2020年9月13日日曜日

【総裁選ドキュメント】内閣人事局変えずと菅氏「政策反対なら異動」―【私の論評】内閣人事局はあって当然、菅政権にはさらに本格的な省庁再編を実行すべき(゚д゚)!

 【総裁選ドキュメント】内閣人事局変えずと菅氏「政策反対なら異動」

菅官房長官

 自民党総裁選に立候補した菅義偉官房長官は13日のフジテレビ番組で、中央省庁の幹部人事を決める内閣人事局に見直すべき点はないと明言した。政権の決めた政策の方向性に反対する幹部は「異動してもらう」とも強調した。他の2候補者と出演したフジテレビ番組で発言した。

 内閣人事局は平成26年5月に内閣官房に新設された。幹部人事を掌握するため、官邸主導の意思決定を後押しする一方、官僚の忖度を生む要因と指摘される。

 続くNHK番組でも、菅氏は、査証(ビザ)の要件緩和が訪日外国人増加につながったとして「官邸主導でなければできなかった」と語った。

 これに対し、石破茂元幹事長は「官邸が言っているから誰も止められない。そういうことは決して良いと思わない」とくぎを刺した。岸田文雄政調会長も「権力は鋭利な刃物のようなものだ。使い方を間違えてはならない」と訴えた。

【私の論評】内閣人事局はあって当然、菅政権にはさらに本格的な省庁再編を実行すべき(゚д゚)!

菅官房長官の語っていることは、きわめてまともで常識的なものです。これに石破氏や岸田氏が意見していますが、とんでもないです。

そのようなことは、会社組織で考えればわかることです。会社でも、たとえば、経理部長、財務部長、人事部長、総務部長などの幹部の人事は最終的には取締役会で承認を得なければなりません。

大企業だと、経理部長、財務部長の他に経理担当取締役や財務担当取締役がいたりします。中小企業だと。経理部長兼経理担当取締役と、両方を兼任している場合あります。この場合、見かけ上は会社には、社長と部長しかいないという形式になります。

政治の世界では、各省庁の事務次官が部長であり、大臣が取締役と考えると、対比しやすいと思います。

地方都市などには、大企業がなく中小企業がほとんどのところも多く、そうなると表面上会社には、社長と部長しかないということになりますが、それでも取締役と部長を兼任しているという形で取締役がいるのが普通です。

政治に関する組織と、民間企業の組織は単純には比較できませんが、各省庁の事務次官は、企業でいえば、部長に相当します。内閣人事局は取締役会の人事機能のように幹部の人事を担っているといえます。

企業で、取締役会に人事機能がなくなり、人事部あたりが決めるということにでもなれば、とんでもないことになります。そんなことをすれば、人事部の権限があまり大きくなりすぎます。

企業統治に会社の各部署は直接関わらない

民間企業では幹部の定義は各会社によって異なる場合もありますが、幹部以外の人事は人事部で行い、幹部の人事は取締役会の承認が必要というのが一般的です。

ここからが民間企業と政治組織の違いですが、まずは政府は有権者によって選挙で選ばれた与党の議員たち等で構成されます。ここが、民間企業と大きな違いです。民間企業では、幹部や役員を選挙で選ぶということはありません。

一昔前までは、各部の上司が、自分の部下の人事を定めるということが慣例になっていましたが、それでは情実で決まることがおうおうにしてあったので、企業によってどの程度絡むのかは違うものの、幹部以外の人事のほんどに人事部が絡むようになっています。

選挙によって選ばれる政治家による政府と、そうではない官僚では当然役割は違います。本来的には、政治家が日本国の、財政、金融、安全保障など様々な分野の目標等を定めて、官僚は決められたことを専門家的立場から迅速に実行することです。

財務や金融を例にあげると、日本国の財務の目標、金融の目標は政府が定め、官僚はその政府の目標を達成するために、専門家的な立場からその目標を達成することを選ぶことができます。しかし、目標はあくまで政府が定めるべきものです。

そうして、政府が目標を定めるにおいては、財務官僚や日銀は資料提供や、参考意見を政府に対して述べることはできるものの、目標などを最終的に定めるのは政府です。

日本では日銀に関しては、日銀の独立性をたてにとって、日本国の金融の目標を定めるのは日銀であるとする人もいますが、これは国際標準的には間違いです。国際的には、まともな民主国家の金融目標は政府が定め、中央銀行はその目標に従い専門家的な立場から、それを実行す手段を自由に選ぶことができるというのが、中央銀行の独立性です。

現在の日本は、日銀法が改悪され、日本国の金融政策の目標は、日銀の審議委員が決めることになっています。これは、明らかな間違いです。菅内閣においては、国際標準に従い日銀法の改正も実行すべきです。そうでないと、日銀の審議委員が変わるたびに、市場関係者や金融政策を理解している有権者がやきもきするという異常な状態が続くことになります。

これは、民間企業も同じようなもので、財務部、経理部等は、取締役に対して資料提供や、参考意見を述べることはできますが、企業の目標などを最終的に決めるのは取締役会です。

セブン&アイ ホールディングスの取締役会

日本の大企業では、取締役の人数があまりに多く取締役会が形骸化していて、常務会が実質意思決定機関になっていることもありますが、それはまた別の話であり、人事部長や、財務部長、経理部長などが企業の目標を定めるなどということはありません。

民間企業にたとえれば、各省庁は政府の下部機関に過ぎないのです。そういう観点からすると、各省庁の幹部クラスの人事を内閣人事局が担うのは当然のことです。直截にいえば、内閣人事局がないほうが、異常なのです。

これに関して、マスコミが、内閣人事局を悪いことのように報道するのは間違いです。このようなことを報道する新聞記者が会社の中で、取締役会が幹部の人事にからむのは、忖度などを招くので良くないと心の底から信じ込み、すべて人事部が決めるべきと、会社に抗議すれば、降格・減給、あるいはどこかに左遷される、それどころか全部の懲罰をくらうのが落ちでしょう。

そもそも、石破氏のいう「官邸が言っているから誰も止められない」というのは理屈として成り立ちません。官邸が言っていることを官僚が止めるなどということがあってはならないのです。官僚がとめなくても、間違いばかりしている政権は有権者にみはなされるだけです。これを官僚がとめることができたら大変なことです。

岸田氏のいうように、「権力は鋭利な刃物のようなものだ。使い方を間違えてはならない」というのはおかしな話であり、菅氏が語る「政権の決めた政策の方向性に反対する幹部は異動してもらう」という措置は当然のことです。この点では、鋭利な刃物どころか、大鉈をふるうべきです。それが間違っていれば、有権者がそのような政府を支持しなければ良いのです。

民間企業で、取締役会が、会社の方針に従わない幹部を異動させたり、左遷させたり、降格したり、減給、解雇等の処分ができないようであれば、会社はまともに機能しなくなります。それを人事部が行うということにでもなれば、会社を真にコントロールするのは実質人事部ということになります。

いくら取締役会かあっても、取締役会は意思決定機関であって、会社を実際に動かすのは、各部署であり、各部署の幹部の人事を取締役会が決めることができなければ、結局会社をコントロールできるのは人事部ということになってしまいます。

自民党総裁選は菅義偉氏が最優勢です。アベノミクス踏襲を掲げていますが、経済政策以外に省庁再編にも意欲を示しています。

デジタル庁構想に加え、厚生労働省再編にも言及し、中央省庁の「再々編」の可能性も出てきています。

現在の1府12省庁体制は、1996年橋本政権で議論され、2001年森政権に発足しました。これは、戦後初の本格的な省庁再編で、政治主導、縦割り行政打破を狙っていました。


しかし、これによって旧建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁が合併した国土交通省、旧総務庁、郵政省、自治省を一体化した総務省、旧厚生省、労働省による厚労省という巨大官庁が生まれました。

特に、厚労省は、業務が多岐にわたり増え、国会対応もままならないと言われています。2018年9月、自民党行政改革推進本部(甘利明本部長)から、厚労省の分割を促したほか、子育て政策を担う官庁の一元化が提案されました。その当時、自民党総裁選の最中でしたが、争点化されることなく、議論は立ち消えになってしまいました。

省庁再編は霞ヶ関役人の最大関心事です。役人の本能として、仕事の拡大があります。逆にいえば、省庁再編では、各省所管分野の争奪があり、「領地」の拡大縮小で各省庁は悲喜交交(こもごも)になります。その中で、政官の関係では政治が優位になることが多いです。

菅氏は、第二次安倍政権で創設された内閣人事局のシステムをうまく使い、官僚を適切にコントロールしてきました。その結果、歴代官房長官の中でも屈指の官僚掌握能力を持つに至りました。

省庁再編を政策の柱にすれば、菅氏の官僚に対する権勢を維持し、優位を保てるでしょう。自民党内でも省庁再編は議論されてきたので、各派閥も表だって反対しにくい事情もあります。

ただし、省庁再編の議論が具体的に進むと、特定の省庁での不満が出てくる可能性もあります。そうなると、各派閥と省庁が結託して、総論賛成各論反対に回る可能性もあります。この辺りについて、マスコミはどちら側につくのかも興味深いところです。

省庁再編は、当然なことながら、その時の政策課題と大きく関係があります。その意味で重要なのですか、省庁再編では政策議論というより「器」にばかり議論がいき、そこに人的リソースをかけすぎるのは効率的とはいえません。

内閣人事局は、官僚側の言い分をそのまま記事にして批判するマスコミもありますが、先にも述べたように、それまで各省で行っていた幹部人事を官邸に移したもので、民間企業では幹部人事を各事業部でなく本部で行い最終的には取締役会が承認するの同じく当たり前のことです。

その時の発想では、省庁再編が行いにくいのは、各省の事務分担が各省設置法で定められているからでした。そもそも、海外の国々では、各省設置法などなく、その時の政権が柔軟に行政組織を決めるのが普通です。

民間企業では、組織の改編は執行部がきめ取締役会が承認しています。さらに、その時々で既存の部署のほかに、独立型を含むプロジェクトチームをたちあげ、業務が終了すれば解散ということも行っています。そうでないと、時代の変化に対応できないからです。

現在各省庁や、各省庁をまたいだ、ブロジェクトチームやワーキンググルーブも存在はしていますが、十分なものとはいえないです。それは、いまだにプロジェクトチームやワーキンググループで決められたことを実行するのは各省庁だからです。

この発想からいえば、今ある各省設置法を全て束ねて政府事務法として一本化し、各省の事務分担は政令で決めれば良いです。こうした枠組みを作れば、その時の政権の判断で省庁再編を柔軟に行えます。それどころか、特定の問題・課題に関して、時限的なプロジェクトチームをつくり意思決定だけではなく、実行にまでもっていくことができます。この方式の方が世界標準であり、政治主導がより発揮でき、時代の変化への対応も容易になります。

菅政権には、ここまで実行していただきたいものです。

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2020年9月12日土曜日

「文革」評価揺り戻しから見える習近平の危うい立場―【私の論評】米国と反習近平派は、今のところ利害が一致しているが、たとえ習が失脚しても米国の制裁は続く(゚д゚)!

「文革」評価揺り戻しから見える習近平の危うい立場

習近平が“擁護”するも、教科書は再び「間違い」と記述

日本戦略研究フォーラム

(澁谷 司:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長)

北京の天安門広場近くで販売されていた土産用のプレート、2017年10月


 よく知られているように、1981年、中国共産党は11期6中全会で、「文化大革命」(1966年~76年。以下「文革」)を総括した。同会議では「建国以来の党の若干の歴史問題についての決議」が採択され、毛沢東主席が起こした「文革」は「誤り」だった、とはっきり認めた。

 けれども、習近平政権は、「文革」(「文化小革命」「第2文革」)を復活させようとしている。おそらく習主席は自らが毛主席と肩を並べる存在か、それ以上を目指しているのだろう。

 具体的に、次のような事例である。

 第1に、2015年頃から、「文革」時代の「密告」制度が復活した。例えば、生徒・学生が“誤った思想”を持つ教師・教授を当局に「密告」している。

 第2に、昨2019年10月以降、中国教育部(文部省)が全国で焚書を奨励している。そのため、文化的遺産である相当数の書物が焼失した。

 第3に、今年(2020年)7月、『人民日報』が「下放」(上山下郷運動)を推奨した。学生らが“自発的”に農村へ行くというのは建前で、実際には、「強制的」に農村へ送り込まれる。

「文革」時の1968年、毛主席は都市の知識人青年約1600万人を農村へ送り込んだ。だが、その多くの青年は都市へ戻る事ができなかったという。

2018年版の教科書で擁護された文革

 さて、今年(2020年)9月4日付『多維』は「高級なブラック(党の理想、信念、目的、政策などの極端な解釈─引用者)か? 中国共産党の誤りを是正し、『文革』に関する見解を回復させる」という記事を掲載した。同記事に記された教科書改訂の推移を見ると、中国共産党の内部事情を知る手がかりになるので、紹介したい。

*  *  *

「新型コロナ」下、9月初旬に中国全土の中高が開校した。新学期高校1年の歴史教科書では、新しい教科書が採用された。1981年以来、「文革」については、評価が4回変更され、過去3年間では毎年書き換えられている。

 まず、2018年版は、従来の教科書と異なり「文革」という章をなくして、それを「苦難の探求と建設の成就」という項目へ統合した。そして、以前、教科書に書かれていた毛主席の「過ち」等の表現を削除している。

 その他、同年版では、「文革」は「新中国建国以来、党と国と人民に最も深刻な挫折をもたらした」としながらも、「複雑な社会的・歴史的理由で発動された」と説明している。また、「社会主義国の歴史は非常に短く、わが党は社会主義とは何か、社会主義をどのように構築するかについて十分に明確にしていないため、その探求に遠回りをした」と「文革」を擁護した。ただ、「文革」に対する“同情”と“美化”に関して、多数の批判を受けている。

 2018年版を見た大半の人々は、これは国政の「左」旋回(中国語の「左」は日本語の「右」)の兆候であり、中国が「極左」(=「極右」)という「昔の道」に戻るのではないかと心配した。

 しかし、2019年版の教科書は、前年版の「探究」「回り道」「挫折」「複雑な原因」などの表現を「『文革』はいかなる意味でも革命や社会進歩ではないことを証明した」と「文革」に関して再評価を始めた。

 更に、2020年版の教科書では、学習の“焦点”に「『文革』の理論と実践は間違っている」と明記し、「文革」については「いかなる意味でも革命や社会進歩ではなく、指導者の“誤ち”で、『反革命集団』に利用され、党・国家・人民に深刻な災いを招く内紛だったことを事実が証明している」と従来の中国共産党の公式見解を復活させた。

*  *  *

 以上が、記事の概要である。

 このように、近年、中国歴史教科書で大きく変化したのは、2018年版である。おそらく習近平政権は、前年の2017年(ないしは、それ以前)から「文革」への評価を変更しようとしていた事が窺える。そして、実際、2018年の教科書改訂につながった。これは「習近平派」が一時、党内で優勢になった結果ではないだろうか。

 ところが、翌2019年には、「反習近平派」(その中心は李克強首相)が徐々に巻き返し、今年2020年には、以前の「文革」評価に戻っている。これは、2018年~19年にかけて「反習派」が党内で支配的になった事を物語るのではないか。

 だからと言って、軽々に、「反習派」が共産党全体を牛耳っているとは決めつけられないだろう。習近平主席が依然、軍・武装警察・公安等を掌握しているからである。

 ただし、いつ習主席に対するクーデターが起きても不思議ではない状況にある。直近では、今年3月、郭伯雄の息子、郭正鋼がクーデターを起こしたと伝えられている。

 それにしても、中国共産党は、一度、「文革」を明確に否定しておきながら、習主席に再び「文革」発動を許すというのは、どういう訳だろうか。中国では、いまだ普通選挙の実施等、民主主義が作動していないという“悲劇”かもしれない。

[筆者プロフィール] 澁谷 司(しぶや・つかさ)

 1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。2020年3月まで同大学海外事情研究所教授。現在、JFSS政策提言委員、アジア太平洋交流学会会長。
 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。


◎本稿は、「日本戦略研究フォーラム(JFSS)」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。

【私の論評】米国と反習近平派は、今のところ利害が一致しているが、たとえ習が失脚しても米国の制裁は続く(゚д゚)!

上の澁谷氏の記事を理解するためには、まずは中国の権力闘争とはどのようなものかを理解する必要がありそうです。

中国の権力闘争とは、政治局常務委員という最高指導部メンバーや最高指導部を経験して引退した長老が、それぞれ派閥をつくり、利権やイデオロギー、政策路線で対立し人事権を握ろうとする中で繰り広げられるものです。

今の中国の派閥状況を見ると、鄧小平が後継者に指名した上海市党委書記出身の江沢民が利権ネットワークを基礎につくり出した上海閥(江沢民派)、共産党の若手エリート育成機関・共産主義青年団(共青団)出身者の胡錦濤を中心とした官僚主義的政治家グループ・団派(胡錦濤派)、新中国建国初期の政治家や官僚の子弟子女、いわゆる二世議員に当たる太子党[そのうち革命戦争を経験した革命家の子弟子女を紅二代と呼ぶ]、そして習近平が自分に忠実な官僚や政治家を集めた陝西閥(あるいは習近平派)の主に四派が絡みあっています。

太子党は派閥というより、血統集団の総称で、太子党の中にも上海閥や団派や陝西閥があります。このほか利権ごとに石油閥、電信閥、水利閥、レアアース閥といった派閥があり、また山西閥、四川閥、江蘇閥、遼寧閥といった地縁の派閥もあります。

一九四二年生まれの周永康は、いわゆる太子党、紅二代ではなく、もとは貧農出身の石油エンジニア。努力型の秀才であり、中国近代化に伴って石油事業が国家重点産業と重視される中で順調に出世し、国有企業の中国石油天然気集団副総裁に上り詰めたあと、一九九八年の江沢民政権・朱鎔基(一九二八~/第五代国務院総理などを歴任。大胆な経済改革を試みた)内閣のときに国土資源部長に転身、四川省党委書記を経て中央指導部への出世街道をまい進しました。

彼の出世は江沢民に抜擢された形であり、上海閥の一員です。また石油企業出身なので石油閥であり四川閥の中心でした。

胡錦濤政権下で胡錦濤は、引退した後も解放軍を手なずけ、政治に影響力を持とうとした江沢民との激しい権力闘争を展開しますが、その権力闘争では江沢民が優勢で、上海閥の周永康は公安部長を経て党中央政法委員会書記で政治局常務委員、つまり司法・公安部門の最高権力者となります。

周永康がそこまで出世したのは、石油利権を独占する石油閥の立場にあり、潤沢な資金を用意できたことも関係します。周永康は警察や治安維持を担当する軍の下部組織・武装警察の指揮権を持ち、石油利権で得た資金も豊富な最強クラスの政治家にのし上がりました。

周永康が政治局常務委員にのし上がったほぼ同時期、習近平は上海市党委書記出身で、江沢民とその腹心の太子党のボスである曾慶紅[一九三九~/第一六期中国共産党中央政治局常務委員。「第四世代」といわれる。太子党]に推される形で、ポスト胡錦濤の地位に就いていました。

一九五三年生まれの習近平は、建国八大元老と呼ばれた政治家・習仲勲の長男で、太子党で紅二代に属する。江沢民に抜擢されたという意味では上海閥でした。少なくとも胡錦濤政権下では。実力でのし上がったというよりは、習仲勲の息子という毛並みのよさと、胡錦濤VS江沢民の権力闘争で本来ポスト胡錦濤と目されていた陳良宇[一九四六~/第一六期中国共産党中央政治局委員、元上海市市長。上海閥]の失脚で棚ぼた式に手に入れた出世でした。

胡錦濤が大事に育てていた団派のホープ李克強を押しのけて次期総書記のポジションに就いたのも、実力というよりは江沢民らの権謀術数のおかげです。この後の権力闘争は、日本国内でも報道されているとおりです。

なお周永康は、後に失脚しています。法定に姿を表した周永康(下写真)の髪の毛がわずかの期間に真っ白になっていたことが話題となっていました。



天津市第一中級人民法院(地裁)は2015年6月11日、収賄、職権乱用、国家機密漏えい罪に問われた前共産党最高指導部メンバーで、治安・司法部門トップだった周永康被告(72)(前党政治局常務委員)に対し、無期懲役、政治権利の終身剥奪、個人財産の没収の判決を言い渡しました。周被告は法廷で上訴せず、刑が確定しました。

このように権力闘争にあけくれる中国は、対外的にも自国の都合を優先して行動する傾向が顕著です。国内の権力闘争に明け暮れているうちに、米国の対中国政策が半世紀ぶりに宥和(ゆうわ)的「関与」政策から「敵対」政策に大転換しました。トランプ米大統領を内心見下していた中国指導部は混乱状態に陥ったようです。

 米国の政策転換は7月23日、ポンペオ国務長官の演説ではっきり示されました。長官は1970年代に米中関係正常化に踏み切ったニクソン大統領、キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官の「対中関与政策」を「失敗だった」と総括し、強大な全体主義国家、中国の膨張に対抗するための民主主義国の連合結成を訴えました。

演説するポンペオ長官 7月23日

 演説の場所はカリフォルニア州の「ニクソン大統領図書館」。時は南シナ海における中国の権益主張を国際法違反とした2016年7月のオランダ・ハーグ仲裁裁判所の判決から4年がたったころでした。

気まぐれにやった演説ではありません。演説直後から、在米中国人のスパイ活動を次々に取り締まり始めました。

演説の基調は、トランプ政権が5月20日、公表した報告書「中国に対する米国の戦略的アプローチ」です。この日は、毛沢東の「5月20日声明」の50周年に当たっています。 

毛沢東の声明は「全世界の人民よ、団結して侵略者米国とその全ての走狗を打ち負かそう」と対米戦争を煽りました。その50周年を選んだということは、毛沢東を信奉する習近平国家主席は米国の敵だという隠れたメッセージです。 

報告書の発表後、中国側から反応が出るまで約1カ月かかりました。最初は6月18日、習主席の側近で米中貿易協議の中国側代表、劉鶴副首相でした。シンポジウムで経済運営について「経済内循環(国内経済)を主とする」と述べ、反響を呼びました。 

中国経済は、新型コロナウイルスの影響に加えて米国の中国敵視政策で外需が激減し、内需を創出するしかないという悲観的なトーンがにじんでいました。しかも、南シナ海では米中両軍が対峙し、緊張が日々高まっていました。 

ところが、6月30日、全国人民代表大会(全人代)常務委員会が米国が反対している「香港国家安全維持法」を成立させると、同日、習主席は施行令に署名、即日発効させました。党内で最高指導者の威信を維持するためでしょうか、習主席は米中衝突コースに踏み出したのです。

対抗して米国のトランプ大統領は7月14日、香港の自治を侵害した中国高官や金融機関に制裁を課す「香港自治法」、香港経由の対米輸出の優遇を取り消す大統領令に署名、発効させ、首脳同士の関係も一気に悪化しました。 

習主席の動静は施行令署名後、約20日間、途絶えました。この間、北方では新型コロナの感染が断続的に発生。南方では長江流域で長雨による洪水被害が拡大していました。 

21日になって習主席の映像が流れました。北京で開催された、国有企業、民間企業、外資企業の経営者との座談会でした。習主席は、コロナ禍で打撃を受けた企業の活動再開に支援を約束しました。

 それにしてもなぜこのときに、コロナ後の経済支援策の座談会を開いたのでしようか。米中衝突を恐れた企業経営者が資本流出、企業撤退を加速させないように締め付けたのだとも言われています。米国の対中政策転換で中国経済の先行きはいよいよ不透明になりました。

米国と中国の半習近平派は、「文革」評価揺り戻しをはかる習近平への対抗ということでは、利害が一致しています。

というより、米国は「文革」評価揺り戻しをはかる習近平に反対する勢力が中国で台頭しつつあるとみて、中共内部を揺るがすために、毛沢東を信奉する習近平国家主席は米国の敵だというメッセージを意図して意識して送ったのでしょう。

文化大革命中の紅衛兵を演じる女優、毛沢東語録を携えている

これで、半習近平派は勢いづき、習近平が失脚する日がくるかもしれません。しかし、米国としては、毛沢東時代に返り咲こうとする習近平を失脚させることなどでは、中国に対する制裁をやめることはないでしょう。

中国国内では、米国との関係が急激に緊張する中で、「金融戦争」の行き着く先としてドルを中心とする国際通貨システムから中国が締め出される恐れがあるとの不安が高まりつつあります。かつてはまさかと思われていた破局的な展開が、現実味を帯びてきたと受け止められています。

経済規模で世界第1位の米国と第2位の中国が完全にたもとを分かつ事態がすぐに、起きる公算は乏しいとはいえ、トランプ政権は貿易やハイテク、金融業務などに絡む重要分野で部分的なデカップリングを推進し続けています。

その一環として、米国の会計基準を満たさない中国企業の上場を禁止する提案や、動画投稿のTikTok(ティックトック)やメッセージを交換する微信(ウィーチャット)といった中国のアプリ使用禁止の方針などを打ち出しました。11月3日の米大統領選に向け、両国の関係はさらに緊迫化する見通しです。

現在、中国共産党内部では、米国の制裁に関して、かつてないほどに危機感が高まっているのは、確かです。

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2020年9月11日金曜日

中国の南シナ海進出に経済でも圧力をかけ始めた米国―【私の論評】そのうち中共高官や富裕層が、ホームレスになったり餓死するかもしれない(゚д゚)!

中国の南シナ海進出に経済でも圧力をかけ始めた米国

岡崎研究所

 8月26日、米国は南シナ海で人工島や施設の建設に関与してきた中国交通建設など24企業に対する輸出規制や役員の米入国の規制などの制裁措置を発表した。商務省の「エンティティ・リスト」にこれら24企業を追加し、米国製品の輸出を事実上禁止する措置である。これに関して、8月26日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説は、米国政府の今回の制裁を評価している。


 制裁措置は、直接の効果は別として、中国の南シナ海政策のコストを引き上げるとともに、東南アジアの国々のこれら問題企業に対する姿勢を一層慎重にさせるだろうと述べている。なお、中国交通建設は、国有資本による従属会社で、関係企業は港湾、河川、道路、橋梁、鉄道、浚渫などの交通インフラの建設や設計、港湾向けの大型機械の製造などを行っている。同企業は「一帯一路」の活動もしているのであろう。

 今回の米国の措置は、大きな直接効果があるかどうかは分からないが、評価される。最近、米国は中国による南シナ海軍事化に対する反対を強めている。7月13日は、中国の南シナ海での九段線等の領有権主張等を非合法とした2016年7月12日のハーグ仲裁裁判所の判決の4周年に当たる日の翌日だったが、この日、ポンペオ国務長官は、声明を発出し、「中国が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うことを世界は認めない」と述べるとともに、仲裁裁判所の判決に「米国の立場を一致させる」と述べ、中国の主張は「全面的に非合法」と、それを否定した。また米国は、英国や豪州など関係諸国と協力して、南シナ海で「航行の自由作戦」を強化している。8月26日にも米国は南シナ海へ偵察機R132を飛来させた。なお、7月のポンペオ声明は歓迎されるが、もっと早期に明確にすべきだったという意見もある。

 中国は着々と既成事実を積み上げている。習近平が2015年に南シナ海を軍事化することはしないと約束したにも拘わらず、中国は仲裁裁判所の判決をゴミ紙だと言い放ち、その後、南シナ海の島嶼に次々と軍事基地を建設し、戦闘機などの運用や配備を進めている。香港紙によると、8月26日、中国は南シナ海に向けて弾道ミサイルの発射実験をしたという。「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風21D」(射程1500㎞)と中距離弾道ミサイル「東風26B」(射程4000㎞)の2発とされるが、米軍によると、発射されたのは4発だったと言われる。これは前日渤海湾への米偵察機U2飛来に対する対米警告だったと言われる。目下中国は南シナ海、東シナ海、黄海、渤海湾の4水域で大規模な同時軍事演習をしている。中国の南シナ海の軍事化は、国際法に違反し、周辺国に脅威を与え、中国の正当な安全保障ニーズを超える挑発的なものと言わざるを得ない。

 中国に対しては、関係諸国の結集が重要である。ベトナム、インドネシアなど東南アジア諸国が中国の行動に抵抗していることは当然のことだ。その中で、フィリピンが独自の対中行動を見せていることは気掛りである。関係国はフィリピンとの協力、連携に努めていくことが重要である。

 8月末、エスパー国防長官はハワイ、パラオ、グアムを訪問した。それに先立ち、エスパー長官は8月24日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「国防省は中国に備えている」と題する論説を寄稿した。中国軍の活動を念頭に、南シナ海、東シナ海などを含むインド太平洋の情勢について、関係諸国と協議するとともに、米軍を視察する旨述べている。8月29日にはグアムで日米防衛相会談が開催された。エスパー長官が太平洋に対し関心を強めることは歓迎されることである。なお、パラオ共和国は台湾と外交関係を維持する大洋州4か国の一つである。

【私の論評】そのうち中共高官や富裕層が、ホームレスになったり餓死するかもしれない(゚д゚)!

一度、中国が南シナ海を掌握し実効支配しているという認識が、中国および東南アジア諸国に定着すれば、この認識を覆すのは困難です。実際に戦闘して中国に勝利すれば結果は明らかですが、米国にも中国と戦争する意思がない限り、米国は南シナ海においてこれまで以上に軍事プレゼンスを示さなければならないでしょう。

4月下旬、オーストラリア海軍がフリゲートを派出して米軍と行動を共にさせたのは、南シナ海における米海軍の存在感が下がったと中国や東南アジア各国に認識させないよう、同盟国としての役割を果たしたのだと言えます。

4月下旬 米軍は南シナ海で演習 オーストラリアのフリゲート艦も参加

米国は、上の記事にもあるように、中国に対してさらに強い圧力を掛けました。7月13日、ポンペオ国務長官が「南シナ海の大部分に及ぶ中国の海洋権益に関する主張は完全に違法だ」と声明を出したのです。

これまで米国は、他国間の領土紛争について立場を明確にしたことはなく、極めて異例の声明です。領土紛争は、イデオロギー対立と同様に落としどころがありません。ポンペオ国務長官の声明は、米国は南シナ海において中国と対決する決意を示すものであると言えます。

一方の中国も、米国が軍事プレゼンスを向上させ、南シナ海を掌握しようとする中国の試みを妨害していると認識し、危機感を高めています。特に中国海軍の現場指揮官レベルは、中国国内報道を見て自らが海上優勢を保持していると誤解しているかもしれないです。

これは、昨日も示したように、米軍の原潜が中国のそれの能力をはるかに凌駕していることと、米軍の対潜哨戒能力が中国のそれをはるかに上回っていることでも、米軍優位は明らかです。中国が超音速ミサイルなどを有していても、発見できない敵を攻撃できません。逆に米軍は敵を正確に発見できるため攻撃は容易です。

南シナ海において米海軍が活動を活発化させれば、増長した中国海空軍と予期せぬ衝突を起こす可能性もあります。中国指導部は、こうした可能性を理解しているように見受けられます。中国が日本の動向にも注目しているからです。

万が一、米国と中国が南シナ海において軍事衝突した際に、日本がどのように行動するのか、情報収集しているのです。それは、中国が、南シナ海における米国との軍事衝突の可能性を真剣に考えていることを意味します。

こうした状況下、日本は、中国の「常態(NORMAL)」に対する認識が、日本や米国の「常態」に対する認識と異なることを認識する必要があります。日本や米国は、安定している現状が常態であると考え秩序を維持しようとするが、中国は、自らの影響力が及ぶ地理的空間が拡大することが常態であると認識し、最終的に国際秩序を自らに有利なものに変容させることを企図します。

この認識のギャップが、過去に米国の対中政策を誤らせてきたとも言えます。中国の挑発的行動を止めるためには、実力を見せてこれを止める他にないのです。

その意味では、南シナ海で人工島や施設の建設に関与してきた中国交通建設など24企業に対する輸出規制や役員の米入国の規制などの制裁措置を発表したことは、誠に正鵠を射たものと思います。

なぜなら、これに対して中国には報復手段がありません。そもそも、国際金融はドルにより米国がその情報を完全に把握し、支配しており、国際金融をカジノにたとえると、米国は胴元であり、中国はいくら金を大きく動かしたにしても、一プレイヤーに過ぎません。

胴元にカジノから出ていけといわれれば、プレイヤーは何もできずに追い出されるだけです。一方、米国の政府幹部や、富裕層は、中国に金を預けていませんし、中国に入国できなくなってもほとんど支障がありません。困るのは、中国をビジネスをいまだ継続しているほんの一部の人間だけでしょう。

経済的な制裁は、かなり効果があります。今後、米国は南シナ海での軍事的プレセンスを高めるとともに、経済的にも中国の個人や組織に制裁を拡大しつつ、中共を弱体化させていくでしょう。今頃中共幹部と富裕層は大パニックに至っているでしょう。

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は8月12日、平日午後に毎日実施している定例会見について、今年は夏休み期間を設定しない方針を示しました。近年は8月中下旬に2週間程度の休暇期間をとっていたのですが、台湾や南シナ海、新型コロナウイルスなどの問題をめぐって米国が対中圧力を強めていることへの危機感から、今年は夏休み返上で対応しました。

中国外務省の定例会見には通常、国内外の記者ら数十人~100人超が出席。この日、夏休みの時期について問われた趙氏は「今年、われわれに休みはない」と回答し、理由については「地球人なら誰でも知っている」とだけ述べました。

趙氏は8月11日、米国務省のオルタガス報道官が「中国共産党は人命救助よりもメンツを守ることを重視する」とツイッターに投稿したことに反発し、「米国は自らの身を省みるべきだ」と米国の新型コロナ対応を批判。10日には米国が香港政府トップら11人に制裁を科したことに対抗して米上院議員らへの制裁措置を発表するなど、対中圧力を強めるトランプ米政権への反論や対抗策の発表に連日追われています。

趙立堅氏


とこが、趙立堅氏の娘は、米国に留学しているとされています。それで、米国に対して厳しいコメントをするのは仕事であって、本当は米国が好きなのではないかと揶揄される始末です。

トランプ政権は、中国人の留学生やその家族を米国から追放する政策も実行しようとしています。そうなれば、趙氏の娘も追放されるかもしれません。

実際、中国にはこのような幹部が大勢います。将来は、米国に住むことを夢見て、米国に家族を移住させて、不正行為などで蓄財した金をせっせと米国に送金して、時期がくると、中国から米国に逃げるという人たちも大勢います。そういう人たちを中国では裸官といいます。

米国は国際金融を支配しているため、ドルの流れに関しては、かなり詳細まで把握しており、米国以外のEUなどの国々の、中国人の資産も正確に把握しているといわれています。

今後、こちらのほうにも米国は手を伸ばしていく可能性があります。そのうち、中共の高官や、富裕層の中には、米国などに巨万の富を蓄えているにもかかわらず、それが凍結されて、ホームレスになる人もでてくるかもしれません。

それどころか、中国にはセーフティーネットがほとんどないので、老後米国に移住しようとしていた人たちが資産を凍結され米国やEU等にも入国できず、年老いたときに餓死寸戦になる人がでてくるかもしれません。米国は中国が体制を変えない限り、ここまで制裁を強化していくでしょう。


左上の女性はアウシュビッツ収容所で発見された餓死寸前の女性。収容所に入る前に75kgあった体重が出る頃には25kgだっといいます。

ホームレスや餓死までいなかなくても、かなりの中共幹部や富裕層の家族も含めて、貧乏生活に追いやられ路頭に迷う人もでてくるでしょう。そのときになって初めて、中国の多くの人民や貧困層、少数民族の苦境に思い至り、自分たちの考えが間違っていたことに気づくのかもしれません。しかし、そうなってしまえば手遅れです。

中国がいつまでも南シナ海の「常態」にこだわれば、米国は中国を国際金融から弾き出すでしょう。そうなれば、中共は統治の正当性を失い崩壊して、大陸中国に新たな秩序が生まれることになります。

軍事的にも、経済的にも中国に勝ち目はありません。

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2020年9月10日木曜日

中国軍機が台湾侵入!防空識別圏内に 米中対立激化のなか、露骨な挑発続ける中国 日米の“政治空白”も懸念―【私の論評】すでに米軍は、台湾海峡と南シナ海、東シナ海での中国軍との対峙には準備万端(゚д゚)!

中国軍機が台湾侵入!防空識別圏内に 米中対立激化のなか、露骨な挑発続ける中国 日米の“政治空白”も懸念
熾烈!米中“激突”へ

台湾の防空識別圏に入った中国の戦闘機「スホーイ30」の同型機

。 中国軍が9日、多数の戦闘機などを、台湾の防空識別圏内に侵入させる事態が発生した。台湾軍機が緊急発進(スクランブル)した。習近平国家主席率いる中国軍は7月以降、南シナ海や東シナ海、渤海、黄海の4海域で軍事演習を繰り返し、8月末には南シナ海に弾道ミサイル4発を撃ち込んでいる。米中対立が激化するなか、露骨な挑発を続けているのか。

 台湾・国防部は9日、複数の中国軍機が同日午前、台湾の南西空域の警戒エリアで活動したと明らかにした。台湾の通信社「中央社」の日本語サイト「台湾フォーカス」が同日報じた。

 国防部によると、侵入したのは、中国空軍の戦闘機「Su-30(スホーイ30)」や「殲10」など、複数の機種で多数という。さまざまな高度で、次々に侵入したとの報道もある。

 中国軍は、アレックス・アザー米厚生長官が8月10日、台湾の蔡英文総統と台北市内の総統府で会談した際も、戦闘機「殲11」や「殲10」などを台湾海峡の中間線を超えて侵入させている。

 同月26日には、中国本土から南シナ海に、グアムの米軍基地を射程に収める「東風(DF)26」(射程約4000キロ)と、「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「DF21D」(同1500キロ以上)など4発を撃ち込んでいる。

 現在、米国では大統領選(11月3日投開票)まで2カ月を切り、共和党のドナルド・トランプ大統領と、民主党のジョー・バイデン元副大統領が接戦を演じている。日本でも、自民党総裁選(14日投開票)の真っただ中で、日米の政治的空白が懸念されている。

 今回の中国軍機侵入について、台湾国防部は「地域の平和や安定を破壊する中国共産党の一方的な行為を厳正に非難する」としている。

【私の論評】すでに米軍は、台湾海峡と南シナ海、東シナ海での中国軍との対峙には準備万端(゚д゚)!

台湾の蔡英文総統は8日、台北で行われたアジア太平洋地域の安全保障に関するフォーラムで演説し、中国が周辺地域で示している拡張主義に対し、民主主義諸国は立ち向かおうと呼び賭けました。9日の中国機の台湾侵入は、これに対する中国側の牽制とみられます。

蔡氏は名指しこそしなかったものの、中国を念頭に置いた発言であることは明らかです。その中で、台湾は「独裁主義による侵略から民主主義を守る最前線にいる」と蔡氏は述べ、民主主義国の同盟によって「自由と…人権そして民主主義」は守られるだろうと語りました。

また同じく中国の国名は挙げずに、南シナ海や台湾海峡における軍事行動や「他国や企業に対する強制外交」に触れた上で、「志を同じくする国々、そして民主主義の友好国が…一方的な侵略行動を抑止する戦略的秩序を維持するときだ」と述べ、一国だけでは地域の平和と安全を維持できないと強調。「それらの同盟こそが、われわれが最も重視する価値観、すなわち自由、安全、人権、民主主義を守ることができる」と主張しました。

さらに蔡氏は「われわれの価値観や信念を共有しない人々との短期的な解決策」を求めることは避け、経済統合を求めると述べました。

中国が台湾に対して様々な威嚇をしつつも、未だ台湾に侵攻しないことや、将来的にもかなり困難であるのには理由があります。

中国海軍が「遼寧」の威容を広くアピールしようとも、あるは他の艦艇を誇ったにせよ、それは政治的には一定の宣伝効果はあっても、軍事的には大きな標的に過ぎません。

その理由は、圧倒的な優位性を誇る米攻撃型原子力潜水艦ならびに中国をはるかに凌駕する対潜哨戒能力です。グアムを拠点とする米潜水艦は対潜哨戒能力が未だ脆弱な中国海軍に見つかることなく、自由に台湾海、東シナ海、黄海、南シナ海に出入りしていて、水中からひっそりと「遼寧」の機動部隊をいつでも魚雷で仕留められるポジションを維持しながら追尾しています。

現代のミサイル戦闘において空母は、軍事のプロの世界では超音速ミサイルや魚雷で容易に狙える脆弱な標的と評価されつつあります。私は、脆弱であると断定しています。現在の空母は、第2次世界大戦中の大型戦艦と同じようなものであると言っても過言ではありません。

特に米空母よりも防空能力に課題がある「遼寧」は、自国や周辺国の一般国民にその威容を通じてメッセージを送る政治的、外交的手段という要素が強いです。

もちろん、中国は空母を動員した派手な政治パーフォマンスだけに終始していたわけではないです。ひっそりと、しかし着実に課題を克服するための手を打っていました。

たとえば、地対空ミサイルに守られた人工島、ファイアリー・クロス礁にある軍事基地には、2機のKQ-200(Y8-Q)と呼ばれる海上哨戒機が配置されています。

ImageSat Internationalは、南シナ海のFiery Cross Reefに配備された中国のKQ-200海上哨戒機2機を発見しました。画像は4月10日に撮影されたものです。



海上を監視する哨戒機は戦闘機と比べると一見、地味ですが、その配備には重要な軍事的意義と戦略的意図が込められています。空母による示威が「名」であるとすれば、哨戒機の展開は「実」だといって良いです。

Y8-Qの任務は海中に潜む米海軍の原子力潜水艦を発見、探知、追尾し、命令があればいつでも攻撃、撃沈することです。8時間から12時間の哨戒時間があるとされるこの機体を、中国本土に隣接する海南島からファイアリー・クロス礁に進出させてきたことは、その哨戒のリーチを南シナ海のより奥深く、南シナ海全域を収めようとする中国の戦略的意図があります。

これまでリーチが及ばなかった南シナ海のより南方海域にも監視の目を張り巡らせ、米潜水艦が潜める聖域をなくしていく、という明確な意思がそこにはあります。無論台湾海峡にも中国軍はこのような行動をとりつつあるでしょう。

現在、海軍の艦艇数や運用可能な攻撃機の数といったハード面だけでなく、それらの運用を支える宇宙アセットやサイバー電子分野においても人民解放軍の追い上げは凄まじく、米軍は対中紛争における敗北を余儀なくされる、との見方すらワシントンでは出始めています。

そのような状況の中で、海中の領域、つまり潜水艦による水中の戦いは今でも米軍が絶対優位を維持している分野です。私は米軍は、まだ公にしていないものの、根本的に戦略を変えていると思います。緒戦において米軍は、潜水艦を多様するものと思います。

軍事評論家の中には、このことを無視して、米軍は南シナ海で負けるとする人もいますが、そのようなことはないと思います。かつて米軍は、日本が空母を建造して、優位性を発揮し、真珠湾で大敗を喫した後にすぐに海軍の戦術を変えて、空母を用いるようにしました。

日本軍が、多数の南太平洋の島々に迅速に上陸した有様を研究して、海兵隊の戦法をすぐにかえました。現在では米中は戦争に突入してはいないものの、中国海軍の様子をみて、戦略を変える時間はいままでも十分にありました。おそらく戦術上も戦略上も有利なほうに迅速にシフトするのは今でも変わりないでしょう。

かつて、朝鮮有事が懸念された2017年に、トランプ大統はFOXビジネスネットワークの番組、「モーニングス・ウィズ・マリア」で朝鮮半島付近への、自ら空母派遣について言及しました。

トランプ大統領は、この番組の中で対北朝鮮問題にふれ「我々は無敵艦隊(カール・ヴィンソン打撃群)を送りつつある。とても強力だ。我々は潜水艦も保有している。大変強力で空母よりももっと強力なものだ。それが私の言えることだ」と発言しています。これこそが、私は米国の戦略の転換を示していたと考えています。

しかし、米軍は未だに潜水艦を多様する戦術・戦略を発表していません。それは、もちろん極秘中の極秘だからでしょう。
トランプ大統領が具体的に何を言っていたのか断定はできませんが、たとえばアメリカ海軍は4隻、太平洋側と大西洋側に2隻ずつ改良型オハイオ級巡航ミサイル潜水艦を持っています。他の潜水かもあわせると70隻の潜水艦を所有しています。

当時オハイオ級のミシガンという潜水艦が横須賀に入りましたが、とにかく巨大です。この潜水艦は特殊部隊シールズを乗せることができるだけでなく、巡航ミサイルのトマホークを1隻で最大154発、水中から連射することができます。

2017年のシリアの攻撃の時に駆逐艦2隻で発射したトマホークの数が59発ですからその規模がとんでもないことがわかります。この潜水艦のトマホークは、水中のハッチが開いて7つある発射口からトマホークが高圧空気で押し出され発射されます。

これよりもさらに大きくて強力な潜水艦が米国にはあります。たとえば、下の写真のシーウルフ級原潜です。

1997年から就役するアメリカ海軍有する世界最強の攻撃型原子力潜水艦シーウルフ級


アメリカ海軍最後の冷戦型攻撃原潜となったシーウルフ級は、ソ連海軍のアクラ型に対抗すべく、攻撃能力、静粛性、速力、潜航深度、氷海行動力など全ての面で世界最高の性能を持ち、「聖域」内への積極的攻勢すら可能な超高性能艦とするべく設計・開発されました。

当初は29隻を建造する計画でしたが、1隻21億ドルというあまりにも高価な建造費に加え、冷戦終結に伴い過剰性能であるとの判断から、これまでに計3隻のみが建造されています。

シーウルフ級を投入するまでもなく、オハイオ級などの潜水艦や他の攻撃型原潜が、緒戦で攻撃に出れば、中国軍は手も足も出ないです。同時に中国側としては、いくらミサイル戦力や海軍力、宇宙サイバー戦能力を充実させても、米海軍の虎の子の原子力潜水艦を発見し攻撃するASW対潜水艦戦能力が欠如している現状ではいかんとし難いです。

シーウルフ級などは、もし中国が核などを用いた場合に、それに報復するためいまでも、深く沈んでいることでしょう。

深海に留まり続け、中国の動きを偵察し、人工島と本土を結ぶ補給線を脅かす米潜水艦の存在は中国にとっては、脅威そのものです。米潜水艦が、緒戦で中国軍の艦艇ミサイル基地などを破壊し尽くした後に、空母打撃群の波状攻撃にあえば、勝ち目は全くありません。そこに、強襲揚陸艦で米海兵隊員が多数乗り込んできた場合どうなるでしょうか。

そこまでしなくても、米潜水艦が南シナ海を包囲して、中国艦艇を近づけないようにすれば、南シナ海の中国軍基地には水・食糧その他を補充できなくなってお手上げになります。台湾海峡では、台湾に中国の強襲揚陸艦を含む艦艇や航空機が近づいた場合、それらのほとんどを米軍が撃破し、後の追撃戦は台湾に任せれば良いのです。

中国軍側からみると、何の前触れもなくある日突然、多くの艦艇、潜水艦、環礁上の基地が、どこから攻撃されたかもわからないうちに、撃沈、撃破され、無力の状態になったところに、さらに空母打撃群によるミサイル、航空機の波状攻撃を受けることになります。

さらに、日本の潜水艦も、米国の原潜よりも、静寂性に優れています。元々原子力潜水艦は、先日もこのブログでも掲載したように、通常型よりも静寂性が劣るのですが、日本の潜水艦は静寂性は世界一です。特に、最近燃料としてリチュウム電池を使用するようになりましたが、これは静寂性というより無音です。これは、中国側には発見不能です。いや、米軍ですら発見できないでしょう。

昨年11月6日に進水したそうりゅう型12番艦「とうりゅう」。リチュウム電池で駆動

日本は22隻の潜水艦を所有しています。このすべての潜水艦が、中国側にはまったく探知できないか、探知がかなり困難です。これらの潜水艦が、東シナ海、南シナ海などを中国に発見されず自由に航行できるのです。

さらに、日本の対潜哨戒能力は、冷戦終了前までは世界一だったのが、最近では米軍には少し劣るようではありますが、それでも世界のトップクラスであり、中国のそれをかなり上回っています。

米中が台湾海峡や南シナ海で、衝突した場合、日本の潜水艦は戦闘そのものには加わらないかもしれませんが、偵察活動をなどで支援することは多いにありえることと思います。

軍事評論家やマスコミなどの危惧をよそに、日米ともに、尖閣、南シナ海、台湾海峡での中国軍との対峙への準備は十分整っているといえるのではないでしょうか。そうでなければ、台湾も尖閣もとうの昔に中国に蹂躙されていたはずです。

日米の潜水艦は、中国軍に気づかれずに今でも、東シナ海、台湾海峡、南シナ海を航行し、すでに遼寧などを含む複数の中国艦隊艦艇を何度も模擬訓練で撃沈していることでしょう。

潜水艦の行動は、世界中で昔から表に公表されません。それは、潜水艦の行動は隠密に行わなければ意味がないからです。これは世界中の海軍に認められていることです。そのようなこともあり、日米ともに自国の潜水艦の行動は発表しません。また、対艦哨戒能力の能力を図れることを嫌い、相手側の行動を察知してもそれを公表しないのが普通です。

今年の6月に、日本が中国のおそらく静音性が高いとみられる通常型潜水艦が奄美沖の接続水域を航行したことを公表したのは例外的なものです。これは、日本としては中国に対する牽制の意味で発表したのでしょうが、中国と日本の対潜哨戒能力の段違いの差があることを見せつけるという意味もあったことと思います。

そうして、尖閣諸島が未だに中国に奪取されないのは、日本の潜水艦の能力と、対戦哨戒能力が段違いであるからでしょう。これからも、これは大きな抑止力となります。この優位性だけは失うべきではありません。

中国の潜水艦の行動は、日米ともに詳細を把握しており、音紋という個々の潜水艦固有の音を特定しており、中国のどの潜水艦がどのような行動をしているのかまで知っているでしょう。それに比較して、対潜哨戒能力の低い中国は、日本の潜水艦の音紋すら一部を除いて特定していない可能性が大です。

米中で軍事衝突があれば、中国の潜水艦は、すぐに日米に探知され、米軍によって撃沈されてしまうことでしょう。さらに、米潜水艦は、中国の艦艇や、港、空港などを攻撃して。無力化するでしょう。

これでは、最初から全く勝ち目がありません。軍人であれば、誰もが敵と対峙するときには、自らが最も得意な戦術と戦略で対応すると思います。であれば、米軍は中国と本格的に対峙するときには潜水艦を多用するのは当然の成り行きと思います。中国側もすでにそのことは、気づいているでしよう。

そうして、戦略・戦術の転換は極秘中の極秘であり、発表する必要などありません。発表すれば、敵に自らの手の内を読まれるだけです。

今後日米ともさらに潜水艦を多様して、中国と対峙する道を選ぶべきです。


2020年9月9日水曜日

中国が直面する米国の「挙国一致」反中外交―【私の論評】中国の体制が変わるまで、制裁を続けるのは米国の意思となった(゚д゚)!

 中国が直面する米国の「挙国一致」反中外交

岡崎研究所

 中国に対する姿勢は、米大統領選における一つの大きな争点となっている。世論調査によれば、最近の米国人の対中認識は極めて厳しいものになっており、かつ、その認識は共和党支持者にも民主党支持者にも共有されている。パンデミックをめぐる中国の不誠実な態度、国際約束である香港の一国二制度の事実上の解体、南シナ海における中国の国際法を無視した高圧的態度、中国によるスパイ行為、ウイグルなどでの人権侵害などを考えれば当然のことであろう。当否はともかくとして、中国によって米国の雇用が脅かされているという不安や不満も大きいであろう。



 そういう世論を踏まえ、選挙戦において、トランプ陣営がジョー・バイデンは中国に弱いと言い立てるのは自然であり、かつバイデン陣営がそうではないと反論するのも自然であろう。お互いにどちらが中国にきつく当たれるかを競い合うことになり、対中関係は大統領選挙中には改善しないし、選挙後も速やかに改善していくことは予想しがたいと思われる。

 こうした状況に対し、ワシントン・ポスト紙コラムニストのJosh Roginは、8月26日付け同紙掲載の論説‘The Republican National Convention highlights political abuse of the China challenge’において、共和党と民主党がお互いに対中政策で攻撃し合い、その結果、超党派で行われるべき対中政策がうまくいかなくなる危険がある、との懸念を示している。論説は「(党大会で)共和党は中国問題を濫用し、すべてのアメリカ人がともに直面しなければならない重要問題と言うより民主党を酷評するための一連のキャッチフレーズにしてしまった」と批判する。

 確かに、外交問題を党派間の争いにすることは、いつでも好ましいことではないが、Roginの懸念は心配し過ぎのように思われる。対中姿勢が争点になっているといっても、両党間で正反対の主張がなされているわけではなく、厳しい対中認識については、両党間に差異はあまりない。世論の動向を見れば、厳しい対中態度はトランプが勝とうが、バイデンが勝とうが、変わらないのではないかと思われるし、超党派的な支持を得るだろう。

 中国は、これまでのやり方に対し、米国内のみならず、主要国内で反発が強いことを十分に認識し、行動を変えることが必要であろう。それなくして、中国と西側主要国の関係改善はあり得ないように思われる。

 ポイントは、国際約束を含む国際法は守ること、コロナ・ウイルスはCIAや米軍が持ち込んだなどといったプロパガンダをやめること、ウイグルその他の人権侵害をやめることであろう。中国が戦術的小細工で、あるいは正面突破で、今の難局を克服できるとは到底思えない。

【私の論評】中国の体制が変わるまで、制裁を続けるのは米国の意思となった(゚д゚)!

米国のトランプ大統領は中国との関係について、経済的なつながりを切り離すことを意味する「デカップリング」に言及し、大統領選挙を視野に中国に厳しい姿勢を強調し、支持を広げたいねらいがあると見られます。

トランプ大統領はアメリカの祝日であるレーバーデーの7日、ホワイトハウスで記者会見しました。


この中で、中国との関係について、経済的なつながりを切り離すことを意味する「デカップリング」に言及し、「興味深いことばだ。中国とビジネスをしなければわれわれは何十億ドルを失うこともない」と述べ、中国と経済関係を断てば損失を回避出来るという考えを示しました。

そのうえで「仮にジョー・バイデンが大統領になればアメリカは中国のものになる」などと述べ、民主党の大統領候補のバイデン氏は中国に弱腰だと批判しました。

トランプ大統領としては新型コロナウイルスの感染拡大や貿易問題をめぐり国民の中国への根強い反発もあるなか、大統領選挙を視野に中国に厳しい姿勢を強調し、支持を広げたい狙いがあると見られます。

一方、この日、バイデン氏はアメリカ最大の労働団体の東部ペンシルベニア州の事務所を訪れ、トランプ大統領の政治姿勢を厳しく批判し、支持を訴えました。


また、同じ日、共和党と民主党の副大統領候補のペンス氏とハリス氏は激戦州の中西部ウィスコンシン州でそれぞれ支持を訴えていて、11月の大統領選挙に向け、選挙戦は激しさを増しています。

トランプ大統領は8日、遊説先のノースカロライナ州で、民主党の大統領候補に指名されたバイデン前副大統領が中国寄りだと激しく批判しました。

トランプ氏は同州ウィンストン・セーラムで開いた支持者集会で「バイデン氏のテーマはメード・イン・チャイナだ。私のテーマはメード・イン・USAだ」と発言。「バイデン氏はグローバル主義の裏切り者であり、米国の地域社会を荒廃させた」と訴えました。

全米の世論調査では、バイデン氏がトランプ氏にリードしています。

バイデン氏は、国内の農家や産業がトランプ氏の対中貿易戦争で打撃を受けたと主張。米中通商合意の成果が出ていないと批判しています。

ノースカロライナ州は11月3日の大統領選の激戦州の1つ。トランプ氏は過去1週間弱で2回、同州を訪れています。

こうなると、最悪は戦争になることも考えておくべきかもしれません。このブログでも掲載したように、南シナ海は中国より1000kmも離れている上に、戦略家のルトワック氏が指摘しているように、南シナ海の中国軍基地は象徴的な意味しかなく、米軍なら5分で吹き飛ばせます。

選挙戦で圧倒的に不利になれば、トランプ氏は中国と戦争することも厭わなくなるかもしれません。

そうなると、中国軍の艦隊は南シナ海一帯に展開する米潜水艦の魚雷の餌食になる可能性が高いです。中国軍が潜水艦部隊で応戦しようにも、米軍との間では、兵器の性能や練度に圧倒的な差があり歯が立ちません。今の両軍の力の差を考えれば、戦闘は1週間で米軍の圧勝に終わるでしょう。

特に、対潜哨戒力に関しては、米国は世界一であり、中国軍のそれはかなり低ぃです。原潜は通常型に比較すると、どうしても音がかなりでるので、ステルス性には劣るのですが、それにしても米中の原潜を比較すれば、米国のほうがステルス性に優れています。

通常型は、原潜よりはステルス性にすぐれていますが、今年6月奄美沖の接続水域を中国のおそらく通常型潜水艦が航行しましたが、すぐに日本に発見されました。日本よりも対潜哨戒能力に優れた米国であれば、中国の通常型も原潜もすぐに発見できるでしょう。

中国軍が米国の潜水艦を探そうとモタモタしているうちに、ほとんどの艦艇や潜水艦が撃沈され、環礁上の中国軍基地もぼぼ破壊されることになるでしょう。日本の軍事評論家などは、潜水艦のことをあまり大きくとりあげずに、中国軍が強いと繰り返すむきもおおいですが、私は米中が戦争になれば、米軍は潜水艦を多様するのは間違いないと思います。

いずれの国の軍隊も自ら最も得意の分野で、戦争をするのは当然のことです。現在でも多数の米原潜が、中国には気づかれずに、インド太平洋太平洋地域に多数潜んでいるはずです。南シナ海などで戦争がはじまるとすれば、まずはこれらの潜水艦郡が先端を開くことになるでしょう。その時点で中国軍は壊滅状態になります。

ただ、そのことを中国側を熟知しているので、わざわざ自ら戦争することはないでしょう。そうすれば、あっという間に大敗を喫して世界の笑い者になるだけの話です。そうなれば、「弱い中国」というイメージがつき、中国の覇権拡大戦略は頓挫することになります。かといつて、核兵器を使おうにも、これも米軍のほうが圧倒的に数でも性能も優れています。

となると中国としては、どのような戦略をとるかといえば、米国と直接対峙することは避けて、ひたすらインド太平洋地域の国々を威嚇し、中国に従わせるということになるでしょう。

これに関しては、米国側も黙ってはいません。たとえばパラオ共和国は、太平洋の島国に米軍の新基地を誘致することで中国に対抗しようとしている、とウォールストリート・ジャーナルが8日に報じました

グアム、フィリピン、そしてインドネシアの間に位置する小さな島国であるパラオは、北京が影響力の拡大を目指してきた決定的な領域を占めています。

「パラオは太平洋でとても重要な場所だ」「パラオは中国の侵略的な経済行為と悪意ある影響力に悩まされてきた。・・・パラオは米国の良き友人であり太平洋の主要なパートナーだ」とジョン・ヘネシー・ニランド駐パラオ米国大使は同紙に語りました。

中国は南シナ海周辺に対して影響力を行使することに焦点を当てており、現在世界最大の海軍艦隊を誇示し、水中警戒システムと新しい空母を建設しています。米国のパラオとの関係強化は、同盟国との関係を強化することで地域での中国の優位性に対抗しようとするワシントンの取り組みと一致します。

「同盟国・協力国との堅固なネットワークは、依然として同等に近い競争相手、つまり中国に対して我々が持つ永続的で非対称的な優位性となっている。中国は多くの場合他者を犠牲にして、自分達の利益を拡大するためにルールに基づく秩序を弱体化させ破壊しようとしている」とマーク・エスパー国防長官は8月の演説で述べました。

パラオの国旗


ここ数カ月のうちに、米国は南シナ海で航行の自由作戦を複数回実行しました。8月にアレックス・エイザール保健福祉省長官は、1979年以来でパラオの同盟国である台湾を訪問した最高位の米国高官となりました。

米国は、中国に威嚇される国々を支援することと、中国に対する種々様々な制裁をしつつ、これからも中国と対峙し続けていくことでしょう。

上の記事では、中国がが実施すべきポイントとして、国際約束を含む国際法は守ること、コロナ・ウイルスはCIAや米軍が持ち込んだなどといったプロパガンダをやめること、ウイグル、香港その他の人権侵害をやめることとしていますが、たとえ中国がそれを約束したにしても、米国は中国に対する対峙をやめず制裁を続けることでしょう。

なぜなら、米国は中国にWTOや他のことでも、騙され続けきたきたので、約束程度のことでは信用しないからです。中国の体制が具体的に変わらなければ、中国共産党が崩壊するまで、制裁を続けるでしょう。

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2020年9月8日火曜日

「菅首相シフト」敷く財務省 当面は共存関係維持するが…消費減税は選挙と世論次第 ―【私の論評】菅官氏が総理になった場合、減税も公約として、解散総選挙となる確率はかなり高い(゚д゚)!

 「菅首相シフト」敷く財務省 当面は共存関係維持するが…消費減税は選挙と世論次第 

高橋洋一 日本の解き方

菅義偉氏


 8日告示、14日投開票の自民党総裁選は、菅義偉官房長官が有利な情勢だ。菅氏が首相になった場合、霞が関の官僚、とりわけ財務省との関係はどのようなものになるだろうか。

 菅氏は、官僚ににらみが利くといわれている。官房長官というポストは、諸々の情報が官僚機構から上がってくるという事実があるとともに、独自のネットワークにより、官僚機構からの情報をチェックして、必ずしも官僚の言いなりになっていないことも意味している。

 しかも、菅氏は、第2次安倍晋三政権で創設された内閣人事局のシステムをうまく使った。もともと、内閣人事局の構想は、第1次安倍政権の時の公務員制度改革に盛り込まれていたものだ。それが、福田康夫政権での2008年の国家公務員制度改革基本法の成立につながった。

 同法11条では、「政府は(中略)内閣官房に内閣人事局を置くものとし、このために必要な法制上の措置について(中略)この法律の施行後一年以内を目途として講ずるものとする」と定めていた。

 しかし、その後の民主党政権を経て、施行後6年となる14年、第2次安倍政権において内閣人事局は設置された。菅氏は、こうした経緯を熟知しており、人事によって官僚を巧みに管理している。

安倍政権で生まれた内閣人事局(右端は菅氏)

 官僚側からの意見が反映されているのだろうが、しばしば内閣人事局については、マスコミで批判的に取り上げられる。

 内閣人事局のできる前は、各省で幹部人事が行われていた。各省には経験の浅い政治家大臣がいるだけで、幹部官僚の名前と顔を覚えるにも精いっぱいで、とても独自人事を行う余裕はなかった。

 それが、内閣人事局で、官邸でのチェックが入ることで官僚の勝手な人事には一定の歯止めがかかった。どんな企業でも幹部人事は「各事業部」ではなく「本社中枢」が行うが、ようやく霞が関でもそれと同じ仕組みになったのだ。

 これによって、都合のいい従来の「事業部」で人事を決める仕組みに安住していた官僚から不満が出て、それをマスコミは記事にしたのだろう。

 一方、財務省も、官邸など政府内の重要ポストを握っており、他省庁に追随を許さない情報ネットワークを持っている。政治家なら誰しもそのネットワーク情報を入手したいはずだ。当然、菅氏もそれを承知しており、それを活用しないはずはない。その意味では、菅氏と財務省は共存関係だ。

 財務省も先月の定例人事で、菅氏の秘書官だった矢野康治氏を主計局長に起用するなど、「菅内閣」を予見しているかのようだ。矢野氏は菅氏の信頼も厚いので、一定の影響力を行使できるだろう。

 問題は、消費税に関する方向性だ。当面、減税しないという従来方針と思われる。

 ただし、秋に衆院選が行われた場合、その方針は、世論次第によって変わりうるのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授)

【私の論評】菅官氏が総理になった場合、減税も公約として、解散総選挙となる確率はかなり高い(゚д゚)!

菅官房長官は9月3日の定例会見のなかで、新型コロナウイルス対策に関連し、消費喚起策の一環としての消費税減税には否定的な見解を示し「消費税自体は社会保障のために必要なものだ」と強調しました。 

社会保障や、教育の無償化などの理由で消費税減税等は全く不可能にも見えます。

世間には様々な誤解があり、消費税増税がアベノミクスの一部であると理解している人も多いです。ところが、本来のアベノミクスの目的は、あくまでも消費を喚起、投資を喚起して取引を活発化する、企業にとっては売り上げを上げ、製造量も増やす、そういう積極的で前向きな、明るい将来展望を描けるような社会をつくろうというものです。

消費税の増税、特にデフレから脱却する途中で増税をしてしまうと、将来に対する明るい希望が萎えてしまいます。ですから、アベノミクスと消費税増税はもともと対立する運命にありました。

この対立する消費税をどうするかという問題は、もともと運命的に仕組まれたものだったのです。しかし、最終的には財務官僚と自民党によってがんじがらめに構築された政治体制に抗えないということで、2014年に8%に上がったのです。それはいまでも続いているわけで、菅官房長官がアベノミクスを継承すると語っていますが、本来アベノミクスに消費税の増税は含まれておらず、本来は消費税減税を主張すべきです。


現在コロナ禍で、経済が落ち込み今年(2020年)の第2四半期、4~6月期でGDP年率換算を28.1%%も落としています。これはリーマンショックの直後よりも、はるかに深刻です。

2019年10月に消費税を増税したとき、「リーマンショック級のショックがあれば増税はしない」と、安倍首相をはじめ政権の多くの方が語っていました。ですから、消費税は1度元に戻すべきです。少なくとも8%にはすべきです。

さらに8%だと軽減税率の品目については変わらないので、低所得者にも恩恵が及ぶという意味で、時限的に5%に減税すべきです。それによって経済を成長させ、経済の規模を大きくすべきです。

それが現在の最優先課題であって、財政の健全化ではありません。財政のことを考えるのはその後で、まずは経済を大きくするべきです。優先順位を間違えると、アベノミクスは必ず失敗します。 

まずは積極的な財政出動、大規模な金融緩和と、1本目の矢、2本目の矢をもう1回放って行く。そのために消費税減税は欠かせません。

これがアベノミクスの本質です。本質は変わりません。菅氏は、それを継承されるとおっしゃっています。しかし、おそらく自民党の候補者の方々は、将来の解散総選挙も念頭においているのでしょう。

その場合は、早々に減税とは言わないのかもしれません。やはり効果からすると、従来路線を引き継ぐと言って、最後の最後で決断されるした、方が、国民に対するインパクトは大きいです。

ですから、菅氏が減税に現在消極的な発言をしているかといって、絶対に減税はないと決めつけてしまうのは早計です。 

今回の総裁選挙は任期途中の辞任に伴うものであるため、新総裁の任期は安倍の残任期間である2021年9月までとなりますあと1年後には新総理の任期がせまっていることから、どこかで解散を総選挙となるのは確実とみるべきです。

安倍総理も、2回も増税を延期しました。それならば、なぜ昨年の10月に増税したのかと言いたくなりますが、様々な事情があったのでしょう。特に、幼児教育の無償化は安倍総理の目玉政策でしたので、その財源として国債を財源にするのが当然なのですが、財務官僚の凄まじい抵抗が予想されたので、消費税を財源ということになったのだと思います。

昨年の9月あたりには、「もりかけ」問題等で、内閣支持率がかなり下がっていましたし、ここで消費税増税見送りを公約し解散総選挙を実施して財務省に対峙するのは得策ではないと考えた安倍総理は、増税見送りを断念せざるを得なかったのでしょう。


安倍総理が辞任を公表した後には、支持率が上がっています。菅氏が新総理になった場合、この内閣支持率はあまり変わらないと考えられます。

安倍内閣の支持率はは各メディアの世論調査でも急上昇しています。安倍内閣の最終支持率はJNN世論調査では、62.4%と史上最高になりました。 自民党の支持率も上昇している一方、野党の支持率は総じて低下しています。もうネット時代に突入した現代では、マスコミの印象操作は通じなくなりつつあるようです。

安倍一次内閣が崩壊(2007年)したときには、安倍氏の辞任をさんざん揶揄したマスコミは、現在ではそのようなことはできないようです。当時もインターネットがありましたが、SNSは今日のように興隆していませんでした。そのようなことをすれば、たちまち、ネットで袋叩きに合う昨今です。その面では、日本は転換点を迎えつつあるようです。

あのトヨタですら、テレビCMはやめようかと模索しています。これに対して批判するむきもあるようですが、トヨタが成功すれば、他の企業も追随する可能性があります。印象操作で、減税阻止をするとか、改憲論議を阻止、安保問題の論議を阻止するということは、不可能になりつつあります。マスコミもそのことにはやく気づくべきです。

マスコミの印象操作が効果をもたなくありつつあることと、この高い支持率を背景として、基本的には安倍路線を踏襲することとその中には、消費税減税も含むこととと、菅氏の独自の政策もあわせて公約として、解散総選挙を実施することになる可能性はかなり高いです。

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2020年9月7日月曜日

トランプ氏「逆転再選」で安倍首相“3度目登板”も!? 外交・安全保障で存在感大きく 民主主義の敵・中国と対峙するための「日本のリーダー」に誰を望むかは明らか―【私の論評】安倍晋三氏が次の次の総裁選に出馬するということは、十分にありえるシナリオ(゚д゚)!

トランプ氏「逆転再選」で安倍首相“3度目登板”も!? 外交・安全保障で存在感大きく 民主主義の敵・中国と対峙するための「日本のリーダー」に誰を望むかは明らか

安倍首相(右から2人目)の後継が有力視される菅官房長官(左)。その次は…

 安倍晋三首相が辞任を表明して以降、世界各国の首脳から長年の労をねぎらうメッセージが寄せられている。リーダーシップを発揮してきた安倍首相の不在が国際社会に与える影響は小さくない。国際投資アナリストの大原浩氏は緊急寄稿で、米中対立など多くの難題を抱えるなかで、「3度目の首相登板」の日も遠くないと大胆予測する。


 安倍首相は8月28日午後5時から記者会見を開き「辞意」を表明した。

 「悪夢の民主党政権」で疲弊した日本を成長軌道に戻し、体調を悪化させる原因にもなったと思われる「不眠不休」の新型コロナウイルス対策で爆発的流行が起こらなかったことなど、日本のために尽力されたことにまずは「ありがとうございます」と述べたい。

 菅義偉官房長官が後継総裁として有力視されているが、もしそうなれば、後世の歴史に間違いなく残るであろう傑出した大宰相の路線が引き継がれると期待できる。

 忘れてならないのは、「日本国首相」が日本国民の代表であるとともに、「世界の主要国日本の顔」であることだ。

 蜜月時代を築いたドナルド・トランプ米大統領だけではない。世界中の首脳からのメッセージは、安倍首相のリーダーシップへの評価がどれほど高かったのかを如実に示している。

 特に米国が離脱した後の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を11カ国でまとめ上げたことは、その中に米英など5カ国による機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」構成国が3カ国入っていることを考えても、日本が第6番目の国として参加する可能性を高めたと言える。

 辞任後も「世界が安倍晋三を求めている」。体力的に当面は外務大臣等の職務は難しいであろうが「元首相」や「外交特別顧問」としての活躍は期待できるのではないだろうか。

 さらには、今回の辞任で3度目の安倍政権の可能性はむしろ高まったと言えるかもしれない。難病を抱え激務で疲労困憊している中で本人がそこまで考えたかどうかはわからないが、残り1年の任期に執着せず、潔く決断したことは間違いなく「次につながる」行動だ。何事も安倍首相のせいにする「アベノセイダーズ」たちに、「安倍首相以外」の政治家がどのような結果をもたらすのかを体験させる良い機会であるともいえる。

 先読みしすぎかもしれないが、安倍首相復活の鍵はトランプ大統領再選にあると言える。

 偏向メディアは日本でも米国でも、とにかく反トランプ一色だが、そうしたメディアが行うアンケートでもトランプ氏がバイデン氏を急速に追い上げ、互角と言ってよい戦いになっている。

 黒人差別反対運動「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」と結び付いた反トランプ勢力を恐れて、「トランプ支持」を公然と述べない人が多い。それを考えれば、前回の大統領選と同じように、世論調査に関わらず、トランプ氏が有利な状況ではないだろうか。

 景気の落ち込みは現職にかなり不利だが、それを補って余りあるのが民主党のジョー・バイデン前副大統領のお粗末さだ。ウクライナや中国など息子を含めた金銭疑惑は晴れておらず、認知症疑惑も深刻だ。

 大統領選の山場は、9月29日から始まるトランプ氏とバイデン氏の3回のテレビ討論会だ。熾烈な言葉のやりとりが全国民に向かって放映される中で、バイデン氏の「失言」が続けば、勝敗は明らかであろう。

 もしトランプ氏が再選されれば、民主主義の敵・中国と対峙するための最大の同盟国である日本のリーダーに誰を望むかは明らかだ。

 日本の懸念は安全保障だけではない。習近平国家主席が「食べ残しを厳しく戒める」ほど、中国の食糧難到来の可能性は高いが、日本は中国から多くの食品を輸入している。大半が中国からの輸入だったマスクのような「品不足騒動」が起こったら、国民の生命が危険にさらされる。

 食糧が戦略物資となり世界中で争奪戦が起こる可能性が高い。世界最大級の食糧生産国である米国などとの友好関係を盤石にするためにも、安倍首相にはまだまだ頑張ってもらわなければ困る。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】安倍晋三氏が次の次の総裁選に出馬するということは、十分にありえるシナリオ(゚д゚)!

自民党内では安倍総理が辞任を表明する前から、「プーチン方式」という言葉が冗談交じりで語られていたそうです。ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領は、2000年に大統領就任。ロシアは大統領連続3選が禁じられているので彼は、2期8年務めた2008年、メドベージェフ氏を後継指名しました。

安倍総理とプーチン露大統領

メドベージェフ氏が大統領になると、プーチン氏は指名を受ける形で首相になりました。もちろんロシアのトップは大統領ですがプーチン首相は事実上の院政を敷き、メドベージェフ氏をあごで使いました。そして次の2012年大統領選で大統領に復帰。さらに今年の大統領選でも勝ち2024年まで大統領にとどまることになりました。

「プーチン方式」を日本の政治に当てはめれば、2021年3期を終える安倍氏は後輩にいったん首相の座を譲り、後継者が1期を終えたところで返り咲くということになります。「プーチン方式」で安倍氏が2024年9月に首相に返り咲いたとします。9月21日の誕生日までに総裁選が行われれば安倍氏は69歳。若いとは言えないですが、十分首相を務められる年齢です。

安倍総理ご自身は、現在65歳(誕生日が来れば66歳)、菅氏は71歳です。岸田氏、石破両氏は63歳です。

安倍氏とプーチン氏は気が合って、首脳会談も重ねています。安倍氏はプーチン氏のことを「ウラジーミル」とファーストネームで呼びます。そういう間柄であることも、プーチン氏の手法を参考にするのではないか、との臆測の根拠の1つとなっています。

3年間、首相の座を「レンタル」する人物として、最近「ポスト安倍」候補として注目度が高まっている加藤勝信・党総務会長の名を上げる人物までいました。

しかし、安倍総理の体調が崩れず辞任を公表することもなければ、わざわざ3年間、他人に首相の座を譲るような、まどろっこしい方法をとる必要があったでしょうか。もし、2021年以降も権力の座にとどまろうと考えるのなら、ブランクはつくらず、首相を続けて4選を狙う方が手っ取り早いです。今の自民党の党則は4選を禁じているが、党則は変えられます。安倍総理が体調を崩さなければ、こうした道を歩んだ可能性もあります。

以上は一見乱暴な議論のように聞こえるかもしれません。しかし2015年、安倍氏が無投票で再選を果たした時、党則で3選は禁じられていました。この段階では、安倍氏は2018年、9月に首相から退くことが党則で決まっていました。

3選できるようにしようという機運が高まり始めたのは、翌2016年の夏ごろ。2020年の東京五輪を「安倍首相」で迎えようという意見とともに党則改正論が台頭しました。

2016年8月、リオデジャネイロ五輪の閉会式で、安倍氏が「スーパーマリオブラザーズ」のマリオに扮して出席した時、感想を求められた二階俊博幹事長が「(3選の)意欲がなければリオには行かないだろう」と語ったあたりから流れができました。同年秋から党内で党則改定の議論が始まり、翌年3月の党大会で正式決定しました。



当然、石破茂氏、岸田文雄氏ら「次」を狙う議員の周辺からは「なぜ今なのか」と異論も出ましたが、それほど大きな声になりませんでした。あまり反対論を唱えると、逆に安倍氏を封じ込めて自分が総裁になりやすくしようとしていると思われるのを気にしたのです。

当時の党内の議論で、注目すべきことがあります。議論が始まった時から3選に道を開くことでは大筋固まっていたのですが、具体的な方法として2案あったのです。

1つ目は「連続3期9年」まで可能にする案。もう1つは「多選制限撤廃」案。つまり3期にとどまらず4期でも5期でも無制限でできるようにする案です。

最終的には党の議論をリードした高村正彦氏の持論である「3期9年」で落ち着いたのですが、「多選制限撤廃」は2年前の議論でも有力な案の1つでした。再燃する素地は十分あります。

安倍氏は3選された後、さかんに「残る3年」という言葉を繰り返しました。4選など全く想定していないことを強調しているように聞こえます。実際、安倍氏は現段階で4選を基軸に考えていたわけではないでしょう。

ただ、周辺が4選の機運を高めていった時、どう考えるべきでしょうか。その時の政治情勢も勘案しながら、2年前のように、野心を抱き始めることもあるでしょう。

もちろん、4選という力技を実現するには前提条件が必要です。安倍氏が安定的に政権運営し、その上で「安倍氏にしか進めることができない」という政治課題が存在することが条件となるでしょう。

昨年の参院選で、自民党が勝利を収めたので、安倍総理の4選論の出発点となるはずでした。。

この時点で憲法改正の道筋がつかず「改憲が決着するまで」という理屈で続投の理由をつけられる状態ではありませんでした。もし、昨年時点で改憲の方向性が出ていれば、拉致問題や北方領土などの外交課題を持ち出して「安倍氏にしか解決できない」ということもできたかもしれません。4選を目指すことさえ決まれば、理屈は後からついてきたでしょう。

こういった噂が出る背景には、安倍氏の後継候補がなかなか見えてこないという事情があります。石破氏は先の総裁選の地方票で健闘して「ポスト安倍」レースで一歩抜けた印象があるが、肝心の国会議員票では2割も満たせませんでした。

その他は岸田氏、茂木氏の名があがっていましたが、政治的力量、知名度、人望ともに心もとないです。石破氏、岸田氏は、いずれも60歳代。64歳の安倍氏とほぼ同世代です。菅氏は71歳です。これでは、対外的に世代交代したというアピールができません。

ならば、39歳と若い小泉進次郎・環境大臣等がもう少し経験を積むまでの間、安倍氏に続けてもらったらどうか。そういう考えを抱いた議員が自民党内に少なからずいたはずです。

そこで、安倍総理の電撃辞任が起こったわけです。この突然の辞任で、それまでの考えは変更せざるをえなくなりました。それまで、菅氏が大臣という声もないわけではありませんでしたが、それでも本当に菅氏が、総裁に出馬する日がやってくることを、本人はもとより、党内でも誰も思っていませんでした。

しかし、党内では、安倍総理の政策を継承するという意味では、菅氏は、安倍総理の政策を実行に移してきた菅氏が次期総理にふさわしいと考える勢力がいまのところ最大になっており、現状では総裁選は菅氏が最も優勢です。そうして、おそらくそうなるでしょう。

先程述べたように、昨年の参院選の勝利の後、安倍総理は「憲法改正」の動きをつくろうとしましたが、現実はそれどころではありませんでした。いわゆる「もりかけ桜問題」では、結局現在に至るまで野党は安倍総理を辞任に追い込めるような物証をあげることはできませんでした。

結局どの案件でも、安倍政権にマイナスイメージを与えることにはある程度成功したものの、倒閣には程遠い状況でした。

安倍総理自身も、倒閣に至るようなことはありえないと考えていたと思いますが、それにしても、国会は「もりかけ桜」一色に染まり、野党はこれらの問題を追求し続け、挙げ句の果てに審議拒否を何度も繰り返し、国会は事実上立法府という機能を停止したも同然となりました。それでも、安倍総理等の閣僚は国会出続けなければなりませんでした。

これでは「改憲が決着するまで」という理屈で続投の理由をつけられる状態ではありませんでした。そこで、安倍総理は体調を崩すことになってしまったのですか、これは持病の潰瘍性大腸炎がなかったにしても、140日間の激務を続ければ体調がおかしくなるのは当然です。

私自身も、会社の役員として過去にこれ以上連続して勤務をした経験がありますが、一般の人からは想像できないほどの激務です。それでも、仕事がうまくいけば良いのでしょうが、役員がそのようなことをしなければならないという背景には、様々な問題かあるからであり、憔悴感も半端ではありません。

これは、経験のない人には想像もつかないでしょう。ましてや、総理大臣という立場では、責任の度合いが違います、安倍総理がかなり消耗されたのは間違いないです。

そもそも、無意味な国会に出続け、無意味な質問に丁寧に答えなければならないということは、本当に苦痛だったと思います。しかし、体調が悪かったのは事実でしょう。安倍総理としては、一時休んで麻生副総理にその間は任せ、今回の任期を勤め上げるということも考えたでしょうが、それでは大多数の国民にとっても、党にとって、自分にとっても、未来に何の展開も考えられないわけですから、現状では将来に様々な含みを残して、辞任するという道を選んだものと思います。

だとすれば、菅氏が来年9月まで総理大臣として勤めた後、もしくはもう一期勤めたあとで、安倍晋三氏の総裁選3度目登板も十分ありえるということです。今回の総裁選挙は任期途中の辞任に伴うものであるため、新総裁の任期は安倍の残任期間である2021年9月までとなります

誰が総理大臣になっても、新総裁の任期が切れる来年の9月までの間には確実に解散総選挙に踏み切るでしょう。

菅氏が総理大臣である間も、安倍氏は党内の最大派閥の領袖として、党内で大きな力を発揮できます。先日も、このブログにも掲載したように、安倍氏は党内で、フィクサーとして動くということは十分に考えられます。

ただし、かつての金丸信のようなタイプのフィクサーにはならないでしょう。経済を回復させるだけではなく、成長軌道にのせること、憲法改正、拉致問題、北方領土など解決すべき問題は山積しています、安倍晋三氏はこれらへの対策を実行するため、党内のかなり有力な調整役となることでしょう。

フィクサーと言われた男 金丸信


菅氏が総理大臣になった場合には、安倍氏を最も頼りにすることでしよう。菅氏は実直な人柄であり、安倍総理を影で支えてきました。しかし、今回の辞任劇をはじめとして、いわゆる政治の流れをつくるということでは、菅氏にはあまり経験がありません。

だから、総理大臣の業務を遂行するにおいては、安倍晋三氏の考えを参考にしたり、相談することになるでしょう。菅氏がそれで総理大臣として成長し総理大臣を続けられるというのなら、菅政権は長期政権になるかもしれません。

そうはいいながらも、菅氏の年齢が71歳ということから、長期とはいっても来年の9月までとその後のもう一期がせいいっぱいでしょう。

菅総理一期目期間中に、総理大臣にふさわしい人物が育っていない、フィクサーとしての立場には無論限界があること、党内で支援輪が広がる可能性があるかどうかを見定めて、場合によっては安倍晋三氏が次の次の総裁選に出馬するということは、十分にありえるシナリオです。

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2020年9月6日日曜日

トランプが最初から正しかったとFRBが認める―【私の論評】トランプの経済対策はまとも、バイデンの対策は異常、日本は未だ準備段階(゚д゚)!

トランプが最初から正しかったとFRBが認める


<引用元:FOXビジネス 2020.9.4>スティーブン・ムーア氏による論説

ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は先週、ジャクソンホールでの「バーチャル」シンポジウムで、FRBが過去数年の間に一貫して2パーセントのインフレ目標に到達しなかったことを認めた。

FRBは、そのデフレ金融政策が成長を抑制し賃金を押し下げたことをそれとなく認めている。

今FRBは、もっとドルの流動性を経済にもたらすためにより高い目標を設定することを約束している。

パウエルの3,000語の演説は、次のたった1つの文章で要約できたことだろう。「トランプ大統領が正しかったのであり、我々は間違っていた」

パウエルは最近知識人として有頂天になっており、中には雑誌タイムの今年の人になるべきだと示唆する者もいる。

だが過去数年の間で、トランプこそがFRBは引き締め過ぎていると警鐘を鳴らしてきた人物であり、物価と長期金利(市場価格)の下落からも分かるように、期待インフレ率はFRBの目標の半分となっていることを示している。

トランプはエコノミストとしての訓練を受けていないかもしれないが、成長を作り出すということに関して、この不動産王は不思議な直観を持っている。

今年の初めのパンデミック以前、経済は今世紀最高のペースで前進していた。

だが、FRBがトランプの(そして我々の)助言に従っていたら、実質GDPと賃金はもっと高い成長の潮流に乗っていただろう。トランプは近代経済学に浸透する成長モデルに対する間違った考え方の制限を本能的に拒否していた―我々と同様に。

今世紀のこれまでの成長は、1つには世界中の中央銀行のこうした成長恐怖症が原因で不足している。

1.6パーセントというブッシュとオバマの時代の平均GDP(実質)成長率は、20世紀の平均(3.5パーセント)の半分以下だった。

2008年から2009年の世界的金融不況からのぬるい回復とは著しく対照的に、ケネディとレーガンの拡大時代は5パーセント以上の成長率の時代だった。

過去20年の緩やかな成長の言い訳として、労働力の伸びの減速が我々に新たな「長期停滞」を強いているのだと主張するエコノミストもいた。

パウエル任命の際、トランプはFRB新議長が成長志向の金融政策を実施すると期待していた。しょっぱなからほど遠い結果だった。

2018年2月に、パウエルがFRBの頑迷な「フィリップ曲線」思考という成長と賃金上昇がインフレを引き起こすと断定する考え方を受け入れたために、FRBはおろかにも力強い完全雇用・賃金上昇の回復を押しつぶした。

FRBは実体のないインフレと戦っている、とトランプが立腹したのは正しかった。

一方、株式市場は暴落して成長は行き詰まった。FRBが2019年初期にトランプの助言を受け入れずに逆行していたら、経済は転覆していただろう。

ここ数カ月のインフレ率のわずかな上昇でも、物価はまだ2年前の水準から21パーセント下回っている。

5年TIPSのスプレッドは、まだPCEインフレ率1.35パーセントを示しており、FRBの2パーセントの目標をはるかに下回っている。こうした状態がもう長年続いている。

FRBは(おそらく)その「手段」の全て――ゼロに近い金利と数兆ドルの資産買収――を実行しているにもかかわらず古いもっと低い目標に到達できなかったというのに、パウエルは新たな高いPCEインフレ目標にどうやって到達できると予測しているのかを話していない。

だが新しい考え方は、貫くのであれば歓迎すべき知らせだ。我々は決して悪性インフレを望んでいないが、成長と人々の労働はインフレを引き起こさない―それらはインフレに対抗するものだ。物の生産が増えるということは、価格が上昇ではなく低下することを意味する。

我々は今後数年、数十年で実質成長率が低下するのではなく上昇することを目指すべきだ。貿易、技術、そして革新は生産性を大幅に上昇させ、インフレを殺す。

グーグル、アップル、ウォルマート、そしてアマゾンがどれほどインフレを縮小させたか考えてみて欲しい。情報のカタログによるデータ検索には、かつて何百、何千ドルの費用が掛かっていた。今やそれは速くて無料だ。

携帯電話の費用は2,000ドルだった。今、10倍の計算力を持つ電話の費用は200ドルだ。米国ではウォルマートに行って、Tシャツと食べ物とおもちゃが99セントで買える。

現在、インフレではなくデフレに傾くことが成長の敵であり、トランプは4年間そう言ってきた。

こうした厳しい時代であっても、世界の投資家はまだ米国を自由市場の成長と革新の震源地だとみなしているので、ドルに対する世界的需要が尽きることはない。

世界はドルを求めており、世界の豊かさを回復するための1つの鍵は、FRBがドルを供給することだ。

スティーブン・ムーアは、ドナルド・トランプ大統領の経済回復タスクフォースのメンバーであり、Committee to Unleash Prosperityの共同創設者である。

ルイス・ウッドヒルはCommittee to Unleash Prosperityの上級研究員である。

【私の論評】トランプの経済対策はまとも、バイデンの対策は異常、日本は未だ準備段階(゚д゚)!

上の記事にもあるように、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は4日、この日発表された8月の米雇用統計について「良好な内容」との認識を示しました。同時に、こうした勢いが今後減速する公算が大きいとし、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた景気の回復を後押しするため、向こう数年におよぶ低金利の継続を約束しました。

パウエル議長は、米公共ラジオ局(NPR)とのインタビューで「雇用統計は良好だった」と評価。同時に、旅行やレジャー産業など、経済の複数の分野が引き続き「コロナのパンデミック(世界的大流行)の直接的な影響を受けており、今後は一層厳しい道のりになる」と語りました。

その上で「経済活動を下支えるため、長期にわたる低金利が必要になる。それは何年にも及ぶだろう」とし、「どれほど長期間になったとしても、FRBは支援していく」と言明しました。

さらに「われわれは経済に必要とみられる支援を性急に解除はしない」と強調しました。

また、景気回復にはFRBだけでなく、議会からの支援も必要との認識を改めて示しました。

8月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比137万1000人増と、伸びは前月の173万4000人から鈍化したほか、予想の140万人を下回りました。失業率は8.4%と、前月の10.2%から改善しました。

11月の大統領選では、雇用が大きな争点になります。トランプ氏は「景気が劇的にV字回復しており、来年は素晴らしい年になる」と、経済重視の姿勢を一段と強めています。


一方で、失業給付に週600ドル(約6万4000円)を上乗せする制度は、加算額の維持を求める野党民主党と、減額を目指す与党共和党の対立で7月末に失効しました。経済への悪影響を懸念するトランプ氏は、週最大400ドルに減らした上で、給付を継続する暫定措置を命じました。

トランプ氏の狙いは、給付を減らして失業者の就労を促し、大統領選に合わせて雇用改善の実績を強調するつもりのようです。クドロー国家経済会議(NEC)委員長は4日、雇用情勢の改善を受け、民主党が主張する大規模な経済対策が「なくてもやっていける」と明言しました。

これに対し、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、経済は回復途上であり、失業給付を含む「追加財政策が必要だ」と警告しています。政府支援の大幅削減は「消費と景気回復を圧迫する」(エコノミスト)との分析もあり、雇用改善を急ぐトランプ氏のもくろみは綱渡りともみられています。

しかし、これは本当に綱渡りなのでしょうか。私はそうとばかりは言えないと思います。トランプ大統領は、マンデル・フレミング効果を意識しているのではないかと思います。

マンデルフレミング効果を簡単にいうと次のようになります。

通貨制度には固定相場制と変動相場制の2つ制度があります。固定相場制のもとでは景気を刺激する政策では財政政策が有効であり、金融政策は無効となります。中国のような固定相場制の国において、財政政策が有効です。

変動相場制のもとでは、財政赤字が拡大すると実質長期金利が上昇し、設備投資や住宅投資が減少します(クラウディング・アウト効果)。また、実質長期金利が上昇すると国内への資本流入圧力が生じて自国通貨が増価し、輸出が減少して輸入が増加するためGDPが減少します。

よって、変動相場制のもとで景気回復や雇用を増やすには、財政政策よりも金融政策が効果的だという理論。ロバート・A・マンデルとJ・マルコス・フレミングが1963年に発表した理論で、1999年に両名ともノーベル経済学賞を受賞しています。

マンデル・フレミングモデルから導かれる結論

マンデル・フレミングモデルからいっても、コロナ禍で、景気が悪化したのですから、当初は積極財政と無制限の緩和をするのは、当然のことです。特に積極財政は、コロナ禍で失業した人等をすぐに救済するという意味でも重要です。

しかし、ある程度経済が回復してきたときには、金融政策のほうが有効になります。ただし、経済が本調子になるまでは、両方とも実施したほうが良いです。

トランプ政権の経済政策では、かなりの減税を実施しています。この減税は継続した上で、週最大400ドルに減らした上で、給付を継続する暫定措置を実行しつつ、低金利金政策を継続し、量的緩和をも実施するというのですから、トランプ氏の目論見は成功する可能性が高いです。

8月の米雇用統計では、雇用の伸びは前月の173万4000人から鈍化したほか、予想の140万人を下回っています。これは、財政政策による景気回復の限界を示しているのかもしれません。


であれば、金融緩和に力を入れるというのは当然の措置です。現在FRBが、もっとドルの流動性を経済にもたらすためにより高い目標を設定することを約束するのは当然のことと思います。

バイデン前副大統領は7月9日、新型コロナウイルス危機に見舞われた米製造業の復活に向け、4年間で総額7000億ドル(約75兆円)の公共投資計画を発表しました。投資額は「第2次世界大戦以来で最大規模」と強調。財源確保のため将来の増税に言及し、減税を掲げるトランプ大統領との違いを鮮明にしました。

バイデン氏のこの政策は明らかに間違いです。来年経済がコロナ以前に戻っていることは考えられず、このタイミングで増税を公表するのは、いかがなものかと思います。

総じて、経済政策に関してはトランプ氏のほうがまともであり、バイデン氏は疑問符がつきます。トランプ氏は、バイデン氏の経済対策の間違いを公開討論会で指摘するのは間違いないです。そうして、そのときには米国雇用が改善している可能性が大です。

私は、バイデン氏が増税を主張した時点で、大統領の目は消えたと思います。

さて、日本に目を転じると、トランプ氏のように雇用を重大視する考え方をする政治家や官僚はほとんどいません。自民党の中でも理解しているのは、安倍総理、菅官房長官と、その他ごく少数に過ぎません。野党にも理解している人はごく少数の例外を除いてほんの数人しかいません。

日本の「緊縮馬鹿」と極悪組織財務省は、減税などの積極財政を大々的にすると財政破綻するとか、久しくマイナス金利の国債を発行すると国債が暴落するなどの増税のための屁理屈を叫ぶのはやめるべきです。本当に、日本ではマンデル・フレミングモデルに基づいた、経済対策をいつできるようになるのか、暗澹たる気持ちになります。

トランプに倣い、必要とあらば国債を大量発行して「日銀に大量購入(=通貨の流通拡大)」を実施できる体制を一日でもはやくつくるべきです。それは一部、第二次補正で実現されましたが、今後も必要があれば、すぐにこれが実行できるようにすべきです。

とにかく、現在の日本は、米国の現状とは違い、とにかくすぐにでも、積極財政、無制限の金融緩和を大々的に実施し、雇用を安定させ、景気を良くすべきです。その後にはじめて、日本ではまともな経済対策ができる準備が整うという、段階です。

とにかく、日本では景気対策というと、財政政策だけとか、金融緩和だけと考える人が多すぎです、マンデルフレミング効果も視野にいれで、その時々で財政政策と金融緩和の両方を考える人がほとんどいません。

ただ、以前にも述べたように、アベノミクスの金融緩和政策があったからこそ、現在の日本はコロナ禍でも踏ん張れるのです。これがなければ、今頃日本経済は風前の灯のようになっていたでしょう。

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