2015年12月15日火曜日

軽減税率をめぐる攻防ではっきりした財務省主税局の「没落」―【私の論評】財務省の大惨敗によって、さらに10%増税は遠のいた(゚д゚)!

軽減税率をめぐる攻防ではっきりした財務省主税局の「没落」

攻防の第1幕は安倍官邸の「谷垣」不信から始まった
軽減税率をめぐる政府・与党内の攻防はやはり、首相・安倍晋三、官房長官・菅義偉による官邸の勝利に終わった。

浮き彫りになったのは、これまで税の決定権限を握ってきた自民党税制調査会と財務省主税局の没落である。財務事務次官の有力候補だった主税局長・佐藤慎一は官邸の意向に逆らい、自ら次官の目をつぶした。
■官邸の「谷垣」不信

軽減税率をめぐる攻防で大きなヤマが3つあった。第1幕は11月24日午前9時から30分間、自民党本部で行われた安倍と、幹事長・谷垣禎一、税調会長・宮沢洋一との会談だ。

安倍は谷垣と2人で会うつもりでいた。ところが、宮沢が同席し、さらに財務省主税局の幹部が10人近くぞろぞろと入ってきた。安倍はこの異様さに強い警戒感を抱き、慎重に言葉を選んで発言した。
幹事長・谷垣禎一(左)と税調会長・宮沢洋一(左)
谷垣、宮沢の説明を聞いた後、安倍が話したのは、①国民の理解が得られるような内容にする、②事業者の混乱を招かないように配慮する、③安定財源を確保する、の3点のみだった。

ところが、谷垣は会談後の記者会見で、安倍の発言として「いわゆる税と社会保障の枠内で議論してほしい」「ない袖は振れない」と語ったーーと紹介した。また、記者団から「4000億円という指示があったのか」と質問され、「首相もそうお考えだと思う」と答えた。

これに対し、菅は同日午前の記者会見で「社会保障と税一体改革の枠内ということは聞いていない。具体的な指示はしていないと思う」と、谷垣の会見内容を否定した。菅は翌25日の記者会見で「(首相は)具体的な数字は言っていない。首相に確認した」と重ねて否定した。

このころ、官邸の「谷垣不信」が一気に強まった。ある官邸関係者はこう言った。

「谷垣さんは軽減税率の問題を、財務大臣経験者としてしか考えていないのか。公明党、創価学会を含む政権全体の問題として考えてほしい」
■谷垣の方針転換

第2幕は今月9日正午から首相官邸で約1時間20分間行われた、安倍、菅、谷垣3人の会談だ。

この会談を経て、谷垣は財務省寄りの姿勢を一気に転換し、公明党の意向を尊重してまとめる方向にカジを切った。軽減税率の対象品目を「生鮮食料品のみ」から「加工食料品を含む」に拡大し、その額は3400億円から「8000億円~1兆円」になった。

安倍と菅は谷垣に、公明党、なかんずく公明党の母体である創価学会の窮状を詳しく説明した。公明党・創価学会は最近の選挙を「軽減税率実現」に絞って戦っており、軽減税率が導入されてもコンビニに行って適用されるのはバナナだけというのでは「選挙マシンが動かなくなる」と説明した。

そして安倍は「この交渉は決裂させてはならない。なんとかまとめてほしい」と頼んだ。安倍は命令・指示はしておらず、谷垣が納得して自ら動くように仕向けた。会談の最後は次のような会話で終わっている。

谷垣「もう一回やらせてほしい」

安倍「よろしくお願いします」

党総裁、幹事長の立場なら、安倍が指示・命令してもおかしくない。しかし、谷垣本人がその気にならなければうまく運ばず、しこりを残すことになる。かつ、谷垣が理解しなければ、党が官邸主導に反対することにつながる。

谷垣が自分自身でやらなければと思うようになるのに、安倍は1時間20分もの時間をかけたのだった。

■麻生が外食案をつぶす

第3の幕は自公が「加工品を含む1兆円規模」で決着したあと、11日に上がった。自民党から谷垣、宮沢ら、公明党から幹事長・井上義久、税調会長・斉藤鉄夫らが出席した幹部協議で、自民党側が「外食を含む飲食料品全般」を提案した。もし、実現すれば、必要財源がさらに3000億円膨らんで1兆3000億円に上る案だった。

提案は谷垣が行った。出席者によると、これは立場上のことで、必要性を熱心に説いたのは宮沢。宮沢を主税局が支え、「宮沢さんと主税局が一緒になって作った案」(出席者の一人)だった。

外食を含める理由は、①線引きが難しい、②財務相・麻生太郎が答弁で立ち往生しかねない、の2点だった。テークアウト、コンビニのイートイン、出前などに軽減税率を適用するかどうかなど、線引きは難しい。

この提案は麻生がつぶした。12日午後、谷垣と会談した際、「手当済みの4000億円を除き、6000億円の財源を探すのでさえ大変なのに、9000億円もの財源を探すのはもっと大変になる。外食を除くことはヨーロッパでも行っているんだから説明できる」と言って反対した。

もちろん、麻生は安倍、菅と連絡を取っていた。安倍や菅も、かつ公明党・創価学会も外食を含むことを望んではいなかった。財務省では主計局が抑えに回った。

繰り返すが、外食を含む案を主導したのは、軽減税率導入決定で敗北した自民税調と主税局だった。とくに、主税局は財務相が反対する案を懸命に根回ししていたことになる。

官邸主導の決定に対して、反乱を起こしたと見られてもやむを得ない。主税局長である佐藤に対する官邸の視線は厳しい。(敬称略)

田崎 史郎

【私の論評】財務省の大惨敗によって、さらに10%増税は遠のいた(゚д゚)!

上の記事で、軽減税率の対象品目と、必要な財源について、文章だけでは理解しにくいと思いますので、以下に図を掲載します。



今回の、バトルは上記の田崎氏の記事にもあったように、公明党+官邸vs.自民党税調+財務省です。田崎氏自身は、財務省主計局としてますが、無論、これは財務省とみて間違いないです。今回は公明党+官邸が大勝利を収めました。

ただし、上の田崎氏の記事では、このバトルの背後に何があるのか、明確に伝えていません。これが理解できなければ、上記のバトルの意味が全く見えません。

■バトルの背後にあるもの

この背後にあるのは、公明党サイドとしては、来年の参議院議員選挙に向けての選挙対策です。

官邸サイドとしては、なぜ軽減税率対象を広くしたいかといえば、もし消費増税を実施せざるを得なくなった場合でも、できるだけその悪影響を薄めたいという思惑があるからでしょう。おそらく官邸としては、2014年4月からの8%への消費増税に懲りているので、できることなら、2017年4月からの10%への消費増税も避けたいという思惑があるのだと思います。

ただし、安倍首相は、リーマンショックのようなことがない限り増税するともいっているので、増税回避6割、増税4割の二つのシナリオを用意していると思われます。

増税回避へのシナリオは、財務省やその関係者の押さえ込みです。そのため、今回の大勝利は、財務省抑えこみの最初の大勝利になったといえます。

一方、増税実施への対応プランは、ダメージコントロールとしての軽減税率です。このブログでは、つい最近も、7%増税を予定通りに実施すれば、平成18年あたりには、そのとき政権が誰のものであったにしても崩壊の危機に見舞われることを掲載しました。

この崩壊の危機を少しでも低減する一つの方策が、軽減税率対象を広くとることなのです。

自民党税調・財務省が、最後になって外食まで含む案を出してきたのは、低所得者対策という公明党のウリを奪うとともに、加工食品と外食との境界を決める作業が難しいので、事務作業を優先し、何が何でも2017年4月からの消費増税を成し遂げたい、という財務省事務方の希望の合作であろう。

■財務省は、最初からつまづき通しだった

それにしても、今回のバトルでは財務省は最初から大きなつまづきを繰り返してしていました。9月上旬、海外で麻生財務相に、軽減税率の代わりに給付金で対応すると言わせたのだ。大臣が発言するからには、最終決着点でなければならないはずです。

まだ予算編成が始まったばかりの時期に大臣発言でしたが、やはり詰めが甘く、給付案は完全に頓挫してしまいました。そもそも、制度が出来上がっておらず、うまくスタートできるかどうかすらわからないマイナンバーを前提とたのは、誰にでもわかる初歩的ミスとしかいいようがありません。

それでも、軽減税率はできないと財務省は踏んでたようです。軽減税率の導入には、商品ごとに税率や税額を明記した請求書(インボイス)が必要になるのですが、これに経済界は事務が煩瑣になるとして反対すると読んでいたようです。

インボイスは、売り買いする商品それぞれの価格と消費税率、税額を記入するものです。現在は消費税率が一律8%のため請求書に基づいて税額の計算が可能ですが、消費税が複数税率になると対応しきれず、インボイスは不可欠とされていました。

世界の中でも、インボイスがないのは日本の消費税だけです。これが、消費税脱税や益税(消費者が事業者へ支払った消費税のうち事業者から国庫に納入されず、事業者の手元に残る租税利益)の温床ともされ、問題視されていました。

そうした声から、世界と同様にインボイス導入する運びとなり、軽減税率の技術的な障壁が取り除かれました。

それでも、財務省は、学者・エコノミストを使って、高所得者に便益が及び真の弱者対策ではない、弱者対策を行うのであれば給付金、という原則論から軽減税率に反対し続けました。

確かに、この意見は、消費税部分だけを見れば正しいです。ただし、約6000万人いる日本の納税者のうち、申告納税と源泉徴収の比率は1:2くらいで、申告納税は海外と比べて少ないです。このため、給付金を申告と合わせてやりにくいのが実情であり、しかも今回救済すべきは非納税者なので、給付金措置が実際には軽減税率よりも実施しにくいです。

給付金とインボイスに関しては、財務省は完全に読み誤りました。

ただし、安倍首相は、リーマンショックのようなことがない限り増税するといっているので、回避6割、増税4割の二つのシナリオに対応したプランをもっているはずだ。

増税回避への対応プランは、財務省やその関係者の押さえ込みである。一方、増税実施への対応プランは、一つにはダメージコントロールであり、軽減税率対象を広くとるのはそのためす。

自民党税調・財務省が、最後になって外食まで含む案を出してきたのは、低所得者対策という公明党のウリを奪うとともに、加工食品と外食との境界を決める作業が難しいので、事務作業を優先し、何が何でも2017年4月からの消費増税を成し遂げたい、という財務省事務方の希望の合作であろう。

■10%増税は遠のいた

さて、軽減税率を導入したうえで、10%増税をしたとしたらどういうことになるでしょうか。

昨年は、経済対策として3兆円の補正予算が組まれました。その結果がどうなったかといえば、今年の第一四半期はご存知のようにマイナス成長になりました。第二四半期は、速報値ではマイナス、修正値でもほんのわずかのプラスで、とても順調であるとはいえません。

これからみても、1兆円規模の、軽減税率だけではどうにもならないことが、十分予想できます。仮に、経済対策として3兆円上乗せしたとして、4兆円クラスの対策としたらどうなるでしょう。

現状の日本では、10兆円程度のデフレ・ギャップがあるといわれています。これを改善するためには、10兆円以上の対策を実施しなければ焼け石に水です。4兆や、5兆くらいでは、やるなとはいいませんが、あまり効果は期待できません。

この10兆円のデフレ・ギャップが、10%増税のときまで解消されているとはとても思えません。

昨年か、少なくとも今年あたり10兆円くらいの補正予算が実行されていたというなら、軽減税率を織り込んだ10%増税をすれば、なんとかなるかもしれません。しかし、現実はそうではありません。

であれば、やはり、10%増税は見送るべきです。そうして、このようなことは、安倍総理は良く理解されていると思います。

そうして、安倍総理は14日、2017年4月の消費税再引き上げ時に導入する軽減税率をめぐり、国民的な納得が得られるものでなければ、再増税によって「経済に大きなブレーキがかかる可能性がある」との見方を示した上で、自民・公明両党が合意した内容は「最善の結果」と評価しています。

この言葉から、私は安倍総理は、10%増税スキップをやる気満々であると見ています。

やる気まんのんの安倍総理

そうして、ここにきて、民主党が増税反対の狼煙をあげました。民主党の枝野幸男幹事長は9日の記者会見で、消費税増税時に導入する軽減税率制度に関し、社会保障の財源を充てるならば消費税率10%への引き上げに反対する考えを示唆しました。「社会保障と税の一体改革に関する3党合意違反だ。税率引き上げを認められなくなる可能性は高い」と述べました。

枝野氏がなぜこのような批判をするかといえば、財務省が消費税を社会保障目的税化(社会保障財源化)しているからです。しかし、今回、官邸は、財務省の財源論を完全に破りました。

本日、麻生太郎財務相は本日の閣議後記者会見で、酒類・外食を除く食料品に適用する消費税の軽減税率制度の財源が1兆円に上ることについて「(与党で)1年かけて検討していく。安定的な恒久財源確保が必須だ」と述べました。これで、財務省は完膚なきまでに、敗北したと見て間違いありません。枝野氏もびっくり仰天しているかもしれません。

民主党が増税に反対するというのは、10%増税見送りに拍車をかけるものと思います。来年の参議院選挙(衆参両院同時選挙になる可能性も大)で、もし安倍総理が10%増税見送りを公約の中にいれたとしたら、これは選挙の争点ではなくります。

仮に、民主党が増税反対をやめたとて、安倍総理が10%増税見送りを公約にしたとしたら、安倍自民党はさらに有利になります。

今回のは新聞にも軽減税率が適用されるのが決まったようですが、今回の誰の目からみても、財務省の敗北からみて、これは財務省が新聞に飴玉与えたというよりは、官邸側が、あえてリスクを冒さず、新聞を官邸に向ける作戦であると思います。官邸は、自民党税調・財務省の連合軍に完膚なきまでに圧勝しました。新聞はパワーのあるところに、ネタを求めてくるので、官邸は軽減税率のアメ玉を与えたと見るべきでしょう。

今後新聞は、増税に対してどうのような報道をするのか、楽しみです。

いずれにせよ、政治の世界は一寸先は闇ともいわれますから、まだ完璧とは言いがたいですが、予定どおりの10%増税は相当遠のいたとみて、間違いないようです。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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