2020年9月3日木曜日

タイが潜水艦購入延期、コロナで崩れた中国の目論見―【私の論評】タイは日本から潜水艦を手にいれれば、圧倒的に有利になる(゚д゚)!

タイが潜水艦購入延期、コロナで崩れた中国の目論見

日本にチャンス到来、安倍首相の置き土産を無駄にしてはならない

(北村 淳:軍事社会学者)


S-26T潜水艦の原型となる中国海軍の元型潜水艦
S-26T潜水艦の原型となる中国海軍の元型潜水艦

 タイ政府は中国からの潜水艦輸入調達を、少なくとも1年間は棚上げにする決定を下した模様である。安倍首相が門戸を開いた「日本から国際社会に向けての戦略的兵器輸出」にとって、好機到来である。国際社会への戦略的兵器輸出によって、裾野の広い防衛関連産業が活性化し、ひいては日本経済再生の原動力の一つとなることが期待される。

兵器輸出の素人に立ちはだかった厚い壁

 かつて安倍首相はオーストラリアのアボット首相との信頼関係に基づいて、次世代潜水艦選定作業に取りかかっていたオーストラリア海軍に、「そうりゅう」型をベースとする潜水艦の売り込みを図ろうとした。

 しかし、すでに日本が参加する数年前から売り込み活動を開始していたフランスとドイツの壁は厚い上、本格的兵器輸出の経験とノウハウを全く持たない防衛省をはじめとする日本政府や日本防衛産業界は、潜水艦輸出という超大型取引の土俵に上がることすらできなかったというのが実情であった(参照:本コラム2016年4月14日「決定間近、オーストラリアは日本の潜水艦を選ぶのか」、2016年5月5日「素人には歯が立たなかった国際武器取引マーケット」)。

 今回のタイ海軍調達計画の一時的頓挫は、日本にとって潜水艦輸出再挑戦の機会となり得る事件と言えるかもしれない。

噴出した追加調達反対の声

 2017年にタイ政府は中国からの3隻の潜水艦調達を決定した。1隻目の元型S-26T潜水艦は現在中国で建造が進められ、2024年中にはタイ海軍に引き渡される予定となっている。

 2隻目、そして3隻目のS-26T潜水艦調達価格は約760億円(8月31日のドル円レート換算で)で、7年間にわたって支払われる予定となっていた。だがタイ国会の予算調査小委員会では、与党(プアタイ党)議員にも反対の立場を取る議員が存在したため、8月25日の潜水艦追加調達費決定会合において2隻目、3隻目の購入予算は僅差で可決された。すると、野党(民主党)はじめ多数の市民から潜水艦追加購入に反対する声が上がり、SNSなどを通して抗議活動は極めて強いものとなった。

 追加購入に反対したプアタイ党議員は「現時点で潜水艦追加購入を棚上げにしてもタイと中国関係に悪影響を及ぼすことはない。新型コロナウイルス対策、そして経済再生政策のほうが潜水艦調達よりもタイ国民にとって重要であることを、中国政府に納得させることができる」と述べている。

 同時に、中国からの潜水艦購入は国家間の公式契約ではなく、タイ海軍代表者と中国企業代表者が取り交わした契約であり、現在1隻の潜水艦を建造しているとはいえ、契約には引き続いて2隻目そしてそれ以上を購入しなければならないという取り決めはなされていない、とも指摘した。

場合によっては一時中断ではなく中止

 タイ海軍首脳は、このような指摘に対して、事実を歪曲していると反論した。そして、是が非でも少なくとも3隻の近代的潜水艦を手にしたいタイ海軍側は「タイ国防のために強力な潜水艦戦力は必要不可欠である」と、プラユット政権や与野党、そして多くの国民に対して、潜水艦購入調達の重要性を強調している。また「潜水艦調達は海軍戦略上の要請であり、政争の具にすべきではない」とも力説している。

 タイ政府当局も、潜水艦建造契約は政府間の契約であるとの立場を確認したものの、「新型コロナウイルス感染拡大によってタイ史上最悪と言われるほどの大打撃を受けているタイ経済の再建と、新型コロナ対策を優先的に推し進めよ」との世論や野党、そして一部与党の声に耳を貸さないわけにはいかなくなり、この時期における潜水艦の追加調達費計上に躊躇する姿勢が見え始めた。

 結局、プラユット・チェンオチャ首相(兼国防相、退役陸軍大将)が自らタイ海軍に対して、現時点での潜水艦追加調達要求を取り下げるよう説得し、タイ海軍としても2021年度予算における潜水艦追加調達費要求額をゼロとしたという。

 これによって、少なくとも1年間はタイ海軍による2隻目、3隻目の中国製S-26T潜水艦の調達計画は中断することとなった。そして、潜水艦追加調達予定額とほぼ同額が新型コロナウイルス感染に伴う経済再建策に対する予算として確保されたとのことである。

 7年間分割の潜水艦追加調達費とほぼ同額が緊急経済再建策に投入されるとなると、場合によってはS-26Tの追加調達は1年間の中断ではなく中止に追い込まれる可能性もあると考えられる。

安倍首相の置き土産を無駄にするな

 米国のオバマ政権は、タイで軍人政権が発足したことに反発して、それまで密接であった米軍とタイ軍の関係を弱体化させる政策を打ち出した。その状況を好機と捉えた中国政府は、タイとの軍事的関係を構築するため、タイ軍当局に対して戦闘車両の売り込みや潜水艦を含む軍艦の売り込みなどを強烈に推し進めた。その結果、タイ軍・政府当局は中国からの潜水艦や戦車の調達に踏み切ったという経緯がある(本コラム2015年7月2日「米国に衝撃、タイが中国から潜水艦を購入へ」、2016年7月14日「潜水艦3隻購入で中国に取り込まれるタイ海軍」)。

 それに対して、タイ軍との良好な関係を維持することの戦略的重要性を熟知していた米軍関係者たちは、オバマ政権がタイ軍事政権を冷たくあしらう姿勢を強く批判していた。現在、オバマ政権と違ってトランプ政権は、経済的のみならず軍事的にも対中国包囲網を構築しようとしている。したがって、アメリカとしては中国に取り込まれつつあるタイ軍を自らの陣営に引き戻す必要がある。

 そのための一手が、中国製潜水艦調達計画を頓挫させて、元型S-26T潜水艦2隻に取って代わる潜水艦をタイ海軍に供給することである。

 しかしながら、アメリカは原子力潜水艦しか建造することができず、タイ海軍に供給する潜水艦を建造することはできない。

 そこで出番となるのが、世界的にも高水準の潜水艦建造企業を2社も擁する日本である。

 日本メーカーの潜水艦は、S-26Tより高性能で世界中の海軍関係者から高い評価を受けている。タイ海軍が是が非でも欲しい高性能潜水艦を、日本政府が中国よりも好条件を提示して、2隻といわず4隻、そして6隻を供与するとの交渉を開始すれば、1隻のS-26Tという高い月謝を払ってしまったタイ海軍、そしてタイ政府が日本から調達する方針に転換する可能性がないわけではない。

 もちろん、中国側がそう簡単にタイ海軍への追加輸出を諦めることなどあり得ない。そして、タイでの好機に乗じて、韓国、フランス、ドイツ、スウェーデン、そしてロシアなども、すでに売り込み工作を開始しているかもしれない。

 日本政府はその競争に打ち勝つ覚悟を決め、安倍首相による置き土産ともなる「潜水艦の輸出」という防衛装備移転三原則の具体的推進を今度こそ成功させなければならない。

【私の論評】タイは日本から潜水艦を手にいれれば、圧倒的に有利になる(゚д゚)!

タイ王国海軍の空母チャクリ・ナルエベト


タイが中国から購入す予定の潜水艦は、原潜ではなく、非大気依存推進(AIP)機関を用いたものです。

原潜と通常型の潜水艦を比較すると、原潜は燃料として原子力を用いますので、一度潜水艦に原子炉を搭載すると、潜水艦の寿命が来るまで燃料を補給する必要はありません。

ただし、原潜といえでも、現状では乗員がいなければ、航行できないので、燃料補給は必要はないものの、水や食糧の補給と、交代要員を乗せるために、いずれかの港に定期的に入港しなけれぱなりません。ただし、燃料の補給は必要がないので、港に入港する頻度は原潜のほうが低いです。

さらに、通常動力潜水艦は、原子力潜水艦のように艦内で酸素を発生させることができません。また、真水の使用にも制限があるといいます。原子炉を持たないため、使ったバッテリーの充電や換気などをする目的で、定期的に海面に浮上する必要もあります。

このように、一見すると原子力潜水艦に劣るように思えるかもしれない通常動力潜水艦ですが、実は原子力潜水艦に勝る長所があります。1隻あたりの調達価格や放射性廃棄物の処理問題などもありますが、なによりもその「静粛性」です。

原子力潜水艦は、長期間に渡って潜航し続けることができますが、難点があります。それは「うるさい」ということです。原子炉で発生させた蒸気を使ってタービンを回し、その力でプロペラ軸を回しますが、この時に使う減速歯車が騒音の原因といわれています。タービン自体は高速で回転させるほうが効率も良いのですが、そのまま海中でプロペラを回転させるとさらなる騒音を発生させるために、減速歯車を使ってプロペラ軸に伝わる回転数を落とす必要があります。

ほかにも、炉心冷却材を循環させるためのポンプも大きな騒音を発生さるといいます。このポンプは静かな物を採用することによって、かつてに比べ騒音レベルは下がってきているといいますが、頻繁に原子炉の停止・再稼動をさせることが難しい原子力潜水艦においては、基本的にこのポンプの動きを止めることはできません。

093B 核潜水艦(SSN)

対する通常動力潜水艦は、原子力潜水艦が不得意とする静粛性に優れています。なぜならば、ディーゼル機関等を止めてバッテリー駆動に切り替えることによって、艦内で発生させる音をほぼ皆無にすることができるからです。この場合、唯一の音の発生源は乗員の発する音なので、例えば海上自衛隊の潜水艦の艦内には多くの場所に絨毯が敷かれ、艦内を歩く隊員の足音すら発生させないような工夫が施されています。

海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦には、従来タイが中国から購入することを予定した「AIP(非大気依存推進)機関」が搭載されていました。これは簡単にいうと、ヘリウムガスを加熱、冷却して得られる体積の変化を利用し動力を得るという装置です。これにより、従来のバッテリー駆動と比べて潜航時間が延びたといいます。

ただし、このAIP機関はあくまでもディーゼル機関の補助装置なので、AIP機関をメインにずっと行動し続けることはありません。ではどのような時に使うのでしょうか。それは、海底深くに身を潜めている時です。

海上自衛隊は、敵潜水艦の行動を探知するべく、日本の近海に潜んでいます。もし、敵潜水艦が近づいてきた場合、ディーゼル機関を停止させて、補助動力装置に切り替えます。ここで海上自衛隊の潜水艦は、ほぼ無音状態になります。視界も電波もさえぎられる水中、敵は音を探知しながら進んできますが、音を発しないこちらの姿を探知することは、ほとんどできないと言います。まるで、ニンジャの様にその姿を隠すことができるのが、通常動力潜水艦艦の強みです。

専守防衛を掲げる日本の場合、原子力潜水艦よりも通常動力潜水艦の方が圧倒的に有利に戦うことができるのです。タイ海軍でも、通常型潜水艦の方が圧倒的に有利なので、通常型潜水艦の購入を目指したのでしょう。

呉の潜水艦基地に向かう日本のそうりゅう型潜水艦

兵庫県神戸市の三菱重工業神戸工場で今年の3月5日、海上自衛隊の新潜水艦「おうりゅう」の引き渡し式が開かれました。海自の主力潜水艦「そうりゅう型」の11番艦で、潜水艦の推進力としてリチウムイオン蓄電池搭載の通常動力型潜水艦としては世界初めてとなります。

そうりゅう型11番艦のおうりゅうからは、前述のスターリングエンジンを廃止した。鉛電池に替えて、GSユアサが開発したリチウムイオン蓄電池を搭載する。

リチウムイオン電池技術を採用し、ディーゼルエンジンを使う通常動力型潜水艦は、実は日本が世界で初めてだ。この点で、おうりゅうは日本の最新技術の結晶と言える。リチウムイオン電池の蓄電量は鉛酸電池の2倍以上といわれ、水中航行能力が高くなり、潜航時間も大幅に延ばすことができる。さらに忘れてならないのは、静寂性も増すということです。

この静寂性は世界でも群を抜いているというか、おそらく世界一です。ただし、潜水艦に関しては、世界各国が詳しいことは秘密にしているため公式の資料からは伺い知ることはできませんが、日本の工作技術が世界一ということや、リチュウムイオン電池で推進することから、ほとんど無音であり、おそらく世界で最も静寂性に優れていると言って良いでしょう。

さらに、中国の対潜哨戒能力が低いこともあいまって、日本の潜水艦を中国側は探知することができません。これは、何を意味するかといえば、日本の潜水艦は中国に探知されることなく、あらゆる海域を航行でき、いつでも中国の艦艇を撃沈できるということです。

実際、日米の潜水艦は、模擬訓練で何度も中国の空母「遼寧」をはじめあらゆる艦艇を模擬攻撃して、撃沈に成功しているといわれています。

一方中国の通常潜水艦は、日本の通常潜水艦と比較すると、はるかに静寂性で劣っているため日本側にすぐに探知されてしまいます。

たとえば、今年6月、奄美大島周辺の接続水域を中国の潜水艦が航行という出来事がありましたが、これは日本側が探知できたからこそ、このような発表をしたということです。

私ははおらくこの時の中国の潜水艦は、中国では静寂性にすくれた最新の通常型だったのだと思います。中国側としては、意図的に日本の接続海域を航行させて、日本側が探知できるのか、探知できるとしてどのタイミングで探知できるのかなど、いろいろ試したのでしょう。

その結果、すぐに発見されてしまったということです。しかし、発見できるということは、日本側が優位にたっているということです。発見できなければ、大変なことです。潜水艦を探知した情報に関しては、探知能力にもかかわることなので、通常は発表しないことが多いのですが、探知能力に自信のある日本側はあえて発表したのでしょう。

日本の潜水艦は、中国に探知されないことから、南シナ海や東シナ海の海域を自由に航行していることでしよう。もしかすると台湾海峡や黄海も航行してるかもしれません。ただし、これは軍事機密なので、たとえそうであったにしても公表はされません。しかし、中国側がこれを発見した場合は、少なくとも人民日報などでは報道されるはずですが、未だにそのような発表はありません。

やはり、中国の対潜哨戒能力は未だに劣っているということだと思います。尖閣付近で中国艦艇が傍若無人な真似を繰り返していますが、未だに尖閣を奪取できないでいるのは、このような事情があるからと思います。中国が尖閣を奪取しようとすると、東シナ海に潜んでいる日本の潜水艦から攻撃を受ける可能性がありますし、中国にはそれを排除する術はないからです。

このようなことを考えると、やはりタイは日本から潜水艦を購入すべきでしょう。もしそうなれば、タイは中国側から補足されない潜水艦を手にいれることになり、軍事バランスが崩れ
タイにとってかなり有利になります。中国だけでなく、周辺諸国ににらみを利かすことができます。

タイが中国の潜水艦を購入した場合は、中国の潜水艦に装備されている電子機器には、バックドアが隠されていて、様々な情報を中国側に伝えるだけではなく、タイが中国に敵対する行動をとった場合には、電子機器を無効にされたり、潜水艦自体に何らかの損傷を与え、航行できなくなるすることさえ、想定されます。

さらには、現在は米中冷戦の真っ只中です。そのような最中には、中国に利するような行動をとれば、米国に制裁されかねません。そのようなことは、タイも避けたいでしょう。

おうりゅうに続く、そうりゅう型の最終艦の12番艦となるのが「とうりゅう」です。2019年11月6日にその命名・進水式が川崎重工業神戸造船所で行われました。

海上自衛隊は、そうりゅう型の後継艦として、今後は新型のソナーシステムを装備して探知能力などが向上した新型潜水艦(3000トン型)を配備します。海上幕僚監部広報室によると、三菱重工業神戸造船所でその1番艦、川崎重工業神戸造船所でその2番艦がそれぞれすでに建造中です。2019年度予算ではその3番艦建造費として698億円、2020年度予算ではその4番艦建造費として702億円がそれぞれ計上されています。

日本の潜水艦は三菱重工業神戸造船所と川崎重工業神戸造船所が隔年で交互に建造しています。

海自は、おうりゅうの就役で護衛艦48隻、潜水艦20隻の体制を整えたことになります。そうして、2018年12月に閣議決定された新たな防衛大綱に基づき、これを護衛艦54隻、潜水艦22隻に増勢することにしています。海自7隻目のイージス艦となる護衛艦「まや」は今年3月19日に中に就役しました。

米国が通常型潜水艦を作らなくなってから、日本の通常型潜水艦は、世界一の水準になったといえるでしょう。ただし、この潜水艦は日本の生命線でもあります。中国が未だ尖閣を奪取できないことや、未だ第二・第三列島線はおろか、第一列島線すら確保できないのは、日本の潜水艦の優位性ならびに日本の哨戒能力の優位性が保たれているからです。この優位性はこれからも、死守すべきです。

タイが要望すれば、日本は日本の安全保障のためにも、タイに潜水艦を売るべきとは思いますが、航行方法や他の操艦方法は、教えるにしても、潜水艦の根幹部部はブラックボックスにしておき、航行に関わるような重要な部分の修理は日本側が行うようにすべきです。その条件のもとで、タイに販売すべものと思います。

なお、日本が潜水艦をタイに販売できれば、財政が潤うなどと考える人もいるかもしれませんが、コロナ禍で経済が停滞している現在、日本がまともな減税など、まともな財政政策や、制限なしの金融緩和策等の経済政策をとれば、タイに潜水艦を数隻売るよりも、はるかに経済が潤います。

潜水艦を数席売ったくらいでは、日本の経済の規模からいえば、焼け石に水にすぎません。やはり、潜水艦を売る売らないは、日本の安全保障を第一に考えるべきです。タイに日本の潜水艦が配備されれば、タイだけではなく日本にとっても安全保障上好ましいというなら、販売すべきです。

コロナ以前に、アウトバウンド消費が脚光を浴びていましたが、それは全体からみれば、ほんのわずかのものでした。わずかのアウトバウンドをあてにして、中国などに媚びを売るようなまねはすべきではありません。潜水艦のタイへの販売も同じことです。

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2020年9月2日水曜日

台湾接近の米国がサラミ戦術で打砕く「一つの中国」―【私の論評】米国のサラミ戦術のサラミは、中華サラミよりもぶ厚い(゚д゚)!

台湾接近の米国がサラミ戦術で打砕く「一つの中国」

じわじわと台湾支援を増強するトランプ政権

台湾を訪問し中華民国総統府でスピーチする米国の
                                       アレックス・アザー厚生長官(2020年8月10日)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 米国政府の台湾への接近が顕著となってきた。台湾への武器売却、米国政府閣僚の訪問、米台自由貿易構想の前進など、トランプ政権や議会の最近の措置はいずれも中国政府の激しい反発を招いている。

 米国の一連のこうした動きは、米中関係の基本を長年、規制してきた「一つの中国」の原則を放棄する展望さえもにじませる。米国はついに「一つの中国」原則を切り捨てるのだろうか。

「一つの中国」原則に縛られないトランプ政権

 米中両国は1979年の国交回復以来、米国は中国側の「一つの中国」原則を支持する立場をとってきた。米国は中華人民共和国を「中国の唯一の合法政権とみなす」という趣旨である。「一つの中国」原則に厳密に従えば、台湾、つまり中華民国は中華人民共和国の一省に過ぎず、政府扱いはできないことになる。米国の歴代政権はこの原則をほぼ忠実に守ってきた。

 しかしトランプ大統領は、就任直前に台湾の蔡英文総統と直接会話した際、「中国が貿易面での合意を守らない以上、米国がなぜ『一つの中国』の原則に縛られねばならないのか」という疑問を呈した。また、それ以降の一連の公式声明でも、トランプ政権は「我々が解釈する『一つの中国』原則」という表現で、同原則に対する米側の解釈は中国側とは必ずしも同一ではないという点を明解にしてきた。

 実際にトランプ政権の最近の言動は、中国側の唱える「一つの中国」原則に明らかに違反しかねない点が多くなった。たとえば、最近米国は以下のような動きを見せている。いずれも中国政府が反対する動きである。

【米国の政府高官が台湾を訪問】米国政府のアレックス・アザー厚生長官は8月に台湾を訪問して蔡英文総統と会談した。この閣僚訪問は、トランプ大統領が議会の法案可決を受けて施行した「台湾旅行法」の結果でもあった。

【台湾に武器を売却】中国政府の全面的な反対を押し切り、トランプ政権は昨年(2019年)から今年にかけてF16戦闘機66機、エイブラムス型戦車108台を台湾に売却した。さらに高性能の魚雷1億8000万ドル相当の売却を決めている。

【台湾との自由貿易協定に前向きな姿勢】米台間の自由貿易協定は台湾側が年来、希望してきたが、米側の歴代政権は中国への懸念などから対応しなかった。この構想にトランプ政権は前向きな姿勢をみせるようになった。とくに現在の米国議会には協定を推進する声が強くなった。

【米軍が台湾支援へ】米国海軍の艦艇が台湾海峡を頻繁に航行することにより、中国軍への抑止の姿勢を明示するようになった。米空軍の戦闘機なども台湾領空周辺での飛行頻度を増して、中国空軍への牽制を示すようになった。

【米国政府高官が台湾支援を表明】トランプ政権のポンペオ国務長官やポッティンジャー大統領補佐官が台湾の民主主義を礼賛し、米台連帯を強調するようになった。すでに辞任したボルトン大統領補佐官は政権外で、台湾政府を外交承認することまで唱えている。

【米国の「台湾防衛」明確化への動き】米国政府は「台湾関係法」により、防衛用の兵器を売却する形で台湾防衛を支援してきた。だが台湾が中国から武力攻撃を受けた際の対応は明確に定めていない。その曖昧な支援を「確実な台湾防衛支援」へ変えようという提案がトランプ政権内外で高まってきた。

 以上のような動きは、トランプ政権が議会の了解を得て長年の「一つの中国」原則を放棄する方向へと進む可能性を示しているともいえる。

 トランプ政権はまだその種の決定的な動きをとってはいない。しかし現在の米国では、とくに中国政府が香港に関する「一国二制度」の国際誓約を破ったことへの非難が高まっている。その動きがトランプ政権の台湾政策変更という可能性を生み出しつつあるというわけだ。

米国が実行している「サラミ戦術」

 トランプ政権の「一つの中国」原則への現在の態度について、中国の政治動向や米中関係の動きに詳しい「戦略予算評価センター(CSBA)」のトシ・ヨシハラ上級研究員は次のような分析を語っている。

 「現在、トランプ政権は台湾政策として『一つの中国』原則をサラミのように切り削いでいるといえる。その原則の実質を少しずつ切り落として、なくしていこうというわけだ。ただし一気に現行の政策を除去するわけではないので、中国は決定的な対抗措置をとることはできない。しかし米側の除去策は、少しずつにせよ中国側に不満やいらだちを生じさせるに足る動きだといえる。だからこのサラミ戦術はきわめて有効だろう」

 ヨシハラ氏の以上の見解は、控えめながら、トランプ政権がもはや従来の「一つの中国」政策は守らず、台湾への支援を着実に増していく流れを明示したといえる。米台関係、そして米中関係はそれぞれの根幹部分で決定的に変化していくことになりそうだ。

【私の論評】米国のサラミ戦術のサラミは、中華サラミよりもぶ厚い(゚д゚)!

中国の得意とするサラミ戦術とはどのようなものなのか、ここで振り返っておきます。これについては、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国、印北東州で道路建設 インド側反発「インフラ整備で領有権主張する常套手段」―【私の論評】中華サラミ戦術には逆サラミ戦術で対抗せよ(゚д゚)!

この記事よりサラミ戦術の事例を引用します。

"
むかしむかし、小さな駄菓子屋を一人できりもりしているばあさんがいました。その駄菓子屋は広い道路に面していて近くに中学校もあったのですが、売り上げは思わしくなくばあさんは質素な暮らしを強いられていました。 
その中学校は田舎の中学校のため、バスで通学している学生も多かったのです。バス停はばあさんの店から十メートルほど離れたところにあり、登下校の時間になると学生たちで賑わっています。あの学生たちが店に来てくれれば……。そう考えたばあさんは一計を案じました。その日から、毎日夜になるとこっそりとバス停を店の方向に動かしたのです。バレないように、一日に五ミリずつ。 
そして数年後。バス停はばあさんの店の真ん前に移動し、店はバス待ちの学生たちで賑わうようになった、といいます。
この話は、本当なのかどうかはわかりませんが、何かを一気に動かすと多くの人々に気付かれるのですが毎日少しずつ動かしていると意外とバレないものなのです。カツラも同じです。ある日突然、急激に髪の毛が増えるとこれは絶対にカツラだとバレます。だから少しずつ植毛していき、不自然にならないように増やしていくのです。

それはともかく、この現象はやはり人間の認識能力の盲点を突いたものでしょう。大脳の空間識野は、特に急激な変化、すなわち微分情報を抽出するように働きます。それゆえ、微分量が少ない緩やかな変化は認識されにくくなっているのです。

なぜこのような働きをするようになったのかは、進化論で簡単に説明がつきます。ある動物の認識する外界は、動くものと動かないものに大別されます。動かないものというのは、大地・山・樹木などです。これらはその動物にとって、友好的ではないが敵対的でもありません。中立なのです。ゆえに、特殊な場合をのぞいてはこれらの動かないものに注意する必要はないです。

これに対して動くものは要注意です。動くものは、さらに三種類に分けられます。すなわち、敵・餌・同種の異性です。敵からは逃げねばならぬし、餌と同種の異性は追いかけねばならないです。これらを素早く発見することは、生きていくためには重要な能力です。したがって、動くもの、すなわち微分量が大きいものを認識する能力が進化の過程で身についたのでしょう。



これと、似たような話で、「サラミ戦術」というのがあります。サラミ戦術(サラミせんじゅつ、ハンガリー語: szalámitaktika [ˈsɒlɑ̈ːmitɒktikɒ] サラーミタクティカ)とは、敵対する勢力を殲滅または懐柔によって少しずつ滅ぼしていく分割統治の手法です。 別名サラミ・スライス戦略、サラミ・スライシング戦略ともいわれます。

"
中国のサラミ戦術というと、やはり南シナ海の中国による違法支配が筆頭にあげられるでしょう。中国は、1980年代から最初に南シナ海の領有権を主張し、その後に南シナ海の浅瀬に、ほんの数人しか住めないような掘っ立て小屋を建てました。そうして、その掘っ立て小屋に交代で、中国人を住まわせ、実行支配の準備にとりかかりました。

その頃の中国は、現在のように大規模な埋め立ての技術もありませんでした。だからできるのはそのくらいだったのです。それでも、中国は周辺諸国の様子を探りつつ、掘っ立て小屋の数を増やすとか、掘っ建て小屋の規模を大きくしていきました。

この間、無論フイリピンやベトナムなどの南シナ海の周辺国は、これに抗議をしたのですが、中国は艦艇を送り込むなどして南シナ海の掘っ立て小屋を守り抜きました。

南シナ海の中国構築物

そうして、このくらいの規模だと、米国をはじめとする先進国も、これに強く非難をしても、軍事的な手段を講じるということはしませんでした。先進国としては、中国が豊かになれば、自分たちと似た体制になり、もっとまともになるだろうと考えこれを放置しました。それに中国の大きな市場に目がくらみ、中国と大きなビジネスができることに期待し、南シナ海の中国の無法を放置しました。

その後も中国は南シナ海への進出を継続し、最初は掘っ立て小屋だった構築物がだんだんと手のこんだものになっていきました。

そうして、2015年5月21日、米CNNテレビは南シナ海上空を飛行する米海軍P8哨戒機に同乗取材して中国によるサンゴ礁(環礁)埋め立ての様子を放映し、全世界の注目を集めました。

これは9日後、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)における米国防長官による埋め立て即時中止要求と中国人民解放軍参謀副総長の強固な反論の応酬へと続き、米中関係緊張に発展しました。

また6月8日の主要7カ国首脳会議(G7サミット)首脳宣言には「威嚇、強制又は武力の行使、大規模な埋立てを含む現状の変更を試みるいかなる一方的行動にも強く反対」という文言が盛り込まれ、本件に対する国際社会の厳しい反応を中国に突き付けました。

この頃になってはじめて、米国などの世界の国々が、中国の南シナ海の違法支配に関して、脅威を感じるようになりました。

2016年には、国際司法裁判所が中国の南シナ海支配には、何の根拠もないと裁定しました。しかし、その後も中国は、退く気配をみせず、埋めたてた緩衝を軍事基地にするなどことを強行しました。

さて、冒頭の記事では、米国がこのサラミ戦術を取り始めて、成功していることを指摘しています。そうして、これは有効だと思います。

先にあげたこのブログの記事でも、「逆サラミ戦術」を提唱しました。この記事より、「逆サラミ戦術」に相当する部分を以下に引用します。
私はサラミ戦略に対しては、「逆サラミ戦略」という戦略を採用すべきだと思います。 それは、さきほどのバス停を動かした婆さんのたとえでいえば、バス停が動いたと認識した段階で、それを元に戻すのです。元に戻すにしても、いきなり元の位置に戻すというのではなく、これも一度に5mm程度を戻すのです。 
これは、婆さんが毎日5mm動かしているとすると、ある時点で、婆さんが日々5mm移動しても、バス停は全く動かなくなることを意味します。そうすると婆さんは、動かしても無駄だと思うようになり、諦めてしまいます。 
諦めた後でも、毎日5mmずつ動かすのです。そうして、元の場所に戻ったら動かすのをやめるのです。このやり方を「逆サラミ戦略」とでも名付けたいと思います。
このように実行していけば、中国も米国が台湾を支援することに非難はするでしょうが、逆サラミ的にやられると、非難はしてもすぐに直接何らかの手段に打って出るということはできないでしょう。何か極端なことをすれば、世界中の国々が中国を避難し、米国は、さらに中国に対する制裁を強化することになるだけでしょう。

米国は、これからもサラミ戦術的に、台湾を支援したり、南シナ海の周辺国を支援していくことでしょう。

ただ、米国と中国のサラミ戦術には違いもあります。中国が南シナ海でサラミ戦術を始めたときには、軍事力や経済力や技術力でも、米国にはおよびもつきませんてじた。だから、雄大な戦略はあったにしても、戦術はサラミ戦術を実行するしかなかったのです。

そのサラミ戦術も、毎年ほんのわずかの、本当に薄い透けて裏がみえてしまうようなペラペラのサラミで実行するしかなかったのです。だかこそ、南シナ海を現在のレベルにもっていくのに何十年もかかったのです。

しかし、米国は違います。今でも米国は世界唯一の超大国であり、軍事力は中国などより群を抜いて世界一であり、金融支配力でも群を抜いて世界一であり、その他の技術等も世界一です。

だから、同じサラミ戦術をとるにしても、薄い透けて裏がみえてしまうようなペラペラのサラミで実行する必要はなく、かなり厚めのサラミスライスで実行することができます。

中国が南シナ海を今のレベルまで、違法支配するまでに必要とした年月は、数十年でしたが、米国がこれを無効化するには、数年から長くて10年で十分でしょう。

中国が南シナ海の違法支配を現在のレベルまでに持っていったサラミスライスは数も種類も限られたたので、数十年もかかったのですが、関税や、金融制裁、軍事力、様々な技術の遮断、その他、ありとあらゆる種類の分厚いサラミスライスを駆使できます。

特に軍事力では、日米に潜水艦はステルス性に優れ、中国側に発見されずに、南シナ海の海を自由に航行できますが、中国の潜水艦はステルス性でかなり劣るので、日米はこれを簡単に補足できます。米国などの潜水艦で、南シナ海の中国の緩衝埋立地を包囲してしまえば、中国は手も足も出ません。

南シナ海で、米国は中国に負けるなどと、あらゆる屁理屈をつけて述べている軍事評論家もいますが、そのような人に、「米国は南シナ海では潜水艦を運用しないのですか」と質問してみましたが、未だに返事がかえってきません。私は、米国は空母なみの破壊力のある潜水艦を米軍が使わないということは、ありえないと思います。

そもそも、米国の戦略化ルトワック氏は、中国の南シナ海の軍事基地は、象徴的なものに過ぎず、米国が本気になれば、5分で吹き飛ばせるさ指摘しています。

台湾も、南シナ海や、東シナ海でも、中国は米国の分厚いサラミ戦術で、いずれ八方塞がりになるでしょう。

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2020年9月1日火曜日

石破氏、自民党内でこれだけ嫌われるワケ 「後ろから鉄砲を撃つ」「裏切り者」「言行不一致」―【私の論評】石破氏だけは、絶対に日本の総理大臣にしてはいけないその理由(゚д゚)!


世論調査では人気が高い石破氏だが…

安倍晋三首相の後継を選ぶ自民党総裁選で、石破茂元幹事長(63、石破派19人)が劣勢に立たされている。報道各社の世論調査では、「ポスト安倍」に期待する人物としてトップに名前が挙がるが、党内の評判・評判は違うようだ。どうやら、「自民党離党の過去」「派閥結成の経緯」「後ろから鉄砲を撃つような言動」が影響しているようだ。

 石破氏は4度目の総裁選挑戦に並々ならぬ意欲を見せて、テレビやラジオに頻繁に登場している。だが、党内では孤立気味だ。なぜ、これほど嫌われているのか。

 まず、露骨に「倒閣」に動いた過去が大きい。

 石破氏は1993年、宮沢喜一内閣の不信任案に賛成して離党し、「政界の壊し屋」こと小沢一郎衆院議員と行動をともにした。このため、党内には、「党が苦しい時に出ていった裏切り者」との声が根強い。

 復党後の2009年には、麻生太郎内閣の農水相でありながら、与謝野馨元財務相と官邸に乗り込み、麻生氏に退陣を迫った。寝首をかきに来た石破氏に、麻生氏らはいまも不信感を募らせている。

 言行不一致も指摘される。

 安倍内閣の幹事長時代、「派閥政治を解消する」と言いながら、15年には自らの派閥を立ち上げて、党内であきれられた。

 発言・発信内容が、疑心暗鬼を生んでいる面もありそうだ。

 昨年8月23日付のブログでは、韓国政府が日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めた背景について、「日本が敗戦後、戦争責任と正面から向き合ってこなかったことが問題の根底にある」と発信して話題となった。党内で疑問視されただけでなく、ネット上では「鳩山由紀夫元首相とソックリだ」などと批判された。

 今年7月2日の共同通信加盟社論説研究会での講演では、安倍政権の「米軍普天間飛行場の危険性除去には、名護市辺野古への移設が唯一の解決策」とする方針に、「これしかない、とにかく進めるということだけが解決策だとは思わない」と疑義を示した。

 左派野党やメディアと重なる発言内容が、沖縄や野党支持者の評価を得た可能性はある。

 ただ、中国の軍事的覇権拡大が強まるなか、日本の安全保障のためにも同盟国・米国との約束を重視する自民党主流派とは距離を広げたようだ。

【私の論評】石破氏だけは、絶対に日本の総理大臣にしてはいけないその理由(゚д゚)!

石破氏が、特に保守派議員に蛇蝎のごとく嫌われるにはわけがあります。このブログでは、2013年( 平成15年 自民党総裁選の時期)に、故渡部昇一先生が石破氏のことを指摘した内容を掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
石破氏、ポスト安倍狙う“秘策” 党総裁選改革案は「ゲルマンダー」―【私の論評】安部総裁の本来の勝負は平成15年の自民党総裁選!ここで石破総裁が誕生すれば「戦後体制からの脱却」は遠のき、失われた40年が始まる!(◎_◎;)

虎視眈々と自民党総裁の椅子をうかがう石破幹事長
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に少し長いですが、引用します。

"
雑誌「2008年WILL6月号」で渡部昇一氏が石破大臣を国賊だと批判していました。

石破氏の中国の新聞に載せられたインタビュー記事は衝撃的であり、この件について当時政府が何も動かなかったことも驚愕です。中国の情報工作はますます進み、当時の石破大臣も篭絡されたのではないでしょうか?だとすれば、末恐ろしいことです。

以下にこの渡辺昇一氏の記事の一部を引用します。

故渡部昇一氏
石破大臣の国賊行為を叱る
渡部昇一
中国共産党の新聞「世界新聞報」(1/29)に駐日記者が石破茂防衛大臣の執務室でインタビューした記事を載せた。 
【石破防衛相の発言】 
●私は防衛庁長官時代にも靖国神社を参拝したことがない。第二次大戦の時に日本の戦争指導者たちは、何も知らない国民を戦線に駆り出し、間違った戦争をした。だから私は靖国神社に参拝しない、あの戦争は間違いだ、多くの国民は被害者だ。 
●日本には南京大虐殺を否定する人がいる。30万人も殺されていないから南京大虐殺そのものが存在しないという。何人が死んだかと大虐殺があったかは別問題だ 
●日本には慰安婦についていろいろな見解があるが、日本軍が関与していたことは間違いない。 
●日本人が大東亜共栄圏の建設を主張したことは、侵略戦争に対する一種の詭弁だ。 
●(中国は日本に対する脅威であるから対中防衛を強化せよという人たちは)何の分析もしないで、中国は日本に対する脅威だと騒いでいる。 
●日本は中国に謝罪するべきだ。
これではまるで稚拙なサヨク学生の言い草ではないか。ギルト・インフォメーションに基づく戦後自虐教育の落とし子そのものである。 
これが事実だとすれば石破茂防衛大臣に対する認識を改めねばならない。 
「WILL」編集部が石破茂防衛大臣に確認したところ、事務所から次の回答が来たという。
問 1月29日付け「世界新聞報」に石破防衛大臣の執務室での独占取材内容が掲載されているが、この取材は実際に受けたものか。 
答 実際に受けたものです。 
問 いつの時点で取材を受けたのか。 
答 平成19年11月21日(水)に取材受けいたしました。 
問 掲載された内容は、石破防衛大臣が話した事実に即しているのか。 
答 インタビューを先方が記事にまとめたものですので、事実に即していないと言うほどではありませんが、事実そのままでもありません。 
問 記事が事実に即していない場合、それに対してなんらかの対処をされたか。 
答 前の答えの通り、どのマスメディアでも発言を加工することはありますので、特別対処というほどのことはしておりません。 
いやはや、恬として恥じない石破氏はアッパレ! 
しかし、この大臣の下で働く自衛隊のみなさんの心情を考えると哀れである。 
その著書「国防」を当ブログでも紹介し、軍隊でないために行動基準がネガティブリストではないこと、軍法会議がないこと、NTP体制は「核のアパルトヘイト」だという発言を好意的に取り上げたが、所詮は単なる「軍事オタク」で国家観も歴史観も持ち合わせていないことが判明した。 
ブッシュ(父)大統領がハワイ在住の日系人の式典で「原爆投下を後悔していない
(I am not sorry)」と発言したことについて、渡部氏はいう。 
「他国に簡単に謝罪するような人間は、大統領はおろか、閣僚にも絶対になれません。それが諸外国では当たり前です」 
野党首相の村山富市は言うに及ばず、宮澤喜一、河野洋平、加藤紘一その他の謝罪外交を繰り返した政治家たちは「当たり前」ではないのである。 
石破茂防衛大臣もその一人として辞任を要求する。
"
これでは、保守派の議員から蛇蝎のごとく嫌われるのも納得がいきます。それに、この記事にも掲載しましたが、石破氏は典型的なマクロ経済音痴で、彼の経済政策は財務省のいいなりであり、もし彼が総理大臣になれば、消費税増税は当然のこと、コロナ復興税制を財務省とともに強力に推進することになるでしょう。そうすると、日本はまた超デフレ、超円高になるでしょう。

そうなると、日本の製造業は、かつてのように日本国内で製造するよりも、中国で製造して、それを日本国内に輸入したほうがコスト安ということで、日本の産業中国を助けるということになります。

金融政策にも無頓着ですから、石破氏のマクロ経済音痴に乗じて、日銀は金融引締に転じるかもしれません。そうなると、せっかくアベノミクスの金融緩和でかつてないほどに改善した雇用がまた悪化することになります。石破氏が総理大臣になれば、安倍内閣が成立してから、みられなくなった、年末の派遣村が恒例になることでしょう。

安倍政権が登場するまで毎年恒例となっていた「年越し派遣村」

ただし、これについては、自民党内も財務省の洗脳にかかって、多くの議員が石破氏と同じような考えを持っています。そうでないのは、安倍総理、菅氏、そうして最近の麻生氏と安倍総理の取り巻き等のごく一部の人間です。それにしても、マクロ経済音痴の政治家はともかくとして、市場関係者は石破氏が総理大臣になれば、とんでもないことになると考えています。

さらに、石破氏は昨年12月26日、CS-TBS番組の収録で、皇位継承のあり方について「皇室が途絶えることは国の本質が変わることだ。女系だからダメだという議論には賛同していない」と述べ、「女系天皇」の容認を含めて議論すべきだとの考えを示しています。
石破氏は収録後、記者団に「男系、女系ということだけで(皇位継承を)決めることなのか。お生まれになったときから、天皇として国民統合としての務めを果たすため、常人の及ばざる努力をしてこられた方がふさわしい」とも語りました。
石破氏は平成29年1月、上皇さまの譲位をめぐる法整備に関し「男系男子による皇位継承を基本としつつ、女系天皇の可能性もあえて追求し、早急に解を求めるべきだ」とする書面を党本部に提出していました。
これも、自民党の内の保守派をイラつかせる原因にもなったと思います。石破氏は、このブログにも最近掲載した記事でも指摘したように、女性天皇と女系天皇の区別もついていないようです。

これでは、自民党のほとんどの議員が、石破氏が総理大臣になることを反対するのも無理もありません。マスコミは別として、市場関係者も石破総理大臣は願い下げです。石破氏は、立憲民主党にでも行って、代表を目指してはいかがでしょうか。

金利を上げると、景気が良くなるとか、デフレが脱却していないにもかかわらず、最低賃金をあげるべきと主張している枝野氏と意気投合できるかもしれません。ちなみに、金融緩和をせずに最低賃金だけをあげた韓国では、最初から予想されたように失業率がさらに上がり深刻な状態になっています。

枝野氏は、しばらくの間立憲民主党の代表を勤めるでしょうが、枝野氏とて、いずれ代表を辞するときがきます。そのときには、石破氏が代表になれるかもしれません。あっ!そのときには、立憲民主党自体がなくなっているかもしれません。

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2020年8月31日月曜日

「破綻国家」一歩手前のレバノンを蝕む政治的腐敗―【私の論評】まず覚醒しないあなたから、レバノンにどうぞ(゚д゚)!

「破綻国家」一歩手前のレバノンを蝕む政治的腐敗

岡崎研究所

 レバノンでは、8月4日に発生したベイルートでの硝酸アンモニウムの大規模爆発を受けてディアブ首相が内閣総辞職に追い込まれるなど、混迷を深めている。レバノンの統治不全は極めて根が深い。8月12日付のフィナンシャル・タイムズ紙社説‘Lebanon needs a credible government of reform’は、レバノンの支配層が彼ら自身の将来が危機に瀕していることを自覚しない限り、レバノンは破綻国家に近づくだろうと述べているが、決して誇張とは言えない。


 レバノンの現状は悲惨である。現地通貨のレバノン・ポンドは2019年秋以降80%減価し、最新で約90%のハイパーインフレとなっている。2020年3月にはディアブ首相が外貨建て国債12億ドルをはじめとする同国の債務の支払い停止、すなわち債務不履行を宣言した。ベイルート首都圏で91万人が食料や生活必需品を十分入手できない状態で、その半数以上を占める子供たちが年内に餓死する可能性があるとのことである。

 このような状況の下、昨年10月政府が増税案を示したことに対し大規模なデモが発生し、その後ベイルートのみならずレバノン中で国民の抗議デモが頻発したが、8月4日ベイルートで起きた硝酸アンモニウムの大爆発で163人が死亡、6000人が負傷する事態を受け、8月8日には数千人規模のデモが起こり、ディアブ首相が内閣総辞職に追い込まれた。

 レバノンの危機の原因は政治の腐敗である。レバノンには18の宗派が存在し、大統領はマロン派、首相はスンニ派、国会議長はシーア派というように各宗派に政治権力が配分され、バランスの確保に意が用いられているが、各勢力が自身の地位に胡坐をかき、利権をむさぼり、腐敗が蔓延したと見られている。このような腐敗した制度が未曽有の経済危機に対処できないでおり、国民の怒りが反政府デモで爆発しているのが現状のようである。

 レバノンの経済危機に対処するためには外からの支援が必要であり、IMFや旧宗主国フランスと協議を行っているが、支援の条件として当然のことながら抜本的な経済改革が要請されており、レバノン政府は要請に応えられていない。レバノンが破綻国家にならないためには、危機の原因である腐敗した制度の改革に取り組まなければならないが、この制度はレバノン特有の事情に根差したものであるだけに、現状の変更はかなり難しい。

 しかし、レバノンを破綻国家から救う道は現状の変更しかない。上記のフィナンシャル・タイムズ社説は、「今回の内閣総辞職は最後のチャンスで、アウン大統領と議会が独立志向の首相の率いる新内閣の成立を急ぐべきである」と述べている。現状を変更するためには支配層が彼ら自身の将来が危機に瀕していることを自覚する必要があるが、果たして支配層がそのような危機感を持つことができるのか定かでない。もし持てなければレバノンが破綻国家となることは現実味を帯びてくる。

【私の論評】まず覚醒しないあなたから、レバノンにどうぞ(゚д゚)!

レバノンというと、あのカルロス・ゴーン被告のことを思い出してしまいます。ゴーンはいまどのような状況なのでしょうか。

カルロス・ゴーン被告

8月4日のレバノン・ベイルート港の化学物質の大爆発で、日産自動車元会長カルロス・ゴーン被告(66)の妻キャロル容疑者(偽証容疑で逮捕状)がブラジル紙に自宅が損害を受けたと翌日語ったが、6日、フランスの各紙は、自宅が完全に破壊されたと報じました。

レバノンの情報筋によれば、ゴーン被告は首都ベイルートから避難し、郊外に身を寄せているといいます。逃亡後、豪邸で優雅に暮らしていたゴーン被告は、いわばホームレス状態に陥ってしまったのです。 

大爆発は、通貨危機や新型コロナウイルスによって混迷を深めてきたレバノン社会をさらに混乱させるでしょう。今回の爆発事故はレバノン政府の化学物質の管理の怠慢で起きたため、腐敗や無能で反発されてきた政府に対する信頼がいっそう低下したことは否めないです。

レバノン社会が混沌とする中で、高級住宅での生活という特権を失ったゴーン被告は心許ない生活を余儀なくされることでしょう。

あるフランス紙は、ゴーン被告は今回の事故で家を失った30万人のホームレスの1人と形容しています。爆発事故で政府が運営する小麦の倉庫も大損害を受け、レバノンの食料を輸入する能力も著しく低下しました。

ゴーン被告の食卓も寂しいものになっている可能性が高いです。レバノンでは、150万人のシリア難民と27万人のパレスチナ難民も居住しますが、難民の存在もレバノンの食料事情を逼迫させていくでしょう。新型コロナウイルスで手一杯の医療現場は、事故の負傷者たちでさらに膨らむことになり、ゴーン被告は十分な医療サービスも受けられない環境にいます。

レバノンでは対外債務が膨らんだために、現地通貨は昨年10月以来、その価値を80%下げました。レバノン経済は食料を含めて輸入に頼り、債務によって輸入経済を支えてきました。輸入経済に依存することは、レバノンの資本が海外に流れ、現地通貨が価値を下げることになる。 

海外在住のレバノン人企業家たちは、レバノンの銀行にドルで預金し、また湾岸のアラブ諸国も財政支援を行ってレバノン経済を支えてきました。しかし、腐敗など政府の失政や、政府の経済改革への取り組みが消極的なこともあって、海外在住の企業家たちがレバノンの銀行へのドル預金に熱心でなくなり、また欧米諸国の支援も滞っていきました。

こうしてレバノンでは外貨準備が不足し、対外債務が世界最悪とも言える状態になりました。銀行は預金者がドルで引き出せる額を制限したために、現地通貨で暮らす人々の生活をいっそう圧迫し、インフレはうなぎ上りとなりましたが、さらに政府は歳入不足を補うために、タバコやガソリン、さらにはワッツアップのようなSNS通話にも課税しようとしたことが昨年の10月以来連日繰り広げられるデモにつながりました。 

レバノンは18の宗派によって構成される宗派のモザイク社会ですが、1975年から90年まで続いた内戦を終らせるために、各宗派の代表的なファミリーに権力や利権が分配され、それが政治腐敗の要因となりました。イランやサウジアラビアなど外部からの支援もこうした特権層を潤わせ、それも貧しい階層の怒りや反発の背景となっています。 

爆発事故によって、政府への幻滅はいっそう深まり、政府を見捨てて海外在住のレバノン人を頼るなどの手段で大規模な国外移住が予想されるようになりました。海外在住の離散(ディアスポラ)レバノン人は本国の人口(約684万人:2018年)のおよそ3倍いると見積られていますが、国際指名手配を受けているゴーン被告は逮捕の恐れがあるために、この選択肢はありません。

 レバノンが無秩序や、さらに紛争状態になった場合、ゴーン被告のとりあえずの逃亡先は陸続きのトルコ、シリア、イスラエルの3国ぐらいしか考えられません。しかし、イスラエルとレバノンは戦争状態にあり、シリアは戦乱の渦中にあり、またISやアルカイダのような暴力的集団がどのようにゴーン被告を迎えるか定かではありません。

ゴーン被告はクリスチャンで、イスラムに訴える過激な集団から見れば異教徒で、日本で不正を働いたゴーン被告は腐敗のシンボルとも言え、彼らが最も嫌い、否定すべき対象です。さらにトルコはゴーン被告の逃亡を幇助したとして7人を逮捕した国で、ゴーン被告をかくまうことはありえないです。

 レバノンに残れば、混迷が続く政治社会の中で快適な生活は送れそうにもありません。今年終わりまでに1日4ドル以下で暮らす貧困層が50%に膨らむと予想されていますが、ゴーン被告のような不正を働いた特権階層は、彼らにとって憎悪の対象となり、危害が加えられることも否定できません。日本の司法制度から逃亡したゴーン被告は、レバノンで行き詰まり、八方塞がりになっています。

カルロス・ゴーンは今頃、治安が良く経済的にも恵まれた日本のことを思い出しているかもしれません。多くの日本人は、ゴーンのことを愚か者というかもしれません。

しかし、日本人の中には、ゴーンを馬鹿にできない人たちもいると思います。共同通信が同29、30日に行った世論調査 安倍内閣の支持率は55%で、7月の前回調査から12ポイント上がりました。歴代内閣の末期は支持率が低い場合がほとんどですが、安倍内閣は異例の高い支持率で終幕を迎えます。

退陣を決めたリーダーが翌日に20ポイントも支持率が上がるようなことは、日本では無論のこと、世界でも例がない、珍現象です。多分これは「安倍さんごめんね」という意思表示ではないかと思います。


どのような意思表示かといえば、以下のようなものです。

新型コロナウイルス対策では、死者が少なく、対策がうまくいっていると言ってもいいような気もするのだが、テレビのワイドショーなどて多くの人が「安倍さんはだめだ』と言い続けていたので、ついつい自分も「安倍が悪い」と思うようなった。それ以前の「もりかけ桜」でも同じように「安倍さんはだめだ」と思うようになってしまった。

しかし、考えてみれば、未だにテレビのワイドショーなどのコメンテーターは「疑惑」「忖度」など言いつつも結局のところ、ワイドショーのコメンテーターは、未だに決定的な証拠「物証」を挙げられないでいる、

安倍内閣は戦後の最小の長期政権になったのですが、最近では支持率が下がっていって安倍さんは苦しんで病気が再発してしまったと考えたのではないでしょうか。しかし、結果的に安倍さん辞任を表明しました。本当に申し訳なかったと反省し、その意思表示として、支持率上がっていると推察できます。

私自身は、安倍政権に関しては、このブログで以前から言っているように、過去20年では、経済でも安保でも、外交でも、最もパフォーマンスの良い政権だと思います。これは、野党が何を言おうが、ワイドショーのコメンテーターが何を言おうが、事実です。まともに、経済指標を見たり、様々な事実に当たれば、誰もが容易に理解できると思います。

安倍総理辞任表明という大きなショックが、このような人たちを覚醒させたのだと思います。カルロス・ゴーンもレバノンで大爆発事件がおこり、それどころか、食糧不足という大ショックに見舞われ、いくら金を持っていても、現状のレバンでは、それは全く無意味であることにいまさらながら気づき、覚醒したかもしれません。

ごうつくばりで、とにかく金を得るために、不正なことにまで手をつけてしまった自分を呪っていることでしょう。合法的なことで儲けた金で、日本など、多くの人々から尊敬され満ちたりた幸せな生活を送れたかもしれないと、今頃臍を噛んでいるに違いありません。

人間というものは、本当に幸せなときは、自分が幸せの絶頂にいることを意外と認識できなかったりするものです。日本のような国で、まともな政治が行われていると国民はそれが当たり前になってしまうのでしょう。レバノンのようになってしまってから初めてまともな政治の必要性を痛感するようになるのかもしれません。

これは、あくまで、私の推測であり、カルロス・ゴーン本人に聴いていなければ真実はわかりません。しかし、そのように考えるのが普通だと思います。もしそうでなければ、ゴーンはただの頭の悪い大馬鹿者です。

大ショックを受けないと、事実がみえない人たちは、ゴーンに限らず、日本でも大勢いるようです。日本では、ショックを受けて覚醒する人もいる一方、未だワイドショーなどのコメンテータの発言などを真に受けて、未だ覚醒しない人も大勢います。

無責任なワイドショーのコメンテーター
そういう人たちには、是非ともレバノンにいって、そこで1年でも生活していただきたいものです。そうすれば、本当の政治の腐敗とはどのようなものか、日本がいかに素晴らしい国であり、これを守りさらに良くしていくことが、価値あることと理解できるかもしれません。そこまでしても、覚醒しない人もいるかもしれませんが、確実に日本に逃げ帰るでしょう。

私はこのブログでも何度か述べたように、安倍総理の政策を是々非々でみており、そうしたことから、評価できる点は評価し、批判すべき点は批判してきました。そうした過程から、結論できるのは、安倍総理は現時点においては、日本を守りさらに良くしていることの価値を、最も理解する政治家だといえます。そうして、総理を辞した後でも、その道を歩んでいかれる方と確信しています。

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2020年8月30日日曜日

チェコ上院議長が台湾到着 90人の代表団、中国の反発必至―【私の論評】チェコは国をあげて「全体主義の防波堤」を目指すべき(゚д゚)!


    台湾北部の桃園国際空港に到着したチェコのビストルチル上院議長(中央)と
    出迎えた呉●(=刊の干を金に)燮外交部長(右)=30日
東欧チェコのビストルチル上院議長を団長とし、地方首長や企業家、メディア関係者ら約90人で構成される訪問団が30日、政府専用機で台湾に到着した。台湾と外交関係を持たないチェコが中国の反対を押し切り、準国家元首級の要人が率いる代表団を台湾に派遣したのは初めて。国際社会での存在感を高めたい台湾にとっては大きな外交上の勝利といえるが、中国が反発するのは必至だ。

 30日午前、北部の桃園国際空港に到着したマスク姿の議長一行は、出迎えた台湾の呉●(=刊の干を金に)燮外交部長(外相に相当)らと握手でなく腕を合わせてあいさつを交わした。台湾メディアによれば、訪問団は9月4日まで滞在。ビストルチル氏は1日に立法院(国会)で講演し、3日に蔡英文総統と会談する。4日には米国の対台湾窓口機関である米国在台湾協会(AIT)とのフォーラムにも出席する。

 チェコ上院議長の訪台をめぐっては、ビストルチル氏の前任のクベラ氏が昨年に訪台を約束したが、中国大使館から脅迫され1月に急死した。ビストルチル氏は上院議長就任後、何度も「クベラ氏の遺志を引き継ぐ」と表明していた。

【私の論評】チェコは国をあげて「全体主義の防波堤」を目指すべき(゚д゚)!

チェコの憲法で大統領に次ぐ地位とされる上院議長のビストルチル氏、このほか訪問団は首都プラハのズデニェク・フジブ市長や上院議員ら約90人からなり、民主化を実現させた1989年の「ビロード革命」(1989年11月17日にチェコスロバキア社会主義共和国で勃発した、当時の共産党支配を倒した民主化革命。スロバキアでは静かな革命と呼ぶ)以降、最高レベルの訪問団とされます。9月3日には蔡総統と総統府(台北市)で会談する予定。ビストルチル氏は出発前のあいさつで訪台の目的について、民主主義を守る台湾への支持を示すためと語りました。

チェコのビストルチル上院議長(左、本人のツイッターから)とプラハのフジブ市長

新型コロナ対策のため、訪問団の参加者には搭乗前3日以内の陰性証明の提出を求めたほか、9月1日にはさらに検査を実施。滞在中は専用車を使用するなどして市民との接触を避けます。一行は同5日に帰国の途につきます。

欧州との外交をめぐっては、中国の王毅外交部長が25日~9月1日の日程でフランスなど5カ国を歴訪中です。台湾が外交関係を結ぶ国はバチカンのみとなる一方、中国は近年、巨大経済圏構想「一帯一路」を足掛かりに欧州で影響力を増しています。台湾側は外交関係のないチェコ代表団の受け入れをきっかけに、欧州諸国との連携を強化したい考えです。

今回の訪台には、今年1月に急死したチェコのヤロスラフ・クベラ前上院議長の夫人も加わっています。

クベラ氏は、中国の反対を押し切って今年2月に訪台する予定でしたが、1月に急死しました。生前、台湾行きを強行するならチェコ企業に報復するなどと中国大使館から脅迫されていた事実が地元メディアによって暴露されました。

中国はチェコを中・東欧諸国の玄関口として重視しています。加えて、チェコは欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)双方に加盟しているため、中国としてはチェコを足掛かりに西欧諸国に対する影響力を高めたいとの狙いもあるようです。

チェコ大統領 ゼマン氏

一方、チェコ側も2013年に親露的でもある、ゼマン氏が大統領に就任して以後、対中関係の強化を図ってきました。ゼマン氏は訪中を繰り返し、2015年に中国が戦争勝利70周年記念の軍事パレードを実施した際も、欧米諸国のほとんどが国家元首出席を見送る中、北京に赴いて、中国との親密ぶりをアピールしました。

翌年3月に中国の習近平国家主席がチェコを訪問した際には、首都プラハでデモ隊の動きを封じ込めて迎え入れるなど、最大限の配慮を見せました。

また、中国政府が「中国からの独立を狙う分裂主義者」と敵視するチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が同年10月にチェコを訪れ、副首相らと面会した際、ゼマン氏は直ちに、当時のソボトカ首相とともに「一つの中国」原則を支持する声明を出すほど神経を使っていました。

ゼマン政権による中国接近に警戒を強めたのがプラハのフジプ市長です。

プラハと北京は2016年に姉妹都市協定が締結されていました。フジプ氏が2018年11月に市長に就任すると、協定の中に「一つの中国」原則の順守を記す条項が含まれていたことに違和感を抱き、北京側にこの条項のみを削除するよう求めたのですが、北京側が受け入れなかったため、昨年10月、協定解消に踏み切りました。

一方、フジプ氏は昨年3月に訪台し、蔡英文総統らと会談するなど台湾に接近、今年1月13日には、今度はプラハ―台北間で姉妹都市協定を結びました。AFPによると、フジプ氏はその直後に、中国を「信頼できないパートナー」と非難したといいます。

フジプ氏は自身の信念として「市長として『民主主義と人権を尊重する道に戻る』という公約を果たすために取り組んでいます。それらはビロード革命(チェコスロバキアだった1989年12月に共産党体制崩壊をもたらした民主化革命)の価値観であり、現在、チェコ政府が無視しているものだ」と語っています。

加えてチェコでは今年1月、人気政治家だったクベラ氏が急死し、その妻が「夫の死は中国政府からの度重なる嫌がらせの結果だ」と主張した一件もありました。

チェコ企業団が19年10月、台湾を20年2月に訪問すると発表し、その団長を当時上院議長だったクベラ氏が務めることになりました。この訪台は結局コロナ禍により中止になりましたが、中国側は「一つの中国」原則に反するとして不快感を示し、再三にわたってチェコ側に取り消しを迫っていました。

現地報道によると、中国の張建敏・駐チェコ大使がゼマン大統領の秘書官に「訪台を阻止しなければ両国のビジネスに影響が出る」と圧力をかけたとされています。

夫人のヴェラ氏によると、クベラ氏が亡くなる3日前に中国大使から大晦日の夕食会に招待され、「非常に不快な非公開の会談」に参加しました。途中で、クベラ氏は別室に連れていかれ、戻ってきたときには夫人に中国大使館が用意した食事は絶対食べないように言ったといいます。

夫人は遺品整理の際に、チェコ大統領府と中国大使館が送りつけた2通の「脅迫状」を発見しました。内容は、台湾訪問をやめなければ、家族を危険に晒すというものでした。ヴェラ夫人は、娘と二人で恐怖に怯えたと述べ、これらの手紙がクベラ氏を死に至らせたと考えていると述べました。クベラ氏は亡くなる前の7日間、一言も発さず落ち込んでいたといいます。

ヴェラ夫人はまた、クベラ氏が台湾を訪問することに強いこだわりを持っていたと強調し、家族には「共産党の独裁時代にも、誰もクベラを止めることができなかった!今やチェコは民主主義国家だ。このような圧力に屈するものか!」と言っていたと明かしました。

ビストルチル現上院議議長氏は、「2通の脅迫状」という重大スキャンダルを受けて、ゼマン大統領に説明を求める書簡を3通送ったのですが、ゼマン大統領は議会からの質問と調査の要求を拒否していると述べました。


台湾メディアによると、ヴェラ氏は地元テレビに出演した際、「夫は中国政府に脅迫され、そのストレスが急死の引き金になった」との見方を示し、後任の上院議長となったビストシル氏やバビシュ首相は相次いで、張大使更迭を求める考えを示しました。

そのビストシル上院議長が6月9日、クベラ氏の計画を引き継いで今年8月30日~9月5日に企業団とともに訪台すると発表しました。ビストシル氏は右派野党・市民民主党所属で、「政府の外交方針が人権と自由を支持しないのなら、それを強調するのは議会の役目だ」と話しています。

中国は反中感情を和らげるため、新型コロナウイルスの感染防止を目指す「マスク外交」によって挽回を図っています。

チェコでは医療従事者のためのマスクや手袋などの個人用防護具が不足し、政権批判が高まっていたため、ゼマン政権は諸手を挙げて中国からの支援を歓迎しました。

中国から医療用品を運んできた航空機が今年3月、プラハの空港に到着すると、チェコの閣僚らが滑走路に並んだといいます。その後も中国からの物資が届けられ、ゼマン氏は「我々を助けてくれるのは中国だけだ」とリップサービスし、遠回しにEUを批判してみせたとされています。

クベラ氏の生前の願いをかなえるためとして夫人に同行を打診したのは団長のビストルチル氏。台湾訪問が民主主義、自由を守る決意の表れとして、チェコ上院で強く支持されている背景があったといいます。

メンバーは政治家や、学者、文化団体などで、40人余りの企業家も含まれます。いずれも民主主義の信奉者で、中国から言論の自由を制限されるなど、不条理な圧力をかけられた経験を持つ人もいるといいます。今回の交流を通じ、台湾の民主主義コミュニティーとの間に制度的な協力ネットワークが構築されることが期待されます。

訪台に当たっては、新型コロナウイルス対策として、往復ともチャーター便を利用し、ウイルス検査を出発前と台湾到着後の計2回受けることなどが求められました。これらの条件は、今月9日に訪台したアザー米厚生長官や、同日李登輝元総統の弔問のために台湾を日帰り訪問した日本の森喜朗元首相らと同じだといいます。

チェコ政府は、親中的ですが、チェコの憲法で大統領に次ぐ地位とされる上院議長のビストルチル氏をはじめ中国に対峙しようとする勢力が拡大しつつあるようです。

台湾は国をあげて中共の「全体主義の防波堤」になっていることは明らかです。米国は今後「全体主義への砦」としての台湾の存在の重要性を認識して軍事・経済的支援を強力に推進することになるでしょう。その幕開けが、先日のアザール長官の台湾訪問なのです。

チェコは地政学的にいって、東欧に属していおり、東欧は欧州では中国に最も近い位置に属しています。ロシアにも近いです。このチェコが「全体主義の防波堤」になれば、東西に全体主義に反対する勢力の橋頭堡が築けることになります。

今回のチェコの訪問団の訪台が、将来これに結びつく可能性は大きいと思います。

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2020年8月29日土曜日

低姿勢で退任の安倍首相、今後はキングメーカーに―【私の論評】安倍晋三氏は、一定期間のみ良い意味でのフィクサーか、キングメーカーの道を目指している(゚д゚)!

低姿勢で退任の安倍首相、今後はキングメーカーに

会見当日までの保秘徹底で当面の政局でも主導権

28日夕、官邸で辞任表明の会見を行う安倍晋三首相

安倍晋三首相が8月28日夕、辞意を表明した。筆者は8月22日、「政局は重大局面、安倍政権はいつまでもつのか」と題した原稿で、早期の「辞意表明」や「内閣総辞職」を想定したメディアの動きに言及していたが、その通りの展開となった。まずは7年8月にわたって、持病を抱えながらも重責を果たしてきた安倍首相に敬意を表する。

内閣府の官僚が気づいた日程の「違和感」

 8月27日夕、翌28日の安倍首相の日程が明らかになった。メディア並びに永田町、霞が関の住人がほぼ独占的に入手している公開情報である。

 しかし、内閣府の切れ者で知られる官僚は日程をみて違和感を覚えた。

「臨時閣議が夕方にセットされているのはなぜか」

 毎週金曜日は定例閣議が開かれる。2回も閣議を開く必要があるのか。ひょっとして、安倍首相がなにか考えているのではないか。閣僚の辞表を取りまとめての内閣改造、理屈としては内閣総辞職もあり得る――。

 28日の臨時閣議は「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの確保の方針」を決定するために午後4時過ぎから開かれた。午後1時過ぎから行われた新型コロナウイルス感染症対策本部に連動した手続きの一つである。

 結果的に、この官僚の推測は外れたことになる。ただ、違和感を覚えた点では大正解だった。実際、安倍首相は28日の臨時閣議で総理大臣として辞意を表明したからだ。

 議院内閣制の仕組みに従い、安倍首相は先に午後2時過ぎに自民党本部を訪れ、臨時役員会などで自民党総裁として辞意を伝達している。そして4時から前述の臨時閣議、そして5時から辞任表明の記者会見を行った。28日午後5時からの記者会見予定が固まったのは26日とみられているが、この時点で安倍首相は辞意表明に向けた段取りをすべてセットしていたことになる。

 安倍政権は閣議決定を歴代政権よりも多く行う傾向にあるため、コロナ対策での臨時閣議はおかしいとはいえないが、臨時閣議は緊急を要する場合に行うのが通例である。対策本部の日程をずらすなどして、定例閣議でコロナ対策を閣議決定すれば事足りる。1日2回の閣議はやはり何かの兆候だったのである。

誰にも洩らさなかった

 この週は、24日の月曜日から首相の動静に注目が集まっていた。

 安倍首相は24日午前、17日に引き続いて慶応大病院に向かい、約3時間40分滞在している。その日の午後、首相官邸に入った際には、安倍首相は「体調管理に万全を期し、これからまた仕事に頑張りたい」と述べた。

 これにより自民党内は、当面は安倍首相が続投するとの認識を持った。安倍首相に近い側近らも、しばらくは職務に邁進すると受け止めた。実は前週末から「24日辞任」との怪情報が飛び交っていた。食事もとれなくなっているらしいという話はもう少し前から永田町を駆け巡っていた。政界関係者もメディアも緊張感をもって事態を見守っていた。

 だが、この日の安倍首相の言動を見て、永田町とメディアは一息ついてしまった。それが実情だった。

 筆者のつかんだ情報によれば、8月24日から25日にかけ、安倍首相は複数のメディア関係者や経済人らと電話をしている。その際、安倍首相は自身が回復傾向にある旨を明かしている。

 会話をした人物の一人は「安倍首相が続投に強い意欲を示している」との印象を受けたという。今週に入り、メディアが「安倍首相は辞任しなさそうだ」との見方に大きく傾いたのは、安倍首相自身の発言に接した人々の“見方”が影響していた。もちろん、安倍首相と直接面会する閣僚や官邸スタッフ、与党幹部らも同様の見解を持っていた。

 28日の辞任表明会見で、安倍首相は8月24日に辞意を決断したと明言し、誰にも相談せずに一人で決めたことも認めた。ウソをつくメリットを見いだせないので事実に近いはずだ。辞意を誰にも察知されないように保秘を徹底していた可能性が高い。実際、記者会見の3時間前まで、テレビも新聞も「辞意表明」の見出しを打てなかった上、自民党内も、例えば岸田文雄政調会長は地方に出張していたほどだ。有力後継候補の岸田氏がこのタイミングで東京を離れたところに致命的なセンスのなさを感じざるを得ないが、多くの議員たちにとっても寝耳に水だったのは間違いない。二階俊博幹事長も、菅義偉官房長官も、山口那津男公明党代表も、言動から推測するに事前にキャッチしていなかったようだ。唯一、事前に辞意を伝えられたのは麻生太郎副総理兼財務相だった。

しかし、振り返ってみれば兆候もないわけではなかった。

 安倍首相は8月24日、慶応大病院の検査を終え、官邸に入る際、記者団に「大変厳しい時にあっても、至らない私を支えてくれた全ての皆さまに感謝申し上げたい」と謝意を示している。今思えば、いつもとは異なる、妙な言い回しであり、“終わり”を意識した言葉であったことがわかる。

 とはいえ、この言葉だけで、近いうちに退陣するだろうとの見通しを立てられた人はほとんどいないだろう。24日から28日までの5日間、安倍首相は「敵を欺くにはまず味方から」の権謀術数の鉄則を守り、表に出る日程に辞意表明に向けた布石を打った。

「臨時代理」阻止、総裁選方式も思うまま

 8月28日の記者会見では、安倍首相の「低姿勢」が目立った。

「任期をまだ1年残し、他の様々な政策が実践途上にある中、コロナ禍の中、職を辞することとなったことについて、国民の皆様に、心よりお詫びを申し上げます」

「自分自身の健康管理も総理大臣の責任だろうと思います。それが私自身、十分にできなかったという反省はあります」

「病気と治療を抱え、体力が万全でないということのなか、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはなりません」

 体調が万全ではないことが一目でわかる状態でありながら、無礼千万ともとれる一部記者の質問にも真摯に対応した。

 効果は絶大だった。「病気についてあれこれ言うのはかわいそうだ、よくやった」という世論がまたたく間に形成された。安倍首相に厳しい姿勢を取ってきた野党議員からも、ねぎらいや慰労の言葉が次々に飛び出し、国民民主党所属議員からは、政治判断を誤ることはあってはならないので辞任するという理由を「潔い」と褒めたたえる声も出た。

 思い出されるのは、安倍首相の大叔父でもある佐藤栄作首相の退陣会見だ。

 1972年、佐藤栄作首相は、官邸と記者クラブとの行き違いもあって、花道となるはずの退陣表明会見を記者不在で行っている。佐藤首相は記者会見場に入った途端、新聞記者たちが集まっているのを見て不快感をあらわにし、「テレビカメラはどこにあるのか。新聞記者の諸君とは話さないことにしてるんだから。国民に直接話したいんだ。文字になると違うから。偏向的新聞は大嫌いだ」と言い放ち、最終的に記者団不在のまま記者会見が始まった。安倍首相は大叔父の大先輩とは正反対に、引き際の記者会見は成功したと評価されよう。

 辞任の理由が病気であること、低姿勢を心がけた会見であったことなどから、世論はおおむね「労いモード」になった。そこで注目されるのは誰が次の首相になるのか、だ。

 安倍首相は、後継に関しては口を出さないとの立場を強調しているが、果たしてそうだろうか。低姿勢の記者会見の裏で、復権に向けた野心も垣間見える。抜き打ち的な辞意表明により、自民党は安倍首相の敷いた路線に従わざるを得ない状態になっている。永田町でまことしやかに喧伝されていた「麻生首相臨時代理」構想は出る幕もなく、安倍首相は後継が決まるまでは職務を続けると断言した。すみやかに総裁選を実施する必要があるため、両院議員総会での総裁選が実施されることも内定した。これは安倍首相の不倶戴天の敵とされる石破茂元幹事長を潰すことに直結する。党員投票が実施されれば、石破氏が有利になるからだ。

 現時点では、すべて安倍首相が望むような方向に動いている。

令和の「キングメーカー」誕生か

 日本で最も権謀術数に長けているのは、史上最長の政権を維持した安倍首相である。「麻生首相臨時代理」の線を消し去り、総裁選出法については「二階幹事長に一任」とは言いながらも、石破氏が不利とされる議員票中心の方法へと導いた。いずれも用意周到なシナリオがあってのものだろう。次期政権への影響力保持を意図しているとしか思えないし、自身は政界を引退せず、一議員として活動していくとの意向も記者会見ではっきり示した。

 9月15日前後に行われることになる総裁選、そして来年9月に再び行われる総裁選で、安倍首相の動きはポイントとなる。来年10月までには必ず衆院選もある。重要な政治イベントがあと1年のうちに3回もある点も見逃せない。

 今後、安倍首相は党内最大派閥、細田派の最高実力者となり、党内政局のキーマンとなる。しかも、細田派は100人近い大所帯であり、全盛期の田中(角栄)派に匹敵する規模を誇る。安倍首相が体調回復に成功すれば、無役の「キングメーカー」として党内に君臨する公算が大きくなってきた。

 さて、安倍首相の意中の後継者は誰なのか。スキャンダルまみれになりボロボロで官邸を去るのではない。歴代最長政権を率いた宰相経験者なのだから、その意向が影響力を持たないはずはない。当面、安倍首相の本音を探ろうとする動きが出てくるだろう。いや、そうなると安倍首相は実質的に、すでにキングメーカーの座を手に入れたと言えるのかもしれない。

【私の論評】安倍晋三氏は、一定期間のみ良い意味でのフィクサーか、キングメーカーの道を目指している(゚д゚)!

キングメーカーとは、どういう意味かといえば、キング(比喩的に最高権力者を意味するが、国王そのものである場合もある)などの選出や退陣に裏方で大きな影響力を持つ人物のことです。

自らは表舞台の政治権力者にならない(または退陣した後)が、裏方では政治権力者に関する人事権を事実上持っていることがあります。そのため、政治権力者の人事権を通じて政治を左右します。

総理退陣後に「キングメーカー」として力を発揮した西園寺公望


表舞台の政治権力者に関する人事権が少数(究極的には1人)になったり、ルールで明文化されていないが政治権力者に関する人事権を裏方の少数が事実上持っている政治構造になっていたりする場合は権力の二重構造となりやすいです。

現在の民主政治では大統領や首相など行政府最高権力者に対する裏方の人事権を指すことが多いです。

確かに、上の記事にもある通り、安倍総理の辞任発表のタイミングや、辞任する意向を麻生氏にだけ伝えたことや、今後、安倍首相は党内最大派閥、細田派の最高実力者となり、党内政局のキーマンとなることや、細田派が100人近い大所帯であり、全盛期の田中(角栄)派に匹敵する規模を誇ることから、安倍総理がキングメーカーになる可能性は高いです。

振り返ってみると、安倍晋三氏は、第一次安倍政権においては、結局のところ経済が良くなければ、政権を維持することは困難になることを学んだと思います。これは、もっともです。なぜなら、国民の一番の政治に対する関心事は、自らの暮らしぶりであり、国体や安保はその次です。それが悪くなれば、政権に不満を抱くようになり、政権への支持は低下します。

政権が維持できなければ、自らの理想を達成できないことも学んだと思います。まずは、安倍晋三氏は、政権を維持することが第一ということを肝に命じたでしょう。

そうして、不死鳥のようによみがえった第二次安倍政権では、アベノミクスといわれる経済政策を強く打ち出しました。これによって、経済はかなり回復したのですが、そこに伏兵が現れました。

それは、頑として緊縮路線を貫く財務省です。安倍総理は、支持率の高い政権であれば、財務省も時の政権に抗えないのではと思ったでしょうが、実体はそうではありませんでした。安倍総理は、二度にわたって増税を先延ばししたのですが、結局のところ財務省の圧力に負け、二度にわたる消費税増税を容認せざるを得なくなってしまいました。

安倍首相は13年前の第1次政権で財務省の怖さを身をもって経験しました。

当初は小泉政権から引き継いだ圧倒的多数を背景に公務員改革を進め、財務省の天下り先に大鉈を振るって政府機関の統廃合に取り組みました。ところが、半年経たないうちにその威勢は消し飛びました。

閣僚のスキャンダルや消えた年金問題がリークされ、支持率が落ち目になると、財務省は全くいうことを聞かなくなったのです。そうなると内閣はひとたまりもないです。

官邸は閣議の際に大臣たちが総理に挨拶もしない“学級崩壊”状態に陥りました。あの時のトラウマがあるから、安倍総理は政権に返り咲くと政府系金融機関のトップに財務省OBの天下りを認めることで7年前の償いをせざるをえなかったようです。

13年前安倍第一次内閣は崩壊

やはり13年前、安倍首相は新聞の宅配制度を支える「特殊指定(地域や読者による異なる定価設定や値引きを原則禁止する仕組み)」見直しに積極的だった竹島一彦・公正取引委員長を留任させました。その人事でさらなる窮地に陥ったのです。

財務省と宅配を維持したい大手紙側は竹島氏に交代してもらう方針で話がついていました。ところが、安倍総理が留任させたことから、財務省は『安倍政権は宅配潰しに積極的だ』と煽り、それまで親安倍だった読売などのメディアとの関係が冷え込んだのです。

財務省の天下り先を潰しただけで、それだけの報復を受けたのです。その後、自民党から政権を奪い、「総予算の組み替え」で財務省の聖域である予算編成権に手をつけようとした民主党政権の悲惨な末路を見せつけられたのです。

最近の事例では、獣医学部新設のときの文科省の抵抗をみれば、わかりやすいでしょう。あの事件の実態は、獣医学部新設を渋る文科省に対し、官邸主導で押しまくって認可させたという、ただそれだけの出来事です。

これに怒った文科省は、腐敗官僚の前川を筆頭に、マスコミに嘘を垂れ流し、安倍内閣打倒に燃えるマスゴミがこれを最大限に利用して安倍政権を糾弾したのです。官庁の中では、最弱ともいわれる文科省がこれだけの反撃をするのですから、官庁では最強の財務省がどれだけの反撃をするのかは、想像に難くないです。

安倍総理としては、このことはかなりのトラウマになっていることでしょう。

安倍総理は、第二次安倍政権においては、財務省の抵抗にあって二回の増税をせざるをえませんでしたが、日銀は金融緩和を実施して、かつてないほど雇用は改善されました。これが、何といっても安倍長期政権を可能にした原動力でした。

しかし、財務省による圧力により、増税をせざるを得なくなりました。さらに、官僚の反抗とそれに呼応するマスコミの攻撃と、野党の攻撃に悩まされました。

確かに野党の攻撃は、ほとんど根拠のないもので「もりかけ桜」では、どうあがいても最初から倒閣など無理でした。しかし、国会開催中においては、どうしても、この野党のくだらない追求に付き合わなければなりません。

本当に日本の国会は、異常です。本来の国会議員の仕事は、立法です。だかこそ、立法府というのです。しかし、野党はまるで、倒閣するのが自分たちの仕事と思っているかのような振る舞いばかりします。

これは、英米などとは根本的に違います。米国では、たとえば、共和党のルビオ上院議員など、かなりの数の法案を提出しています。米国では、議員の仕事は、立法であることが理解されているようです。

しかし、日本の国会ではそれが理解されていないばかりか、閣僚や総理大臣が、国会に長時間拘束されます。米国では、年間で上院にトランプ大統領は1日出るだけですみます。下院には1時間だけです。フランス大統領は1日しか国会に出ません。英国も40時間くらいです。ドイツは14日。日本の総理はだいたい90日~100日くらい出ている。

これは、無論おくびにも出しませんでしたが、安倍総理には、かなり苦痛だったと思います。それでも、野党の追求がマクロ経済に関わること、安保に関わることなど根幹にかかわるような話であれば、まだ我慢もできるでしょうが、ほとんど倒閣のための低級なくだらない与党批判ばかりです。「桜」問題では、本当に野党の低能力ぶりが顕になり、安倍総理も内心呆れ返っていたのではないかと思います。

野党や、リベラル派の方々は、そんなことはないというかもしれませんが、では「もりかけ桜」で倒閣に結びつくような「物証」をあげてくれと、問うたら、提出できますか?

それができるなら、安倍内閣はもっと短命だったに違いありません。ある筋からの話ですが、安倍総理は元来チマチマしたことが嫌いなそうです。そんなことより、物事を大筋で捉えて、それに対する大胆な方策を考えることを好むそうです。そうして、本来国政とはそのようなものです。

野党のように、立法とは直接関係ないような、チマチマしたことを追求する姿勢には、ほんとうにうんざりされていたと思います。

それと、安倍総理は党内の派閥の力学にも悩まされ続けました、特に最近では、世界情勢が変わって、多くの民主主義国家が中国との対立を深めているにもかかわらず、自民党では志帥会(しすいかい,通称二階派)の勢力が強く、ご存知のように二階氏をはじめ、志帥会には親中派の議員も多く、これを配慮するあまり習近平主席の日本への国賓待遇での訪問を拒否するにかなり手間取りました。

それだけでなく、日本は政府は無論、民間企業なども旗幟を鮮明に、中国と対峙しなければ、いずれ米国等から制裁を受けかねません。

とにかく、第二次安倍政権において安倍総理は自ら総理大臣になって、選挙で何度も勝利して、政権を安定させたにしても、現在の日本の政治風土では、官僚の頑強な反抗、マスコミの攻撃、党内力学により、自分がやりたいようにできないということをは嫌というほど学んだと思います。これを民主主義と呼ぶには、あまりに官僚やマスコミ、党内力学が強すぎます。

二階自民党幹事長(左)と財務省太田次官(右)

では、どうすれば良いのかということになりますが、それは上の記事にも掲載されているように、キングメーカーの道をえらぶということです。

私自身としては、安倍総理には辞任後は、メンターになってなってほしいと考えていました時期もありました。ちなみに、メンターとは、仕事上(または人生)の指導者、助言者の意味。

企業におけるメンター制度とは、企業において、新入社員などの精神的なサポートをするために、専任者をもうける制度のことで、日本におけるOJT制度が元になっています。メンターは、キャリア形成をはじめ生活上のさまざまな悩み相談を受けながら、育成にあたります。

ただ、メンター制度とは、あくまで商法や企業法、会社法など法律が整い、さらにその他の人事制度などが整っている組織で行えば、効果が期待できますが、官僚や、党内力学の問題がある政治の世界では全く効果が期待できません。

だとしたら、やはりキングメーカーになるのが、良いと思います。ただ私としては、それを乗り越えて、フィクサーへの道を歩んでいただきたいです。

なぜなら、最近の例をあげると、安倍総理が「10万円の制限なしの給付金」を岸田氏に一任したにもかかわらず、岸田氏は財務省との折衝において、いつの間にかそれが「30万円の所得制限つき給付金」に変わっていたことに象徴されるように、ポスト安倍候補者の能力があまりにも低いからです。

特に、マクロ経済政策に関しては、すべてのポスト安倍候補者があまりに疎く、財務省の緊縮脳に染められて、財政優先の思想に陥っているか、財務省の圧力に押し殺されて、財務省のいいなりのようです。これでは、誰が次の総理大臣になっても、長期政権すらおぼつかないです。

かろうじて、最近麻生氏が財務省を「狼少年」と揶揄して、まともになったようですが、麻生氏は次の総裁選には出ないと公言しています。

フィクサー(英: fixer)は、政治・行政や企業の営利活動における意思決定の際に、正規の手続きを経ずに決定に対して影響を与える手段・人脈を持つ人物を指します。

行政組織、政府や企業などの社会組織では、通常は関係する人間や団体の意向(広くは世論)を踏まえたうえで、正規の手続きを取って意思決定を進める手段が確立されています。

例えば、行政への陳情、選挙や企業における稟議や経営会議などです。そのような正規の手段によらず、意思決定の過程に介入する資金、政治力、人脈などを持つ人物がフィクサーと呼ばれます。

フィクサーが介入すると往々にしてその手段は公正でなく恣意的な結論となる場合があります。自民党でいえば、金丸氏はその典型でした。無論、私は安倍晋三氏が金丸氏のようになれといっているわけではありません。一方で、理想と現実の間で複雑化する人間関係や利害関係を円滑にすすめる役割を果たす場合もあります。

私が、安倍総理にフィクサーになっていただきたいというのは、そのような役割を果たし、その上で政治をあるべき正しい方向に近づけていただきたいということです。

現在の日本では、先にも述べたように、総理大臣になっても、長期政権を実現してすら、総理大臣が理想とする政治を実現できないのははっきりしました。

この状況はなんとかして変えていかなければなりません。しかし、変えるには今のままの状況では不可能です。

これを変えるために、あくまで一時的に安倍晋三氏に、フィクサーになっていただき、官僚が政治に介入できないようにし、政治が党内力学によって歪められるることがないような体制に持っていていただきたいです。そうすれば、マスコミも自ずと、変わっていくでしょう。

その過程で、日本にも英米のように政策提言シンクタンクを生み出すべきでしょうが、そのようなチマチマしたことは、それこそ、優秀な官僚等に任せれば良いことです。その他、日本では政治家の仕事と思われているものも、ほとんどがチマチマしたことです。そのようなチマチマしたことに政治家が直接かかわらなくても、すむような体制を整えるべきです。

無論、この問題は日本だけではなく、多くの民主主義国家においては存在します。韓国は、日本よりも酷いです。ただ、日本ではこの問題が韓国ほどないにしても、他の民主主義国家と比較して、度が過ぎているということです。

何もかもが、安倍晋三氏の思い通りということになれば、それは「全体主義」です。そのようなことではなく、総理大臣や政権が、官僚の思惑や、党内力学によって度がすぎる程度にまで、歪められない体制を整えていただきたいのです。

そのためには、安倍晋三氏が一定期間良い意味でのフィクサーとなり、日本の政治を良い方向に導いていただきたいのです。そうして、無論フィクサーなるものが、長期間存在することは、良くないことですから、これは数年から長くても10年でやめていただきたいです。

それで、日本の政治風土が変わり、総理大臣と政権が、官僚の思惑や、党内の力学によって歪められなくなった、まさにその時は、安倍晋三氏が再び総理大臣になっていただくか、それがかなわなけれは、安倍総理の意思を受け継ぐ人が総理大臣になっていただきたいです。日本では、これをもってはじめて、まともな安保論議や、憲法改正論議になるのではないかと思います。

無論安倍晋三氏は、これに近いことも当然ながら考えたと思います。キングメーカーもしくは、フィクサーになるべきか、それとも総理大臣を続ける道を選ぶべきが、悩まれたと思います。私は病をおしてまで、総理大臣を続けるよりは、日本の政治をより、正しい方向に向ける可能性に賭けたのではないかと思います。そうでなければ、少しの間休んでも、その期間に代理をたてて、総理大臣を続けたのではないかと思います。

これに関しては、安倍晋三氏の今後の行動をみていれば、いずれわかる時が来ると思います。

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