まとめ
- 今回のポイントは、シドニー銃撃という理不尽な暴力で尊い命が奪われた現実と、それを生んだ“西側の脆さ”を直視すべきということだ。
- 日本は、この悲劇を他人事にせず、治安と情報空間の危険を学び、同じ犠牲を出さないための教訓を得るべきだ。
- 次に備えるべきは、SNSの偽情報に揺さぶられず、世界中の国家と国民が一体で治安崩壊を防ぐ体制を整え、犠牲者の悲しみを決して繰り返さない覚悟を持つことだ。
突然に命を奪われた市民と、その家族や友人が抱えた悲しみは計り知れない。
また、負傷された方々の一日も早い回復を祈りたい。
本稿で述べる安全保障や情報戦の議論は、こうした尊い命が失われたという厳しい現実を前にして初めて意味を持つ。そして、同じ悲劇を二度と繰り返さないために、我々が何を学び、どう備えるべきかを考えることこそ、犠牲となった方々への最大の敬意であると信じている。
この事件は、単なる大量殺傷ではない。西側社会が抱え続けてきた亀裂が、ついに形を持って噴き出した瞬間であった。
事件が起きたのは2025年12月14日、日曜日の夕方だ。アーチャー・パークには「Chanukah by the Sea(海辺のハヌカ)」を祝う家族連れや観光客が千人ほど集まっていた。柔らかな灯りに照らされた穏やかなひとときだった。しかし午後6時45分頃、歩道橋の上に黒い服の男たちが現れ、ライフルとショットガンを群衆に向けて撃ち始めた。
銃撃は十数分続き、五十発近い銃弾が降り注いだ。現場の証言では、犯人たちは「ユダヤ人を狙え」と叫んだという。これは単なる凶行ではなく、宗教・民族への明確なヘイトテロであった。混乱の中、一人の市民アフメド・アル=アフマド氏が身を挺して犯人に飛びかかり、銃を奪って被害を抑えた。しかし彼も銃撃を受けて倒れた。
事件が起きたのは2025年12月14日、日曜日の夕方だ。アーチャー・パークには「Chanukah by the Sea(海辺のハヌカ)」を祝う家族連れや観光客が千人ほど集まっていた。柔らかな灯りに照らされた穏やかなひとときだった。しかし午後6時45分頃、歩道橋の上に黒い服の男たちが現れ、ライフルとショットガンを群衆に向けて撃ち始めた。
銃撃は十数分続き、五十発近い銃弾が降り注いだ。現場の証言では、犯人たちは「ユダヤ人を狙え」と叫んだという。これは単なる凶行ではなく、宗教・民族への明確なヘイトテロであった。混乱の中、一人の市民アフメド・アル=アフマド氏が身を挺して犯人に飛びかかり、銃を奪って被害を抑えた。しかし彼も銃撃を受けて倒れた。
アフメド・アル=アフマド氏は当時ボンダイビーチ近くを歩いていた一般の市民で、群衆を狙う銃撃犯の一人に飛びかかり、武器を奪って制圧したとされている。この勇敢な行動は多くの人命を救った可能性が高いと評価されており、ニューサウスウェールズ州首相やオーストラリア首相からも称賛の声が上がっている。彼自身も銃撃を受けて重傷を負い、病院で治療を受けているという報道がある
駆けつけた警察は橋上で犯人と交戦し、50歳の男を射殺、24歳の息子を拘束した。二人はシドニー西部に住むオーストラリア国籍の親子で、使用した銃器は父親の名義で合法的に登録されていた。また車両からは即席爆発装置が見つかり、銃撃と爆破を組み合わせた計画的テロであったことが明らかになった。
死者は十数名、負傷者は四十名を超えた。これはオーストラリア現代史において最悪規模の反ユダヤ主義テロである。
だが、この事件の根はもっと深いところにある。世界の情報空間そのものが、静かに腐食しているのである。
2️⃣本当の敵は“情報の歪み”だ──ハマス劇団、中国の工作、そして大学の崩壊
私自身は、この事件の背景には、ガザ戦争の情報戦もあると見ている。ガザ戦争を語る上で、まず押さえておかなければならない前提がある。
それは、イスラエルは国際社会に認められた主権国家であり、ハマスは国家ですらないテロ組織であるという事実だ。
| ハマスはイスラエルを奇襲 ハマスのミサイル攻撃を受けたイスラエル中部のアシュケロン |
ハマスは住民を盾にし、学校や病院を軍事利用し、イスラエルの民間人を虐殺した。これらは国際法に照らしても紛れもないテロ行為だ。しかし、世界の多くのメディアはこの本質をあまり伝えず、イスラエルを一方的な加害者のように扱った。こうして“イスラエル悪玉論”が世界中で膨れ上がった。我が国も例外ではない。
その背景では、ハマスが巧妙な“舞台演出型プロパガンダ”を展開していた。瓦礫の前で泣き崩れる子ども、その背後には撮影班。爆撃直後とは思えぬほど整えられた現場。救急車よりも早くSNSに投稿されるドローン映像。テレビ中継のように整った動画。こうした巧妙な演出が積み重ねられたため、イスラエルの識者は皮肉を込めてこれを「ハマス劇団」と呼んだ。悲劇を“作り”、世界の感情を操るための情緒的な情報戦である。
しかも、ハマスの誤射や内部爆発であっても、それを「イスラエル軍の攻撃」と偽って世界に拡散することが繰り返された。世界の多くのメディアは検証もせず、これを報じた。こうして世界の世論の九割が「イスラエルが悪い」と誤認する異常事態が起きたのである。
さらにこの歪んだ情報空間には、中国の組織的な影響工作が乗った。中国系ボットネットは英語圏SNSに反イスラエル・反米の投稿を大量にばらまき、世論を分断させ、西側社会の統合を弱める方向に誘導した。ガザ戦争は中国にとって“西側の結束を揺さぶる絶好の舞台”であった。
この情報環境は、アメリカの大学をも狂わせた。名門大学で反ユダヤ運動が暴走し、ユダヤ人学生が教室に入れず、図書館に近寄れず、構内ではハマスのスローガンが叫ばれた。教授の中にはハマスを「抵抗」と美化する者までいた。情報の歪みが若者を狂わせ、彼らを“テロリスト支援の側”に立たせたのである。
この一連の流れを見れば、シドニーの親子の犯行は、孤立した狂気ではなく、歪んだ世界世論が生み出した“必然の帰結”であったと言える。私はそう見ている。
そして、情報戦の怖さは国家だけでなく、個人にも向けられている。
SNSで流れてくる映像を確かめずに拡散する。怒りのままに非難を書き込む。
その軽率な行動一つひとつが、ハマスに利用され、結果として“テロリストの宣伝”になってしまう。誤解がないように付け加えておくが、無論本当の悲劇もあったが、演出によるものもあったのは間違いないだろう。そうしてイスラエルのプロパガンダもあっただろう。しかし、イスラエルだけを悪玉にするというのは問題だ。戦争中には両サイドからブロパガンだが流れることを前提としなければならない。その前提が崩れたのである。
現代は、個人の無自覚さが暴力を呼び込む時代に入ったとも言える。
3️⃣日本は本当に安全なのか──問われる国家と個人の覚悟
| 東京渋谷の雑踏 |
ここまで見てきた構図を冷静に照らし合わせれば、シドニー銃撃事件は決して「遠い国の悲劇」ではない。
日本もまた例外ではないからだ。
東京には宗教施設が集中し、京都や大阪には世界中から観光客が押し寄せる。ソフトターゲットは全国に点在している。さらにSNS空間には国外発の偽情報がすでに流入しており、日本も情報戦の渦中にあると言える。
オーストラリア政府は事件発生直後、迷うことなく全国レベルで警備態勢を引き上げた。
危機に対して国家がどう動くべきか、その一つの模範を示した。
一方で日本はどうだろうか。
同規模の脅威が迫ったとき、はたして即応できるのか。
胸を張って「できる」と言えるだろうか。
シドニー銃撃事件は、西側社会の脆弱性、情報戦の恐ろしさ、メディアの歪み、そして国家と個人の覚悟の欠如が生んだ悲劇であった。ここでも誤解なきように付け加えておくが、これは、SNSでの政府批判を防げよなどという主張などとは別次元の問題である。言論の自由は尊重されるべきだが、虚偽が真実にすり替わり、人々が極端思想に呑み込まれ、暴力が正義の仮面をかぶった結果が、あの血塗られた夜だった。これらは、厳格に区別されるべきだろう。
これは日本の未来の“予告編”である。
治安という国力を守り抜く国家になるのか。それとも西側の混乱と同じ道を歩むのか。
その選択は、今まさに我々に突きつけられている。
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