2018年12月10日月曜日

中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置―【私の論評】「産業スパイ天国」をやめなければ日本先端産業は米国から制裁される(゚д゚)!

中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置

岡崎研究所 

 米国マイクロン社が、中国の企業に知的財産を盗まれたと非難したことを受けて、米国商務省は、10月29日、中国の福建晋華への米国技術の輸出を規制することを発表した。国有企業の福建晋華は、米国技術と類似の技術を使用し製造を行っているが、司法省によれば、それらは米国の軍事システムでも使用される機微な技術への脅威となる。

米国の技術を盗用して開発された中国のステルス戦闘機J-20

 今回の中国企業による米国技術の窃取は、台湾を舞台に2年前の2016年に端を発する。その年、台湾にあるマイクロン社の子会社UMCが福建晋華と技術協定を結び、DRAM(記憶保持メモリ)へのアクセスを許した。そのDRAMの技術を窃取した2人のマイクロン社のエンジニアは、UMCに雇用されたが、2017年8月、台湾当局によって起訴されている。

 本年11月1日、米国司法省は、UMC、晋華、2人のエンジニア及び追加1人の下マイクロン社社員を、貿易秘密を窃取した疑いで起訴した。ジェフ・セッションズ司法長官は、被害額を、87億5千万ドルと推定する。

参考:Wall Street Journal ‘A Better China Trade Strategy’ November 1, 2018

 技術後発国は多かれ少なかれ技術先進国から技術を窃取しようとするものである。しかし中国による技術窃取のスケールはけた違いに大きい。中国は技術で米国に追いつくことを国策として推進しており、その手段の一つとして不法な窃取も国家主導で行っている。

 中国の近年の技術水準は著しく向上しているが、その少なからざる部分が窃取によるものと推定される。最大の被害者は技術で優位に立つ米国である。米国は以前から中国による技術の窃取に懸念を表明してきたが、最近危機感を強めている。中国の技術水準が急速に高まり、米国を急迫しているからである。

 米国は以前から中国に対し、知的財産権の窃取などに警告を発してきたが、ここにきて具体的な対策を取るようになった。その一つが報復関税で、 6月15日、中国による知的財産権に対する報復として、中国の対米輸出品500億ドルに関税を付加すると発表し、その後2段階に分け、実施した。しかし関税が知的財産権の窃取に対する有効な手段とは思われない。むしろ知的財産権の窃取を口実に関税を付与した感すらある。

 このような状況の中で、告訴がなされた。これは、米国の情報機関と司法省が協力して、米国の先端技術を窃取しようとする中国のスパイやハッカーを逮捕するものである。スパイ行為を法律で取り締まることになると、機微な情報が公にされるおそれがあるが、機密保持もさることながら、窃取を厳しく罰し、少しでもそれを減らすことを優先させるということであろう。そのうえ告訴は、単に違法行為を追及するのにとどまらず、中国のスパイ技術の詳細を明らかにするという。告訴方式は今後ますます強化されていくだろう。

 しかし、技術の窃取の防止は容易ではない。特にサイバーによる技術の窃取に有効に対処することは多くの困難が伴う。サイバー攻撃への対処が進歩すれば、それを回避するようなサイバー技術が開発され、鼬ごっことなる恐れもある。 そのうえ中国は、米国が告訴など技術窃取対策を強化しても、技術窃取は止めないだろう。今後とも長きにわたり技術窃取をめぐる米中の攻防が続くものと思われる。

 中国の技術窃取については、最大の標的である米国のみならず、欧州、日本も大いに関心がある。欧州、日本も米国と協力して、中国による技術窃取を強く非難し、その防止に協力すべきである。

【私の論評】「産業スパイ天国」をやめなければ日本先端産業は米国から制裁される(゚д゚)!

米中貿易戦の激化で、中国当局による外国企業に対する技術移転の強要が批判の的となっています。米企業は、中国当局の技術移転の強要、企業の競争力が低下し、イノベーションの原動力が失ったと訴えています。ホワイトハウスの試算では、強制技術移転によって米企業は毎年500億ドルの損失を被っています。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が9月28日伝えました。

中国当局は現在、化学製品、コンピューター用半導体チップ、電気自動車など各分野の外国企業の技術を狙い、様々な方法を使っています。なかには、脅迫などの強制手段を用いることもあります。

WSJの報道によると、米化学大手デュポンは昨年、提携先の中国企業が同社の技術を盗もうしているとして、技術漏えいを回避するために仲裁を申し立てました。しかし昨年12月、中国独占禁止当局の捜査員20人がデュポンの上海事務所に踏み込み、同社の世界的研究ネットワークのパスワードを要求し、コンピューターを押収しました。当局の捜査員らは、同社の担当者に対して、提携関係にあった中国企業への申し立てを取り下げるよう命じたといいいます。

デュポン社商標

米中両政府と企業の関係者数十人の話と規制に関する文書に基づいて、WSJは中国当局が「組織的かつ手際よく技術を入手しようとして」との見方を示しました。その手法について、「米企業に圧力をかけて技術を手放させること、裁判所を利用して米企業の特許や使用許諾契約を無効にすること、独占禁止当局などの捜査員を出動させること、専門家を当局の規制委員会に送り込ませ、中国の競争相手企業に企業機密を漏らさせること」などがあるといいます。

同紙は、外国企業の中国市場への進出を認可する代わりに、その技術の移転を求めることは、党最高指導者だった鄧小平が考案した戦略だと指摘しました。

鄧小平

また、報道によると、上海にある米商工会議所が今春に行った調査では、5分の1の会員企業が中国当局に技術移転を強要されたことがあると答えました。

いっぽう、欧州企業も同様に、中国当局による強制技術移転を訴えています。9月18日に公表された中国のEU商工会議所2018年年度報告書によれば、中国に進出した1600社の欧州企業のうち、約2割が中国当局に技術移転を迫られたそうです。

EU商工会議所が3カ月前に、532社の欧州企業を対象に行った調査では、同じく2割の会社が中国当局から技術移転を強要されたと訴えたことが分かりました。

25日、トランプ米大統領は国連総会の演説で、中国当局が米企業の知的財産権を侵害していると批判したうえ、中国による貿易・経済面における乱用を容認できないと述べました。同時に、国際貿易体制の改革も呼び掛けました。

同日米ニューヨークで、日本、EU、米国の貿易担当閣僚による第4回三極貿易大臣会合が開催されました。3閣僚は、中国を念頭にした強制技術移転や政府補助金問題に懸念を示し、世界貿易機関(WTO)のルール見直しについて協議しました。

経済産業省によると、世耕経済産業大臣が議長を務めた同会合では、日米欧は強制技術移転や市場志向条件の2つの分野について、第三国による市場歪曲的措置の分析などの情報交換を実施することで合意しました。第三国はとは中国当局とみられます。

中国政府は約30年かけて、国家横断的な「技術略奪」のシステムをつくり上げてきました。シンプル化すれば、以下の3段階に分けることができます。
(1)欧米や日本に留学生を送り込み、先端技術を学ぶ。(2)留学生や海外の企業で働いた技術者を帰国させ、先端技術を持ち帰らせる(多くが非合法)。(3)海外で研究・開発を続けながら、本国に先端技術を流用する(非合法)。
日本のメーカーから「中国人技術者がある日突然いなくなる」のは、(2)のケースです。中国で高待遇で迎えられています。

パナソニックやソフトバンクといった日本を代表する企業が、米市場から排除されようとしているファーウェイなどとの共同開発を今も積極的に進めています。東大はファーウェイと理工系で横断的な共同研究を立ち上げています。

日本の大学と企業が無自覚につくり出している「産業スパイ天国」は、この1~2年で大きな転換を迫られることになるでしょう。

日本の政治指導者も、中国とのビジネスに関わっている多くの企業経営者も、今が約30年ぶりの転換点にあることを認識する必要があります。

90年代以降、アメリカは中国を自由経済体制に引き入れることで、民主的体制への転換を促す戦略をとってきました。しかしトランプ政権は昨年末、「われわれの希望に反した」として中国の共産主義体制と対決する路線に転じまし。トランプ氏は、「中国に都合のいい秩序」の破壊者になろうとしているのです。

中国の高速鉄道の技術は日本の新幹線技術の盗用とされている

日本の政府も企業も、中国の側に立つのか、アメリカの側に立つのか二者択一を迫られています。

トランプ氏は、アメリカが再び世界を引っ張る新しい秩序をつくるため、貿易や技術に関するルールを全面的に見直しています。

日本も足並みをそろえ、中国人留学生を無制限に受け入れる政策や、中国への技術移転を奨励するような政策を全面的に見直すしかないです。

米国のように、日中首脳会談で合弁事業による技術移転強制に抗議し、中国企業の日本への投資を厳格に審査し、ファーウェイやZTEなどを日本市場から排除するしかないでしょう。実際にその方向に進みつつあります。

さらに、これは昨日もこのブログに掲載したことですが、世界で日本にだけないスパイ罪(スパイ防止法)の制定も急ぐ必要があります。産業スパイ事件が起こっても、日本では窃盗罪など一般的な法律での処罰となります。日本国民を安全保障上の脅威にさらすスパイには、重罪を科すのが国際常識です。

世界一ともいえる「産業スパイ天国」を終わらせることが、中国の「技術略奪」の時代を終わらせることに直結します。と同時に、「世界秩序の破壊者」トランプ氏が目指す「米中冷戦」の勝利を一気に引き寄せることになるでしょう。

これをいつまでもグズグズ実行しなければ、日本の先端的な企業は中国への技術移転を防ぐために、米国から制裁をくらうことにもなりかねません。そのことを理解している経営者や研究機関はまだ少ないのではないかと危惧しています。

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