2018年5月18日金曜日

「殺人タックル」日大アメフト部・内田正人監督、学内No.2の実力者だった! 常務理事で人事掌握 “鉄の結束”背景に上意下達の気風―【私の論評】アメフト監督が大学の常務理事を兼ねるのは統治論的にはあり得ない(゚д゚)!

「殺人タックル」日大アメフト部・内田正人監督、学内No.2の実力者だった! 常務理事で人事掌握 “鉄の結束”背景に上意下達の気風

日大アメフト部・内田正人監督

アメリカンフットボールの日大の選手が定期戦で関学大のクオーターバック(QB)に「殺人タックル」をした問題で、カギを握る人物が日大の内田正人監督(62)だ。アメフト部のみならず、大学の常務理事で人事を握り、実質的なナンバー2とされる。「上意下達」(関係者)の気風が影響したとの指摘もある。

 内田氏は日大豊山高校出身で、日大アメフト部では、レシーバーが散弾のように散らばりパス攻撃に有利な「ショットガンフォーメーション」で黄金時代を築いた篠竹幹夫監督の下でセンターとして活躍し、国際試合にも出場した。卒業後も職員として大学に残り、コーチとして篠竹監督を支え、4度の日本一、17度の学生王座に貢献した。

 44年にわたり監督を務めた篠竹氏が2003年に定年で勇退した後を継いで監督に就任。16年には一度勇退したが、チームの成績低迷を受け17年に監督に復帰した。

 練習前にトータルで2500ヤード(約2・3キロメートル)のダッシュを課すなどスパルタ練習で、約20人の大量退部者を出したが、昨年12月の甲子園ボウルで関学大を下し、27年ぶりの学生王座に返り咲いた。

 この甲子園ボウルの再戦となった春の定期戦で起きたのが、前代未聞の悪質タックルだった。

前代未聞の悪質タックル

アメフト部と関わりの深い日大OBの男性は、「内田監督は、相手選手に不必要なタックルをさせるような指令は出さないはずだ」と困惑する一方、「普通なら悪質なタックル1回で選手を引っ込めて叱るが、監督やコーチには選手のプレーをとがめる様子がなかった」と首をひねる。

 内田氏の指示があったのかについて日大は「大学内での調査の結果、そのような事実は確認されなかった」(広報課)との立場だ。アメフト部OBも「内田監督はいい人。部員もきっと何も気にしていないはず」。

 日大、そしてアメフト部の“鉄の結束”の背景について、ある関係者は「日大は上意下達が徹底している組織という印象が強い」と話す。

 アメフト部で絶対的な存在の内田氏だが、大学内でもトントン拍子に出世している。14年に理事に選出された内田氏は、17年には4期目の田中英壽理事長と3期目の大塚吉兵衛学長体制の下で常務理事となり、人事を担当するなど学内有数の実力者だ。

 前出のOBは「篠竹監督時代には、相手校に対するリスペクトがあった。今回の騒動も監督がきちんと顔を出し、正式に謝罪するべきだ」と話すが、判断を下せるのは内田氏本人だけなのか。

【私の論評】アメフト監督が大学の常務理事を兼ねるのは統治論的にはあり得ない(゚д゚)!

さて、この問題連日デレビで報道され、識者なども様々な意見を述べているのですが、残念ながら私からすればまともな意見を言っている識者はおらず、どれも核心をついていません。このままではこの日本の社会で似たようなことがこれからも度々繰り返されるとの危機感をいだきました。

問題の本質は、内田正人氏がアメフト部の監督という、企業でいえばいわば現場の監督のような仕事をしつつ、一方ではトップマネジメントを担っているというあり得ないようなことが、日大という組織でまかり通っているということです。

企業ではトップマネジメントと、現場監督を同時に兼ねるようなことはまずありません。特に上場企業であれば、そのようなことはそもそも、許されることではありません。

なぜそうなのかといえば、そのようなことでは、企業の統治に支障をきたすからです。統治に関しては以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ただ事ではない財務省の惨状 同期ナンバーワン・ツー辞任 ちやほやされてねじ曲がり…―【私の論評】統治と実行は両立しない!政府は統治機能を財務省から奪取せよ(゚д゚)!
57年財務省入省組の記念写真 佐川氏、福田氏の他片山さつき氏も・・・・・
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の組織の「統治」に関わる部分のみを引用します。

"
経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。
 といいます。
しかし、ここで企業の経験が役に立ちます。企業は、これまでほぼ半世紀にわたって、統治と実行の両立に取り組んできました。その結果、両者は分離しなければならないということを知ったのです。
企業において、統治と実行の分離は、トップマネジメントの弱体化を意味するものでありませんでした。その意図は、トップマネジメントを強化することにありました。
この事例は、無論政府の役割についてですが、統治ということでは、企業も大学のような組織でも同じことです。実際、ドラッカー氏はマネジメントの原則があてはまるのは企業のような営利組織だけではなく、あらゆる組織にあてはまるものであるとしています。

ですから、上の政府の役割の政府の部分を、企業なら「取締役会」、大学なら「理事会」と言い換えても成り立つのです。

実際に入れ替えてみます。
大学の理事会の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。大学という組織のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。
 理事会は大学の統治をするところです。そうして、内田正人氏が、アメフトの監督をしながら、常務理事をするということは、まさに統治と実行を両立させようとすることに他なりません。

この統治の原則からすれば、内田氏はアメフトの監督をしながら、常務理事をすることはさけなければならないです。アメフトの監督を続けるなというなら、そもそも理事になるべきではないのです。理事を続けたいなら、アメフトの理事をやめるべきなのです。

両方を掛け持ちすれば、統治の能力が麻痺するのです。実際、日大は統治能力が麻痺しているようです。内田氏は、あの事件から10日以上もたっているのにもかかわず、会見を開いて説明責任を果たすということもしていません。

これが、統治と実行がはっきり分離されていて、内田氏がアメフトの監督をのみをしているか、あるいは内田氏は常務理事だけをしていて、アメフトの監督は別の人物が行うなどのことをしていれば、そもそも、あのような事件はなかったか、あったにしても、未だに説明責任すら果たさないというお粗末なことはなかったでしょう。

統治と実行を両立させようとすると、このような不祥事が頻繁に起こることが、経験的に知られており、企業などの民間営利組織では、特に大企業では統治と実行は両立できないように、会社法などで定められています。

日本の官庁でも同じようなことが行われています。たとえば、財務省は、本来政府が定めるべき日本国の財政の方針を中途半端に定めるなど、統治をしておきながら、一方では徴税するなどの実行も行っています。これでは、日本国の財政に関わる統治能力が麻痺するのは当たり前のことです。

企業でも、中小企業の場合は、このあたりが曖昧になっているところが多いです。以下は北海道にある中小企業での実話です。本格的な春も近い3月のある日、季節外れの大雪が降ったので、社員や役員も含めて、駐車場の除雪をしたそうです。

除雪は専務取締役の仕事か・・・・・

その作業中に、専務取締役もいたそうです。専務も他の社員に入り混じって、2時間近くも除雪作業をしていたそうです。その姿を見たその会社の社長は後でその専務に対して「除雪作業をやらせるために君に高い給料を支払って、専務にしているわけではない。やるべきことをやれ」と叱ったそうです。

この事例では、社長は専務にこのような注意をするくらいですから、自分たちが主に実行すべきことは「統治」であると気づいているようですから、まともです。

しかし、そのようなことに気付かずに、自分も営業や作業に追われる中小企業の社長もいます。こうなると悲劇です。無論、社長がある程度、営業や作業をするのは規模の小さな企業では仕方ないことです。しかし、社長が企業統治のことなど全く頭になく、営業や作業に拘泥するような会社は早晩潰れます。

また、統治と企画の区別がつかない人もいるようです。これは、全くの別物です。企画とは、統治によって決定と方向付けを行なわれている状態で、その方向付けにしたがって、具体的に資源を割り当てる計画です。

その意味では、企画も実行の一部といえます。ただし、大企業では企画と、企画に基づいた実行をするのも別組織で行われるのが普通です。たとえば、大企業では、財務と経理が別組織になています。これを一緒にすると腐敗を助長するようなものです。

統治と企画を、取り違えると大変なことになります。本人は統治しているつもりでも、実は企画をしているということもあり得ます。そうなると、会社は方向性を失いいずれ機能しなくなくなります。

本来企画をするべき人たちに、統治をまかせようとする経営者もいます。これは、良く丸投げなどともいわれています。経営者があまり方向性など示すこともなく、部下に企画を立案させるような行為です。これも、部下が育たなかったり、部下が方針まで決定しなければならない状態に追い込まれ、混乱しいずれ企業が機能しなくなります。

財務省や、日大などは大所帯ですが、明らかに統治と実行が分離されていないので、財務省はまともな財政ができず、日大は今回のような不祥事を起こしてしまいました。

考えてみれば、最近の角界の度重なる不祥事も、統治と実行が区分されていないことに原因があるといえるかもしれません。相撲界の理事会の理事は、相撲取りの経験しかない人が大半です。それで本当に統治ができるのかどうか、はなはだ疑問です。

ものごとが、実行されている、現場を熟知していないと経営者はつとまらないと良くいわれます。それは事実です。しかし、現場しか知らない人は経営者などつとまりません。組織を統治すべき経営者にはそれ以外の知識や経験、洞察力、統合的思考などが欠かせません。

統治と実行は、厳密に区分されるべきものなのです。この当たり前の原則について、あまりテレビなどで報道されないのは、あらゆる組織において統治に関わる人は圧倒的に少数だからでしょう。さらに学校でもまともに教えられないことにも問題があると思います。

多くの人は、ガバナンス=統治であることくらいは知っているようですが、では統治とは何なのかということを具体的には理解していないようです。何しろ、日本では官僚や政治家、マンモス大学の理事でもそれを理解していないようですから、多くの人が理解しないのも無理はないかもしれません。

しかし、私達は、統治をすべき人がこれを理解していないような組織では今回のような不祥事がいつでも起こり得ることを認識すべきです。これが、問題の本質です。

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2018年5月17日木曜日

威圧的な軍事演習で台湾を脅かす中国──もうアメリカしかかなわない―【私の論評】北朝鮮問題が収束すれば、米中対立でアジアの緊張は極限まで高まる(゚д゚)!

威圧的な軍事演習で台湾を脅かす中国──もうアメリカしかかなわない

トム・オコナー

南シナ海で行った演習でミサイルを発射したZ−9ヘリ(5月11日、正確な場所は明かされていない)

<戦闘機編隊が台湾島上空を周回。台湾の高速砲艦を想定した演習も>
中国が4月に南シナ海と台湾海峡で行った実弾演習は台湾に対する警告であり、必要ならば武力で台湾を併合するという意思表示だと、中国当局者が語った。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は「一つの中国」原則を認めない台湾への締め付けを強めており、南シナ海で史上最大規模の観艦式を実施するなど、このところ盛んに軍事力を誇示している。中国の国務院台湾事務弁公室の安峰山(アン・フォンシャン)報道官は5月16日の記者会見で、一連の軍事演習は「二つの中国」に固執する台湾当局に対するメッセージだと語った。

「(軍事演習は)『台湾独立』を目指す分離主義一派とその活動に対する強い警告であり、国家主権と領土の一体性を断固として守る我々の決意と能力を示すためのものだ」

「我々はどんな形であれ『台湾独立』を目指す分離主義の動きを封じ込める。『台湾独立』は絶対にあり得ない」と、安は語気を強めた。

5月15日には中国の国営テレビ、中国環球電子網が、南シナ海に展開する中国海軍の艦隊からZ-9対潜ヘリが飛び立つ映像を公開した。これは11日に実施された演習の模様で、中国の軍事専門家、宗忠平(ソン・チョンピン)が中国共産党機関紙人民日報系のタブロイド紙、環球時報に語ったところによると、紛争が勃発した場合、台湾など他国の高速砲艦が中国の空母を攻撃するというシナリオを想定したものだ。

牽制できるのは米軍だけ

5月11日バシー海峡を飛び越えたSu-35戦闘機とH-6K爆撃機
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

中国国防省の発表によると、5月11日にはまた、中国空軍はロシア製のSU-35戦闘機を初めて、H-6K爆撃機編隊と共に台湾とフィリピンを隔てるバシー海峡に飛ばした。編隊にはJ−11戦闘機、KJ-2000早期警戒管制機が含まれ、台湾島を周回して空軍力の向上を見せつけた。

KJ-2000早期警戒管制機

これらは4月に台湾海峡で実施された実弾演習と南シナ海での史上最大規模の観艦式に続く演習だ。観艦式では習主席も閲兵し、海軍の現代化は「差し迫った」課題だと演説した。

オーストラリアのシンクタンク、ロウイー国際政策研究所が先日発表した包括的な指数によると、中国はアジアでは第2位の軍事力を保持しているが、首位のアメリカが中国の勢力拡大を黙認することはまずあり得ない。

米太平洋軍司令官フィリップ・デービッドソン海軍提督

米軍幹部は、海上における中国の軍事的プレゼンスをアメリカの国益に対する脅威とみなしている。米太平洋軍司令官に指名されたフィリップ・デービッドソン海軍提督は、4月に米上院軍事委員会の公聴会で、「中国は今や、アメリカと戦争になる場合を除き、あらゆるシナリオで南シナ海を制覇できる軍事力を保有している」と警告した。

アメリカは1972年以降「一つの中国」政策をとる一方で、民間レベルでは台湾との関係を保ってきた。ドナルド・トランプ米大統領は中国との貿易摩擦がピークに達した3月半ば、アメリカと台湾の閣僚や政府高官の相互訪問の活発化を目指す「台湾旅行法」案に署名。中国はこれに強く反発している。

【私の論評】北朝鮮問題が収束すれば、米中対立でアジアの緊張は極限まで高まる(゚д゚)!

北朝鮮問題は、何らかの収束を迎えそうな気配があります。米国は、先日もこのブログで掲載したようにイランをはじめとする中東の問題も抱えているため、北朝鮮問題に関しては早期解決をはかるでしょう。

その後に、中東の問題を解決する可能性が高まっています。だから、北朝鮮問題を長引かせることはないでしょう。どんな形であれ、数ヶ月以内に決着をつけることになるでしょう。

それについては、以前もこのブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
イラン・イスラエル戦争が始まる? 核合意離脱で一気に不安定化する中東―【私の論評】北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなる(゚д゚)!
イスラエル軍のダマスカスへのミサイル攻撃(5月10日)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを掲載します。
トランプ政権としては、まずは北朝鮮に核を放棄させるとともに、北朝鮮とイラン、シリアなどの中東諸国との関係を絶たせ、北と和平を結ぶか和平交渉のテーブルにつかせ、その後にイスラエルを支援し、イスラエルがイラン・シリアを攻撃し、様子を見て介入すべきと判断した場合は介入することでしょう。

トランプ大統領は、何としてもオバマ前大統領の「戦略的忍耐」を正す腹でしょう。
現在のところ、中東問題がどの方向に進んでいくのか、米国の介入があり得るかどうかは、未だ判然としないところがあります。

だからこそ、米国は北の問題を長引かせることないでしょう。金正恩が米国の要求をすべて飲むか、要求を飲まなければ、米軍が北に軍事攻撃をして少なくとも核関連施設をすべて破壊することになります。

その後中東情勢を睨み、米軍が介入するかどうかを決めるでしょう。

そうして、アジアでは北朝鮮問題など単なる前哨戦にすぎないことが明らかになります。台湾を巡っての中国と米国の対立が顕になります。

すでにその兆候はみられています。米国の対台湾交流窓口である米国在台協会(AIT)台北事務所の新庁舎が今年6月に開所後、米海兵隊が警備に就く可能性が出ています。

元AIT台北事務所長のステファン・ヤング氏が先にメディアへの投書で、新庁舎の警備には、他国の米在外公館と同様、海兵隊員を派遣するよう米政府に提案したことを明らかにしました。

台湾の対米窓口機関、台北経済文化代表処の米首都ワシントンの事務所の
警備に、憲兵ら台湾軍人の派遣を復活する案も出ている

米国側は海兵隊の派遣の有無を明らにしておらず、台湾外交部も確認を避けています。しかし、新庁舎建設工事の競争入札の募集広告に「警備隊営舎」と書かれており、海兵隊の派遣は確実との見方が広がっています。

一方、台湾の対米窓口機関、台北経済文化代表処の米首都ワシントンの事務所の警備に、憲兵ら台湾軍人の派遣を復活する案も出ています。AITの海兵隊派遣に対し、対等を立場を示すためです。

同代表処のワシントン事務所は、以前は憲兵が武器を携行せず館内で警備を行っていましたが、民進党の陳水扁政権時代に、経費節約を理由に中止になりました。馬英九政権時代に再び、憲兵の派遣が提案されましたが、中国への配慮から見送られました。憲兵は、国家主権の象徴であり、中国を刺激する恐れがあったからです。

台湾の外交関係者は、海兵隊と憲兵隊の相互派遣について「台米関係に影響を与えないようにするとともに、中国が反発して報復を招かないよう気をつけなければならない。利害とバランスは複雑で、すぐに結論は出せない」と話しています。 

いずれにせよ、米海兵隊のAITの派遣は規定の事実なので、これが実際に実施された場合、中国の反発を招くのは必至です。

しかし、これを皮切りに台湾をめぐり米中の対立が顕になるのは、必定です。

昨今の台中関係を鑑みるに、潜水艦は台湾の中国に対する抑止力を高めるためのカギとなる存在の一つであることが理解できます。航空戦力は既に圧倒的に中国側が有利であり、中国から台湾への攻撃があった場合、単純に両国間の戦力差を比較すると台湾は2、3日で制空権を失うと言われています。

これに関しては台湾の中国に対する、「A2AD(接近阻止・領域拒否)」的な能力の向上が重要ですが、実現には新鋭の潜水艦が不可欠です。しかし、現在台湾が保有する4隻の潜水艦(2隻は米国製、2隻はオランダ製)は、老朽化が進んでいます。これに対し、中国は約60隻もの潜水艦を保有しています。

2001年に米国のブッシュ(子)政権は、台湾に8隻のディーゼル推進式潜水艦の売却を決めたものの、結局、実現していません。そこで蔡英文政権は米国からの購入を断念し、自主建造に方向転換、2026年までに1隻目を就役させることを目指しています。

台湾の王定宇・立法院議員は、台湾の海中戦闘能力向上のための防衛計画は10年前に始まっていて然るべきものであり、潜水艦建造は既に予定より20年遅れている、と強い懸念を示しています(4月9日付、台北タイムズ)。また、船体は自主建造できるにせよ、エンジン・武器システム・騒音低減技術等は海外から導入する必要があります。

状況を俯瞰すると、米国から台湾に潜水艦技術が供与されることが望まれます。この点、4月9日、台湾国防部は、台湾の潜水艦自主建造計画を支援するために米企業が台湾側と商談をすることを米政府が許可したと明らかにしています。

10日、台湾・高雄市で開かれた「台米国防産業フォーラム」

台湾と米国の防衛関連企業の協力強化を目指す初の「台米国防産業フォーラム」が10日、台湾南部高雄市のホテルで開かれました。米国が台湾との高官往来を促進する法律を制定するなど米台の接近が目立つ中、中国が警戒感を強めそうです。

台湾政府は防衛産業の育成を重視し、フォーラムを通じて台湾企業が米国の防衛産業により深く関与することを狙っています。潜水艦や軍用機の自主建造も進めており、必要な技術協力にもつなげたい考えです。

フォーラムには米航空防衛機器大手ロッキード・マーチンや米軍需大手レイセオンなど10社以上の米企業や台湾企業約40社の代表らが参加。航空や造船、サイバーセキュリティー分野での協力の可能性について意見交換しました。

トランプ政権は米台関係を重視しており、米側は「防衛協力のチャンス」と期待。ただ、中国に進出している台湾企業は多く、中国への防衛機密漏えいを懸念し、法的な防止措置が必要との指摘も聞かれました。

米国では台湾企業と交流する米台国防工業会議が毎年開かれていますが、台湾ではこうした場がありませんでした。

ただ、商談が成立したとしても、実際に輸出されるには米政府の許可が必要となります。この点は不透明な要因ですが、最近の米国の潮流は台湾への武器供与に積極的になっているように思われます。

2016年7月、米議会では、台湾関係法と「6つの保証」(1982年にレーガン大統領が発表)を米台関係の基礎とすることを再確認する両院一致決議が採択されています。台湾関係法は、台湾防衛のために米国製の武器を供与することを定めています。

「6つの保証」の内容は、1.台湾への武器売却の終了時期は合意されていない、2.台湾と中国の間で米国が仲介することはない、3.台湾に中国と交渉するよう圧力をかけることはない、4.台湾の主権に関する立場を変更することはない、5.台湾関係法の規定を変更することはない、6.台湾への武器売却決定に当たり事前に中国と協議することはない、となっています。

トランプ政権は、昨年6月、14億ドル相当の武器を台湾に売却すると議会に通知し、同12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」では、台湾関係法に基づく台湾への武器供与が明記されています。

台湾は、日本の潜水艦技術にも強い関心を持っていると言われています。日本の潜水艦技術は世界でもトップクラスであり、特に騒音軽減技術が優秀である。台湾が最新鋭の潜水艦を導入することは、日本の安全保障にとっても当然プラスになります。

通常動力型潜水艦としては世界最高峰の「そうりゅう型潜水艦」

日本は通常動力型潜水艦の分野で世界をリードする立場にあり、同分野で日本と比類する技術力を持つ国はありません。

中国にも039型などの通常型潜水艦がある一方排水量などの点から見ても通常動力型潜水艦としては世界最高峰の「そうりゅう型潜水艦」には到底及ばないのが現状です。

そうりゅう型潜水艦は「X舵」を採用しており、海底付近での機動性が向上しています。浅海区や沿岸で機動できる場所が多く、簡単に侵入されやすい日本周囲の海峡において威力を発揮する潜水艦です。海洋進出を進めている中国にとって、そうりゅう型潜水艦は脅威です。

日本としては、台湾の港に「そうりゅう型」潜水艦を寄港させたり、バシー海峡で、「そうりゅう型」潜水艦も含めた、日米台の軍事訓練を行うことも考えられます。

いずれ、台湾が要望すれば、日本はこれを提供することも今から検討をしておくべきです。

いずれにせよ、北朝鮮問題が何らかの形で収束を見た場合、しばらくアジアの平和と安定が続くとみるべきではないです。

次の段階では、台湾を巡って、米中の争いが顕になります。これに関して、日本は無関係ではないどころか多いに関係があります。

台湾が中国に飲み込まれてしまえば、日本も危険です。もしそのようなことが起こったとすれば、米国は台湾を見捨てたということです。勢いづいた中国は、台湾を日本侵攻の基地として、次の段階では尖閣諸島を我が物にし、その次の段階で沖縄、その次の段階では西日本、その次の段階では東日本を我が物にしようとするかもしれません。

一方、台湾の独立が維持された場合には、米国は台湾に海兵隊を進駐させるかもしれません。そうなると、かつてないほど緊張が高まることになります。

北朝鮮問題は、米国が中国に制裁の強化を依頼するなど、米中が直接対決ということではありませんでしたが、それでも大きな問題でした、しかしこの問題がある限りは、米中の直接対決はあまり目立たないものでした。しかし、北の問題が収束すれば、米中の対立が露わになりアジアの緊張は北の問題のときよりも一層苛烈なものとなります。

これが、お花畑頭の日本のマスコミや識者が伝えない事実です。その時に日本が、平和憲法を理由に、これを傍観することは許されることではありません。

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2018年5月16日水曜日

【激動・朝鮮半島】トランプ米政権、米朝首脳会談中止の可能性に言及した北の真意を精査 現時点では「開催予定に変更なし」―【私の論評】正恩の判断一つで石器時代をむかえる北(゚д゚)!


10日、米中西部インディアナ州で、支持者に応えるトランプ米大統領

 トランプ政権は、北朝鮮が朝鮮中央通信を通じた声明で米朝首脳会談を中止する可能性に言及したことに関し、安全保障担当の高官らを招集して北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の真意などについて分析作業に入った。

 サンダース米大統領報道官は15日、声明をめぐる報道に関し「承知している」とした上で、「米国として北朝鮮の発言内容を独自に精査し、同盟諸国と引き続き緊密に連携していく」と強調した。

 国務省のナウアート報道官は15日の記者会見で、米朝首脳会談について「引き続き準備を進める」と述べ、現時点で開催予定に変更はないとの認識を明らかにした。

 ナウアート氏はまた、「金正恩氏は以前、米韓が合同演習を続けることの必要性と効用について理解すると発言していた」と指摘。国防総省のマニング報道官も同日、一連の米韓演習は「毎年の定例」であり、「防衛的性格であることは何十年にもわたって明確にしてきており、変更もない」と強調した。

 マニング氏は演習の目的について「米韓による韓国防衛の能力を向上させるとともに、米韓の相互運用性と即応能力を高めるため」とした。

 北朝鮮が問題視している米韓共同訓練「マックス・サンダー」は定例の空軍演習で、今年は米空軍の最新鋭ステルス戦闘機F22やB52戦略爆撃機などが参加。既に始まっており、25日まで行われる。

【私の論評】正恩の判断一つで石器時代をむかえる北(゚д゚)!

マックス・サンダーに参加中のステルス戦闘機F22ラプター

以前もこのブログに掲載したことがありますが、北朝鮮には40年前のレーダーしかなく、実質上防空施設はないと考えて良いです。航空機も時代遅れのものが多く、米韓の航空兵力には全く太刀打ちできません。核ミサイルばかり注力してきたので、昔中東や、ベトナムで活躍した北朝鮮空軍の面影は全くありません。

このような北朝鮮ですから、米韓の航空機による普通の攻撃も脅威ですが、これに加えて、金正恩を恐怖に陥れる戦法もあります。

それは《電磁パルス(EMP)攻撃》や《地中貫通核爆弾》を用いた戦法です。

米軍による電磁パルス攻撃の模式図

EMP攻撃の方は、日本国内ではもっぱら北朝鮮が日本を筆頭に米韓に仕掛けるというパターンの報道が多いです。現に、北朝鮮がICBM搭載用水素爆弾の6回目実験を行った昨年の9月3日、北の朝鮮労働党機関紙・労働新聞がEMP攻撃を完遂できると強調していました。これは、おそらく本当でしょう。

韓国の公共放送KBSは昨年9月3日夜のニュースで、韓国がEMP攻撃に遭えば「自動車などの交通手段や金融機関や病院、通信施設など、全基幹施設が停止したり、誤作動を起こしたりして、事実上『石器時代に戻る』」という専門家の声を紹介してもいました。

しかし、『石器時代に戻る』のは北朝鮮ではないでしょうか。

EMP攻撃は、高度30~400キロの上空での核爆発を起点とします。その時生じたガンマ線が大気を構成する窒素や酸素などの分子に衝突。分子中の電子がはじき飛ばされて雷のような巨大な電流が発生するなどした結果、強力な電波の一撃であるEMPが地上に襲来します。「宇宙より押し寄せる津波」に例えられるゆえんです。

EMPは送電線を伝ってコンピューターといった電子機器に侵入。電圧は5万ボルトに達するので、機器はIC(集積回路)の機能停止で損壊し、同時に大規模停電にも見舞われます。

影響範囲は爆発の高度や規模によるが、高度100キロで広島型原爆の3分の2に相当する10キロトン(TNT火薬換算)のケースでは、日本全土をほぼ覆う半径約1100キロにも達っします。

現代社会は電気なしでは成り立たちません。大規模停電で公共インフラを支える電子機器が損壊すれば、都市機能はマヒします。携帯電話&電話&インターネットなどの通信やガス&水道の供給が停止。飛行中の航空機が操縦不能になり、電力を絶たれた原子力発電所が制御不能に陥ります。自衛隊・警察・消防の指揮・命令系統や金融機関も機能不全となります。 

EMP攻撃は地上への核攻撃と違い、ミサイルの弾頭部分を大気圏再突入時の超高熱から守る素材や突入角度制御に関わる技術は必要ありません。小型の核弾頭を搭載したミサイルを発射し、目標上空で起爆するだけです。米国防総省では、北朝鮮が既に核弾頭の一定程度の小型化に成功し、EMP攻撃能力を備えたと確信しています。

この恐るべき兵器を米国は当然、研究・開発し、実戦段階まで昇華しています。

スターフィッシュ・プライム時にホノルルでみられたオーロラのような現象

実際、米国は1962年、北太平洋上空で高高度核実験《スターフィッシュ・プライム》を実施、高度400キロの宇宙空間での核爆発でEMPを発生させました。ところが、爆心より1400キロも離れた米ハワイ・ホノルルなどで停電が引き起こされ、予想通りの「魔力」が実証されました。
 
米国の専門家チームが近年まとめたシナリオでは、10キロトンの核爆弾がニューヨーク付近の上空135キロで爆発すると、被害は首都ワシントンが所在する米国東部の全域に及びます。損壊した機器を修理する技術者や物資が大幅に不足し、復旧には数年を要し、経済被害は最悪で数百兆円に達します。

EMP攻撃で、北朝鮮の核・ミサイル施設&基地を含む軍事拠点や各種司令部&各部隊間をつなぐ電子・通信機器=指揮・統制システムを不通にできれば、もはや戦(いくさ)はワンサイド・ゲームと化すことになります。

その上、EMP攻撃敢行のハードルは、核爆弾の直接攻撃に比べハードルが低いです。EMPの場合、核爆発に伴う熱線や衝撃波は地上には届かないです。EMPは被攻撃側の人々の健康に直接影響しません。

半面、食糧不足や病気などで数百万人単位もの死傷者は出ます。病院をはじめ、無線などの情報通信やテレビ・ラジオもマヒし、被害情報把握も救援・復旧活動も困難になります。信号機も突如消え、交通事故や火災で死者を増やし、大パニックに陥るためです。

こうした、一般の北朝鮮国民への被害をどう局限し、国際世論の批判をかわすか、米国は昨年、シミュレーションを繰り返していました。

もちろん、米国にとり最優先事項は人道ではなく、EMPの届きにくい地下坑道に陣取る北朝鮮・朝鮮人民軍の通常・核兵器による報復の芽を摘み取る点にあります。核施設の制御不能回避も大きな課題です。以上の課題も、米国昨年着々と解決しました。

ところで、北朝鮮の韓大成・駐ジュネーブ国際機関代表部大使は昨年9月5日、あろうことかジュネーブ軍縮会議で「米国が北朝鮮に圧力を加えようと無駄な試みを続けるなら、わが国のさらなる『贈り物を受け取ることになる』だろう」と演説しました。しかし、現実には『贈り物を受け取ることになる』側は、北朝鮮になるかもしれないです。

B2ステルス爆撃機とそれに搭載する地中貫通爆弾

さて次は、《地中貫通核爆弾》について論じます。 

バラク・オバマ政権は政権の最終盤に入って、ようやく北朝鮮の脅威に気付きました。一昨年11月の政権引き継ぎ会談で、当時のオバマ大統領は大統領選挙を制したドナルド・トランプ次期大統領に「米国の最大脅威は北朝鮮」だと、自戒を込めて伝えました。米国防総省も引き継ぎ直前、秘中の秘たる《地中貫通核爆弾B-61タイプ11》の模擬弾投下試験を超異例にも公表。大統領選で激突していたトランプ候補とヒラリー・クリントン候補に、暗に覚醒を促しました。

大型貫通爆弾=MOPのパワー・アップ費&生産費や、MOPのプラットフォームとなるB-2ステルス爆撃機の改修費について、米国防総省は2000年代に入り近年でも頻繁に請求し認められています。 

対する北朝鮮の核・ミサイル施設は地下深く、鉄筋コンクリートや硬岩、鋼鉄などを巧みに組み合わせて構築されています。しかも、時間の経過とともに地下施設は補強され、強度を増しています。

このように、米国が「克服しなければならない課題」は多数残っています。しかし、「克服しなければならない課題」は昨年着実に「克服」されてきたのです。

30センチ以下の動く対象を捉える米国の偵察衛星は移動式発射台のワダチをさかのぼり、核・ミサイル格納トンネルを特定します。

軍事利用している衛星の種類には資源探査型があり、地質構造・地表温度を識別して、地下施設・坑道の構造や深度が一定程度判別可能です。

こうして長年蓄積し続けた膨大な量の偵察・監視資料を精緻に総合的に再分析します。すると、見えなかった地下施設が浮かび上がるのです。

例えば、地下施設建設前と建設後で、地上地形がどう変化していったか/地形変化のスピード/掘削機の能力割り出し/トラックで運び出される土砂の量/トラックで搬入されるセメント・鉄骨・鋼板などの量/労働者数…など。

地下施設といえども、兵器や技術者、軍人が出入りする出入り口は絶対に必要です。換気施設も然り。絶好の監視対象であり爆撃ポイントになります。 

金正恩の執務室があるとされる15号屋の衛星写真、地下150メートルには秘密居所があるされている

北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の秘密居所は地下150メートルともいわれ、MOPですら荷が重い恐れがありますが、先述の《地中貫通核爆弾B-61タイプ11》であれば確実に粉砕します

《電磁パルス(EMP)攻撃》と同様、地中貫通核爆弾B-61タイプ11は他の核搭載兵器に比べ、実戦投入のハードルは低いです。爆発威力を抑えれば、地下での起爆であり、一般国民の住む地上の被害を抑え、核汚染被害も局限できます。地下に蓄えられる朝鮮人民軍の生物・化学兵器も、核爆発力を抑えた「小さな核爆弾=ミニ・ニューク」が発する熱波で蒸発→無害化に一定程度貢献することでしょう。

やはり、「贈り物」が届く先は金正恩委員長が震えながら閉じこもる「地下のお住まい」のようです。

このような2つの贈り物で北朝鮮は「石器時代」に戻ることになるどころか、金正恩氏も蒸気になって跡形もなく消え去ることになりかねません。

石器時代に戻る北朝鮮?

マックス・サンダーでは当然のことながら、これら2つの兵器の訓練も行っているのでしょう。

金正恩からすれば、この訓練がいつのまにか本当の作戦行動になり、いつ北朝鮮が石器時代にもどり、自分がこの世から消えるかもしれいないという恐怖に苛まされているはずです。

北朝鮮は朝鮮中央通信を通じた声明で米朝首脳会談を中止する可能性に言及したといいますが、北朝鮮にそれを選択できる余地などありません。

米朝会談に主席するか、出席しないで、米国に北朝鮮攻撃の格好の理由を与えるかのいずれかのみです。

米朝会談に出席したとしても、米国の要求を飲まなければトランプ大統領は途中で退席することになるでしょう。まさに、金正恩の判断一つで北朝鮮は石器時代を迎えるかもしれません。

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2018年5月15日火曜日

”マレーシア・ファースト”で脱中国依存鮮明に―【私の論評】一帯一路は最初から失敗すると見抜いたマハティール新首相(゚д゚)!

”マレーシア・ファースト”で脱中国依存鮮明に

外資誘致で市場開放も、最優先は国内産業保護

初の閣僚会議後、記者会見するマハティール新首相。”マレーシア・ファースト”の外交経済ビジョンの
行く末は、寄り合い所帯の野党連合の結束にかかっている(12日、クアラルンプール近郊)。

 「マレーシアにとって、国益にかなっているかどうか、再検討する」――。

 61年ぶりに政権交代を果たしたマレーシアのマハティール新首相は12日、クアラルンプール郊外で記者会見を開き、筆者の次のような質問に対して、そう答えた。

 「マレーシアには中国の一帯一路の下、約40の関連プロジェクトがある。特に、東海岸鉄道計画(ECRL)やマレーシア-シンガポール間の高速鉄道計画(HRL)に代表されるような大規模プロジェクトなどを押し進めますか。マレーシアにとって有益でしょうか」

 それに対してマハティール新首相は、「世界のあらゆる国と同等で、フレンドリーな外交関係を構築したい。特定の国を利することはないだろう」とバランス感覚のある外交を展開すると前置きした上で、

 「外資による事業全般の調査を行い、再検討する」とECRLや HRLの計画を見直すことを新政権発足後、初めて公式に表明した。

ECRLの車両と鉄路の予想図  写真・チャートはブログ管理人挿入 以下同じ

 マレーシアは「一帯一路」関連で、中国から約135億ドル(約1兆4400億円)規模のインフラ整備事業を受け入れており、アジア域内で中国最大の投資先となっている。

 選挙戦でも、ナジブ前政権の中国一辺倒の外交経済政策の是非が争点になっていた。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52796政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア、http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52715マレーシア総選挙に中国の陰 民主化遠く)

 マハティール新首相は中国主導による大規模開発事業への懸念を示しており、筆者との単独インタビューで(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53065マハティールの野党勝利 61年ぶりにマレーシア政権交代へ)「一帯一路は否定はしない」としたものの、「協力事項は、個別で交渉する必要がある」と強調していた。

 日本が最も興味があるのは、HRL(今年末入札、来年9月受注先決定予定)の取り扱いだが、ECRLに関しても重要で、本コラムでも以前、問題点を指摘してきた。

 ECRLは、シンガポールを封鎖された場合のマレー半島の優位性を説く「マラッカ・ジレンマ」において、HRLの計画と同様、地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込む上で、中国の習近平国家主席提唱の経済構想「一帯一路」の生命線。

 マハティール元首相(当時)が率いる野党が政権交代を実現すれば、マレーシアにおける中国の一帯一路戦略は見直しされるだろう、と予測していたが、“脱中国依存”の方向性を政権発足後早くも打ち出した。

 さらに、12日の記者会見の後、マハティール新首相は国営テレビの単独インタビューに応じ、“マレーシア・ファースト”の経済ビジョンを打ち出した。

 会見の中でマハティール新首相は「ビジネスフレンドリーな環境の中、外資(FDI=外国直接投資=など)を積極的に誘致したい。規制緩和も促進する」と強調。

 しかしながら、「インフラ整備や不動産開発などの受注契約事業は、マレーシアの企業や事業者に最優先に委託されることが望まれる」とした上、「FDIは、ファンドや技術を提供できるものに限る。工場建設や製造業などで、国内市場向けか輸出目的のものだ」とした。

 また、「マレーシアの企業は、(インフラ、不動産を含めた)土地開発事業ではすでに国際競争力がある。国民のための国づくり(都市開発建設など)やそれに必要不可欠なことは、自分たちで構築することができる」

 その上で、「これらのすべての機会は、地元企業に開かれるものだ。仮に、大規模なインフラプロジェクトがあれば、外資参入は、地元企業にその技術や能力がない場合に限る」と強調し、ナジブ前政権下での「中国との蜜月政策」からの離脱を表明。

 前述の東海岸鉄道プロジェクトだけでなく、クアラルンプールの新国際金融地区「TRX」 に建築予定の超高層タワーやダイヤモンド・シティ、さらにはイスカンダル地帯に建設される大規模開発、それらすべてが一帯一路に関連する中国の大手企業による開発だ。

 中でも、 4つの人工島を建設して、約70万人が居住する大型高級住宅街、教育施設、オフィスを構える都市開発計画「フォレスト・シテイ」は、中国の大手不動産「碧桂園」が開発中で、 2035年の完成を目指す。

フォレスト・シティーの立体パース

 建設にあたり租税恩典も与えられ、買い手の約90%が中国本土からの「大陸人」だといわれ、マハティール首相が最も懸念を抱く外資、とりわけ中国主導によるプロジェクトだ。

 マハティール新首相は、「チャイナマネーの大量流入で、国内企業は衰退。マレーシアで最も価値ある土地が外国人に専有され、外国の土地になってしまう」と懸念している。

 中国投資の見直しで諸外国の外資を誘致する新政権が打ち出す“マレーシア・ファースト”は、一方で支持基盤強化のための国内産業保護優先と、懸念の声も上がりそうだ。

 さらに、新政権のアキレス腱は、5つの野党(サバ州のワリサン党含)から成る”寄り合い所帯“だということ。

 これまでは、「打倒ナジブ政権」で一致団結してきたが、元々、政策だけでなく、多民族国家のマレーシアを象徴するように支持基盤となる民族や宗教は全く違う。

 その懸念が12日の会見でも露になった。

 新しい閣僚を10人(首相と副首相はすでに選出)公表するはずが、マハティール新首相は「様々な考え方や価値観の違い、さらには民族、宗教の違いが絡み、今日は新たに3人の閣僚(内務相、財務相、防衛相)を発表するとどまった」と、その船出が安易でないことを率直に認めた(なお、13日、財務相に指名された華人系の民主行動党=DAP=事務総長のリム・グアン・イエン氏は係争中につき、国王による大臣承認が延期された)。

 新政権の船出を歓迎するものの、寄り合い所帯の野党連合率いるマレーシアの新政府への舵取りを懸念する動きも払拭できない。

マハティール元首相率いる野党連合・希望連盟は、国民戦線の地方票に切り込み、

1957以来政権を握ってきた与党連合を破ったが?


 筆者が入手したマレーシア最大級の証券会社「TA Securities」の内部資料には、総選挙を統括し、次のような内容の声明が証券トレーダーなどに配布された。

 「腐敗汚職改革を掲げるマハティール新首相の就任でマレーシアの株式は期待感を含む一方で、野党連合が足並みを揃えらるか、未知数が多い」とした上、

 当面、「株式市場を静観する上、顧客にはめぼしい株は売って、政権が安定したところで再び買い戻すことをアドバイスするよう」と、書かれている。

 そうした世間の不安を払拭しようと、マハティール新首相は12日の記者会見で、政権発足から100日間限定で、経済政策などの指針を仰ぐ国内のベテラン専門家を集めた「上級専門家会合」を設立したことも発表。

 メンバーは、マハティール新首相がかつて自身の政権の経済政策の要と信頼してきたマレーシア政界の重鎮、ダイム元財務相をトップに、アジア華人財界の大御所で、砂糖精製業などで財を成し“シュガー・キング”と別の異名を持つロバート・クオック(香港在住。マレーシア国籍)、かつてはIMF(国際通貨基金)の専務理事の候補でもあったゼティ・アジズ(元マレーシア中央銀行総裁)ら5人だ。

 さっそく昨日、ダイム元財務相がマレーシア航空などを所有する政府系投資会社「カザナ」などの各政府系投資機関のトップと面会。

 公開入札によるビジネス受注や契約における透明性を重視し、さらには、政治的や外部圧力による腐敗や汚職を厳しく禁止するとともに、ラクヤット(マレー語で「民衆」)の最大限の利益を最優先するよう指示した。

 本来、マレーシアでは外国諸国との経済協力は経済企画庁(EPU)が直接の担当省だが、一帯一路プロジェクトに関しては、ナジブ前首相直属の総理府がイニシアティブを取り、中国との随意契約で結ばれ、その契約プロセスなどの不透明さも問題になっていた。

 マレーシア-シンガポール両国間を結ぶ高速鉄道の受注に中国と火花を散らす日本にとって、マハティール新政権の“マレーシア・ファースト”の経済政策は、外資誘致を図り、「ファンドや技術を歓迎する」という観点では、日本企業にとってハイテク分野、製造業など様々な分野で朗報かもしれない。

 しかし、高速鉄道に関しては、今年の4月、入札締め切りが6月から12月末に延期された。2026年末の開業予定に変更はないが、事業者決定も2019年9月頃にずれ込むとされている。

 これまで、同高速鉄道受注では、中国が優勢と伝えられきた。それは、いわゆるシンガポールやマレーシアが東南アジアきっての「華人社会」だということだけではない。

 実は、親米のシンガポールは中国の影響を警戒し、技術や安全性の高い日本式新幹線を支持している。

 問題は、マレーシアだ。中国の高速鉄道受注のための「マレーシア国内鉄道占有戦略」は着々と進み、在来線でも、中国の一強状態だ。

 例えば、マレーシア国鉄(KTM)が運行するクアラルンプール近郊の通勤列車「KTMコミューター」は、マレーシア運輸省が中国中車と「随意契約」。中国中車の新型車両が投入され、しかも修理点検などのメンテナンスでも中国中車が一手に引き受けている。

 高速化でも3年前から、中国中車に日系商社主導だったものが、あっさり切り替えられた。

 高速鉄道受注の肝心な国内在来線の足場は、すでに中国に“外堀から”固められているのが現状だ。

 筆者の取材したKTMの関係者は「中国とナジブ前政権が交わした契約はすべてが密室の随意契約。技術的、安全性、価格においても優位勢は見られない」と前政権の暗躍したレガシーを批判する。

 今回のマハティール新首相の「高速鉄道見直し発言」で、日本勢が受注を有利に運べるか。筆者との単独インタビューでも「高速鉄道より在来線での刷新が必要」と言及している。

 膨大な借金を抱えるマレーシアに、魅力的なファンドと技術を提供できるか。ルックイーストの時代は終わり、日本にとっては、脱中国依存で絶好の投資チャンスである一方、正念場の時代に突入したともいえるのではないか――。

(取材・文 末永 恵)

【私の論評】一帯一路は最初から失敗すると見抜いたマハティール新首相(゚д゚)!

まず最初にはっきりさせておかなければならないことは、一帯一路など妄想にすぎないということです。共産主義の計画経済は大失敗しました。一帯一路も計画経済と同じ運命をたどることでしょう。

中国での共産主義体制における計画経済は失敗し、現在の中国は共産主義を捨て、国家資本主義体制に変わっています。今の中国はうわべは、資本主義のような形式をとっていますが、その実民主化されておらず、政治と経済の分離も行われ手おらず、法治国家化も不十分です。

一帯一路は中国の計画経済を中国内で行うのではなく、世界規模で実行しようとするようなものです。そもそも計画経済には、競争という概念がありません。

資本主義経済は、民間企業が互いに競争あって切磋琢磨して、より良いサービス、より効率の良いサービスを生み出すことを前提としています。港や、空港、道路、鉄道もそのような競争があってはじめてより良いサービスが実現します。それを最初から中国が中国の都合により、計画を立案して実行しても、うまくいくとう到底考えられません。


そもそも、世界のインフラを中国が主導してつくるにしても、中国にはそのノウハウはありません。中国が国内で、インフラをつくるにおいては、かなり乱暴なやり方で実行しても可能ですが、それを外国で実行しようとしてもできるものではありません。

さらに、設立したインフラが中国が目論通りの経済効果を生み出すとは限らないどころか、失敗する可能性のほうが多いです、実際中国には鬼城と呼ばれる、最初から人の住まないゴーストタウンが多く存在します。

国内でこのようなことをしている中国が、一帯一路のインフラづくりには成功するなどとは、にわかに信じがたいです。

建築されても誰も住まない中国の鬼城

一帯一路が最初から失敗するブロジェクトであることは、前にもこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の「一帯一路」がピンチ?大型プロジェクト取り消す国が相次ぐ―米華字メディア―【私の論評】"一帯一路"は過去の経済発展モデル継続のための幻想に過ぎない(゚д゚)!
大航海時代以来、古代のシルクロードは完全に競争力を失いとうの昔に荒廃

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを掲載します。
現在の中国は、かつてのインフラ整備により、鬼城や過剰な設備、過剰な鉄鋼生産など負の遺産が蓄積しています。中国はこれを"一対一路"で外国で繰り返そうとしてるだけです。これでは、"一対一路"を推進すれば、外国においていずれ負の遺産を蓄積するだけになります。 
これは、いわゆる共産主義国家による計画経済と何ら変わりありません。中国の官僚が考えた"一帯一路"という計画経済が機能するはずもありません。頭の良い設計主任が、計画経済を立案して、その通りに遂行すれば、経済がうまくいくという考えは、すでに過去に大失敗して、この世から共産主義は消えています。今の中国は共産主義ではなく、国家資本主義といっても良い状況にあります。 
結局この巨大プロジェクトは、所詮中国の過去の経済発展のモデルを継続するための幻想に過ぎないということです。
実際に、一帯一路は負の遺産を蓄積しつつあります。その厳しい現実を産経新聞が伝えています。

「一帯一路」で援助を受けていたはずが、巨額の借金を抱えた上でインフラも奪われるということが現実に起こっています。中国が推し進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」が生み出す巨額債務への警戒感がここに来て急速に広がっています。米シンクタンクは、債務返済が困難となる恐れがある8つの国を指摘しました。債務と金利が重くのしかかる、一帯一路の負の側面が浮かびます。


巨額の債務による“代償”を背負う形となった代表例が、スリランカです。

スリランカ南部ハンバントタ港は2010年、親中派ラジャパクサ政権下で建設が始まり、建設費約13億ドル(約1421億円)の多くを中国からの融資でまかないました。

だが、スリランカに重荷となったのが、中国側が設定した最高で年6・3%という金利です。そもそも財政に余裕があるとは言えず、当初から返済に窮するようになりました。最終的に昨年12月、港の株式の80%を中国国営企業に貸与し、リース料として11億2千万ドル(約1224億円)を受け取ることで合意しました。

リースという形を取ってはいますが、貸与期間は99年間で事実上の売却といえます。スリランカ側からすれば、いつのまにか港が中国の手に渡った格好です。

このような債務リスクがあっても、中国としては別に気にもしないでしょう。結局スリランカから、港をとったようなものであり、中国としては損はありません。中国としてはこの港を最大限に利用して、儲けるだけの話です。

ただし、この港が国際的な取引に本当に使われるようになるかどうかは、未知数です。

シンガポール港

ハンバントタ港の近くには、シンガポール港があります。この港は、貿易港湾取扱貨物量アジア第1位の上海港に次ぐ、アジア最大級のハブ港です。上海が第1位なのは、単純に中国の人口が多いからです。しかし、シンガポールの取引が多いのには、わけがあります。

シンガポールは、1980年代後半から世界に先がけて港湾業務のITインフラ化を進め、ハブ港(海上運送の中継拠点となる港)として利便性の高い港づくりに力を入れたため、港で取り扱う貨物の8割は周辺諸国への積み替え貨物であるといわれています。

要するに、シンガポール自体は小さな国であり、自国に輸入する分は2割しかなく、それ意外は周辺諸国の積み替え貨物であるということです。

これは、シンガポールが他の港と競争して、利便性、効率性、価格の面で努力した結果です。スリランカ南部ハンバントタ港がそのような港になるかどうかははなはだ疑問です。

中国が運営するのでしょうから、どうなるのかわかったものではありません。そのうち、鬼城のような、船舶があまり寄港もしない港になってしまうかもしれません。

マハティール新首相は、このような「一帯一路」の本質を見抜いたからこそ、見直しを宣言したのです。

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2018年5月14日月曜日

なぜイスラエルとイランはシリアで戦っているのか 800字で解説―【私の論評】イランの核武装で中東に新たな秩序が形成される?

なぜイスラエルとイランはシリアで戦っているのか 800字で解説

シリアでイラン高官が殺害されたことを受け、その高官の墓でイスラエル国旗を燃やす
準備をするイラン人抗議者。2015年撮影

イスラエルがシリア国内のイラン関係施設を爆撃し、2つの強力な敵対国が衝突する恐れが高まっている。その背景を解説する。

イスラエルとイランはなぜ敵対しているのか

1979年にイラン革命が起こり、イスラム教強硬派が権力を掌握して以来、イランの指導者はイスラエルの排除を訴えてきた。イランはイスラエルのことを、イスラム教支配地域を違法に占拠する者と位置づけ、同国の存在権を否定している。


これに対してイスラエルはイランを、イスラエルの存在に対する脅威とみなし、イランは核兵器を得てはならないと力説してきた。イスラエルの指導者はイランの中東における影響力拡大を恐れている。

なぜシリアは巻き込まれたのか

隣国シリアが2011年以来の内戦で荒廃していく様子を、イスラエルは不安を持って見守ってきた。

シリア政府と反体制派の戦闘から、イスラエルは距離を置いてきた。

ゴラン高原のイスラエル入植地を守るイスラエル軍人。シリアとの境界付近で

その一方で、数千人の民兵や軍事顧問を派遣してシリア政府を支援するイランの役割は、日増しに大きくなっている。

イスラエルは、自分たちの隣国で、かつ自分たちを脅かすレバノンの武装勢力と、イランの関係も気にしている。イランが密かに、レバノン武装勢力に兵器を送ろうとしているのではないかと懸念しているのだ。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イランがシリア領内に基地を建設することは認めないと繰り返し述べてきた。イスラエル攻撃の拠点に使われる可能性があるためだ。

それゆえ、イランがシリア国内で存在感を増すにつれ、イスラエルはシリア内イラン施設への攻撃を激化させているのだ。



イランとイスラエルは実際に戦争状態となったことがあるのか

いいえ。イランは、レバノンの武装勢力ヒズボラやパレスチナの軍事組織ハマスなど、イスラエルを標的にする組織を長い間支援している。しかし、直接的な戦争はイランとイスラエル両陣営に大規模な破壊をもたらすだろう。

イランは長距離ミサイルを備蓄しており、シリアとイスラエルの境界線付近には重武装の協力組織もいる。

イスラエル軍は強力で、核兵器も保有していると言われている。米国の強力な支援も受けている。

(英語記事 Why are Israel and Iran fighting in Syria, in 300 words

【私の論評】イランの核武装で中東に新たな秩序が形成される?


イランの核問題に関する最終合意として知られる包括的共同作業計画(JCPOA)は、歴史上もっとも大きな問題を内包する軍備管理合意の一つです。この合意ではイランがウラン濃縮をする権利だけでなく、ウラン濃縮を産業化する権利さえも認められています。

研究・開発施設の建設も許容され、検証・査察制度も実質的に骨抜きにされています。つまり、イランは経済制裁の解除を手にするだけでなく、核開発を正統化することに成功したのです。

ワシントンでは「イランの影響力を押し返せば中東に秩序を取り戻せる」と考えられているようですが、これは間違っています。むしろ、今後の持続可能な中東秩序にとって、イランが必要不可欠の存在であることを認識しなければならないでしょう。

中東の同盟諸国にはイランをアラブ世界から締め出す力はなく、仮にそうできたとしても、イランが残した空白を埋めることはできません。結局、中東で大きな問題が起きれば、アメリカは介入せざるを得なくなります。対イラン強硬策を続けても、イランの影響力を低下させることはなく、むしろ中東におけるロシアの影響力を拡大させるだけになることが予想されます。

イランの核兵器開発をめぐる問題の多くは、テヘランが核開発を試みているからではなく、イスラエルが核を保有していることに派生しています。イランが核武装すれば、他の核武装国がそうするように、相互抑止環境が形作られます。

これまでのところ、核武装国同士の全面戦争は起きていません。イランが核武装に成功すれば中東で抑止状況が生まれ、中東により安定した秩序が生まれることになるでしょう。イランの核武装化は最悪ではなく、最善のシナリオかもしれないのです。

このようなことを言うと、日本の特に頭がお花畑の人々は、何を語っているのか全く理解されないかもしれません。

しかし、以下の事実を知ればお花畑の人は無理でも、まともな人ならば考えが変わるかもしれません。

以下にイスラエルがいかに世界有数の保有国になったかを掲載します。

米国はイランの核開発を激しく批判し、軍事侵攻も否定していません。自らが世界最大の核兵器保有国だということを忘れ、中東にはイスラエルという世界有数の核兵器保有国があることを無視した説得力のない主張です。

イスラエルはNPT(核不拡散条約)に加盟していません。イランはNPTのルールの中で曲がりなりにも査察を受けてきたにもかかわらず、激しく批判され、制裁されてきたのですが、イスラエルはお咎めなしです。

米国がイスラエルの核開発に気づいたのは1958年のことです。CIAが飛ばした偵察機U2がネゲブ砂漠のディモナ近くで建設中の施設を発見したのですが、担当者は原子炉の疑いがあると判断しました。

偵察機U2

そこで、画像情報本部の責任者だったアーサー・ランダールはドワイト・アイゼンハワー大統領に対し、ディモナ周辺の詳細な調査を行うように求めるたのですが、それ以上の調査が実行されることはありませんでした。後に、施設はフランスとの秘密協定に基づいて建設された2万4000キロワットの原子炉だということが判明しています。

また、イスラエルの科学者は1960年2月にサハラ砂漠で行われたフランスの核実験に参加していますが、この直後にイスラエルは原爆を手にしています。1963年になると、イスラエルとフランスは共同で核実験を南西太平洋、ニュー・カレドニア島の沖で実施したのですが、両国の関係は1967年の第3次中東戦争で悪化、核開発の協力関係も崩れました。

フランスと入れ替わりで登場してきたのが南アフリカです。1968年に両国は核開発に関して協力することで合意し、イスラエルはウランを入手するかわりに核技術や兵器を提供することになりました。

米国の研究者、サーシャ・ポラコフ・スランスキーは書籍の中で、1975年に南アフリカの国防大臣だったP・W・ボタとイスラエルの国防大臣だったシモン・ペレスが会談、イスラエルが南アフリカに核弾頭を提供することで合意したことを明らかにしています。

その後、両国の関係は深まったようで、1976年1月に南アフリカはイスラエルのテルアビブに大使館を開設、同年4月には南アフリカのジョン・フォルスター首相がイスラエルを訪問しています。

勿論、こうした動きを米国が知らなかったとは思えないですが、ソ連も気づきました。1977年8月、ソ連のレオニド・ブレジネフ書記長がカーター米大統領に対し、カラハリ砂漠で南アフリカが核実験を準備している証拠をコスモス衛星がつかんだと警告、この話はイギリス、フランス、そして西ドイツにも伝えられました。その直後、アメリカの衛星もカラハリ砂漠で地下核実験の準備が進んでいることを確認しました。

カーター大統領(前列左)とブレジネフ書記長(前列右)

この実験は米ソなどの圧力で中止になりましたが、1979年9月にはアメリカのベラ衛星が南インド洋、南アフリカの近くで強い閃光を観測、CIA(中央情報局)やDIA(国防情報局は「90%以上の確率で核爆発だ」と判断しました。

ところが、ベラの情報だけでなく、無線通信の傍受内容、イスラエル国防相だったエツェル・ワイツマンの南アフリカ訪問などの事実をカーター政権は公表していません。ベンメナシェによると、南インド洋での実験で使用された核兵器の運搬手段は175ミリ砲でした。また、1981年にイスラエルはインド洋で水爆の実験を行っています。

そして1986年10月、イギリスのサンデー・タイムズ紙がイスラエルの核施設で働いていた技術者の証言を写真付きで報じました。その技術者がモルデハイ・バヌヌです。

バヌヌはイスラエルが保有する核弾頭の数を200発以上だとしていましたが、イスラエルの軍情報部の幹部だったアリ・ベンメナシェは1981年で300発以上の原爆を保有、この年には水爆の実験にも成功しているとと主張、また1977年から81年までアメリカの大統領を務めたジミー・カーターは150発という数字を示しています。

イスラエルの核兵器の実情を世界に伝えたモルデハイ・ヴァヌヌ

バヌヌの告発があるまで、アメリカのCIAやDIA)はイスラエルが保有する核弾頭の数を24から30発と推測していたといいます。現在でもこの数字に若干上乗せした数を主張している人もいるようですが、堅めにみて百数十、おそらく数百発は持っていると考えるべきだでしょう。ともかく、世界有数の核兵器保有国です。

記事が掲載される前、バヌヌはイタリアでイスラエルの情報機関によって拉致されました。大きな箱に押し込められ、船でイスラエルへ運ばれ、裁判にかけられています。拉致したイスラエル政府が制裁されることはないです。1988年3月に懲役18年の判決を受けています。

2004年にバヌヌは出所したのですが、外国人と接触したという理由で2007年7月に懲役6カ月を言い渡され、再び収監されています。そして2010年5月、また収監されています。理由は同じです。どうしてもイスラエル政府はバヌヌの口を封じておきたいようです。

イスラエルが世界有数の核弾頭保有国であり、アメリカが核兵器の開発や核物質の入手などを容認してきた事実を語られれば、イランを批判しにくくなります。あるいは、公表されていない秘密がまだあるのかもしれません。

これだけの核を有する、世界有数の核保有国イスラエルですから、中東では他国より強いのは当たり前といえば当たり前なのかもしれません。

まさに、先にも述べたように、イランが核武装に成功すれば中東で抑止状況が生まれ、中東により安定した秩序が生まれることになるでしょう。イランの核武装化は最悪ではなく、最善のシナリオかもしれないのです。

無論、米国としては、イスラエルやイランが、中距離核弾頭をはるかえにこえて、それこそ北朝鮮のようにICBMを所有し、米国も標的にしうるようになることは絶対に許さないことでしょう。

トランプ大統領は、これは許さないまでも、意外とイランの核保有を認めるかもしれません。

以前イラクに関しては、米国はアサド政権を完璧倒すことはしないであろうこと掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)! 
 

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ここではルトワックによる米国のシリア対応について掲載しました。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ルトワックはイラクのアサド政権を米軍が攻撃して崩壊させたとしても、結局反政府勢力が反米政権を樹立するだけで米国の勝利はないといいます。

であれば、アサド政権と反政府勢力を拮抗させておき、アサド政権側が強くなれば、反政府勢力に武器を供与するなどして、これを強化し、逆に反政府勢力が強くなれば、武器供与を中止して、両勢力を拮抗させておくのが、米国としては最上の策であるとしています。

無論、現在ではシリアにロシアが関与したり、イランの軍事基地が設置されているなど、かなり複雑化していますが、それでもロシアやイランが恒久的にイラク内に踏みとどまり、アサド政権をすぐに勝利に導き傀儡政権することができるかといえば、それほど力があるわけでもありません。

現在でも、米国がアサド政権と反政府勢力を拮抗させておくという考え方は、良い選択であると考えられます。

この拮抗策を中東全域で行うということも十分考えられます。イスラエルだけが、世界有数の核保有国になっていることも、中東の状況を悪化させる大きな要因となっています。

これで、イランが核保有国になれば、イスラエルと拮抗し、新たな秩序が形成され中東で大規模な戦争が起こることもなくなる可能性が高いです。

米国が核合意から抜けたことを機にイランも抜ければ、イランは核開発を進めることができます。そうして、イスラエルと拮抗すれば、米国が介入しなけばならいほどの大きな問題が中東に起こらなくなるようになる可能性が高いです。

現状の状態をそのまま継続し、イスラエルがイランを本格的に攻撃し、本格的な戦争になったとしたら、場合によっては米国も介入しなければならないことも考えられます。

上記で述べたイランの核開発による、イスラエルとの拮抗は、大いにあり得るシナリオです。トランプ大統領は意外とこれを狙っているかもしれません。トランプ氏が、大統領選のときに日本の核武装について言及したことを思い出します。

いずれにしても、北朝鮮の問題が解決しないうちに、イランの核武装許容などということはないでしょう。そんなことをすれば、金正恩に核武装の段階的放棄などに格好の口実を与えてしまうことになります。

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2018年5月13日日曜日

イラン・イスラエル戦争が始まる? 核合意離脱で一気に不安定化する中東―【私の論評】北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなる(゚д゚)!

イラン・イスラエル戦争が始まる? 核合意離脱で一気に不安定化する中東


クリスティナ・マザ

イスラエル軍のダマスカスへのミサイル攻撃(5月10日)


<トランプ政権のイラン核合意離脱を受けて、イランがイスラエルへの攻撃を開始。この軍事衝突は戦争へと発展するのか>
シリア国内に展開するイランの革命防衛隊が、ゴラン高原を占領するイスラエル軍拠点をロケット弾で攻撃した。これに対してイスラエル軍はシリア領内のイランの軍事拠点数十カ所を報復攻撃した。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

ドナルド・トランプ米大統領がイラン核合意からの離脱を表明して以降、これがイランとイスラエルの間の最初の軍事衝突となる。イランと敵対するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、トランプの核合意離脱を強く支持していた。ホワイトハウスは10日に出した声明で、イラン側のロケット弾攻撃は非難したが、イスラエル側からの報復攻撃については言及しなかった。

「アメリカはイラン政府によるシリア領内からのイスラエル市民に対する挑発的なロケット攻撃を非難し、イスラエルの自衛行動を強く支持する。イラン政府による、イスラエル攻撃を目的としたロケット弾、ミサイルシステムの配備は、中東地域全体にとって受け入れ難く、極めて危険な状況だ」と声明は述べている。

「イランの革命防衛隊には、今回の無謀な行動の結果の全ての責任がある。アメリカは革命防衛隊と(シーア派武装組織の)ヒズボラなど関連の軍事組織に対してこれ以上の挑発行動に出ないことを要求する」

イスラエル軍によると、10日未明に革命防衛隊が約20発のロケット弾でゴラン高原のイスラエル軍拠点を攻撃。イスラエルのミサイル防衛システムがそのうち何発かを撃ち落としたが、何発かは軍事施設にも着弾して被害が出た。イスラエル側での負傷者は報告されていない。

これに対してイスラエルのアビグドール・リーベルマン国防相は、2011年のシリア内戦勃発以降、最大規模の攻撃をシリア領内で実施し、シリア国内のイランの「ほとんどすべて」の軍事拠点を攻撃したと語っている。

人権団体の「シリア人権監視団」は、イスラエル軍の攻撃によってシリア全土でシリア兵士ら少なくとも23人が死亡したとしている。しかしシリア軍は、イスラエルのミサイル攻撃はほとんど迎撃され、攻撃による死亡者は3人だけだったと発表した。

中東情勢の専門家は、米トランプ政権がイラン核合意からの離脱を決めたことで、イスラエルと軍事衝突しても失なうものは少ないと感じたイラン側が攻撃に出たと見ている。

アメリカの核合意離脱には、イランの反米強硬派も反発している。強硬派の指導者からは、他の締結国が合意を継続しなければ核開発を再開するという発言も出ている。

イランが核合意の条件を破棄すれば、1年以内に核兵器を保有することが可能だと専門家は見る。

イスラエルはこの数カ月間、シリアに展開するイランの軍事拠点への攻撃を行っている。4月にはシリア軍基地でアサド政権への軍事支援を行っていたイラン軍兵士らが攻撃を受けて死亡し、両国の緊張が高まっていた。10日のイラン側からのロケット攻撃は、シリア領内の軍事拠点への攻撃に対するイラン側からの最初の報復攻撃となる。

軍事専門家は、両国間の軍事衝突が今後どこまでエスカレートするか注視している。

【私の論評】北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなる(゚д゚)!

5月8日、トランプ大統領は公約通り、2015年にイギリス、フランス、ドイツ、そしてロシアも参加してイランと締結した核合意からの離脱を発表しました。IAEA(国際原子力機関)による度重なる査察によって、イランの核兵器開発の事実がないとされていましたが、トランプ政権は、イランがいまだに核兵器開発を秘密裏に行っているとして、核合意から一方的に離脱しました。そして、最大限の制裁をイランに課すとしています。


本来、これは5月12日には発表されるとしていましたが、4日も前倒しで行われました。

この発表とまさにタイミングを合わせるように、イスラエルによる攻撃が一斉に始まりました。まず、8日にシリアの首都、ダマスカス南部のキズワにあるイラン革命防衛隊も使っている基地が攻撃され、イラン人8名を含む15名が死亡しました。兵器を輸送しているイラン革命防衛隊が標的にされたようです。

また、シリア北西部の都市、イドリブ西部でも大きな爆発があったことが確認されています。そして、ダマスカス西部のアル・カスラでも攻撃がありました。ダマスカス南部のジャバール・アルマネーでも同様の攻撃があった模様です。

4月13日のトマホークによる攻撃を実質的に撃退したシリア政府軍やイラン革命防衛隊が攻撃されているのは、イスラエル空軍機がアメリカ軍機のトランスポンダーを偽造し、アメリカ軍機のように見せかけて攻撃しているからだと見られています。

いまシリアでは、反政府勢力を支援するアメリカ軍と、シリア政府軍を支援するロシア軍とは同じ空域を飛行しています。

両軍は、それぞれの軍機を識別するトランスポンダーという信号を使い、両軍が戦闘状態になることを回避しています。アメリカ軍機のトランスポンダーであれば、シリア政府軍もロシア軍も攻撃を控えています。

イスラエルは今回この取り決めを悪用し、アメリカ軍のトランスポンダーを偽造して飛行しています。そのため、シリア政府軍やイラン革命防衛隊の防空システムが作動できないようにしているのです。

また、レバノン上空では、アメリカ軍にエスコートされたイスラエル軍機によるシリアの偵察飛行が増加しています。これは、イスラエルによるシリアの大規模な攻撃が近い可能性を示唆しています。

そして、イスラエル軍が偵察しているレバノンの同じ空域では、ロシア軍の戦闘機がイスラエル軍機を牽制するかのようにジグザグに飛行しているのが記録されています。また、イスラエル軍のF15戦闘機に給油するための空中給油機も待機していることが確認されました。

さらに、シリア南部のシリア領で、イスラエルが実行支配しているゴラン高原では、イスラエル軍の予備役召集が開始されました。この命令はいまのところゴラン高原だけですが、イスラエル全土に拡大される可能性もあります。

また、ゴラン高原の防空シェルターにいつでも住民が避難できるように、シェルターの扉の開放が指示されました。そして、シリアと国境を接するイスラエル北部のすべての病院には、戦争警戒体制でもっとも水準の高い「レベルC」が発動されました。

選挙の応援集会で気勢を上げるヒズボラ支持者ら

これらの動きは、イスラエルがイランによる報復を想定し、それに準備していることを示しています。またイスラエルは、シリアではなく先頃選挙で圧勝したヒズボラが支配するレバノンを先に攻撃し、レバノンのヒズボラの拠点の壊滅を狙う可能性も指摘されています。

そして5月9日、シリア領でイスラエルが実行支配しているゴラン高原に、シリア側のイラン系武装勢力の基地から、20発のミサイルが打ち込まれました。イスラエルがこれに報復したものの、どちらの攻撃でも死傷者はいなかった模様です。このためもあってか、戦闘は限定的なものに止まり、拡大する気配はいまのところないようです。

イスラエルが実効支配するゴラン高原

このような状況は4月13日に行われたアメリカ、フランス、イギリスによるシリア攻撃のときよりももっと悪い状況ではないかとする見方も多いです。

それというのも、4月13日の攻撃では、事前にロシアはアメリカに、シリア領内で攻撃してはならないロシア軍の軍事施設を事前に通知し、アメリカ軍がこれを攻撃しない限り自制する構えでした。

それに対し、イスラエルが主導する今回の攻撃では、そうした事前の取り決めがないので、ロシア軍が活発に動いていることです。最悪な状況では、ロシア軍機とイスラエル軍機、またはアメリカ軍機がシリアの空域で戦闘状態になる可能性もあります。

いずれかの軍に死者が出た場合、これがもっと大きな戦争の引き金になる可能性は否定できない状況になるかもしれません。

このような中、アメリカ軍の地上部隊も動いています。すでに4月から4000名のアメリカ軍がヨルダンのシリア国境付近に展開しています。これはヨルダン軍との共同軍事演習のためだと説明されていましたが、演習が終了しても撤退する気配はありません。これは、これから始まるイランの報復に対応するための展開なのではないかともいわれています。

ところで、現在海外にいる4万4000名ほどのアメリカ軍部隊の所在が明らかにされていません。米国外に展開していることは間違いないようですが、具体的な場所は公表されていません。もしかしたら、やはりこれから始まる可能性のあるイランの反撃に備えるために、ヨルダンのシリア国境周辺に配備されている可能性もあると見られています。

無論、対北朝鮮のために韓国に配置されている可能性もあります。あるいは、韓国とシリア国境付近の両方に配置されているかもしれません。

このように、現在は、非常に緊張した状態です。レバノンやイスラエルのシリア国境付近で、いきなり大きな戦闘が始まる可能性が次第に高くなっています。

こうした動きを見ると、明らかにイスラエルはイランを挑発しており、イランによる報復を誘発しようとしています。イランがなんらかの報復攻撃に出ると、イスラエルはこれを口実に、一気にシリア領内のイラン関連軍事施設の全面的な壊滅を目指した大規模な攻撃に踏み切るはずです。

また将来万が一でも、イランが核合意から離脱した場合、核兵器の開発の疑惑を口実に、イラン本土を標的にした攻撃さえも、イスラエルは辞さない可能性もあります。

このような動きは、イスラエルの基本政策である中東流動化計画が過激に遂行されており、それをトランプ政権のアメリカが全面的に支援している状況と関連があるようです。

トランプ政権にとって、イスラエルの安全保障のための中東流動化計画の実現のほうが、北朝鮮の問題よりも優先順位がずっと高いと見てよいでしょう。

しかし、イランを弱体化させ、中東流動化計画を推進するためには、実は北朝鮮の非核化を推進し、アメリカが北朝鮮との敵対的な関係を終わらせることが前提条件になります。

この意味で、北朝鮮とイランの情勢は深く連動しています。北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなると見てよいでしょう。

イランのローハーニー大統領が、北朝鮮のキム・ヨンナム
最高人民会議常任委員会委員長と会談  2016年9月18日

このように北朝鮮とイランの情勢が連動している理由は、北朝鮮のイスラエルとイランとの関係を見ると明らかです。

まず北朝鮮とイスラエルとの関係ですが、歴史的に北朝鮮はイスラエルと敵対的な関係にあり、イスラエルを国家として承認していはいません。北朝鮮はイスラエルと対立するアラブ諸国側を長年支援してきました。そして、イスラエルと北朝鮮の戦闘機が激突した歴史まであります。

1973年10月、エジプトやシリアなどのアラブ諸国が1967年の6日間戦争でイスラエルに占領された領土の奪還を目的に、イスラエルを攻撃しました。第4次中東戦争の開始です。

このとき、北朝鮮はアラブ諸国を軍事的に支援し、20名のパイロットとともに、MIG21戦闘機の編隊をエジプト南部の基地に派遣しました。この戦闘部隊はエジプト上空で、イスラエルのF4ファントム戦闘機と交戦しています。

第4次中東戦争はオイルショックを引き起こしながらも、エジプトとシリアは占領された領土の奪還に失敗し、イスラエルの実質的な勝利で終結しました。

その後、1979年にはエジプトのサダト大統領がイスラエルとの歴史的な和平に応じたため、イスラエルが占領していたシナイ半島をエジプトに返還し、両国の敵対関係は終了しました。

しかし、その後も北朝鮮のアラブ諸国支援は継続しました。

北朝鮮は第4次中東戦争後も、エジプトやシリアに軍需工場を建設し、両国との友好を大切にしました。

そうした支援は、北朝鮮からの一方通行ではありませんでした。エジプトはパイロット派兵の見返りとして、北朝鮮にソ連製弾道ミサイルである「スカッドB」(ソ連名はR-17E)を引き渡したことが韓国国防部によって確認されています。いわゆるノドンやテポドンなどの北朝鮮の弾道ミサイル開発は、ここから始まったと考えられています。


ただし、北朝鮮は最初から弾道ミサイルの引き渡しを求めて派兵したわけではなかったようです。当時の参謀総長であったシャーズィリーによると、北朝鮮の空軍部隊がエジプトに到着したのは1973年6月であったのですが、ソ連の弾道ミサイル旅団がR-17Eとともに初めてエジプトに到着したのは同年7月末のことでした。北朝鮮が派兵を決定した時には、エジプトにはまだ弾道ミサイルがなかったのです。

北朝鮮でミサイル部隊が創設されたのは、エジプト派兵から間もなくと考えられます。974年8月に金日成が、後に戦略ロケット司令部と呼ばれるようになる第639軍部隊を訪問した記録があるからです。

エジプトがいつ、北朝鮮に弾道ミサイルを渡したのかは分かっていません。ただ、エジプトにR-17Eが導入された1973年7月から、金日成が第639軍部隊を訪問した1974年8月までの間であったろうと推定されます。ここから北朝鮮の弾道ミサイル開発が始まり、第639軍部隊が戦略ロケット司令部として対外的に公にされるのは約40年後のことです。

シリアも、ハーフィズ・アル=アサド大統領(バッシャール・アル=アサド現大統領の父)が1974年9月28日から10月3日に北朝鮮を訪問し、朝鮮半島で再び戦争が起これば支援軍を送ることを約束しました。

シリアは現政権においても北朝鮮との友好関係を維持しています。アサド政権と北朝鮮の間には数々の軍事協力があったはずですが、まだ全容は明らかになっていません。

「アラブの春」によってシリアは内戦状態に入り、アサド政権は以前と比べて弱体化しています。それでも、北朝鮮は「イスラーム国(ISIL)」や自由シリア軍、ヌスラ戦線、クルド人勢力などのシリア国内の他の勢力に加担せず、アサド政権を支持し続けています。

アサド政権もまた北朝鮮を支持し続けています。アサド政権はアメリカや韓国と国交を締結していません。さらには対北朝鮮制裁にも反対しており、国連加盟国に要請されている制裁状況の報告にも一切応じていません。

また、2005年12月以来の国連人権委員会や国連総会における北朝鮮人権状況決議でも、アサド政権は一貫して反対票を投じてきました。アサド政権によるシリア国内の人権状況が問題にされていることも原因かもしれませんが、北朝鮮への支持が現在に至るまで変化していないのも事実です。

イランは、イラン・イラク戦争中の80年代半ばに北朝鮮からスカッドミサイルを入手し、独自開発を本格化。イラン指導部の親衛隊的性格を持つ革命防衛隊は2006年、同国は外国の協力なしでミサイル開発を進められるレベルに達していると宣言しました。

両国間の直接的な協力を示す証拠は表面化していないですが、専門家の間では、北朝鮮の経済危機が深刻化すれば、現金や石油獲得のために核実験のデータなどがイランに売り渡される恐れがあるとの声も出ています。

このような歴史からみても、北朝鮮とイラン情勢は深く連動していることがご理解いただけるものと思います。北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなると見てよいでしょう。

トランプ政権としては、まずは北朝鮮に核を放棄させるとともに、北朝鮮とイラン、シリアなどの中東諸国との関係を絶たせ、北と和平を結ぶか和平交渉のテーブルにつかせ、その後にイスラエルを支援し、イスラエルがイラン・シリアを攻撃し、様子を見て介入すべきと判断した場合は介入することでしょう。

トランプ大統領は、何としてもオバマ前大統領の「戦略的忍耐」を正す腹でしょう。

【私の論評】

トランプ大統領、イラン核合意からの離脱を発表 欧州説得実らず―【私の論評】米のイラン核合意からの離脱の発表で、正念場を迎えた金正恩(゚д゚)!


「X国の独裁者の親族」米国防総省、30代女性を「機密」資格で失格に 金正恩氏と血縁か―【私の論評】日本で早急にセキュリティークリアランス制度を導入すべき理由

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