2015年12月5日土曜日

【日本の解き方】人民元のSDR採用後の中国 一党独裁と社会主義体制で困難抱えて行き詰まる―【私の論評】中間層を創出しない中国の、人民元国際通貨化は絶望的(゚д゚)!


中国人民元のSDR構成通貨入りを発表する
IMFのラガルド専務理事=11月30日、ワシントン

国際通貨基金(IMF)は11月30日の理事会で、中国の人民元を特別引き出し権(SDR)の構成通貨に採用することを正式に決めた。

以前の本コラムでも紹介したが、これはIMFが人民元を「自由利用可能通貨」として認めたことを意味する。一般論として、IMFは人民元をドルや日本円と並ぶ世界の主要な通貨としての採用を決め、加盟国との間の資金のやり取りなどに活用していく-といわれている。

中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)での取引の自由化も加速すると予想され、世界の金融界での中国の存在感がますます高まるという意見がある。

しかし、IMFの「自由利用可能通貨」という概念は、単に通貨取引で一定量以上、使われていることを意味するだけで、人民元が自由な市場で取引され、価格が自由に変動することを意味していない。人民元には中国政府による制約が多いという問題もある。今は変動相場制の時代であり、変動相場の中で人民元が「自由に使われるか」どうか、それが、真の「国際通貨」であるかどうかのメルクマール(指標)になるだろう。

筆者は、中国経済の今後には多くの困難が待っているとみている。まず、人民元の国際化であるが、通貨取引の背後には、貿易取引や資本取引があり、それらが大きく拡大しないと、国際化も限定的だ。

中国には共産党一党独裁の社会主義体制という問題があるので、国有企業改革や知的所有権の解決は当面難しく、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加も当面難しい。ということは、貿易取引や資本取引にも一定の限界が出てくる可能性がある。

特に資本取引の自由化は、一党独裁の社会主義体制のままでは基本的には無理である。となると、人民元もこれ以上の国際化はなかなか望めないというわけだ。

また、中国では、政策の自由度も制限されるので、経済発展にも注意信号が出ている。資本取引は自由化できないとしても、実際に資本取引を完全に規制するのも困難だ。となると、固定為替相場を維持するためには、金融政策の独立性を犠牲にせざるをえない。一方、資本取引を完全に自由化できないので、固定為替相場を完全に変動相場制に持っていくこともできず、中途半端だ。

中国が、一人当たり国内総生産(GDP)1万ドル前後で経済停滞に陥るという「中進国の罠」にはまりかけているのも懸念材料だ。一般論として、中進国の罠を超えるためには、大きな構造改革が必要であるが、そこでも中国の体制問題がネックになる。

中国は、当面AIIBによって「人民元通貨圏」のような中国のための経済圏を作りつつ、国有企業改革などを行ってTPPなどの資本主義経済圏への段階的参加を模索するとみられる。しかし、一党独裁体制を捨てきれないことが最後までネックになり、行き詰まるだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】中間層を創出しない中国の、人民元国際通貨化は絶望的(゚д゚)!

中国通貨・人民元の国際化を目指す中国政府にとって、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨に人民元が採用されるのは今年の主要政策目標の一つになっていました。

SDRバスケットに人民元が採用されることは、人民元が準備通貨として容易に取引ができ、資産の優れた保存手段となるものとしてIMFからお墨付きを得ることを意味します。

だからといって、すぐにも人民元がドルのライバルとなるわけではありません。SDRの発行残高は3000億ドル(約37兆円)をやや上回るに程度に過ぎません。これは、世界の外貨準備高の2.5%を占めるにすぎません。人民元の構成比率はごく小さいうえ、通常、対外支払いをSDRで行なう国は稀です。

金本位制の採用を取りやめた現在において、SDRは実利的な意味を殆ど有しておらず、象徴的な存在と化しています。あくまでもIMFと各国中央銀行との間でのみ使用される準備資産であり、民間の投資家などにとっては直接的には保有することも売買することもできない資産になっています。



元が国際通貨として本当に認められるには、人民元相場の柔軟性拡大に加えて、中国金融市場に対するアクセス制限の緩和、取引の自由化推進などが要求されますが、株価急落で金融市場に異例な介入を続ける中国政府は、一段と厳しい局面に立たされることになることでしょう。

中国が資本勘定を完全に自由化し、変動相場制に移行しない限り、投資家は人民元を国際通貨として使用することに引き続き慎重になることでしょう。

ただし、そのためには国内でそれなりの条件を整える必要があります。

中国が今の一党独裁を継続していては、高橋氏がブログ冒頭の記事で、指摘していた、「中所得国の罠」に陥る可能性が大というよりも、もうその罠に完璧に落ち込んでいます。

中所得国の罠の模式図

「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することをいいます。

この「中所得国の罠」を突破するのは結構難しいことです。アメリカを別格として、日本は60年代に、香港、シンガポールは70年代に、韓国は80年代にその罠を突破したといわれています。ただし、アジアでもマレーシアやタイは未だに、罠にはまっています。

中南米でも、ブラジル、チリ、メキシコも罠に陥っていて、一人当たりGDPが1万ドルを突破してもその後は伸び悩んでいます。

政治的自由と、経済的自由は、表裏一体であり、経済的自由がないと、IMFのような国際機関の提言は実行できません。経済的自由を保つには、政治的自由が不可欠です。

これに関しては、このブログでも表現は異なるものの、過去に何度か掲載してきました。

現在のように、一握りの富裕層が経済活動をするというのであれば、いずれというか、もうすでに中国はそうなのですが、経済発展には上限があり、それ以上は伸びることができなくなり、それこそ、「中所得国の罠」にはまってしまうのです。

中国の場合確かに、国全体としてのGDPは大きくなりましたが、それにしても、一人あたりのGDPは、まだ日本の1/10程度であり、まさに中進国の下の部類です。さらに憂うべきことは、中国がGDPを伸ばしてきたにもかかわらず、個人消費は伸びることなく、現在ではなんとGDPの35%に過ぎません。

これは、米国は70%、日本を含める先進国では、60%台であることを考えると、中国はあまりにも低いです。


中国が中所得国の罠から脱して、さらに経済発展をするということになれば、個人消費をもっと増やす必要があります。そのためには、現状のように、一握りの富裕層と、その他大勢の貧困層という状況を改め経済的中間層を創りだす必要があります。

そうして、この中間層が、社会・経済的に活発に活動できるための、基盤を整備する必要があります。

基盤を整備するためには、現状の中国ではほとんど実現されていない、民主化、経済と政治の分離、法治国家化は欠かせません。まずは、これができなければ、何も進みません。他の中進国が「中進国の罠」に嵌っているのは、結局これができないからです。

結局、中国に限らず、一党独裁が最後に障害になるのです。そう考えると、中国の外患内憂はそう簡単に解決しないことでしょう。

結局のところ、人民元が、SDRに採用採用されたとしても、それは象徴的な意味しか持たず、真の意味での国際通貨への道は厳しいと言わざるを得ません。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

【関連記事】






【関連図書】

余命半年の中国経済 これから中国はどうなるのか
渡邉 哲也
ビジネス社
売り上げランキング: 2,225

中国経済「1100兆円破綻」の衝撃 (講談社+α新書)
近藤 大介
講談社
売り上げランキング: 3,223

「中国の終わり」にいよいよ備え始めた世界
宮崎正弘
徳間書店
売り上げランキング: 5,246

0 件のコメント:

【中国の南シナ海軍事要塞の価値は500億ドル超】ハワイの米軍施設を超えるか、米シンクタンクが試算―【私の論評】米国の南シナ海戦略:ルトワック氏の爆弾発言と軍事的優位性の維持の意思

  【中国の南シナ海軍事要塞の価値は500億ドル超】ハワイの米軍施設を超えるか、米シンクタンクが試算 岡崎研究所 まとめ 中国の軍事施設の価値増加 : 海南島や南シナ海の軍事インフラの価値は20年以上で3倍以上に増加し、2022年には500億ドルを超える。 楡林海軍基地の重要性 ...