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2019年7月26日金曜日

有志連合軍に自衛隊派遣が唯一の選択肢―【私の論評】「有志連合」の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと(゚д゚)!

有志連合軍に自衛隊派遣が唯一の選択肢

香田洋二 (ジャパンマリンユナイテッド顧問 元自衛艦隊司令官)

 ホルムズ海峡付近の航行船舶に対する小規模な攻撃が多発している。その対象は単に民間船に留まらず、当該海域に展開する米海軍部隊も含まれており、頻度・内容もエスカレートする傾向にある。特に、同海域に展開する米海軍空母打撃部隊に対する挑発はドローンや高速小型艇による妨害や挑発に留まらず、去る6月20日のイラン革命防衛隊による米軍無人偵察機撃墜や7月18日の米海軍強襲揚陸艦によるイランのドローン撃墜事案などの小規模な小競り合いなども生起しており、両国の対立は激化傾向にある。

イランに拿捕された英国のタンカー

米国の要請に対して
日本が検討すべき2項目

 7月9日にダンフォード米統合参謀本部議長(以下「統参議長」)はホルムズ海峡の安全確保などを目的とする有志連合軍を結成すべく関係国と調整していると発言した。この発言に関連しては我が国政府も打診はあったことを認めたものの、細部の言及は避けたと報道されている。

 さらに、19日に米国務省と国防総省は、ホルムズ海峡周辺における航行船舶の安全確保に向けた有志連合について、ワシントンで非公開会合を開き、日本を含む各国外交団に構想を説明し参加を要請したと報じられた。本会合に対する各国の対応等を確認するため、7月25日に米中央軍が司令部を置くフロリダ州タンパで2回目の会合が開かれ、参加国の把握や具体的な行動内容などについて協議する予定と報じられている。

 イラン核疑惑に関連する現地情勢、特にホルムズ海峡の航行安全の不安定化は我が国のみならず全世界に対するエネルギー安定供給を大きく阻害する事態に直結する恐れがあることから、米国提案の有志連合に対する我が国の取り組みに関する論議が活発化することは明白である。その際の考慮事項は次の二点に収斂する。

① 我が国船舶の安全確保は我が国の責務

 第一は、我が国船舶の航行安全確保は我が国の責務であり、いかなる外国もその任に当たることはない、という至極当然の大原則と現実である。その前提からすれば、現下のホルムズ海峡における我が国船舶の航行安全確保に対する取り組みは、米統参議長発言により検討に着手するものではなく、我が国が主体的に取り組む問題として自発的に開始されるべきものであることは明白である。

② 湾岸戦争等とは全く異なる有志連合軍の編制・任務及び予想される作戦形態

 第二は、米国が構想する有志連合軍の任務は、ホルムズ海峡の航行安全確保であり、湾岸戦争、9・11後の対テロ戦争及びイラク戦争時に編成された、自衛権(個別あるいは集団)を発動した外国への兵力投入によるクウェート解放、テロリスト根拠地根絶等の作戦目的を達成するための攻勢的な有志連合軍とは性格、作戦目的や任務及び作戦形態が全く異なるものであるということである。一部マスコミの論議において、集団的自衛権の行使と自衛隊の有志連合軍への参加を短絡的に結び付けて反対する論調が観られたが、この観点からすれば、それは全くの的外れである。

 要するに、今回の作戦目的であるホルムズ海峡の航行安全確保は、武力行使や集団的自衛権はおろか個別的自衛権の行使さえ前提としない、同海峡の海上交通の秩序維持のための軍事活動であり、両者を明確に区分する観点に立った我が国の取り組みが論ぜられなければならない。
有志連合編成を打診した
米国の狙いとは

 シェール革命による米国のエネルギー供給における中東依存度は著しく下がっている。米国を仕向け地とするタンカー等の運航隻数が極少になっている現状から、ホルムズ海峡の安全航行の確保そのものは米国の直接の国益ではなくなっているといえる。勿論、米国は海洋の自由使用と航行を国益としていることから、ホルムズ海峡を含むペルシャ湾海域の航行安全は米国の国益となることもまた自明の理である。
 このため、①の観点からは、米軍が中東、特にペルシャ湾海域を航行する各国船舶の航行安全確保に直接関与する正当性と必要性は減少している。それが、今次トランプ発言の原点、すなわち「米国へ向かう船舶がほぼ不在のホルムズ海峡において、米軍が莫大な負担をしてまで他国の船舶を守る義務も根拠もない。各国は自国の船舶は自国で守れ!」ということであろう。
 同時に、米国は、ホルムズ海峡を通峡する個々の船舶ではなく、ペルシャ湾全域を世界の安全保障に大きな影響を与える重要地域として安定させる観点から、当該海域の海上交通の秩序を維持することは依然として重要と位置づけているのである。その観点から、ホルムズ海峡航行船舶への挑発や攻撃のような、イランの軍事的冒険主義の抑止と排除を引き続き重視している。
 ただし、そのための活動の全てを米国が賄うということではなく、「自国の船を守る力のある国は自分でやる」という大原則を改めて明確にしたものが、先般の統参議長の発言であり、それを具現する第一歩が7月19日の非公式会議と言える。
 報道によると、その会議では、米国によるホルムズ海峡の現状認識及び船舶の運航安全確保のための有志連合の必要性が説明されたとのことである。具体的には、自国船舶の航行安全確保は各国の判断とするとともに、米国が各国の自国船舶航行安全確保活動に必要な情報共有メカニズムを構築することを有志連合の活動骨子としたうえで、各国に艦船や航空機の派遣、資金拠出を求めたとされる。
 報道では言及されていないが、自国船の航行安全確保を直接実施する力のない国の民間船舶が事態緊迫時に無防備のままペルシャ湾周辺を航行することは別の不安定要素となることから、有志連合参加国による自国船舶の航行安全確保活動と同期して、この様な国の船舶を運航することより、これら船舶にも警戒の目を配する体制を構築するための調整活動(軍事用語で「船舶運航統制」と呼称)も米国が担任すると考えられる。
これらの総合的な効果により、ホルムズ海峡の航行安全を確保する態勢は格段に改善され、結果的にペルシャ湾地域全体の安定に寄与する、ということが米国の狙いと考えられる。

選択肢は4+α
採るべき解は1つ
まず、現地の事態緊迫時の日本船舶、広義には日本を仕向け地とする他国籍船も含む船舶(以下、両者を包括的に「日本船等」)の航行安全をどのように確保するかという課題への取り組みが問われることとなる。
 その際の基本事項として、①で示した、日本船等の航行安全を確保するのは日本であり、他のいかなる国も、自国の生存に無関係な外国船としての日本等船の航行安全を確保することはあり得ないという大原則から、事態緊迫時の日本船等の航行安全確保のための自衛隊派遣が有力な選択となる。同時に、我が国には自衛隊を海外に出すことに依然として大きな抵抗が存在することも事実である。
 それらの賛否論点も含め総合的に我が国の可能行動を整理すると、以下の選択肢が考えられる。
  • 選択肢-1:有志連合不参加・自衛隊非派遣
  • 選択肢-2:有志連合不参加・自衛隊派遣、有志連合とは別個に自衛隊が日本船等の安全確保
  • 選択肢-3:有志連合参加・自衛隊派遣、有志連合の枠組みの下で自衛隊が日本船等の安全確保
  • 選択肢-4:有志連合参加・自衛隊非派遣、資金・後方支援等、有志連合国を間接的に支援
 各選択肢の要点を整理すると次のようになる。
選択肢-1
 本選択は、国際枠組みを一切無視して、日本船等を自らは守らないということを意味する。要するに、主権国家として日本船等の安全を「運を天にまかせる」または「他国の善意に預ける」ということである。その選択においては、事態緊迫時の日本船等を運航する船員の生命をどう考えるのか、という問題が生ずるとともに、国家活動の基本となるエネルギーの安定供給をいかに担保するかという命題が残る。我が国の一部に根強い、有志連合参加及び自衛隊派遣反対論は、この論議を意図的に避けたとさえ思える観念的な憲法論や平和論のみに立脚したものであり、無責任な論議である。
選択肢-2
 これは独立国として責任のある対応であるが、有志連合不参加に起因する任務遂行上の不都合、特に部隊運用上必須となる情報共有態勢が弱化することから安全運航を確保する作戦が非効率となる恐れが常に内在する公算が大となる。更に、我が国単独の作戦は必然的に国際協調の欠落という面の問題を惹起する。
選択肢-3
 この選択は、我が国憲法と現行法制及び国際協調やと国際貢献の観点から最適と考えられる。今回、米国が提案する有志連合は②で述べた様に、イランへの兵力投入を前提とした攻勢作戦のための母体とは全く異なる、武力行使や集団的自衛権はおろか個別的自衛権の行使さえ前提としない、ホルムズ海峡の航行安全確保のための軍事活動母体である。このため、我が国が有志連合に加わり、自衛隊を派遣して自ら日本船等の航行安全を確保することは現行法制、具体的には平和安保法制の枠内で十分に実施可能な活動である。このことから、我が国政府も自衛隊もイラン、ペルシャ湾そしてホルムズ海峡の現状において集団的自衛権を行使した軍事作戦に加わることは全く考えていないと見積もられる。
選択肢-X
 選択肢-4以前に、「有志連合不参加・自衛隊非派遣=資金・後方支援等、有志連合国を間接支援」という別のオプションが理論上存在する。これは、結果的にせよ世界から全く評価されなかったイラン・イラク戦争及び湾岸戦争時の論議の繰り返しとなることは明白である。仮に、この選択肢を採用するとすれば、1980年以降の我が国の自衛隊による国際貢献への努力の足跡を完全に消去することであり、同時にその選択は、我が国の国際貢献という時計を40年巻き戻すものでもある。この観点から、本オプションは敢えて本検討の選択肢に入れなかった。
選択肢-4
 これは、経済力や後方支援能力の弱い有志連合参加国に対する非軍事面での支援というメリットが存在するが、やはり選択肢-1の最大の問題である、日本船等を我が国が守る、という大原則の無視に直結することから、責任ある国際社会の責任ある一員の選択としては不適切である。
 以上から、我が国の選択としては選択肢-3、すなわち自衛隊を派遣した有志連合の枠組みの下で、自衛隊が日本船等の航行安全確保に任ずることが最適である。
日本船舶等の航行安全確保
自衛隊が活動する法的根拠

 ホルムズ海峡の航行安全確保のために編成される有志連合に我が国が参加して、自衛隊が日本船等の航行安全確保のための任務を遂行する(以下「日本船等を自衛隊が守る」)作戦成功の鍵は、航行安全確保の際の船舶の防護方法である。この作戦は海上航行秩序の維持を目的とすることから、武力行使及び自衛権の発動を要しない海上作戦であり、軍事力による海上の警察活動であると位置づけられる。その際、任務遂行に必要な場合、航行秩序を乱す目的で日本船舶等の安全航行を妨げる勢力に対しては武器の使用が必要になる場合も生起することは当然である。
 上述の日本船等を守る作戦において想定される事態への対処は、2015年9月に成立、公布された平和安保法制を基本とすると、自衛隊法第82条に定める海上警備行動を根拠とすることが適当と考えられる。その際の権限は自衛隊法93条により規定されるが、同条で認められた停船のための武器使用は対象船舶が我が国領海内にある場合に限られるが、わが国から遠く離れたソマリア沖の海賊対処の際の当初の政府の措置、すなわち海賊対処法制定までの間の自衛隊を派遣する根拠として海警行動を発動した際の考え方が参考になると考える。その骨子は次の通りである。
(1)保護の対象は日本船籍、日本人及び日本の貨物を運搬する外国船舶など、日本が関与するもの
(2)司法警察活動は護衛艦に同乗する海上保安官が実施
(3)武器の使用は刑法36条1項(正当防衛)及び37条1項前段(緊急避難)に規定する状況下に限定
(4)防衛大臣は部隊派遣に先立ち実施計画を国会に報告
 これを今次ケースに適用すれば、今回の任務はあくまでもホルムズ海峡における航行安全確保であることから、(2)は不要であり、派遣された自衛隊の部隊運用は(1)、(3)及び(4)に準拠することになる。この際、任務遂行上必要となる公海上の武器使用は、抑制的ではあるが航行安全確保という任務遂行を可能とすると考えられる。
 特に、(1)において防護対象を整理して規定したことは、日本を仕向け地とする船舶の多くが日本船籍ではない現状から、日本船等を守る作戦における防護対象船を明確に規定できることから、この考え方の任務遂行上の合目的性は高いといえる。
 その他、海警行動の際に認められる権限には警察官職務執行法第7条(警職法:武器の使用)、及び海上保安庁法第十六条(協力の要請)、海上保安庁法第十七条第一項(書類の提出・船舶の停止と立ち入り検査・必要な質問)並びに海上保安庁法第十八条(必要な場合の措置)が自衛隊員に適用されることから、現場での部隊運用の幅を広げ、柔軟性を確保することが可能となる。
 次のオプションとして海賊対処法がある。これは公海上で我が国の船舶に対し海賊行為等の侵害活動を行う外国船舶を自衛隊の部隊が認知した場合の対処である。この際の自衛官の職務執行に際しては、海警行動と同様、警職法7条に基づく武器の使用が認められるほか、民間船に接近する等の海賊行為(今次任務では日本船等に対する妨害や威嚇、停船要求あるいは乗船捕獲などが該当)を行っている船舶の航行を停止するため、他の手段がない場合には、その事態に応じ合理的に必要な限度における武器の使用が認められることから、日本船等を守る作戦の根拠として海賊対処法の適用を準備することも必要である。
 ここまで、事態緊迫時のホルムズ海峡の航行安全を確保する際の日本船等を「守る」方策を検討した。この際の大原則は、自国の船の安全は自国が守る、言い換えれば他国は守ってくれないということである。更に、米国が提唱する有志連合は武力行使によるイラン侵攻を目的としたものではないことから、我が国の憲法の下で平和安保法制を適切に適用することにより、我が国自体の活動として、自衛権を発動することなく自衛隊が日本船等を守ることは十分に可能である。
 逆に、それを実施しないという選択は、単に国際協調という問題のみならず、独立国の基本としての自国民の生命と財産の保護という、国家として根本的姿勢を問われることとなり、政府の政策としては極めて無責任と言わざるを得ない。
 一方、将来、さらに事態が緊迫化した際の国際的な活動への取り組みについては、ここまで論議したホルムズ海峡の航行安全確保とは別に、改めて我が国の憲法と平和安保法制の枠内で実施可能な行動方針を定め、実施することが求められる。
 仮に、新たな有志連合が自衛権の発動と武力行使を前提としたイラン侵攻を目的とするものになるとすれば、その枠組みへの自衛隊の参加はあり得ないことも明白であるが、その際も、憲法と平和安保法制に基づく、対テロ戦争における後方支援のような活動は可能となる。
 また、その時点でホルムズ海峡の航行安全活動のための有志連合の下で自衛隊が日本船等を守る活動を実施中(選択肢-3)であるとすれば、我が国政府には、その作戦の継続、あるいは事態を勘案した防衛出動の下令とそれに応じた新たな活動への移行、もしくは実施中の作戦を直ちに中止した撤退という選択肢が残ると考えられる。
 最後に、今次の様なケースに際して速やかに行動に移せるのは、平和安保法制が、様々な事態を想定してシームレスな対応を可能とさせることをその目的の一つとしているからである。
【私の論評】「有志連合」の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと(゚д゚)!

6月13日、中東の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡近くでタンカー2隻(内1隻は日本の海運会社が運航)が何者かにより攻撃を受けました。1週間後の20日には、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡付近を飛行する米国の無人偵察機を撃墜しました。


7月19日、今度はイランのものと思われる無人機がホルムズ海峡で米海軍によって撃墜されました。米国によると米海軍艦艇に900メートルまで接近したためといわれています。同日、ホルムズ海峡周辺海域でイランが英国タンカーを拿捕したことを公表しました。中東情勢は日に日に緊張が高まっています。

今回の「有志連合」は、ブログ冒頭の記事にもあるように、航行の自由、安全を確保する努力は、米国だけが行うのではなく、各国が「応分の負担」をすべきというトランプ大統領の意向を踏まえたものでしょう。

日本国内では「有志連合」の言葉に「戦争」を想起したためでしょうか、内容確認もそこそこ条件反射的に「米国の戦争に巻き込まれる」「自衛隊を参加させるべきではない」とメディアは主張しました。岩屋毅防衛相も米国務省の説明会に参加する前から、「現時点でホルムズ海峡付近に部隊を派遣することは考えていない」と部隊派遣を否定していました。

ホルムズ海峡とバベルマンデブ海峡は、いずれも中東の原油輸送の大動脈です。これら大動脈の航行の安全を、これまで米海軍の第5艦隊と第7艦隊が守ってきたのは事実です。特に日本は中東への原油依存度が87%で、日本に原油を運ぶ船舶が年間1800隻もホルムズ海峡を通過しています。大動脈の航行安全の恩恵を日本が大きく受けてきたのは否定できないです。

他方、米国はトランプ大統領が演説で度々述べているように、米国だけが負担を被るこれまでの状況は不公正と考え、各国に負担を求めつつあります。7月18日、米国防総省高官はロイター通信に対し、有志連合構想の説明にあたって、ホルムズ海峡周辺でのタンカー護衛について「米軍は他国の船舶を護衛しない」と述べました。

米国は有志連合参加について、今のところ「他国の軍が自国の船舶を護衛するかは各国の判断に委ねる」とし、船舶の護衛を強制しない考えを示しています。しかし、米海軍が「海峡の安全確保」に手が回らなくなった時、あるいはトランプ大統領が正式に「米軍は他国の船舶を護衛しない」方針を打ち出した時、それでも日本は有志連合に「自衛隊を派遣しない」と言えるでしょうか。

日本で混乱しているのは、米国が主張している有志連合構想は、ブログ冒頭の記事にもあるように、平時の「海峡の安全確保」のための「有志連合」であり、「対イラン武力行使」への「有志連合」ではないことです。メディアの論調をみていると意図的に混同しているようにも見えます。

米国防総省も各国の懸念を払拭すべく、「イランに対する軍事連合を結成するのが目的ではない」と明言し「対イラン軍事連合ではない」ことを強調しました。「最大の目的は警戒監視を強化し、船舶への攻撃を抑止する懐中電灯のような役割を果たすことだ」と述べて各国に理解を求めています。

有志連合の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと

また有志連合における米国の役割については「参加国で共有される枠組み的な情報を提供し、自国の船舶を護衛したい国々を支援する」と述べています。「有志連合」は趣旨に賛同する国が、「この指とまれ」と集まってくる集合体です。

今回、米国が主導するというのは、集まってくる各国海軍を効率よく警備や護衛任務に就けるよう、米国が情報を提供し、全般を統制しようとするものです。武力行使のための作戦統制ではありません。

であれば、日本が「参加しない」という選択肢は最初からあり得ないです。「参加しない」は、「日本政府は日本の船舶を守りません」ということか、「引き続き米国が、日本の船舶を守ってください」と言うに等しいです。

米国が「米軍は他国の船舶を護衛しない」と表明している時、「引き続き米国が守れ」等とは言えないでしょうし、日本政府は「もはや日本の船舶を守りません」などということは主権国家としてあり得ないです。

船員組合が乗船をボイコットすれば、原油の搬入は断たれ、日本は存亡の危機に立たされます。平時の「海峡の安全確保の活動」とはいっても、近い将来、米国がイランを攻撃する可能性もあり「米国の戦争に巻き込まれる」と懸念する人もいます。

しかし、既述のように今回の有志連合の趣旨は「船舶への攻撃を抑止する懐中電灯の役割」を果たすことであり、もしそうでなくなれば、その時点で有志連合から離脱すれば良いし、米国側も予めそれを知らせてくることでしょう。

それができるのが有志連合です。繰り返すが有志連合というのは趣旨に賛同する国が集まる組織体であり、趣旨が変わればリセットされるべきものです。

米国主体の有志連合に参加することによってイランを刺激するとの懸念があるのも事実です。しかし、6月に日本企業が運航するタンカーが何者かによって攻撃されたのは事実であり、イラン政府はこれをやっていないと主張しています。

そのため、イランを対象とするものではないですが、今後、再び日本のタンカーが何者かによって攻撃されないように護衛するものです。このことをイラン政府にしっかり説明する必要があります。強調すべきは「イラン攻撃のための有志連合」ではないことです。このことはイランも理解するでしょう。

今回、法的に自衛隊の派遣は可能かという問題もある。それについては、ブログ冒頭の記事に掲載されています。そうして、この記事から判断するところでは、法的に自衛隊の派遣は十分可能です。

であれば、「ホルムズ海峡安全」の恩恵を最も受けている日本が、海峡の安全確保に汗も流さないなどということがあってはならないです。まして自国の船舶さえ守らないなら、国際社会での評判は地に落ちるだけでなく、日本は存続の危機に陥ることにさえなりかねません。まずは、自分の国の船舶さえ守らない日本を米国が何かのときに守るでしょうか。

日本の湾岸戦争負担金 総額 1兆6900億円。米国より多く出していた

湾岸戦争時、日本国内では、すったもんだしたあげく、当時の海部内閣は、汗を流すこともなくカネで解決しようとしました。その結果「小切手外交」「漁夫の利を得るだけの自己勝手な日本」という悪名を被り、日米同盟まで漂流するに至りました。

あの「悪夢」の再来だけは何としてでも避けなければならないです。ましてや、今回の「有志連合」は他国を直接攻撃することではなく、自国のタンカーを守る、それも懐中電灯の役割を期待されているのですから、これには日本として参加しないという選択肢はあり得ないです。

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2016年4月17日日曜日

中国紙が社説で「尖閣に自衛隊派遣なら軍艦出動」「数、日本の比ではない」―【私の論評】中国が一番恐れるのは、日本の武力によって尖閣付近から中国の勢力が排除されること(゚д゚)!


2012年10月4日午後6時から7時にかけ、沖縄県の宮古島の北東海域で中国艦艇7隻が通過。写真は
そのうちの三隻。上より、ルージョウ級ミサイル駆逐艦(116)、ジャンカイⅡ級フリゲート艦(546)、
ダーラオ級潜水艦救難艇(864)
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は13日、日本政府が尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺に海上自衛隊の艦船を派遣すれば、中国海軍の軍艦が出動すると強調する社説を掲載した。

日本政府が尖閣周辺の領海を念頭に「無害通航」に該当しない他国の軍艦に対し、従来方針通り自衛隊に海上警備行動を発令して対処する考えを示したことを牽制(けんせい)した形だ。

社説は「中国が派遣する軍艦の数は自衛隊の比ではない」と強調。日本が先に自衛隊の艦船を派遣した場合、東シナ海の摩擦が激化する道義的責任は「日本が負わなければならない」と主張した。

【私の論評】中国が一番恐れるのは、日本の武力によって尖閣付近から中国の勢力が排除されること(゚д゚)!

上の記事を読んで思うのは、やはり中国は、安倍総理が軍事力を用いて尖閣付近から中国を排除することを尤も恐れていることだということを再確認できたということです。

このことについては、以前このブログでも、習近平の側近が尖閣諸島に関する考えを示した論文に関する記事で掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日中軍事衝突なら「退路ない」と中国軍上将、尖閣で論文 「極力戦争を回避」と訴える―【私の論評】習近平が最も嫌がるのは、安倍総理が軍事力を用いて尖閣付近から中国を排除することだ(゚д゚)!

この記事は昨年10月21日水曜日に掲載したものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を以下にコピペします。
中国軍の上将で、国防大学政治委員の劉亜州氏は21日までに、沖縄県・尖閣諸島をめぐる問題に関する論文を公表し、日本と中国が軍事衝突すれば「中国は勝つ以外に選択肢はなく、退路はない」と強調した。敗北すれば体制を揺るがす事態に発展しかねないとの危機感を示唆したものとみられ「極力戦争を回避」すべきだと訴えた。
中国艦船があまり傍若無人な真似を繰り返すなら、きちんと国際ルールにのっとった上で何隻か撃沈すべきものと思います。領海内であれば、そんなことをすれば、中国は吠えまくりますが、他の国はそれを軍事行動ではなく当然の警察行動こととして、何も非難はしないでしょう。もし、非難したとすれば、自国が日本と同じような状況に至った場合、対抗する術がなくなります。
実は、習近平が一番恐れているのはこれです。安倍総理が、軍事力をもって尖閣付近から、中国の艦船や航空機を排除することです。

米国も南シナ海で、中国が不穏な動きをみせれば、国際ルールに沿った形で、攻撃を加えるなどのことをすべきです。そうなれば、習近平の面目は丸つぶれですし、それにせっかく日本を悪者にしたてても、中国国内の求心力を高めるということができなくなります。

そんな馬鹿なことなどとおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際ロシアはそのような対応をしています。尖閣で中国の船が日本の海上保安庁の船が中国の漁船に体当たりされる前の年に、ロシアは中国の船を機関砲で銃撃しています。その結果数人の死者が出た模様ですが、日本国内では報道もされず、他の国からも一切非難されるようなことはありませんでした。無論、警告をするなどして、国際法にのっとった措置でした。
中国としては、尖閣付近から安倍総理が力づくで排除されては、非常に困るわけです。もし、中国海軍がなすすべもなく、負けてしまい尖閣付近から完璧に排除されてしまえば、中国国内の求心力は弱まり、習近平政権はもとより、中国共産党の中国統治の正当性も弱まることになります。

そもそも、海外からの評価では、日本の海軍力は世界第二位とも、世界第五位ともいわれていますし、中国海軍よりは数段上とされています。海軍力は見方によって、いろいろ変わりますが、それにしても日本二位から五位であり、中国海軍よりははるかに優っています。

日中海軍を対比すると、最大の違いは、対潜哨戒能力と潜水艦の攻撃力です。これらが、中国は日本に比較すると全く劣っています。日本の潜水艦が、中国側に知られることなく、隠密行動ができるのですが、中国の潜水艦はすぐに日本の潜水艦や哨戒機に発見されてしまいます。

そうなると、最初から中国側にはほとんど勝ち目がありません。航空兵力もそうです。中には、いやそうではない、中国の最新鋭の、殲31はステルス機であり、どの日本の航空機より強力であると信じてる人もいるようですが、現実にはそうではありません。米国の軍事専門家の中には、殲31 は実質第三世代戦闘機の域を出ていないと酷評する人もいます。いずれにせよ、まだまだ実験段階で実用にはほど遠いという代物です。

中国の現状の航空機など、まだまだ技術的に劣っています。特にレーダーなどの電子機器はかなり遅れていて、日本の航空自衛隊と実際の戦闘になった場合、かなり非力です。

「空母遼寧」も、海上自衛隊の哨戒機P3Cがいとも簡単に捕捉して、出港した途端に魚雷かハープーンの餌食になってしまいます。他の中国の艦艇や潜水艦も同じことです。


このことは、中国の人民解放軍の幹部は誰でも知っていることで、軍事的にまともに戦ったのでは全く勝ち目がないため、これを牽制するために、ブログ冒頭のように、環球時報で吠えて見せたのでしょう。日本の艦船や潜水艦などと比較するとはるかに旧式のものを多数尖閣付近に派遣してきたとしても、日本の海上自衛隊に勝ち目はありません。

唯一中国が、日本より上回っているとすれば、核兵器を用いることができることでしょうが、現実問題としてこれを使えば、米国による反撃も予想されし、核兵器を用いた後は、あの天安門広場事件の後の世界のほとんどの国からの制裁を受けたことと同じようなことが起こることも予想され、中国としてはこれは避けたいので、これを使用することはほぼ不可能です。

今日本は熊本地震で対応中です。ブログ冒頭の、環球時報の記事は13日に公表されものであり、地震発生の前の日であり、特に地震を意識したものではありません。

しかしながら、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海外側にある接続水域で16日、中国海警局の船3隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認しています。中国当局の船が尖閣周辺で確認されたのは3日連続です。これは、熊本の地震の後です。中国側としては、地震の影響があるかどうかを見極めてるのだと思います。まるで火事場泥棒のような、行動です。

第11管区海上保安本部(那覇)によると、3隻は海警2101、海警2307、機関砲のようなものを搭載した海警31241だそうです。領海に近づかないよう巡視船が警告していました。

巡視船「あぐに」
ところで、海上保安庁は16日、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の警備を専門とする「尖閣専従体制」が整い、拠点となる沖縄県・石垣島の港で披露式を開きました。石垣海上保安部に配備された1500トン級の最新型巡視船10隻を含む12隻が専門で任務に当たります。

人員は約600人で、港周辺には新たに桟橋や船艇基地、宿舎、倉庫が整備されました。平成24年の尖閣国有化後、領海警備で全国から巡視船などの応援を受けていたが、原則不要になります。

石垣海上保安部の宮崎一巳部長は中国公船に対する警備に関して、記者団に「不測の事態を避けて事態をエスカレートさせないのを基本に冷静かつ毅然として対応したい」と話しました。式典に合わせて、20ミリ機関砲や遠隔放水銃、停船命令表示装置を装備した巡視船「あぐに」を公開しました。

日本の海上保安庁も中国の海上民兵や、海警など互角に戦えるようになりました。海軍も日本には到底勝てないので、中国としては八方塞がりです。南シナ海でも、手詰まり感がはっきりしています。だからこそ、ブログ冒頭のようの記事のように、中国海軍の軍艦が出動すると強調したのです。

インドネシア海軍が火曜日からインドネシア領海で拿捕した中国漁船
35隻の撃沈を開始したと当局が発表(8月18日dpa.international)
私としては、中国側は、本当に軍艦を出せば良いと思います。そうしてそのような場合は、日本側としては、領海や領空を侵犯した場合、撃沈、撃墜すれば、それで良いと思います。そうしたからといって、当の中国は屁理屈をつけて吠えるかもしれまんせんが、中国と日本が本格的な総力戦をはじめたりすることもないでしょうし、世界中のどこの国も中国に同調することはありません。

というより、アジアの中国、北朝鮮以外の国々は、これを歓迎することでしょう。それに、中国が尖閣付近で、前々から度重なる挑発行為を繰り返してきたこと、日本と中国の間にはもともと、領土問題など存在しないことをアピールすれば、アジア以外の国々も、歓迎することでしょう。

ロシアなどは異議を唱えるかもしれませんが、そのあたりは、このブログにのべたように、従来から比較するとかなり北方領土の交渉がやりやすくなっていますから、意外と唱えなくなることも考えられます。いずれにせよ、圧倒的多数の国々が、異議を唱えるなどということはしないでしょう。

さらに、南シナ海での米軍もこれに勇気づけられ、南シナ海の中国の軍事基地に対しても、艦船や潜水艦で包囲し、それを妨げようとする艦船、航空機に攻撃を加え、南シナ海からの中国の軍事基地の排除に踏みきる良いきっかけになることでしょう。

そうなると、もともとは中国にとっては外国であるはずの、チベット、ウイグル、内モンゴルなどの自治区の中国に対する反対運動が勢いづくことでしょう。

そうして、現在中国は、経済が低迷していて、これから良くなる見込みもなく、今のままであれば、このブログでもたびたび掲載したように、中進国の罠にすでにはまりかけています。そんな中国には、世界中の国々は従来のように期待することもなくなります。

そうして、いずれ図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国に成り果てるか、分裂することになりますが、日本が尖閣から中国を排除すれば、それに拍車をかけることになります。

このようなことから、中国としては、安倍総理が、軍事力をもって尖閣付近から、中国の艦船や航空機を排除することなどして欲しくないのです。

しかし、日本としては、中国が嫌がることを徹底的に実行することです。間違っても、中国という異質な国に褒められるような国になるべきではありません。嫌われるという、その道こそ正しい道です。

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