まとめ
- 今回のポイントは、米国が南米と西太平洋の両面で中国の“裏の生命線”を断ち、日本を東側の柱として固定しつつある現実である。
- 日本にとっての利益は、日米同盟の抑止力が過去最大級に高まり、中国の一方的な圧力に巻き込まれず主導的に地域安定へ関与できる地位を得たことだ。
- 次に備えるべきは、南西諸島の防衛力と監視体制の強化、そして中国の曖昧戦術に屈しない“実効的な抑止力”を国家として整えることである。
1️⃣南米で始まった“裏ネットワーク切断作戦”
ベネズエラの密輸網は、麻薬の流通と石油取引が絡み合い、中国やロシアの裏資金とも結びつく複雑な“闇の経済回路”となっていた。これを放置すれば、国家の根幹に関わる危険が拡大する。米国が投入したのは海軍特殊作戦部隊(SEAL)、特殊船舶部隊、160th SOAR(ナイトストーカーズ)などの精鋭であり、USCGが法執行権限を用いて押収を実行した。
軍事行動と法執行が完全に統合された今回の作戦は、米国が国家を脅かす勢力には軍で対処する意思を明確に示した出来事である。
中国は南シナ海で“海上民兵”を動員し、民間船を装って軍事行動を行う戦術を展開してきた。しかし米国はベネズエラで、「民兵であろうと偽装船であろうと、国家に脅威を与えるなら軍で叩く」という姿勢を、行動によって証明した。これは中国に向けられた明確な牽制でもある。
2️⃣西太平洋で起こる“前例なき軍事再配置”
南米での作戦と並行して、米国は西太平洋でもかつてない規模の軍事展開を進めている。2023年後半から2024年にかけて、複数の空母が同時展開する状況が常態化した。最新鋭フォード級(CVN-78)が太平洋に姿を見せ、カール・ビンソン(CVN-70)は第七艦隊での展開を拡大した。
2024年後半にはジョージ・ワシントン(CVN-73)が改修明けとしては異例の速さで横須賀に復帰し、第一列島線に“常設空母”が戻った。
2025年には、America級強襲揚陸艦「Tripoli(LHA-7)」が佐世保の前方拠点に入り、F-35Bを主力に運用する“軽空母級戦力”が西太平洋の即応戦力となった。大型空母と軽空母の二段構えで中国を睨む構図が強まり、日米同盟の抑止力は飛躍的に増した。
さらに最新鋭Virginia級原潜が2025年半ばからグアムに常駐するようになり、太平洋深海で中国の潜水艦行動や海底ケーブル網を常時監視できる態勢が整えられた。
米国は南米では中国の資源供給ルートを断ち、西太平洋では軍事・通信ルートを封じるという、二方向同時の圧迫戦略を現実のものにしている。
3️⃣高市発言、中国の反応の背景と日本の進むべき道
このような国際状況の中で、高市早苗首相の国会での発言が中国の過剰な反応を呼んだ。だが高市発言の内容は、従来の日本政府の立場――「台湾有事は日本の安全保障に重大な影響を与える」――を丁寧に示したにすぎない。挑発でも、政策の転換でもない。
にもかかわらず、中国は厳しい姿勢を取り、自衛隊機へのレーダー照射、渡航制限など、具体的な対抗措置に踏み込んだ。これは、高市発言そのものに怒ったのではなく、米国の二正面戦略の中で日本が“東側の柱”として固定されつつある状況に対する反発である。
中国は日本を叩くことで、米国に向けて「これ以上包囲網を固めるな」「太平洋と南米の二方面で同時に中国を追い詰めるな」というメッセージを送っているのだ。
しかし、この現実は日本にとってむしろ好機である。米国が日本を東側の要石として位置づけていることは、日本の戦略的価値が世界で高まっている証拠であり、日米同盟の信頼性もかつてないほど強固になっている。
日本は前方基地としての能力を高め、南西諸島を中心に監視能力と防衛インフラを整備し、中国の“民兵を装った軍事行動”に対しても、実効的な抑止を発揮できる国家へと変わる必要がある。
加えて、インド太平洋における情報・監視の中心としての役割を担うことで、日本は地域の安定に貢献する存在となる。
米国の怒りの本当の矛先はマドゥロではなく、中国の覇権構造そのものである。米国は南米と西太平洋という地球規模の二正面から中国を追い詰め、中国は日本を利用して米国の動きを弱めようとしている。しかし、日本にとっては国際秩序の中心に立つ絶好の機会だ。
日本が前方拠点国家としての力を磨き、中国の曖昧戦術に屈しない強固な抑止力を備える国家へと進化できるかどうかが、これからの十年を決めるのである。
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