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2019年2月9日土曜日

【日本の解き方】ベネズエラめぐり米中が分断…冷戦構造を想起させる構図に 「2人の大統領」で混迷深まる―【私の論評】社会主義の実験はまた大失敗した(゚д゚)!

【日本の解き方】ベネズエラめぐり米中が分断…冷戦構造を想起させる構図に 「2人の大統領」で混迷深まる

ワシントンの在米中国大使館でスピーチする崔天凱駐米中国大使=6日

 南米のベネズエラで政情不安が続いている。マドゥロ現政権を中国とロシアが支持する一方、暫定大統領就任を宣言したグアイド国会議長を米国が支援する構図だ。

 かつては世界一の石油埋蔵量を誇り、豊かな大自然と莫大な富を抱え、「地上の楽園」といわれたベネズエラだが、昨年のインフレ率は100万%を超え、今年中には1000万%に達すると国際通貨基金(IMF)は警告している。食料や医薬品などが不足し、300万人ほどの難民が発生、コロンビアやブラジルなどの周辺国に逃げているようだ。

 経済学では、月率50%、年率1万3000%を超えるインフレをハイパーインフレと定義しているので、ベネズエラは正真正銘のハイパーインフレになっている。過去のハイパーインフレは五十数例とされるが、その多くはインフレ目標がないまま金融政策を行い、共産・社会主義体制の崩壊に伴って生じたもので、ベネズエラもその一例といえる。

グアイド暫定大統領(左)とマドゥロ現政権大統領(右)

 1999年に誕生したチャベス政権は、格差是正を目標にして「新しい社会主義国」を目指した。豊富な石油収入を財源とした医療、教育の無償化のほか、各種交付金など猛烈なバラマキ政策を実施した。

 2013年にがんでチャベス氏が死亡し、マドゥロ副大統領が引き継いだ。社会問題が解決できないまま、チャベス政権時代からの財政赤字が膨らみ、そのあげく中央銀行がカネを刷りすぎるという典型的なハイパーインフレになった。

 昨年5月に行われた大統領選挙でマドゥロ氏は再選されたが、その際、野党有力指導者を逮捕するなど対抗馬に妨害工作を行ったといわれている。これに対して反政府派や米国をはじめ諸外国が選挙の無効を主張、大統領不在だとしてグアイド国会議長を暫定大統領とした。

 この結果、ベネズエラには、チャベス前政権派のマドゥロ氏と反チャベス派のグアイド氏という「2人の大統領」がいるという異常事態になっている。

 「2人の大統領」に世界も割れている。マドゥロ大統領を支持しているのは、中国、ロシア、シリア、イラン、キューバ、トルコなど。グアイド暫定大統領を支持しているのは、米国、英国、欧州連合(EU)、カナダ、オーストラリア、ブラジルなど欧米諸国と南米諸国が中心だ。この分断は、かつての冷戦構造を想起させる。

 中国がマドゥロ氏を支持しているのは、07年から12年間で500億ドル(約5兆5000億円)以上の融資をつぎ込んでいるからだ。ここでマドゥロ政権が倒れれば、融資の返済に支障が出る恐れがある。

 一方、欧州諸国はグアイド暫定大統領を承認するだろう。中国などが内政干渉だと批判しても、ベネズエラの「2人の大統領」による政治経済の混迷がさらに深まることは避けられない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】社会主義の実験はまた大失敗した(゚д゚)!

活気ある新興市場経済を崩壊の危機に追い込むのに必要なものは、汚職と革命、そしてインフレーションの3つです。ベネズエラの国民は、これら全ての影響が時間をかけて国内に広がっていくさまを目の当たりにしてきました。

さらに国民は、カルロス・アンドレス・ペレスからウゴ・チャベス、そしてニコラス・マドゥロまで、何人もの「革命家」たちの数々の政策の失敗を目にしてきました。彼らはいずれも、天然資源も人的資源も豊富なこの国が崩壊寸前の状態に陥ったことに対する責任を負っています。

ドイツの社会学者で歴史学者でもあるライナー・ツィテルマンによれば、失敗した政策ばかりが並ぶベネズエラの「プレイブック」が採用されたのは、1970年代後半です。問題は国有化と労働市場に関する規制の波から始まったといいます。それは、「チャベスが政権の座に就き、事態を一層悪化させるよりずっと以前のことだ」。

労働市場の規制に大きな問題があったとするツィテルマンは、「賃金を除いた労働者1人当たりの人件費は、1972年には賃金5.35カ月分だった。それが1992年には同8.98カ月分にまで大幅に上昇した」と指摘します。ちなみに、人件費の中には、賃金の他、福利厚生費、厚生年金などが含まれます。

このプレイブックは、2度にわたって大統領となり(1969~74年、1994~99年)、価格統制や手厚い補助金の提供などを行ったラファエル・カルデラ・ロドリゲスと、その「奇妙な仲間たち」によって使われ続けました。彼らは原油価格を水より安くし、財政赤字をますます拡大させました。それだけではありません。外国の製造業者に有利になる為替管理制度も導入しました。

キューバのカストロ主義と、チェ・ゲバラやサルバドール・アジェンデの反米主義の一部を借りた現代版ボリバル主義(社会主義)は、ベネズエラ経済にさらなる問題を引き起こしました。

2013年に死去したウゴ・チャベス

2013年にチャベスが死去した後には、その後継者とされていたニコラス・マドゥロが新大統領に就任。酪農やコーヒー、肥料、靴などの生産、スーパーマーケットの事業などを相次ぎ国営化しました。だが、多くはその後、「縮小または完全に停止」しています。

原油価格が下落すると、事態は一層悪化しました。価格は2013年後半の1バレル当たり111ドルから、1年後には同57.60ドルまで急落。さらにその1年後には同37.60ドルとなり、2016年には同27.10ドル~57.30ドル(約2900~6200円)の水準で推移しました。

ツィテルマンによれば、「これにより、チャベスの社会主義政策の致命的な影響が決定的なものとなった。(ベネズエラの)システム全体が崩壊した。その他の国々でも明らかにされてきたとおり、価格統制はインフレと闘うための効率的な手段にはなり得ないだけでなく、事態を悪化させるだけだ」。

ベネズエラの急激なインフレはこうして始まり、「インフレ率は2016年、225%に達した。南スーダンを除いて、世界中のどこよりも高い水準となった」。

「中央銀行の内部報告書によると、2016年は国内総生産(GDP)が前年比マイナス19%となっていた。実質的なインフレ率は、恐らく800%近くになっていたと考えられる」

このような状況になれば何が起きるか、経済学者たちは嫌というほどよく知っている。ツィテルマンはさらに、次のように指摘します。

「人々は非常に安価で売られているものを買い、それらをため込み始める。また、繰り返し何時間も行列に並んでモノを買い、ずっと高い値段でそれらを闇市で売る」

「要するに、社会主義の実験が再び行われ、再び失敗したということだ。過去100年のほど間に行われたその他の全ての実験がそうだったように──」

国が崩壊の危機にひんする中で、ベネズエラの国民は多大な犠牲を払っています。

ベネズエラの現体制は堅固であり、指導者たちの顔ぶれを変える方が、体制を変革するよりも現実味があります。キューバはベネズエラにおけるキューバの覇権をより持続可能なものにするために、マドゥロよりは少しはましなリーダーに置き換えるかもしれないです。

しかしそれが民主主義への回帰を意味することはなく、外国が支配する、より安定した石油資源に巣くう泥棒政治をもたらすに過ぎないです。

たとえ野党勢力、あるいはアメリカ主導の軍事介入によって、全く新しい体制の政権が誕生しても、彼らが直面する課題は途方もなく大きいはずです。公共部門のあらゆる領域で、軍が果たしている大きな役割を縮小し、医療や教育、法執行の基本サービスをゼロから再構築しなければならないです。

石油産業を再建するとともに、他の経済部門の成長を刺激する一方で、麻薬ディーラー、刑務所で運営される恐喝ビジネス、略奪的な鉱山業者、金持ちの闇金融業者、そして国のあらゆる部分を食い物にしてきた略奪者を排除しなければならないです。しかもこうした改革のすべてを、無政府状態に近い政治環境と、深刻な経済危機のなかで遂行する必要があるのです。

こうした問題の大きさを考えると、ベネズエラは今後も長期にわたって不安定であり続けるでしょう。市民と指導者、そして国際社会にとっての目先の課題は、この国の衰退の余波を封じ込めることです。

悲惨な事態に直面しつつも、ベネズエラ民衆が失政に対する闘いをやめたことはありません。2018年夏の時点でも、人々は、依然として月に数百件の抗議行動に繰り出していました。

マドゥロ政権に反対するカラカスでのデモ参加者

その大部分は地域密着型の草の根運動で、政治的リーダーシップはほとんどないですが、それでも、これはベネズエラの民衆が、自分のために立ち上がる意志を強くもっていることを示しています。

だが、これだけで、ベネズエラが現在の厳しい状況から抜け出すのに十分でしょうか。おそらくそうではありません。絶望ゆえに、トランプが求める軍事介入を心待ちにする人は増える一方です。たしかにそれは、長い間苦しんできた人々が熱望するデウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)かもしれないですが、まともな戦略ではなく、報復という妄想に過ぎないです。

ベネズエラにとって最善の希望は、軍事介入ではなく、抗議行動や社会の反対意見の炎が完全に消えないようにし、独裁体制に対する抵抗が維持されることです。その見通しは絶望的に思えるかもしれないです。

しかしベネズエラの抗議の伝統が、いつか市民制度と民主的慣行を回復する基盤を提供するでしょう。簡単ではないし、短期間では実現しないでしょうが、これまでも、国家を破綻の瀬戸際から救い出すことが、簡単だったことは一度もありません。


2019年1月22日火曜日

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを ―【私の論評】日本は英国のTPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを 
高橋洋一 日本の解き方

英メイ首相

英国議会で、欧州連合(EU)離脱案が大差で否決された。今後、どのような影響が出てくるだろうか。

 英国のEU離脱は2016年6月23日に国民投票が行われ、僅差で決まった。

 そもそも英国は、貿易取引ではEUに加盟して有利な条件を受ける一方、ユーロに加盟せずに独自通貨のポンドで金融政策の自由度を確保するという「究極のいいとこ取り」であった。このため、筆者はそもそもEU離脱には懐疑的だったが、もはや時間は戻せない。

 国民投票の結果、英国のEU離脱の期限は3月末となった。ただし、行政機関や企業などが混乱しないように20年12月末までは「移行期間」として現行の諸法制が適用されるとされていた。

 そのためには、英国とEU間で離脱条件などが合意される必要がある。EUとの合意を前提として英国に有利なソフト・ブレグジットか、EUに有利なハード・ブレグジットのどちらになるかが関心事であった。

 今回、英議会が離脱案を否決したので、英国とEU間の合意の可能性はかなり遠のいた。つまり、「合意なき離脱」ということになりそうだ。この「合意なき離脱」ということになると、英国には打撃が大きい。

 EUのユンケル欧州委員長は、「もうすぐ時間切れだ」とし、「無秩序な離脱のリスクが高まった」と述べ、英国国内での意見集約を促している。

 しかし、英国のメイ政権ではいかんともしがたい状況だ。英議会でEU離脱案が大差で否決されたので、コービン党首率いる労働党が提出した内閣不信任案は否決されたが、英国内の政治が混乱したまま時間が過ぎ、3月末の期限を迎える公算が高い。

英政府は、その場合、国内総生産(GDP)を8・0~10・7%押し下げるという予測を昨年11月に出した。イングランド銀行は3~8%、国際通貨基金(IMF)は5~8%のマイナス効果になるとみている。

 具体的には、製造業で欧州から受け入れてきた労働者が不足して生産不足に陥る可能性が高い。金融業でも、適用ルールの不明確さから企業活動に混乱が生じかねない。こうした「合意なき離脱」による経済活動への悪影響はいうまでもなく計り知れない。EU側で、離脱の期日延期が検討されていると報じられているのもこのためだろう。

 筆者は、かつての本コラムで、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があると書いている。その当時は「合意ある離脱」が前提であり、英国政府の予測ではGDPに与える悪影響は、3・6~6・0%であった。今は、「合意なき離脱」を覚悟せざるを得ない状態であり、そのインパクトは2倍程度だろう。であれば、まさに、リーマン・ショック級になるのは避けられない。

 日本として政策総動員を準備すべきだ。実際のリーマン・ショック時は、「ハチに刺された程度」と楽観視し適切な政策が打てずに、大混乱したことを忘れてはいけない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本は英TPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

英国が欧州連合(EU)と合意したEU離脱案の採決は、保守党内から大量の造反者が出て、432対202という歴史的な大敗北となりました。

強硬離脱派も、残留派も反対し、労働党からは内閣不信任案が出されました(下院で否決)。EU側は当然ながら失望を表明し、メディアでは「合意なき離脱の可能性が高まる」との見出しが踊っています。

しかし、英ポンドはそれにも関わらず売られていません。「合意なき離脱」の可能性が高まっているのであれば、英ポンドはもっと売られていて良いはずです。つまり、表向きの混乱とは裏腹に「合意なき離脱」の可能性はやはり低いのです。そして今後ますますその可能性が低いことが明らかになっていくでしょう。

英ポンドは市場で売られていない

離脱案が否決されたので、メイ首相は3日以内(1月21日)に代替案を出すことになっているが、この代替案もどうなるかわからないです。

とはいえ、今後は野党の労働党との折衝が始まります。その中で、与野党の多くの議員はソフトな離脱案か再度の国民投票を希望しており、強硬離脱派はあくまで少数意見ということが明らかになってくるでしょう。

そして、万が一「合意なき離脱」の可能性が高まった場合、多くの議員は一致団結してそれを阻止するということがはっきりしてくるでしょう。

つまり、双方の多数派である労働党と保守党の穏健派が合意して超党派的な連合ができれば、簡単に終わる問題なのです。

ところが、そこに英国の政治事情が絡むので、スッキリとは進まないでしょう。メイ首相の頑な態度が、すんなりと合意に向かう道を閉ざしているとも言えるし、態度をはっきりさせないコービン党首が障害になっているとも言えます。

労働党は、結局どうしたいのか、はっきり態度を表明しなければならないです。ソフトな離脱案で行くのか、それとも再度の国民投票を行うのかです。それがはっきりすれば、超党派の連合も形成しやすくなるでしょう。

私は、ソフトな離脱案が結局成立する可能性が6、7割、再度の国民投票の可能性が3、4割と見たいです。個人的には「合意なき離脱」に至る確率は低いとみています。

現在、外国為替市場で少しずつ英ポンドが買われ始めているのは、結局「合意なき離脱」という選択肢が消えて、英ポンドが再評価され買い戻される、その動きを先取りしつつあるのでしょう。

英ポンドは極めて安い水準に放置されていたので、戻り始める(価値が上がる)とかなりのポテンシャルがあります。そして、「合意なき離脱」の選択肢が消えることは、この(2018~19)年末年始に不安定化していた市場に安心感を取り戻すことになるでしょう。

市場は過度な悲観にさらされていましたが、過度な悲観からの巻き戻しが今後、起こる可能性が高まっているのかもしれないです。

国旗を掲げながらブレグジットを支持するデモ隊

さらには、英国のTPP加入の可能性も高まっています。英国は、TPP参加を表明しています。英国のフォックス国際貿易相はロンドン市内で講演し、英国が欧州連合(EU)を離脱した後に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を目指す意向を表明しました。

メイ首相はこれまで離脱後にEU以外の第三国との自由貿易協定(FTA)を締結する方針を示していましたがTPPは一国帯一国の交渉で決めるFTAではありません。TPPは貿易だけでなく投資や知的財産など多くの協定がすでに決まっていて加盟をすればTPPルールを守らなければならないです。

TPPの性質はFTAではなくEUに近いものです。FTAは相手国との貿易について自由に交渉できますがTPPはできないです。EUを離脱する英国がTPPに参加するというのは矛盾しているようにもみえます。

なぜ、EUを離脱する英国がTPPに参加しようとしているのでしょうか。それはEUとTPPは協定の性質が違うからです。

EUはEuropean Unionの略称であり、欧州連合のことです。2013年7月にクロアチアが加盟したことにより以下の28か国が欧州連合に加わっています。

IMFによると、2010年の欧州連合のGDPは16兆1068億ドル(約1300兆円)です。米国のGDPをやや上回っており、世界全体の約26%を占めています。

欧州連合には最高意思決定機関があります。全加盟国の政府の長と欧州委員会委員長、及び大統領にも相当するとされる常任議長による欧州理事会です。

欧州連合の市場は統合されています。外交・安全保障分野と司法・内務分野での枠組みが新たに設けられ、ユーロの導入によって通貨も統合されています。欧州議会の直接選挙が実施されたり、欧州連合基本権憲章が採択されています。

ただし、ブログ冒頭の高橋洋一の氏の記事にあるように、英国はこのユーロは用いていません。そのため英国独自で金融政策を行うことができます。

EU加入国(青)と加入する可能性がある国(緑)

第二次大戦後に急激に社会主義国家圏が拡大していきました。ヨーロッパの社会主義圏の拡大を防ぐためEUは資本主義経済圏の民主主義国家の連合を結成したのです。

1991年にソ連は崩壊し、強大な社会主義国家圏は消滅しました。EUを強固しなければならない根拠となっていた社会主義圏が消滅したためにEUの国家間の矛盾が表面化していきました。

政治は本質的にローカルであるグローバルではありません。国によって生活や経済の程度に差があります。GDPに差があるし国家予算にも差があります。どうしても政治的な対立は生じることになります。

ソ連が存在していた時は対立を我慢していたが、ソ連が崩壊すると対立にが表面化していったのです。この対立を調整するのがEUの課題となっていき、英国はEUを離脱を決意したのです。

英国のEU離脱と米国のトランプ大統領のアメリカファーストをきっかけに、米国や英国だけでなくヨーロッパの多くの国々で反グローバル化の動きが広がっているとマスコミや評論家が指摘しています。

政治はローカル=反グローバルであり、経済はグローバルです。政治と経済は密接に関係していますが、二つの本質的な性質の違いを区別しなければならないです。区別しないから反グローバルを安易に政治目的に使うようになってしまったのです。

格差や貧困が原因で国外に出た難民を受け入れるかどうかを決断するのは政治です。難民を受け入れるか否かを決めるのはそれぞれの国の経済力や国民性が左右するからです。それは政治であり、ローカルな問題なのです。

EUがソ連圏に対抗した政治優先の連合であるのに対して、TPP11は経済優先の連合です。それがEUとTPPの根本的な違いです。そもそも、EUはソ連が存在しなければ結成されなかったかもしれません。

1988年ソ連ではじめてミスコンが行われたときの写真

EUは社会主義国家と対峙した連合でしたから社会主義国家は参加できません。しかし、TPP11は違います。TPP11は社会主義国家であるベトナムが参加しています。このことからもEUとTPP11が性質の違う協定であることが分かります。TPP11は政治ではなく経済を中心とした協定なのです。

EUから離脱した英国がTPP11に参加するのはTPP11がEUのような政治協定ではなく経済協定だからです。

TPP11は政治的にはそれぞれの国が独立しています。EUで問題になっている難民受け入れはTPP11加盟国のそれぞれの国が自由に決めるのであってTPP11全体の問題にはなりません。

このように、TPP11は人類史上初めての新しい協定です。こういうと誇大な表現と思われるかもしれませんが、そうではありません。

EUも国際連合も政治を中心とした連合です。経済も問題にするが優先しているのは政治です。それに比べてTPP11は経済を中心にした連合です。このような連合は、過去にあってもよさそうですが、このような協定はありませんでした。

世界は第二次世界大戦までは戦争の連続であり、帝国主義の世界でした。戦後は議会制民主主義国家圏と社会主義国家圏の対立が続きました。まさに、世界の歴史は、政治対立の歴史であったのです。

ソ連が崩壊し、独裁国家も減り、議会制民主主義国家が増えていきました。政治対立、戦争が少なくなったアジア、環太平洋地域だからこそTPP11が誕生したのです。

英国がTPP参加を表明しましたが、TPPの正式名称は、環太平洋パートナーシップです。名称からすれば環太平洋の国ではない英国は参加できないことになります。しかし、英政府はTPPの参加条件に地理的な制約がないことを確認しています。

それに日本の茂木敏充経済再生担当相も、英国の参加が可能との見解を示しています。経済は政治と違い本質的にグローバルです。TPPには世界のどこからでも参加できるのです。

このTPP11実現をリードしてきたのが安倍政権です。経済政策を重視する安倍晋三首相は「保護主義からは何も生まれない」として、自由貿易体制の維持に取り組んでいます。それがTPP11の実現であり、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の署名です。

メイ首相はEUとの離脱交渉で、「EUの関税同盟と単一市場から英国を離脱させ人の移動の自由を終わらせる」、「モノに関しては自由貿易圏を創設する」などの条件を掲げています。これに対し、人、モノ、金、サービスの四つの移動の自由を基本理念に掲げるEUは、メイ政権の提示条件が妥協的であると批判し、交渉は膠着状態に陥っています。

しかし、EUの本音は別のところにあるようです。

実はEUは、域内2位の経済力と最大の軍事力を誇る英国の離脱と、英国に追随する他国の動きを警戒し、英国を牽制しているのです。その顕著な例が、メイ政権のモノの移動の自由に関する条件を逆手にとり、アイルランド国境管理問題を持ち出し、北アイルランドがEUとの関税同盟に残留せざるをえないよう仕向けています。

つまり、北アイルランドに経済的国境を作るという圧力をかけ英国の提示条件を拒絶しているのです。ちなみに、英国とEUは2017年12月、地続きであるアイルランドと英領北アイルランドの物理的な国境管理(税関、検問所)を離脱後も復活させないことで基本合意した。

これに対し、メイ首相はEUに「合意なき離脱」という脅しをかけ、自らの離脱計画案の再考をEU側に求めています。仮にメイ首相の案をEUが飲んでも、あるいは合意なき離脱となった場合でも、英国国会で批准されるかどうかは不透明で、メイ政権は厳しい舵取りを余儀なくされています。

もともと英国はEU加盟に積極的ではありませんでした。EUの前々身であるEECにはフランス主導であることを理由に加盟を拒否し、EU加盟時には共通通貨のユーロを使わなかったことなどの事例がそれを物語っています。

自国に対するプライドもあるし、EU経済圏に入ることのメリットも少ないと考えていたようです。ただ、ヨーロッパ全体が一つの経済圏としての機能を持ち始めたため貿易の面で加入せざるを得ない事情があったようです。

しかも、英国はEUの盟主であるのなら離脱はなかったと思われますが、英国がEUの大統領を輩出しているわけでもないし、フランス、ドイツなどにリーダーシップを握られていることが面白くなかったわけです。

英国がリーダーシップを取れなかった理由は国内経済の低迷にあります。英国は国家の伝統ばかりを後生大事に抱えていてイノベーションができていなかったことに起因します。

英国国内の一部には離脱以降、世界経済の中で英国が新たな立ち位置を築くことができるのではないかとの期待もあります。しかし、その一方で、メイ首相の構想ではEUの規制から逃れられず、世界各国と自由にFTAを結ぶことができなくなると危惧する意見が出るほど国論が混乱しています。

いずれにせよ英国が歴史的な変化の前に苦悩していることだけは間違いありません。

先日の英経済紙フィナンシャルの一面に「英国のTPP加盟を歓迎する」との安倍首相のインタビュー記事が掲載されました。内容は「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する。英国は合意なきEUを回避するため妥協してほしい」「英国のEU離脱による、日本のビジネスを含むグローバル経済に対するネガティブなインパクトが最小化されることを心底願っている」というものでした。

「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する」という安倍総理の
インタビューを掲載したフィナンシャルの記事を報道する日本のテレビより

実際、英国の窮状を救うことができるのは日本だけかもしれません。TPP交渉で米国の離脱後も粘り強く推進してきた日本が、英国をTPPの枠組みに入れることでEU離脱後の英国経済の破綻を防ぐことができるものと考えられます。

さらに、TPPのもう一つの本質的な機能は中国包囲網の形成にあります。

TPPへの英国の加盟は、海洋国家の日米英の連携が一層強まり、中国政府と中国海軍による違法行為の封じ込めに役立つものとなります。英国は、インド太平洋地域にも英領西インド諸島を領土として持ち、ヨーロッパでも英国の領海、領有は広く、軍事戦略上きわめて有効です。

英国のTPP加盟はEU離脱後の英国経済のマイナス面を補うだけでありません。日本は積極的に英国支援に向かうべきです。そうして、英国のEU離脱によるリーマンショック級の悪影響が出ることを未然に防ぎ、今後も日英同盟を強化していくべきです。

ただし、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があるのは事実であり、日本もそれに備えるべきです。米国が対中国冷戦を実行し、英国がEU離脱し、世界経済に悪影響を与えるかもしれない今日、わざわざ消費増税などすべきではありません。財務省は、このような世界情勢を理解できないのでしょうか。だとすれば、大虚け者(おおうつけもの=虚けとはもともと、からっぽという意味であり、転じて虚け者とは、ぼんやりとした人物や暗愚な人物、常識にはずれた人物をさす)と呼ぶ以外にありません。

【関連記事】

2016年2月5日金曜日

在韓米軍、「金正恩斬首」の特殊部隊を配備―【私の論評】戦争に傾く混迷の2016年以降の世界を日本はどう生き抜くのか(゚д゚)!

在韓米軍、「金正恩斬首」の特殊部隊を配備



在韓米軍がこのほど、第1空輸特戦団と第75レンジャー連隊所属の特殊部隊を韓国にローテーション配備した。

同部隊は、イラク戦争やアフガニスタンでの戦闘に投入され、敵の要人を暗殺する「斬首作戦」などを担ってきた。核・生物化学兵器などの大量破壊兵器(WMD)の除去作戦も行う。

在韓米軍の発表によれば、「特殊部隊は韓国特殊戦司令部と共に特殊戦司令部準備態勢や能力増大のための訓練を行う」という。訓練には、特殊部隊を極秘潜入させる米空軍のMC-130J支援機も投入される予定。

在韓米軍がこうした発表を行うのは異例。

4回目の核実験に続き「衛星打ち上げ」を準備している北朝鮮への圧力行使の一環と見られる。

米軍はほかにも、海兵隊の特殊部隊は海軍のSEALs(シールズ)も韓国に派遣。既に訓練を行っているという。これらの部隊は3月の米韓合同演習「キー・リゾルブ」などに参加する予定。

【私の論評】戦争に傾く混迷の2016年以降の世界を日本はどう生き抜くのか(゚д゚)!


第75レンジャー大隊の隊員たち ジャーマン・シェパードを含む


第75レンジャー大隊といえば、アメリカ合衆国ジョージア州フォート・ベニングに駐屯するアメリカ陸軍の歩兵連隊です

部隊のモットーはRangers lead the wayレンジャーが道を拓くおよびラテン語のSua SponteOf their own accord自らの意思でです

この大隊は、アメリカ陸軍特殊作戦コマンドの傘下に置かれています。ジョージア州フォート・ベニングに本部を置きます。レンジャー連隊は、通常戦闘と特殊作戦の両方を遂行できる3個大隊規模の精鋭部隊です。遊撃戦を担当し、パラシュート降下も可能です。

米陸軍有数の柔軟性を誇り、常時1個大隊が短時間(18時間以内)で世界中に展開できる緊急即応部隊でもあります。特殊部隊の支援を担当することも多く、この部隊も特殊部隊と扱われることも多いです。

第75レンジャー大隊の隊員たち
代表的な任務は、空挺降下による強襲や爆破工作、隠密偵察、目標回収任務などがあります。他には、アメリカや同盟国の常備軍の支援なども行います。また、敵後方での任務にあたる縦深偵察小隊、特殊訓練を施された水中工作員を保有しています。

この他、上の記事では、あの海軍特殊部隊のSEALSも派遣されているそうですが、SEALsといえば、日本で有名になったのは、あのオサマ・ビンラディンの殺害です。

2011年5月1日(現地時間で2日未明)、米軍の急襲であのオサマ・ビンラディンがついに殺害されました。2001年の9・11テロから10年弱の時が流れていました。ビンラディンが潜伏していたのは、大方の専門家が予想していた「パキスタンのアフガン国境近くの山岳地帯」ではなく、パキスタンの首都イスラマバード近郊の町アボッタバードの隠れ家でした。

この攻撃を行ったのは、4機のヘリコプターに分乗した海軍特殊部隊「シールズ」の25人の隊員たちでした。シールズは、統合特殊作戦コマンドの指揮下にある部隊で、その中でも対テロ制圧作戦能力の非常に高いエリート部隊「シール・チーム6」でした。

ネイビー・シールズの隊員 特殊任務のため顔は意図的に隠してあります
特殊作戦軍の中でも、テロ制圧等に投入される精鋭部隊を運用するのが「統合特殊作戦コマンド(JSOC)」です。

JSOCの直接指揮下で運用される部隊は以下のとおりです。
  • デルタフォース(戦闘適応群) - Combat Applications Group : CAG
  • 情報支援活動部隊 - Intelligence Support Activity : ISA
  • 海軍特殊戦開発グループ - DEVGRU : former SEAL Team6
  • 第24特殊戦術飛行隊 - 24th Special Tactics Squadron : 24th STS
  • 統合通信隊 - Joint Communications Unit : JCU
  • 統合航空隊(飛行概念部) - Joint Aviation Unit
  • 技術情報隊 - Technical Intelligence Unit
  • 信号諜報課
  • 戦術支援チーム(TST)
  • 戦闘支援グループ
  • 航空戦術評価グループ(AVTEG)
また、場合によっては以下の部隊から支援を受けます。
  • 第75レンジャー連隊
  • 第160特殊作戦航空連隊
  • 第55特殊作戦飛行隊
SEALs(現在のDEVGRU)や第75レンジャー部隊を韓国に派遣しているわけですから、米軍としては、金正恩斬首という特殊作戦を本気で実行するつもりです。今回も、「統合特殊作戦コマンド(JSOC)」が具体的な作戦を指揮するのだと思います。

それにしても、なぜ米軍はこのような措置をとるのでしょうか。無論、北朝鮮の水爆実験、さらにはミサイル発射に激怒してのことでしょうが、その他にも理由がありそうです。

中国が長年、北朝鮮に膨大な援助を行ってきたのは、いわゆる「北朝鮮番犬論」に基づく措置だった。つまり、アメリカに対して中国が直接、言いにくいことを、北朝鮮が代わりに番犬のように吠えてくれるというわけでした。

しかし、習近平時代に入って、新たに「北朝鮮生け贄論」が内部で議論されるようになりました。これは、中国とアメリカが共に北朝鮮を「生け贄」として共闘することで、アメリカの矛先が中国へ向かうのを防ごうという考え方です。

今後、この「北朝鮮生け贄論」を、習近平政権が本気で考えるようになる可能性がありそうです。その代わり、南シナ海においては、半ばフリーハンドで埋め立てを続けるというわけです。

米国側としては、こうした中国の都合の良い誘いにはのらないでしょうが、従来とは異なり、米国が北朝鮮に対して何らかの特殊作戦を敢行したとしても、それを中国が強く非難したりはしないという条件が揃いつつあるので、それを利用するという意図もあるのだと思います。

しかし、実際に米国がこの作戦を強行し、本当に金正恩斬首を実行してしまえば、習近平としても穏やかな気持ちで過ごすことはできないでしょう。なぜなら、次は自分の番かもしれないからです。

何しろ、アメリカは先にオサマ・ビンラディンの斬首を実行しているわけですから、習近平のようなハッタリではないことは、最初からわかっていることです。

今回、実際にアメリカが金正恩を斬首できるかどうかは、わかりません。しかし、CIAの協力のもと、情報が集まれば、実行する可能性もあるということです。オサマ・ビンラディンの斬首もCIAの女性職員が、居所を正確につかんだために実行可能になりました。

CIAは今頃、北朝鮮でありとあらゆる手段を講じて、金正恩の動静を探っているものと思います。こちらのほうが、確実になれば、実際に動くでしょう。金正恩としても、心おだやかではないでしょう。どこかに外出などして、身辺警護が手薄になったその隙をつき、いつ何時、アメリカ特殊部隊が空から降下して、自分の命が狙われるのかわかったものではないからです。

牡丹峰楽団のメンバーに囲まれる金第1書記
北朝鮮の、軍隊は米軍に対しては、無力です。それこそ、米軍の空母部隊や韓国の陸上部隊、日本の空軍部隊などが、北朝鮮の人民解放軍を実質上有名無実にしている間に、特殊部隊が金正恩を襲撃して殺害するということも十分にあり得るということです。

総じて言えば、2016年の世界は、ポスト冷戦期に「世界の警察」を務めてきたアメリカの相対的な弱体化によって、世界各地でテロや紛争が絶えなくなることでしょう。シリアの内戦はますます混迷し、イランとサウジアラビアが開戦し、ウクライナ情勢も紛糾し、ヨーロッパには難民が溢れることになります。

アジアでは、南シナ海で中国がますます「海上の万里の長城」を築き、北朝鮮情勢は一触即発となり、台湾独立派の蔡英文新総統誕生で中台関係も危機に向かっていきます。そして仕上げに、11月にアメリカで次期アメリカ大統領が登場します。この大統領が誰になったにしろ、今年からしばらく、世界は戦争の火種が絶えず、混沌とすることでしょう。

混迷の2016年以降の世界を日本はどう生き抜くのか。ぜひ危機感を持った骨のある国会論戦を期待したいものです。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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