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2019年1月22日火曜日

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを ―【私の論評】日本は英国のTPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを 
高橋洋一 日本の解き方

英メイ首相

英国議会で、欧州連合(EU)離脱案が大差で否決された。今後、どのような影響が出てくるだろうか。

 英国のEU離脱は2016年6月23日に国民投票が行われ、僅差で決まった。

 そもそも英国は、貿易取引ではEUに加盟して有利な条件を受ける一方、ユーロに加盟せずに独自通貨のポンドで金融政策の自由度を確保するという「究極のいいとこ取り」であった。このため、筆者はそもそもEU離脱には懐疑的だったが、もはや時間は戻せない。

 国民投票の結果、英国のEU離脱の期限は3月末となった。ただし、行政機関や企業などが混乱しないように20年12月末までは「移行期間」として現行の諸法制が適用されるとされていた。

 そのためには、英国とEU間で離脱条件などが合意される必要がある。EUとの合意を前提として英国に有利なソフト・ブレグジットか、EUに有利なハード・ブレグジットのどちらになるかが関心事であった。

 今回、英議会が離脱案を否決したので、英国とEU間の合意の可能性はかなり遠のいた。つまり、「合意なき離脱」ということになりそうだ。この「合意なき離脱」ということになると、英国には打撃が大きい。

 EUのユンケル欧州委員長は、「もうすぐ時間切れだ」とし、「無秩序な離脱のリスクが高まった」と述べ、英国国内での意見集約を促している。

 しかし、英国のメイ政権ではいかんともしがたい状況だ。英議会でEU離脱案が大差で否決されたので、コービン党首率いる労働党が提出した内閣不信任案は否決されたが、英国内の政治が混乱したまま時間が過ぎ、3月末の期限を迎える公算が高い。

英政府は、その場合、国内総生産(GDP)を8・0~10・7%押し下げるという予測を昨年11月に出した。イングランド銀行は3~8%、国際通貨基金(IMF)は5~8%のマイナス効果になるとみている。

 具体的には、製造業で欧州から受け入れてきた労働者が不足して生産不足に陥る可能性が高い。金融業でも、適用ルールの不明確さから企業活動に混乱が生じかねない。こうした「合意なき離脱」による経済活動への悪影響はいうまでもなく計り知れない。EU側で、離脱の期日延期が検討されていると報じられているのもこのためだろう。

 筆者は、かつての本コラムで、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があると書いている。その当時は「合意ある離脱」が前提であり、英国政府の予測ではGDPに与える悪影響は、3・6~6・0%であった。今は、「合意なき離脱」を覚悟せざるを得ない状態であり、そのインパクトは2倍程度だろう。であれば、まさに、リーマン・ショック級になるのは避けられない。

 日本として政策総動員を準備すべきだ。実際のリーマン・ショック時は、「ハチに刺された程度」と楽観視し適切な政策が打てずに、大混乱したことを忘れてはいけない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本は英TPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

英国が欧州連合(EU)と合意したEU離脱案の採決は、保守党内から大量の造反者が出て、432対202という歴史的な大敗北となりました。

強硬離脱派も、残留派も反対し、労働党からは内閣不信任案が出されました(下院で否決)。EU側は当然ながら失望を表明し、メディアでは「合意なき離脱の可能性が高まる」との見出しが踊っています。

しかし、英ポンドはそれにも関わらず売られていません。「合意なき離脱」の可能性が高まっているのであれば、英ポンドはもっと売られていて良いはずです。つまり、表向きの混乱とは裏腹に「合意なき離脱」の可能性はやはり低いのです。そして今後ますますその可能性が低いことが明らかになっていくでしょう。

英ポンドは市場で売られていない

離脱案が否決されたので、メイ首相は3日以内(1月21日)に代替案を出すことになっているが、この代替案もどうなるかわからないです。

とはいえ、今後は野党の労働党との折衝が始まります。その中で、与野党の多くの議員はソフトな離脱案か再度の国民投票を希望しており、強硬離脱派はあくまで少数意見ということが明らかになってくるでしょう。

そして、万が一「合意なき離脱」の可能性が高まった場合、多くの議員は一致団結してそれを阻止するということがはっきりしてくるでしょう。

つまり、双方の多数派である労働党と保守党の穏健派が合意して超党派的な連合ができれば、簡単に終わる問題なのです。

ところが、そこに英国の政治事情が絡むので、スッキリとは進まないでしょう。メイ首相の頑な態度が、すんなりと合意に向かう道を閉ざしているとも言えるし、態度をはっきりさせないコービン党首が障害になっているとも言えます。

労働党は、結局どうしたいのか、はっきり態度を表明しなければならないです。ソフトな離脱案で行くのか、それとも再度の国民投票を行うのかです。それがはっきりすれば、超党派の連合も形成しやすくなるでしょう。

私は、ソフトな離脱案が結局成立する可能性が6、7割、再度の国民投票の可能性が3、4割と見たいです。個人的には「合意なき離脱」に至る確率は低いとみています。

現在、外国為替市場で少しずつ英ポンドが買われ始めているのは、結局「合意なき離脱」という選択肢が消えて、英ポンドが再評価され買い戻される、その動きを先取りしつつあるのでしょう。

英ポンドは極めて安い水準に放置されていたので、戻り始める(価値が上がる)とかなりのポテンシャルがあります。そして、「合意なき離脱」の選択肢が消えることは、この(2018~19)年末年始に不安定化していた市場に安心感を取り戻すことになるでしょう。

市場は過度な悲観にさらされていましたが、過度な悲観からの巻き戻しが今後、起こる可能性が高まっているのかもしれないです。

国旗を掲げながらブレグジットを支持するデモ隊

さらには、英国のTPP加入の可能性も高まっています。英国は、TPP参加を表明しています。英国のフォックス国際貿易相はロンドン市内で講演し、英国が欧州連合(EU)を離脱した後に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を目指す意向を表明しました。

メイ首相はこれまで離脱後にEU以外の第三国との自由貿易協定(FTA)を締結する方針を示していましたがTPPは一国帯一国の交渉で決めるFTAではありません。TPPは貿易だけでなく投資や知的財産など多くの協定がすでに決まっていて加盟をすればTPPルールを守らなければならないです。

TPPの性質はFTAではなくEUに近いものです。FTAは相手国との貿易について自由に交渉できますがTPPはできないです。EUを離脱する英国がTPPに参加するというのは矛盾しているようにもみえます。

なぜ、EUを離脱する英国がTPPに参加しようとしているのでしょうか。それはEUとTPPは協定の性質が違うからです。

EUはEuropean Unionの略称であり、欧州連合のことです。2013年7月にクロアチアが加盟したことにより以下の28か国が欧州連合に加わっています。

IMFによると、2010年の欧州連合のGDPは16兆1068億ドル(約1300兆円)です。米国のGDPをやや上回っており、世界全体の約26%を占めています。

欧州連合には最高意思決定機関があります。全加盟国の政府の長と欧州委員会委員長、及び大統領にも相当するとされる常任議長による欧州理事会です。

欧州連合の市場は統合されています。外交・安全保障分野と司法・内務分野での枠組みが新たに設けられ、ユーロの導入によって通貨も統合されています。欧州議会の直接選挙が実施されたり、欧州連合基本権憲章が採択されています。

ただし、ブログ冒頭の高橋洋一の氏の記事にあるように、英国はこのユーロは用いていません。そのため英国独自で金融政策を行うことができます。

EU加入国(青)と加入する可能性がある国(緑)

第二次大戦後に急激に社会主義国家圏が拡大していきました。ヨーロッパの社会主義圏の拡大を防ぐためEUは資本主義経済圏の民主主義国家の連合を結成したのです。

1991年にソ連は崩壊し、強大な社会主義国家圏は消滅しました。EUを強固しなければならない根拠となっていた社会主義圏が消滅したためにEUの国家間の矛盾が表面化していきました。

政治は本質的にローカルであるグローバルではありません。国によって生活や経済の程度に差があります。GDPに差があるし国家予算にも差があります。どうしても政治的な対立は生じることになります。

ソ連が存在していた時は対立を我慢していたが、ソ連が崩壊すると対立にが表面化していったのです。この対立を調整するのがEUの課題となっていき、英国はEUを離脱を決意したのです。

英国のEU離脱と米国のトランプ大統領のアメリカファーストをきっかけに、米国や英国だけでなくヨーロッパの多くの国々で反グローバル化の動きが広がっているとマスコミや評論家が指摘しています。

政治はローカル=反グローバルであり、経済はグローバルです。政治と経済は密接に関係していますが、二つの本質的な性質の違いを区別しなければならないです。区別しないから反グローバルを安易に政治目的に使うようになってしまったのです。

格差や貧困が原因で国外に出た難民を受け入れるかどうかを決断するのは政治です。難民を受け入れるか否かを決めるのはそれぞれの国の経済力や国民性が左右するからです。それは政治であり、ローカルな問題なのです。

EUがソ連圏に対抗した政治優先の連合であるのに対して、TPP11は経済優先の連合です。それがEUとTPPの根本的な違いです。そもそも、EUはソ連が存在しなければ結成されなかったかもしれません。

1988年ソ連ではじめてミスコンが行われたときの写真

EUは社会主義国家と対峙した連合でしたから社会主義国家は参加できません。しかし、TPP11は違います。TPP11は社会主義国家であるベトナムが参加しています。このことからもEUとTPP11が性質の違う協定であることが分かります。TPP11は政治ではなく経済を中心とした協定なのです。

EUから離脱した英国がTPP11に参加するのはTPP11がEUのような政治協定ではなく経済協定だからです。

TPP11は政治的にはそれぞれの国が独立しています。EUで問題になっている難民受け入れはTPP11加盟国のそれぞれの国が自由に決めるのであってTPP11全体の問題にはなりません。

このように、TPP11は人類史上初めての新しい協定です。こういうと誇大な表現と思われるかもしれませんが、そうではありません。

EUも国際連合も政治を中心とした連合です。経済も問題にするが優先しているのは政治です。それに比べてTPP11は経済を中心にした連合です。このような連合は、過去にあってもよさそうですが、このような協定はありませんでした。

世界は第二次世界大戦までは戦争の連続であり、帝国主義の世界でした。戦後は議会制民主主義国家圏と社会主義国家圏の対立が続きました。まさに、世界の歴史は、政治対立の歴史であったのです。

ソ連が崩壊し、独裁国家も減り、議会制民主主義国家が増えていきました。政治対立、戦争が少なくなったアジア、環太平洋地域だからこそTPP11が誕生したのです。

英国がTPP参加を表明しましたが、TPPの正式名称は、環太平洋パートナーシップです。名称からすれば環太平洋の国ではない英国は参加できないことになります。しかし、英政府はTPPの参加条件に地理的な制約がないことを確認しています。

それに日本の茂木敏充経済再生担当相も、英国の参加が可能との見解を示しています。経済は政治と違い本質的にグローバルです。TPPには世界のどこからでも参加できるのです。

このTPP11実現をリードしてきたのが安倍政権です。経済政策を重視する安倍晋三首相は「保護主義からは何も生まれない」として、自由貿易体制の維持に取り組んでいます。それがTPP11の実現であり、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の署名です。

メイ首相はEUとの離脱交渉で、「EUの関税同盟と単一市場から英国を離脱させ人の移動の自由を終わらせる」、「モノに関しては自由貿易圏を創設する」などの条件を掲げています。これに対し、人、モノ、金、サービスの四つの移動の自由を基本理念に掲げるEUは、メイ政権の提示条件が妥協的であると批判し、交渉は膠着状態に陥っています。

しかし、EUの本音は別のところにあるようです。

実はEUは、域内2位の経済力と最大の軍事力を誇る英国の離脱と、英国に追随する他国の動きを警戒し、英国を牽制しているのです。その顕著な例が、メイ政権のモノの移動の自由に関する条件を逆手にとり、アイルランド国境管理問題を持ち出し、北アイルランドがEUとの関税同盟に残留せざるをえないよう仕向けています。

つまり、北アイルランドに経済的国境を作るという圧力をかけ英国の提示条件を拒絶しているのです。ちなみに、英国とEUは2017年12月、地続きであるアイルランドと英領北アイルランドの物理的な国境管理(税関、検問所)を離脱後も復活させないことで基本合意した。

これに対し、メイ首相はEUに「合意なき離脱」という脅しをかけ、自らの離脱計画案の再考をEU側に求めています。仮にメイ首相の案をEUが飲んでも、あるいは合意なき離脱となった場合でも、英国国会で批准されるかどうかは不透明で、メイ政権は厳しい舵取りを余儀なくされています。

もともと英国はEU加盟に積極的ではありませんでした。EUの前々身であるEECにはフランス主導であることを理由に加盟を拒否し、EU加盟時には共通通貨のユーロを使わなかったことなどの事例がそれを物語っています。

自国に対するプライドもあるし、EU経済圏に入ることのメリットも少ないと考えていたようです。ただ、ヨーロッパ全体が一つの経済圏としての機能を持ち始めたため貿易の面で加入せざるを得ない事情があったようです。

しかも、英国はEUの盟主であるのなら離脱はなかったと思われますが、英国がEUの大統領を輩出しているわけでもないし、フランス、ドイツなどにリーダーシップを握られていることが面白くなかったわけです。

英国がリーダーシップを取れなかった理由は国内経済の低迷にあります。英国は国家の伝統ばかりを後生大事に抱えていてイノベーションができていなかったことに起因します。

英国国内の一部には離脱以降、世界経済の中で英国が新たな立ち位置を築くことができるのではないかとの期待もあります。しかし、その一方で、メイ首相の構想ではEUの規制から逃れられず、世界各国と自由にFTAを結ぶことができなくなると危惧する意見が出るほど国論が混乱しています。

いずれにせよ英国が歴史的な変化の前に苦悩していることだけは間違いありません。

先日の英経済紙フィナンシャルの一面に「英国のTPP加盟を歓迎する」との安倍首相のインタビュー記事が掲載されました。内容は「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する。英国は合意なきEUを回避するため妥協してほしい」「英国のEU離脱による、日本のビジネスを含むグローバル経済に対するネガティブなインパクトが最小化されることを心底願っている」というものでした。

「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する」という安倍総理の
インタビューを掲載したフィナンシャルの記事を報道する日本のテレビより

実際、英国の窮状を救うことができるのは日本だけかもしれません。TPP交渉で米国の離脱後も粘り強く推進してきた日本が、英国をTPPの枠組みに入れることでEU離脱後の英国経済の破綻を防ぐことができるものと考えられます。

さらに、TPPのもう一つの本質的な機能は中国包囲網の形成にあります。

TPPへの英国の加盟は、海洋国家の日米英の連携が一層強まり、中国政府と中国海軍による違法行為の封じ込めに役立つものとなります。英国は、インド太平洋地域にも英領西インド諸島を領土として持ち、ヨーロッパでも英国の領海、領有は広く、軍事戦略上きわめて有効です。

英国のTPP加盟はEU離脱後の英国経済のマイナス面を補うだけでありません。日本は積極的に英国支援に向かうべきです。そうして、英国のEU離脱によるリーマンショック級の悪影響が出ることを未然に防ぎ、今後も日英同盟を強化していくべきです。

ただし、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があるのは事実であり、日本もそれに備えるべきです。米国が対中国冷戦を実行し、英国がEU離脱し、世界経済に悪影響を与えるかもしれない今日、わざわざ消費増税などすべきではありません。財務省は、このような世界情勢を理解できないのでしょうか。だとすれば、大虚け者(おおうつけもの=虚けとはもともと、からっぽという意味であり、転じて虚け者とは、ぼんやりとした人物や暗愚な人物、常識にはずれた人物をさす)と呼ぶ以外にありません。

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