細で具体的な情報こそ示されないものの、明らかに米国当局独自の事実関係把握に基づく報告であり、警告だといえます。

米中経済安保調査委員会の同報告書はさらに中国側の沖縄領有権の主張や沖縄内部での独立運動についても衝撃的な指摘をしていました。

要するに中国は自国の主権は尖閣諸島だけでなく、沖縄全体に及ぶと主張し、その領土拡張の野望は沖縄にも向けられている、というのです。報告書の記述を以下に掲載します。
中国はまた沖縄の独立運動をも地元の親中国勢力をあおって支援するだけでなく、中国側工作員自身が運動に参加し、推進している。
中国の学者や軍人たちは『日本は沖縄の主権を有していない』という主張を各種論文などで表明してきた。同時に中国は日本側の沖縄県の尖閣諸島の施政権をも実際の侵入行動で否定し続けてきた。この動きも日本側の懸念や不安を増し、沖縄独立運動が勢いを増す効果を発揮する。
確かに中国政府は日本の沖縄に対する主権を公式に認めたことがないです。中国が沖縄の領有権を有すると政府が公式に言明することもないですが、中国政府の代表である学者や軍人が対外的に「沖縄中国領」論を発信している事実はあまりに歴然としているのです。同報告書はこうした点での中国側のトリックの実例として以下のようなことも述べていました。
中国の官営ニュースメディアは『琉球での2006年の住民投票では住民の75%が日本からの独立を望むという結果が出た』という報道を流した。しかし現実にはその種の住民投票は実施されてはいない。沖縄住民の多数派は日本領に留まることを欲している。
中国側の官営メディアがこの種の虚報を流すことは年来の中国のプロパガンダ工作ではよくある事例です。この虚報の背後にすけてみえるのは、中国がやがては沖縄も自国領土だと宣言するようになる展望だといえます。

米中経済安保調査委員会の「アジア太平洋での米軍の前方展開を抑える中国の試み」という題の同報告書は中国の沖縄に対する活動について以上のように述べて、中国側のその目的はすべて日米同盟にくさびを打ちこみ、日米の離反を図って、米軍の沖縄などでの軍事能力を骨抜きにすることだと分析していました。

とくに中国側の領土拡張の狙いが単に尖閣諸島だけでなく沖縄本島などにも及んでいるという指摘、さらには中国側がすでに沖縄の内部に工作員を送りこんで、軍事、政治の両面で日米の連携をかき乱しているという警告は日本側としても重大に受けとめねばならないでしょう。

中国による日米同盟への揺さぶり工作では同報告書が日韓関係についても警鐘を鳴らしている点をも最後に付記しておきます。中国がアジアでの米国の存在を後退させる戦術の一環として日本と韓国との対立をもあおっている、というのです

日本も韓国もいうまでもなく、ともに米国の同盟国です。米国を中心に日韓両国が安保面で緊密な連携を保てば、米軍の抑止力は効果を発揮します。日韓両国が逆に対立し、距離をおいていれば、米軍の効用も減ってしまいます。中国にとっては東アジアでの米軍の能力の減殺という目的の下に、日本と韓国との間の摩擦や対立を広げる戦略をも進めてきたというのはごく自然です。同報告書は以下の諸点を指摘していました。
中国は日韓両国間の対立の原因となっている竹島問題に関して同島を軍事占領する韓国の立場を支持して、日本側の領有権主張を『日本の危険なナショナリズムの高揚』などとして非難してきた。
中国は日韓両国間の慰安婦問題のような第二次大戦にかかわる歴史認識問題に対して韓国側の主張を支持し、日本側の態度を非難する形の言動を示して、日韓間の歴史問題解決を遅らせてきた。
中国は日本の自衛隊の能力向上や役割拡大への韓国側の懸念に同調を示して、韓国側の対日不信をあおり、米国が期待するような米韓両国間の安全保障協力の推進を阻もうとしてきた。
米国の議会機関が指摘する中国の日韓離反工作も中国の沖縄への介入と目的を一致させる反日、反米のしたたかな謀略活動だともいえるでしょう。日本側としても硬軟両面でのそれ以上にしたたかな反撃が欠かせないでしょう。

安倍総理は、総理に着任する直前に、「安全保障のダイヤモンド」という論文を国際NPO団体PROJECT SYNDICATEに発表しました。この内容は、単純に言ってしまうと多国間の連携による中国封じ込め政策です。

そうして、安倍総理はこの論文の内容を実現するため全方位外交を展開し、安全保障のダイヤモンド構想を現実のものとしてきました。これは、中国にとって大きな脅威だと思います。

ただし、この内容は、未だにほとんどのマスコミで報道されることはありません。沖縄の危機についても、産経新聞などは例外としてほとんど報道されません。テレビ局ではどこも報道しません。

この状況は何としても打開しなければなりません。これを打開するには、まずは日本でも米国議会に設置された「米中経済安保調査委員会」という機関と同じような機関をつくるべきです。

中国に親和的なリベラル・左派が多数派を占める米国のマスコミや共和党が大きな力を持っていたオバマ政権末期にこの委員会は設立されています。

そうして、このブログでも以前掲載したように、米国議会のこの「米中経済安全審査委員会(USCC)」において、今年の8月24日に『中国共産党の海外における統一戦線工作』という報告書が公開されていますが、これを期に米国議会では中国をあからさまに擁護する議員は、ほとんどいなくなりました。

その記事のリンクを以下に掲載します。
【古森義久のあめりかノート】中国の「統一戦線工作」が浮き彫りに―【私の論評】米国ではトランプ大統領が中共の化けの皮を剥がしはじめた!日本もこれに続け(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを引用します。
中国共産党の正体を暴いた同報告書はトランプ政権の大きな実績です。中国共産党の各種不道徳な行為は、トランプ政権によって次々と暴露され始めています。これからも、さらに中国の異形のおぞましい姿が次々に晒されていくと思います。 
なお、この『中国共産党の海外における統一戦線工作』に書かれていことは、以前から知られていることです。多くの筋からそのような内容は、多くの人々に知られていました。その一旦は、このブログにも過去にも数多く掲載しています。 
とはいいながら、このような内容が、米国議会の「米中経済安全審査委員会(USCC)」において、8月24日に『中国共産党の海外における統一戦線工作』という報告書によって正式に公表されたという事実は大きいです。 
これで、中国に対して面と向かって擁護する人は少なくとも米国ではいなくなりました。そうして、これはトランプ大統領ならび米国議会が中共との対立もじさないという並々ならぬ決意を示すものです。 
そうして、このような中国の統一戦線工作は無論米国にだけではなく、日本を含む他の先進国にも様々な工作をかけています。 
日本も、米国のように中国の化けの皮を剥がし、白日のもとに晒すべきです。
日本でも、このような委員会を超党派で設立して、中国の沖縄での工作活動を表沙汰にして、中共の化けの皮をはがせば、日本でも中国を擁護するような国会議員などいなくなります。それでも、産経新聞などの一部を除いては、それを報道しないでしょうが、政府が積極的にSNSなどで公表するようにすれば、いずれ日本も米国と同じようになり、マスコミも政治家も中国をあからさに擁護する者はいなくなるでしょう。

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2017年3月4日土曜日

米国議会で高まってきた「日本は憲法改正せよ」の声―【私の論評】米国大統領は平時には世界“最弱”の権力者である理由とは?

米国議会で高まってきた「日本は憲法改正せよ」の声

与野党のベテラン議員が「日米同盟の片務性」を批判


米国・ワシントンD.C.の国会議事堂。米国議会で日米同盟の片務性を批判する声が高まってきた
 米国のトランプ政権は日米同盟の堅持と尖閣諸島の共同防衛を確約している。その一方でこのほど、民主党の有力議員が米国議会で“日本は憲法を改正しない限り米国の公正な同盟パートナーにはなれない”“現状では米国は尖閣を防衛すべきではない”という主張を表明した。

 日本側の憲法が原因とされる日米同盟の片務性は、これまで米国側から陰に陽に批判されてきた。だが、これほど真正面からの提起も珍しい。日本側としても真剣に受け止めざるをえない主張だろう。

中国の無法な膨張が議題に

 2月28日、トランプ大統領による議会両院合同会議での初演説の数時間前に、米国議会下院外交委員会の「アジア太平洋小委員会」が公聴会を開いた。アジア太平洋小委員会は、日本や中国などアジア・太平洋地域の諸課題を審議している。

 新政権下では第1回となるこの公聴会は「中国の海洋突出を抑える」という名称がつけられていた。南シナ海と東シナ海における中国の無法な膨張を米国はどう抑えるべきかが審議の主題だった。

 委員会は、テッド・ヨホ議員(共和党)を議長に、共和、民主両党の議員たちがメンバーとして並び、シンクタンクなどから証人として招いた3人の専門家の見解を聞きながら議論を進めていくという方式である。

 私は、南シナ海や東シナ海での中国の横暴で威嚇的な行動をトランプ政権下の新議会がどう捉えているのかが分かるのではないかと期待して、出かけていった。

2人のベテラン議員が日本の現憲法を問題視

 公聴会ではまず議長のヨホ議員が、中国の南シナ海での人工島造成や軍事基地建設を膨張主義だとして非難し、中国による東シナ海での日本の尖閣諸島領域への侵入も米国の同盟国である日本への不当な軍事圧力だと糾弾した。

 そのうえで同議員は、オバマ政権下の米国のこれまでの対応が中国をまったく抑えられなかったと指摘し、日本などの同盟国と連帯して対中抑止態勢を構築することを提唱した。その前提には、トランプ政権が日米で尖閣を共同防衛する意思を表明していることがもちろん含まれていた。

 ところがこの委員長発言の直後、民主党を代表して発言したブラッド・シャーマン議員が驚くほど強硬な語調で日本を批判したのである。

ブラッド・シャーマン民主党議員 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
 「トランプ政権が日本の施政下にある尖閣諸島の防衛を約束したことには反対する」

 中国の海洋進出を非難する前にトランプ新政権の対日安保政策に反対を唱える発言に、私は驚かされた。シャーマン議員はさらにショッキングな発言を続けた。

「日本は憲法上の制約を口実に、米国の安全保障のためにほとんど何もしていない。それなのに米国が日本の無人島の防衛を膨大な費用と人命とをかけて引き受けるのは、理屈に合わない。日本側はこの不均衡を自国の憲法のせいにするが、『では、憲法を変えよう』とは誰も言わない」

 「2001年の9.11同時多発テロ事件で米国人3000人が殺され、北大西洋条約機構(NATO)の同盟諸国は集団的自衛権を発動し、米国のアフガニスタンでの対テロ戦争に参戦した。だが、日本は憲法を口実に、米国を助ける軍事行動を何もとらなかった。その時、『日本はもう半世紀以上も米国に守ってもらったのだから、この際、憲法を改正して米国を助けよう』と主張する政治家が1人でもいただろうか」

 シャーマン議員は公聴会の満場に向けてそんな疑問を発すると同時に、日本やアジアに詳しい専門家の証人たちにも同じ質問をぶつけた。

 シャーマン議員はカリフォルニア州選出、当選11回のベテランである。民主党内でもかなりのリベラル派として知られる。そんなベテラン議員が、日米同盟が正常に機能するためには日本の憲法改正が必要だと主張しているのである。

 シャーマン議員の主張の言葉を継いだのが共和党の古参のデーナ・ローラーバッカー議員だ。ローラバッカー議員もカリフォルニア州選出で当選13回である。中国に対して厳しい構えをとることで知られ、国務長官候補として名前が挙がったこともあった。同議員は次のように発言した。

デーナ・ローラーバッカー議員
「確かに日本の憲法が日米同盟の公正な機能を阻んでいる。だが、安倍晋三首相は憲法改正も含めて日本の防衛を強化し、同盟を均等にしようと努めている。それに、アジアで中国に軍事的に対抗する際、本当に頼りになるのはまず日本なのだ」

 ローラバッカー議員もやはり日本の現行憲法が日米同盟の双務性を阻み、本来の機能を抑えていると認めている。

 両議員に共通するのは、日本の現憲法が日米同盟を歪めているので、改正した方がよい、という認識である。特にシャーマン議員は、米国の尖閣防衛誓約を日本の憲法改正と交換条件にすべきと述べているのにも等しい。

日本の防衛費抑制も批判

 証人たちが発言する段階になっても、シャーマン議員は再び「日本の防衛努力の不足」を指摘した。そして、防衛費の対GDP比も持ち出してきた。

  「米国などが国際的な紛争を防いで平和を保とうと努力する一方で、日本は血も汗も流さない。憲法のせいにするわけだ。日本の防衛費はGDPの1%以下だ。米国は3.5%、NATO加盟諸国は最低2%にするという合意がある」

 そのうえでシャーマン議員は「日本が防衛費をGDPの1%以内に抑えているのは、やはり憲法上の制約のためなのか」と証人たちに質問をぶつけていた。

 トランプ氏は選挙期間中に日米同盟の片務性を批判していたが、先日の日米首脳会談における友好的な対応から、日本側には安心感が生まれたようだ。だが、議会ではこのように民主党と共和党のベテラン議員が揃って日本非難を打ち出している。米国の超党派の議員から、日本の現憲法や防衛費に対する批判が表面に出てきたという現実は深刻に受けとめねばならないだろう。

【私の論評】米国大統領は平時には世界“最弱”の権力者である理由とは?

米国はご存知のように、大統領制の国です。日本では、米国の大統領は強力な権限を持っていると考えている人が多いようで、トランプ氏の行動や発言に振り回される人も多いようです。

米国は日本と異なり共和制の国です。共和制とは君主制と対になる言葉で、君主ではない人物が国家元首となる制度のことを指します。米国は共和制でかつ民主主義の国ですから、国家元首は民主的な手続きによって選ばれることになります。こうして選ばれたリーダーが合衆国大統領です。ちなみに日本や英国は君主制で、かつ民主主義の国ですから、国家元首である君主に実質的な権限はなく、選挙で選ばれた首相が権力を行使する形になります。

トランプ大統領
大統領を国家元首とする国の中には、大統領は国を代表するだけで、行政府の長としての実質的な権力は持たせない国と、名実ともに行政府の長としてすべての権限を大統領に与える国に分かれます。大統領が名誉職的な存在となっている国としてはドイツが有名ですが、米国の場合、行政権のほぼすべてが大統領に集中しています。したがって、米国の大統領はまさに絶大な権力を握っていることになります。

では米国の大統領は、あらゆる権力を行使できる万能のリーダーなのかというとそうではありません。米国は、厳格な三権分立制度を採用しており、行政、立法、司法の権限が完全に分離しています。行政府の長である大統領は選挙によって国民から選ばれますから、議会に対して責任を負うことなく大統領としての職務を遂行できます。しかし、立法に関する権限は一切持っておらず、大統領は議会が作った法律に従って行政権を行使するしかありません(拒否権を発動することは可能)。

これに対して日本や英国は議院内閣制を採用しており、首相は国会議員の中から選ばれ、内閣は国会に対して責任を負っています。日本の場合には毎年の予算について、行政府が予算案を提出し、議会はそれを審議するという立場ですが、米国の場合、行政府に予算の提出権はありません。大統領は予算教書という形で要望を議会に告げるだけで、実際の予算に関する権限は議会が握っています。

また、戦争を遂行する権利も実は大統領は保有していません。米国の大統領は軍隊の最高指揮官ですが、宣戦布告を行う権利は議会に付与されており、大統領が戦争を遂行するには、議会からの「授権」が必要です。このように米国では、三権分立が明確になされてまいす。

残念なことに、我が国では小学校から大学まで、三権分立が近代法治国家に共通する普遍的な憲法上の原理」であるかのように教えています。それは間違った常識です。

三権分立とは、モンテスキューというフランスの哲学者が、ジョージ3世(在位1760~1820年)時代のイギリスを「おお、三権分立だ、すばらしい!」と勘違いして発明してしまった概念です。

モンテスキュー
本人は「発見」したと思い込んでいましたが、それはモンテスキューの頭の中で作り上げられた妄想に過ぎませんでした。

三権分立をまともに実行してしまっている国は、世界の文明国の中でアメリカ合衆国ただ1国です。そうして、いつまでたってもモンテスキューの母国でもあるフランスを含む、他の文明国がアメリカの真似をしないのは、三権分立が欠陥制度だからです。

そうして、アメリカ大統領は「世界“最弱”の権力者」とも言われています。アメリカ大統領が最弱、特に平時には最弱であることは世界の比較憲法学の常識です。ただし、議会が戦争をすることを受け入れた場合には、戦争を遂行するために権限が大統領に集中するようになっています。

そのため、日本などでは多くの人が戦争時の米国大統領のように、平時でも大統領に強力な権限が集中していると考えるのだと思います。でも現実は違います。米国大統領は、平時には世界で最弱の権力者なのです。ただし、これは米国自体の国力などとは別問題です。あくまで、米国の大統領は、他国と権力者と比較すれば、相対的に権力が弱いということです。

だから、日本の憲法改正に関する議論でも、トランプ大統領の発言よりも、米国議会の動きのほうが、影響は大きいのです。これを理解してないと、このブログ冒頭の記事の内容も良く理解できないかもしれません。

さて、米国議会での日本の憲法改正論議については、今から6年ほど前にもこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「日本は憲法改正せよ」が米国議会で多数派に―【私の論評】憲法を改正するか、中国の属国になるか、アメリカの51番目の州になるか、あなたはどの道を選択しますか?
1946年(昭和21)2月13日、外相官邸で行われた日米会談の席で、政府の
「憲法改正要綱」は、あまりに保守的内容であるとして拒否され、GHQ起草の
案(マッカーサー草案)が提示された。この草案は、GHQ民政局部内で
極秘裏に起草されたもので、主権在民・象徴天皇・戦争放棄などを
規定していたため、政府側に大きな衝撃を与えた。
 

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部分のみ引用します。
米国議会が日本の憲法第9条を日米共同防衛への障害と見なし、改憲を望むようになった――。 
この現実は日本の護憲派にはショックであろう。だが、米国議会上下両院の一般的な認識として、日本側の憲法9条の現行解釈による集団的自衛権の行使禁止は、「より緊密な日米共同防衛には障害となる」というのである。 
日本の憲法を改正するか否かはあくまで日本独自の判断によるというのが正論である。だが、日本の防衛が米国という同盟パートナーに大幅に依存し、しかも日本の憲法がかつて米国側により起草されたという事実を見れば、どうしても米国の意向が重視されてきた側面は否めない。 
つまり、日本で改憲を考えるに当たっては、米国が改憲に賛成なのか、反対なのかが、どうしても大きなカギとなってきたのである。
・・・・・・・・〈中略 〉・・・・・・・・
今後の世界は、しばらくは、米国、日本、中国、EU、ロシアという5カ国のバランス・オブ・パワーで成り立ち、平和を維持していく体制になります。そうでなければ、世界の平和は維持できません。この体制を築かなければ、いずれバランスが崩れて、また、大きな戦争が勃発するかもしれません。これが、厳しい世界の現実です。この現実には、憲法9条など、何の意味も持ちません。 
上の記事は、まさしく、アメリカ議会がその事実に気づいたことの査証であるととらえるべきです。さて、この現実に、日本政府は、そうして日本国民はどのように対処するのでしょうか? 
憲法を改正して、パランス・オブ・パワーの一角を担う覚悟がなけば、いずれ選択できる道は二つしかありません。それは、中国の属国になるか、アメリカの51番目の州になることです。いますぐ、ということはないでしょうが、今後10年以内には、おそらくどちらかの道を選ばざるをえない状況に追い込まれます。あなたは、どの道を選びますか?

しかし、私達としても、当然のこととして、どらの道も選びたくはありません。であれば、憲法を改正して、バランス・オブ・パワーの一角を担うしかありません。
日本が米国の要請よって、憲法を変えるなどということになれば、日本としてもただ変更するというのではなく、当然のことながら、米国と日本の関係を大東亜戦争前の日米が戦争するなどとは思いもよらかなった頃の関係に近いものに戻すことを条件とすべきです。

このようなことをいうと、そんなことは全く不可能と思われるかもしれませんが、私はそうでもないと考えます。なぜなら、米国の保守本流派とされる人々は、そもそもソ連の防波堤となって戦っていた日本と米国が戦争したは間違いだったと考えているからです。

そもそも、ルーズベルトが全体主義のソ連と手を組んだことが間違いの始まりだったとしています。こういう米国保守本流の考え方からすれば、米国と日本の関係を大東亜戦争前の日米が戦争するなどとは思いもよらなかった頃の関係に戻すという考えは受け入れやすいかもしれません。

スターリン(左)とルーズベルト(右)

ただし、大東亜戦争前と現在とでは国際情勢が違いますから、全くその頃と同じということてはできません。しかし、日本としてはまずは国連の常任理事国入りは当然の前提条件とすべきです。

そうして、日本が自主防衛をするようになってにしても、日米の同盟関係は維持するという条件も前提条件とすべきでしょう。そうして、日米同盟の双務性を堅持すことも条件とすることは当然のことです。

その上でなら、米国による要請も受け入れて良いと思います。ただし、自分の国を自分で守ること、すなわち防衛戦争をできるようにすることや実際にすること自体は、米国とは関係なく、本来独立国としては、当然のことです。これができないというのは、日本は未だ独立国ではないという証です。

ただし、米国議会の日本に対して憲法改正圧力は、日本にとって憲法改正にはずみをつけるということから、日本政府は大いに利用すべきものと思います。

【関連記事】

「日本は憲法改正せよ」が米国議会で多数派に―【私の論評】憲法を改正するか、中国の属国になるか、アメリカの51番目の州になるか、あなたはどの道を選択しますか?

<米国>バイデン副大統領「日本国憲法、米が書いた」―【私の論評】米国は場合によっては、日本の戦術核を容認する用意がある(゚д゚)!





2014年5月29日木曜日

米国議会で日増しに強くなる対中強硬論―【私の論評】世界は複雑だ!米中一体化、G2など中国の妄想にすぎない!しかし、日本にとってはこの妄想につけこむ絶好のタイミングかもしれない(゚д゚)!

米国議会で日増しに強くなる対中強硬論

米国国会議事堂

 米国連邦議会下院外交委員会のアジア太平洋小委員会が5月20日に開いた公聴会は、米国全体の中国への姿勢が著しく険悪化している様子をあらわにした。米国の中国への敵対傾向が明らかに強まり、米中間の「新冷戦」という言葉をも連想させるようになったのだ。 

 「中国はいまや全世界の平和と安定と繁栄への主要な脅威となったのです!」

 この公聴会ではこんな強硬な発言が出た。

 公聴会の主題は米国の「アジアへの旋回」である。このスローガンはオバマ政権が新政策として鳴り物入りで宣伝してきたが、どうも実態がはっきりしない。もしも安全保障面でアジアでの備えを重視するならば、当然、米軍の新たなアジア配備や、そのための国防予算の増額が見られるはずなのだが、見当たらない。オバマ政権の唱える「アジア最重視」も、レトリック(修辞)だけで実効措置が伴わない意図表明にすぎないという懸念がワシントンでも広がって久しい。

 中国の威嚇的な行動はますます激しさを増している。異常とも言えるほどの急ペースで軍拡をもう20年も続けているうえに、東シナ海での防空識別圏(ADIZ)の一方的な宣言、尖閣諸島での恒常的な日本側の領空領海への侵犯、南シナ海での無法な領有権拡張、対米サイバー攻撃、そして他国領土を強引に奪うロシアへの接近など、国際規範無視の中国の荒っぽい行動は、ついに米国側の忍耐の限界を超えたかのようにも見える。

 さらに、この5月には、中国人民解放軍の房峰輝総参謀長が訪米し「アジアでの紛争は米国のアジア政策のせいだ」と非難した。習近平国家主席は、ロシアやイランの首脳を交えた上海での「アジア信頼醸成措置会議」で「アジアの安全はアジアの人間が守る」と述べ、事実上、米国のアジア撤退をも求めた。オバマ政権の宥和政策にもかかわらず、中国は明らかに米国を敵視しているとしか思えないのである。

 こうした現況について、米国では以下のようにも総括された。

 「中国に対して、米側には伝統的に『敵扱いすれば、本当に敵になってしまう』として踏みとどまる姿勢が強く、中国を『友好国』『戦略的パートナー』『責任ある利害保有者』『拡散防止の協力国』などと扱ってきました。だが、そうして40年も宥和を目指してきたのにもかかわらず、中国はやはり敵になってしまったのです」(元国防総省中国担当、ジョー・ボスコ氏)

 皮肉な表現ではあるが、明らかにオバマ政権の対中宥和策への批判だと言える。

 中国が少なくともアジアにおいて、米国主導の現在の国際秩序を従順に受け入れる構えがないことはすでに明白となってきた。いや、受け入れないだけではなく、むしろ打破したいと意図していると言う方が正確だろう。

 そうした中国がロシアに本格的な接近をしてきたことは米国にとってさらに気がかりな動きである。万が一、中国とロシアの両国が団結し、連帯して、米国に対抗するとなると、いまの世界の国際秩序や安全保障構造は根本から変わってしまう。1991年にソビエト連邦が完全に瓦解して以来の最大の出来事ともなろう。米中関係の険悪化には、世界大動乱の予兆とも言える、そんな重大な要素も絡んでいるのだ。

 だがその一方でわが日本では、集団的自衛権をめぐる論議でも、肝心の外部の安保情勢ではなく国内の法的手続きを最優先しての内向きな攻防が続く。

 多数の国家が絡み合ういまの世界の安全保障情勢の中で、日本だけが孤立して安全が高まるはずがない。防衛や安保の面での国際的な連帯や協調がいまほど重要な時期はない。それにもかかわらず、日本内部での集団的自衛権容認への反対論は、砂に頭を突っこむことで見たくない現実から目を背ける、ダチョウの平和を思わせるのである。

上の記事は、要約です。詳細をご覧になりたい方は、こちらから(゚д゚)!

【私の論評】世界は複雑だ!米中一体化、G2など中国の妄想にすぎない!しかし、日本にとってはこの妄想につけこむ絶好のタイミングかもしれない(゚д゚)!

上の記事でも明らかなように、オバマ大統領の中国宥和政策は、あまり実を結ばなかったのが現実です。オバマの前の大統領、ブッシュ氏は宥和政策はとりませんでした。少なくとも、年に一回くらいは、中国に対して声明を発表し、民主化をすること、政治と経済を分離すること、法治国家化をすることなど厳しく要求していました。

オバマになってからは、そのようなことはなくなり、宥和政策ばかりとるようになりました。

こうした宥和政策は、過去においても失敗しています。それは、ナチスドイツに対するイギリの宥和政策です。

これについては、以前のこのブログでも掲載したことがありますので、その記事のURLを以下に掲載します。
歴史に学ぶ-(1)ミュンヘン会議(1938年9月29日~30日)、チェコスロバキア解体(1939年)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では当時のイギリスの首相チェンバレンによる対独宥和政策が、結果として第二次世界大戦開戦の誘引ともなったことを掲載しました。

握手を交わすチェンバレン(左)とヒトラー

以下にこの記事から現代でも学ぶべき点に関して私が掲載した文章をコピペさせていただきます。
理不尽な要求には、絶対に屈しないということにつきる。このときに、イギリスをはじめフランス、ソビエト連邦、ポーランドをはじめとする東欧諸国も構えを崩さず、さらにアメリカの応援も要請して徹底抗戦も辞さずという態度をみせれば、戦争が回避できた可能性もあったはずである。無論、歴史にもしも、という言葉に意味はないが、これからのことを考えるためには役にたつだろう。 
現在チベット問題がクローズアップされているが、この問題も絶対に譲歩すべきではないだろう。少なくともチベットの自治は認めさせるべきであるとの意思表示は、はっきりすべきだろう。さらに、中国がこれ以上領土拡張の野心を見せたときは、たとえどのようなことになろうとも、絶対に認めないという姿勢が必要だろう。
さら、福田総理大臣はどうなのだろう。少なくとも日本のチェンバレンと呼ばれるようなことには、なってもらいたくない。
この記事は、 2008年のものです。この当時は、福田首相でした。福田首相にかぎらず、日本の歴代の総理大臣は安部総理は別として、ほとんどが対中宥和策をとってきました。最近の中国の暴虐非道は、他にも様々な理由もありましたが、こうし宥和政策も誘引したことは否めませせん。

ソ連の崩壊により、その後継者たるロシアは、小国化してしまいました。これにより、中国は特に陸上で国境を接する国々からの脅威はほとんどなくなりました。ソビエト帝国が瓦解した現在、今や世界唯一の超大国(中国は、超大国とはいえない発展途上国です)アメリカのオバマ大統領の対中宥和政策です。

これが、中国の海洋進出に拍車をかけています。これに関しては、このブログでも何度か掲載してきました。その代表的なものを以下に掲載します。
上念司「中国包囲網の決定打はモンゴル・トルコのランドパワー強化に在り!」―【私の論評】ソ連崩壊後、小国ロシアになってから国境溶解が顕著になり中国にとって軍事的脅威はなくなった!日本は経済援助を通じて中国と国境を接する国々のランドパワーを強化すべき(゚д゚)!

小国化したロシアは、未だに大国
のように見せかけているが・・・・・
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、ロシアが小国になった(GDPは日本の1/5)事実をもとに、中ロ国境の国境溶解(中国人のシベリアなどへの移動により、国境が不明確になっている現象)により、中国は陸上での差し迫った脅威がなくなり、それが、中国の海洋進出の誘引になっていることを掲載しました。

さらに、ロシアとしては、こうした国境溶解などにかなり脅威を感じていることを掲載しました。

このような状況のもと、日本はもともと対中宥和的で、アメリカのオバマが対中宥和政策をとれば、中国が海洋進出をして、傍若武人な振る舞いをすることは必然といっても良いです。尖閣問題もこうした流れの中で発生したものです。

しかし、日本では安倍政権が成立してからは、少なくとも対中宥和政策はとらなくなりました。

そんな中で、外交オンチのオバマは、対中宥和政策をとりつづけました。

オバマがもう少し早い時点で、尖閣は日本固有の領土であることをはっきり表明すれば、尖閣問題はあそこまで激しくならなかったことが考えられます。南シナ海についても同じことです。

こうしたオバマの煮え切らない態度に、アメリカ議会は黙認していることはできず、このブログ冒頭の記事が掲載しているように、対中強硬論に傾いているのだと思います。

日本の安部首相が中国を意識した安全保障のダイヤモンドを構築し、アメリカはオバマはともかく、議会が対中恐慌論に傾いている現在。これは、日本にとっては大きな外交上のチャンスかもしれません。

ブログの冒頭の記事では、「中国とロシアの両国が団結し、連帯して、米国に対抗する」などということはほとんど考えられません。まずは、過去においてはソ連が現在ではロシアは、中国に対して譲歩したということは一回もありません。

大国ロシアの復活を目論むプーチン

現在の中ロ国境は、比較的安定していますが、これは中国がロシアに一方的に屈辱的譲歩して定まったものです。今後暫くは、中国が軍事的にロシアの脅威になるような行動をしても、ロシアは何一つ譲歩することなく、中国を軍事的に屈服させることでしょう。

しかし、これも長くは続きません。今やロシアは日本のGDPの1/5、人口も日本より多少多い1億4千万人程度に過ぎません。その中でも支配者階層のロシア人の数は、日本人と同程度です。現状では、旧ソ連邦時代に築いた軍事技術などが中国を圧倒していますが、これから先はどうなるかはわかりません。

現在、ロシアと中国が強く結びつくということにでもなれば、ロシアは中国の属国になりかねません。ロシアは絶対にそのような道は選ばないでしょう。まずは、ロシアと中国の結びつきとは、表面上のことであり、現実的ではありません。これに関しては、昨日一昨日も掲載した中ロの接近は、「氷の微笑」に過ぎないとする、ルトワック氏の分析が的を射ているようです。詳細を知りたい方は、是非ご覧になって下さい。

ルトワック氏

さて、現状は、オバマが外交オンチではあっても、米国議会が対中強硬論に傾いている状況にあるわけです。それに、ロシアは中ロ国境の国境溶解に苦しみ、何とか打開策を探していますロシア以外の中国と陸並びに海で、国境を接する国々も中国の脅威が日増しに増大しています。

この状況は、良く考えてみれば、日本にとってはかなり有利な状況でもあります。日本は、安部総理の実行するアメリカなどに偏る外交ではなく、他の国々も含めた全方位外交が今後さらに効果を増すことになると思います。

今の日本は、対中強硬論のアメリカ議会を後ろ盾とすることができます。国境溶解に悩むロシアは、北方領土の交渉を続けるとしています。ロシアは、日本の経済援助を望んいます。そうして、経済が発展すれば、国境溶解に備えることができます。アジアにおいては、中国・韓国・北朝鮮以外の国々は日本の再軍備を望んですらいます。

この状況はかなり日本にとって良い状況であり、中国の脅威をはねのけ、アジアのリーダーになる可能性が高めるものでもあります。

しかし、残念ながら、ブログ冒頭の記事でも指摘しているように、以下のような状況にあります。
集団的自衛権をめぐる論議でも、肝心の外部の安保情勢ではなく国内の法的手続きを最優先しての内向きな攻防が続く。 
 多数の国家が絡み合ういまの世界の安全保障情勢の中で、日本だけが孤立して安全が高まるはずがない。防衛や安保の面での国際的な連帯や協調がいまほど重要な時期はない。それにもかかわらず、日本内部での集団的自衛権容認への反対論は、砂に頭を突っこむことで見たくない現実から目を背ける、ダチョウの平和を思わせるのである。
安全保障は、上の文章が示しているように国際的な連帯や協調が重要です。そうして、それだけではありません。

安全保障は、軍事力や国際的な連帯や協調だけではなく、金融・経済・外交が密接にからみあった、統合的なものてあり、これに対応するには統合的思考によらなければ、なかなか解決できるものでありません。海にだけ気を取られていたり、集団的自衛権や国内のことだけを考えていては何も成就しません。

世界は、複雑です。米中二極体制、G2などという考えはとうてい成り立たないものであり、これは中国の妄想に過ぎません。ただし、中国がこの妄想にふけり続ければ、過去のソ連と同じよう崩壊することになります。そこに日本がつけいる隙があります。そうして、今は日本がこれを最大限に活用できる絶好のタイミングにあります。安部総理はこれを狙っています。

能天気な平和主義は支那に一方的に利用されるだけです。実際、外交オンチのオバマは、宥和政策を中国に利用されてきました。日本の宥和政策も、過去には支那に貪り尽くされ、今もそうです。将来がそうであっては絶対になりません。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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