◇「せってます」「今500名差です」 締め切り間際に若者どっと
11月28日投開票の金沢市長選で初当選した山野之義氏(48)の陣営関係者が、公職選挙法で配布が禁じられている文書図画とされる簡易ブログのツイッターで、投票を呼びかけていたことが分かった。削除を求めた市選管の指導を聞かず、投票当日にも呼びかけていた。選挙結果は小差で、ネット運動が影響を与えた可能性が高く、公選法改正の動きや来春の統一地方選に向けて波紋を呼びそうだ。【宮嶋梓帆、宮本翔平】
市長選には5人が立候補し、新人の前市議・山野氏が5万8204票で当選。現職市長として全国最多タイの6選を目指した山出保氏(79)は5万6840票と、差はわずか1364票だった。投票率は35・93%で前回(27・39%)から8・54ポイント跳ね上がった。
市選管が問題視するツイッターを書き込んだのは、陣営のネット戦略を担当したIT関連会社社長(48)と山野氏の秘書。社長は告示(11月21日)後の23日、「金沢市長候補山野氏。今は金沢ベイで街頭演説中です」と山野氏の画像を添付して投稿。公選法への抵触を心配する声に「心配ご無用! メール、電話、ツイッターALL(オール)OK!『一票入れて!』とハッキリ言っていいです」と、投票呼びかけの拡散を求めるような書き込みをしていた。28日の投開票日までの書き込みは、選挙に関係ない個人的な内容も含め212回あった。
秘書は市長選を中心に計44回書き込み、投票締め切り約2時間前の28日午後5時51分には「かなり、せってます。まだの方はその一票で変わる」と記載。午後6時36分には社長が「今、500名差です」「あなたの一票で! 新市長誕生を! 投票所へ! 一番ヤル気満々の男にお願いします」と書き、文末のURLをクリックすると山野氏の画像が表示されるようにした。
市選管職員は「投票日の午後6時過ぎから若い人がどっと投票に来た所があった。初めて見る光景に驚いた」と話している。
金沢市選管は選挙期間中に少なくとも4回、山野氏の事務所に「公選法に触れる」と関係者のツイッター更新をやめ、削除するよう電話で指導。改善されないため、選管は24日に石川県警に連絡した。県警は警察庁と相談したが、公選法違反の警告はしなかった。県警幹部は「判断は難しい。ネット選挙解禁の流れから、いま立件するのはどうかというところもある」としている。
当選した山野氏は「陣営の中で、そういうことを積極的にやっているのは知っていた」と話し、秘書のツイッター更新に関しては「山野という名前は消すように伝えた」としている。自分や妻のブログ、ツイッターは選挙期間中の更新を停止していた。
ネット担当の社長は「公選法は素人目には分からず、無視した。違反と言われれば違反かもしれないが、まあいいやと。逮捕されず当選が取り消されないなら、多少の犠牲は構わないと覚悟していた」と話し、「選管の指導は知らなかった」としている。
◇「地上VS空中戦」周知への武器に
「ネットをうまく使って話題をつくらないといけない」「ばんばんやろう」
告示まで1カ月を切った10月24日の山野陣営初の選対会議。ネット戦略は固まった。
相手の山出氏は、民主、自民支部、公明支部、社民、国民新が相乗りして推薦・支持。6選を目指し、組織選挙を展開した。一方、山野氏側は知名度も資金力もない中で、ネットは重要な武器だった。「地上戦対空中戦だ」。これが選挙戦の合言葉になった。山野陣営は掲示板を作り、社長らがツイッターやブログで若さや「市政刷新」を強調する文章や画像を繰り返し投稿。
動画サイトでは「6選目の79歳山出氏と新人48歳山野ゆきよし氏を比較。どちらが金沢市長にふさわしいか、よく考えて投票に行こう」のコメントと共に、2人の動画もアップされた。ネット上で山野氏の「刷新」イメージが広がっていった。一方で、応援演説に訪れた中田宏・前横浜市長も自身のツイッターで「山野さんを応援しているのは、自民と民主の1年生議員7人。これは、あっぱれ!」と援護の書き込みをした。
◇規制緩和の法整備急務
インターネットの応用に詳しい神戸大大学院の森井昌克教授(52)=情報通信工学=は「選挙結果に影響があったと考えるのは当然だろう。現行の公選法では故意に更新したのであれば問題だ。しかし、公選法が時代に追いついていないのは明らかで、ネットの規制緩和を盛り込んだ法整備を急ぐべきだ」と指摘する。
◇ネット抜きありえない
一方、「ネット選挙革命」の著書がある選挙プランナー、三浦博史さん(59)は「ネット選挙ができないのは世界中で日本ぐらいで、ネット利用は当然だ。投票呼びかけは違法だが、登録が必要なツイッターやメールマガジンなどで特定多数の人に演説予定などを知らせる事務連絡はグレーゾーン。現在ではネット抜きの選挙運動はありえない」と話す。
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■解説
◇解禁一時検討 政権混乱で先送り
金沢市長選で、市選管の指導を聞かずにツイッターを更新し続けた陣営が勝利したことは、インターネットを利用した選挙運動がグレーゾーンのまま、選挙結果を左右しかねなくなっている実態を示した。
ネットによる選挙運動について、総務省は「現行の公職選挙法では、配布が禁じられる文書図画」としている。しかし近年、政治家のブログやツイッターは一般化。有権者に生の声が届く▽若い世代に発信できる▽費用が安い--などから、ネットは政治活動の基本ツールになっている。
ネットでの選挙運動は解禁の方向で検討が進められ今年5月末、与野党は「今夏の参院選から」でいったん合意。ホームページやブログの選挙期間中の更新は解禁し、第三者のなりすましが懸念されるとして電子メールは禁止▽ツイッターはガイドラインで「自粛」とした。
しかし首相交代劇で関連法案の国会提案は先送りされた。7月の参院選でも選挙期間中、候補者のブログなどの更新はストップ。候補者は今も公選法に触れないよう神経を使っている。
今回、ガイドラインで「自粛」の予定だったツイッター更新で、選管が指導したのに警察の警告がなかったことは、ネット上の活動がどこまで許されるかの基準の混乱を示している。来年4月の統一地方選を控え、公選法改正に向けた基準作りは待ったなしだ。【宮本翔平】
【私の論評】最早ネット選挙は当然であり、それが政治改革につながる可能性もある!!
ネット選挙といえば、記憶に新しいのは現オバマ大統領が大統領選挙に用いたことです。ネットを活用することにより、オバマ氏はそれまであまり政治に関心のなかった若者の関心を呼び起こし、当初不利といわれていた状況を打破して大統領選に勝利することができました。あの時の、スローガン"Yes, we can!"は日本でも有名になりました。
しかし、それも、今回の中間選挙では、有効な手段とはなりえませんでした。今回の選挙では、雇用問題がかなりネックとなり、若者層の関心を高めることはできず、さらには、大統領選挙のときにオバマ氏を支持した多くの若者層が離反していきました。これは、選挙においてネットを用いたからといっても、いつも有利になるとは限らないということの格好の事例になったと思います。
だらかこそ、上の記事では、ネットを用いた方がかなり有利との印象をもってしまうような内容ですが、そうともいえないと思います。ネットを用いたとしても、前もって、いろいろと有権者と強い関係を築いておかなければならないのは、ネットを用い無い選挙と同じことです。
ネットで呼びかけたからといって、すぐに支持者が増えるわけではありません。だからこそ、今回も警察も具体的行動を起こさなかったのだと思ます。しかしながらか、今回のように、片一方がネットを使い、片一方がネットを全く使わないということになれば、やはり、不公平感があることでしょう。選挙が終わって結果が出た後でも、わだかまりは残ると思います。
であれば、誰もがネットを自由に用いる選挙にしてしまえば、何も問題はないわけです。ただし、ネットリテラシーが低い候補者は多少は不利になるということはあるかもしれませんが、現在はネット社会ですから、それは問題外としても良いのではないかと思います。
しかし、ネット選挙が完全に解禁されれば、ネットだけで当選する人もでてくる可能性があります。そうなれば、従来の選挙とは全く様相が異なってくる可能性が大です。ネットシチズンの中でもいままでは、選挙に興味をもたなかった若者層などが選挙に興味を持ち投票するようになる可能性が大です。
今までの形態の選挙では、お金と時間がかかりすぎです。これが、現在の政治を政局にばかり向かわせる背景ともなっています。なにしろ、ビラ配り、ポスター貼りその他、選挙演説などで、とてつもない資金がかかるのが現在の選挙です。ネットによる選挙運動は、これを一変させるかもしれません。
Twitter、ブログ、サイトなど当たり前で、さらに、YouTube、Ustream、Sticamなどの動画の媒体も使えます。そうなれば、各候補者の主張が良くわかるし、さらに、いろいろ質問を出すことも可能になります。いままでは、ありきたりの質問しかなかったのが、個別具体的な本質に迫る質問がいろいろと開陳されるようになると思います。
この質問が日本の政治を変えるかもしれません。なぜなら、このような質問にバカな答えしか出来ない陣営は永遠に当選できなくなるからです。今までの選挙は、まずはお金でした。お金がない人や、お金を借りる事ができない人などは候補者になるようなことはできませんでした。本当はバカでも、お金があれば、何とか候補になることができました。だから、日本では、政治というとお金の問題がついてまわつたのも無理はありませんでした。
この流れは、私たちが、予想していることをはるかに超えるかもしれません。まず、今までと比較すれば、あまりお金をかけなくても、選挙運動ができるようになります。この流れがいきつく先には、あるザル法とも言われる政治資金規正法など無意味になるかもしれません。さらには、候補者に関する情報や候補者自身が発する情報がいままでよりも、数十倍も濃くなります。新しい選挙、いまからどうなっていくのか楽しみです。
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