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2018年12月6日木曜日

【コラム】文大統領専用機はなぜ米国で給油できなかったのか―【私の論評】文在寅は、米国による北朝鮮制裁の韓国への厳格な適用の事実を隠蔽しようとした?


朝鮮日報

チェコを訪問した文大統領

文在寅(ムン・ジェイン)大統領はチェコ・アルゼンチン・ニュージーランドの3カ国を訪問し、おととい夜帰国した。8日間にわたる海外歴訪だ。アルゼンチンは韓国のちょうど地球の裏側に当たる位置にある。これを対蹠点という。韓国から地球の中心に向かって井戸を最後まで掘っていくと、アルゼンチンに達する。

 ところが、1つ謎がある。文大統領はなぜチェコに行ったのだろうか。あいにくチェコには同国の大統領もいなかった。あるじのいない家に客が立ち寄ったのだ。あるじのいない家になぜ行ったのか。当初は、文大統領のチェコ訪問目的は「原発セールス」だと言っていたが、後に「原発は議題ではない」と言葉を翻した。苦しいことこの上ない。チェコ大統領はいなかったので当然会えず、代わりに首相に会ったが、それもチェコ側が要請して「非公式面談」として処理された。あるじのいない家に招待状もなく立ち寄ったので、公式の外交記録に残すのはやめようという意味だ。その過程で、文大統領歴訪のニュースを伝える韓国外交部(省に相当)公式英文ツイッターに、チェコを26年前の国名「チェコスロバキア」と誤記する恥までかいた。

 右往左往しながら言葉を翻したあげく、政府はついに「専用機の中間給油のため」と言った。文大統領専用機の空軍1号機は油を入れる場所がなくて、あえてチェコに行かなければならなかったのだろうか。当初は給油地として米ロサンゼルスを検討したが、直前にチェコに変えた。もしそうなら、文大統領が乗った空軍1号機は米国に着陸できない事情でもあるのだろうか。本紙社説も「本当に公表できない極秘の事情でもあったのか非常に気になるところだ」と書いている。

 では、文大統領と空軍1号機はなぜチェコに行ったのか。最大野党「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)前代表は次のように語った。「北朝鮮は首脳会談をタダでしたことがない。DJ(金大中〈キム・デジュン〉元大統領)の時もそうだったし、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の時もそうだった。MB(李明博〈イ。ミョンバク〉元大統領)も2億ドル(現在のレートで226億円)を要求され、MBが首脳会談を断念したことがあった。(文大統領は)先日送ったミカン箱の中に入っているのはミカンだけだろうか? (金正恩〈キム・ジョンウン〉朝鮮労働党委員長の叔父)金平一(キム・ヨンイル)が大使として駐在しているチェコに行ったのはなぜだろうか? 給油が目的だったと言っているが、それは正反対の飛行ルートではないのか?」

 すると、保守系野党・正しい未来党の李俊錫(イ・ジュンソク)最高委員が洪準杓前代表を批判した。「地球が丸いということを理解できていないある政治家が的外れなあら探しをした」というのだ。李俊錫最高委員は、仁川国際空港からチェコのプラハを経由してアルゼンチンのブエノスアイレスに行った場合は距離が2万75キロメートル、仁川空港から直接ブエノスアイレスに行った場合は1万9484キロメートルなので、500キロメートルほどしか差がないと言った。だから、「正反対の飛行ルート」という洪準杓前代表の発言は「的外れ」と言ったのだ。

 それなら、本当に文大統領が乗った空軍1号機はなぜチェコに行ったのか。トランプ大統領が乗る米大統領専用機は米空軍所属だ。管制塔コールサインも「エアフォースワン」だ。機長は空軍大佐で、乗務員も米空軍に所属している。トランプ大統領が乗る米大統領専用機は軍用機なので、海外歴訪時は米空軍基地に着陸する。シンガポールで行われた米朝首脳会談の時、金正恩委員長が乗ったエアチャイナは民間航空機なので民間国際空港のチャンギ空港に着陸し、トランプ大統領が乗ったエアフォースワンは空軍機なので軍事空港のパヤレバー空軍基地に着陸した。

 トランプ大統領が乗るエアフォースワンが米空軍機なのに対し、文大統領が乗る大韓民国空軍1号機は言葉こそ「空軍1号機」だが、実際には軍用機ではなく、民間から賃借したチャーター機だ。文大統領専用機は民間航空機なのだ。朴槿恵(パク・クネ)大統領が2014年末に大韓航空から1421億ウォン(現在のレートで約144億円)で5年間借りたものを文大統領がずっと使っている。ほぼ唯一、積弊(前政権の弊害)清算リストに載っていないのがこの「朴槿恵専用機」だ。文大統領専用機は管制塔コールサインも「エアフォースワン」ではなく、ただの「コードワン」だ。民間航空機だからだ。ならば、今年9月に北朝鮮の平壌に行った民間航空機・文大統領の「コードワン」はそれから6カ月間、米国に入国できない「制裁」に引っかかっているのではないか、という合理的な疑問が生じる。

民間航空機・文大統領の「コードワン」と同型機

 今年7月の南北統一バスケットボール競技大会に参加するため、韓国の選手たちが北朝鮮に行った時、空軍輸送機C-130Hに乗って行った。韓国のバスケットボール選手があえて軍用機に乗って行った理由は、民間機が北朝鮮を往復すればすぐに国際社会の対北朝鮮制裁に引っかかるからだった。

 さあ、韓国の当局者は答えなければならない。文大統領専用機、つまり民間機「コードワン」が米ロサンゼルスで給油せずにチェコで給油したのは、対北朝鮮制裁違反で米国に入国できなかったためではないのか。それとも別の理由があるのか。

キム・グァンイル論説委員

【私の論評】文在寅は、米国による北朝鮮制裁の韓国への厳格な適用の事実を隠蔽しようとした?

文大統領の外遊日程は先月27日から5泊8日でチェコ、アルゼンチンのG20首脳会議、最後にニュージーランド訪問でしたが、文大統領がG20首脳会議前になぜチェコを訪問したかで韓国メディアは騒いでいます。

ちなみに、文大統領がニュージーランドを訪問したときに、迎えたのは、首相でも、長官でもなく「海軍中佐」 だったというおまけもついてしまいました。

ニュージーランドを訪問した文大統領。迎えたのは、
首相でも、長官でもなく「海軍中佐」だった。

韓国中央日報や朝鮮日報は「文在寅大統領はG20首脳会議に出席するためアルゼンチンに向かう途中チェコに立ち寄ったが、これについて疑惑がいまだに収まらない」と報じています。

そこで文大統領のチェコ訪問に関わる疑問点を整理します。
①文大統領の訪問のチェコ側のホストはプロトコール上、ミロシュ・ゼマン大統領だが、同大統領はイスラエルを国賓訪問中で、文大統領がプラハ入りした時は不在だった。そのため、文大統領は28日、チェコではアンドレイ・バビシュ首相と会談している。 
②韓国政府は米ロサンゼルスで大統領専用機の給油をすると発表したが、10月中旬、急きょ変更され、給油目的のためチェコを訪問することになった。 
③韓国側は文大統領とチェコ首相との会談を「会談ではなく、面会」と説明してきたが、チェコ側の要請を受けて「非公式な面会」となった。両国間で訪問の綿密な準備がなかったことが伺える。 
④チェコ訪問の目的は政府の説明では「原発セールス」だったが、韓国大統領府は「原発は全く議題ではなかった」と弁明するなど、関係者の説明がコロコロ変更している。中央日報の先月29日報道では文大統領は韓国の原発の安全性をアピールしたという記事を流している。

韓国外務省は大統領のチェコ訪問を公表する時、チェコを旧名「チェコスロバキア」と表記するなど、初歩的外交ミスを犯しています。この記事の冒頭の朝鮮日報3日付の社説は「文大統領のチェコ訪問は本当に給油が目的だったのか」と報じ、疑惑視しているほどです。

一国の大統領の外国訪問でこれほど杜撰(ずさん)な準備は考えられないです。文大統領のチェコ訪問には「何かある!?」と韓国メディアが考えても可笑しくはないです。

そこで文大統領のチェコ訪問の「ナゾ」を考えてみました。直ぐに頭に浮かぶことは、チェコの首都プラハには文大統領の南北首脳会談の相手、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の叔父、金平一氏が北大使として赴任しているという事実です。

金平一大使(64)は故金日成主席と金聖愛夫人の間の長男で、金正恩氏の父親、故金正日総書記とは異母兄弟です。その上、政敵でもあったため、金大使は平壌の中央政界から追放され、欧州各地を転々とする外交官となりました。金大使の外交官キャリアは1982年、駐ユーゴスラビア武官時代から始まり、駐ハンガリー大使、駐ブルガリア大使、駐フィンランド大使、そして1998年から17年間余り駐ポーランド大使を務めた後、2015年から駐チェコ大使です。

金平一氏

すなわち、文大統領は金正恩氏の親戚が住んでいるチェコを急きょ、訪問したことになります。少なくとも、10月中旬までは予定ではありませんでした。給油地を変更し、ホスト国の大統領不在中という外交上異例の時、チェコを訪問しました。それほどチェコを訪問しなければならない理由が文大統領にあったことになります。

文大統領の金正淑夫人がプラハ城を見学中、文大統領は単独行動を取っています。そこで大胆に推測しました。文大統領は金平一大使とプラハ市内ないしはホテルで密かに会合したのではないでしょうか。目的は、①金正恩氏に依頼され、そのメッセージを伝言するか、②金大使を南北融和路線に加え、朝鮮半島の再統一を話し合うことでした。

①は非現実的ですが、問題は少ない、②は金正恩氏を困惑させるでしょうしし、ひょっとしたら、金正恩氏を激怒させるかもしれないです。

ちなみに、②は金平一大使を北朝鮮の暫定指導者にするといったラジカルなシナリオも考えられます。換言すれば、文大統領は金正恩氏の報道官ではなく、独自の南北再統一構想を描き、その線で動いているということになります。

この記事の冒頭の朝鮮日報の記事で、「今年9月に北朝鮮の平壌に行った民間航空機・文大統領の「コードワン」はそれから6カ月間、米国に入国できない「制裁」に引っかかっているのではないか、という合理的な疑問が生じる」とあります。

そこで、米国の北朝鮮に対する独自制裁について調べてみました。米国版のWikipediaを調べると、以下の記事がありました。
Sanctions against North Korea
この記事の中に以下のような文書がありました。
Also any aircraft or ship upon entering North Korea is banned for 180 days from entering the United States.
これを訳すと、「北朝鮮に入ったいかなる航空機も船舶も、180日間米国に入国できない」です。これによれば、民間であろうが、軍用機であろうが、北朝鮮に入った航空機は、180日間米国に入国できないことになります。

確かに、このような制裁が存在するのです。

平昌オリンピックでの北朝鮮選手団の移動には、韓国の民間航空会社アシアナ航空のチャーター便が使われました。そのためアシアナ航空がアメリカの独自制裁の対象になる恐れが指摘されましたが、韓国政府が側と事前に調整し、今回に限り認められました。

今回の文大統領のチェコ訪問が、米国の制裁にひっかかっためチェコで給油のためと仮定したとして、おそらく韓国政府は今回も米国側と事前に協議して、これを認めて貰おうとしたのですが、直前だったため調整が不可能だったのか、あるいは米国側が意図的にこれを認めなかったのかいずれかだと考えられます。そうして、私は後者のほうが可能性が高いと思います。

私としては、文大統領が金平一大使と密かに面談したという説よりも、こちらのほうがより筋が通ると思います。

現在、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は悪の帝国の一画である北朝鮮の番犬になり下がり、制裁破りともとられかねない言動を繰り返しています。トランプ大統領は北朝鮮を手なずけようとしているのですが、「しつけ」をしている最中に、横からエサを放り投げられたら激怒するのも当然です。韓国の銀行や企業に対して米国が制裁を発動する日も近いのではないでしょうか。これは、その前触れなのではないかと思います。

私は、米国との調整がうまく行かなかったので、焦った文大統領は、代替の他の給油地を探したのでしょうが、その時にチェコが浮かんだのではないかと思います。
他ならぬチェコに行けば、北朝鮮の大使である金平一大使がいるので、何やらそれに関係した動きととられ、まさか米国の制裁にひっかかったとは思われないだろうと、世間体を考えて姑息な皮算用をしたのではないかと思います。そうだとしたら、最悪というか醜悪です。

朝鮮日報の記事も本当は、これを言いたかったのではないでしょうか。ただし、韓国は言論の自由があるようで、ないというのが実情ですから、言えなかったのでしょう。
やはり、米国は意図的に文大統領を米国内に入れなかったのだと思います。北朝鮮制裁を厳格に適用し、いずれこのような制裁が続く可能性を示唆したのだと思います。そうして、このやり方はなかなか良い方法だと思います。日本も、慰安婦問題や徴用工問題で、韓国に対してまずはこのような方式で、韓国に接するべきだと思います。その後徐々に圧力を強めていくという方式が良いと思います。
いずれにしても、文大統領のチェコ訪問の「ナゾ」は、朝鮮半島の政情が動いていく中で次第に解けていくことでしょう。

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2017年10月19日木曜日

「もっと経済制裁が強化されたら嬉しい」北朝鮮庶民から意外な声―【私の論評】北朝鮮制裁は富裕層を狙い撃ちせよ(゚д゚)!


金正恩
北朝鮮に対する国際社会の制裁圧力は、じわじわとその効果を表している。北朝鮮国内からはガソリンや食料価格の上昇が伝えられており、庶民の生活が心配される段階に入りつつある。

現在の北朝鮮の食糧事情は、かつてに比べ大幅に改善されている。ただ、国民経済のなし崩し的な資本主義化が進行し、貧富の格差が広がっている今、貧困層は食べ物などの価格がわずかに上昇しただけでも大きな影響を受ける。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

地方では餓死者発生の噂も出ており、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」の再発を懸念する声も出始めた。

(参考記事:「街は生気を失い、人々はゾンビのように徘徊した」…北朝鮮「大量餓死」の記憶

しかしその一方、北朝鮮国内の一部から、これとはまったく異なる反応が出ているもようだ。

中国は今年8月、安保理制裁決議2371号に基づき、北朝鮮産の石炭などの輸入を完全に禁止するとの通告を出した。これが北朝鮮庶民を大喜びさせている。その理由を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。

平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)の情報筋によると、制裁で契約が解除され中国に輸出できなくなった石炭が炭鉱地帯に山積みになっている。無煙炭は、政府、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)、国家保衛省(秘密警察)系の外貨稼ぎ機関などが独占していたが、輸出ができなくなったため、採掘権を一般の貿易会社にも与えるようになった。

石炭の価格は今年の初めごろまで1トンあたり90ドル(約1万円)だったが、今では17ドル(約1900円)にまで暴落。それでも中国の業者からは声がかからないため、外貨稼ぎ機関はほとんど中国から撤収したという。

こんな状況に「制裁さまさま」だと大喜びしているのが、北朝鮮の一般庶民だ。例年なら越冬準備に入る今頃は石炭価格が上がるが、今年は行き場を失った石炭が国内で大量に流通しているため、価格が暴落している。

ヌクヌクと冬を越せそうだと喜ぶ庶民は「制裁がもっと強化されたらいいのに」と喜んでいるという。北朝鮮当局がいかに人民の暮らしを犠牲にして飢餓輸出を行っていたかのあらわれだろう。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の庶民も、石炭価格の暴落で温かく冬を越せそうだと喜んでいると現地の情報筋が伝えた。こちらでは1トン250元(約4250円)から150元(約2550円)に暴落した。また、それに合わせて薪の価格も下落した。

昨年12月に中国当局が北朝鮮からの海産物の輸入を一時的に停止させた時には、北朝鮮の国内市場に大量のサケ、マス、カレイなど普段なら手が届かない高級魚が安値で入荷し、庶民の胃袋を大いに満足させた。同様の現象は、中国当局が北朝鮮産海産物の輸入を完全禁止した今年8月にも起きたと情報筋は伝えた。

このような状況に対して、庶民は「朝鮮労働党より、国際社会の制裁が人民の暮らしを助けてくれている」と喜ぶという皮肉な状況に陥っている。

(参考記事:「米軍が金正恩を爆撃してくれれば」北朝鮮庶民の毒舌が止まらない

【私の論評】北朝鮮制裁は富裕層を狙い撃ちせよ(゚д゚)!

北朝鮮に対する経済制裁はそれなりに成果をあげているようです。そうして、上の記事にあるように、中国が北朝鮮産の石炭を輸入しなくなってから、北朝鮮国内で石炭が安くなり、庶民にとっては良い結果も招いているようです。

このような経済制裁はかえって北朝鮮の一般庶民には幸いしているようです。北朝鮮は中国に石炭などの地下資源を売り、その代金で石油や食料、それに核やミサイルの開発に必要な物資を調達しています。この制裁は、ボディーブローのように北朝鮮に対して徐々に効いてくることでしょう。

次に、中国が食料の輸出を止めると北朝鮮は本当に困窮するのでしょうか。ブログ冒頭の記事では、「現在の北朝鮮の食糧事情は、かつてに比べ大幅に改善されている」としています。全くその通りです。

これについては、以下の記事を参照していただくと良くわかります。
統計データから見えてくる北朝鮮の意外な食料事情
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、FAO(国連食糧農業機関)などのデーターからこの記事では、以下のような結論を出しています。
FAOデータを基に考えると、北朝鮮の食料事情は次のようになる。 
(1)1人当たりの穀物供給量は220キログラム程度であり、それほど豊かではないが飢餓に苦しむレベルでもない。穀物を腹いっぱい食べることはできるが、飼料がないから肉はほとんど食べられない。牛乳もたまにしか飲めない。 
(2)ソ連が崩壊するまでは、農産物の輸出が可能な状況にあった。食料に困るようになったのはソ連が崩壊してからである。現在の状況は1990年代よりも良いが、食料をほとんど輸出していないことから、ソ連崩壊以前の状態には戻っていない。 
(3)北朝鮮は食料をほぼ自給している。人々は貧しい食事に慣れていると思われるから、禁輸による兵糧攻めを行っても、政権に大きな打撃を与えることはできないだろう。
北朝鮮では、穀物などは何とか自給自足できているようです。だから、兵糧攻めはできないということです。

しかし、確かに一般庶民に対しては兵糧攻めができないものの、様々な食料の輸出を止めれば、金一族をはじめ、北朝鮮のいわゆる幹部や富裕層に対しては兵糧攻め等ができるかもしれません。

食料でも、贅沢なものたとえば、肉、牛乳など、あるいは他の高級食材・飲料などを禁輸すれば、北朝鮮の富裕層には打撃でしょう。酒や、清涼飲料数その他必需品と思われるようもの以外を禁輸すれば富裕層にとっては打撃です。

吉林省長春市の北朝鮮レストラン
石油をある程度禁輸すれば、一般庶民は、石炭で暖を取れるのであまり不便や不自由を感じないですが、富裕層は暖房などの設備を石油から石炭に変えなくてはならなくなります。これはとても不便なことなので、石炭を燃料とするためには、人を雇わなければならなくなります。そうなると、北朝鮮の一般人民の雇用が増えることになります。

そうして、石油が値上がりすれば、富裕層は自家用車を動かすことができなくなりますが、自家用車を持たない庶民にとってはあまり影響はありません。ただし、バスなど庶民の使う交通機関にまで影響が及ぶまでにはしないようにすべきです。

このようにして、庶民にとっては、あまり影響のないように、北朝鮮の生活水準を落としていけば、庶民にとってさほど影響がないものの、富裕層には影響がでるような禁輸をどんどん実行していくべきです。

北朝鮮の一般住民は、慢性的な食糧難に苦しんでいますが、一方、平壌の富裕層は、一般住民とは別世界の住民のように、各種娯楽施設を楽しみ豪華な生活をしています。なかには、わずか一時間に一般労働者の平均賃金の25倍もの大金を払って、スポーツを楽しむ女性も少なくないです。

北朝鮮のプールでくつろぐ女性
金正恩体制になって新しくオープンした文殊(ムンス)ウォーターランドやクムヌン体育館を、北朝鮮当局は『人民のための体育文化施設が素晴らしく出来上がった』と大々的に宣伝しましたが、内実は富裕層のためのものに過ぎないです。文殊ウォーターパークも入場料が高く、とても一般住民が気軽に行ける遊び場ではありません。

これはいわば富裕層御用達のスポーツクラブのようなものです。スポーツクラブで1時間に7ユーロを支払い、高級レストランやカフェで、その数倍の金額を支払って優雅な時間を過ごします。その財力は、今の北朝鮮の経済事情から見ると想像以上です。
富裕層の女性たちが、スカッシュ1時間で支払う7ユーロは、北朝鮮の一般労動者の平均賃金(3000ウォン)の25倍。コメ価格に換算すると15キロ(1キロ=5000ウォン)だ。
北朝鮮の屋内プール
彼女たちの多くは、朝鮮労働党高級幹部や外貨獲得の貿易会社社長など、羽振りのいい会社の妻たちです。また、大規模な貿易や商売で一発当てたトンジュ(金主)と呼ばれる新興富裕層も多いです。平壌の中区域や牡丹峰区域の高層アパートなどで豪華な生活をしてます。

夕焼け空に映える平壌市中区域万寿台地区・倉田通りの近代的な高層マンション群
このような生活をしている、富裕層が中国などの禁輸措置により、北朝鮮の一般庶民と同じような生活をしいられたら、どうなるでしょうか。とても耐えられないと思います。

北朝鮮の富裕層は、国際社会による経済制裁下においても、不自由のない生活を維持していると伝えられています。とくに、金正恩党委員長との距離が近ければ近いほど、その傾向は顕著のようです。

2013年に開設された北朝鮮のゲームセンター
とはいえ、いくら金持ちであると言っても、そうした人々が海外で目立つようなことはほとんどありませんでした。サイトで検索してみても、北朝鮮の富裕層の生活ぶりはほとんどでてきません。たまに彼らが海外に出ることはあっても、その動きが北朝鮮ウォッチャーに伝わるのは、彼らが帰国したずっと後のことであるケースがほとんどでした。

ところが最近、北朝鮮富裕層の子供たちと思われる若者のグループが、中国の地方都市で優雅な暮らしを送る姿がリアルタイムで補足されるようになりました。それも数人とか十数人ではなく、200人もの若者たちが中国へ出てきているもようなのです。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は北朝鮮と国境を接する中国・丹東市在住の朝鮮族の情報筋の話として、次のように伝えています。
今年の3月初め頃から、瀋陽にある北朝鮮領事館の近辺と丹東の高級住宅街で北朝鮮の若者をよく見かけるようになった。中国が北朝鮮への経済制裁を強化しているにも関わらず、彼らは現金を湯水のように使い、地元で自然と注目を集めるようになった。
情報筋によれば、丹東にいる若者たちが暮らすのは、最近開発された商業施設と一体型の高級マンションで、建物1階にある彼らのオフィスは70坪もあります。中国のちょっとした金持ちでもなかなか手の出ない物件だというのですが、別の見方もあります。中国の複数の不動産サイトによると、このマンションの3LDKの1ヶ月の家賃は1600元(約2万7000円)前後で、市内中心部に比べるとかなりお手頃です。

また瀋陽市在住の情報筋によれば、
北朝鮮領事館の周辺には10代後半から30代半ばに見える北朝鮮の男女が百人ほども固まって暮らしている。今年の初めまでは10人ほどだったのが、6月初めから急に人数が増えた。皆が洗練されたスーツ姿で、普通の北朝鮮の人々とはかなり違って見える」と言います。
一方、中国に派遣されている北朝鮮のある駐在員はRFAに対し、「今年の6月から瀋陽と丹東に出てきた若者たちは、中央の最高位クラスの幹部の子供たちだ。瀋陽と丹東に合わせて200人ほどがいるようだ」と説明したといいます。

これに関しては、「米国の攻撃に備えた避難か」という見方もありますが、私自身はそれだけではないと、思います。

これは、そろそろ富裕層に制裁の影響がでてきたという兆候でもあると考えられます。特に貿易などで富を手に入れた、富裕層が今後北朝鮮では今までの生活水準は維持していけないと考えて、子どもたちを避難させ、その後に自分たちも避難しようと考えているのではないかとも推測されます。

そもそも、北朝鮮ではまもなく、まともな教育を受けさせることも困難になります。特に、貿易関係などで富裕層になった人々にとっては、北朝鮮にとどまり続ける理由がなくなります。

北朝鮮への制裁は、あまり効き目がないともいわれていますが、そろそろ影響がでてきたようです。そうして、石炭の禁輸にみられるように、庶民にあまり影響の出ない制裁方法をとれば、庶民をあまり苦しめることなく、富裕層に対して相当苦しい制裁が可能だと思います。

ここは、世界中で知恵を絞って、そのような制裁をどんどん進めていけば、かなり富裕層にとって効き目のある制裁ができるはずです。

次の段階では、金融制裁も実施すべきでしょう。一般庶民にはほとんど影響はなく、富裕層にだけ大打撃のある制裁もあるはずです。

このような制裁を強化していけば、北朝鮮からは富裕層は消え失せるかもしれません。そのときには、金正恩は自らも生活水準を維持することができずに、北朝鮮を脱出しなければならなくなるかもしれません。その時が北朝鮮の体制を崩壊に導くチャンスです。

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