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2020年6月19日金曜日

国家安全法で締め付けられる香港人の受け入れ— 【私の論評】香港市民が観光では日本を頻繁に訪れながら、移住となると豪英加・台湾になるのか、今一度真摯に考えてみるべき!(◎_◎;)

国家安全法で締め付けられる香港人の受け入れ

岡崎研究所

 中国は、香港国家安全法の適用を強行し、香港への締め付けを強化し、国際的約束である香港の一国二制度を葬り去ろうとしている。

 これに対し、トランプ大統領は5月29日、記者団を前にホワイトハウスで「香港には最早十分な自治はなく、返還以来我々が提供して来た特別な待遇に値しない」「中国は約束されていた“一国二制度”の方式を“一国一制度”で置き換えた」と述べ、「香港に異なる特別の待遇を与えている政策上の例外を撤廃するプロセス」を始めると言明した。これは、昨年成立した「香港民主主義・人権法」に基づく措置である。その他、トランプは中国の悪行を列挙し、「(中国寄りの)WHOとの関係を停止する」ことを含め、各種の対応策を講じることを予告した。


 香港に対する特別な待遇の撤廃は、犯罪人引渡、技術移転に対する輸出規制、ビザ、香港を中国とは別個の関税地域として取り扱うことなどに関係するとされるが、トランプは具体的詳細には踏み込まなかった。トランプは敵対的な調子で対中非難を展開したが、例によって、言いたいことを言っておいて、具体的詳細は中国の出方を測りつつ今後の検討に委ねるということのようである。対中輸入に発動している高関税を香港に適用するか否かの問題にも言及しなかった。

 香港に対する特別待遇の撤廃は強い副作用を伴うことになろう。香港住民の生き様を大きく害し、香港の金融センターとしての地位を損ない得る。2000社ある米国企業は撤退するかも知れない。資本も逃避するかも知れない。香港の価値が下がることによって世界は関心を失う。場合によっては、香港は自壊する。そのことは北京の思う壺かも知れない。仮に米国が、香港の自治の侵食に責任のある中国および香港の当局者に対する制裁を発動するとしても、それで中国の行動を抑止できる訳ではない。

 そこで、5月29日付けのウォールストリート・ジャーナルの社説‘Visas for Hong Kong’が提案するのが、希望する香港人を米国へ受け入れ、更には市民権を与えることである。香港国家安全法が施行されるに伴い、香港を脱出することを希望する人達は当然いるであろう。脱出するだけの財力ある人達の数は限られようが、多くは、まずは米国を目指すであろうから、米国は当然受け入れるべきである。

 逃避する香港人の自国受け入れについて、上記ウォールストリート・ジャーナル社説は中国に対する懲罰という捉え方をしているが、むしろ、自由と人権の擁護という理念に基づく行動、あるいは人道上の行動と捉える方が良いのではないか。5月28日、英国のラーブ外相は英国が一定の香港人を受け入れる用意のあることを表明したが、これも英国の旧宗主国としての立場を考慮して香港の人達を守る趣旨によるものと理解すべきであろう。ラーブは「中国が国家安全法を履行するに至るのであれば、香港の英国海外市民旅券(BNO passport)の所持者が英国に入国し、現行の6ヶ月ではなく、12ヶ月(更新可能)就労し就学することを認める、このことは将来的に市民権を得ることを可能にする」との趣旨を述べた。また、5月28日、台湾の蔡英文総統は、香港人を受け入れ支援する仕組みを整備したいと述べるとともに、過去1年香港からの移住者は41%増え5000人を超えていることを指摘している。

 日本への逃避を希望する香港人も、数は多くはないであろうが、出て来る可能性は十分予測できる。その場合、現在の入国管理制度でどうなるのかという問題があるかも知れないが、門前払いだけはすべきでない。むしろ、有能な人材の確保の観点を含め予め検討しておく必要があろう。 


【私の論評】香港市民が観光では日本を頻繁に訪れながら、移住となると豪英加・台湾になるのか、今一度真摯に考えてみるべき!(◎_◎;)

香港人の受け入れの話は、英国では昨年もありました。それについては、このブログでも取り上げたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載しました。
香港人に英国籍付与、英議員の提案は香港問題の流れをどう変えるか?―【私の論評】コモンウェルズの国々は、香港市民に国籍を付与せよ(゚д゚)!
英国国会議員、外交委員会委員長のトム・タジェンダット(Tom Tugendhat)氏

この記事は、2019年8月17日のものです。元記事は、立花 聡氏によるもので、以下のようなことが、掲載されていました。
「 英国国会議員、外交委員会委員長のトム・タジェンダット(Tom Tugendhat)氏は、1997年香港撤退(中国返還)の際に放置されてきた市民の国籍問題の解決を促し、英国籍付与の範囲を香港の中華系市民(ホンコン・チャイニーズ)にも及ぶべきだとし、英国が香港から引き上げた当時そうしなかったのは間違いであって、それを是正すべきだ(wrong that needs correcting)と主張した(8月13日付け英字紙デイリー・メール Online版)」。
なおこの記事には、立花 聡氏自身のコメントが寄せられていたのですが、最近はもっぱらツイッーを用いているので、コメントのほとんどはツイッターで寄せられるで、ブログに直接コメントが寄せられることは滅多になく、立花氏からのコメントがあったことに数ヶ月間も気づかず、比較的最近気づいたので、そのままになています。せっかく寄せていただいたのに、残念なことをしてしまいました。ここにお詫びいたします。(ただし、この記事も読んでいだければということになるとは思いますが・・・・)

この元記事を受けた形で、私自身は【私の論評】において、英国だけではなく、顧問ウェルズの国々も香港市民に国籍を付与すべきだと主張しました。

コモンウェルスの国々とは、イギリスの旧植民地の国々のことです。 地図で示すと以下の国々です。


これらの国々と英国は、今でも関係が深いですし、法体系なども似たところがあり、香港市民も全く縁もゆかりも無い国々よりは、移住しやすいと思います。

元々コモンウエルズとは、コモンウェルス(英: commonwealth)とは、公益を目的として組織された政治的コミュニティーを意味する用語です。歴史的には共和国の同義語として扱われてきましたが、原義としては哲学用語である「共通善 (英: common good)」を意味します。だからこそ、これらの国々が香港の人々を受け入れるべきと思ったのです。

かつてイギリスの植民地だった諸国との緩やかな連合体として「Commonwealth of Nations」が結成されており、その加盟国の中で現在もイギリスの君主を自国の君主元首)として戴く個々の国を「Commonwealth realm」(「レルム(realm)」の記事も参照)と呼びます。

米国でも、コモンウェルスを名乗っていないものの、バーモント州は、その州憲法の4箇所で「The Commonwealth」と自己言及しており、同様にデラウェア州も、州憲法で「当コモンウェルスの安全を脅かし得る手段を以って…」と自己言及しています。

これらコモンウェルズの国々と、米国のパーモント州や、デラウェア州なども香港の人々を受けいれる歴史的な根拠があるわけです。

日本にはこのような歴史的背景はないのですが、コロナ以前の香港人の日本訪問客はかなり多いです

コロナ直前の、2019年の年間訪問者数は、229万700人でした。これまで過去最高だった 2017 年 の223万1568人を超えました。年々、右肩上がりに上昇しており、2013年から約3倍ほど増えています。

香港の人口は、2018年で745.1万人ですから、この訪問客数は、かなりのものです。単純計算では、香港人の4人に1人以上は日本を訪れている計算になります。

もちろん単純に香港人の4人に1人が日本を訪れているというわけではなく、リピーターの数が多いことが見て取れます。日本政府観光局(JNTO)の調べによると、日本を訪れる香港人のうちリピーター率は82.1%でした。

訪日香港人人旅行者の消費額 は、2019年は約3,525億円。2013年時点では1,054億円程度だったため、数年で3倍以上に増加しています。

ちなみに、訪日香港人旅行者の都道府県別訪問率は以下の通りです。
1位:⼤阪府(33.3%)
2位:東京都(30.0%)
3位:千葉県(27.6%)
4位:京都府(20.2%)
5位:福岡県(11.2%)
出典:観光庁『訪日外国人消費動向調査(2018年版)』
最近の訪日香港人旅行者の傾向として、関西地方の人気が高く、大阪、京都、奈良へセットでまわる人が増えています。大阪はグルメやショッピング、京都は金閣寺、銀閣寺、清水寺など写真に収めたくなるような歴史の古いお寺巡りの人が多く訪れています。

リピーターが多いため、定番のスポットを巡るより、観光客があまり多くない穴場スポットへ行きたがる人が増えています。また、香港から日本までのLCCの路線が多く、東京や大阪など大都市だけではなく、九州や四国や中国地方の直行便もあります。

そのため、同じ場所へ旅行するより、いろいろな都市を制覇したがる傾向にあります。また、短期間で多くの観光地に行きたいという願望があります。さらに屋台文化のため、夜遊び好き。夜遅くまで営業している商業施設やドラッグストアの買い物が好きです。朝から夜遅くまで出かけて、時間を存分に使う人も少なくありません。

日本にこれだけ頻繁に訪れる香港の人々ですが、いざ移住ということになると、やはり
は豪英加ということになりそうです。台湾にも関心が高まっているそうです。

豪英加は、香港市民は、無論コモンウェルスの価値観を共有しているという側面があるのでしょう。それに、香港では、広東語と英語が公用語です。英語が公用語という豪英加は、魅力でしょう。

香港の人は広東語を話しますので、本当の中国語、北京語を理解しているか疑問に思う日本人が多いです。

また、台湾のことを違う国と考え、中国語と言ってもたぶん中国の中国語とは違う言葉を話していると思う日本人も少なくないでしょう。

実は北京語は香港でも台湾でも通じます。しかも香港と台湾だけでなく、マカオ、シンガポール、マレーシアでも通じます。香港は1997年に中国に帰還されてからすでに20年以上経ちました。

返還されてから中国語と中国史が必須科目になりましたので、今の香港の若い世代はもちろんのこと、非常に年配の方以外、ほとんどの世代の香港人は中国語を話せます。

ただ家族や友達同士での会話となるとやはり広東語が主流です。

台湾は香港よりもっと前、内戦後国民党が台湾に引っ越ししてから、中国語の普及教育が始まり、すでに70年位の歴史があります。

香港と違って、今はもはや家族、友達同士など身内でも中国語で会話している台湾人はとても多いです。

台湾の友人から聞いた話では、台南ではまだ家族で方言「台語」を使っている家庭はありますが、台北ではほとんどみんな中国語で会話しているとのことでした。

そうなると、台湾は香港人にとっては言葉も通じるし、文化的にも近いということで、魅力でしょう。

香港の人々にとって観光目的で日本に来るのと、日本に住むということでは、やはり隔たりが大きいのでしょう。

ただ、安倍晋三首相は11日の参院予算委員会で、香港の金融センターをはじめとする人材受け入れを推進する考えを表明しています。「香港を含め専門的、技術的分野の外国人材を受け入れてきた。引き続き積極的に推進する」と強調しました。自民党の片山さつき氏への答弁でした。

中国が香港への統制を強める「香港国家安全法」を巡り、片山氏は「香港の金融センターの人材を日本が受け入れるのも選択肢ではないか」と質問しました。

首相は「東京が金融面でも魅力あるビジネスの場であり続け、世界中から人材、情報、資金の集まる国際都市として発展を続けることは重要だ」と述べました。「金融センターとなるためには人材が集まることが不可欠だ」とも語りました。

英国のジョンソン首相は中国が香港国家安全法を撤回しない場合、香港の住民に英国の市民権を取得させる意向を示しています。香港情勢について首相は「日本としても深い憂慮を表明している。関係国とも連携し、適切に対応する」と強調しました。

英国ジョンソン首相

首相は新型コロナウイルスの感染拡大を受けてマスクや防護服などのサプライチェーン(供給網)を見直す意向も示しました。国民生活で必要な製品に関し「保健衛生、安全保障などの観点で、価格競争力だけに左右されない安定的な供給体制を構築する」と述べました。

中国を念頭に過度な依存を避ける考えを示したものです。「多角的な自由貿易体制の維持、発展が前提だ」とも語りました。

新型コロナの感染拡大を踏まえ、首相は「国難とも言える状況の中で様々な課題が浮かび上がった」と指摘しました。主要7カ国首脳会議(G7サミット)などの場を通じ「世界のあるべき姿について日本の考え方を提示し、新たな国際秩序の形成をリードする」と主張しました。

この言葉の通り、日本も新たな国際秩序の形成をリードできるようにしていただきたいものです。そのための指標として、香港の優秀な人材が日本を目指したくなるように、社会経済をレベルを上げていくべきです。経済的には日本は、今後大発展している可能性があることをこのブログでも掲載したとがあります。

香港市民がなぜ、観光では日本を頻繁に訪れながら、移住ということになると豪英加・台湾になるのか、今一度真摯に考えてみる必要がありそうです。これらの国々あって、日本にはない魅力とは何なのかを探る必要がありそうです。


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2019年8月17日土曜日

香港人に英国籍付与、英議員の提案は香港問題の流れをどう変えるか?―【私の論評】コモンウェルズの国々は、香港市民に国籍を付与せよ(゚д゚)!

香港人に英国籍付与、英議員の提案は香港問題の流れをどう変えるか?

立花 聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)

 多発デモや混乱、情勢の混迷を深める香港(参照『香港問題の本質とは?金融センターが国際政治の「捨て駒」になる道』)。中国による武力介入が懸念されるなか、打開策として様々なシナリオが描かれている。

1997年6月30日、香港コンベンション&エキシビション・センターで行われた香港政権引き渡しの式典

香港人に英国籍を与えよ!

 300万人規模、半数近くの香港市民が一夜にしてイギリス人になった場合。――あり得ない仮説のようだが、実はあり得ない話ではないのだ――。

 「香港市民には英国籍を与えるべきだ。香港の抗議運動を支援する英国の姿勢を見せるときだ」

 英国国会議員、外交委員会委員長のトム・タジェンダット(Tom Tugendhat)氏は、1997年香港撤退(中国返還)の際に放置されてきた市民の国籍問題の解決を促し、英国籍付与の範囲を香港の中華系市民(ホンコン・チャイニーズ)にも及ぶべきだとし、英国が香港から引き上げた当時そうしなかったのは間違いであって、それを是正すべきだ(wrong that needs correcting)と主張した(8月13日付け英字紙デイリー・メール Online版)。

英国国会議員、外交委員会委員長のトム・タジェンダット(Tom Tugendhat)氏

 周知のように、香港はすでに1997年にその主権が中国に返還された。中国の一特別行政区になった香港は中国の一部であることは言うまでもない。こうして中国領土に居住する「香港人」に勝手に外国籍(英国籍)を与えることはできるのか。たとえ与えられたとしても、「君たちはもうイギリス人だから、香港から出て行け。イギリスに帰れ」と言われないのか。

 現にイギリスに移住できる香港人はわずか一部の富裕層にとどまっている。ほとんどの香港人はたとえ英国籍を取得しても、生計を立てる基盤である香港から離れ、実際にイギリスに移住することは経済的にまず不可能だ。

 一連の疑問に答えを出すには、まず「香港人」というステータスを若干説明する必要がある。

「香港人」という特別な存在

 まず、文化的ステータス。

 「Borrowed place, Borrowed time(借りた場所、借りた時間)」という言葉(中国人の父とベルギー人の母の間に生まれる女医ハン・スーイン(韓素音)の小説を映画化した『慕情』の中での名ゼリフ)ほど香港人の心境を的確に表現したものはないだろう。

 借りた場所は返さなければならないが、借りた時間は返せるだろうか。場所を返すのに1日もあれば十分。1997年7月1日という瞬間に香港が中国に返された。しかし、そこに住む一人ひとりの香港人の中にある時間(記憶)はそう簡単に抹消されることはない。50年をかけてもだ。

 「借りた場所、借りた時間」という言葉の主語。場所を借りたのはイギリスだが、時間を借りたのは誰だ。イギリス人か、香港人か、あるいは両方か。互いに借りたり貸したり、そうした関わり合いのなかに、香港人とイギリス人のいささか相思相愛ともいえる微妙かつ濃密な関係があったのだ。それは決して正議論的に植民地統治の悪という一言で片づけられるものではない。

 借りた時間の影響は一代にして終わらず、97年返還の前後に生まれた次の世代も間接的ではありながら、何らかの形でその影響を受け続けている。「時間を取り返す」という命題を掲げる中国は50年あるいはもっと長い時間をかけ、香港人の心から承認と共鳴を引き出さなければならない。それは決して容易なタスクではない。中国本土と異なった歴史的背景を無視して威嚇や武力だけで屈服させようとすると、逆効果にほかならない。

 「香港人は、中国人ではない」と訴え、自己主張する香港人の心境はどんなものだろうか。彼らは決して「チャイニーズ」というアイデンティティに抵抗しているように思えない。単純にイデオロギーや政治体制、統治手法などの面において懸命に中国本土と一線を画し、その相違を自他とも確認できるような明確な形にしようとしているだけである。そうした香港人の頑強な姿が見え隠れする。今回の「逃亡犯条例」に対する激しい反発はまさにその表れといえよう。

 国籍に関しては、チャイニーズたちの柔軟な、時には無節操とも思わせる捉え方も周知のとおりである。自由のために、生計のために、事業のために、外国籍を気軽に取得しても、アイデンティティまで変えようとするチャイニーズはわずかだ。その外国籍もまさに「借りた場所」や「借りた時間」と同じように、「借りた国籍」と考えているだろう。
香港人が持つ2種類の旅券

 次に、法的ステータス。

 香港の市民は2種類の旅券(パスポート)を保有することが出来る。1種類は中華人民共和国香港特別行政区が発行する旅券(青色)、もう1種類は英国政府が発行するBNO(British National Overseas=英国海外市民)旅券(赤色)である。

 BNO旅券の表紙には英国の国章が入っているが、イギリス人がもつ本国の旅券とは異なり、言ってみれば、海外植民地の「二等国民」がもつ旅券である。BNO旅券保有者が英国入国の際に、「British Citizen」の列に並ぶことは許されていないし、外国人同様の入国審査を受けなければならない。イギリスの入国審査当局の説明によれば、BNO旅券は英国旅券ではなく、「英国政府が発行した渡航文書(Travel document)」に過ぎないのである。

 「旅券」は国籍証明機能を有しているが、「渡航文書」は必ずしもそうではない。自国民以外の者に対しても発行可能で、通過許可を求める証明書類等は包括的に「渡航文書」とされている。「渡航文書」は「旅券」の上位概念である。BNO旅券はつまりそのような「渡航文書」であり、決して英国国民であることを認証するものではない。

 1997年の香港返還に際して、「一国二制度」の下で、香港市民は英国海外領国民ではなくなり、中国国民となる。しかしながら、英国は1987年から1997年返還までの間にBNO旅券を300万人以上の香港市民に発給した。つまり、1997年の返還前の香港に居住、申請した人は、現在でもBNO旅券を保有・更新することができる。

 在香港英国総領事館のウェブサイトによれば、2012年現在約340万人の香港市民がこのBNO旅券を所持しているという。つまり、これはとても重要なことだが、英国政府がBNO旅券保有者に英国市民権を与えると決めた場合、理論上ではあるが、総人口740万人の香港の半数近くの市民がイギリス人になることが可能となる。

 英国国籍法に基づき、他国籍を有しない英国海外市民、英国国民(海外)は帰化ではなく、「登録」により英国籍を取得することができる。法的基盤がある程度整っている以上、政治的判断があれば、実行は可能であろう。さらにBNO旅券保有者の子女(1997年7月1日以降生まれた人)にも特例的に市民権付与を認めた場合、半分以上の香港市民がイギリス人となり得る。

国籍選択、半数近くの香港人がイギリス人になった場合

 前出のトム・タジェンダット議員は、「英国は『中英連合声明』に定められた義務を負っている。1997年返還当時にやるべきだったが、やらなかったことで、この間違いを是正しなければならない。それはつまり、香港人(ホンコン・チャイニーズ)に完全なる英国市民権を付与することだ」と、政治的決断を呼びかけている。

 BNO旅券保有者の香港人が英国籍の取得にあたって、中国籍の放棄手続を行わなければならない。祖国に返還された香港で、数百万人規模の香港人が祖国の国籍を捨て、旧宗主国であるイギリスから与えられる英国籍を進んで取得する。香港市民の国籍選択、このトップニュースが世界中に発信されたとき、世界トップクラスの大国を志す中国にとっての敗北感は屈辱的であろうし、到底耐えられるものではないだろう。

 では、イギリス人となった数百万人の香港人は香港から退去しなければならないのかというと、まったくその必要はない。彼たち全員が香港永久居民(永住権保有者)でもあるからだ。

 仮に、香港デモの参加者の3人に1人がイギリス人である場合、軍や武装警察の投入どころか、催涙ガスやゴム弾も今のように使えなくなるかもしれない。同じような顔をした市民を香港人とイギリス人に区分することはそう容易ではない。イギリス人のデモ参加者に死傷者でも出た場合、英国総領事館が直ちに介入してくる。国際問題になるのがオチだ。さらに、自国民保護のため在香港英国総領事館の規模が現在の数倍や数十倍にも膨れ上がれば、香港政府と対峙する「第2の政府」、あるいは野党的な存在になり得るだろう。

 トム・タジェンダット議員の香港人への英国籍付与案は、実施可能な仮説として、対中交渉における大きなカードになるだろう。

【私の論評】コモンウェルズの国々は、香港市民に国籍を付与せよ(゚д゚)!

実は、香港人の中にはすでに、外国籍を取得している人も大勢います。香港で生まれ、その後、1997年の香港の中国返還を前にカナダ国籍を取得しながら、仕事の関係で香港に生活している香港在住者が1996年以来最高の30万人(香港人口の4%)に達しています。そうした中、直近の5年間で、約8000人のカナダ国籍の香港居住者がカナダに生活の拠点を移していることがカナダの国勢調査結果から明らかになっています。

これは2014年の民主化を要求した雨傘運動や、最近の「逃亡犯引き渡し条例」の改正案をめぐる大規模な抗議行動などで、中国の脅威が香港に直接迫っていることを危惧する動きとみられます。香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」が報じています。

香港人のカナダ国籍取得者は、おもにカナダのブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバー市やリッチモンド市に居を構えています。

ブリティシュ・コロンビア大学で香港の移民問題を研究しているダニエル・ヒルバート教授は「香港の人々のカナダ移民は1990年代に最初のピークを迎えた。その人たちは大半が40~45歳の働き盛りの年代だった。カナダは物価も安く自然も豊かで、生活そのものは穏やかだったが、仕事のチャンスには恵まれないことから、移住した人々の大半は再び香港に戻って、働くようになった」と説明しています。

ヒルバート教授によると、その人たちも今では65歳から70歳と引退の年齢に達しており、静かな環境が必要になっているそうです。

「もともと香港人は、反中国だとか中国共産党が嫌いということだけでなく、政治的な影響が自分の日常生活に入り込んでくることを嫌う傾向が強い。ここ数年の民衆の反中的な運動の盛り上がりとともに、香港から離れようとする気持ちが強くなっていったと考えられる」と分析しています。

また、香港の移民問題を研究している同大研究員のケネディ・ウォン氏も「香港の政治問題は、幽霊のように市民にまとわりついてくる。民主化や政治的自由を要求する雨傘運動や、今回の『逃亡犯引き渡し条例』改正案への反対運動には最高で200万人の市民がデモに参加するなど広範な香港住民を政治運動に巻き込んだ。多くの香港住民は、生活に余裕がある階層ほど、香港は住みにくくなったと考えているのではないか」と指摘しています。

香港が英国から中国に返還される直前には、多くの香港人が、英国やカナダ、オーストラリアや南アフリカなどに移住してそれぞれの国の「パスポート」を取得していました。英国は返還前に大盤振る舞いで香港人に上の記事にもあるとおり、BNO旅券を発行していましたが、カナダ、オーストラリア、南アフリカなど一部のコモンウェルスの国(旧英植民地)では、一定期間移住して暮らせばパスポートが発行されました。そのため、数年それらの国で暮らしてから香港に戻ってきたり、97年直前に引っ越していったりということが日常茶飯事だったのです。

香港国際空港のロビーで座り込むデモ隊=8月13日

パスポートを持っているということはイコール、その国の国籍をもっているということです。ビザなしで居住することはもちろん、投票もできますし、政治家として立候補もできます。何よりも、世界中どこに行ってもそのパスポートを発行した国が守ってくれるということがパスポート保持の最大のメリットです。

日本人が事故や犯罪などに巻き込まれたときに真っ先に安否確認をするのは各国の大使館の義務ですし、昨年のネパール地震の際にはシンガポール政府は航空機をチャーターして希望するシンガポール人を全員、帰国させました。

中国返還前の香港人が将来を不安に思い「何が起こっても自分と家族を守ってくれる国の国籍がほしい」と考え、仕事を辞めるなど相応の覚悟で移住した気持はよくわかります。実際、昨年にはスウェーデン国籍の香港書店主がタイで中国政府によって拉致され、現在も明らかに冤罪とわかる罪で拘束されていますが、スウェーデン政府は現在も粘り強く中国政府と交渉を続けています。

英国も、希望する香港人にはBNOをパスポートに変え、国籍を付与るというのは、良い考えだと思います。カナダ国籍を有する香港人が4%は存在するとはいいながら、これらは高齢の人たちが多いです。おそらく、今回の香港のデモにもあまり参加していないでしょう。

しかし、英国ならびに、カナダ、オーストラリア、南アフリカなど一部のコモンウェルスの国々(旧英植民地)が、国籍取得の条件を緩めてかなりの数の香港人を外国籍化すれば、香港の将来を左右する多くの若者が外国籍を取得することになるのではないでしょうか。

これが実現すれば、香港の問題など英国及びコモンウェルズの国々(旧英植民地)が関与しているというのが何よりも力になると思います。

何しろ英国連邦の国々は今でも、多いです。


これらの国々が、香港人に国籍を付与し、自国民である香港人に不利益が生じた場合、逐一それに関与した場合、中国はかなりやりにくくなるはずです。

英国の新首相ボリス・ジョンソン氏はどう考えるでしょうか。私としては、EUを離脱した後も英国のプレゼンスを発揮するためにも、是非これを実行してほしいと思います。

香港人への英国連邦諸国の国籍付与案は、実施可能な仮説として、英国だけの国籍付与よりも、対中交渉におけるはるかに大きなカードになるでしょう。

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